志賀原子力発電所 1 号機 高周波誘導加熱による配管応力改善工事について
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カテゴリ: 第11回
1.緒言
平成14 年頃より,国内のBWR 原子力発電所におい て低炭素ステンレス鋼で製作された原子炉再循環系のおよびノズル部(以下,PLR 配管等という)に応 力腐食割れ(以下,SCC という)が確認されている。弊社志賀原子力発電所 1 号機では,平成 25 年度か ら26 年度にかけて,この事象の対策として有効な「高 周波誘導加熱による応力改善処理(以下,IHSI とい う)」をPLR 配管施しており,本稿ではその原理, 実施内容について紹介する。
2. IHSI原理
SCC は,材料,応力,環境の3 つの要素が重畳した 場合に発生する事象であり,この3 要素のうち1 つを 改善することで発生を防止することができる。IHSIは 応力の要素について改善するものである。 IHSIの原理は,対象の配管溶接部に対して配管内面 を水流で冷却しつつ,外面に設置した高周波誘導加熱 コイルにより加熱し,配管の肉厚方向に温度勾配を形 成させる。この温度勾配によって塑性ひずみを生じさ せ,加熱停止後は配管内面側に圧縮応力を発生させる。 この作用により,配管内面側の残留引張応力を低減ま たは圧縮側にすることで応力の要素を改善する方法で ある(図1)。 図1 IHSI原理概要 3.IHSI実施内容 3.1 実施フロー IHSIの手順は,日本原子力技術協会「予防保全工法 ガイドライン[外面からの入熱による応力改善方法]」 連絡先::根上 浜町ニ13-21,北陸電力, 司,〒925-0141石川県羽咋郡志賀町高 及び日本機械学会「発電用原子力設備規格 等を参考に以下のとおり実施した。 維持規格」 E-mail:tsukasa.negami@rikuden.co.jp - 297 - 加熱に際しては,内外面の温度差が大きいほど塑性 溶接施工法の確認 加熱コイル,熱電対取外し ↓ ↓ 施工前 超音波探傷検査(UT) 浸透探傷検査(PT) ↓ ↓ ひずみの発生による残留応力の低減効果が大きくなる ことから,最高加熱温度に近い値を目標として加熱を 加熱コイル,熱電対取付け 施工後 超音波探傷検査(UT) 実施した。 ↓ ↓ また,各部を一様に加熱することが可能であること 加熱処理 耐圧検査 を確認するため,加熱コイルおよび熱電対取付後に, 図2 IHIS実施フロー 配管の最高使用温度(約 300°C)以下の範囲で加熱を 3.2 基本支配因子 行い,温度上昇傾向を確認して必要であればコイル位 過去の粒界型 SCC に関する試験において,同 SCC 置の調整を実施した。これにより,規定温度による加 は使用温度における耐力と同程度かこれより高い応力 熱作業のやり直しはなく完了することができた。 で発生が確認されており,残留引張応力が 100MPa 以 熱影響部の温度差を管理するため,前述の施工条件 下まで低減できれば SCC 発生抑制効果が期待できる のほか,冷却水流量,水温,加振周波数を確認してお と考えられている[1]。 り,SCC 発生抑制効果を得ることができる条件で行わ また,これまでに行われたIHSIの有効性を確認した れていることを確認している。 確性試験により,効果に影響を及ぼす施工条件である 基本支配因子として規定された材料,コイル幅,加熱 時間,熱影響部での温度差,溶接線の位置,最高加熱 温度について,要求値を満足する範囲でIHSIを施工し た場合には,配管内面の残留引張応力が 100MPa 以下 となることが確認されている。弊社ではこの試験にお いて有効性が確認された基本支配因子を満足するよう 施工した。表1 に配管の基本支配因子を記載する。 表1 配管の基本支配因子 項 目 内 容 材料 P-8に区分されえる母材で,低炭素オース テナイトステンレス鋼,及びステンレス 鋳鋼に限る。(炭素含有量 0.030%以下の もの。) コイル幅(mm) RtL ? 7.2 加熱時間(sec) aτ/t2≧0.7 熱影響部での 温度差(°C) ? T ? 14 ( υ- E α) σ y 溶接線の位置(mm) 板幅の半分若しくは 15 mmの大きい方以 下コイル端の内側 最高加熱温度 650°C以下 L:コイル幅,R:管の平均半径(mm),t:管の厚さ(mm) a:熱拡散率(mm2/sec),τ:加熱時間,ΔT:管内外面の温度差, ν:ポアソン比,E:縦弾性係数(N/mm2),α:線膨張係数mm/mm°C), σy:母材の降伏応力(ミルシートにおける値) 3.3 施工管理 加熱を行う溶接継手の温度管理のため,熱電対を配 管部で10 点,ノズル部では12 点取り付けた。配管部 の一例として,溶接線を中心として左右に90 度ピッチ で4 点,更にコイル位置等より最高温度となる2 箇所 の計10 点を設置している。 図4 IHSI実施結果(口径550A配管部の一例) 4.結言 志賀1号機については,PLR 配管等で実施したIHSI は耐圧検査以外の手順を完了した。また,加熱処理で は施工条件を満足しており,施工後のPT,UTでも異 常がないことを確認した。 参考文献 [1] JANTIガイドライン「予防保全工法ガイドライン[外 面からの入熱による応力改善方法](JANTI-VIP-02)」 付録1. - 298 - 加熱実績時間:343秒 図3 熱電対設置位置(配管部の一例) 最大加熱温度:650°C以下 最小加熱時間:249秒以上“ “志賀原子力発電所 1 号機 高周波誘導加熱による配管応力改善工事について “ “倉田 勝,Masaru KURATA,森本 英光,Hidemitsu MORIMOTO,座主 正貴,Masaki ZASU,根上 司,Tsukasa NEGAMI
平成14 年頃より,国内のBWR 原子力発電所におい て低炭素ステンレス鋼で製作された原子炉再循環系のおよびノズル部(以下,PLR 配管等という)に応 力腐食割れ(以下,SCC という)が確認されている。弊社志賀原子力発電所 1 号機では,平成 25 年度か ら26 年度にかけて,この事象の対策として有効な「高 周波誘導加熱による応力改善処理(以下,IHSI とい う)」をPLR 配管施しており,本稿ではその原理, 実施内容について紹介する。
2. IHSI原理
SCC は,材料,応力,環境の3 つの要素が重畳した 場合に発生する事象であり,この3 要素のうち1 つを 改善することで発生を防止することができる。IHSIは 応力の要素について改善するものである。 IHSIの原理は,対象の配管溶接部に対して配管内面 を水流で冷却しつつ,外面に設置した高周波誘導加熱 コイルにより加熱し,配管の肉厚方向に温度勾配を形 成させる。この温度勾配によって塑性ひずみを生じさ せ,加熱停止後は配管内面側に圧縮応力を発生させる。 この作用により,配管内面側の残留引張応力を低減ま たは圧縮側にすることで応力の要素を改善する方法で ある(図1)。 図1 IHSI原理概要 3.IHSI実施内容 3.1 実施フロー IHSIの手順は,日本原子力技術協会「予防保全工法 ガイドライン[外面からの入熱による応力改善方法]」 連絡先::根上 浜町ニ13-21,北陸電力, 司,〒925-0141石川県羽咋郡志賀町高 及び日本機械学会「発電用原子力設備規格 等を参考に以下のとおり実施した。 維持規格」 E-mail:tsukasa.negami@rikuden.co.jp - 297 - 加熱に際しては,内外面の温度差が大きいほど塑性 溶接施工法の確認 加熱コイル,熱電対取外し ↓ ↓ 施工前 超音波探傷検査(UT) 浸透探傷検査(PT) ↓ ↓ ひずみの発生による残留応力の低減効果が大きくなる ことから,最高加熱温度に近い値を目標として加熱を 加熱コイル,熱電対取付け 施工後 超音波探傷検査(UT) 実施した。 ↓ ↓ また,各部を一様に加熱することが可能であること 加熱処理 耐圧検査 を確認するため,加熱コイルおよび熱電対取付後に, 図2 IHIS実施フロー 配管の最高使用温度(約 300°C)以下の範囲で加熱を 3.2 基本支配因子 行い,温度上昇傾向を確認して必要であればコイル位 過去の粒界型 SCC に関する試験において,同 SCC 置の調整を実施した。これにより,規定温度による加 は使用温度における耐力と同程度かこれより高い応力 熱作業のやり直しはなく完了することができた。 で発生が確認されており,残留引張応力が 100MPa 以 熱影響部の温度差を管理するため,前述の施工条件 下まで低減できれば SCC 発生抑制効果が期待できる のほか,冷却水流量,水温,加振周波数を確認してお と考えられている[1]。 り,SCC 発生抑制効果を得ることができる条件で行わ また,これまでに行われたIHSIの有効性を確認した れていることを確認している。 確性試験により,効果に影響を及ぼす施工条件である 基本支配因子として規定された材料,コイル幅,加熱 時間,熱影響部での温度差,溶接線の位置,最高加熱 温度について,要求値を満足する範囲でIHSIを施工し た場合には,配管内面の残留引張応力が 100MPa 以下 となることが確認されている。弊社ではこの試験にお いて有効性が確認された基本支配因子を満足するよう 施工した。表1 に配管の基本支配因子を記載する。 表1 配管の基本支配因子 項 目 内 容 材料 P-8に区分されえる母材で,低炭素オース テナイトステンレス鋼,及びステンレス 鋳鋼に限る。(炭素含有量 0.030%以下の もの。) コイル幅(mm) RtL ? 7.2 加熱時間(sec) aτ/t2≧0.7 熱影響部での 温度差(°C) ? T ? 14 ( υ- E α) σ y 溶接線の位置(mm) 板幅の半分若しくは 15 mmの大きい方以 下コイル端の内側 最高加熱温度 650°C以下 L:コイル幅,R:管の平均半径(mm),t:管の厚さ(mm) a:熱拡散率(mm2/sec),τ:加熱時間,ΔT:管内外面の温度差, ν:ポアソン比,E:縦弾性係数(N/mm2),α:線膨張係数mm/mm°C), σy:母材の降伏応力(ミルシートにおける値) 3.3 施工管理 加熱を行う溶接継手の温度管理のため,熱電対を配 管部で10 点,ノズル部では12 点取り付けた。配管部 の一例として,溶接線を中心として左右に90 度ピッチ で4 点,更にコイル位置等より最高温度となる2 箇所 の計10 点を設置している。 図4 IHSI実施結果(口径550A配管部の一例) 4.結言 志賀1号機については,PLR 配管等で実施したIHSI は耐圧検査以外の手順を完了した。また,加熱処理で は施工条件を満足しており,施工後のPT,UTでも異 常がないことを確認した。 参考文献 [1] JANTIガイドライン「予防保全工法ガイドライン[外 面からの入熱による応力改善方法](JANTI-VIP-02)」 付録1. - 298 - 加熱実績時間:343秒 図3 熱電対設置位置(配管部の一例) 最大加熱温度:650°C以下 最小加熱時間:249秒以上“ “志賀原子力発電所 1 号機 高周波誘導加熱による配管応力改善工事について “ “倉田 勝,Masaru KURATA,森本 英光,Hidemitsu MORIMOTO,座主 正貴,Masaki ZASU,根上 司,Tsukasa NEGAMI