溶融燃料によるMCCI 反応とコアキャッチャーの開発
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カテゴリ: 第11回
1.緒言
2011年(平成23年)3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震による津波により、福島第一原子力発電所が炉心溶融を伴う過酷事故を起こし、大量の放射性物質が飛散し周辺環境に甚大な影響を及ぼす事態となった.これを踏まえ,新規制基準では、国内全ての原子力発電所に格納容器フィルタードベントシステム (FCVS) を設置することになったが,更なる安全性向上のために、コアキャッチャーの設置を検討した。 福島第一原子力発電所で発生した過酷事故では炉底部の部分溶融損傷と、ペデスタルに落下した炉心溶融物とペデスタルのコンクリートとのコア・コンクリート反応が発生したと考えられる。また、溶融物が格納容器壁を溶融損傷させたシェルアタックが発生した可能性も否定できない。過酷事故時の溶融炉心対策として玄武岩や高融点材料などをペデスタルに敷き詰めることが有効だと考えられる。 高温溶融炉心とペデスタルに敷き詰める材料との相互作用を観察するため、本研究ではテルミット反応により高温溶融物を生成することとした。テルミット反応は酸化鉄とアルミ粉を反応させると溶融物に近い約3000℃の高温溶融物が生成する。この溶融物をコンクリート、玄武岩、高融点材料などに落下させ、反応状況を観察し、温度を測定した。
2.過酷事故時の溶融燃料の挙動
過酷事故とは、設計基準事象を大幅に超える事象であり、安全設計の評価上想定された手段では適切な炉心の冷却または反応度の制御ができないため、炉心の重大な損傷に至る事象である。過去には、旧ソ連のチェルノブイリ、米国のスリーマイル島、日本の福島第一原発での事故例がこれに該当する。スリーマイル島での事故は、炉心溶融が起こったものの、原子炉圧力容器内で溶融物がとどまった状態で事故事象の進展が止まった。一方で、チェルノブイリと福島の事故では、圧力容器から溶融燃料が漏れ出すまでに事故事象が進展した。チェルノブイリについては、図 2、図 3に示したように、漏れ出た溶融デブリの把握がかなり進んでいる。しかし、福島では格納容器内での調査が困難なため、未だ溶融デブリの把握はほとんど出来ていない。 Fig.1 Temperature distribution at the Chernobyl Accidents(1) Fig.2 Core catcher of EPR 3.テルミット反応によるMCCI 模擬実験 本研究では炉心溶融物を模擬するために、テルミット反応による溶融金属を使用した。テルミット反応はアルミニウムの粉末と酸化鉄(Ⅱ)の粉末を混合し、着火することで反応を起こすことができる。この反応は酸化還元反応の一種であり、反応式は次式で表される。 Fe2O3+2Al=2Fe+Al2O2+851.5kJ/mol この反応過程において上記のように多量に熱が発生し、Fe が混合した金属の溶融物が生成される。これを炉心溶融物の模擬に使用する。試験結果を図3~図5に示す。図4(a) のように、コンクリートは溶融物で表面が剥離し、著しく劣化し、SiC は熱応力で割れる。玄武岩は堅牢である。 - 323 -(b) Basalt teat specimen (a) Thermite process reactor (c) Molten materials by thermite (d)Temperature measurement Fig.3 MCCI test facility (a) Degraded concrete (b) SiC test result (c) Cross sectional view of SiC (d) Basalt test result : (e) Cross sectional view of Basalt Fig.4 MCCI test results Fig.5 Measured temperature of MCCI test 4.実機評価 スクラム後4日目に炉心溶融物がペデスタルに落下したと仮定し、図6に示す解析モデルを仮定した。 デブリが半径4m の円形に広がっているとすると、代表寸法L'=(4×4×π)/(2×π×4)=2 である。また、T0=1570℃であると仮定し、レイリー数はRa=1.2×1012 となる。これより、本解析の物理モデルは乱流の自然対流とした。熱伝達率を求める式は以下の物を使用する。 h2=[0.15k((gβ(T0-T2))/αν)](1/3) (乱流) ここで、k は空気の熱伝導率で、T2=20℃の時、k=2.614×10-2 W/(m・K) である。その他の物理量は、レイリー数を求めたときと同じで、g=9.8m/s2、β=3.411×10-3 1/K、T0 を1570℃、α=2.207×10-5 m2/s、ν=1.583×10-5 m2/s である。これらを代入すると、h2=20.88 W/(m2・K) となる。 Q =Q1+Q2 ==(k(T0-T1))/D1+ h2(T0-T2) T0 =(Q×D1+k1×T1+h2×D1×T2)/(k+h2×D1) ==1567.4℃ この値は、レイリー数を求めるときの仮定と0.16%しか誤差がなく、大変よく一致しているといえる。 以上より、本解析では4 日後の溶融物の温度は1567℃となった。 このようなMCCI 現象を防ぐため、溶融落下したデブリとコンクリートの反応を防ぐため、図7に示すように玄武岩を設置する。 Fig.6 Analysis model for MCCI temperature distribution Fig.7 Installation of core catcher for current Mark I type BWR 5.結論 テルミット反応により高温溶融物を生成し,約3000℃の高温溶融物が生成させた。この溶融物をコンクリート、玄武岩、高融点材料などに落下させ、反応状況を観察し、温度を測定した。この結果、高温融点のセラミックは熱応力のために割れることが分かった。一方、マグマが固化した玄武岩は堅牢で、コアキャッチャー材料に適している。 玄武岩熱電対高融点材料(Al2O3) 熱電対A B C D 高融点材料細管 テルミット粉末 (Al2O3) 02004006008001000120014000 50 100 150 Temperature(℃) Time(s) Alumina coating 2mm depth from the surface 4mm depth from the surface 20mm depth from the surface 25mm depth from the surface 19空気溶融物ペデスタル(コンクリート) 空気Q1 Q2 自然対流による熱伝達通常の熱伝導溶融物の崩壊熱Q 距離x(m) 温度T(℃) O T2 T0 T1 D2 D1 - 324 -“ “溶融燃料によるMCCI 反応とコアキャッチャーの開発 “ “奈良林 直,Tadashi NARABAYASHI,宮脇 大地,Daichi MIYAWAKI,千葉 豪,Go CHIBA,辻 雅司,Masashi TSUJI,マルタ シルベスター,Marta Z. Sylwester
2011年(平成23年)3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震による津波により、福島第一原子力発電所が炉心溶融を伴う過酷事故を起こし、大量の放射性物質が飛散し周辺環境に甚大な影響を及ぼす事態となった.これを踏まえ,新規制基準では、国内全ての原子力発電所に格納容器フィルタードベントシステム (FCVS) を設置することになったが,更なる安全性向上のために、コアキャッチャーの設置を検討した。 福島第一原子力発電所で発生した過酷事故では炉底部の部分溶融損傷と、ペデスタルに落下した炉心溶融物とペデスタルのコンクリートとのコア・コンクリート反応が発生したと考えられる。また、溶融物が格納容器壁を溶融損傷させたシェルアタックが発生した可能性も否定できない。過酷事故時の溶融炉心対策として玄武岩や高融点材料などをペデスタルに敷き詰めることが有効だと考えられる。 高温溶融炉心とペデスタルに敷き詰める材料との相互作用を観察するため、本研究ではテルミット反応により高温溶融物を生成することとした。テルミット反応は酸化鉄とアルミ粉を反応させると溶融物に近い約3000℃の高温溶融物が生成する。この溶融物をコンクリート、玄武岩、高融点材料などに落下させ、反応状況を観察し、温度を測定した。
2.過酷事故時の溶融燃料の挙動
過酷事故とは、設計基準事象を大幅に超える事象であり、安全設計の評価上想定された手段では適切な炉心の冷却または反応度の制御ができないため、炉心の重大な損傷に至る事象である。過去には、旧ソ連のチェルノブイリ、米国のスリーマイル島、日本の福島第一原発での事故例がこれに該当する。スリーマイル島での事故は、炉心溶融が起こったものの、原子炉圧力容器内で溶融物がとどまった状態で事故事象の進展が止まった。一方で、チェルノブイリと福島の事故では、圧力容器から溶融燃料が漏れ出すまでに事故事象が進展した。チェルノブイリについては、図 2、図 3に示したように、漏れ出た溶融デブリの把握がかなり進んでいる。しかし、福島では格納容器内での調査が困難なため、未だ溶融デブリの把握はほとんど出来ていない。 Fig.1 Temperature distribution at the Chernobyl Accidents(1) Fig.2 Core catcher of EPR 3.テルミット反応によるMCCI 模擬実験 本研究では炉心溶融物を模擬するために、テルミット反応による溶融金属を使用した。テルミット反応はアルミニウムの粉末と酸化鉄(Ⅱ)の粉末を混合し、着火することで反応を起こすことができる。この反応は酸化還元反応の一種であり、反応式は次式で表される。 Fe2O3+2Al=2Fe+Al2O2+851.5kJ/mol この反応過程において上記のように多量に熱が発生し、Fe が混合した金属の溶融物が生成される。これを炉心溶融物の模擬に使用する。試験結果を図3~図5に示す。図4(a) のように、コンクリートは溶融物で表面が剥離し、著しく劣化し、SiC は熱応力で割れる。玄武岩は堅牢である。 - 323 -(b) Basalt teat specimen (a) Thermite process reactor (c) Molten materials by thermite (d)Temperature measurement Fig.3 MCCI test facility (a) Degraded concrete (b) SiC test result (c) Cross sectional view of SiC (d) Basalt test result : (e) Cross sectional view of Basalt Fig.4 MCCI test results Fig.5 Measured temperature of MCCI test 4.実機評価 スクラム後4日目に炉心溶融物がペデスタルに落下したと仮定し、図6に示す解析モデルを仮定した。 デブリが半径4m の円形に広がっているとすると、代表寸法L'=(4×4×π)/(2×π×4)=2 である。また、T0=1570℃であると仮定し、レイリー数はRa=1.2×1012 となる。これより、本解析の物理モデルは乱流の自然対流とした。熱伝達率を求める式は以下の物を使用する。 h2=[0.15k((gβ(T0-T2))/αν)](1/3) (乱流) ここで、k は空気の熱伝導率で、T2=20℃の時、k=2.614×10-2 W/(m・K) である。その他の物理量は、レイリー数を求めたときと同じで、g=9.8m/s2、β=3.411×10-3 1/K、T0 を1570℃、α=2.207×10-5 m2/s、ν=1.583×10-5 m2/s である。これらを代入すると、h2=20.88 W/(m2・K) となる。 Q =Q1+Q2 ==(k(T0-T1))/D1+ h2(T0-T2) T0 =(Q×D1+k1×T1+h2×D1×T2)/(k+h2×D1) ==1567.4℃ この値は、レイリー数を求めるときの仮定と0.16%しか誤差がなく、大変よく一致しているといえる。 以上より、本解析では4 日後の溶融物の温度は1567℃となった。 このようなMCCI 現象を防ぐため、溶融落下したデブリとコンクリートの反応を防ぐため、図7に示すように玄武岩を設置する。 Fig.6 Analysis model for MCCI temperature distribution Fig.7 Installation of core catcher for current Mark I type BWR 5.結論 テルミット反応により高温溶融物を生成し,約3000℃の高温溶融物が生成させた。この溶融物をコンクリート、玄武岩、高融点材料などに落下させ、反応状況を観察し、温度を測定した。この結果、高温融点のセラミックは熱応力のために割れることが分かった。一方、マグマが固化した玄武岩は堅牢で、コアキャッチャー材料に適している。 玄武岩熱電対高融点材料(Al2O3) 熱電対A B C D 高融点材料細管 テルミット粉末 (Al2O3) 02004006008001000120014000 50 100 150 Temperature(℃) Time(s) Alumina coating 2mm depth from the surface 4mm depth from the surface 20mm depth from the surface 25mm depth from the surface 19空気溶融物ペデスタル(コンクリート) 空気Q1 Q2 自然対流による熱伝達通常の熱伝導溶融物の崩壊熱Q 距離x(m) 温度T(℃) O T2 T0 T1 D2 D1 - 324 -“ “溶融燃料によるMCCI 反応とコアキャッチャーの開発 “ “奈良林 直,Tadashi NARABAYASHI,宮脇 大地,Daichi MIYAWAKI,千葉 豪,Go CHIBA,辻 雅司,Masashi TSUJI,マルタ シルベスター,Marta Z. Sylwester