スウェジロック継手応急補修治具の開発

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カテゴリ: 第11回
1.はじめに
原子力発電所の計装配管には,着脱性に優れた機械式 のスウェジロック継手を使用している.このスウェジロ ック継手は扱いが簡便であるものの,取扱いによっては 滲み等の漏えいを発生させる場合がある.この漏えいに 対して適用できる補修技術としては,「日本機械学会 発 電用原子力設備規格 維持規格 [1]」(以下,維持規格と 称す.)に記載された,当て板補修,接着剤補修,充て ん補修があるが,この内,当て板補修については,運転 中の溶接作業を伴うため,「接着剤補修」か「充てん補 修」方法の2つのいずれかを採択するのが一般的となっ ている.しかし,接着剤補修も適用可能温度/圧力範囲が 狭いことから,充てん補修を採用するケースが多く,ク ランプ設計,ヒータ製作,充てん補修作業に相当の期間 を必要としているのが実情である.よって,短期間補修 が可能な補修技術を確立させていくことは,プラントの 運転保守の観点から非常に有効である.本稿では,スウェジロック継手部分からの漏えいに対 する応急補修技術として,充てん補修の準備期間短縮の ため,スウェジロック継手用小型クランプ を型式毎に 標準設計ができるような基礎技術を検討した.
2.充てんクランプの詳細検討結果 2.1 充てんクランプの構造検討 1 充てんクランプの形状検討結果 (a) クランプ本体の寸法
充てんクランプの形状を検討する上で,スウェジロッ ク継手を覆う為に必要な寸法について検討した. <ケース1>:ミニマムサイズとするため,スウェジロッ ク継手の外寸である径φ20×軸方向45mm に対し,クランプ内寸はφ21mm×軸方向 48mm で計画した. <ケース2>:維持規格の制約寸法である,充てん厚さ 7mm 以上,充てん材施工幅として欠陥部 より25mm 以上を考慮し,クランプ内寸は φ29mm×軸方向96mm で計画した. (b) クランプシール部の形状について 充てん材及び内部流体をメタルタッチでシールするた めの形状を検討した. (c)配管接触部シール形状 配管接触部について,グランドパッキンによるシール 方式を検討した.ケース1 については,サイズミニマム 化のため,パッキン段数を2 段とし,クランプ内で押し ボルトによる面圧負荷が可能な構造とした.ケース2 に
ついては,パッキン段数を4 段とし,クランプ外部から- 37 - 締め付け冶具を用いて面圧負荷が可能な構造とした. (d) クランプの耐圧強度検討 充てんクランプの性能を達成する上で,圧力容器とし ての強度とクランプ締付ボルトの強度の評価を行う.ク ランプ内最大圧力を55MPa にて設計する.充てんクラン プの耐圧強度について,一般的な容器の評価方法である JIS B 8265「圧力容器の構造」を準用し,評価を実施した 結果,材質をSCM435 とした場合,必要厚さは1.46mm と なる.よって,クランプ厚さは,ケース1,ケース2 とも に1.5mm 以上を確保できるような構造を計画するもの とした. (e) ボルトの強度検討 ボルトには,クランプ合わせ面圧とグランドパッキン の締付によるグランドパッキン側面圧及び充てんクラン プ内圧の3つの荷重を受けるので,これらの合計荷重が 生じても,ボルト1本当たりに生じる応力が許容応力以 内になるような,本数,断面積を検討した.ボルトの材 質をSCM435 とし,ケース1については11本,ケース2 については14本とし,必要な断面積を確保するため、 それぞれM6及びM8として計画するものとした. クランプ(ケース1)の概形図を図1に示す. 2 ヒータ設計検討結果 クランプを覆うヒータケースの内側に,ヒータを設置 しクランプを加熱することとした.クランプの加熱方法 は,クランプの外表面の構造が複雑であることと,形状 の異なる2種類のクランプに対応する必要があることか ら,クランプに接触させる必要のない輻射加熱方式とし た. ヒータは自動で昇温,温度保持が行えるような制御 回路を有している.ヒータ出力の制御は,充てん材の温 度とヒータの温度により制御される. 図1 クランプ概形図(ケース1) 2.2 充てんクランプ止水性確認試験 1試験装置の概要 試験装置の系統構成を図2に示す.ラインには試験体を 設置するための主ラインと緊急時迂回用のバイパスライ ンを設け,それぞれバルブにて隔離できるような構成と した.また,主ライン内には温度センサを設置し,ルー プの設定温度とは別に試験体設置部の温度を計測できる ようにした.同じく,ライン中に圧力計も設置した. 試験装置に設置したクランプの状況を図3に示す. (クランプ設置部詳細) 2試験結果 (a)常温高圧条件での止水性試験 [ケース2] 図3 試験装置に設置したクランプの状況 試験は,スウェジロック継手部に常温,17.5MPa にて3 - 38 - 図2 試験装置の系統構成 ~6cc/min の漏洩量となるように高圧水を供給した状態 から開始した.実際の漏洩量は5.9cc/min であった.この ときクランプ内外の温度は常温であり,充てんクランプ 内部で生じている漏洩水が真空ポンプにより回収されて いることが確認できた.〈状況A〉 次に,充てん開始前の予熱としてクランプ内外温度が 100°C以上になるように昇温した. 予熱完了後,充てんシリンダにて所定の充てん圧で充 てん材をクランプ内部へ充てんした. 充てん完了後,クランプ温度が充てん材の硬化温度の 250°Cとなるまで昇温し,2 時間の加熱硬化を実施した. 加熱硬化終了後,充てんシリンダによる加圧を停止し, ヒータを取外してクランプからの漏洩確認を実施した. その結果漏洩は認められず,充てん材がクランプ内で十 分に硬化して止水性を有していることが確認できた.〈状 況B〉 その後クランプ温度が試験開始時と同等の温度レベル まで降温された後,同様にクランプからの漏洩確認を実 施したが漏洩は認められなかった.〈状況C〉 以上の結果より,本充てんクランプ構造は常温高圧条 件において十分な止水性を有していることが確認できた. 試験結果を図4に示す。 (b)常温高圧条件での止水性試験 [ケース1] 試験は,スウェジロック継手部に常温,17.5MPa にて3 ~6cc/min の漏洩量となるように高圧水を供給した状態 から開始した.実際の漏洩量は3.4cc/min であった.〈状 況A〉 予熱完了後,充てんシリンダにて所定の充てん圧で充 てん材をクランプ内部へ充てんした. 充てん完了後,クランプ温度が充てん材の硬化温度の 250°Cとなるまで昇温し,2 時間の加熱硬化を実施した. 加熱硬化終了後,充てんシリンダによる加圧を停止し, ヒータを取外してクランプからの漏洩確認を実施した. その結果漏洩は認められず,充てん材がクランプ内で十 分に硬化して止水性を有していることが確認できた.〈状 況B〉 その後クランプ温度が試験開始時と同等の温度レベル まで降温された後,同様にクランプからの漏洩確認を実 施したが漏洩は認められなかった.〈状況C〉 以上の結果より,本充てんクランプ構造は常温高圧条 件において十分な止水性を有していることが確認できた. 試験結果を図5に示す。 図5 試験中のクランプ温度及び圧力 (ケース1, 常温,常圧) (c)高温高圧条件での止水性試験 [ケース2:1 回目,硬化 時クランプ温度約280°C] 試験は,スウェジロック継手部に常温,17.5MPa にて3 ~6cc/min の漏洩量となるように高圧水を供給した状態 から開始した.実際の漏洩量は4.3cc/min であった.その 後,クランプ内外の温度は,スウェジロック継手部なら びに供給配管からの伝熱により250°C以上に昇温され,充 てんクランプ内部で生じている漏洩は蒸気となって確認 された.〈状況A〉 続いて,充てん材をクランプ内部へ充てんした. 図4 試験中のクランプ温度及び圧力 加熱硬化終了後,クランプからの漏洩確認を実施した (ケース2, 常温,常圧) 結果,漏洩は認められず,充てん材がクランプ内で十分 に硬化して止水性を有していることが確認できた.〈状 況B〉 続けて熱サイクル試験として供給水温度の降温を実施 した.降温開始から約25 分経過後,クランプ温度が約 153°Cに達した時点で,クランプ合わせ面からの漏洩が確 認された.〈状況C〉 試験後のクランプ内部の状況をFig.4に示す.クランプ 内部の空間は充てん材が満たされているが,スウェジロ ック継手部の漏洩側の充てん材外表面には漏洩時のリー ク跡となる充てん材の荒れが認められた.また,充てん - 39 - 材の硬度は,(a)ならびに(b)と比較して高く,ゴム弾性が 若干低下している状況であった.尚,クランプ合わせ面 からの充てん材のはみ出しはごく微量であり,本クラン プ構造にて高温高圧の定常条件における止水に十分な充 てん圧の保持は可能であったと判断される. 以上の結果より,本充てんクランプ構造は高温高圧の 定常条件においては十分な止水性を有していることが確 認できた.但し,降温過程においては,充てん材の熱収 縮によってスウェジロック継手部の漏洩側から充てん材 内部を通過するリークパスを形成し,漏洩が生じること が確認された. 試験結果を図6に示す.また,試験後の内部状況を図7 に示す. (d)高温高圧条件での止水性試験 [ケース2:2 回目,硬化 時クランプ温度約320°C] (c)項の高温高圧条件での止水性試験では,(a)項の常温 高圧条件での止水性試験との差異を考慮すると,漏洩の 発生は加熱硬化時のクランプ温度ならびにスウェジロッ ク継手部/配管部温度が影響しているものと推定される. 具体的には,1常温高圧条件では加熱硬化時のクランプ 温度を所定の温度に制御可能であったが,高温高圧条件 ではスウェジロック継手部/配管部温度からの伝熱の影響 によりクランプ温度は所定の温度より高くなり,充てん 材本来のゴム弾性が低下したため熱収縮に追従しにくく なった,2常温高圧条件ではスウェジロック継手部/配管 部温度よりクランプ温度が高いため充てん材の外部より 加熱硬化が進行しやすいが,高温高圧条件ではクランプ 温度よりスウェジロック継手部/配管部温度が高いため充 てん材は内部より加熱硬化が進行しやすく,初期のリー クパスを内包しやすくなったことが,漏洩の要因と推定 される. そこで本試験では上記2の要因の影響確認を目的とし て,充てん材の許容温度まで充てんクランプを加熱して クランプ温度とスウェジロック継手部/配管部温度の温度 差をなくし,充てん材の加熱硬化温度を均一化するとと もに,降温過程における漏洩対策として追充てんの効果 を確認した. 試験は,スウェジロック継手部に常温,17.5MPa にて3 ~6cc/min の漏洩量となるように高圧水を供給した状態 から開始した.実際の漏洩量は3.7cc/min であった.その 後,クランプ内外の温度は,約320°Cに昇温され,充てん クランプ内部で生じている漏洩は蒸気となって確認され た.〈状況A〉 図6 試験中のクランプ温度及び圧力 続いて,充てん材をクランプ内部へ充てんした. (ケース2, 高温,高圧) 加熱硬化終了後,クランプからの漏洩確認を実施した 結果,漏洩は認められず,充てん材がクランプ内で十分 に硬化して止水性を有していることが確認できた.〈状 況B〉続けて熱サイクル試験としてヒータの加熱停止ならび に供給水温度の降温を実施した.ヒータの加熱停止後, クランプ温度が約250°Cに達した時点で,漏洩が確認され, 引続き,供給水温度の降温を開始したが漏洩は継続して いた.〈状況C〉 そこでクランプ温度約150°Cの時点で追充てん操作を 図7 試験後のクランプ内部状況 行い,漏洩確認を行った結果,漏洩が止まることを確認 できたため,充てんシリンダによる充てんを行いながら 常温まで供給水温度の降温を継続した.〈状況D〉 その後,追充てん後の加熱硬化処理を実施するため, 充てんシリンダによる充てんを行いながら再度供給水の 昇温ならびにヒータによる加熱を行い,クランプ温度約 320°Cまで昇温した後,2 時間の加熱硬化を実施した. 加熱硬化終了後,クランプからの漏洩確認を実施した が,追充てん前と同様に漏洩は認められず,充てん材が クランプ内で十分に硬化して止水性を有していることが - 40 - 確認できた.〈状況E〉 続けて追充てん後の熱サイクル試験として,再度ヒー タの加熱停止ならびに供給水温度の降温を実施した.追 充てん前の熱サイクル試験ではヒータの加熱停止のみで 漏洩が認められたが,追充てん後には漏洩は認められな かった.〈状況F〉 引続き,供給水温度の降温を実施した結果,クランプ 温度が約140°Cに達した時点で,軽微な漏洩が確認され, 以降常温に至るまで断続的に漏洩は継続した.〈状況G〉 その後,再び供給水温度の昇温を実施しながら漏洩確 認を行った結果,クランプ温度が約90°Cに達した時点で, 漏洩はなくなり,その後,クランプ温度が熱サイクル試 験実施前と同等のレベルに至るまで漏洩はないことを確 認できた.〈状況H〉 以上の結果より,本充てんクランプ構造は高温高圧の 定常条件においては十分な止水性を有していることを再 確認できた.但し,先の試験と同様に降温過程において は漏洩が生じたことから,ヒータ加熱による加熱硬化温 度の均一化の効果は認められなかったものの,追充てん 操作により止水性の向上が可能であることが確認された. 試験結果を図8(a),図8(b)に示す.また,試験後の内部 状況を図8に示す. (e)高温高圧条件での止水性試験 [ケース1] 実際の漏洩量は4.3cc/min であった.その後,クランプ 内外の温度は,スウェジロック継手部ならびに供給配管 からの伝熱により250°C以上に昇温され,充てんクランプ 内部で生じている漏洩は蒸気となって確認された〈状況 A〉. 続いて,充てんシリンダにて所定の充てん圧で充てん 材をクランプ内部へ充てんした. 加熱硬化終了後,クランプからの漏洩確認を実施した. その結果漏洩は認められず,充てん材がクランプ内で十 分に硬化して止水性を有していることが確認できた.〈状 況B〉 続けて熱サイクル試験として供給水温度の降温を実施 した.降温後,クランプ温度が約204°Cに達した時点で, 漏洩が確認され,引続き,供給水温度の降温中は漏洩が 続いた.〈状況C〉 そこでクランプ温度約172°Cの時点で追充てん操作を 行い,漏洩確認を行った結果,漏洩が止まることを確認 できたため,充てんシリンダによる充てんを行いながら 常温まで供給水温度の降温を継続した.〈状況D〉 その後,追充てん後の加熱硬化処理を実施するため, 充てんシリンダによる充てんを行いながら再度供給水の 昇温を行い,クランプ温度約280°Cまで昇温した後,2 時 間の加熱硬化を実施した. 加熱硬化終了後,クランプからの漏洩確認を実施した が,追充てん前と同様に漏洩は認められず,充てん材が クランプ内で十分に硬化して止水性を有していることが 確認できた.〈状況E〉 続けて追充てん後の熱サイクル試験として,再度供給 水温度の降温を実施した. その結果,クランプ温度が約113°Cに達した時点で,漏 図8(a) 試験中のクランプ温度及び圧力 (ケース2, 高温,高圧) 洩が確認され,以降常温に至るまで断続的に漏洩は継続 した.〈状況F〉 その後,再び供給水温度の昇温を実施しながら漏洩確 認を行った結果,クランプ温度が約120°Cに達した時点で, 漏洩はなくなり,その後,クランプ温度が236°Cに至るま で漏洩はないことを確認できた.〈状況G〉 以上の結果より,本充てんクランプ構造は高温高圧の 定常条件においては十分な止水性を有していることを再 確認できた.また,先の試験と同様に降温過程において は漏洩が生じたが,追充てん操作により止水性の向上が 図8(b) 試験中のクランプ温度及び圧力 可能であることが確認された. (ケース2, 高温,高圧) 試験結果を図9(a),図9(b)に示す. - 41 - 3止水性検証試験のまとめ 常温/17.5MPa の環境下での3~6cc/min 漏れに対し,ケ ース 1,ケース 2のクランプで止水できることを確認し た. 343°C/17.5MPa の環境下での3~6cc/min 漏れに対し, ケース 1,ケース 2のクランプで定常状態においては止 水できることを確認した. 343°C/17.5MPa での止水確認後,温度サイクル試験とし て,温度降下を行った際,ケース 1,ケース 2ともに, 漏えいが発生した.この推定原因として,配管からの伝 熱により,クランプが所定の熱硬化温度より高くなった ため,充てん材のゴム弾性が低下し,熱収縮に追従でき なかったことが考えられる. 止水性検証試験のまとめを表1に示す. 表1 止水性検証試験のまとめ 図9(a) 試験中のクランプ温度及び圧力 (ケース1, 高温,高圧) 3.結言 ・ミニマムサイズを目標としたクランプ(ケース 1)及 び維持規格に規定される制約寸法を満足するクランプ (ケース 2)の構造を検討し,設計・試作した. ・止水性検証試験の結果,いずれのクランプも常温・常 圧,高温・高圧の状況において十分な止水性を有するこ とを確認でき,基礎的な性能評価ができたものと考える. 図9(b) 試験中のクランプ温度及び圧力 ・温度サイクル試験で漏えいが発生したことから,本ク (ケース1, 高温,高圧) ランプでは300°C程度の高温状態から温度過渡が発生す る部位への使用は不向きと考える.しかし実機計装配管 のスウェジロック継手の環境条件で供給水温度が300°C を超えるものは少なく,更に通常運転中の温度は定常と 考えられることから,プラント停止時の監視強化を行う ことで大部分への適用が可能と考える. 参考文献 [1] 日本機械学会 発電用原子力設備規格 維持規格 JSME S NA1-2012 - 42 -“ “スウェジロック継手応急補修治具の開発 “ “中間 昌平,Shohei NAKAMA,小林 広幸,Hiroyuki KOBAYASHI,須田 康晴,Yasuharu SUDA,加福 秀考,Hidetaka KAHUKU,赤松 哲郎,Tetsuro AKAMATSU,岩田 知和,Tomokazu IWATA,松尾 隆司,Ryuji MATSUO
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