原子炉容器ノズルコーナーき裂に対する 応力拡大係数解の妥当性検討
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カテゴリ: 第11回
1.緒 言
日本電気協会電気技術規程 JEAC4206-2007「原子力発 電所用機器に対する破壊靭性の確認試験方法」[1]におい ては、原子炉容器に仮想欠陥を想定した状態で非延性破 壊を防止することが要求されている。ノズル内面のコー ナー部に対しても、容器胴部と同様、深さが板厚の 1/4 であるような仮想欠陥を想定した破壊力学評価が求めら れており、当該欠陥に対する応力拡大係数の評価式が整 備されている。一方、米国機械学会のBoiler and Pressure Vessel Code, Section XI [2], Appendix Gでは、ノズルコーナ ー部の仮想欠陥および応力拡大係数に対する詳細の要件 を規定することが検討されており[3]、JEAC4206-2007 に よる評価結果との比較検討が望まれる。ノズルコーナー は炉心領域の外にあるとは言え、中性子照射量が一定の レベルを超える場合には照射脆化に対する健全性評価が 求められる。実機運転条件を想定した場合、これら評価 による破壊に対する裕度を定量的に把握しておくことは、 評価の信頼性向上の点から重要である。本研究では、原子炉容器のノズルコーナーき裂に適用 可能な応力拡大係数解の調査を行うとともに、有限要素 解析結果との比較を通じてそれらの裕度を定量的に検討 した。
2.ノズルコーナーき裂に対する応力拡大係数
2.1 破壊評価の基本的な考え JEAC4206-2007 [1]における供用期間中の容器材料の破 壊靭性の要求に関する規程(A-3200)によれば、耐圧・ 漏えい試験を除く供用状態AおよびBの圧力・温度制限 として、 K I = 2 K Ip + K Iq < K Ic (1) また耐圧・漏えい試験の圧力・温度制限として、 K I = 1.5 K Ip + K Iq < K Ic (2) がそれぞれ求められており、この要求は(厚さ65 mmを 上回る)ノズルに対して適用される。ここで、KI は応力 拡大係数、KIpおよび KIqはそれぞれ一次応力、二次応力 による応力拡大係数である。KIcは温度の関数として与え られる材料の静的破壊靭性である。KI を算出する際に想 定する最大仮想欠陥は最大応力に垂直な鋭い半楕円形の 表面欠陥であり、その寸法(欠陥深さaおよび欠陥長さl) は胴部の母材の板厚Tに応じて、 60 mm ? T < 100 mmのとき、a = 25 mm、l = 150 mm 100 mm ? T ? 300 mmのとき、a = 0.25T、l = 1.5T T > 300 mm のとき、a = 75 mm、l = 450 mm とされている。 連絡先: 三浦 直樹 2.2 現行規程における応力拡大係数解 電力中央研究所 材料科学研究所 ノズルコーナー部のき裂に対する応力拡大係数の計算 〒240-0196 神奈川県横須賀市長坂2-6-1 方法はJEAC4206-2007 [1]附属書Fに規定されている。こ E-mail: miura@criepi.denken.or.jp - 375 1 - のうち、F-4100 にはノズル内径をパラメータとして(応 力拡大係数/胴部のフープ応力)とき裂深さの平方根の関 係が図の形式で与えられている。これを応力拡大係数解 KIの形式に整理すると、 K I = F ( a / r i ) σ h π a (3) と表すことができる。ここで、aはき裂深さ、riはノズル 部の内半径、σhは胴部のフープ応力である。F-4100 の図 よりデータを読み取って式(3)の補正係数F(a/ri)をa/riの関 数として表した結果を Fig.1 に示す。F(a/ri)は riの値に拠 らず、これを三次多項式に回帰近似すると、 F ( a / r ) ==2.8228-17.264 a / r + 65.553 ( a / r ) 2 - 86.043 ( a / r ) 3 -4なる評価式が導かれる。 一方、F-4200に与えられた応力拡大係数解は、 K I = F ( a / r n ) σ h π a , r n = r i + 0.29 r c (5) 0i i i i 1900/01/02 12:00:001900/01/02rrrri i i i Approximated 0.0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 a/ri == 5 inch = 10 inch 2.5 == 20 inch 2== 30 inch 1.51899/12/310.5 line by Eq. (4)Fig.1 Correction factors of stress intensity factor solution derived from JEAC4206-2007, F-4100 Approximated line by Eq. (6) Fig.2 Correction factors of stress intensity factor solution for JEAC4206-2007, F-4200 [1] ここで、rn はノズルコーナー部の欠損を考慮したノズル 部の内半径、rcはノズルコーナーの曲率半径である。同式 中の補正係数F(a/rn)はやはりF-4200 に図の形式で与えら れているが、その大本の解析結果[4]に対し、Mehta ら[5] は四次多項式による定式化を試みている。 F ( a / r n ) = 2.4582-5.4782 a / r n + 9.6492 ( a / r n ) ( ) ( ) 2- 8.80 a / r n 3 + 3.1446 a / r n 4(6) F-4200 における補正係数(図中の破線)を式(6)で与えら れる近似解と併せてFig.2 に示す。オリジナルの解と良好 な一致を示している。 2.3 既往研究における応力拡大係数解 前節で言及されたもの以外で、ノズルコーナーき裂を 適用対象とする応力拡大係数解を調査した結果、以下の 三つの解が抽出された。ノズルコーナーき裂の諸元は Fig.3のとおりである。 2.3.1 白鳥の解 白鳥ら[6]は、ノズルコーナー部の半だ円表面き裂に一 様膜応力σmが作用する場合のき裂最深点での応力拡大係 数解を導いている。その補正係数はrc/T、a/c、およびa/T の関数として表形式で与えられている。 2.3.2 Kobayashiの解 小林ら[7]は、ノズルコーナー部の 1/4 円表面き裂に任 意分布力(Fig.3中のx、y方向に沿った三次多項式分布の 和)が作用する場合のき裂最深点での応力拡大係数解を 導いている。その補正係数はa/riの関数として表形式で与 えられている。本解ではノズルコーナー部の丸みは考慮 されていない。 safe end ri t σ rc u x Fig.3 Configuration of nozzle corner crack - 376 - nozzle crack RPV 1900/01/01裂深さは胴部の厚さの1/4としてa 2.3.3 Fifeの解 == 29.25 mm とした。 Fife ら[8]は、ノズルコーナー部の1/4円表面き裂に任意 き裂前縁形状は円弧とし、その中心位置を胴内面とノズ 分布力が作用する場合のき裂最深点での応力拡大係数解 ル内面の交点とした場合(Model-2)、厚さ6 mmのクラッ を導いている。応力分布がFig.3において、 ドを考慮して胴内面とノズル内面の交点とした場合 σ = A 0 + Au 1 + Au 2 2 + Au 3 3
“ “原子炉容器ノズルコーナーき裂に対する 応力拡大係数解の妥当性検討 “ “三浦 直樹,Naoki MIURA,中川 純二,Junji NAKAGAWA
日本電気協会電気技術規程 JEAC4206-2007「原子力発 電所用機器に対する破壊靭性の確認試験方法」[1]におい ては、原子炉容器に仮想欠陥を想定した状態で非延性破 壊を防止することが要求されている。ノズル内面のコー ナー部に対しても、容器胴部と同様、深さが板厚の 1/4 であるような仮想欠陥を想定した破壊力学評価が求めら れており、当該欠陥に対する応力拡大係数の評価式が整 備されている。一方、米国機械学会のBoiler and Pressure Vessel Code, Section XI [2], Appendix Gでは、ノズルコーナ ー部の仮想欠陥および応力拡大係数に対する詳細の要件 を規定することが検討されており[3]、JEAC4206-2007 に よる評価結果との比較検討が望まれる。ノズルコーナー は炉心領域の外にあるとは言え、中性子照射量が一定の レベルを超える場合には照射脆化に対する健全性評価が 求められる。実機運転条件を想定した場合、これら評価 による破壊に対する裕度を定量的に把握しておくことは、 評価の信頼性向上の点から重要である。本研究では、原子炉容器のノズルコーナーき裂に適用 可能な応力拡大係数解の調査を行うとともに、有限要素 解析結果との比較を通じてそれらの裕度を定量的に検討 した。
2.ノズルコーナーき裂に対する応力拡大係数
2.1 破壊評価の基本的な考え JEAC4206-2007 [1]における供用期間中の容器材料の破 壊靭性の要求に関する規程(A-3200)によれば、耐圧・ 漏えい試験を除く供用状態AおよびBの圧力・温度制限 として、 K I = 2 K Ip + K Iq < K Ic (1) また耐圧・漏えい試験の圧力・温度制限として、 K I = 1.5 K Ip + K Iq < K Ic (2) がそれぞれ求められており、この要求は(厚さ65 mmを 上回る)ノズルに対して適用される。ここで、KI は応力 拡大係数、KIpおよび KIqはそれぞれ一次応力、二次応力 による応力拡大係数である。KIcは温度の関数として与え られる材料の静的破壊靭性である。KI を算出する際に想 定する最大仮想欠陥は最大応力に垂直な鋭い半楕円形の 表面欠陥であり、その寸法(欠陥深さaおよび欠陥長さl) は胴部の母材の板厚Tに応じて、 60 mm ? T < 100 mmのとき、a = 25 mm、l = 150 mm 100 mm ? T ? 300 mmのとき、a = 0.25T、l = 1.5T T > 300 mm のとき、a = 75 mm、l = 450 mm とされている。 連絡先: 三浦 直樹 2.2 現行規程における応力拡大係数解 電力中央研究所 材料科学研究所 ノズルコーナー部のき裂に対する応力拡大係数の計算 〒240-0196 神奈川県横須賀市長坂2-6-1 方法はJEAC4206-2007 [1]附属書Fに規定されている。こ E-mail: miura@criepi.denken.or.jp - 375 1 - のうち、F-4100 にはノズル内径をパラメータとして(応 力拡大係数/胴部のフープ応力)とき裂深さの平方根の関 係が図の形式で与えられている。これを応力拡大係数解 KIの形式に整理すると、 K I = F ( a / r i ) σ h π a (3) と表すことができる。ここで、aはき裂深さ、riはノズル 部の内半径、σhは胴部のフープ応力である。F-4100 の図 よりデータを読み取って式(3)の補正係数F(a/ri)をa/riの関 数として表した結果を Fig.1 に示す。F(a/ri)は riの値に拠 らず、これを三次多項式に回帰近似すると、 F ( a / r ) ==2.8228-17.264 a / r + 65.553 ( a / r ) 2 - 86.043 ( a / r ) 3 -4なる評価式が導かれる。 一方、F-4200に与えられた応力拡大係数解は、 K I = F ( a / r n ) σ h π a , r n = r i + 0.29 r c (5) 0i i i i 1900/01/02 12:00:001900/01/02rrrri i i i Approximated 0.0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 a/ri == 5 inch = 10 inch 2.5 == 20 inch 2== 30 inch 1.51899/12/310.5 line by Eq. (4)Fig.1 Correction factors of stress intensity factor solution derived from JEAC4206-2007, F-4100 Approximated line by Eq. (6) Fig.2 Correction factors of stress intensity factor solution for JEAC4206-2007, F-4200 [1] ここで、rn はノズルコーナー部の欠損を考慮したノズル 部の内半径、rcはノズルコーナーの曲率半径である。同式 中の補正係数F(a/rn)はやはりF-4200 に図の形式で与えら れているが、その大本の解析結果[4]に対し、Mehta ら[5] は四次多項式による定式化を試みている。 F ( a / r n ) = 2.4582-5.4782 a / r n + 9.6492 ( a / r n ) ( ) ( ) 2- 8.80 a / r n 3 + 3.1446 a / r n 4(6) F-4200 における補正係数(図中の破線)を式(6)で与えら れる近似解と併せてFig.2 に示す。オリジナルの解と良好 な一致を示している。 2.3 既往研究における応力拡大係数解 前節で言及されたもの以外で、ノズルコーナーき裂を 適用対象とする応力拡大係数解を調査した結果、以下の 三つの解が抽出された。ノズルコーナーき裂の諸元は Fig.3のとおりである。 2.3.1 白鳥の解 白鳥ら[6]は、ノズルコーナー部の半だ円表面き裂に一 様膜応力σmが作用する場合のき裂最深点での応力拡大係 数解を導いている。その補正係数はrc/T、a/c、およびa/T の関数として表形式で与えられている。 2.3.2 Kobayashiの解 小林ら[7]は、ノズルコーナー部の 1/4 円表面き裂に任 意分布力(Fig.3中のx、y方向に沿った三次多項式分布の 和)が作用する場合のき裂最深点での応力拡大係数解を 導いている。その補正係数はa/riの関数として表形式で与 えられている。本解ではノズルコーナー部の丸みは考慮 されていない。 safe end ri t σ rc u x Fig.3 Configuration of nozzle corner crack - 376 - nozzle crack RPV 1900/01/01裂深さは胴部の厚さの1/4としてa 2.3.3 Fifeの解 == 29.25 mm とした。 Fife ら[8]は、ノズルコーナー部の1/4円表面き裂に任意 き裂前縁形状は円弧とし、その中心位置を胴内面とノズ 分布力が作用する場合のき裂最深点での応力拡大係数解 ル内面の交点とした場合(Model-2)、厚さ6 mmのクラッ を導いている。応力分布がFig.3において、 ドを考慮して胴内面とノズル内面の交点とした場合 σ = A 0 + Au 1 + Au 2 2 + Au 3 3
“ “原子炉容器ノズルコーナーき裂に対する 応力拡大係数解の妥当性検討 “ “三浦 直樹,Naoki MIURA,中川 純二,Junji NAKAGAWA