欧州における過酷事故対策について
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カテゴリ: 第11回
1.1F 事故の教訓
従来、我国では深層防護の第1~3層について万全の 対策を講じることで、炉心溶融を過酷事故(SA)は 発生しないと考えられていた。2011 年 3 月に発生した福島第一発電所(1F)事故の直接原因は想定外の大津 波による全交流電源喪失であったが、動機的原因は深層 防護の第4&5層の対策が不十分であったことによる。 1F事故の反省に立ち、二度とこのような事故を起こし てはならないという原子力産業界の総意に基づき、2012 年 11 月に原子力安全推進協会(JANSI)が発足したJANSI では、特に我が国の SA 対策の取組みが諸外国に 比較して遅れていることに鑑み、海外プラント調査を行 い我国のSA対策との差を把握することとした。
2. 欧州プラントのSA 対策
JANSIでは、我が国のプラントの安全性向上を図る為、 海外プラント調査と IAEA SRS-46“Assessment of Defence in Depth for Nuclear Power Plants”による脆弱性 確認評価とを進めている。海外プラントのSA 対策の情 報入手は公開資料だけでは限界があるので、数次にわけ たプラント訪問を行った。欧州については、図1に示す 9サイト、20 プラントの現地調査を実施した。以下に その概要を報告する。 図1 訪問調査した欧州プラント 3.主要調査結果 プラント訪問を通して把握した SA 設備対策やソフト 対策を含め、その背景にある安全設計思想を含め主要 な調査結果を以下に述べる。 (1) エクセレンスを目指す安全性向上活動 欧州では、規制要求を満足したら良しとするのでは なく、事業者の眼力で真に安全に寄与する対策を自主 的に実施している。この背景には、歴史や地政学的な 要素も寄与しているようだ。 1 二重格納容器:航空機落下対策(含むテロ行為) を想定して二重格納容器を採用している。 2 物理的防護:Oskarshamn発電所では不審車両(戦 車)の侵入阻止のため、サイト周辺に数m間隔で 5~10トンの大岩を敷設している。 連絡先:富永研司、〒108-0014 東京都港区芝5-36-7 3 マン・マシーン・インターフェイスの改善:運転員の負担軽減や誤 原子力安全推進協会 安全性向上部 操作防止の為、[SLC起動/緊急ボロン注入系/格納 E-mail: tominaga.kenji@genanshin..jp 容器サンプ切換え]などを自動化している。 - 236 - (2) 弛まぬ安全性向上活動 北欧では TMI-2 事故以降に途切れることなく SA 研 究を継続し、プラントの安全性向上活動を図っている。 Olkiluotoプラントでは過酷事故対策(SAM)プロジェ クトを 1986~1989 年に、最新化(MODE)プロジェク トを1994~1998年に実施した。本プラントの主要SA 対策を図2に示すが、プラント運開後に追加設置した 設備も多く、産業界と規制局との良好な関係が安全性 向上に寄与している。 図2 Olkiluotプラントの主要SA対策 (3) 多様化の追求 我が国では、実証試験済みの安全設備を多重に設 置するのに対して、欧州では作動原理が異なる多様化 設備を採用しているのが特徴である。例えば、英国 Sizewell-B発電所では、多様化設備として[緊急ボロ ン注入系/空冷の最終熱除去系/多様化補助給水系]が 設置されている。 (4) 設備対策とソフト対策 欧州にも古いプラントと新しいプラントが存在する。 欧州BWRグループの発電所の主要設備およびSA対策を 表1に示す。40 年以上経過した古いプラントやベンダ ーが異なり主要設備やSA 対策の差異はあるものの、設 備対策だけでなくソフト対策と相まってプラント安全 を確保している。また、運転開始後40 年経過する古い プラントは運転停止するという乱暴なことはせず、科学 的・技術的にプラント寿命を評価し上手にプラント運転 を継続している。 海外に比較し遅れていた我国のSA 対策は、事故後の 安全強化対策および原子力規制委員会の新指針対応に より、今では海外とほぼ同等レベルに到達した感がある。 SA 事象はシナリオが複雑なため人間の介在による影響 緩和の寄与が重要である。「仏作って魂いれず」となら ぬよう、今後ソフト対策を含め更なる安全性向上を図る 所存である。 また、欧州プラント調査で「エクセレンスを目指す安全 性向上活動」や「弛まぬ安全性向上活動」の具体例に触 れることができた。今後の我国の原子力発電所の安全性 向上に役立てていきたい。 - 237 - 4.結論
“ “欧州における過酷事故対策について “ “富永 研司,Kenji TOMINAGA
従来、我国では深層防護の第1~3層について万全の 対策を講じることで、炉心溶融を過酷事故(SA)は 発生しないと考えられていた。2011 年 3 月に発生した福島第一発電所(1F)事故の直接原因は想定外の大津 波による全交流電源喪失であったが、動機的原因は深層 防護の第4&5層の対策が不十分であったことによる。 1F事故の反省に立ち、二度とこのような事故を起こし てはならないという原子力産業界の総意に基づき、2012 年 11 月に原子力安全推進協会(JANSI)が発足したJANSI では、特に我が国の SA 対策の取組みが諸外国に 比較して遅れていることに鑑み、海外プラント調査を行 い我国のSA対策との差を把握することとした。
2. 欧州プラントのSA 対策
JANSIでは、我が国のプラントの安全性向上を図る為、 海外プラント調査と IAEA SRS-46“Assessment of Defence in Depth for Nuclear Power Plants”による脆弱性 確認評価とを進めている。海外プラントのSA 対策の情 報入手は公開資料だけでは限界があるので、数次にわけ たプラント訪問を行った。欧州については、図1に示す 9サイト、20 プラントの現地調査を実施した。以下に その概要を報告する。 図1 訪問調査した欧州プラント 3.主要調査結果 プラント訪問を通して把握した SA 設備対策やソフト 対策を含め、その背景にある安全設計思想を含め主要 な調査結果を以下に述べる。 (1) エクセレンスを目指す安全性向上活動 欧州では、規制要求を満足したら良しとするのでは なく、事業者の眼力で真に安全に寄与する対策を自主 的に実施している。この背景には、歴史や地政学的な 要素も寄与しているようだ。 1 二重格納容器:航空機落下対策(含むテロ行為) を想定して二重格納容器を採用している。 2 物理的防護:Oskarshamn発電所では不審車両(戦 車)の侵入阻止のため、サイト周辺に数m間隔で 5~10トンの大岩を敷設している。 連絡先:富永研司、〒108-0014 東京都港区芝5-36-7 3 マン・マシーン・インターフェイスの改善:運転員の負担軽減や誤 原子力安全推進協会 安全性向上部 操作防止の為、[SLC起動/緊急ボロン注入系/格納 E-mail: tominaga.kenji@genanshin..jp 容器サンプ切換え]などを自動化している。 - 236 - (2) 弛まぬ安全性向上活動 北欧では TMI-2 事故以降に途切れることなく SA 研 究を継続し、プラントの安全性向上活動を図っている。 Olkiluotoプラントでは過酷事故対策(SAM)プロジェ クトを 1986~1989 年に、最新化(MODE)プロジェク トを1994~1998年に実施した。本プラントの主要SA 対策を図2に示すが、プラント運開後に追加設置した 設備も多く、産業界と規制局との良好な関係が安全性 向上に寄与している。 図2 Olkiluotプラントの主要SA対策 (3) 多様化の追求 我が国では、実証試験済みの安全設備を多重に設 置するのに対して、欧州では作動原理が異なる多様化 設備を採用しているのが特徴である。例えば、英国 Sizewell-B発電所では、多様化設備として[緊急ボロ ン注入系/空冷の最終熱除去系/多様化補助給水系]が 設置されている。 (4) 設備対策とソフト対策 欧州にも古いプラントと新しいプラントが存在する。 欧州BWRグループの発電所の主要設備およびSA対策を 表1に示す。40 年以上経過した古いプラントやベンダ ーが異なり主要設備やSA 対策の差異はあるものの、設 備対策だけでなくソフト対策と相まってプラント安全 を確保している。また、運転開始後40 年経過する古い プラントは運転停止するという乱暴なことはせず、科学 的・技術的にプラント寿命を評価し上手にプラント運転 を継続している。 海外に比較し遅れていた我国のSA 対策は、事故後の 安全強化対策および原子力規制委員会の新指針対応に より、今では海外とほぼ同等レベルに到達した感がある。 SA 事象はシナリオが複雑なため人間の介在による影響 緩和の寄与が重要である。「仏作って魂いれず」となら ぬよう、今後ソフト対策を含め更なる安全性向上を図る 所存である。 また、欧州プラント調査で「エクセレンスを目指す安全 性向上活動」や「弛まぬ安全性向上活動」の具体例に触 れることができた。今後の我国の原子力発電所の安全性 向上に役立てていきたい。 - 237 - 4.結論
“ “欧州における過酷事故対策について “ “富永 研司,Kenji TOMINAGA