放射性ヨウ素吸着剤 AgX の性能について
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カテゴリ: 第11回
1.フィルターベントとヨウ素用の吸着剤
福島での原発事故以来、原子力発電の安全対策の見直 しが全世界で行われています。それらの安全対策の中で、 フィルターベント設備は、発電所周辺へ放射性物質の拡 散を防ぐ最終設備として、放射性物質の除去性能が良い 設備が切に望まれています。 フィルターベントに入ってくる放射性物質の多くはセ シウムとヨウ素で、多くは粒子状の物質です。この設備 としては、ベントガスを水中に流して粒子を除去する湿 式法(スクラバー方式)とメタルファイバー製のフィル ターで粒子を取る乾式法に大別されます。両方とも粒子 状の物質を取る手段としては、大変優れた性能を持って います。しかし、ヨウ素の中には低沸点の有機ヨウ素の 形態の物質が含まれており、この物質は、スクラバーで もメタルフィルターでも除去が困難な物質です。 低沸点の有機ヨウ素の除去には、ヨウ素と化学反応を 起こす銀を含有したゼオライトを吸着剤としたフィルタ ーが知られています。このタイプの銀含有ゼオライトに は多くのタイプが知られていますが、使用される条件に よってその吸着性能は大きく影響され、ベントガスの様 に、高温、高湿度、高圧という、非常に厳しい条件で使 用できる物は極限られた物になります。今回の発表では、 この非常に厳しい条件でも高い吸着性能を発揮する吸着 剤AgXについて、その吸着性能について報告いたします。 1.1 ゼオライトと銀イオン 吸着剤として使われるゼオライトには非常に多くの種 類が知られていますが、基本的な構成物質は、アルミナ とシリカで出来た物が多く、ケイ素とアルミと酸素で基 本骨格を作っています。アルミがIII族であるため、骨格 はそのアルミの付近でマイナスの電荷を帯び、これを中 和する為に、各種のカチオン(金属イオン)が骨格内に 分布して存在します。銀イオンもその一つですが、その 濃度、骨格内での位置で性質が大きく変わり、また、共 存するカチオンや水分でも性質がかわり、単純に銀濃度 と使用するゼオライトの種類だけでは、性質が定まらず、 その吸着特性も異なります。 今回、各種のゼオライトから有機ヨウ素の吸着性能が 非常に良好な物を選定し、銀濃度を最適化し、製造条件 も最適化する事で、吸着性能が非常に良好な銀ゼオライ ト(ラサ AgX)を開発し、各種の吸着条件で、有機ヨウ 素の吸着性能を調べました。 1.2 有機ヨウ素の吸着率の測定 吸着率の測定は、低沸点物質のヨウ化メチルを使用し、 温度条件等のガス雰囲気を変えて測定しました。非放射 性のヨウ素を使用した試験は社内の評価設備で実施し、 放射性のヨウ素(I-131)を使用した試験は、外部の評価 機関を利用しました。 主な測定条件としては、吸着剤の入ったカラムの直径 は25mmΦから50mmΦ、長さは50mmから150mm。こ れに水蒸気の入った、空気、窒素、ヨウ化メチルガスを 流し、出てきたガス中のヨウ化メチル濃度を測定し、吸 本木工場 E-mail: toshiki.kobayashi@rasa..co.jp 着率を求めました。吸着剤への吸着率は、主に温度、水 表 3 は温度114°Cで DPD15K のベントガス雰囲気とし 蒸気の含有量(沸点以下では湿度、沸点以上では露点か ては、代表的な条件での吸着率です。この様に、接触時 らの温度差(Dew Point Distance。DPDと略す))、吸着剤 間として、0.16 秒以上であれば、99.99%以上(DF10000 とガスとの接触時間が主な影響因子となります。また、 以上)の吸着率となりました。 ガス流量が非常に多いベントガスを想定し、吸着剤とガ スの接触時間は0.2秒前後を基準に設定しました。 表3 ラサAgXのヨウ化メチルの吸着率(外部評価) 一般的に、銀ゼオライトタイプの吸着剤の性能は、温 度が高く、水蒸気の含有量が少なく(低湿度もしくはDPD が大きい)、接触時間が長いほど吸着率は良くなります。 ベントガスは、温度は高くて吸着にとっては好ましい条 件ですが、水蒸気含量が非常に多く、接触時間も短くな るので、その厳しい条件下で良い性能を発揮する事が重 要な性質になります。 1.3 社内評価結果と外部評価結果 社内での評価結果と外部評価機関での評価結果の差を 表1に示します。吸着条件は、温度は約 115°C、DPD は 共に15K、接触時間は0.2秒以下です。ガス組成は、社内 は水蒸気 100%、社外は水蒸気:空気=95:5の組成です。 表 4 は圧力が 399kPa での吸着率のデータです。これ もベントガス雰囲気としては、代表的な条件での吸着率 です。この様に、接触時間として、0.24秒以上であれば、 99.96%以上(DF2500以上)の吸着率となりました。 表1 ラサAgXの社内評価結果と外部評価結果 表4 ラサAgXのヨウ化メチルの吸着率(外部評価) ラサAgX は性能評価結果が良く、社内評価の吸着率の データでは数値が出ない事が多いので、吸着性能がやや 悪い別の銀ゼオライトの評価結果を表2に示します。 表2 別の銀ゼオライトの社内評価結果と外部評価結果 3.まとめ ラサAgX はベントガス雰囲気の様な、非常に苛酷な条 件でも有機ヨウ素の吸着率が優れた吸着剤である事が判 この様に、ほぼ同じ様な数値が得られ、社内評価結果 りました。また、100°C以下の低温の高湿度下でも良い吸 が有効に使用できる事が判りました。 着性能を示しますので、広範囲での使用条件下で良い吸
2.ラサ AgXの吸着性能について
着性能を示す事が判りました。 以下に、温度、接触時間等を替えた時の吸着率の評価 (平成26年7月25日) 結果を記載しますが、詳細は学会にて発表致します。 試験条件 試験条件 温度 114°C ガス速度 0.32 m/s ガス組成 95% 水蒸気 圧力 98kPa DPD 15K カラム直径 25mm 試験条件 試験条件 温度 130°C ガス速度 0.20m/s ガス組成 空気、水蒸気 圧力 399kPa 湿度 95% カラム直径 50mm 接触時間 (秒) 吸着率 (%) 0.123 99.032 0.246 99.967 0.369 >99.999 - 276 - 接触時間 (秒) 吸着率 (%) 0.08 99.54 0.16 99.990 0.24 99.998 社内評価 115°C、接触時 間は0.19 秒 外部評価 114°C、接触時 間は0.16秒 吸着率 (%) >99.95 99.990 社内評価 105°C、接触時 間は0.18 秒 外部評価 104°C、接触時 間は0.16秒 吸着率 (%) 64.1 75.6“ “放射性ヨウ素吸着剤 AgX の性能について “ “小林 稔季,Toshiki KOBAYASHI,遠藤 好司,Koji ENDO
福島での原発事故以来、原子力発電の安全対策の見直 しが全世界で行われています。それらの安全対策の中で、 フィルターベント設備は、発電所周辺へ放射性物質の拡 散を防ぐ最終設備として、放射性物質の除去性能が良い 設備が切に望まれています。 フィルターベントに入ってくる放射性物質の多くはセ シウムとヨウ素で、多くは粒子状の物質です。この設備 としては、ベントガスを水中に流して粒子を除去する湿 式法(スクラバー方式)とメタルファイバー製のフィル ターで粒子を取る乾式法に大別されます。両方とも粒子 状の物質を取る手段としては、大変優れた性能を持って います。しかし、ヨウ素の中には低沸点の有機ヨウ素の 形態の物質が含まれており、この物質は、スクラバーで もメタルフィルターでも除去が困難な物質です。 低沸点の有機ヨウ素の除去には、ヨウ素と化学反応を 起こす銀を含有したゼオライトを吸着剤としたフィルタ ーが知られています。このタイプの銀含有ゼオライトに は多くのタイプが知られていますが、使用される条件に よってその吸着性能は大きく影響され、ベントガスの様 に、高温、高湿度、高圧という、非常に厳しい条件で使 用できる物は極限られた物になります。今回の発表では、 この非常に厳しい条件でも高い吸着性能を発揮する吸着 剤AgXについて、その吸着性能について報告いたします。 1.1 ゼオライトと銀イオン 吸着剤として使われるゼオライトには非常に多くの種 類が知られていますが、基本的な構成物質は、アルミナ とシリカで出来た物が多く、ケイ素とアルミと酸素で基 本骨格を作っています。アルミがIII族であるため、骨格 はそのアルミの付近でマイナスの電荷を帯び、これを中 和する為に、各種のカチオン(金属イオン)が骨格内に 分布して存在します。銀イオンもその一つですが、その 濃度、骨格内での位置で性質が大きく変わり、また、共 存するカチオンや水分でも性質がかわり、単純に銀濃度 と使用するゼオライトの種類だけでは、性質が定まらず、 その吸着特性も異なります。 今回、各種のゼオライトから有機ヨウ素の吸着性能が 非常に良好な物を選定し、銀濃度を最適化し、製造条件 も最適化する事で、吸着性能が非常に良好な銀ゼオライ ト(ラサ AgX)を開発し、各種の吸着条件で、有機ヨウ 素の吸着性能を調べました。 1.2 有機ヨウ素の吸着率の測定 吸着率の測定は、低沸点物質のヨウ化メチルを使用し、 温度条件等のガス雰囲気を変えて測定しました。非放射 性のヨウ素を使用した試験は社内の評価設備で実施し、 放射性のヨウ素(I-131)を使用した試験は、外部の評価 機関を利用しました。 主な測定条件としては、吸着剤の入ったカラムの直径 は25mmΦから50mmΦ、長さは50mmから150mm。こ れに水蒸気の入った、空気、窒素、ヨウ化メチルガスを 流し、出てきたガス中のヨウ化メチル濃度を測定し、吸 本木工場 E-mail: toshiki.kobayashi@rasa..co.jp 着率を求めました。吸着剤への吸着率は、主に温度、水 表 3 は温度114°Cで DPD15K のベントガス雰囲気とし 蒸気の含有量(沸点以下では湿度、沸点以上では露点か ては、代表的な条件での吸着率です。この様に、接触時 らの温度差(Dew Point Distance。DPDと略す))、吸着剤 間として、0.16 秒以上であれば、99.99%以上(DF10000 とガスとの接触時間が主な影響因子となります。また、 以上)の吸着率となりました。 ガス流量が非常に多いベントガスを想定し、吸着剤とガ スの接触時間は0.2秒前後を基準に設定しました。 表3 ラサAgXのヨウ化メチルの吸着率(外部評価) 一般的に、銀ゼオライトタイプの吸着剤の性能は、温 度が高く、水蒸気の含有量が少なく(低湿度もしくはDPD が大きい)、接触時間が長いほど吸着率は良くなります。 ベントガスは、温度は高くて吸着にとっては好ましい条 件ですが、水蒸気含量が非常に多く、接触時間も短くな るので、その厳しい条件下で良い性能を発揮する事が重 要な性質になります。 1.3 社内評価結果と外部評価結果 社内での評価結果と外部評価機関での評価結果の差を 表1に示します。吸着条件は、温度は約 115°C、DPD は 共に15K、接触時間は0.2秒以下です。ガス組成は、社内 は水蒸気 100%、社外は水蒸気:空気=95:5の組成です。 表 4 は圧力が 399kPa での吸着率のデータです。これ もベントガス雰囲気としては、代表的な条件での吸着率 です。この様に、接触時間として、0.24秒以上であれば、 99.96%以上(DF2500以上)の吸着率となりました。 表1 ラサAgXの社内評価結果と外部評価結果 表4 ラサAgXのヨウ化メチルの吸着率(外部評価) ラサAgX は性能評価結果が良く、社内評価の吸着率の データでは数値が出ない事が多いので、吸着性能がやや 悪い別の銀ゼオライトの評価結果を表2に示します。 表2 別の銀ゼオライトの社内評価結果と外部評価結果 3.まとめ ラサAgX はベントガス雰囲気の様な、非常に苛酷な条 件でも有機ヨウ素の吸着率が優れた吸着剤である事が判 この様に、ほぼ同じ様な数値が得られ、社内評価結果 りました。また、100°C以下の低温の高湿度下でも良い吸 が有効に使用できる事が判りました。 着性能を示しますので、広範囲での使用条件下で良い吸
2.ラサ AgXの吸着性能について
着性能を示す事が判りました。 以下に、温度、接触時間等を替えた時の吸着率の評価 (平成26年7月25日) 結果を記載しますが、詳細は学会にて発表致します。 試験条件 試験条件 温度 114°C ガス速度 0.32 m/s ガス組成 95% 水蒸気 圧力 98kPa DPD 15K カラム直径 25mm 試験条件 試験条件 温度 130°C ガス速度 0.20m/s ガス組成 空気、水蒸気 圧力 399kPa 湿度 95% カラム直径 50mm 接触時間 (秒) 吸着率 (%) 0.123 99.032 0.246 99.967 0.369 >99.999 - 276 - 接触時間 (秒) 吸着率 (%) 0.08 99.54 0.16 99.990 0.24 99.998 社内評価 115°C、接触時 間は0.19 秒 外部評価 114°C、接触時 間は0.16秒 吸着率 (%) >99.95 99.990 社内評価 105°C、接触時 間は0.18 秒 外部評価 104°C、接触時 間は0.16秒 吸着率 (%) 64.1 75.6“ “放射性ヨウ素吸着剤 AgX の性能について “ “小林 稔季,Toshiki KOBAYASHI,遠藤 好司,Koji ENDO