EMAT を用いたガイド波送受信機構の解析
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カテゴリ: 第11回
1.諸言
発電・化学プラント内部の配管に対する検査の作 業性の向上のため、配管の長軸方向に瞬時に長距離 伝播可能なガイド波を用いた広域スクリーニング検 査手法が注目されている。現在、ガイド波を用いた探傷試験方法として、圧 電形探触子(横波垂直探触子)を用いた方法や磁わ い形センサを用いた方法が日本非破壊検査協会によ って規定されている[1]。しかし、これらの探触子、 センサには ・接触媒体が必要である。(圧電形探触子) ・送受信するガイド波の伝播モードによってセンサ 形状が大きく異なるため、汎用性が低い。(磁わい 形センサ) といった短所も見られる。そこで、接触媒体が必要ない電磁超音波探触子 (EMAT)に着目し、EMAT を用いたガイド波の送 受信システムをする。ここで、日本非破壊検査 協会によって規定される Lモードと T モードのガイ ド波を送受信の対象とする。また、送受信実験の結果と比較、検証するために、 EMAT を用いた場合の強磁性体配管に対する L モードおよび T モードのガイド波の伝播シミュレーショ ンを行う。その後、本システムを用いたガイド波送 受信実験の結果を検証し、L モード、T モードのガ イド波をEMATにより選択的に送受信可能であるこ とを実証する。
2.EMAT によるガイド波送信の解析
2.1 ガイド波の 3 次元伝播解析 ガイド波伝播シミュレータは円柱座標系のフック の法則(式(1))と運動方程式(式(2))に対して FDTD 法を適用し、構築する。 ここで、
[c ]はスティフネステンソルである。境界は全て自 由境界とし、自由境界条件は式(6)で与えられる。 0nT ? = (6) ただし、nは境界に対する法線ベクトルである。 境界条件の実装には、Ohminato ら[2]の方法を用いる。 EMAT の励起機構の解析によって得られた力を送信 部に入力し、L モード、T モードのガイド波を励起 する。受信点では FDTD 法の解である粒子速度を出 力する。 2.2 EMAT による励起モデル 強磁性体である試験体表面には、Fig.1 のような磁 石構造を持つ EMAT によって、図中の x 方向にロー レンツ力、磁化力、磁わいによる力の合力が磁石直 下の領域に励起されることが、我々の先の研究によ って明らかになっている[3]。 この励起力の向きに着目して、L モード、T モー ドのガイド波を送信可能なEMAT の配置を決定する (Fig. 2)。受信は送信と同様の配置で行うこととす る。 これらの励起力をガイド波の伝播シミュレータの 入力とすることで、EMAT による L モード、T モー ドのガイド波の送受信解析を行う。 Fig.1 Principle of EMAT Fig.2 Principle of transmission of the guided wave using EMATs - 30 - 3.ガイド波送受信システム 3.1 ガイド波送受信システムの構成 ガイド波送受信システムの構成を Fig.3 に示す。パ ルサ・レシーバ(ジャパンプローブ社製、JPR-600C) によって送信用EMATのコイルに交流電流を励起す る。受信用 EMAT で得られた電気信号をプリアンプ (ジャパンプローブ社製、PR-60)によって増幅する。 その後、パルサ・レシーバに入力し、さらに増幅し た後に A/D 変換を行う。また、PC によってパルサ・ レシーバとデジタルフィルタの制御も行う。 Fig. 3 Configuration of the guided wave system using transmit and receiving EMATs 3.2 EMAT の形状 送信用EMATと受信用EMATを配管の円周方向に 各8個、等間隔に設置し同時駆動する。ここで、EMAT に用いるコイルの形状は楕円形とし、1 方向に偏っ た合力を発生させることができるようにする。また、 より強い信号を得るために送信用 EMATのコイルど うしは直列に接続し、受信用 EMAT のコイルどうし は並列に接続する[4]。 送信用EMATに用いるコイルと受信用EMATに用 いるコイルのそれぞれの仕様を Table.1 に示す。 Table.1 Parameter of EMAT coils (a)Transmission EMAT coils Internal diameter [mm] Major 21.0 Minor 1.0 Wire diameter [mm] 0.26 Number of turns 15 (b)Receiving EMAT coils Internal diameter [mm] Major 18.0 Minor 1.0 Wire diameter [mm] 0.18 Number of turns 30 EMAT に用いる永久磁石には、送信用 EMAT、受 信用 EMAT ともに Fig.4 に示すような寸法のサマリ ウムコバルト磁石を用いる。 Fig.4 Shape of permanent magnets 4.実験 4.1 伝播解析の条件 シミュレーションにおけるガイド波の送信位置と 受信位置およびEMATの配置Fig.5 に示す。ここで、 配管試験体は材質 SS400、長さ 1000mm、外径 60.5mm、 内径 49.5mm である。 Fig.5 Experimental setup L モードの場合、送信位置には式(7)を入力し、受 信位置では式(8)を出力とする。T モードの場合、入 力を式(9)、出力を式(10)とする。 ここで、 )(tW はガウス窓関数であり、入力波形 [ F = )2sin()(00 tW π ft ]T (7) uy = x z(8) F = [ 0)2sin()(0 tW π ft ]T uy = x θ(9) (10) - 31 - の周波数 f は 100kHz で波数は 5 である。 4.2 実験の条件 実験におけるガイド波の送受信位置および EMAT の配置はシミュレーションと同様に Fig.5 で示され る位置とし、配管試験体も同じ仕様のものを用いる。 実験の条件を Table.2 に示す。 Table.2 Experimental condition Frequency [kHz] 100 Wave number 5 Voltage [V] 300 Bandpass filter [kHz] H.P.F 70 L.P.F 130 Signal amplification [dB] 80.1 4.3 結果 L モードと T モードのガイド波を送受信した場合 のシミュレーション結果と実験結果をそれぞれ Fig.6 と Fig.7 に示す。また、それぞれの結果の波形 から波束の到達時間を読み取り、Table.3 と Table.4 に示す。ここで、L モードは初めから 4 つ目までの 波束、T モードの場合は初めから 3 つ目までの波束 の到達時間のみを示すことにする。 (a)Simulation result (b)Experimental result Fig.6 L-mode Table.3 Time of flight of L-mode guided wave Number 1 2 3 4 Simulation [uS] 90.0 185.2 289.8 355.2 Experiment [uS] × 184.6 288.4 368.0 表中の”×”は、不感帯のため到達時間の読み取りが 出来なかったことを表す。 (a)Simulation result (b)Experimental result Fig.7 T-mode Table.4 Time of flight of T-mode guided wave Number 1 2 3 Simulation [uS] 153.6 312.3 468.8 Experiment [uS] 153.6 308.2 465.4 Fig.8 Propagation of guided wave 本実験の条件により発生するガイド波の音速は、 L(0,1)モード 2822.2m/s、L(0,2)モード 5272.5m/s、 T(0,1)モード 3166m/s であるので、本実験で発生する ガイド波もこれらのモードのガイド波であると考え られる。また、Fig.8 より本実験においては送信用 - 32 - EMAT から両側に送信されたガイド波が管端で反射 し、受信位置で重なることが分かる。Fig.6 と Fig.7 を見ると、確かに合成波の到達時間に見られる波束 の振幅が大きくなっていることが確認できるので、 本システムによりガイド波が正しく送信され伝播し 受信されているといえる。 5.結言 EMAT を用いたガイド波の送受信システムを構築 した。EMAT による励起力の解析結果をもとに任意 の伝播モードを送受信できるEMATの配置を決定し た。決定した EMAT の配置による励起力をガイド波 伝播シミュレータの入力とし L モード、T モードガ イド波の伝播解析を行い、実験結果を比較すること で、構築したシステムによって送受信した任意の各 モードのガイド波を送受信できていることを実証し た。 実際に、減肉などの欠陥を持つ配管に対するガイ ド波の送受信を行い、探傷試験への実用性を検証す ることが今後の課題である。 参考文献 [1]社団法人 日本非破壊検査協会,”ガイド波を用い たパルス反射法による配管の探傷試験方法通則”, NDIS 2427 [2] T. Ohminato and Bernard A. Chouet, “A Free-Surface Boundary Condition for Including 3D Topography in the Finite-Difference Method”, Bulletin of the Seismological Society of America, vol.87, no.2, 1997, pp.494-515. [3]Fumio Kojima and Takafumi Ito, “Numerical Simulation of Ultrasonic Source Mechanism for EMAT based NDE System Studies in Applied Electromagnetics and Mechanics”, IOS Press, Amsterdam (to be submitted) [4]村山理一,今井健介,園田尚人,小林牧子、”偏波 横波型電磁超音波探触子を利用したパイプ-ガイ ド波送受信システムの開発とガイド波の特性評 価”,第 22 回 MAGDA コンファレンス予稿集,宮 崎,2013,pp.385-390.“ “EMAT を用いたガイド波送受信機構の解析 “ “古澤 彰憲,Akinori FURUSAWA,森川 惇,Atsushi MORIKAWA,小島 史男,Fumio KOJIMA
発電・化学プラント内部の配管に対する検査の作 業性の向上のため、配管の長軸方向に瞬時に長距離 伝播可能なガイド波を用いた広域スクリーニング検 査手法が注目されている。現在、ガイド波を用いた探傷試験方法として、圧 電形探触子(横波垂直探触子)を用いた方法や磁わ い形センサを用いた方法が日本非破壊検査協会によ って規定されている[1]。しかし、これらの探触子、 センサには ・接触媒体が必要である。(圧電形探触子) ・送受信するガイド波の伝播モードによってセンサ 形状が大きく異なるため、汎用性が低い。(磁わい 形センサ) といった短所も見られる。そこで、接触媒体が必要ない電磁超音波探触子 (EMAT)に着目し、EMAT を用いたガイド波の送 受信システムをする。ここで、日本非破壊検査 協会によって規定される Lモードと T モードのガイ ド波を送受信の対象とする。また、送受信実験の結果と比較、検証するために、 EMAT を用いた場合の強磁性体配管に対する L モードおよび T モードのガイド波の伝播シミュレーショ ンを行う。その後、本システムを用いたガイド波送 受信実験の結果を検証し、L モード、T モードのガ イド波をEMATにより選択的に送受信可能であるこ とを実証する。
2.EMAT によるガイド波送信の解析
2.1 ガイド波の 3 次元伝播解析 ガイド波伝播シミュレータは円柱座標系のフック の法則(式(1))と運動方程式(式(2))に対して FDTD 法を適用し、構築する。 ここで、
[c ]はスティフネステンソルである。境界は全て自 由境界とし、自由境界条件は式(6)で与えられる。 0nT ? = (6) ただし、nは境界に対する法線ベクトルである。 境界条件の実装には、Ohminato ら[2]の方法を用いる。 EMAT の励起機構の解析によって得られた力を送信 部に入力し、L モード、T モードのガイド波を励起 する。受信点では FDTD 法の解である粒子速度を出 力する。 2.2 EMAT による励起モデル 強磁性体である試験体表面には、Fig.1 のような磁 石構造を持つ EMAT によって、図中の x 方向にロー レンツ力、磁化力、磁わいによる力の合力が磁石直 下の領域に励起されることが、我々の先の研究によ って明らかになっている[3]。 この励起力の向きに着目して、L モード、T モー ドのガイド波を送信可能なEMAT の配置を決定する (Fig. 2)。受信は送信と同様の配置で行うこととす る。 これらの励起力をガイド波の伝播シミュレータの 入力とすることで、EMAT による L モード、T モー ドのガイド波の送受信解析を行う。 Fig.1 Principle of EMAT Fig.2 Principle of transmission of the guided wave using EMATs - 30 - 3.ガイド波送受信システム 3.1 ガイド波送受信システムの構成 ガイド波送受信システムの構成を Fig.3 に示す。パ ルサ・レシーバ(ジャパンプローブ社製、JPR-600C) によって送信用EMATのコイルに交流電流を励起す る。受信用 EMAT で得られた電気信号をプリアンプ (ジャパンプローブ社製、PR-60)によって増幅する。 その後、パルサ・レシーバに入力し、さらに増幅し た後に A/D 変換を行う。また、PC によってパルサ・ レシーバとデジタルフィルタの制御も行う。 Fig. 3 Configuration of the guided wave system using transmit and receiving EMATs 3.2 EMAT の形状 送信用EMATと受信用EMATを配管の円周方向に 各8個、等間隔に設置し同時駆動する。ここで、EMAT に用いるコイルの形状は楕円形とし、1 方向に偏っ た合力を発生させることができるようにする。また、 より強い信号を得るために送信用 EMATのコイルど うしは直列に接続し、受信用 EMAT のコイルどうし は並列に接続する[4]。 送信用EMATに用いるコイルと受信用EMATに用 いるコイルのそれぞれの仕様を Table.1 に示す。 Table.1 Parameter of EMAT coils (a)Transmission EMAT coils Internal diameter [mm] Major 21.0 Minor 1.0 Wire diameter [mm] 0.26 Number of turns 15 (b)Receiving EMAT coils Internal diameter [mm] Major 18.0 Minor 1.0 Wire diameter [mm] 0.18 Number of turns 30 EMAT に用いる永久磁石には、送信用 EMAT、受 信用 EMAT ともに Fig.4 に示すような寸法のサマリ ウムコバルト磁石を用いる。 Fig.4 Shape of permanent magnets 4.実験 4.1 伝播解析の条件 シミュレーションにおけるガイド波の送信位置と 受信位置およびEMATの配置Fig.5 に示す。ここで、 配管試験体は材質 SS400、長さ 1000mm、外径 60.5mm、 内径 49.5mm である。 Fig.5 Experimental setup L モードの場合、送信位置には式(7)を入力し、受 信位置では式(8)を出力とする。T モードの場合、入 力を式(9)、出力を式(10)とする。 ここで、 )(tW はガウス窓関数であり、入力波形 [ F = )2sin()(00 tW π ft ]T (7) uy = x z(8) F = [ 0)2sin()(0 tW π ft ]T uy = x θ(9) (10) - 31 - の周波数 f は 100kHz で波数は 5 である。 4.2 実験の条件 実験におけるガイド波の送受信位置および EMAT の配置はシミュレーションと同様に Fig.5 で示され る位置とし、配管試験体も同じ仕様のものを用いる。 実験の条件を Table.2 に示す。 Table.2 Experimental condition Frequency [kHz] 100 Wave number 5 Voltage [V] 300 Bandpass filter [kHz] H.P.F 70 L.P.F 130 Signal amplification [dB] 80.1 4.3 結果 L モードと T モードのガイド波を送受信した場合 のシミュレーション結果と実験結果をそれぞれ Fig.6 と Fig.7 に示す。また、それぞれの結果の波形 から波束の到達時間を読み取り、Table.3 と Table.4 に示す。ここで、L モードは初めから 4 つ目までの 波束、T モードの場合は初めから 3 つ目までの波束 の到達時間のみを示すことにする。 (a)Simulation result (b)Experimental result Fig.6 L-mode Table.3 Time of flight of L-mode guided wave Number 1 2 3 4 Simulation [uS] 90.0 185.2 289.8 355.2 Experiment [uS] × 184.6 288.4 368.0 表中の”×”は、不感帯のため到達時間の読み取りが 出来なかったことを表す。 (a)Simulation result (b)Experimental result Fig.7 T-mode Table.4 Time of flight of T-mode guided wave Number 1 2 3 Simulation [uS] 153.6 312.3 468.8 Experiment [uS] 153.6 308.2 465.4 Fig.8 Propagation of guided wave 本実験の条件により発生するガイド波の音速は、 L(0,1)モード 2822.2m/s、L(0,2)モード 5272.5m/s、 T(0,1)モード 3166m/s であるので、本実験で発生する ガイド波もこれらのモードのガイド波であると考え られる。また、Fig.8 より本実験においては送信用 - 32 - EMAT から両側に送信されたガイド波が管端で反射 し、受信位置で重なることが分かる。Fig.6 と Fig.7 を見ると、確かに合成波の到達時間に見られる波束 の振幅が大きくなっていることが確認できるので、 本システムによりガイド波が正しく送信され伝播し 受信されているといえる。 5.結言 EMAT を用いたガイド波の送受信システムを構築 した。EMAT による励起力の解析結果をもとに任意 の伝播モードを送受信できるEMATの配置を決定し た。決定した EMAT の配置による励起力をガイド波 伝播シミュレータの入力とし L モード、T モードガ イド波の伝播解析を行い、実験結果を比較すること で、構築したシステムによって送受信した任意の各 モードのガイド波を送受信できていることを実証し た。 実際に、減肉などの欠陥を持つ配管に対するガイ ド波の送受信を行い、探傷試験への実用性を検証す ることが今後の課題である。 参考文献 [1]社団法人 日本非破壊検査協会,”ガイド波を用い たパルス反射法による配管の探傷試験方法通則”, NDIS 2427 [2] T. Ohminato and Bernard A. Chouet, “A Free-Surface Boundary Condition for Including 3D Topography in the Finite-Difference Method”, Bulletin of the Seismological Society of America, vol.87, no.2, 1997, pp.494-515. [3]Fumio Kojima and Takafumi Ito, “Numerical Simulation of Ultrasonic Source Mechanism for EMAT based NDE System Studies in Applied Electromagnetics and Mechanics”, IOS Press, Amsterdam (to be submitted) [4]村山理一,今井健介,園田尚人,小林牧子、”偏波 横波型電磁超音波探触子を利用したパイプ-ガイ ド波送受信システムの開発とガイド波の特性評 価”,第 22 回 MAGDA コンファレンス予稿集,宮 崎,2013,pp.385-390.“ “EMAT を用いたガイド波送受信機構の解析 “ “古澤 彰憲,Akinori FURUSAWA,森川 惇,Atsushi MORIKAWA,小島 史男,Fumio KOJIMA