AE センサを用いたケミカルアンカの非破壊検査技術の開発 (2) 理論的検討
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カテゴリ: 第11回
1.諸言
原子力発電所やトンネル等のコンクリート構造物への 設備の固定等に利用されるケミカルアンカ(接着系アン カー)の信頼性は、定期的な目視点検及び機器の取替え 時等を利用したサンプル調査等の実施により、維持され ており、これまでのサンプル調査の結果、引抜耐力は十 分な耐力を有していることが認識されている。一方で、 笹子トンネル天井板落下事故(2012 年12 月)において、 天井板はコンクリートの削孔した場所にケミカルアンカ で固定する施工法が用いられていたが、ケミカルアンカ の施工不良(樹脂量の不足等)や樹脂部等の経年劣化(樹 脂部の剥離、コンクリート強度の低下等)が原因の可能 性が指摘されている[1]。 福島第一原子力発電所事故以降、構造物や設備機器等 の地震、津波等からの安全性、信頼性をより高いレベル で維持管理するためにも、ケミカルアンカの健全性評価 に優れる非破壊検査技術が望まれている。 そこで、本研究では、ケミカルアンカの健全性を評価 するAE(acoustic emission)センサを用いた非破壊検査シス テムを構築した[2]。また、構築した AE センサを用いた ケミカルアンカの非破壊検査技術を確立するために、有 限要素法を用いて各種施工不良や経年劣化を模擬したケ ミカルアンカの固有周波数を解析し評価する手法を開発 した[3]。 本稿では、ケミカルアンカの施工に使用される樹脂量 が変化した場合の施工不良に伴う固有周波数の変化につ いて、有限要素法を用いて検討した。また、AEセンサを 用いたケミカルアンカの非破壊検査技術による結果とも 比較し、妥当性を検討した。
2.解析対象および条件
コンクリートに施工されたM16鉄製のケミカルアンカ を対象として、コンクリートを含む健全なケミカルアン カおよび施工に使用した樹脂量を調整して施工不良を模 擬したケミカルアンカの有限要素モデルを作成した。材 料物性は、アンカーボルトは鉄、樹脂部はDecoluxe社製 のケミカルアンカ、コンクリートについては普通コンク リートを用いた。一例として、健全なケミカルアンカの モデル形状およびメッシュ分割図を Fig.1 に示す。なお、 連絡先 : 小川良太、〒590-0451 大阪府泉南郡熊取町 朝代西1-950、原子燃料工業株式会社 E-mail:ryo-ogawa@nfi.co.jp Fig.1 右側のメッシュ分割図においては、総節点数および 要素数は約40万節点、230万要素である。次に拘束条件
については、変位拘束として、コンクリートの底面を完 全拘束、側面には法線方向の拘束を設定した。また、コ ンクリートと樹脂部の境界は接触条件とした。解析種類 は固有値解析とし、30次モードまでを解析した。 3.解析結果と考察 AE センサを用いた打音検査システムにおいて評価対 象となるボルトの固有周波数は、固有値解析により得ら れた固有モードの中でFig.2に示すようなボルトの変形挙 Fig.1 A finite element model and a mesh division figure 動が支配的となるモードの固有振動数であると考えられ る。そこで、健全なケミカルアンカおよび施工に使用す る樹脂量を変更して施工不良を模擬したモデルにおける 有限要素解析の結果において、ボルトの変形挙動が支配 的となる固有周波数を用いて評価を実施した。Fig.3 に有 限要素解析の結果、および試験体による測定結果を示す。 図中の黒塗の丸記号が有限要素法による解析結果を示し、 白抜きの記号が試験体の測定結果を示す。 有限要素法による解析結果では樹脂の充てん量が減少 するに従って、ボルトの固有周波数が低下する傾向が見 られ、試験体の測定結果と概ね一致する結果が得られた。 4.結言 ケミカルアンカの施工に使用される樹脂量が変化した Fig.2 A eigenvalue analysis result with a dominant 場合の AE センサを用いたケミカルアンカの非破壊検査 distortion action of a bolt 技術において得られるボルトの固有周波数について、有 限要素法を用いて解析した。その結果、以下の事柄が判 6000明した。 FEM 5000 experiment ] zH[y cneuqerfl arutaN4000 3000 (1) 使用される樹脂量が減少するにしたがって、固有 周波数は低下した。 (2) 有限要素解析で得られた結果は AE センサを用い た非破壊検査システムによる結果と概ね一致した。 2000参考文献 [1] 「トンネル天井板の落下事故に関する調査・検討委員 1000 会報告書」, トンネル天井板の落下事故に関する調 0査・検討委員会(2013). 0 50 100 150 [2] 特願2013-161144 「アンカーボルトの非破壊検査方 Filling amount of resin [mm] 法及び非破壊検査装置」 Fig.3 Natural frequency was found from the analysis results [3] 特願 2013-179792 「アンカーボルトの状態評価方 and slapping sound vibration test results 法」 - 252 -“ “AE センサを用いたケミカルアンカの非破壊検査技術の開発 (2) 理論的検討 “ “小川 良太,Ryota OGAWA,江藤 淳二,Junji ETOH,松永 嵩,Takashi MATSUNAGA,礒部 仁博,Yoshihiro ISOBE
原子力発電所やトンネル等のコンクリート構造物への 設備の固定等に利用されるケミカルアンカ(接着系アン カー)の信頼性は、定期的な目視点検及び機器の取替え 時等を利用したサンプル調査等の実施により、維持され ており、これまでのサンプル調査の結果、引抜耐力は十 分な耐力を有していることが認識されている。一方で、 笹子トンネル天井板落下事故(2012 年12 月)において、 天井板はコンクリートの削孔した場所にケミカルアンカ で固定する施工法が用いられていたが、ケミカルアンカ の施工不良(樹脂量の不足等)や樹脂部等の経年劣化(樹 脂部の剥離、コンクリート強度の低下等)が原因の可能 性が指摘されている[1]。 福島第一原子力発電所事故以降、構造物や設備機器等 の地震、津波等からの安全性、信頼性をより高いレベル で維持管理するためにも、ケミカルアンカの健全性評価 に優れる非破壊検査技術が望まれている。 そこで、本研究では、ケミカルアンカの健全性を評価 するAE(acoustic emission)センサを用いた非破壊検査シス テムを構築した[2]。また、構築した AE センサを用いた ケミカルアンカの非破壊検査技術を確立するために、有 限要素法を用いて各種施工不良や経年劣化を模擬したケ ミカルアンカの固有周波数を解析し評価する手法を開発 した[3]。 本稿では、ケミカルアンカの施工に使用される樹脂量 が変化した場合の施工不良に伴う固有周波数の変化につ いて、有限要素法を用いて検討した。また、AEセンサを 用いたケミカルアンカの非破壊検査技術による結果とも 比較し、妥当性を検討した。
2.解析対象および条件
コンクリートに施工されたM16鉄製のケミカルアンカ を対象として、コンクリートを含む健全なケミカルアン カおよび施工に使用した樹脂量を調整して施工不良を模 擬したケミカルアンカの有限要素モデルを作成した。材 料物性は、アンカーボルトは鉄、樹脂部はDecoluxe社製 のケミカルアンカ、コンクリートについては普通コンク リートを用いた。一例として、健全なケミカルアンカの モデル形状およびメッシュ分割図を Fig.1 に示す。なお、 連絡先 : 小川良太、〒590-0451 大阪府泉南郡熊取町 朝代西1-950、原子燃料工業株式会社 E-mail:ryo-ogawa@nfi.co.jp Fig.1 右側のメッシュ分割図においては、総節点数および 要素数は約40万節点、230万要素である。次に拘束条件
については、変位拘束として、コンクリートの底面を完 全拘束、側面には法線方向の拘束を設定した。また、コ ンクリートと樹脂部の境界は接触条件とした。解析種類 は固有値解析とし、30次モードまでを解析した。 3.解析結果と考察 AE センサを用いた打音検査システムにおいて評価対 象となるボルトの固有周波数は、固有値解析により得ら れた固有モードの中でFig.2に示すようなボルトの変形挙 Fig.1 A finite element model and a mesh division figure 動が支配的となるモードの固有振動数であると考えられ る。そこで、健全なケミカルアンカおよび施工に使用す る樹脂量を変更して施工不良を模擬したモデルにおける 有限要素解析の結果において、ボルトの変形挙動が支配 的となる固有周波数を用いて評価を実施した。Fig.3 に有 限要素解析の結果、および試験体による測定結果を示す。 図中の黒塗の丸記号が有限要素法による解析結果を示し、 白抜きの記号が試験体の測定結果を示す。 有限要素法による解析結果では樹脂の充てん量が減少 するに従って、ボルトの固有周波数が低下する傾向が見 られ、試験体の測定結果と概ね一致する結果が得られた。 4.結言 ケミカルアンカの施工に使用される樹脂量が変化した Fig.2 A eigenvalue analysis result with a dominant 場合の AE センサを用いたケミカルアンカの非破壊検査 distortion action of a bolt 技術において得られるボルトの固有周波数について、有 限要素法を用いて解析した。その結果、以下の事柄が判 6000明した。 FEM 5000 experiment ] zH[y cneuqerfl arutaN4000 3000 (1) 使用される樹脂量が減少するにしたがって、固有 周波数は低下した。 (2) 有限要素解析で得られた結果は AE センサを用い た非破壊検査システムによる結果と概ね一致した。 2000参考文献 [1] 「トンネル天井板の落下事故に関する調査・検討委員 1000 会報告書」, トンネル天井板の落下事故に関する調 0査・検討委員会(2013). 0 50 100 150 [2] 特願2013-161144 「アンカーボルトの非破壊検査方 Filling amount of resin [mm] 法及び非破壊検査装置」 Fig.3 Natural frequency was found from the analysis results [3] 特願 2013-179792 「アンカーボルトの状態評価方 and slapping sound vibration test results 法」 - 252 -“ “AE センサを用いたケミカルアンカの非破壊検査技術の開発 (2) 理論的検討 “ “小川 良太,Ryota OGAWA,江藤 淳二,Junji ETOH,松永 嵩,Takashi MATSUNAGA,礒部 仁博,Yoshihiro ISOBE