湿式エメリー研磨により導入された極僅かな冷間加工が ニッケル基合金の水蒸気酸化挙動に及ぼす影響

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カテゴリ: 第11回
1.緒言
湿式エメリー紙による研磨は、SCC 試験片やクーポン 試験片などの表面の最終仕上げとして一般的に使用され ている。しかし、エメリー紙による湿式研磨においても、 試料最表層には幾分かの機械加工が導入されることにな る。一方、材料表面に存在する加工層が、水蒸気環境に おけるNi基合金での酸化挙動、割れ感受性に影響するこ とが報告されている。Sceniniら[1,2]は、480°Cの水素を含 む水蒸気中において 600 合金の平板試験片を用い酸化試 験を行っている。その中で、電解研磨を行った試験片に おいては内部酸化が、機械研磨を行った試験片では外部 酸化が起こっているとしている。また、400°Cの水素を含 む水蒸気中において 600 合金を用いて割れ感受性評価試 験を行っている。その中で、電解研磨を行った試験片よ りも機械研磨を行った試験片の方が耐SCC性に優れてい ることを示している。これらの結果は、外部酸化皮膜形 成を促進するCrの短絡拡散と関係するものと考えられている。しかし割れ感受性に関して、Sceniniら[2]の示した 結果と逆の結果も報告されている[3]。本研究では、湿式エメリー研磨によって合金表面に導 入された僅かな冷間加工がNi基合金での水蒸気酸化、割 れ感受性に及ぼす影響を調査するため、湿式エメ紙 で研磨を行った試験片とともに、コロイダルシリカのよ うな粒度の小さい研磨剤を用いて最終仕上げを行った試 験片を用いて水蒸気酸化試験を実施した。
2.過熱水蒸気中酸化試験方法
2.1 供試材および試験片 供試材にはCr含有量の異なる9種類のNi-Cr二元系合 金を用いた。Ni基合金の化学組成をTable1に示す。これ らは 1230°C/10 時間の均質化熱処理と熱間圧延の後に 1180°C/30分の溶体化熱処理が施されている。本研究では 平板試験片と逆U 曲げ試験片(RUB 試験片)を使用した。 平板試験片は湿式エメリー紙で#2400 まで研磨を行った 後、片面のみをコロイダルシリカ(粒度0.06μm)で最終仕
上げを行った。また、RUB試験片は湿式エメリー紙及び
コロイダルシリカで最終仕上げを行ったものを用いた。 E-mail: yutaka.watanabe@qse.tohoku.ac.jp - 331 - 2.2 試験環境 本研究では 2 種類の過熱水蒸気環境において酸化試験 を実施した。試験条件をまとめたものをTable2 に示す。 400°Cの水素を含む過熱水蒸気環境では、高純度水を蒸 発させ、Ar-4%H2 ガスと混合し水素/水蒸気比 (Partial Pressure Ratio:PPR) により反応容器内の酸化力を制御し た。試験環境中の酸化力は PO2=4.8×10-27 (atm)であり、 Ni/NiO解離圧(3.0×10-28 (atm))よりも16倍程度高い環境で 試験を行った。使用した純水はN2ガスをバブリングする ことで溶存酸素濃度を1ppb以下に調整した。 700°Cの過熱水蒸気環境では、500h(30,100,250h で中断 再開)の水蒸気酸化試験を実施し、それぞれの時間での重 量増加を測定し、重量法によって評価した。 Table2 Summary of test conditions Test Condition Hydrogenated steam Pure steam Temperature (oC) 400 700 Duration (hour) 750 500 Pressure (atm) 1 1 3.試験結果 3.1 加工硬化層の有無 Fig.1 に表面処理の異なる試験片の断面硬さ分布を示す。 コロイダルシリカで最終仕上げを行った試験片は、湿式 エメリー紙仕上げの試験片と比較し、合金表面での硬さ が減少しているため、湿式エメリー紙で研磨したことで 極表面に導入された加工硬化層が除去されているものと 考えられる。 Fig.1 Hardness as a function of indentation depth : Emery-polished and Colloidal silica-polished Table1 Chemical composition of Ni base alloys (wt%) (a)Emery-polished (b)Colloidal silica-polished Fig.2 Surface view of RUBs specimens exposed to hydrogenated steam at 400 ?C for 750h Table3に割れの有無及びRUB試験片のラマン分光法測 定結果を示す。湿式エメリー紙で研磨を行った全ての RUB 試験片で Cr2O3の明確なピークが認められた。一方 で、コロイダルシリカで最終仕上げを行ったRUB試験片 では異なる傾向を示した。Ni-14CrではCr2O3とNiOが形 成されていた。また、Cr2O3のピーク強度が小さく、複数 点測定したものの Cr2O3 のピークを示さない箇所もある ことから Cr2O3 が十分に形成されていない可能性が示唆 - 332 - 3.2 400°Cの水素を含む水蒸気環境における Ni-Cr 合金での酸化、割れ特性に及ぼす表面処理の影響 Fig.2 にRUB試験片の表面SEM 写真を示す。湿式エメ リー紙で研磨を行った全ての RUB 試験片で割れは認め られなかった。また、表面に研磨痕が確認認められたこ とから皮膜は非常に薄いものと考えられる。一方で、コ ロイダルシリカで最終仕上げを行った RUB 試験片では、 Ni-14Cr においてのみ明確な割れが認められた。また、 Ni-22Cr、Ni-30Cr では粒界に沿って皮膜の損傷が認めら れたが、明確に開口していなかった。また、断面観察よ りNi-14Cr ではき裂深さが100μm 以上にも及ぶ一方で、 Ni-30Cr ではき裂深さがナノメートルオーダーであり非 常に浅いものであったことから、今回は割れ感受性なし と判断した。 された。Ni-22Cr、Ni-30CrではCr2O3、NiOに加えNiCr2O4 が形成されており、それぞれのピーク強度は異なってい た。 Table3 Summary of cracking susceptibility and oxide Raman analysis (excitation wavelength:532nm) in hydrogenated steam at 400 ?C Surface preparation Materials Ni-14Cr Ni-22Cr Ni-30Cr Emery-polished No Crack No Crack No Crack Cr2O3 Cr2O3 Cr2O3 Fig.3 に平板試験片の表面SEM 写真を示す。平板試験 片では両者の酸化形態に大きな違いが認められた。湿式 エメリー紙で研磨を行った全ての平板試験片では明確に 研磨痕が確認されたため、皮膜が非常に薄いものと考え られる。一方で、コロイダルシリカで最終仕上げを行っ た平板試験片では粒界に沿って突起物を形成していた。 また、Ni-22Cr、Ni-30Cr では結晶粒上に数μm程度の粒状 酸化物を形成していた。 (a)Emery-polished (b)Colloidal silica-polished Fig.3 Surface view of plate specimens exposed to 400 ?C steam for 750h Fig.4 にコロイダルシリカで最終仕上げを行った Ni-14Crの平板試験片のSTEM像とEDXマッピング結果 を示す。皮膜直下の結晶粒界に沿って内部酸化が認めら Colloidal silica-polished Crack No Crack No Crack NiO (Cr2O3)weak NiCr2O4 Cr2O3 NiO Cr2O3 NiCr2O4 NiO Fig.4 Cross-sectional STEM observation of colloidal silica-polished Ni-14Cr plate 2.3 700°Cの水蒸気環境における Ni-Cr 合金での酸 化特性に及ぼす表面処理の影響 Fig.5 に平板試験片の断面 SEM 写真を示す。湿式エメ リー紙で研磨を行った試験片では非常に薄い皮膜を形成 しており、Cr 含有量が異なる材料間での酸化挙動に明確 な差異は認められない。 一方で、コロイダルシリカで最終仕上げを行った試験 片では、湿式エメリー紙で研磨を行った試験片と比較し 厚い内層皮膜を形成していた。また、Cr 含有量が異なる 材料間での酸化挙動が明確に異なっていた。コロイダル シリカで最終仕上げを行ったことで、金属の極表面に導 入された冷間加工が除去され、Ni 基合金での酸化挙動に 及ぼすCr 含有量の影響を明確にしたものと考えられる。 - 333 - れた。また、粒界酸化部の先端から先の結晶粒界に沿っ てCr欠乏領域が認められた。一方で、湿式エメリー紙で 研磨を行った平板試験片では粒界に沿った内部酸化およ び Cr 欠乏層は認められず、表面に連続的な Cr リッチな 酸化皮膜を形成していた。 これらの結果は、湿式エメリー紙で研磨をすることに よって合金の極表面に導入された冷間加工がCrの外方拡 散を加速し、酸素の拡散障壁となる保護皮膜の形成を促 進させたものと考えられる。このことが湿式エメリー紙 研磨を行った RUB 試験片では高い耐 SCC 性を示した理 由であると考えられる。 (b)Colloidal silica-polished Fig.6 n-value of Ni base alloys (a)Emery-polished (b)Colloidal silica-polished 4.結言 Fig.5 Cross sectional SEM view of samples steam- ・湿式エメリー紙で研磨を行うことで極表面に導入され oxidized at 700°C for 500h た冷間加工は酸化特性及び割れ感受性に著しく影響を与 えた。これは、Crの拡散が促進されたことで、Crリッチ 2.4 Ni-Cr合金での酸化速度に及ぼすCr含有量の影 な酸化皮膜が連続的に形成されたことによるものと考え 響 られる。 700°Cの水蒸気酸化試験における重量増加の結果から、 ・材料表面に冷間加工が存在しない材料において材料本 以下の式を用いて導出した各試験片でのn値をFig6 に示 来が持つ酸化特性が表れた。 す。 log( ? Am ) = tnc + ? )log( ・400°Cの水素を含む水蒸気中において、コロイダルシリ カで最終仕上げを行った Ni-14Cr では割れ感受性を示し た。一方で、湿式エメリー紙で研磨を行ったNi-14Cr では (⊿m:重量変化、t:試験時間、c:切片、n:傾き) 割れ感受性を示さなかった。コロイダルシリカで最終仕 上げを行った Ni-14Cr の極表層において粒界に沿った内 コロイダルシリカで最終仕上げを行った試験片の方が 部酸化及びCr欠乏領域が認められた。このような特徴は 大きな n 値を示し、酸化速度が大きいことがわかる。ま 湿式エメリー紙で研磨を行った試験では認められなかっ た、湿式エメリー研磨を行った試験片ではCr含有量に対 た。 して n 値の依存性は見受けられない。一方で、コロイダ ・700°Cの水蒸気酸化試験では、湿式エメリー紙による研 ルシリカで最終仕上げを行った試験片では、 磨の影響が明確に確認できた。コロイダルシリカで最終 Ni-24Cr~Ni-26Crにおいて小さいn値をしている。コロイ 仕上げを行った試験片での結果から、耐水蒸気酸化性を ダルシリカで最終仕上げを行ったことで極表面に存在す る冷間加工が除去され、Ni 基合金における酸化挙動に及 ぼす Cr 含有量の影響を明確にさせたものと考えられる。 これより、耐水蒸気酸化性を示す最適な Cr 含有量は 24~26% (Ni:Cr=1:3?) であると考えられる。 示す最適なCr含有量は24~26%であると考えられる。 参考文献 [1]F.Scenini,R.C.Newman,R.Cottis,R.Jacko, 12th International conference on environmental degradation,(2005), 891-902. [2]F.Scenini, R.C.Newman, R.A.Cottis, R.J.Jacko, Corrosion, 60 (2008), 824-835. [3] S. Le Hong, Corrosion, 57 (2001), 323-333. - 334 - (a)Emery-polished“ “湿式エメリー研磨により導入された極僅かな冷間加工が ニッケル基合金の水蒸気酸化挙動に及ぼす影響 “ “熊谷 大介,Daisuke KUMAGAI,阿部 博,Hiroshi ABE,渡邉 豊,Yutaka WATANABE, INSA Lyyo Fethi HAMDANI, Fethi HAMDANI
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