バッフルフォーマボルトの保全技術向上に向けた取り組み

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カテゴリ: 第11回
1.緒言
加圧水型原子力発電所(PWR)の炉内構造物にあるバ ッフルフォーマボルト(BFB)は、Fig.1 に示すようにバ ッフル板とフォーマ板を固定する呼び径約 16mm のオー ステナイトステンレス鋼製のボルトである。BFB は燃料 集合体と隣り合う位置にあることから高い中性子照射を 受け、またボルト首下の応力集中部に高応力が生じるた め、照射誘起型応力腐食割れ(IASCC)発生の可能性が 高い部位である。海外では1988年のフランスBugey 2 号 機等、BFBのIASCC による割れが報告されている。BFB は1 プラント当り約600~1,100 本存在しており、数本の ボルトが損傷しても直ちに機能上問題とならないため、 国内では BFB の IASCC に対して、適切かつ合理的に保 全するための方針を示すものとして、平成 12 年 12 月に 火力原子力発電技術協会から「炉内構造物点検評価ガイ ドライン」が発行され、運用されてきた。第 1 版の発行以降、JNES 事業によりIASCC の試験デ ータが拡充されており、さらにBFBの応力評価手法の精 緻化等、新しい知見や手法を取り入れて、今回ガイドラ インの見直しが図られ、原子力安全推進協会からガイド ライン第 2 版が発行された。ここでは、このガイドライ ンの見直しにおける、BFB の保全技術向上に向けた取り 組みについて紹介する。 Fig.1 Core Internal and BFBs
BFB Core barrel
2.ガイドライン第1 版の概要
ガイドラインはBFBに要求される機能が維持できるよ う合理的な点検・評価の方法を示している。ガイドライ ンに基づいたBFBの点検・評価のフローをFig.2に示す。 Fig.2 Flow of inspection and evaluation BFB の応力は照射効果により運転時間と共に複雑に変 動すると考えられており、FEM解析で応力履歴を算出し、 これと IASCC 発生条件を基に IASCC が発生する時間を 予測している。IASCC 損傷評価の結果、損傷本数が全数 の 20%と評価される時期に初回点検を実施する。また、 点検を実施した結果、BFBの損傷本数が全数の20%未満 であれば、次回点検時期を設定して運転を継続できるが、 損傷本数が全数の 20%以上であれば、ボルト取替等の是 正処置を求めている。 3.ガイドライン第2 版での見直し内容 第1版が発行されて約13年が経過し、新しい知見や手 法が確立しており、今回これらを取り込んだ改訂案が検 討され、ガイドライン検討会で審議を受けた。BFB 保全 ルール策定の構成を Fig.3 に示す。IASCC の知見と BFB の応力評価結果を基に、BFBにIASCCが発生する時間を 求め、これとBFBの許容損傷本数を基に保全策を策定し ている。Fig.3 の3.1~3.5 の項目を経て保全方針が策定さ れており、今回各項目で見直しを行っている。それぞれ の内容を以降に示す。 Criteria on the number Planning of first inspection based on IASCC evaluation of failed BFB (Section 3.4) ※ First inspection Next inspection Corrective action Planning of next inspection 出典:独立行政法人 原子力安全基盤機構 平成20年度 照射誘起型応力腐食割れ(IASCC)評価技術に 関する報告書 - 300 - Fig.3 Flow of the making maintenance plan (Result of inspection) Yes The number of failure BFBs is over 20% of all BFBs ? 3.1 IASCC 知見(IASCC data) 平成 12~20 年度に JNES「照射誘起型応力腐食割れ (IASCC)評価技術」事業にて、最大約 70dpa の照射材 No を用いた定荷重 SCC 試験が行われており、その結果を ※ Fig.4 に示す。ここでは、30dpa 以上の高照射域では比較 的低応力でも損傷する試験結果が得られている。また、 割れが発生する可能性のある領域が照射量と応力で整理 ※ Preventive maintenance may be applied before the inspection されており、ガイドライン第2 版ではこれを基にIASCC 損傷評価を実施することとしている。 Fig.4 IASCC threshold curve 3.2 BFBの応力評価(Stress analysis of BFB) 計算機の発達に伴い、BFB の応力評価手法をより高精 度で評価できるようになった。Fig.5に示す3 次元ソリッ ドモデルを用い、中性子照射によるスウェリングや照射 下クリープの効果をサブルーチンとして組込むことで熱 変形と同時にバッフル構造の照射変形の影響も考慮した FEM 構造変形解析を実施している。また、バッフル構造 全体のグローバルモデル、ボルト周辺のみのローカルモ デルの 2 つを用いてデータを受け渡すことによって、精 Failure prediction of BFB (Section 3.3) IASCC data (Section 3.1) Maintenance plan (Section 3.5) Stress analysis of BFB (Section 3.2) 緻に応力を算出するズーミング手法を採用している。デ ータ受け渡しのイメージをFig.6 に示す。ボルト周辺のみ の詳細モデルでは弾塑性解析を行い、照射による応力ひ ずみ線図の変化や塑性域も考慮したものとなっている。 Fig.5 Stress analysis model [Global model] 0Hr 100,000Hr 500,000Hr Baffle structure Considering Swelling & Irradiation creep [Local model] Former plate Baffle plate BFB Considering Swelling & Irradiation creep Fig.6 Image of data handling 3.3 BFBの損傷予測(Failure prediction of BFB) JNES「照射誘起型応力腐食割れ(IASCC)評価技術」 事業にて、Fig.7に示す「しきい値モデル」に基づくIASCC 損傷評価手法が評価ガイドとして提案されており、ガイ ドライン第2版ではこの手法を取り入れている。これは、 解析によって求めた BFB の応力履歴が IASCC による割 れ発生しきい応力線図を超えた時点を損傷時間とする考 え方である。3.2 節で得た BFB の応力履歴を 3.1 節の IASCC による割れ発生しきい応力線図に重ね合わせるこ とにより、損傷時間が求められる。 As the boundary conditions of Local model, Driving nodes displacements nodes are input of Driving from Global model Baffle BFB plate Former plate Baffle plate Core barrel BFB Modeled whole Baffle structure Modeled only around BFB with fine meshes Fig.7 Concept of IASCC failure prediction 3.4 BFBの許容損傷本数(Criteria on the number of failed BFB ) BFB の大多数が損傷する状態において、地震や LOCA が発生したとしても、炉内構造物が有する安全上重要な 機能である「炉心支持及び位置決め」、「制御棒挿入性の 確保」、「冷却水流路の維持及び流量適正配分」が維持で きることを確認している。第 2 版では、近年の地震条件 の見直しを反映して再評価し、Fig.8 のように約 70%の BFB が損傷した場合でも、上記の炉内構造物が有する安 全上重要な機能が維持できることを確認している。 Fig.8 Assumption pattern of failed BFB for the functional evaluation 3.5 保全策(Maintenance plan) 3.4 節で得たBFB の許容損傷本数約70%に対し、管理 する上での余裕を見込んだ損傷本数 20%を管理上のクラ イテリアとして設定している。Fig.9に示すようにIASCC 損傷評価による累積損傷本数が 20%に達すると評価され る時期に初回点検を実施する。初回点検時期の考え方自 体は第 1 版と同じであるが、2 回目以降の点検時期は、 Fig.10 に示す通り点検の直後から累積損傷本数のグラフ と沿う直線の傾きでBFBが損傷し続けると仮定し、点検 した時点からこの傾きの直線が損傷本数 20%に達するま での期間を点検周期としている。 ○Failed BFB ●Normal BFB - 301 - Stress IASCC threshold curve Stress history of BFB Failure time Fluence(dpa) ○ 損傷 ● 残存 Failure B FBe ruliaff or ebmuNprediction curve Area covered by Guideline for BFB’s maintenance P Inspection plan D Inspection C Evaluation First inspection period A Preventive maintenance, replace or rethink of inspection plan Failure prediction 0.2technique Operation time Fig.9 First inspection period of BFB Technical findings of IASCC Reflect to actual plant, expand to other parts B FBe ruliaff or ebmuNFirst result inspection - 302 - Failure Inspection result Improvement of inspection and evaluation technique Result of research development, failure experience of BFB Fig.10 Inspection cycle of BFB Preservation and Improvement of nuclear safety 3.1~3.5 節に示すように、第2 版では最新知見や評価手 法の精緻化等を取り入れて見直しを図っており、プラン トの安全・安定運転を維持した上で、BFB の合理的な点 検・評価の方法を示すものとなっている。 3.6.改善活動 第 2 版では必要とされる点検や予防保全措置等を着実 に計画・実施していくとともに、実施された点検や評価、 IASCC に関する新知見を適切に管理し、次回の点検や予 防保全措置の計画に適切に反映していく取り組みについ ても触れられている。ガイドラインで示されている内容 はFig.11 の点線の中のPDCA サイクルであるが、今後得 られる国内外の運転経験や各種研究成果などの最新知見 をガイドラインに適時反映し、保全ルール自体にも新知 見を反映・改善していくことがプラントの安全を維持す るために、極めて重要である。 prediction curve Inspection cycle 0.2Operation time Fig.11 PDCA cycle for BFB maintenance improvement 4.結言 BFBのIASCCに対する保全方針を示した炉内構造物点 検評価ガイドラインは、IASCC知見の拡充や、BFBの応 力評価手法の精緻化等を取り込むために見直しが図られ、 改訂第 2 版が発行された。ここでは、プラントの安全・ 安定運転を維持した上で、BFB の合理的な点検・評価の 方法が示されている。このように、常に最新知見を取り 入れ、改善していくことが保全活動の向上に繋がってお り、今後もこの取り組みを継続していくこととする。 謝辞 BFB の保全策について協議頂きました電力会社の皆様、 またガイドライン検討会においてご審議頂きました委員 の皆様に感謝いたします。 参考文献 [1] 一般社団法人 原子力安全推進協会 PWR 炉内構 造物点検評価ガイドライン[バッフルフォーマボル ト](第2版) [2] 独立行政法人 原子力安全基盤機構 平成 20 年度 照射誘起型応力腐食割れ(IASCC)評価技術に関す る報告書“ “バッフルフォーマボルトの保全技術向上に向けた取り組み “ “小村 聡,Akira KOMURA,松原 亨,Toru MATSUBARA,中野 守人,Morihito NAKANO,関 弘明,Hiroaki SEKI
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