銀ゼオライトを用いた高除染性フィルターベントシステムの開発

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カテゴリ: 第11回
1.緒言
2011年(平成23年)3月11日に発生した東北地方太平洋沖 地震による津波により、福島第一原子力発電所が炉心溶融 を伴う過酷事故を起こし、大量の放射性物質が飛散し周辺 環境に甚大な影響を及ぼす事態となった.これを踏まえ,新 規制基準では、国内全ての原子力発電所に格納容器フィル タードベントシステム (FCVS) を設置することになった が,FCVS 関する公開文献は限られており詳細情報は公開 されていない.またヨーロッパで導入されている既存の FCVS は有機ヨウ素に対する分離係数が50程度と低く改善 の余地がある.そこで北海道大学では,既存のFCVS の性能 把握と更なる改良のため,可視化模擬実験・TRACコードを 用いた二相流解析を実施してFCVSに関する基礎的な特性 を把握することと,更に有機ヨウ素に対して高い分離係数 (DF)を有する銀ゼオライト(AgX)を使用し,より高性能な FCVSの開発を実施している. 2.湿式フィルター付きベント基礎実験 蒸気やフィルターの内部挙動を把握するためポリカーボネ ート製の可視化装置を用いて実験を行った.実験装置の略 図を図 1 に示す.装置稼働から定常状態に至るまでの内部 挙動の観察した.観察の結果,ガイセリングや振動といった 不安定挙動や,気液対向流制限(CCFL)などを確認した. ま た装置下部に取り付けたベンチュリノズルや多孔管ノズル から蒸気を水中に噴出させスクラビングさせた.生成され る気泡をストロボとカメラを使用し撮影した.ベンチュリ ノズルに関しては,絞り比や吸口断面を変えたものを複数 用意し比較した.撮影した画像より気泡径を測定し,各ノズ ルにより生成される気泡径の分布を求め検証した.その結 果の一部を図 2 に示す.ベンチュリノズル,多孔管ノズルに より生成された気泡を比較した結果,ベンチュリノズル(絞 り比β=0.6)によって生成された気泡の径は,定常状態時ノ ズル近傍で直径 0.2mm の気泡が最も頻度が高く最大気泡 径は 3.9mm である(図 3)のに対し,多孔管ノズルによって 生成された気泡径は 0.3~0.4mm が最も頻度が高く最大気 泡径は 4.3mm であった(図 4). エアロゾル粒子を水中に移 行させるには気液二相流の界面積を大きくする必要があり、 気泡を微細化するか、微細な水滴を生成する必要がある。 実験からは、ベンチュリノズルによる蒸気噴流中への微細 液滴混入方式の方が有利であった.
Fig.3 Bubble size distribution (Venturi Nozzle) Fig.2 Comparison of the bubbles diameter (Left: Venturi Nozzle, Right: Porous Nozzle) Fig.4 Bubble size distribution (Multi hole Pipe) 次に AgX の耐久性を検証するため,0.10MPa の蒸気を装 置に供給し水中でスクラビングさせた蒸気を AgX に累積 10 時間流し 1 時間毎にサンプリングした.走査型電子顕微 鏡(SEM)を使用しサンプリングした AgX の表面観察を行 った.観察結果の一部を図 5 に示す.観察の結果,事故時に 想定されるベント実施期間において AgX は耐久性を有す ることを確認した. Fig.5 Agx particles and its steam aging SEM image 3. TRAC 解析 AgX は表面に水膜が形成されると DF が低下することか ら,過熱蒸気を供給する必要がある。事故時には全電源喪失 によりヒーターなどは使用できない事が考えられ,オリフ ィスやスクラビング前の蒸気を一部抽気した熱交換器によ り過熱蒸気を生成する構成とした.また崩壊熱も過熱蒸気 生成に寄与しると考えられるが.保守的に崩壊熱を無視し た。図6に示す TRAC コードによる解析を行い,AgX 部に 過熱蒸気を供給できるかどうか検証した.解析結果の一部 を図 7 に示す.解析の結果,オリフィス+15A 長さ 80cm の 伝熱管によって 7.9°Cの過熱度を持つ過熱蒸気が生成され ることを確認した.崩壊熱による発熱は,配管内やベンチュ リノズル内部で過熱蒸気生成に寄与するものの,水中に噴 出すると飽和温度まで低下することが確認された. Fig.6 Analytical model Venturi Nozzle Water AgX Moisture Separator Orifice - 274 - temperature[] distance[mm] Fig.7 Temperature distribution before AgX module 4.可視化試験 ベンチュリースクラバーとメタルフィルターの基本メカ ニズムを確認するために図8(a)(b)に示す可視化試験を 実施した。ディフレクター付きベンチュリースクラバーは、 ミキシング効果が大きく、しかも水面が安定している。 また、乾式のメタルフィルターは、エアロゾルを模擬した 直径数μm の硫酸バリウム粉末を多量に投入しても、出口 には1粒も出てこないほどの驚異的な DF を有することが 分かった。 (a) Modified venturi scrubber (b) Metallic fiber filter Fig.8 Fundamental visualized tests for wet and dry filter 5.結論 実験により不安定挙動や CCFL の発生を確認するとと もに,各ノズルで生成される気泡径の分布を得た. また、 AgX に 10 時間蒸気を供給し SEM による観察結果から AgX の耐久性を確認した.更に、AgX の DF を向上さえる ため、オリフィスや抽気加熱伝熱管を考慮した体系で TRAC 解析を行い,過熱蒸気の生成を確認した. 参考文献 (1)奈良林直,杉山憲一.「東日本大震災に伴う原子力発電所 の事故と災害 福島第一原子力発電所の事故の要因 分析と教訓」原子力学会誌「アトモス」,vol.53, No.6 , (2011), PP.387-400. (2)奈良林ら、過酷事故緩和に対する深層防護の強化の提案 (2)フィルター付ベントシステムの基礎試験、G40, 原子力 学会春の年会(2012). Orifice Vapor after Scrubbing Vapor before Scrubbing 11010510095900 500 1000 1500 2000 2500 3000 AgX Super Heated Vapor Heat Exchanger 500mm 1000mm 7.9°C 蒸気温度 Steam 飽和温度 Sat. Temp.“ “銀ゼオライトを用いた高除染性フィルターベントシステムの開発 “ “奈良林 直,Tadashi NARABAYASHI,藤井 康弘,Yasuhiro FUJII,石井 翼,TasuNu ISHII,千葉 豪,Go CHIBA,辻 雅司,Masashi TSUJI
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