ふげん SCC 対策技術とその有効性確認調査について

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カテゴリ: 第11回
1.緒言
「新型転換炉ふげん発電所(以下、「ふげん」)」では、 建設当初、配管はすべてSUS304製を用いていたが、1980 年に余熱除去系配管溶接部近傍にSCCが発見されたため、 ただちに対策が打たれた。ひとつはSUS316Lへの材料取 替である。交換した配管長は1100m、溶接個所は約1000 か所にも上った。ただし、溶接作業を行うことが困難な 狭隘箇所については SUS304 のままとし、その代わりに 溶接部付近を高周波加熱することなどによる残留応力改 善技術[1]が適用された。図1にこれらの対策箇所を示す。 また、細管については材料取替、高周波加熱工事ともに 困難であったのでそのままとされ、環境因子の改善を目 的として循環水中酸素ポテンシャル低減のための水素注 入が実施された[2]。水素注入は運転期間を通じて継続された。その後はSCC 等によるクラック発生ラブル を被ることなく運転期間を全うした。現在、廃止措置段階となっている「ふげん」を対象に して、実機環境下で長期運転環境にさらされた実機材の SCC 発生状況を詳細に検討することにより、前述の「ふ げん」でのSCC対策の有効性を確認することを研究の目 的とした。
Fig.1 Material replacement at FUGEN
2. SCC 調査結果 2.1 調査方法
溶接箇所数は膨大でありすべてを調査することは不可 能である。このため運転条件及び適用されたSCC対策技 術からみて特徴があり、またSCC発生の可能性の高い再 循環系配管の溶接部で詳細な調査を実施した。図 1 に分 析した溶接箇所のサンプル番号1から3を示し、表1に 溶接箇所の詳細を示す。これらサンプルは275~285°C、7 気圧の高温高圧水と接しており、使用時間は6 万から13 万時間であった。 Table1 Details of welding サンプル1の採取箇所は図1の A ループ吐出管で配管 材料を SUS316L に交換した通常溶接箇所、サンプル2 はBループ下降管でSUS304の配管溶接部に高周波誘導 加熱(IHSI)を行った箇所、そしてサンプル3はBループ下 降管で溶接上流部を SUS316L に交換した水冷溶接箇所 とし、これらの調査を実施した。 2.2 浸透探傷検査 サンプル1から3を実機から採取したのち、浸透探傷検 査を行った結果を図 2 に示す。溶接部及び溶接部近傍に はクラックの発生がないことが確認できた。 さらに、図1に示す再循環系Aループの全溶接76か所 に対しても SUS316L/SUS316L 溶接 33 か所で浸透探傷 検査を行った結果、クラックの発生がないことを確認で きた。Fig.2 Results of penetrant test 2.3 残留応力測定 次に、歪ゲージ法により配管内外綿の残留応力を測定 した。サンプル1~3の内表面軸方向測定結果を図 3 に 示す。配管の周方向に 4 方位(0,90,180,270r)の測定 を行った。通常溶接のサンプル1では最大400MPa にの ぼる高い引張残留応力が確認された。一方、IHSI を行っ たサンプル2では、長期の運転後(108000hr)でも内表 面は圧縮残留応力となっていることが確認された。さら に、水冷溶接を行ったサンプル3では、長期の運転後 (69500hr)でも内表面軸方向における引張残留応力は 200MPa 程度に低減され、長期運転後も有効に機能して いることが確認できた。 サン外径 プル部位 番号 Fig.3 Residual stresses of welding measured at the primary cooling system of the “FUGEN” power station SCC 対策 素材 上段:上流 下段:下流 (mm) (呼び径) 環境条件 温度 (°C) 1 Aループ 吐出管 使用時間 (hr) SUS316L SUS316L 406.4 (16B) 275 SUS304 IHSI前 27540 SUS304 IHSI後 108720 3 Bループ 下降管 通常溶接 (材料取替) 998202 Bループ 下降管 IHSI 355.6 (14B) 285 水冷溶接 SUS316L (材料取替) SUS304 355.6 (14B) 66760 285 136260- 294 - 2.4 材料評価試験 得られたサンプルをより詳細に検討するため、金属組 織、鋭敏化度及び機械的特性(硬さ測定)を評価した。 初めに、サンプル1~3の配管溶接部における金属組 織を図4に示す。いずれも、溶接部近傍の断面マクロ組 織は溶接条件に応じた健全な組織であり、SCC 等のき裂 は認められなかった。 Fig.4 Microscope view of welding cross sections 次に、溶接部近傍及び母材の鋭敏化度を検討した。採取 したサンプルを樹脂包埋後、鏡面研磨した。溶接熱影響 部(以下、HAZと略す)及び母材に対しJIS G 0571 に準 拠した10%しゅう酸エッチング試験を行った。サンプル 1~3の配管溶接部下流におけるHAZ部及び母材の鋭敏 化試験結果を図5に示す。SUS316L は SUS304 に比べ 鋭敏化は少ない傾向を示した。図中で SUS316L は段状 組織であったが、一部の SUS304 の HAZ 部で溝状組織 が認められた。特に、水冷溶接を行ったサンプル3のHAZ 部で溝状組織が認められた。 Fig.5 Photos of etched welds 溶接 HAZ部 金属部 接液面 加工層 Fig.6 Crystal orientation of Heat affected zone SCC クラック発生の起点となることが疑われる配管 内面のHAZ部で結晶方位を解析するためEBSD(後方散 乱電子回折)分析を行った。鋭敏化が認められたサンプ ル3の下流側(SUS304)を図 6 に示す。断面方向にク ラック等の欠陥がないことが確認できた。一方、溶接金 属部から約1mm離れたHAZ部の接液面では微細な加工 層が認められた。加工層の詳細な分析を行った結果を図7 に示す。加工層には双晶及び2μm未満の粒界腐食は認め られたが、SCC に進展する兆候は認められなかった。 300μm Fig.7 Crystal orientation of the work hardened layer - 295 - 次に、溶接部の機械特性を調査するため、内表面近傍 (内表面から0.5mm)で溶接部中央から硬さ測定を行っ た結果を図 8 に示す。断面硬さは溶接部から 1~5mm離 れた熱影響部で最も高く、230~260 前後であり、300 を 超える著しい硬化部は認められず、溶接部材料が健全で あることを確認した。溶接部中央から30mm程度離れる と硬さはほぼ母材と同等となった。また、サンプル3の 下流側(SUS304)では、溶接中心から 10mm離れた箇 所でも硬さが 210 を超えており、鋭敏化が認められた領 域だが(図5)、溶接部の断面観察(図4及び図7)より 異状は認められなかった。以上のように、これまでSCC が報告されてきたSUS304[3]のHAZ部でもSCC対策を 実施した「ふげん」実機材ではSCCが認められなかった。 Fig.8 Hardness profiles in the cross section of welds 2.5 まとめ 以上のように「ふげん」実機材を用いて詳細な分析を 行った結果、SCCは認められず、「ふげん」SCC 対策の 有効性を確認することが出来た。特に、約25 年間(総発 電時間約 137,000 時間)稼働した原子炉の実機材料につ いてこのような詳細な調査を実施したのは国内では初め てのことであり、貴重なデータを蓄積できたものと考え られる。特に、10 万時間を超えた実機材溶接部で残留応 力低減対策が有効に機能していることが確認できた。し かし、調査結果の中で未解明の点もある。「ふげん」SCC 対策はSCC の3 因子(材質、応力、環境)に対する対策 を重畳して実施したため、対策ごとの有効性を定量評価 することが難しい。これらの切り分けについては、さら なる検討を要する課題であり、解明されればステンレス 鋼の SCC に対し理解が格段に進むことが期待できると 考えている。 謝辞本研究は、(独)原子力安全基盤機構より平成 23 年度か ら25年度に受託した「福井県における高経年化調査研究」 として実施された。 - 296 - 参考文献 [1] 坂田信二、榎本邦夫、清水翼、佐川渉、“サーマル スリーブ付ノズルの高周波加熱応力改善法の開発”、 溶接学会論文集サイクル機構技報、 Vol.6,No1、1988、 pp.64-70. [2] 高城久承、森田聡、直井洋介、北端琢也、 “水化学 管理技術の確立”、サイクル機構技報、 Vol.6,No20、 2003、 pp.95-120. [3] 明石正恒、見城孝雄、松倉伸治、川本輝明、“高温純 水中における鋭敏化 304 ステンレス鋼の粒界応力腐 食割れ寿命の確率分布”、防食技術、33、(1984)、p p628-634“ “ふげん SCC 対策技術とその有効性確認調査について “ “湯浅 豊隆,Toyotaka YUASA,阿部 輝宜,Teruyoshi ABE,中村 孝久,Takahisa NAKAMURA,明珍 宗孝,Munetaka MYOCHIN,高城 久承,Hisatsugu TAKAGI
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