ケーブル状態監視技術の調査研究
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カテゴリ: 第11回
1.緒 言
原子力プラントの長期運転における低圧電力及び制御 計装用の低圧ケーブルの経年劣化管理では、設計想定事 故環境での機能維持が重視されていることから、長期運 転期間中もケーブルが機能を維持することを担保するた めの状態監視の重要度が増している。一方、ケーブル絶縁材の状態監視技術については、こ れまでに数多くの手法が検討され実機ケーブルへの適用 が試みられてきたが、これまでのところ確実に有効な手 法が確立されたという報告はなく、経年劣化管理上の課 題となっている。本調査研究では、ケーブル絶縁材の劣化程度を定量的 に状態監視できる手法を構築するために種々の状態監視 技術の長所と課題を整理し、実機プラントにおいて現場 測定が可能と考えられる手法として次の2つを抽出した。・フーリエ変換赤外分光法(FT-IR) ・インデンターモジュラス法(IM) 以下では、国内の原子力プラントで用いられている各 種絶縁材料の劣化に対する上記手法の適用性を評価する とともに、状態監視技術としての実機適用性を考察した。
2.ケーブル絶縁材の測定試験
2.1 測定対象及び測定方法 「原子力プラントのケーブル経年変化評価技術調査研 究(ACA)」[1] で作成された加速劣化ケーブルサンプルを 用いて、フーリエ変換赤外分光法(FT-IR)及びインデン ターモジュラス法(IM)の測定値と破断伸び(EAB: Elongation at Breakage)との比較を行った。測定したケー ブル絶縁材をTable 1に示す。 Table 1 Cable insulation materials Insulation Material Manufacturer Cross-linked Polyethylene (XLPE) A,B Flame Retardant XLPE (FR-XLPE) A,B Ethylene Propylene Rubber (EPR) C Flame Retardant EPR (FR-EPR) B,C Silicone Rubber (SiR) C Special Heat resistant Poly Vinyl Chloride (SHPVC) A,B 2.2 フーリエ変換赤外分光法(FT-IR) フーリエ変換赤外分光法(FT-IR)は、赤外線をサンプ ルに入射し、サンプル内を通過した赤外線の吸収スペク
トルを測定するものである。最近では、現場に持ち込ん で測定可能な携帯型の機器が開発され市販されている。 - 256 - 測定に用いた携帯型FT-IR 測定器の外観をFig.1 に示す。 Figure 1 Hand-held type FT-IR measurement equipment 2.3 インデンターモジュラス法(IM) インデンターモジュラス法(IM)は、サンプルに押針 (Indenter)を押し込み、その際の押込み変位に対する押 込み力の勾配を測定して物性弾性係数と同じ N/mm の単 位で与えられる測定値を得るものである[2]。ここでは、(株) 原子力安全システム研究所が開発した携帯型装置を用い て測定を行った。IM 測定装置の外観をFig.2に示す。 Figure 2 IM measurement equipment 3.測定結果 FT-IR及びIMの測定結果と破断伸び(EAB)との相関 をプロットした例をFig.3~Fig.8 に示す。なお、FT-IR に ついては、得られたスペクトルにおいて劣化に伴い増大 するピーク面積を母材に由来するピーク面積で規格化し た無次元量の値を測定値とした。 ○:black ○:wihte ○:red) HC(4641/ ) O=C(5171Elongation at Breakage [%] ] mm/N[s uludoMr etnednI○:black ○:wihte ○:red Elongation at Breakage [%] 4H-C/ ddA+ O =C4 641) 0251- 0 671() HC(4641/ ) O=C(5171○:black ○:wihte ○:red 500 Elongation at Breakage [%] 321B社難燃EPゴム 黒芯 白芯 赤芯 0400 300 200 100 0 破断時の伸び [%] - 257 - Figure 3 Correlation between FT-IR value and EAB (FR-EPR, Manufacturer C) Figure 4 Correlation between IM and EAB (FR-EPR, Manufacturer C) Figure 5 Correlation between FT-IR value and EAB (FR-EPR, Manufacturer B) Figure 6 Correlation between IM and EAB (FR-EPR, Manufacturer B) Figure 7 Correlation between FT-IR value and EAB (FR-XLPE, Manufacturer A) Figure 8 Correlation between IM and EAB (FR-XLPE, Manufacturer A) C 社FR-EPR の例では、Fig.3 及びFig.4 に示すように、 FT-IR、IMともに概ねEABと良い相関を示している。 B社FR-EPRの例では(Fig.5,Fig.6)、IMとEABに相 関は見られるが、FT-IRとEAB の間に相関は見られない。 また、A社FR-XLPE の例では、FT-IRとEABに相関は 見られるが、IM とEABの間に相関は見られない。 全ての絶縁材の測定結果では、FT-IRとIM が共にEAB と良好な相関を示す例が多く見られたが、FT-IRについて は一部のゴム系絶縁材(難燃EP ゴム)に対して、IM に ついては一部のポリエチレン系絶縁材に対して、相関が ] mm/N[s luudoMr etnednI○:black 見られなかった。 ○:wihte ○:red 測定した全ての絶縁材における FT-IR 及び IM と EAB の相関の有無をTable 2に示す。 Table 2 Correlation between FT-IR/IM and EAB Correlation Insulation Material Manufacturer to EAB Elongation at Breakage [%] FT-IR IM XLPE A ○ ○ XLPE B ○ ○ FR-XLPE A ○ × 10090FR-XLPE B ○ ○ 80) HC(3641/ ) O=C(3171EPR C ○ ○ 7060FR-EPR B × ○ 50FR-EPR C ○ ○ 4030black SiR C ○ ○ white 2010red SHPVC A ○ ○ 400350 300 250 200 150 100 50 0 SHPVC B ○ ○ Elongation EAB (%) at Breakage [%] ○:good correlation, ×:no correlation 1603.結 言 155 ]mm/N[s luudoMr etnednI測定装置が持ち運び可能で現場測定が可能、かつケー 150 ブル絶縁材の経年劣化を状態監視可能な手法として 145FT-IR及びIMを選定し適用性を評価した。 140FT-IR及びIMは、共に一部の絶縁材には適用できない 135black white 例が見られたが、大部分の絶縁材に対して適用可能であ red 130400350 300 250 200 150 100 50 0 ることが確認された。 Elongation EAB (%) at Breakage [%] FT-IRとIMを組み合わせて用いることで、絶縁材の経 年劣化を化学的性質と機械的性質の両面から監視するこ とが可能であり、経年劣化管理における状態監視の信頼 性を向上することが可能である。 また、FT-IR及びIMが一部の絶縁材には適用できない 例が見られたが、両者が共に適用できない例は見られて いないことから、両者を相互補完的に組み合わせて用い ることで少なくとも一方が絶縁材の経年劣化を監視する ことが可能と考えられる。FT-IR とIM の相互補完関係を Fig.9に示す。 - 258 - Mutually Complementary - 259 - また、各種絶縁材料についてEABの劣化傾向に対応す Application Merit Demerit る FT-IR 及び IM のデータを蓄積することで、EAB の許 FT-IR ・Applicable to most of rubber type insulation material 容基準に対応するFT-IR及びIMの許容基準を定め、状態 ・Applicable to XLPE type insulation material 監視プログラムとして活用することが期待できる。 参考文献 [1] (独)原子力安全基盤機構 原子力システム安全部、 “原子力プラントのケーブル経年変化評価 技術調 査研究に関する最終報告書”、JNES-SS-0903、2009 [2] 松波潮、三上雅生、“インデンターモジュラス法によ るケーブルの経年劣化診断手法の検討”、INSS JOURNAL 15、2008、 pp.236-242. ・Not applicable to some type of rubber insulation material IM ・Applicable to all rubber type insulation material ・Poorly applicable to some type of XLPE insulation material Figure 9 Mutually complementary relationship between FT-IR and IM FT-IR及びIMはともに現場測定が可能な非破壊検査手 法であり、これらを用いることで原子力プラントに設置 されている低圧ケーブルの経年劣化傾向の監視が簡便に 行えるようになることが期待される。“ “ケーブル状態監視技術の調査研究 “ “平尾 秀男,Hideo HIRAO,坂井 毅,Takeshi SAKAI,梶村 雄作,Yuusaku KAJIMURA
原子力プラントの長期運転における低圧電力及び制御 計装用の低圧ケーブルの経年劣化管理では、設計想定事 故環境での機能維持が重視されていることから、長期運 転期間中もケーブルが機能を維持することを担保するた めの状態監視の重要度が増している。一方、ケーブル絶縁材の状態監視技術については、こ れまでに数多くの手法が検討され実機ケーブルへの適用 が試みられてきたが、これまでのところ確実に有効な手 法が確立されたという報告はなく、経年劣化管理上の課 題となっている。本調査研究では、ケーブル絶縁材の劣化程度を定量的 に状態監視できる手法を構築するために種々の状態監視 技術の長所と課題を整理し、実機プラントにおいて現場 測定が可能と考えられる手法として次の2つを抽出した。・フーリエ変換赤外分光法(FT-IR) ・インデンターモジュラス法(IM) 以下では、国内の原子力プラントで用いられている各 種絶縁材料の劣化に対する上記手法の適用性を評価する とともに、状態監視技術としての実機適用性を考察した。
2.ケーブル絶縁材の測定試験
2.1 測定対象及び測定方法 「原子力プラントのケーブル経年変化評価技術調査研 究(ACA)」[1] で作成された加速劣化ケーブルサンプルを 用いて、フーリエ変換赤外分光法(FT-IR)及びインデン ターモジュラス法(IM)の測定値と破断伸び(EAB: Elongation at Breakage)との比較を行った。測定したケー ブル絶縁材をTable 1に示す。 Table 1 Cable insulation materials Insulation Material Manufacturer Cross-linked Polyethylene (XLPE) A,B Flame Retardant XLPE (FR-XLPE) A,B Ethylene Propylene Rubber (EPR) C Flame Retardant EPR (FR-EPR) B,C Silicone Rubber (SiR) C Special Heat resistant Poly Vinyl Chloride (SHPVC) A,B 2.2 フーリエ変換赤外分光法(FT-IR) フーリエ変換赤外分光法(FT-IR)は、赤外線をサンプ ルに入射し、サンプル内を通過した赤外線の吸収スペク
トルを測定するものである。最近では、現場に持ち込ん で測定可能な携帯型の機器が開発され市販されている。 - 256 - 測定に用いた携帯型FT-IR 測定器の外観をFig.1 に示す。 Figure 1 Hand-held type FT-IR measurement equipment 2.3 インデンターモジュラス法(IM) インデンターモジュラス法(IM)は、サンプルに押針 (Indenter)を押し込み、その際の押込み変位に対する押 込み力の勾配を測定して物性弾性係数と同じ N/mm の単 位で与えられる測定値を得るものである[2]。ここでは、(株) 原子力安全システム研究所が開発した携帯型装置を用い て測定を行った。IM 測定装置の外観をFig.2に示す。 Figure 2 IM measurement equipment 3.測定結果 FT-IR及びIMの測定結果と破断伸び(EAB)との相関 をプロットした例をFig.3~Fig.8 に示す。なお、FT-IR に ついては、得られたスペクトルにおいて劣化に伴い増大 するピーク面積を母材に由来するピーク面積で規格化し た無次元量の値を測定値とした。 ○:black ○:wihte ○:red) HC(4641/ ) O=C(5171Elongation at Breakage [%] ] mm/N[s uludoMr etnednI○:black ○:wihte ○:red Elongation at Breakage [%] 4H-C/ ddA+ O =C4 641) 0251- 0 671() HC(4641/ ) O=C(5171○:black ○:wihte ○:red 500 Elongation at Breakage [%] 321B社難燃EPゴム 黒芯 白芯 赤芯 0400 300 200 100 0 破断時の伸び [%] - 257 - Figure 3 Correlation between FT-IR value and EAB (FR-EPR, Manufacturer C) Figure 4 Correlation between IM and EAB (FR-EPR, Manufacturer C) Figure 5 Correlation between FT-IR value and EAB (FR-EPR, Manufacturer B) Figure 6 Correlation between IM and EAB (FR-EPR, Manufacturer B) Figure 7 Correlation between FT-IR value and EAB (FR-XLPE, Manufacturer A) Figure 8 Correlation between IM and EAB (FR-XLPE, Manufacturer A) C 社FR-EPR の例では、Fig.3 及びFig.4 に示すように、 FT-IR、IMともに概ねEABと良い相関を示している。 B社FR-EPRの例では(Fig.5,Fig.6)、IMとEABに相 関は見られるが、FT-IRとEAB の間に相関は見られない。 また、A社FR-XLPE の例では、FT-IRとEABに相関は 見られるが、IM とEABの間に相関は見られない。 全ての絶縁材の測定結果では、FT-IRとIM が共にEAB と良好な相関を示す例が多く見られたが、FT-IRについて は一部のゴム系絶縁材(難燃EP ゴム)に対して、IM に ついては一部のポリエチレン系絶縁材に対して、相関が ] mm/N[s luudoMr etnednI○:black 見られなかった。 ○:wihte ○:red 測定した全ての絶縁材における FT-IR 及び IM と EAB の相関の有無をTable 2に示す。 Table 2 Correlation between FT-IR/IM and EAB Correlation Insulation Material Manufacturer to EAB Elongation at Breakage [%] FT-IR IM XLPE A ○ ○ XLPE B ○ ○ FR-XLPE A ○ × 10090FR-XLPE B ○ ○ 80) HC(3641/ ) O=C(3171EPR C ○ ○ 7060FR-EPR B × ○ 50FR-EPR C ○ ○ 4030black SiR C ○ ○ white 2010red SHPVC A ○ ○ 400350 300 250 200 150 100 50 0 SHPVC B ○ ○ Elongation EAB (%) at Breakage [%] ○:good correlation, ×:no correlation 1603.結 言 155 ]mm/N[s luudoMr etnednI測定装置が持ち運び可能で現場測定が可能、かつケー 150 ブル絶縁材の経年劣化を状態監視可能な手法として 145FT-IR及びIMを選定し適用性を評価した。 140FT-IR及びIMは、共に一部の絶縁材には適用できない 135black white 例が見られたが、大部分の絶縁材に対して適用可能であ red 130400350 300 250 200 150 100 50 0 ることが確認された。 Elongation EAB (%) at Breakage [%] FT-IRとIMを組み合わせて用いることで、絶縁材の経 年劣化を化学的性質と機械的性質の両面から監視するこ とが可能であり、経年劣化管理における状態監視の信頼 性を向上することが可能である。 また、FT-IR及びIMが一部の絶縁材には適用できない 例が見られたが、両者が共に適用できない例は見られて いないことから、両者を相互補完的に組み合わせて用い ることで少なくとも一方が絶縁材の経年劣化を監視する ことが可能と考えられる。FT-IR とIM の相互補完関係を Fig.9に示す。 - 258 - Mutually Complementary - 259 - また、各種絶縁材料についてEABの劣化傾向に対応す Application Merit Demerit る FT-IR 及び IM のデータを蓄積することで、EAB の許 FT-IR ・Applicable to most of rubber type insulation material 容基準に対応するFT-IR及びIMの許容基準を定め、状態 ・Applicable to XLPE type insulation material 監視プログラムとして活用することが期待できる。 参考文献 [1] (独)原子力安全基盤機構 原子力システム安全部、 “原子力プラントのケーブル経年変化評価 技術調 査研究に関する最終報告書”、JNES-SS-0903、2009 [2] 松波潮、三上雅生、“インデンターモジュラス法によ るケーブルの経年劣化診断手法の検討”、INSS JOURNAL 15、2008、 pp.236-242. ・Not applicable to some type of rubber insulation material IM ・Applicable to all rubber type insulation material ・Poorly applicable to some type of XLPE insulation material Figure 9 Mutually complementary relationship between FT-IR and IM FT-IR及びIMはともに現場測定が可能な非破壊検査手 法であり、これらを用いることで原子力プラントに設置 されている低圧ケーブルの経年劣化傾向の監視が簡便に 行えるようになることが期待される。“ “ケーブル状態監視技術の調査研究 “ “平尾 秀男,Hideo HIRAO,坂井 毅,Takeshi SAKAI,梶村 雄作,Yuusaku KAJIMURA