BWR 模擬環境での SCC 試験のためのすき間形成材の評価
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カテゴリ: 第11回
1.緒言
すき間付き定ひずみ曲げ(CBB)試験は、沸騰水型 原子炉(BWR)一次冷却水環境における鋭敏化ステン レス鋼のSCC感受性を評価するための実験室加速試験 法として開発され 1)、現在では高温水環境中における 各種耐食合金のSCC感受性評価に幅広く適用されてい る。この試験法の特徴として、短冊状試験片を治具の 曲面に沿って挟み付けることで約 1%の曲げひずみを 付与できる点、試験面一様に割れが発生する点、腐食 を加速させるすき間を付与できる点が挙げられる。す き間は、実機環境における不溶性金属物(クラッ ド)の堆積を模擬している。すき間形成材にはグラフ ァイトファイバーウール(GFW)が用いられており、 試験前に高温高純度水中に 24 時間以上浸漬すること が推奨されている。しかしながら、塩化物イオンに代 表される GFW 由来の不純物イオンが、すき間の濃縮 効果によってSCCを加速させている可能性が否定出来 ないという懸念がある。近年では、Ni 基合金溶接金属 /低合金鋼溶接部の溶融境界近傍における SCC 進展・ 停留挙動評価にも CBB 試験が適用されている 2,3)。一方で、5-10ppb レベルの塩化物イオンが低合金鋼の高温 水中SCC進展速度を大幅に増大させることが報告され ており 4)、CBB 試験のすき間環境における GFW 由来 の不純物イオン溶出の可能性については注意が必要で ある。また、実機環境中には大量のカーボンが存在す る箇所はないことから、CBB 試験のすきま環境は実機 のそれとは異なると考えられる。さらに、試験後 GFW はペースト状になっていることから、長時間の試験の 場合はすき間条件が一定に保たれない懸念がある。本研究では、厳密に環境制御された条件での実験結 果を得るために、すき間条件を変数とした高温水中 CBB 試験を実施し、CBB 試験におけるすき間付与方法 を検討した。
2.試験方法
2.1 すき間形成材の検討 鋭敏化 SUS316 を供試材として、複数の隙間形成材 を用いて高温水中 CBB 試験を実施し、割れ感受性を評 価することですき間形成材に GFW を用いない試験法 について検討した。CBB 試験条件ならびに採用したす き間条件を表 1、2 にそれぞれ示す。GFW、SUS316L 製ステンレスウール(SSW)、Ni メッシュの繊維径は 連絡先: 阿部 博志、〒980-8579 仙台市青葉区荒 巻字青葉 6-6-01-2 東北大学 大学院工学研究科 量子エネルギー工学専攻、電話:022-795-7911、 e-mail:hiroshi.abe@qse.tohoku.ac.jp それぞれ 20μm、40 μm、50 μm であった。試験終了後、 試験片表面を金属顕微鏡で観察し、割れ感受性の有無 を確認した。 - 335 - 2.2 すき間条件の検討 GFW、すき間のみ、SSW の条件下において、すき間 厚さを変数として 2.1 と同様に割れ感受性を評価した。 すき間条件を表 3 に示す。試験後、試験片の表面観察 に加えて、試験片を長手方向に板幅の 1/2、1/4 の位置 で切断した後、切断面を観察してき裂の数・深さを評 価した。 3.試験結果ならびに考察 3.1 すき間形成材の検討結果 試験後の試験片の表面観察から割れ感受性の有無を 評価した結果、GFW、すき間のみ、SSW の試験片で多 数のき裂が認められ、すき間なし、Ni メッシュの試験 片ではき裂は発生しなかった。Ni メッシュでき裂が発 生しなかった理由として、メッシュに圧縮性がなく隙 間としての効果がなくなったことが考えられる。また、 すき間のみでは中央部にのみき裂が確認されたのに対 し、GFW ならびに SSW は試験面全面でき裂が発生し ていた。SSW 条件の試験片では全域にわたって黒色の 粒状酸化物で覆われており(図 1)、適切な成分の金属 ウールを使用することで、クラッドの付着効果を模擬 した CBB 試験が行える可能性がある。すき間形成材と して SSW を用いることで、GFW と同程度の規模のき 裂発生が期待できる。 3.2 すき間条件の検討結果 すき間のみの条件ではいずれもき裂は認められな かった。一方で GFW ならびに SSW では試験面全面で き裂が発生していた。断面観察から求めたき裂の数な らびに深さについて整理して図 2, 3 に示す。き裂発生 数で比較すると、GFW>SSW であった。またすき間間 隔に着目すると、GFW・SSW ともにき裂の発生数は 500μm>200μm であったが、一方で 200μm においての み、深さ数百μm 規模のき裂が認められた。すき間形成 材の見かけの密度に応じて、き裂の進展挙動が異なる 可能性が示唆された。次に、試験前後の SSW の SEM 写真を図 4 に示す。試験前後でウール形状に大きな違 いは認められなかったことから、すき間条件が一定に 保たれていたと判断された。以上の結果から、すき間 間隔を適切に調整することで、SSW が GFW のすき間 形成材代替材として適用可能であることが示唆された。 Table 1. CBB test condition Sample Sensitized SUS316(EPR ratio=62.3%) Specimen L35×W8×T2mm Temp/Press 288°C/9MPa Water chemistry 68ppb SO42- Dissolved oxygen Air-saturated(8ppm) Flow rate 6ml/min(3.4~10ml/min) Duration 500h Table 2. Crevice condition for test 1 No. Crevice former 1 GFW + T100μm spacer 2 No crevice (Free surface) 3 No crevice former + T100μm spacer 4 SSW + T100μm spacer 5 T50μm Ni mesh ×2+ + T100μm spacer 6 T50μm Ni mesh ×4+ + T100μm spacer Table 3. Crevice condition for test 2 No. Crevice former Thickness of Apparent density spacer(mm) (g/cm3 ) 1 GFW 0.5 0.6 2 GFW 0.2 1.5 3 - 0.5 - 4 - 0.2 - 5 - 0.1 - 6 SSW 0.5 2.0 (GFW conversion:0.57) 7 SSW 0.2 5.0 GFW conversion:1.42) Fig.1 Appearance of the specimen surface tested with using stainless steel wool as a crevice former. - 336 - Fig. 4 SEM images of the stainless steel wool. - 337 - 0 10 10 SSW / 0.5 mm SSW / 0.2 mm GFW / 0.5 mm 88GFW / 0.2 mm 664422000 100 100 200 200 300 300 400 400 500 500 600 600 700 700 800 800 900 900 10001100 10001100 Crack Crack depth, depth, μm μm SSW / 0.5 mm SSW / 0.2 mm GFW / 0.5 mm GFW / 0.2 mm Fig.2 all of number of cracks vs. crack depth obtained from the cross-sectional observation of the specimens. 350 350 SSW SSW / / 0.5 0.5 mm mm SSW SSW / / 0.2 0.2 mm mm 300 300 GFW GFW / / 0.5 0.5 mm mm GFW GFW / / 0.2 0.2 mm mm 250 250 200 200 150 150 100 100 50 50 000 0 20 20 30 30 40 40 50 50 60 60 70 70 80 80 90 90 100 100 Crack Crack depth, depth, μm μm Fig.3 Number of cracks vs. crack depth (< 100 μm) obtained from the cross-sectional observation of the specimens. 結言すき間条件を変数とした高温水中 CBB 試験を実施 し、CBB試験におけるすき間付与方法の検討を行った。 (1) 隙間のみでも試験片中央部は十分に割れ感受性 を示す例はあったが、再現性に乏しいと判断され た。 (2) SSW を用いた場合、試験片表面で鉄酸化物の堆積 が顕著であったことから、適切な成分の金属ウー ルを用いれば、クラッドの付着効果を模擬した CBB 試験が行える可能性がある。 (3) き裂の発生数で比較すると、GFW>SSWであった。 すき間間隔に着目すると、GFW・SSW ともにき 裂の発生数は 500μm>200μm であったが、一方で 200μm においてのみ、深さ数百μm 規模のき裂が 認められた。 (4) すき間間隔を適切に調整することで、SSW が GFW のすき間形成材代替材として適用可能であ ることが示唆された。 謝辞本研究の一部は、BWR 7 電力からの(社)腐食防食協会 受託研究の一環として実施されたものである。 参考文献 [1] 明石正恒,川本輝明:石川島播磨技報, 17, pp472-478 (1977) [2] 阿部博志、石澤允、宮崎孝道、渡辺豊、第 57 回材料と環境討論会予稿集、A-108、(2010) [3] 榊原洋平、中山元、平野隆、第 57 回材料と 環境討論会予稿集、A-102、(2010) [4] H.P. Seifert, S. Ritter, Journal of Nuclear Materials, 372, pp.114-131, (2008)“ “BWR 模擬環境での SCC 試験のためのすき間形成材の評価 “ “阿部 博志,Hiroshi ABE,石倉 潤一,Junichi ISHIKURA,渡邉 豊,Yutaka WATANABE
すき間付き定ひずみ曲げ(CBB)試験は、沸騰水型 原子炉(BWR)一次冷却水環境における鋭敏化ステン レス鋼のSCC感受性を評価するための実験室加速試験 法として開発され 1)、現在では高温水環境中における 各種耐食合金のSCC感受性評価に幅広く適用されてい る。この試験法の特徴として、短冊状試験片を治具の 曲面に沿って挟み付けることで約 1%の曲げひずみを 付与できる点、試験面一様に割れが発生する点、腐食 を加速させるすき間を付与できる点が挙げられる。す き間は、実機環境における不溶性金属物(クラッ ド)の堆積を模擬している。すき間形成材にはグラフ ァイトファイバーウール(GFW)が用いられており、 試験前に高温高純度水中に 24 時間以上浸漬すること が推奨されている。しかしながら、塩化物イオンに代 表される GFW 由来の不純物イオンが、すき間の濃縮 効果によってSCCを加速させている可能性が否定出来 ないという懸念がある。近年では、Ni 基合金溶接金属 /低合金鋼溶接部の溶融境界近傍における SCC 進展・ 停留挙動評価にも CBB 試験が適用されている 2,3)。一方で、5-10ppb レベルの塩化物イオンが低合金鋼の高温 水中SCC進展速度を大幅に増大させることが報告され ており 4)、CBB 試験のすき間環境における GFW 由来 の不純物イオン溶出の可能性については注意が必要で ある。また、実機環境中には大量のカーボンが存在す る箇所はないことから、CBB 試験のすきま環境は実機 のそれとは異なると考えられる。さらに、試験後 GFW はペースト状になっていることから、長時間の試験の 場合はすき間条件が一定に保たれない懸念がある。本研究では、厳密に環境制御された条件での実験結 果を得るために、すき間条件を変数とした高温水中 CBB 試験を実施し、CBB 試験におけるすき間付与方法 を検討した。
2.試験方法
2.1 すき間形成材の検討 鋭敏化 SUS316 を供試材として、複数の隙間形成材 を用いて高温水中 CBB 試験を実施し、割れ感受性を評 価することですき間形成材に GFW を用いない試験法 について検討した。CBB 試験条件ならびに採用したす き間条件を表 1、2 にそれぞれ示す。GFW、SUS316L 製ステンレスウール(SSW)、Ni メッシュの繊維径は 連絡先: 阿部 博志、〒980-8579 仙台市青葉区荒 巻字青葉 6-6-01-2 東北大学 大学院工学研究科 量子エネルギー工学専攻、電話:022-795-7911、 e-mail:hiroshi.abe@qse.tohoku.ac.jp それぞれ 20μm、40 μm、50 μm であった。試験終了後、 試験片表面を金属顕微鏡で観察し、割れ感受性の有無 を確認した。 - 335 - 2.2 すき間条件の検討 GFW、すき間のみ、SSW の条件下において、すき間 厚さを変数として 2.1 と同様に割れ感受性を評価した。 すき間条件を表 3 に示す。試験後、試験片の表面観察 に加えて、試験片を長手方向に板幅の 1/2、1/4 の位置 で切断した後、切断面を観察してき裂の数・深さを評 価した。 3.試験結果ならびに考察 3.1 すき間形成材の検討結果 試験後の試験片の表面観察から割れ感受性の有無を 評価した結果、GFW、すき間のみ、SSW の試験片で多 数のき裂が認められ、すき間なし、Ni メッシュの試験 片ではき裂は発生しなかった。Ni メッシュでき裂が発 生しなかった理由として、メッシュに圧縮性がなく隙 間としての効果がなくなったことが考えられる。また、 すき間のみでは中央部にのみき裂が確認されたのに対 し、GFW ならびに SSW は試験面全面でき裂が発生し ていた。SSW 条件の試験片では全域にわたって黒色の 粒状酸化物で覆われており(図 1)、適切な成分の金属 ウールを使用することで、クラッドの付着効果を模擬 した CBB 試験が行える可能性がある。すき間形成材と して SSW を用いることで、GFW と同程度の規模のき 裂発生が期待できる。 3.2 すき間条件の検討結果 すき間のみの条件ではいずれもき裂は認められな かった。一方で GFW ならびに SSW では試験面全面で き裂が発生していた。断面観察から求めたき裂の数な らびに深さについて整理して図 2, 3 に示す。き裂発生 数で比較すると、GFW>SSW であった。またすき間間 隔に着目すると、GFW・SSW ともにき裂の発生数は 500μm>200μm であったが、一方で 200μm においての み、深さ数百μm 規模のき裂が認められた。すき間形成 材の見かけの密度に応じて、き裂の進展挙動が異なる 可能性が示唆された。次に、試験前後の SSW の SEM 写真を図 4 に示す。試験前後でウール形状に大きな違 いは認められなかったことから、すき間条件が一定に 保たれていたと判断された。以上の結果から、すき間 間隔を適切に調整することで、SSW が GFW のすき間 形成材代替材として適用可能であることが示唆された。 Table 1. CBB test condition Sample Sensitized SUS316(EPR ratio=62.3%) Specimen L35×W8×T2mm Temp/Press 288°C/9MPa Water chemistry 68ppb SO42- Dissolved oxygen Air-saturated(8ppm) Flow rate 6ml/min(3.4~10ml/min) Duration 500h Table 2. Crevice condition for test 1 No. Crevice former 1 GFW + T100μm spacer 2 No crevice (Free surface) 3 No crevice former + T100μm spacer 4 SSW + T100μm spacer 5 T50μm Ni mesh ×2+ + T100μm spacer 6 T50μm Ni mesh ×4+ + T100μm spacer Table 3. Crevice condition for test 2 No. Crevice former Thickness of Apparent density spacer(mm) (g/cm3 ) 1 GFW 0.5 0.6 2 GFW 0.2 1.5 3 - 0.5 - 4 - 0.2 - 5 - 0.1 - 6 SSW 0.5 2.0 (GFW conversion:0.57) 7 SSW 0.2 5.0 GFW conversion:1.42) Fig.1 Appearance of the specimen surface tested with using stainless steel wool as a crevice former. - 336 - Fig. 4 SEM images of the stainless steel wool. - 337 - 0 10 10 SSW / 0.5 mm SSW / 0.2 mm GFW / 0.5 mm 88GFW / 0.2 mm 664422000 100 100 200 200 300 300 400 400 500 500 600 600 700 700 800 800 900 900 10001100 10001100 Crack Crack depth, depth, μm μm SSW / 0.5 mm SSW / 0.2 mm GFW / 0.5 mm GFW / 0.2 mm Fig.2 all of number of cracks vs. crack depth obtained from the cross-sectional observation of the specimens. 350 350 SSW SSW / / 0.5 0.5 mm mm SSW SSW / / 0.2 0.2 mm mm 300 300 GFW GFW / / 0.5 0.5 mm mm GFW GFW / / 0.2 0.2 mm mm 250 250 200 200 150 150 100 100 50 50 000 0 20 20 30 30 40 40 50 50 60 60 70 70 80 80 90 90 100 100 Crack Crack depth, depth, μm μm Fig.3 Number of cracks vs. crack depth (< 100 μm) obtained from the cross-sectional observation of the specimens. 結言すき間条件を変数とした高温水中 CBB 試験を実施 し、CBB試験におけるすき間付与方法の検討を行った。 (1) 隙間のみでも試験片中央部は十分に割れ感受性 を示す例はあったが、再現性に乏しいと判断され た。 (2) SSW を用いた場合、試験片表面で鉄酸化物の堆積 が顕著であったことから、適切な成分の金属ウー ルを用いれば、クラッドの付着効果を模擬した CBB 試験が行える可能性がある。 (3) き裂の発生数で比較すると、GFW>SSWであった。 すき間間隔に着目すると、GFW・SSW ともにき 裂の発生数は 500μm>200μm であったが、一方で 200μm においてのみ、深さ数百μm 規模のき裂が 認められた。 (4) すき間間隔を適切に調整することで、SSW が GFW のすき間形成材代替材として適用可能であ ることが示唆された。 謝辞本研究の一部は、BWR 7 電力からの(社)腐食防食協会 受託研究の一環として実施されたものである。 参考文献 [1] 明石正恒,川本輝明:石川島播磨技報, 17, pp472-478 (1977) [2] 阿部博志、石澤允、宮崎孝道、渡辺豊、第 57 回材料と環境討論会予稿集、A-108、(2010) [3] 榊原洋平、中山元、平野隆、第 57 回材料と 環境討論会予稿集、A-102、(2010) [4] H.P. Seifert, S. Ritter, Journal of Nuclear Materials, 372, pp.114-131, (2008)“ “BWR 模擬環境での SCC 試験のためのすき間形成材の評価 “ “阿部 博志,Hiroshi ABE,石倉 潤一,Junichi ISHIKURA,渡邉 豊,Yutaka WATANABE