放射性ヨウ素吸着剤 AgX の用途について
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カテゴリ: 第11回
1.フィルターベントの課題
フィルターベントは、福島の様な事故時に大きな役割 を持つ重要な設備として位置づけられておりま主に ドライ方式とウエット方式があり、両者とも被爆防止の 点で非常に有効な方法であります。しかしながら、これらの方法でも除去が十分でなかっ た放射性物質として有機ヨウ素があります。ドライ方式 では、ヨウ素吸着剤として銀ゼオライトを用いることで 軽減を図って参りました。ウエット方式では、一部(CCI 社)の方式を除けば、有機ヨウ素の対策が十分とはなっ ていないのが実情です。有機ヨウ素の発生量は、従来、放射性物質の 0.15%と されてきましたが、原子炉内のガス条件によっては、想 定量を超える報告もフランス(Phebus-FP 試験)や JENS によって報告されております。また、放射性物質の中で も有機ヨウ素は、人体に取り込み易く、非常に毒性が高 いとされております。
2.AgXの有効性
AgX は、元来 SGTS、アニュラスの活性炭代替用に開 発してきましたが、フィルターベント向けに使用できな いかを検討して参りました。 活性炭に比較して、吸着性能や吸着容量が優れている ことは、従来から確認されていましたが、フィルターベ ントのような高温、高圧、高湿のような条件では、十分 な評価結果がありませんでした。 AgX の今回確認された性能は、次のようなものがあり ます。 1 高温、高湿、高圧下でも吸着効果が高い。 2 風量が多く、接触時間が短くても吸着する。 3 500°Cの高温下でも構造が破壊されない。 4 100°C以上のスチーム下に置かれても構造が破壊 されず吸着性が持続する。 5 水素含有ガス下での吸着性が高い。 6 水素除去性能も持つ。 7 露点温度差(DPD)の低い状態でも吸着性能が高い。 8 水に濡れても乾燥すれば吸着性能が戻る。 3.フィルターベントへの適用 フィルターベントで出てくるガス組成や風量、圧力な どは、各々のリアクターによって設計が異なります。ま た、PWRやBWRでの条件では、同様にガス組成、処理 風量や圧力などの条件で大きな違いがあります。 PWRでは、放射性物質の大半を原子炉内で除去可能な ドライ方式が有効とされていますが、炉外でヨウ素除去 が必要となります。これをより効率的に除去することが 重要となります。また、ガス組成として酸素が入るため に水素濃度のコントロールが重要となります。 PWRのウエット方式では、特にどうしても除去できな い有機ヨウ素処理とベント開始時の水素濃度のコントロ ールが重要となります。 BWRでは、処理風量や圧力がどうしても高くなってし まうためにウエット方式が主に採用されておりますが、 ウエット方式では有機ヨウ素が除去できない欠点があり ます。 AgXは、PWRの条件やBWRの条件を基に様々なガス 組成や圧力、露点温度差(DPD)などの条件で評価して 参りました。その結果、フィルターベントでは、次のよ 連絡先:遠藤好司、〒104-0031東京都中央区京橋1-1-1 ラサ工業株式会社 電子材料事業部 E-mail: koji.endo@.rasa.co.jp うな利用をすることでより安全性を高めることが可能と なることが、確認されました。
1ドライ方式フィルターベントでは、従来の銀ゼオラ イトをAgX に置き換えることで放射性ヨウ素(ヨウ 素及び有機ヨウ素)吸着のDF値を大幅に上げること ができる。または、吸着剤の絶対量を削減したり、 フィルターの数を減少させることでコンパクトな設 計が可能となる。他に、水素除去効果から水素の燃 焼や爆発を防止可能となる。 2ウエット方式フィルターベントでは、後工程に AgX フィルターを設置することで有機ヨウ素対策を取る ことが可能となる。また、BWRのような処理風量の 多いケースでもコンパクトな設計が可能となる。ま た、更に、PWRの大きな問題であるベント開始時の 水素濃度の上昇を抑制し、安全性向上を図ることが できる。
3.SGTS、アニュラスへの適用
AgX は、今回確認された性能から既存の安全設備であ るSGTS、アニュラスでも有効に利用できることを確認い たしました。 加えて、活性炭ではどうしても湿度が高い条件や燃焼 の問題から高温での使用が難しいのが実情ですが、AgX では、フィルターベントの使用条件で確認されているよ うに使用範囲が広くなります。 1 SGTS、アニュラスなどのコンパクト化。 2 SGTS、アニュラスなどの多重化対策。 3 吸着剤交換頻度の削減。 4 廃棄物処理量の削減。 5 設備の不燃化対策の強化。 6 高温下での使用。 現在使用されている活性炭としては、KI炭、TEDA炭 の2種類がありますが、どちらも化学吸着が基本となっ ております。どうしても活性炭に添着できるKIやTEDA 濃度が限定されるために吸着容量は、限られたものとな ります。 これに比較してAgXは、吸着容量でも大幅に上回るこ とが確認されております。また、吸着効率でもSGTS、ア ニュラスの指定された条件下でも優れております。 更に、事故時のような高温時では、水素除去の特性か ら水素爆発などの危険を回避することが、可能となりま す。 他に、従来から確認されている性能や物性では、不燃 性であることや製品の経年劣化が少ないことがあります。 これらのことからAgX をSGTS、アニュラスなどに使 用することで次のような点で有効性を見出せるものと考 えられます。 - 278 - 参考資料 4 4.他施設への適用など 中央制御室などの空調設備に粒子状物質を除去できる HAPA フィルターやフィルターベントに使用される金属 7 除湿設備の不要化。 8 処理能力UP。 フィルターとAgXフィルターを使用することで、作業者 被爆を防止します。また、核燃料、濃縮、核廃棄物取扱 所など放射性物質を排出する可能性のある場所に同様に HEPAフィルター、または、金属フィルターとAgXフィ ルターを設置することで住民や作業者の安全向上を図る ことができます。 ここに取り上げた以外にも、AgX を利用することで放 射性ヨウ素からの被害を防止することが可能なものが、 多数あるものと思います。AgX が原子力施設の更なる安 全に貢献できれば幸いです。 参考文献 [1] 独立行政法人 原子力安全基盤機構 平成22年1月 平成 20 年度 シビアアクシデント晩期の格納容器 閉じ込め機能の維持に関する研究報告書. (平成26年7月25日) - 279 -“ “放射性ヨウ素吸着剤 AgX の用途について “ “遠藤 好司,Koji ENDO,小林 稔季,Toshiki KOBAYASHI
フィルターベントは、福島の様な事故時に大きな役割 を持つ重要な設備として位置づけられておりま主に ドライ方式とウエット方式があり、両者とも被爆防止の 点で非常に有効な方法であります。しかしながら、これらの方法でも除去が十分でなかっ た放射性物質として有機ヨウ素があります。ドライ方式 では、ヨウ素吸着剤として銀ゼオライトを用いることで 軽減を図って参りました。ウエット方式では、一部(CCI 社)の方式を除けば、有機ヨウ素の対策が十分とはなっ ていないのが実情です。有機ヨウ素の発生量は、従来、放射性物質の 0.15%と されてきましたが、原子炉内のガス条件によっては、想 定量を超える報告もフランス(Phebus-FP 試験)や JENS によって報告されております。また、放射性物質の中で も有機ヨウ素は、人体に取り込み易く、非常に毒性が高 いとされております。
2.AgXの有効性
AgX は、元来 SGTS、アニュラスの活性炭代替用に開 発してきましたが、フィルターベント向けに使用できな いかを検討して参りました。 活性炭に比較して、吸着性能や吸着容量が優れている ことは、従来から確認されていましたが、フィルターベ ントのような高温、高圧、高湿のような条件では、十分 な評価結果がありませんでした。 AgX の今回確認された性能は、次のようなものがあり ます。 1 高温、高湿、高圧下でも吸着効果が高い。 2 風量が多く、接触時間が短くても吸着する。 3 500°Cの高温下でも構造が破壊されない。 4 100°C以上のスチーム下に置かれても構造が破壊 されず吸着性が持続する。 5 水素含有ガス下での吸着性が高い。 6 水素除去性能も持つ。 7 露点温度差(DPD)の低い状態でも吸着性能が高い。 8 水に濡れても乾燥すれば吸着性能が戻る。 3.フィルターベントへの適用 フィルターベントで出てくるガス組成や風量、圧力な どは、各々のリアクターによって設計が異なります。ま た、PWRやBWRでの条件では、同様にガス組成、処理 風量や圧力などの条件で大きな違いがあります。 PWRでは、放射性物質の大半を原子炉内で除去可能な ドライ方式が有効とされていますが、炉外でヨウ素除去 が必要となります。これをより効率的に除去することが 重要となります。また、ガス組成として酸素が入るため に水素濃度のコントロールが重要となります。 PWRのウエット方式では、特にどうしても除去できな い有機ヨウ素処理とベント開始時の水素濃度のコントロ ールが重要となります。 BWRでは、処理風量や圧力がどうしても高くなってし まうためにウエット方式が主に採用されておりますが、 ウエット方式では有機ヨウ素が除去できない欠点があり ます。 AgXは、PWRの条件やBWRの条件を基に様々なガス 組成や圧力、露点温度差(DPD)などの条件で評価して 参りました。その結果、フィルターベントでは、次のよ 連絡先:遠藤好司、〒104-0031東京都中央区京橋1-1-1 ラサ工業株式会社 電子材料事業部 E-mail: koji.endo@.rasa.co.jp うな利用をすることでより安全性を高めることが可能と なることが、確認されました。
1ドライ方式フィルターベントでは、従来の銀ゼオラ イトをAgX に置き換えることで放射性ヨウ素(ヨウ 素及び有機ヨウ素)吸着のDF値を大幅に上げること ができる。または、吸着剤の絶対量を削減したり、 フィルターの数を減少させることでコンパクトな設 計が可能となる。他に、水素除去効果から水素の燃 焼や爆発を防止可能となる。 2ウエット方式フィルターベントでは、後工程に AgX フィルターを設置することで有機ヨウ素対策を取る ことが可能となる。また、BWRのような処理風量の 多いケースでもコンパクトな設計が可能となる。ま た、更に、PWRの大きな問題であるベント開始時の 水素濃度の上昇を抑制し、安全性向上を図ることが できる。
3.SGTS、アニュラスへの適用
AgX は、今回確認された性能から既存の安全設備であ るSGTS、アニュラスでも有効に利用できることを確認い たしました。 加えて、活性炭ではどうしても湿度が高い条件や燃焼 の問題から高温での使用が難しいのが実情ですが、AgX では、フィルターベントの使用条件で確認されているよ うに使用範囲が広くなります。 1 SGTS、アニュラスなどのコンパクト化。 2 SGTS、アニュラスなどの多重化対策。 3 吸着剤交換頻度の削減。 4 廃棄物処理量の削減。 5 設備の不燃化対策の強化。 6 高温下での使用。 現在使用されている活性炭としては、KI炭、TEDA炭 の2種類がありますが、どちらも化学吸着が基本となっ ております。どうしても活性炭に添着できるKIやTEDA 濃度が限定されるために吸着容量は、限られたものとな ります。 これに比較してAgXは、吸着容量でも大幅に上回るこ とが確認されております。また、吸着効率でもSGTS、ア ニュラスの指定された条件下でも優れております。 更に、事故時のような高温時では、水素除去の特性か ら水素爆発などの危険を回避することが、可能となりま す。 他に、従来から確認されている性能や物性では、不燃 性であることや製品の経年劣化が少ないことがあります。 これらのことからAgX をSGTS、アニュラスなどに使 用することで次のような点で有効性を見出せるものと考 えられます。 - 278 - 参考資料 4 4.他施設への適用など 中央制御室などの空調設備に粒子状物質を除去できる HAPA フィルターやフィルターベントに使用される金属 7 除湿設備の不要化。 8 処理能力UP。 フィルターとAgXフィルターを使用することで、作業者 被爆を防止します。また、核燃料、濃縮、核廃棄物取扱 所など放射性物質を排出する可能性のある場所に同様に HEPAフィルター、または、金属フィルターとAgXフィ ルターを設置することで住民や作業者の安全向上を図る ことができます。 ここに取り上げた以外にも、AgX を利用することで放 射性ヨウ素からの被害を防止することが可能なものが、 多数あるものと思います。AgX が原子力施設の更なる安 全に貢献できれば幸いです。 参考文献 [1] 独立行政法人 原子力安全基盤機構 平成22年1月 平成 20 年度 シビアアクシデント晩期の格納容器 閉じ込め機能の維持に関する研究報告書. (平成26年7月25日) - 279 -“ “放射性ヨウ素吸着剤 AgX の用途について “ “遠藤 好司,Koji ENDO,小林 稔季,Toshiki KOBAYASHI