SUS304L 鋼の局部腐食発生条件および進展継続性評価

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カテゴリ: 第11回
1.緒言
福島第一原子力発電所では炉内および使用済燃料プー ルへの海水注入が行われた。これらの構造物は高濃度の Cl-を含む環境中での使用が想定されていないため、局部 腐食の発生が懸念されている。加えて、構造物には金属 の接触部などのすきま構造が多数存在しているため、局 部腐食のなかでも特にすきま腐食が発生する可能性が高 いと考えられる。 JIS[1]により測定法が規定されている腐食すきま再不 動態化電位 ER,CREVは、すきま腐食を一旦発生させた上で 進展の比較的初期段階で進展停止(再不動態化)する電位 として定められる。そのため、ER,CREV は発生条件を保守 側に与えるものと考えられ、すきま腐食の発生の臨界電 位VC,CREVに一致することが分かっている[2]。ただし、腐 食すきまが大きく進展した場合にも JIS 法で測定される ER,CREVが腐食すきまの進展停止電位に一致するか否かは 不明である。 本研究では、定電位保持によりSUS304L鋼におけるす きま腐食の発生臨界条件と進展停止条件をもとめ、 ER,CREVと比較することで、ER,CREV の局部腐食生起臨界条 件と進展継続・停止の臨界条件への適用妥当性の評価を 行なった。
2.試料
供試材にはSUS304Lを用いた。供試材の組成をTable1 に示す。試験片の形状をFig.1に示す。試験片の表面は#600 まで湿式研磨を行なった。φ20 または φ40 のアクリル円 板をチタン製の M4 ボルト、ナットおよびワッシャーで 試験片に固定し、試験片とアクリルとの接触部をすきま 部とした。試験溶液にはCl-濃度が1000ppm (2.82×10-2 mol / L)のNaCl水溶液を用いた。試験溶液の温度は50°Cとし、 試験前にN2を通じることで脱気を行なった。
Fig.1 Schematic illustration of specimens 3.試験方法 3.1 腐食すきま再不動態化電位測定 JIS[1]に従い、以下の手順で ER,CREVの測定を行なった。 (1)試験片は、すきま部が完全に水没し、かつ導線接続部 が完全に気相部にあるように、脱気した試験溶液に半浸 漬した。(2)アノード方向への往路分極は、ポテンショス タットによって自然電極電位から電位掃引速度 30mV/minの動電位法でアノード電流が200 μAに達する まで行う。(3)腐食すきま成長は、(2)の往路分極でアノー ド電流が200 μAに達した後、直ちに定電流保持に切り替 え、200 μAで2時間保持することによって行った。(4)カ ソード方向への復路分極は、(3)で200 μAで定電流保持し た後、直ちにそのときの電極電位より10 mV卑な電極電 位に定電位保持し、電流のアノード方向への増加傾向が 認められたら、これよりもさらに10 mV卑な電位で再び 定電位保持し、2時間の定電位保持で電流のアノード方向 への増加傾向が認められなくなるまで、この操作を繰り 返した。(5)腐食すきま再不動態化電位は(4)の2 時間の定 電位保持で電流のアノード方向への増加傾向が認められ なくなる最も貴な値で表した。また、進展過程の保持電 流値や時間を変えて試験を行なった。参照電極には飽和 カロメル電極を用い、対極にはカーボングラファイトを 用いた。試験片にはすきま部の面積がφ20 およびφ40 の ものを用いた。 3.2 局部腐食生起臨界条件 以下の手順で試験を行なった。(1)試験片は、すきま部 が完全に水没し、かつ導線接続部が完全に気相部にある ように、脱気した試験溶液に半浸漬した。(2)試験片を種々 の電位で定電位保持し、電流の挙動を観察した。同様の 試験を複数回行なった。参照電極には Ag/AgCl を用い、 (1)定電位保持を行い、試験片にすきま腐食を発生させ た。すきま部がφ20の試験片では156mVSCE (200mVAg/AgCl)、 すきま部がφ40の試験片では204mVSCE (250mVAg/AgCl)を保 持電位とした。ただし、腐食すきま進展過程の保持電流 値が指定した値に達しない場合は、適時、電位を引き上 げた。(2)種々の保持電流値、保持時間ですきま腐食を進 展させた。この条件を変えることで腐食すきまの進展度 合いを調整した。(3)種々の電位で定電位保持を行い、電 流の挙動を観察することで腐食すきまが再不動態化する か調べた。試験後に試験片の観察を行なった。参照電極 には Ag/AgCl を用い、対極にはカーボングラファイトを 用いた。試験片にはすきま部の面積がφ20 およびφ40 の ものを用いた。 4.試験結果および考察 4.1腐食すきま再不動態化電位測定 Table2およびTable3にすきま部の面積がφ20およびφ40 での試験結果を示す。最大侵食深さが 40μm に満たない 場合も確認された。JIS 法では最大侵食深さが40μmに満 たない場合での測定結果は不適当であると規定されてい るため、今後の考察からは規定を満たしていない測定結 果を除いた。 Table2 から読み取れる結果のばらつきを踏まえて考え ると、本試験結果ではすきま部分の面積および最大侵食 深さによるER,CREV変化は見られないと考えられる。 Table2 the measurement results of ER,CREV (φ20) Table3 the measurement results of ER,CREV (φ40) - 339 - 対極にはカーボングラファイトを用いた。試験片にはす きま部の面積がφ20のものを用いた。 3.3 局部腐食進展停止条件 4.2 局部腐食生起臨界条件 Fig.2 に時間経過と電位および電流値の関係の一例を示 す。電位を操作した後、しばらくは電流値はほぼ一定で あるが、ある時点で電流値が急激に増加したことがわか る。この時点ですきま腐食が発生したと考えられる。本 試験では電流値が100 μAに達した時点をすきま腐食が発 生した時点とした。Fig.2 の場合ではすきま腐食発生まで にかかった時間は11703 sである。試験時間の最大を約30 日とし、その間に電流値の増加が見られなかった場合は 試験を打ちきった。試験後に試験片を観察したところ、 電流増加が見られなかった試験片には、すきま腐食の痕 跡は認められなかった。 Fig.3 に保持電位とすきま腐食発生にかかる時間の関係 を示す。白抜きで示してある点は、その時間まで保持し た場合でもすきま腐食の発生が確認されなかった試験結 果である。4.1 で調べた ER,CREV も合わせて示した。Fig.3 では、ER,CREV とくらべてある程度貴な電位に保持した場 合、すきま腐食が発生し、その保持電位が卑なほど発生 にかかる時間が長くなる傾向が確認できる。また、前節 で得られた ER,CREV以下の電位に保持した場合、今回の試 験時間内には、すきま腐食はほぼ発生しないことがわか る。この試験の結果から、ER,CREV がすきま腐食の発生の 臨界電位に相当すると考えられ、ER,CREV の生起臨界条件 としての適用は妥当であると考えられる。 Fig.2 The change with time of the current and potential when crevice corrosion occurred Fig.3 Effect of applied potential on the initiation of crevice corrosion 4.3 局部腐食進展停止条件 Fig.4 に試験結果の一例を示す。試験片のすきま部は φ20 であり、腐食すきま進展過程は 200 μA、2 時間であ り、その後の定電位保持は-94 mVSCEで行なった。破線で 示した時間で電流値の減少が見られたため、この時点で 腐食すきまの再不動態化が始まったと判断した。定電位 保持へ移行してから腐食すきまが再不動態化するまでに かかった時間は7214 s であった。試験時間の最大を約30 日とし、その間に腐食すきまが再不動態化したと判断で きなかった場合は試験を打ち切った。保持電位によって は、試験時間内に再不動態化が確認されない場合も見ら れた。 いるが、ER,CREV のデータバンド内で定電位保持された試 験片は今回の試験時間の範囲においては再不動態化して いない。すなわち、今回の試験結果からは、『ER,CREVデー タ幅の下限電位が、成長した腐食すきまの進展停止電位 にほぼ一致する』と読み取れる。さらなるデータ蓄積に よる検証が望まれる。今回の試験では、最大深さ183μm、 最大奥行き 16.7mm までの範囲で成長させた腐食すきま に対して再不動態化電位と再不動態化時間を調査したが、 より小さなサイズの腐食すきまの場合と同じデータ群の 中に含まれているように見えることから、少なくとも今 回の試験条件の範囲においては、腐食すきまの成長度合 - 340 - Fig.5 に試験結果をまとめたものを示す。Fig.5 には 4.2 の試験結果も合わせて記載している。ER,CREVは4.1で調べ た結果である。すきま腐食発生試験において、ER,CREV の データバンドおよびそれ以下の電位では、一例を除いて すきま腐食の発生が認められない。一方、ある程度まで 成長した腐食すきまの再不動態化試験においては、 ER,CREV のデータバンドより低い電位に保持された場合に は一例を除いて約5h以下の比較的早期に再不動態化して いが再不動態化に与える影響については読み取れなかっ た。 Fig.4 The change with time of the current and potential when crevice corrosion repassivated Fig.5 Effect of applied potential on the repassivation of crevice corrosion 5.結言 SUS304L を供試材として、すきま付き試験片の定電位 保持試験によりすきま腐食発生時間の電位依存性を調査 し、ER,CREV との関係を調べた結果、すきま腐食生起臨界 条件としてのER,CREV適用の妥当性が確認された。 腐食すきまの成長度合いを変えた上で、ポテンショス タットによる電位制御下でのすきま腐食停止試験を実施 し、腐食すきま再不動態化電位(ER,CREV)との比較を行 なった。最大深さ 183μm、最大奥行き 16.7mm までの範 囲では「ER,CREV データ幅の下限電位が、成長した腐食す きまの進展停止電位にほぼ一致する」ことを示唆する結 果となった。ただし、すきま腐食がさらに大きく進展し た後の再不動態化を適切に評価する指標ともなるか否か については、今後さらに検討が必要である。 謝辞 本研究は、原子力安全基盤機構(現:原子力規制庁)の委 託業務「25 年度原子力設備への海水混入によるステンレ ス合金の局部腐食の発生と進展継続性評価に係る研究」 の成果の一部である。ここに謝意を表する。 参考文献 [1] “JIS G 0592 ステンレス鋼の腐食すきま再不動態化 電位測定方法”、 2002 [2] 辻川茂男、 久松敬弘、 “すきま腐食における再不 動態化電位について”、 防食技術、 Vol.29、1980、 pp.37-40. - 341 -“ “SUS304L 鋼の局部腐食発生条件および進展継続性評価 “ “関口 智大,Tomohiro SEKIGUCHI,岩金 弘樹,Hiroki IWAKANE,阿部 博志,Hiroshi ABE,渡邉 豊,Yutaka WATANABE
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