フィルタベント設備の島根原子力発電所2号機への適用について
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カテゴリ: 第11回
1.緒言
島根原子力発電所では,2011年(平成23年)3月11日に発 生した東北地方太平洋沖地震による津波に起因する福島第 一原子力発電所事故を踏まえ,同様の事故を決して起こさ ないという強い決意のもと,電源や冷却機能の確保,浸水 防止対策等,原子炉や使用済燃料の損傷を防止するための 緊急安全対策等を直ちに実施した。更に発電所の安全性を 高めるため,安全確保に向けた対策の多重性や多様性を考 慮しながら,重大事故発生を防止するための基本設計設備 (設計基準事故対応設備)の強化や重大事故の進展防止の ための重大事故等対処設備の設置等,様々な安全対策を鋭 意実施しているところである.島根原子力発電所2号機の安全対策については,2013年 (平成25年)7月8日に施行された新規制基準への適合性確 認審査を受けるため,その対策内容を原子炉設置変更許 可,工事計画認可および保安規定変更認可申請書として取 り纏め,同年12月25日に原子力規制委員会に提出し,現在 その妥当性について審査を受けているところである。ここでは,島根原子力発電所2号機の安全対策の概要 と,安全対策の中でも重大事故の進展防止対策として重要 な役割を担うものの一つで,国内で初めて導入することと なるフィルタベント設備の設計概要,設置状況等について 紹介する。
2.島根原子力発電所2号機の安全対策の概要
島根原子力発電所2号機では福島第一原子力発電所事故 の教訓および新規制基準の要求事項等を踏まえ,重大事故 等の発生防止のための設備強化(耐震性能の確保,電源の 信頼性強化等)に加え,万一,重大事故等が発生した場合 においても炉心損傷を防ぐために注水を継続し,除熱機能 の確保を図り,更に,炉心損傷に至った場合においても格 納容器の破損および大規模な放射性物質の放出を防止する ため,1炉心損傷防止,2除熱機能確保,3格納容器破損 防止,4電源等の共通サポート機能維持といった観点か ら,新規設備の設置や従来設備(基本設計設備,アクシデ ントマネジメント設備)の強化といった形で更なる安全対 策に取り組んできている。 島根原子力発電所2号機における安全対策の概要を Fig.1に示す。 Fig.1 Schematic plan for safety countermeasure of Shimane NPP Unit2 炉心損傷防止の安全対策について,想定される重大事故 等時においても,炉心への注水継続,残留熱除去系による 除熱機能確保により,炉心の著しい損傷に至ることなく収 束できることを確認しているが,残留熱除去系による除熱 機能が万一喪失した場合に,大気を最終ヒートシンクとし た代替除熱手段としてフィルタベント設備を機能させ,炉 心への注水との組み合わせによるフィードアンドブリード により,炉心の著しい損傷を防止する。 また万一,炉心損傷に至った場合にも,格納容器の過圧 破損等を防止する手段としてフィルタベント設備を機能さ せる(格納容器内のガスをフィルタ装置を通してベントす る)ことにより,格納容器から放射性物質が直接漏れるこ とを防ぎ,環境への粒子状放射性物質等の放出量を低減す ることができる。 重大事故時における基本対応シナリオをFig.2,安全対策 の概略図をFig.3に示す. Fig.2 Basic scenario of severe accident management Fig.3 Schematic of severe accident management measures 3.フィルタベント設備の設計方針 3.1 フィルタベント設備の設計方針 フィルタベント設備を島根原子力発電所2号機へ適用す るにあたっては,福島第一原子力発電所事故の教訓および 新規制基準の要求事項等を踏まえ,想定される重大事故等 時に確実に操作可能なシステムとすること,またベントの 際には可能な限り放射性物質の放出を低減すること等を設 計の基本方針とし,フィルタ装置として,格納容器ベント 用フィルタとして国際的に実績のあるAREVA社の湿式フィ ルタを選定し,島根原子力発電所2号機で想定される事故 事象に対して確実に性能を発揮するよう,裕度をもったシ ステム設計としている。 主な設計方針を以下に示す。 ? 炉心の著しい損傷を防止するため,格納容器内のガス を排気することにより,最終的な熱の逃がし場である 大気に熱を輸送し,格納容器内の圧力および温度を低 下させることができる設計とする。 ? 炉心の著しい損傷が発生した場合において,格納容器 の破損を防止するため,格納容器内の水素を含むガス を排気することにより,格納容器内の圧力および温度 を低下させるとともに格納容器内での水素爆発を防止 することができる設計とする。 ? フィルタ装置を通して格納容器内のガスを排気するこ とにより,放射性物質の大気への放出量を低減できる 設計とする。 ? 他の系統・機器と隔離することで,他への悪影響を防 ぐ設計とする。 ? ベント弁は,容易かつ確実に開閉操作ができる設計と する。 ? 排出経路における水素爆発を防止できる設計とする。 ? 長期的にも溶融炉心および水没の悪影響を受けない場 所に接続する設計とする。 ? 遮蔽等の放射線防護対策により,使用後に高線量とな るフィルタ等からの被ばくを低減できる設計とする。 ? 基準地震動Ssによる地震力に対して必要な機能が損な 3.1の設計方針を踏まえて設定した島根原子力発電所2 号機のフィルタベント設備の具体的な設計条件をTable 1に 示す。 なお,設計条件に係るフィルタベント設備の使用条件に ついては,2013年(平成25年)7月8日施行の「実用発電用 原子炉及びその附属施設の位置、構造及び設備の基準に関 する規則の解釈」第37条の規定に基づき実施した島根原 子力発電所2号機の有効性評価において確認している。 フィルタベント設備の使用(ベント開始)のタイミング は,重大事故等の事象収束シナリオにより異なり,炉心損 傷を伴わず事象収束が必要な事故シーケンス「全交流動力 電源喪失」を例に挙げると,ベントは,格納容器が最高使 用圧力427kPaに到達前での実施となる。炉心損傷を伴う格 納容器破損モード「雰囲気圧力・温度による静的負荷(格 納容器過圧・過温破損)」に対する事象収束シナリオでの ベントは,格納容器圧力が最高使用圧力の2倍若しくは格 納容器への外部水源からの総注水量が4,000m3に達する前 での実施となる。 以下に島根原子力発電所2号機の有効性評価結果の例を 示す。 【格納容器破損防止対策の有効性評価】 (1)想定する格納容器破損モード 雰囲気圧力・温度による静的負荷(格納容器過圧・過 温破損) (2)事故の想定および収束の概要 格納容器内へ流出した高温の冷却材や溶融炉心の崩 壊熱等の熱によって発生した水蒸気,金属-水反応等に よって発生した非凝縮性ガスなどの蓄積によって,格納 容器内の雰囲気圧力・温度が緩慢に上昇し格納容器が破 損する可能性がある。 本格納容器破損モードに対しては,低圧原子炉代替注 - 316 - われるおそれがない設計とする。 ? 想定される事故事象での使用条件下において,確実に 操作ができ,性能を発揮できる設計とする。 3.2 フィルタベント設備の設計条件 Table 1 Design condition of Shimane NPP Unit2 FCVS 最高使用圧力 フィルタベント設備を使用する有効性評 価結果を踏まえ,格納容器の限界圧力で ある 853kPa[gage]とする。 最高使用温度 フィルタベント設備を使用する有効性評 価結果を踏まえ,格納容器の限界温度で ある 200°Cとする。 設計流量(蒸気) 9.8kg/s@427kPa[gage] (原子炉定格熱出力 2,436MW の 1%相当) フィルタ性能 Cs-137 放出量:100TBq 以下 ※半減期の短い放射性物質の放出も可能 な限り低減する性能とする 耐震性能 基準地震動 Ss にて機能維持 水系(常設)による原子炉冷却および格納容器代替スプ レイ系による格納容器冷却ならびにフィルタベント設 備による除熱によって格納容器破損防止を図る。事故収 束の対応手順の概要を Fig.4 に示す。 Fig.4 Summary of the correspondence procedure (3)格納容器の圧力・温度の推移 フィルタベント設備の使用条件に係る格納容器の圧 力と温度の推移をFig.5,6に示す。 Fig.5 Containment pressure Fig.6 Containment temperature 4.フィルタベント設備の設計仕様 3.設計方針の要求事項を満足するよう,島根原子力発 電所2号機において考慮したフィルタベント設備の設計仕 様について,以下説明する。 4.1 系統設計仕様 島根原子力発電所2号機のフィルタベント設備の系統 は,従来のアクシデントマネジメント設備である耐圧強化 853kPa [gage] 200°C ベントラインから分岐した配管を,ベント弁を介して原子 炉建物外の地下格納槽内に設置したフィルタ装置まで敷 設・接続し,ベント時の放射性物質の拡散を期待するため に,フィルタ装置出口配管を原子炉建物に沿って屋上レベ ルまで立ち上げることとしており,以下の設備で構成する。 Fig.7 Schematic of Filtered Containment Venting System 系統設計における主な考慮事項を以下に示す。 ? サプレッション・チェンバからのベント(W/Wベント) を系統設計の基本とするが,W/Wベントが使用できな い状況も考慮し,ドライウェルからのベント(D/Wベン ト)も可能な設計としている。 ? 格納容器からフィルタ装置までの他系統との取り合い 弁は,重大事故等時に想定される弁の駆動源喪失時に おいても自動的に隔離できるよう,フェイル・クロー ズの設計としている。 ? ベント弁は原子炉棟外(二次格納施設外)から現場操 作可能とし,運転員の放射線防護を考慮した設計とし ている。 ? フィルタ装置入口には連結管(ヘッダ)を設け,フィ を系統設計の基本とするが,W/Wベントが使用できな い状況も考慮し,ドライウェルからのベント(D/Wベン ト)も可能な設計としている。 ? 格納容器からフィルタ装置までの他系統との取り合い 弁は,重大事故等時に想定される弁の駆動源喪失時に おいても自動的に隔離できるよう,フェイル・クロー ズの設計としている。 ? ベント弁は原子炉棟外(二次格納施設外)から現場操 作可能とし,運転員の放射線防護を考慮した設計とし ている。 ? フィルタ装置入口には連結管(ヘッダ)を設け,フィ ルタ装置の流れに偏りが出ないよう設計としている。 ? ベント運転時のベントガスには水素ガスが含まれる可 能性があることから,フィルタベント設備の排出経路 における水素爆発を防止するため,フィルタ装置出口 配管には圧力開放板を設置し,系統待機中は系統内を 窒素雰囲気に維持する。 島根原子力発電所2号機では,規制要件に基づく粒子状 放射性物質の除去および被ばく評価の観点から無機/有機 よう素の除去をフィルタ装置の性能に係る機器仕様要件と し,3つのセクション(1ベンチュリスクラバ,2金属フ ィルタ,3銀ゼオライトフィルタ)の装置構成で要件を達 成するAREVA社のフィルタを選定した。 ベントガスは,1ベンチュリスクラバでまず処理され, ベントガスに含まれる粒子状放射性物質および無機よう素 の大部分は,スクラビング水中への保持により除去され る。更に,2金属フィルタでは,ベンチュリスクラバでは - 317 - ・ フィルタ装置(スクラバ容器:4基,銀ゼオライト 容器:1基) ・ フィルタ装置入口配管(300A×1本) ・ フィルタ装置出口配管(300A×4本) ・ 流量制限オリフィスおよび圧力開放板(各フィルタ 装置出口配管に1個) ・ ベント弁(空気作動弁) ・ 計装設備 フィルタベント設備の系統概略図をFig.7に示す。 4.2 機器設計仕様 4.2.1 フィルタ装置 除去しきれなかった微小粒径の粒子状放射性物質等を除去 する。また,3銀ゼオライトフィルタでは,主に有機よう 素を除去する。12はセットでスクラバ容器内に格納し, 3は銀ゼオライト容器内に格納し,スクラバ容器の後段に 配置する設計とした。3つのセクションを有するフィルタ 装置の性能は,実証試験(JAVAおよびJAVA PLUS)を実施 しており,その結果により仕様要件を満たすことを確認し ている。 フィルタ装置の概略図をFig.8,9,仕様をTable 2に示す。 Fig.8 Schematic of Filtered Venting Equipment 銀ゼオライト容器 Fig.9 Schematic of Filtered Venting Equipment(3D CAD) Table 2 Design spec of Filtered Venting Equipment スクラバ容器 銀ゼオライト容器 フィルタ セクション 1ベンチュリスクラバ 2金属フィルタ 3銀ゼオライト フィルタ 容器寸法 直径:約 2.2m 高さ:約 8m 直径:約 3m 高さ:約 5m 基数 4 基 1 基 容器材質 SUS316L 機器クラス 重大事故等クラス2容器 除去効率 粒子状放射性物質:99.9%以上 無機よう素:99%以上 ,有機よう素:98%以上 4.2.2 配管および弁類 配管および弁類の主な仕様を以下に示す。 ? フィルタベント設備の配管は原子炉定格熱出力の1%相 当の蒸気を排出可能とするため,フィルタ装置入口配 管を300A(1ライン),フィルタ装置出口配管を300A (4ライン)としている。 ? 系統待機時の窒素環境保持のバウンダリである圧力開 放板の設定破壊圧力は,ベントガス排出の妨げになら ないよう80kPa[gage]に設定している。 ? フィルタベント設備の運転に必要なベント弁は空気作 動弁としている。これらの空気作動弁はバックアップ の駆動源(ガスボンベ)を備えた設計としており,通 常の駆動源である計装用圧縮空気系が喪失した場合に おいても操作が可能な設計としている。また,空気配 管の切り替えを行う弁付属の電磁弁は非常用交流電源 だけなく,直流電源からも給電可能な設計としてい 2金属フィルタ ガス 1ベンチュリ スクラバ スクラバ容器 銀ゼオライト容器 スクラバ容器 3銀ゼオライトフィルタ ガス出口ノズル ガス入口ノズル →:ガスの流れ - 318 - る。更に,全電源喪失時にもベント弁を開可能とする ため,空気作動弁駆動部に直接駆動空気圧力を供給で きる空気配管を設置している。これにより,中央制御 室からの遠隔操作または二次格納施設外からの現場に おける手動操作によりベント弁を容易に開閉すること を可能とし,ベント弁の操作方法に多様性を持った設 計としている。 5.フィルタベント設備の島根2号機への設置状況 5.1 フィルタ装置の製作 フィルタ装置に要求される設計方針および設計仕様に基 づき,技術基準規則に従ってクラス2機器と同様の原子力 の高い品質で製作を行っており,ベンチュリスクラバおよ び金属フィルタを格納したスクラバ容器の製作を行った。 現在,銀ゼオライト容器の製作を行っているところである。 スクラバ容器の製作時の状況をFig.10に示す。 Fig.10 Manufacture of Filtered Venting Equipment (Venturi scrubber,Metal fiber filter) 5.2 現地工事 フィルタベント設備の現地工事は平成25年5月に着工 し,フィルタ装置を設置する地下格納槽の工事を進めてい るところである。 地下格納槽(概略寸法13m×25m,深さ12m)は,原子炉 建物近傍の岩盤上に鉄筋コンクリート製で設置し,基準地 震動に対する頑健性やフィルタ装置に捕集した放射性物質 からの放射線に対する遮へいを考慮した設計としている。 現地工事の状況(2013年12月時点)をFig.11に示す。 Fig.11 Construction site(Dec,2013) 6.結言 島根原子力発電所では,福島第一原子力発電所事故以降, その教訓に鑑み,さまざまな安全対策を不断の決意で講じ てきており,フィルタベント設備についても,新規制基準 施行以前から,その設置をいち早く決定し,更なる信頼性 向上の重要な対策の一つとして工事を進めてきた。 現在,その対策内容について,原子力規制委員会におけ る適合性確認審査を受けているところであるが,これから も島根原子力発電所では,なによりも安全を第一に信頼さ れる原子力発電所を目指し,より一層の安全性向上を不断 に追求していく。“ “フィルタベント設備の島根原子力発電所2号機への適用について “ “須澤 克則 ,Katsunori SUZAWA, 柏倉 潤,Toshimitsu USUI,臼井 利光,Keita NAITOU,内藤 慶太,Jun KASHIWAKURA,串間 友紀子,Yukiko KUSHIMA
島根原子力発電所では,2011年(平成23年)3月11日に発 生した東北地方太平洋沖地震による津波に起因する福島第 一原子力発電所事故を踏まえ,同様の事故を決して起こさ ないという強い決意のもと,電源や冷却機能の確保,浸水 防止対策等,原子炉や使用済燃料の損傷を防止するための 緊急安全対策等を直ちに実施した。更に発電所の安全性を 高めるため,安全確保に向けた対策の多重性や多様性を考 慮しながら,重大事故発生を防止するための基本設計設備 (設計基準事故対応設備)の強化や重大事故の進展防止の ための重大事故等対処設備の設置等,様々な安全対策を鋭 意実施しているところである.島根原子力発電所2号機の安全対策については,2013年 (平成25年)7月8日に施行された新規制基準への適合性確 認審査を受けるため,その対策内容を原子炉設置変更許 可,工事計画認可および保安規定変更認可申請書として取 り纏め,同年12月25日に原子力規制委員会に提出し,現在 その妥当性について審査を受けているところである。ここでは,島根原子力発電所2号機の安全対策の概要 と,安全対策の中でも重大事故の進展防止対策として重要 な役割を担うものの一つで,国内で初めて導入することと なるフィルタベント設備の設計概要,設置状況等について 紹介する。
2.島根原子力発電所2号機の安全対策の概要
島根原子力発電所2号機では福島第一原子力発電所事故 の教訓および新規制基準の要求事項等を踏まえ,重大事故 等の発生防止のための設備強化(耐震性能の確保,電源の 信頼性強化等)に加え,万一,重大事故等が発生した場合 においても炉心損傷を防ぐために注水を継続し,除熱機能 の確保を図り,更に,炉心損傷に至った場合においても格 納容器の破損および大規模な放射性物質の放出を防止する ため,1炉心損傷防止,2除熱機能確保,3格納容器破損 防止,4電源等の共通サポート機能維持といった観点か ら,新規設備の設置や従来設備(基本設計設備,アクシデ ントマネジメント設備)の強化といった形で更なる安全対 策に取り組んできている。 島根原子力発電所2号機における安全対策の概要を Fig.1に示す。 Fig.1 Schematic plan for safety countermeasure of Shimane NPP Unit2 炉心損傷防止の安全対策について,想定される重大事故 等時においても,炉心への注水継続,残留熱除去系による 除熱機能確保により,炉心の著しい損傷に至ることなく収 束できることを確認しているが,残留熱除去系による除熱 機能が万一喪失した場合に,大気を最終ヒートシンクとし た代替除熱手段としてフィルタベント設備を機能させ,炉 心への注水との組み合わせによるフィードアンドブリード により,炉心の著しい損傷を防止する。 また万一,炉心損傷に至った場合にも,格納容器の過圧 破損等を防止する手段としてフィルタベント設備を機能さ せる(格納容器内のガスをフィルタ装置を通してベントす る)ことにより,格納容器から放射性物質が直接漏れるこ とを防ぎ,環境への粒子状放射性物質等の放出量を低減す ることができる。 重大事故時における基本対応シナリオをFig.2,安全対策 の概略図をFig.3に示す. Fig.2 Basic scenario of severe accident management Fig.3 Schematic of severe accident management measures 3.フィルタベント設備の設計方針 3.1 フィルタベント設備の設計方針 フィルタベント設備を島根原子力発電所2号機へ適用す るにあたっては,福島第一原子力発電所事故の教訓および 新規制基準の要求事項等を踏まえ,想定される重大事故等 時に確実に操作可能なシステムとすること,またベントの 際には可能な限り放射性物質の放出を低減すること等を設 計の基本方針とし,フィルタ装置として,格納容器ベント 用フィルタとして国際的に実績のあるAREVA社の湿式フィ ルタを選定し,島根原子力発電所2号機で想定される事故 事象に対して確実に性能を発揮するよう,裕度をもったシ ステム設計としている。 主な設計方針を以下に示す。 ? 炉心の著しい損傷を防止するため,格納容器内のガス を排気することにより,最終的な熱の逃がし場である 大気に熱を輸送し,格納容器内の圧力および温度を低 下させることができる設計とする。 ? 炉心の著しい損傷が発生した場合において,格納容器 の破損を防止するため,格納容器内の水素を含むガス を排気することにより,格納容器内の圧力および温度 を低下させるとともに格納容器内での水素爆発を防止 することができる設計とする。 ? フィルタ装置を通して格納容器内のガスを排気するこ とにより,放射性物質の大気への放出量を低減できる 設計とする。 ? 他の系統・機器と隔離することで,他への悪影響を防 ぐ設計とする。 ? ベント弁は,容易かつ確実に開閉操作ができる設計と する。 ? 排出経路における水素爆発を防止できる設計とする。 ? 長期的にも溶融炉心および水没の悪影響を受けない場 所に接続する設計とする。 ? 遮蔽等の放射線防護対策により,使用後に高線量とな るフィルタ等からの被ばくを低減できる設計とする。 ? 基準地震動Ssによる地震力に対して必要な機能が損な 3.1の設計方針を踏まえて設定した島根原子力発電所2 号機のフィルタベント設備の具体的な設計条件をTable 1に 示す。 なお,設計条件に係るフィルタベント設備の使用条件に ついては,2013年(平成25年)7月8日施行の「実用発電用 原子炉及びその附属施設の位置、構造及び設備の基準に関 する規則の解釈」第37条の規定に基づき実施した島根原 子力発電所2号機の有効性評価において確認している。 フィルタベント設備の使用(ベント開始)のタイミング は,重大事故等の事象収束シナリオにより異なり,炉心損 傷を伴わず事象収束が必要な事故シーケンス「全交流動力 電源喪失」を例に挙げると,ベントは,格納容器が最高使 用圧力427kPaに到達前での実施となる。炉心損傷を伴う格 納容器破損モード「雰囲気圧力・温度による静的負荷(格 納容器過圧・過温破損)」に対する事象収束シナリオでの ベントは,格納容器圧力が最高使用圧力の2倍若しくは格 納容器への外部水源からの総注水量が4,000m3に達する前 での実施となる。 以下に島根原子力発電所2号機の有効性評価結果の例を 示す。 【格納容器破損防止対策の有効性評価】 (1)想定する格納容器破損モード 雰囲気圧力・温度による静的負荷(格納容器過圧・過 温破損) (2)事故の想定および収束の概要 格納容器内へ流出した高温の冷却材や溶融炉心の崩 壊熱等の熱によって発生した水蒸気,金属-水反応等に よって発生した非凝縮性ガスなどの蓄積によって,格納 容器内の雰囲気圧力・温度が緩慢に上昇し格納容器が破 損する可能性がある。 本格納容器破損モードに対しては,低圧原子炉代替注 - 316 - われるおそれがない設計とする。 ? 想定される事故事象での使用条件下において,確実に 操作ができ,性能を発揮できる設計とする。 3.2 フィルタベント設備の設計条件 Table 1 Design condition of Shimane NPP Unit2 FCVS 最高使用圧力 フィルタベント設備を使用する有効性評 価結果を踏まえ,格納容器の限界圧力で ある 853kPa[gage]とする。 最高使用温度 フィルタベント設備を使用する有効性評 価結果を踏まえ,格納容器の限界温度で ある 200°Cとする。 設計流量(蒸気) 9.8kg/s@427kPa[gage] (原子炉定格熱出力 2,436MW の 1%相当) フィルタ性能 Cs-137 放出量:100TBq 以下 ※半減期の短い放射性物質の放出も可能 な限り低減する性能とする 耐震性能 基準地震動 Ss にて機能維持 水系(常設)による原子炉冷却および格納容器代替スプ レイ系による格納容器冷却ならびにフィルタベント設 備による除熱によって格納容器破損防止を図る。事故収 束の対応手順の概要を Fig.4 に示す。 Fig.4 Summary of the correspondence procedure (3)格納容器の圧力・温度の推移 フィルタベント設備の使用条件に係る格納容器の圧 力と温度の推移をFig.5,6に示す。 Fig.5 Containment pressure Fig.6 Containment temperature 4.フィルタベント設備の設計仕様 3.設計方針の要求事項を満足するよう,島根原子力発 電所2号機において考慮したフィルタベント設備の設計仕 様について,以下説明する。 4.1 系統設計仕様 島根原子力発電所2号機のフィルタベント設備の系統 は,従来のアクシデントマネジメント設備である耐圧強化 853kPa [gage] 200°C ベントラインから分岐した配管を,ベント弁を介して原子 炉建物外の地下格納槽内に設置したフィルタ装置まで敷 設・接続し,ベント時の放射性物質の拡散を期待するため に,フィルタ装置出口配管を原子炉建物に沿って屋上レベ ルまで立ち上げることとしており,以下の設備で構成する。 Fig.7 Schematic of Filtered Containment Venting System 系統設計における主な考慮事項を以下に示す。 ? サプレッション・チェンバからのベント(W/Wベント) を系統設計の基本とするが,W/Wベントが使用できな い状況も考慮し,ドライウェルからのベント(D/Wベン ト)も可能な設計としている。 ? 格納容器からフィルタ装置までの他系統との取り合い 弁は,重大事故等時に想定される弁の駆動源喪失時に おいても自動的に隔離できるよう,フェイル・クロー ズの設計としている。 ? ベント弁は原子炉棟外(二次格納施設外)から現場操 作可能とし,運転員の放射線防護を考慮した設計とし ている。 ? フィルタ装置入口には連結管(ヘッダ)を設け,フィ を系統設計の基本とするが,W/Wベントが使用できな い状況も考慮し,ドライウェルからのベント(D/Wベン ト)も可能な設計としている。 ? 格納容器からフィルタ装置までの他系統との取り合い 弁は,重大事故等時に想定される弁の駆動源喪失時に おいても自動的に隔離できるよう,フェイル・クロー ズの設計としている。 ? ベント弁は原子炉棟外(二次格納施設外)から現場操 作可能とし,運転員の放射線防護を考慮した設計とし ている。 ? フィルタ装置入口には連結管(ヘッダ)を設け,フィ ルタ装置の流れに偏りが出ないよう設計としている。 ? ベント運転時のベントガスには水素ガスが含まれる可 能性があることから,フィルタベント設備の排出経路 における水素爆発を防止するため,フィルタ装置出口 配管には圧力開放板を設置し,系統待機中は系統内を 窒素雰囲気に維持する。 島根原子力発電所2号機では,規制要件に基づく粒子状 放射性物質の除去および被ばく評価の観点から無機/有機 よう素の除去をフィルタ装置の性能に係る機器仕様要件と し,3つのセクション(1ベンチュリスクラバ,2金属フ ィルタ,3銀ゼオライトフィルタ)の装置構成で要件を達 成するAREVA社のフィルタを選定した。 ベントガスは,1ベンチュリスクラバでまず処理され, ベントガスに含まれる粒子状放射性物質および無機よう素 の大部分は,スクラビング水中への保持により除去され る。更に,2金属フィルタでは,ベンチュリスクラバでは - 317 - ・ フィルタ装置(スクラバ容器:4基,銀ゼオライト 容器:1基) ・ フィルタ装置入口配管(300A×1本) ・ フィルタ装置出口配管(300A×4本) ・ 流量制限オリフィスおよび圧力開放板(各フィルタ 装置出口配管に1個) ・ ベント弁(空気作動弁) ・ 計装設備 フィルタベント設備の系統概略図をFig.7に示す。 4.2 機器設計仕様 4.2.1 フィルタ装置 除去しきれなかった微小粒径の粒子状放射性物質等を除去 する。また,3銀ゼオライトフィルタでは,主に有機よう 素を除去する。12はセットでスクラバ容器内に格納し, 3は銀ゼオライト容器内に格納し,スクラバ容器の後段に 配置する設計とした。3つのセクションを有するフィルタ 装置の性能は,実証試験(JAVAおよびJAVA PLUS)を実施 しており,その結果により仕様要件を満たすことを確認し ている。 フィルタ装置の概略図をFig.8,9,仕様をTable 2に示す。 Fig.8 Schematic of Filtered Venting Equipment 銀ゼオライト容器 Fig.9 Schematic of Filtered Venting Equipment(3D CAD) Table 2 Design spec of Filtered Venting Equipment スクラバ容器 銀ゼオライト容器 フィルタ セクション 1ベンチュリスクラバ 2金属フィルタ 3銀ゼオライト フィルタ 容器寸法 直径:約 2.2m 高さ:約 8m 直径:約 3m 高さ:約 5m 基数 4 基 1 基 容器材質 SUS316L 機器クラス 重大事故等クラス2容器 除去効率 粒子状放射性物質:99.9%以上 無機よう素:99%以上 ,有機よう素:98%以上 4.2.2 配管および弁類 配管および弁類の主な仕様を以下に示す。 ? フィルタベント設備の配管は原子炉定格熱出力の1%相 当の蒸気を排出可能とするため,フィルタ装置入口配 管を300A(1ライン),フィルタ装置出口配管を300A (4ライン)としている。 ? 系統待機時の窒素環境保持のバウンダリである圧力開 放板の設定破壊圧力は,ベントガス排出の妨げになら ないよう80kPa[gage]に設定している。 ? フィルタベント設備の運転に必要なベント弁は空気作 動弁としている。これらの空気作動弁はバックアップ の駆動源(ガスボンベ)を備えた設計としており,通 常の駆動源である計装用圧縮空気系が喪失した場合に おいても操作が可能な設計としている。また,空気配 管の切り替えを行う弁付属の電磁弁は非常用交流電源 だけなく,直流電源からも給電可能な設計としてい 2金属フィルタ ガス 1ベンチュリ スクラバ スクラバ容器 銀ゼオライト容器 スクラバ容器 3銀ゼオライトフィルタ ガス出口ノズル ガス入口ノズル →:ガスの流れ - 318 - る。更に,全電源喪失時にもベント弁を開可能とする ため,空気作動弁駆動部に直接駆動空気圧力を供給で きる空気配管を設置している。これにより,中央制御 室からの遠隔操作または二次格納施設外からの現場に おける手動操作によりベント弁を容易に開閉すること を可能とし,ベント弁の操作方法に多様性を持った設 計としている。 5.フィルタベント設備の島根2号機への設置状況 5.1 フィルタ装置の製作 フィルタ装置に要求される設計方針および設計仕様に基 づき,技術基準規則に従ってクラス2機器と同様の原子力 の高い品質で製作を行っており,ベンチュリスクラバおよ び金属フィルタを格納したスクラバ容器の製作を行った。 現在,銀ゼオライト容器の製作を行っているところである。 スクラバ容器の製作時の状況をFig.10に示す。 Fig.10 Manufacture of Filtered Venting Equipment (Venturi scrubber,Metal fiber filter) 5.2 現地工事 フィルタベント設備の現地工事は平成25年5月に着工 し,フィルタ装置を設置する地下格納槽の工事を進めてい るところである。 地下格納槽(概略寸法13m×25m,深さ12m)は,原子炉 建物近傍の岩盤上に鉄筋コンクリート製で設置し,基準地 震動に対する頑健性やフィルタ装置に捕集した放射性物質 からの放射線に対する遮へいを考慮した設計としている。 現地工事の状況(2013年12月時点)をFig.11に示す。 Fig.11 Construction site(Dec,2013) 6.結言 島根原子力発電所では,福島第一原子力発電所事故以降, その教訓に鑑み,さまざまな安全対策を不断の決意で講じ てきており,フィルタベント設備についても,新規制基準 施行以前から,その設置をいち早く決定し,更なる信頼性 向上の重要な対策の一つとして工事を進めてきた。 現在,その対策内容について,原子力規制委員会におけ る適合性確認審査を受けているところであるが,これから も島根原子力発電所では,なによりも安全を第一に信頼さ れる原子力発電所を目指し,より一層の安全性向上を不断 に追求していく。“ “フィルタベント設備の島根原子力発電所2号機への適用について “ “須澤 克則 ,Katsunori SUZAWA, 柏倉 潤,Toshimitsu USUI,臼井 利光,Keita NAITOU,内藤 慶太,Jun KASHIWAKURA,串間 友紀子,Yukiko KUSHIMA