フィルタベント設備の浜岡原子力発電所4号機への適用について
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カテゴリ: 第11回
1.はじめに
東北地方太平洋沖地震(2011 年3 月11 日)を起因とした福島第一原子力発電所の事故を踏まえ,浜岡原子力発電所では,2011 年7 月に津波対策を公表して以来,防波壁の嵩上げをはじめとする津波対策の強化やフィルタベント設備の設置をはじめとする重大事故対策等,浜岡原子力発電所の安全性をより一層高める取り組みを着実に進めている。 本稿では,2014 年2 月14 日に新規制基準への適合性確認審査のための申請を行った浜岡原子力発電所4 号機の安全対策の概要と,安全対策のなかでも重大事故の進展防止対策として重要な役割を担うものの一つで,国内BWR において初めて導入するフィルタベント設備の設計概要,設置状況等について紹介する。
2.浜岡原子力発電所4号機の安全対策
浜岡原子力発電所4 号機では福島第一原子力発電所事故の教訓および新規制基準の要求事項等を踏まえ,万一,多重に設けられた設計基準対処設備の機能が喪失したとしても,多段階にわたる防護措置を講じ,重大事故への進展と事故の拡大防止のため,①炉心損傷防止対策,②格納容器破損防止対策,③放射性物質の拡散抑制対策,④ 電源設備等の共通の対策に取り組んできている。 浜岡原子力発電所4 号機における安全対策の概要をFig.1 に示す。
安全機能の喪失が発生したとしても炉心の著しい損傷を防ぐ炉心の著しい損傷が起きたとしても格納容器破損を防ぐ格納容器が破損したとしても敷地外への放射性物質の拡散を抑制する
【新規制基準】■原子炉停止機能
●原子炉代替停止系の設置■炉心冷却機能●原子炉高圧代替注水系の設置●原子炉代替減圧系の設置●原子炉低圧代替注水系の設置■原子炉格納容器の健全性維持●最終ヒートシンク代替熱輸送系の設置●格納容器代替冷却系の設置●格納容器過圧破損防止系の設置●格納容器下部注水系の設置●格納容器水素燃焼防止系の設置■水素爆発による原子炉建屋の損傷を防止●原子炉建屋水素燃焼防止系の設置■燃料プールの冷却●燃料プール代替冷却系の設置■発電所外への放射性物質の拡散を抑制する機能●可搬型原子炉建屋放水設備の設置●原子炉建屋ベント系の設置●可搬型海洋拡散抑制設備の設置【共通の対策】■地震による損傷防止●基準地震動による地震力に対して必要な機能を維持■津波による損傷防止●基準津波に対して必要な機能を維持■水の供給設備●重大事故等の収束に必要となる十分な量の水を有する水源を確保■電源設備●緊急時電源系を設ける:常設重大事故等対処設備(緊急時ガスタービン発電機、直流電源設備、電源融通設備、所内電気設備) :可搬型重大事故等対処設備(交流電源車、直流電源車可搬型蓄電池) ■中央制御室●適切な換気設計・遮へい設計■緊急時対策所●放射線遮へい対策等を強化(福島第一原子力発電所事故相当の放射性物質の大量放出事象を想定) ①炉心損傷防止対策(複数の機器の故障を想定) ②格納容器破損防止対策③放射性物質の拡散抑制対策多段階にわたる防護措置対策を講じるものの炉心損傷を想定対策を講じるものの格納容器破損を想定 Fig.1 Schematic plan for safety countermeasure of Hamaoka NPP Unit4 炉心損傷防止対策については,想定される重大事故時においても,炉心への注水を継続し,余熱除去系による除熱機能確保により,炉心の冷却を維持し,炉心の著しい損傷に至ることなく事象を収束できることを確認しているが,余熱除去系による除熱機能が万一,喪失した場合には,原子炉低圧代替注水系(補給水系)等による炉心への注連絡先:井上 博隆 〒461-8680 愛知県名古屋市東区東新町1番地 E-mail: Inoue.Hirotaka@chuden.co.jp - 280 -水とフィルタベント設備を用いた大気を最終ヒートシンクとした除熱の組み合わせによる,いわゆるフィードアンドブリードにより,炉心の冷却を維持する。 また,万一,炉心損傷に至った場合にも,格納容器の過圧破損等を防止する手段としてフィルタベント設備を機能させる(格納容器内の雰囲気ガスを,フィルタ装置を通してベントする)ことにより,環境への粒子状放射性物質等の放出量を低減することができる。 3.フィルタベントの設備の設計方針 3.1 フィルタベント設備の設計方針 フィルタベント設備を浜岡原子力発電所4号機へ適用するにあたっては,福島第一原子力発電所事故の教訓および新規制基準の要求事項等を踏まえ,想定される重大事故時等に確実に操作可能なシステムとすること,またベントの際には可能な限り放射性物質の放出を低減すること等を設計の基本方針とし,フィルタ装置として,格納容器ベント用フィルタとして国際的に実績のあるAREVA社のFCVS を選定し,浜岡原子力発電所4 号機で想定される事故事象に対して確実に性能を発揮するよう,裕度をもったシステム設計としている。 主な設計方針を以下に示す。 . 炉心の著しい損傷を防止するため,格納容器内のガスを排気することにより,最終的な熱の逃がし場である大気に熱を輸送し,格納容器内の圧力および温度を低下させることができる設計とする。 . 炉心の著しい損傷が発生した場合において,格納容器の破損を防止するため,格納容器内の水素を含むガスを排気することにより,格納容器内の圧力および温度を低下させるとともに格納容器内での水素爆発を防止することができる設計とする。 . フィルタ装置を通して格納容器内のガスを排気することにより,放射性物質の大気への放出量を低減できる設計とする。 . 他の系統・機器と隔離することで,他への悪影響を防ぐ設計とする。 . ベント弁は,容易かつ確実に開閉操作ができる設計とする。 . 排出経路における水素爆発を防止できる設計とする。 . 長期的にも溶融炉心および水没の悪影響を受けない場所に接続する設計とする。 . 遮蔽等の放射線防護対策により,使用後に高線量となるフィルタ等からの被ばくを低減できる設計とする。 . 基準地震動Ssによる地震力に対して必要な機能が損なわれるおそれがない設計とする。 想定される事故事象での使用条件下において, 確実に操作ができ,性能を発揮できる設計とする。 3.2 フィルタベント設備の設計条件 3.1 の設計方針を踏まえて設定した浜岡原子力発電所4 号機のフィルタベント設備の具体的な設計条件をTable.1 に示す。 Table.1 Design condition of Hamaoka NPP Unit4 FCVS 最高使用圧力 854kPa[gage] (格納容器の最高使用圧力427kPa [gage]の2 倍) 最高使用温度 200℃ 設計流量(蒸気) 13.4kg/s at 427kPa[gage] フィルタ効率 99.9%(粒子状放射性物質に対して) 耐震性能 基準地震動Ss にて機能維持 なお,設計条件に係るフィルタベント設備の使用条件については,2013年(平成25年)7月8日施行の「実用発電用原子炉及びその附属施設の位置,構造及び設備の基準に関する規則の解釈」第37条の規定に基づき実施した浜岡原子力発電所4号機の有効性評価において確認している。 フィルタベント設備の使用(ベント開始)のタイミングは,重大事故等の事象収束シナリオにより異なり,炉心損傷を伴わず事象収束が必要な事故シーケンス「全交流動力電源喪失」を例に挙げると,ベントは,格納容器が最高使用圧力427kPa に到達した時点で実施となる。炉心損傷を伴う格納容器破損モード「雰囲気圧力・温度による静的負荷(格納容器過圧・過温破損)」に対する事象収束シナリオでのベントは,格納容器圧力が最高使用圧力の2倍に達した時点で実施となる。 以下に浜岡原子力発電所4号機の有効性評価結果の例を示す。 - 281 -【格納容器破損防止対策の有効性評価】 (1)想定する格納容器破損モード 雰囲気圧力・温度による静的負荷(格納容器過圧・過温破損) (2)事故の想定および収束の概要 格納容器内へ流出した高温の冷却材や溶融炉心の崩壊熱等の熱によって発生した水蒸気,金属-水反応によって発生した非凝縮性ガスなどの蓄積によって,格納容器内の雰囲気圧力・温度が緩慢に上昇し格納容器が破損する可能性がある。 本格納容器破損モードに対しては,原子炉低圧代替注水系(常設)による原子炉冷却および格納容器代替スプレイ系による格納容器冷却ならびにフィルタベント設備による除熱によって格納容器破損防止を図る。フィルタベント実施に至る事象のフローをFig.2 に示す。 大破断LOCA 全交流電源喪失原子炉スクラムECCS起動失敗ガスタービン発電機起動原子炉低圧代替注水ポンプ起動損傷炉心の冷却成功格納容器スプレイ開始格納容器圧力=641kPa[gage] 格納容器スプレイ間欠運転格納容器圧力(541kPa[gage]~641kPa[gage]) 格納容器スプレイ停止外部注水量3,800m3到達フィルタベント開始格納容器圧力=854kPa[gage] Fig.2 Summary of Event flow (3)格納容器の圧力・温度の推移 フィルタベント設備の使用条件に係る格納容器の圧力と温度の推移をFig.3, 4 に示す。 020040060080010000 12 24 36 48 60 72 84 96 108 120 132 144 156 168 事故後の時間 (h) 格納容器圧力ドライウェルサプレッションチェンバ(kPa[gage]) Fig.3 Containment pressure 01002003000 12 24 36 48 60 72 84 96 108 120 132 144 156 168 事故後の時間 (h) 格納容器温度ドライウェルサプレッションチェンバ(℃) Fig.4 Containment temperature 4.フィルタベント設備の設計仕様 前項で示した設計方針の要求事項を満足するよう,浜岡原子力発電所4 号機において考慮したフィルタベント設備の設計仕様について,以下に記載する。 4.1 フィルタベント設備の基本構成 浜岡原子力発電所4 号機のフィルタベント設備は,原子炉格納容器と不活性ガス系(AC 系)の第一隔離弁までの配管から分岐し,フィルタ装置(ベントフィルタ)を経由し排気筒を通じて環境中に放出するよう設計している。ベントフィルタは新設するベントフィルタ格納槽に設置し,重大事故時の系統機能維持のため浸水対策を実施している。また,フィルタベント設備は,ウェットウェル(W/W) ベントライン及びドライウェル(D/W)ベントラインに,原子炉格納容器内雰囲気ガスを排気するための配管を設置し,各々に電動隔離弁を設ける。隔離弁下流にベントフィルタを設置し,原子炉格納容器雰囲気ガス中の放射性物質を除去した後,排気筒頂部位置から環境中に854kPa[gage] 200℃ 格納容器スプレイ開始 フィルタベントによる圧力低下(約59 時間後) フィルタベントによる圧力低下(約59 時間後) 格納容器スプレイ開始 格納容器圧力に応じた間欠スプレイ 格納容器圧力に応じた間欠スプレイ - 282 -放出する設計としている。隔離弁は電動駆動のほか,万一の場合に備え,遠隔手動操作が可能な設計としている。なお,一連の隔離弁は設計基準事故時には原子炉格納容器圧力バウンダリを形成する隔離弁として機能し,重大事故時には隔離弁を開放することにより格納容器内雰囲気ガスを,フィルタを通じて放出することにより,原子炉格納容器の過圧破損を防止し,環境中への粒子状放射性物質の放出を抑制する設計としている。なお, 格納容器ベントは,W/W ベントを基本とするが, 万一,隔離弁操作不可によりW/W ベントが実施できない,または,W/W ベントライン水没後はD/W ベントが可能な設計としている。 浜岡原子力発電所4 号機のフィルタベント設備系統概略図をFig.5 に示す。 放射線モニタRE 排気筒圧力開放板H2E 原子炉圧力容器接続口二次格納施設ドライウェルサプレッションチェンバAO AO 非常用ガス処理系へ換気空調系へベントフィルタ接続口ベントフィルタ格納槽窒素供給ラインMO MO MO MO MO MO MO MO Fig.5 Outline of FCVS of HAMAOKA NPP Unit4 ・ 水素ガス対策 炉心損傷に伴い,水と燃料被覆材(Zr)等との反応により発生する水素による燃焼,爆轟を防止するため,系統待機時は原子炉格納容器と同様にフィルタベント設備内を窒素により不活性化する設計としている。なお,通常運転時,フィルタベント設備内は,窒素置換により微正圧としており, これを監視することによりフィルタベント設備からの漏えいの有無を監視する設計としている。 ・ 機器環境条件 フィルタベント設備の環境条件は,格納容器ベント実施時のベントガス条件に基づき設定し,機器の環境条件を設定している。圧力については, 格納容器ベント実施操作は,格納容器設計圧力からその2 倍までを運用上想定することから格納容器設計圧力の2 倍とした。また,温度については, 格納容器が加温により過大リークとならない温度条件として200℃を設定した。 ・ 配置設計 ベントフィルタは,原子炉建屋外の岩盤上に地下埋設式の頑健なベントフィルタ格納槽を設けて設置することで,地震,津波及び飛来物の衝突に対して有利な設計としている。このベントフィルタ格納槽は鉄筋コンクリート製であり,ベントフィルタに捕獲した放射性物質からの放射線に対する遮へいも考慮した設計としている。 4.2 機器設計仕様(ベントフィルタ) 浜岡原子力発電所4号機では,規制要件に基づく粒子状放射性物質の除去に加えて,被ばく評価の観点から無機/有機よう素の除去を,ベントフィルタの性能に係る機器仕様要件としている。このために,湿式(スクラバ及び金属繊維フィルタの2 段階)及びよう素フィルタの合計3段階で除去を行うAREVA社のFCVS PLUSを採用した。 ベントフィルタの構成は,第1段ステージとしてベンチュリスクラバ,第2段ステージとして金属繊維フィルタ,第3段ステージとしてよう素フィルタ(モレキュラーシーブ)の3つのセクションから構成されている。ベントフィルタ概略図をFig.6,仕様をTable.2に示す。 ベンチュリノズル金属繊維フィルタよう素フィルタガス入口ノズルガスの流れガス出口ノズルガス出口ノズル Fig.6 Outline of Filtered venting equipment ““This information is technology proprietary to AREVA GmbH““ Copy right@AREVA GmbH - 283 -Table.2 Specification of Filtered venting equipment 名称 ベントフィルタ種類 湿式(スクラバ及び金属繊維フィルタ)+よう素フィルタ効率 粒子状放射性物質:99.9% 無機よう素:99.8% 有機よう素:98% 最高使用圧力854kPa 最高使用温度200℃ 主要寸法直径:約4.7m 全高:約12m 主要材質SUS316L 機器クラス重大事故等クラス2容器 第1段ステージのベンチュリスクラバでは,高速流ベントガスとベンチュリスロート部から流入する液滴との接触によりベントガス中に含まれる大部分のエアロゾルを除去可能である。第2段ステージの金属繊維フィルタでは,ベンチュリスクラバでは除去しきれなかった微小粒径のエアロゾルを除去することを目的に設置している。これにより,ベントガス中に含まれる大部分のエアロゾルはスクラビング水に保持され,金属繊維フィルタでの目詰まりを防止するとともにベンチュリスクラバで除去しきれなかった微小粒径のエアロゾルを捕獲し相互に補完する設計としている。第3段ステージのよう素フィルタ(モレキュラーシーブ) は,放射性よう素除去強化を目的に設置しており,特に,有機よう素は,放出量は少ないが格納容器スプレイ等で除去しにくいことから被ばく影響においては重要な核種となるが,これらをモレキュラーシーブにて吸着し保持することにより, 環境中への放出量をさらに低減するよう設計している。なお,ベントガス中に含まれる無機よう素(元素状よう素)の大部分は,ベントガスとベンチュリスロート部から流入する液滴との気液界面での反応により無機よう素がスクラビング水中に溶存し除去される。よう素除去反応速度の向上及びスクラビング水中に溶解した無機よう素がガス状よう素として再揮発することを抑制するために,チオ硫酸ナトリウム及び水酸化ナトリウムをスクラビング水に添加し,pH をアルカリ側に制御できる設計としている。5.フィルタベント設備の浜岡原子力発電所4 号機への設備状況 5.1 ベントフィルタの製作前項に述べた仕様に基づき,ベントフィルタの製作を行っており,Fig.7 にベントフィルタ鏡板の曲げ加工および熱処理段階の製作状況を示す。現在,(株)東芝 京浜事業所にて胴部と下部鏡板の溶接を行っており,金属繊維フィルタ等の内部構造物について順次組み込んでいく予定である。Fig.7 Ellipsoidal head in the process of manufacturing 5.2 現地工事フィルタベント設備の現地工事は平成 25 年4 月に着工し,ベントフィルタを設置する地下格納槽の工事を進めているところである。 地下格納槽(概略寸法16m×12m,深さ30m)は, 岩盤の上に鉄筋コンクリート製で設置し,基準地震動に対する頑健性やベントフィルタに捕集した放射性物質からの放射線に対する遮へいを考慮した設計としている。 現地工事の状況(2013 年9 月時点および2014 年5 月時点)をFig.8 に示す。Fig.8 Construction on site (left: Sep. 2013, right: May. 2014) 6.結語 浜岡原子力発電所では,2011 年7 月に津波対策を公表して以来,防波壁の嵩上げ等による浸水防水対策の強化やフィルタベント設備の設置をはじめとするシビアアクシデント対策の実施,及び取水槽他の溢水対策の実施など,引き続き対策を積- 284 -み重ねることで安全性をより一層高めております。また,フィルタベント設備については,実際の運用に基づき設計条件を設定することにより,より確実性の高いベントシステムの構築に向けて検討を進め,2015 年9 月末完成に向けて工事を進めております。 当社は引き続き,浜岡原子力発電所の安全性をより一層向上させる取組を着実に進めるとともに, その内容を丁寧にご説明することで,地元をはじめ社会の皆さまの安心につながるよう,全力で取り組んでまいります。 *本論文に掲載の商品の名称は,それぞれ各社が商標として使用している場合があります。 - 285 -
“ “フィルタベント設備の浜岡原子力発電所4号機への適用について “ “井上 博隆,Hirotaka INOUE,細見 憲治,Kenji HOSOMI
東北地方太平洋沖地震(2011 年3 月11 日)を起因とした福島第一原子力発電所の事故を踏まえ,浜岡原子力発電所では,2011 年7 月に津波対策を公表して以来,防波壁の嵩上げをはじめとする津波対策の強化やフィルタベント設備の設置をはじめとする重大事故対策等,浜岡原子力発電所の安全性をより一層高める取り組みを着実に進めている。 本稿では,2014 年2 月14 日に新規制基準への適合性確認審査のための申請を行った浜岡原子力発電所4 号機の安全対策の概要と,安全対策のなかでも重大事故の進展防止対策として重要な役割を担うものの一つで,国内BWR において初めて導入するフィルタベント設備の設計概要,設置状況等について紹介する。
2.浜岡原子力発電所4号機の安全対策
浜岡原子力発電所4 号機では福島第一原子力発電所事故の教訓および新規制基準の要求事項等を踏まえ,万一,多重に設けられた設計基準対処設備の機能が喪失したとしても,多段階にわたる防護措置を講じ,重大事故への進展と事故の拡大防止のため,①炉心損傷防止対策,②格納容器破損防止対策,③放射性物質の拡散抑制対策,④ 電源設備等の共通の対策に取り組んできている。 浜岡原子力発電所4 号機における安全対策の概要をFig.1 に示す。
安全機能の喪失が発生したとしても炉心の著しい損傷を防ぐ炉心の著しい損傷が起きたとしても格納容器破損を防ぐ格納容器が破損したとしても敷地外への放射性物質の拡散を抑制する
【新規制基準】■原子炉停止機能
●原子炉代替停止系の設置■炉心冷却機能●原子炉高圧代替注水系の設置●原子炉代替減圧系の設置●原子炉低圧代替注水系の設置■原子炉格納容器の健全性維持●最終ヒートシンク代替熱輸送系の設置●格納容器代替冷却系の設置●格納容器過圧破損防止系の設置●格納容器下部注水系の設置●格納容器水素燃焼防止系の設置■水素爆発による原子炉建屋の損傷を防止●原子炉建屋水素燃焼防止系の設置■燃料プールの冷却●燃料プール代替冷却系の設置■発電所外への放射性物質の拡散を抑制する機能●可搬型原子炉建屋放水設備の設置●原子炉建屋ベント系の設置●可搬型海洋拡散抑制設備の設置【共通の対策】■地震による損傷防止●基準地震動による地震力に対して必要な機能を維持■津波による損傷防止●基準津波に対して必要な機能を維持■水の供給設備●重大事故等の収束に必要となる十分な量の水を有する水源を確保■電源設備●緊急時電源系を設ける:常設重大事故等対処設備(緊急時ガスタービン発電機、直流電源設備、電源融通設備、所内電気設備) :可搬型重大事故等対処設備(交流電源車、直流電源車可搬型蓄電池) ■中央制御室●適切な換気設計・遮へい設計■緊急時対策所●放射線遮へい対策等を強化(福島第一原子力発電所事故相当の放射性物質の大量放出事象を想定) ①炉心損傷防止対策(複数の機器の故障を想定) ②格納容器破損防止対策③放射性物質の拡散抑制対策多段階にわたる防護措置対策を講じるものの炉心損傷を想定対策を講じるものの格納容器破損を想定 Fig.1 Schematic plan for safety countermeasure of Hamaoka NPP Unit4 炉心損傷防止対策については,想定される重大事故時においても,炉心への注水を継続し,余熱除去系による除熱機能確保により,炉心の冷却を維持し,炉心の著しい損傷に至ることなく事象を収束できることを確認しているが,余熱除去系による除熱機能が万一,喪失した場合には,原子炉低圧代替注水系(補給水系)等による炉心への注連絡先:井上 博隆 〒461-8680 愛知県名古屋市東区東新町1番地 E-mail: Inoue.Hirotaka@chuden.co.jp - 280 -水とフィルタベント設備を用いた大気を最終ヒートシンクとした除熱の組み合わせによる,いわゆるフィードアンドブリードにより,炉心の冷却を維持する。 また,万一,炉心損傷に至った場合にも,格納容器の過圧破損等を防止する手段としてフィルタベント設備を機能させる(格納容器内の雰囲気ガスを,フィルタ装置を通してベントする)ことにより,環境への粒子状放射性物質等の放出量を低減することができる。 3.フィルタベントの設備の設計方針 3.1 フィルタベント設備の設計方針 フィルタベント設備を浜岡原子力発電所4号機へ適用するにあたっては,福島第一原子力発電所事故の教訓および新規制基準の要求事項等を踏まえ,想定される重大事故時等に確実に操作可能なシステムとすること,またベントの際には可能な限り放射性物質の放出を低減すること等を設計の基本方針とし,フィルタ装置として,格納容器ベント用フィルタとして国際的に実績のあるAREVA社のFCVS を選定し,浜岡原子力発電所4 号機で想定される事故事象に対して確実に性能を発揮するよう,裕度をもったシステム設計としている。 主な設計方針を以下に示す。 . 炉心の著しい損傷を防止するため,格納容器内のガスを排気することにより,最終的な熱の逃がし場である大気に熱を輸送し,格納容器内の圧力および温度を低下させることができる設計とする。 . 炉心の著しい損傷が発生した場合において,格納容器の破損を防止するため,格納容器内の水素を含むガスを排気することにより,格納容器内の圧力および温度を低下させるとともに格納容器内での水素爆発を防止することができる設計とする。 . フィルタ装置を通して格納容器内のガスを排気することにより,放射性物質の大気への放出量を低減できる設計とする。 . 他の系統・機器と隔離することで,他への悪影響を防ぐ設計とする。 . ベント弁は,容易かつ確実に開閉操作ができる設計とする。 . 排出経路における水素爆発を防止できる設計とする。 . 長期的にも溶融炉心および水没の悪影響を受けない場所に接続する設計とする。 . 遮蔽等の放射線防護対策により,使用後に高線量となるフィルタ等からの被ばくを低減できる設計とする。 . 基準地震動Ssによる地震力に対して必要な機能が損なわれるおそれがない設計とする。 想定される事故事象での使用条件下において, 確実に操作ができ,性能を発揮できる設計とする。 3.2 フィルタベント設備の設計条件 3.1 の設計方針を踏まえて設定した浜岡原子力発電所4 号機のフィルタベント設備の具体的な設計条件をTable.1 に示す。 Table.1 Design condition of Hamaoka NPP Unit4 FCVS 最高使用圧力 854kPa[gage] (格納容器の最高使用圧力427kPa [gage]の2 倍) 最高使用温度 200℃ 設計流量(蒸気) 13.4kg/s at 427kPa[gage] フィルタ効率 99.9%(粒子状放射性物質に対して) 耐震性能 基準地震動Ss にて機能維持 なお,設計条件に係るフィルタベント設備の使用条件については,2013年(平成25年)7月8日施行の「実用発電用原子炉及びその附属施設の位置,構造及び設備の基準に関する規則の解釈」第37条の規定に基づき実施した浜岡原子力発電所4号機の有効性評価において確認している。 フィルタベント設備の使用(ベント開始)のタイミングは,重大事故等の事象収束シナリオにより異なり,炉心損傷を伴わず事象収束が必要な事故シーケンス「全交流動力電源喪失」を例に挙げると,ベントは,格納容器が最高使用圧力427kPa に到達した時点で実施となる。炉心損傷を伴う格納容器破損モード「雰囲気圧力・温度による静的負荷(格納容器過圧・過温破損)」に対する事象収束シナリオでのベントは,格納容器圧力が最高使用圧力の2倍に達した時点で実施となる。 以下に浜岡原子力発電所4号機の有効性評価結果の例を示す。 - 281 -【格納容器破損防止対策の有効性評価】 (1)想定する格納容器破損モード 雰囲気圧力・温度による静的負荷(格納容器過圧・過温破損) (2)事故の想定および収束の概要 格納容器内へ流出した高温の冷却材や溶融炉心の崩壊熱等の熱によって発生した水蒸気,金属-水反応によって発生した非凝縮性ガスなどの蓄積によって,格納容器内の雰囲気圧力・温度が緩慢に上昇し格納容器が破損する可能性がある。 本格納容器破損モードに対しては,原子炉低圧代替注水系(常設)による原子炉冷却および格納容器代替スプレイ系による格納容器冷却ならびにフィルタベント設備による除熱によって格納容器破損防止を図る。フィルタベント実施に至る事象のフローをFig.2 に示す。 大破断LOCA 全交流電源喪失原子炉スクラムECCS起動失敗ガスタービン発電機起動原子炉低圧代替注水ポンプ起動損傷炉心の冷却成功格納容器スプレイ開始格納容器圧力=641kPa[gage] 格納容器スプレイ間欠運転格納容器圧力(541kPa[gage]~641kPa[gage]) 格納容器スプレイ停止外部注水量3,800m3到達フィルタベント開始格納容器圧力=854kPa[gage] Fig.2 Summary of Event flow (3)格納容器の圧力・温度の推移 フィルタベント設備の使用条件に係る格納容器の圧力と温度の推移をFig.3, 4 に示す。 020040060080010000 12 24 36 48 60 72 84 96 108 120 132 144 156 168 事故後の時間 (h) 格納容器圧力ドライウェルサプレッションチェンバ(kPa[gage]) Fig.3 Containment pressure 01002003000 12 24 36 48 60 72 84 96 108 120 132 144 156 168 事故後の時間 (h) 格納容器温度ドライウェルサプレッションチェンバ(℃) Fig.4 Containment temperature 4.フィルタベント設備の設計仕様 前項で示した設計方針の要求事項を満足するよう,浜岡原子力発電所4 号機において考慮したフィルタベント設備の設計仕様について,以下に記載する。 4.1 フィルタベント設備の基本構成 浜岡原子力発電所4 号機のフィルタベント設備は,原子炉格納容器と不活性ガス系(AC 系)の第一隔離弁までの配管から分岐し,フィルタ装置(ベントフィルタ)を経由し排気筒を通じて環境中に放出するよう設計している。ベントフィルタは新設するベントフィルタ格納槽に設置し,重大事故時の系統機能維持のため浸水対策を実施している。また,フィルタベント設備は,ウェットウェル(W/W) ベントライン及びドライウェル(D/W)ベントラインに,原子炉格納容器内雰囲気ガスを排気するための配管を設置し,各々に電動隔離弁を設ける。隔離弁下流にベントフィルタを設置し,原子炉格納容器雰囲気ガス中の放射性物質を除去した後,排気筒頂部位置から環境中に854kPa[gage] 200℃ 格納容器スプレイ開始 フィルタベントによる圧力低下(約59 時間後) フィルタベントによる圧力低下(約59 時間後) 格納容器スプレイ開始 格納容器圧力に応じた間欠スプレイ 格納容器圧力に応じた間欠スプレイ - 282 -放出する設計としている。隔離弁は電動駆動のほか,万一の場合に備え,遠隔手動操作が可能な設計としている。なお,一連の隔離弁は設計基準事故時には原子炉格納容器圧力バウンダリを形成する隔離弁として機能し,重大事故時には隔離弁を開放することにより格納容器内雰囲気ガスを,フィルタを通じて放出することにより,原子炉格納容器の過圧破損を防止し,環境中への粒子状放射性物質の放出を抑制する設計としている。なお, 格納容器ベントは,W/W ベントを基本とするが, 万一,隔離弁操作不可によりW/W ベントが実施できない,または,W/W ベントライン水没後はD/W ベントが可能な設計としている。 浜岡原子力発電所4 号機のフィルタベント設備系統概略図をFig.5 に示す。 放射線モニタRE 排気筒圧力開放板H2E 原子炉圧力容器接続口二次格納施設ドライウェルサプレッションチェンバAO AO 非常用ガス処理系へ換気空調系へベントフィルタ接続口ベントフィルタ格納槽窒素供給ラインMO MO MO MO MO MO MO MO Fig.5 Outline of FCVS of HAMAOKA NPP Unit4 ・ 水素ガス対策 炉心損傷に伴い,水と燃料被覆材(Zr)等との反応により発生する水素による燃焼,爆轟を防止するため,系統待機時は原子炉格納容器と同様にフィルタベント設備内を窒素により不活性化する設計としている。なお,通常運転時,フィルタベント設備内は,窒素置換により微正圧としており, これを監視することによりフィルタベント設備からの漏えいの有無を監視する設計としている。 ・ 機器環境条件 フィルタベント設備の環境条件は,格納容器ベント実施時のベントガス条件に基づき設定し,機器の環境条件を設定している。圧力については, 格納容器ベント実施操作は,格納容器設計圧力からその2 倍までを運用上想定することから格納容器設計圧力の2 倍とした。また,温度については, 格納容器が加温により過大リークとならない温度条件として200℃を設定した。 ・ 配置設計 ベントフィルタは,原子炉建屋外の岩盤上に地下埋設式の頑健なベントフィルタ格納槽を設けて設置することで,地震,津波及び飛来物の衝突に対して有利な設計としている。このベントフィルタ格納槽は鉄筋コンクリート製であり,ベントフィルタに捕獲した放射性物質からの放射線に対する遮へいも考慮した設計としている。 4.2 機器設計仕様(ベントフィルタ) 浜岡原子力発電所4号機では,規制要件に基づく粒子状放射性物質の除去に加えて,被ばく評価の観点から無機/有機よう素の除去を,ベントフィルタの性能に係る機器仕様要件としている。このために,湿式(スクラバ及び金属繊維フィルタの2 段階)及びよう素フィルタの合計3段階で除去を行うAREVA社のFCVS PLUSを採用した。 ベントフィルタの構成は,第1段ステージとしてベンチュリスクラバ,第2段ステージとして金属繊維フィルタ,第3段ステージとしてよう素フィルタ(モレキュラーシーブ)の3つのセクションから構成されている。ベントフィルタ概略図をFig.6,仕様をTable.2に示す。 ベンチュリノズル金属繊維フィルタよう素フィルタガス入口ノズルガスの流れガス出口ノズルガス出口ノズル Fig.6 Outline of Filtered venting equipment ““This information is technology proprietary to AREVA GmbH““ Copy right@AREVA GmbH - 283 -Table.2 Specification of Filtered venting equipment 名称 ベントフィルタ種類 湿式(スクラバ及び金属繊維フィルタ)+よう素フィルタ効率 粒子状放射性物質:99.9% 無機よう素:99.8% 有機よう素:98% 最高使用圧力854kPa 最高使用温度200℃ 主要寸法直径:約4.7m 全高:約12m 主要材質SUS316L 機器クラス重大事故等クラス2容器 第1段ステージのベンチュリスクラバでは,高速流ベントガスとベンチュリスロート部から流入する液滴との接触によりベントガス中に含まれる大部分のエアロゾルを除去可能である。第2段ステージの金属繊維フィルタでは,ベンチュリスクラバでは除去しきれなかった微小粒径のエアロゾルを除去することを目的に設置している。これにより,ベントガス中に含まれる大部分のエアロゾルはスクラビング水に保持され,金属繊維フィルタでの目詰まりを防止するとともにベンチュリスクラバで除去しきれなかった微小粒径のエアロゾルを捕獲し相互に補完する設計としている。第3段ステージのよう素フィルタ(モレキュラーシーブ) は,放射性よう素除去強化を目的に設置しており,特に,有機よう素は,放出量は少ないが格納容器スプレイ等で除去しにくいことから被ばく影響においては重要な核種となるが,これらをモレキュラーシーブにて吸着し保持することにより, 環境中への放出量をさらに低減するよう設計している。なお,ベントガス中に含まれる無機よう素(元素状よう素)の大部分は,ベントガスとベンチュリスロート部から流入する液滴との気液界面での反応により無機よう素がスクラビング水中に溶存し除去される。よう素除去反応速度の向上及びスクラビング水中に溶解した無機よう素がガス状よう素として再揮発することを抑制するために,チオ硫酸ナトリウム及び水酸化ナトリウムをスクラビング水に添加し,pH をアルカリ側に制御できる設計としている。5.フィルタベント設備の浜岡原子力発電所4 号機への設備状況 5.1 ベントフィルタの製作前項に述べた仕様に基づき,ベントフィルタの製作を行っており,Fig.7 にベントフィルタ鏡板の曲げ加工および熱処理段階の製作状況を示す。現在,(株)東芝 京浜事業所にて胴部と下部鏡板の溶接を行っており,金属繊維フィルタ等の内部構造物について順次組み込んでいく予定である。Fig.7 Ellipsoidal head in the process of manufacturing 5.2 現地工事フィルタベント設備の現地工事は平成 25 年4 月に着工し,ベントフィルタを設置する地下格納槽の工事を進めているところである。 地下格納槽(概略寸法16m×12m,深さ30m)は, 岩盤の上に鉄筋コンクリート製で設置し,基準地震動に対する頑健性やベントフィルタに捕集した放射性物質からの放射線に対する遮へいを考慮した設計としている。 現地工事の状況(2013 年9 月時点および2014 年5 月時点)をFig.8 に示す。Fig.8 Construction on site (left: Sep. 2013, right: May. 2014) 6.結語 浜岡原子力発電所では,2011 年7 月に津波対策を公表して以来,防波壁の嵩上げ等による浸水防水対策の強化やフィルタベント設備の設置をはじめとするシビアアクシデント対策の実施,及び取水槽他の溢水対策の実施など,引き続き対策を積- 284 -み重ねることで安全性をより一層高めております。また,フィルタベント設備については,実際の運用に基づき設計条件を設定することにより,より確実性の高いベントシステムの構築に向けて検討を進め,2015 年9 月末完成に向けて工事を進めております。 当社は引き続き,浜岡原子力発電所の安全性をより一層向上させる取組を着実に進めるとともに, その内容を丁寧にご説明することで,地元をはじめ社会の皆さまの安心につながるよう,全力で取り組んでまいります。 *本論文に掲載の商品の名称は,それぞれ各社が商標として使用している場合があります。 - 285 -
“ “フィルタベント設備の浜岡原子力発電所4号機への適用について “ “井上 博隆,Hirotaka INOUE,細見 憲治,Kenji HOSOMI