最新の機械学習法を用いた回転機の異常監視手法の提案

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カテゴリ: 第11回
1.はじめに
限られた保全に関わる資源の元で、プラントの重要な 動的機器である回転機の信頼性を保ってゆくために、状 態監視保全(CBM)の役割はますます大きくなるが、その 前提として信頼のおける状態監視技術が重要となる。こ こで、信頼のおける状態監視技術とは、小さな異常兆候 を感度よく検出し、しかも、誤検知の少ないロバストな 手法である。この感度とロバストさという、相反するニ ーズを満たすために、著者らは、各種の信号処理法や機 械学習法を組み合わせた音響信号の自動分類問題に取り 組んできた[1、2]。そこでは、音響信号を用いた異常監視性 能は、信号の前処理手法(特徴抽出法)と状態識別手法 に大きく依存し、これらをうまく組み合わせることで大 きく異常検出感度やロバスト性を向上できることが明ら かにされている。しかしながら、この中の特徴抽出法では、経験に基づ く発見論的な手法が用いられている。一方で、最近、深 層ニューラルネットワーク(Deep Learning Neural Network, N)という新しいパラダイムで、特徴抽出と状態識別を まとめて行う方法が注目されている。より広い範囲の機 器の状態監視を行うためには、より汎用的な特徴抽出法 を準備しておくことが望ましい。そこで、本稿では、音響解析でよく使われている既存 の特徴抽出法といくつかの機械学習法を組み合わせたア ルゴリズムに加えて、深層ニューロネットワークのよう な最近注目されている手法も含めて、回転機の異常監視 への適用性能という視点で、それぞれのアルゴリズムを 評価する。性能は、検出感度とロバスト性という観点か ら評価するため、Receiver Operating Characteristics (ROC) という考え方を用いる。
2.状態監視手法
振動や音などの観測された機器の状態量から、正常・異 常といった機器の状態を識別するには二つのステップが 必要である。一つは、計測信号の前処理で、特徴抽出と
- 453 - 与えられたN いわれるステップである。もう一つは、この特徴抽出さ 個の可視素子v=(v1,...,vN)の訓練データか れ変換された状態量から、正常と異常を識別するステッ ら、Contrastive Divergence(CD)近似と呼ばれる効率的なア プである。従来、最初の特徴抽出ステップは、周波数変 ルゴリズムで、下記の尤度関数を最大化するようにパラ 換やケプストラム変換、メルスケール変換、包絡線処理 メータθ=(b、c、W)が推定できる。 など、発見論的に行われることが多い。また、主成分分 析やクラスター分析、自己組織型のニューラルネットワ ークなど、適用領域によらない一般的な特徴抽出もよく ???? ? ? ???? ? ???? ? ? ??????? 使われる。もうひとつの状態識別は、パターン認識また RBM では、可視素子間、隠れ素子間に結合がないので、 は機械学習と呼ばれる分野で広く研究されており、 下記の条件付き確率の厳密解も容易に計算できる。 Fisher の線形識別関数やサポートベクタマシンまで多く の手法が提案されている[4]。一方、最近提案された新しい ???? ? ???? ? ???? ? ???? ? ??? パラダイムとして、特徴抽出と状態識別を統合して行う Deep Learning Neural Network(DNN)といった考え方もあ ???? ? ???? ? ???? ? ? ????? ? る。(Fig.1) 本稿では、これらの中の代表的な手法を組み合わせて、 回転機の状態識別という観点から、それぞれの組み合わ せの有効性を検証してゆく。以下では、これらの手法の 主なものを簡単な説明する。 Sound Raw Data Fig.1 New Machine Learning Paradigm 2.1 Deep Learning Neural Network based on Restricted Boltzmann Machine Deep Learning Neural Network(DNN)は、Hintonらにより 提案された制約条件付きボルツマンモデル(RBM)を多 層に積み重ねた自己組織型の確率モデルである[3]。RBM は、可視素子v (visible node)と隠れ素子h(hidden node)から なる下記の結合確率で定義され、可視素子バイアス bi、 隠れ素子バイアスcj、ウェイトWijをパラメータとして持 つモデルである。 ?????? ? ?????????????? ?????? ? ?? ?? ? Feature Index Classification Results Machine Heuristics Learning ? ここで、???? ? ???? ? ???????? はシグモイド関数で ある。DNN は、上記RBM を多層に積み重ねたモデルで あり、各層のパラメータは、一つ前の層の隠れ素子の出 力値を観測値とみなして、Greedy アルゴリズムにより順 次学習してゆく、教師なしの自己組織型学習モデルとい Feature える。(Fig.2) Extraction Log-APSD, Capstrum LDA, SVM,RF Classification Layer Melscale-PSD,PCA Copy Sound Raw Data Fig.2 Greedy Layer-wise Pre-training without supervised (Left) and Supervised Training by Backpropagation (Right) 2.2 Autoassociative Neural Network(AANN) 自己関連付け型のニューラルネットワーク(AANN)は、 Fig. 3 に示すように砂時計型ネットワークとも呼ばれる。 各ノードは、通常、シグモイド関数を用いて入力の総和 から出力を計算する。入力信号から Mapping 層、 Bottle-neck 層、De-Mapping 層を通して、出力層で入力と 同じ値を予測するネットワークであり、ノード間の重み 係数は逆誤差伝播法で計算される。Mapping 層による基 本特徴量の抽出、Bottle-Neck 層による主成分特徴量の抽 出がうまく行われれば、強力な自己組織型の特徴抽出器 となる。Bottle-Neck 層は、入力空間のデータを小数次元 の空間で代表することができるため、Auto-encoderとも呼 ばれる。 - 454 - Hidden Layer (Auto-Encoder) Feature Extraction Feature (Auto-encoder) Index Classification Results Hidden Layer Deep Leaning Neural Network(DNN) Autoassociative Neural Network(AANN) Visible Layer ?? ? ? ?? ? ?? ? ????????? ? ? ? σ ? σ ? ??? ????????? ? ? ????? ????????? ? ????? ? ? ????? ????????? ? ????? Fig. 3 Autoassociative Neural Network 2.3 サポートベクタマシン サポートベクタマシン(SVM)は、カーネルトリックと 呼ばれるアルゴリズムに基づき、非線形変換された空間 での状態識別手法である。非線形変換は明示的には定義 されず、二つの状態の相関を示すカーネル関数で定義さ れる。本稿では、下記のガウシァンカーネル、および、 線形カーネルを用いる。 ?????? ? ??? ?? ?????? ??? ?, or, ?????? ? ? ? ?? SVM では、このカーネル関数をもちいた下記の識別関 数で、与えられた N 個のサポートベクターxnと対応する クラスyn、パラメータan、bをもちいて、状態x の正常・ 異常を識別する。 ???? ? σ ??????????? ???? ? ? > 0 : Normal < 0 : Abnormal ここで用いるパラメータは、二つのクラスの訓練デー タを用いて、両者の識別境界へのマージンを最大にする ように求められる。 2.4 経験的特徴抽出法 (1)メルスケールAPSD(Melscale-APSD) メルスケールの周波数軸は、人間の知覚特性を考慮し たスケールとして音声認識の分野でいくつか定義されて いるが、ここでは、下記の変換を用いた。 ) 700 1(log 1127 f m e + × = なお、振幅についても同様の対数変換をしている。 (2)ケプストラム(Cepstrum) ケプストラムは、音声認識でよく用いられる特徴抽出 法であるが、音声の観測周波数スペクトル X(ω) が、音 源の周波数特性 G(ω) と声道の周波数特性 H(ω)の積で 与えられることを考慮し、振幅の対数変換の逆フーリエ 変換として下記のように定義される。 Output Layer Input Layer De-Mapping Layer Bottle-neck Layer (Auto-Encoder) Mapping Layer - 455 - )(log )(log )(log )( 1 1 1 ω ω ω τ H G X c - - - + = = F F F ここで、τはケフレンシ(quefrency)と呼ばれるインデ クスであるが、この低ケフレンシ側、即ち、低次元側の ケプストラムは、対数スペクトルの包絡線に対応してお り、微細構造を持つ音源のスペクトルではなく、声道の 伝達特性、即ち、発音に対応するため、音声認識の精度 が向上するとされている。 3.評価結果 3.1 異常模擬試験データ Fig.4 は、回転機の異常を模擬する試験装置を示してい る。ここでは、モータが左側に位置し、カップリングを 介して、回転軸に連結されている。回転軸は、2箇所のボ ールベアリングで支持されており、右側のベアリングは 異常動作をシミュレートするために故障したものに置き 換えることができる。本研究では、このボールベアリン グの内輪に傷をつけた異常模擬ケース(内輪傷)と、モ ータ軸と回転軸のアライメントを変えた異常ケース(ミ スアライメント)の2種類を、正常データとともに扱う。 実験では、加速度センサと音響センサの 2 種類を測定 した。加速度センサは、右側のベアリングの固定支持部 に取り付け、音響センサ(マイク)は、ベアリングの近 傍(10cm距離)で測定した。本研究では、これらの中から、 マイクで測定した音響データを取り扱う。データは、 44.1kHzのサンプリング周期で50秒間測定した。さらに、 このデータを、それぞれ0.2秒の長さの250ケースのデー タに分割し、以下の分析に使用した。Fig.5 にこれらのデ ータを示す。右は、正常と内輪傷異常のlog-APSD の比較、 左は、正常とミスアライメントの比較で、250ケースのデ ータが重ねて表示されている。図からわかるように、正 常と異常データは一部で重なっており、単純な識別は必 ずしも容易ではないことがわかる。 Fig.4 Mock-up test facility of rotating machine and data logging system Fig.5 Comparison of normal log-APSD with misalignment abnormal (Left) and inner ring defect (Right) 3.2 結果 3.2.1 識別性能の評価 前記の正常・異常状態を高感度でかつロバストに識別 するために、2章で述べたいくつかの手法を組み合わせて、 その性能を確認する。組み合わせの一覧を Fig.6 に示す。 それぞれの性能は、正常検出確率(True Positive、TP)と誤 検出確率(False Positive、FP)で構成するReceiver Operating Characteristics(ROC)で評価する。 Fig.6 Combination of analysis algorithms Fig.6 で示した全ての組み合わせに対し、正常・異常各125 ケース(合計 250 ケース)からなる訓練データでモデル を作成し、残りの正常・異常各 125 ケースからなるテス トデータを用いてROCを評価した。尚、ここで用いたメ ルスケール APSD とケプストラムデータを、Fig.7,8 に示 しておく。また、これらのデータを用いた評価結果の一 覧をTable 1に示す。 Fig.7 Comparison of normal Cepstrum with misalignment 0 -5 -4 -4 -5.5) zH/1(DSPA-goL-6 -6.5-5-5Normal -6-6-7-7-8-8Abnormal -9-9(Inner Ring Defect) -10 0 2 4 6 8 10 12 14 16 Normal -7 -7.5-8 Abnormal -8.5(Misalignment? -10-100 2 2 4 4 6 6 8 8 10 10 12 12 14 14 16 16 Frequency(0 -22kHz) Frequency (0-22kHz) Misalignment Inner Ring ) zH/1(DSPA-goL-9 -9.5データ 特徴抽出 分類 属性の数 TPの数 FPの数 TP(%) FP(%) Error Number Sound-Misalignment log-APSD LDA 16 124 1 99% 1% 2 Sound-Misalignment log-APSD SVM 16 123 0 98% 0% 2 Sound-Misalignment Cepstrum LDA 16 125 0 100% 0% 0 Sound-Misalignment Cepstrum SVM 16 125 0 100% 0% 0 Sound-Misalignment Melscale-APSD LDA 16 125 0 100% 0% 0 Sound-Misalignment Melscale-APSD SVM 16 125 0 100% 0% 0 Sound-Misalignment Melscale-APSD PCA-5 LDA 5 125 0 100% 0% 0 Sound-Misalignment Melscale-APSD PCA-5 SVM 5 125 0 100% 0% 0 Sound-Misalignment Melscale-APSD DNN(16 16 10 8 4 2) LDA 16 124 0 99% 0% 1 Sound-Misalignment Melscale-APSD DNN(16 16 10 8 4 2) SVM 16 124 0 99% 0% 1 Sound-Misalignment Melscale-APSD AANN(16 32 2 32 16) LDA 16 125 0 100% 0% 0 Sound-Misalignment Melscale-APSD AANN(16 32 2 32 16) SVM 16 125 0 100% 0% 0 Sound-InnerRing log-APSD LDA 16 125 0 100% 0% 0 Sound-InnerRing log-APSD SVM 16 125 0 100% 0% 0 Sound-InnerRing Cepstrum LDA 16 125 0 100% 0% 0 Sound-InnerRing Cepstrum SVM 16 125 0 100% 0% 0 Sound-InnerRing Melscale-APSD LDA 16 125 0 100% 0% 0 Sound-InnerRing Melscale-APSD SVM 16 125 0 100% 0% 0 Sound-InnerRing Melscale-APSD PCA-5 LDA 5 125 0 100% 0% 0 Sound-InnerRing Melscale-APSD PCA-5 SVM 5 125 0 100% 0% 0 Sound-InnerRing Melscale-APSD DNN(16 16 10 8 4 2) LDA 16 125 0 100% 0% 0 Sound-InnerRing Melscale-APSD DNN(16 16 10 8 4 2) SVM 16 125 0 100% 0% 0 Sound-InnerRing Melscale-APSD AANN(16 32 2 32 16) LDA 16 125 0 100% 0% 0 Sound-InnerRing Melscale-APSD AANN(16 32 2 32 16) SVM 16 125 0 100% 0% 0 - 456 - abnormal (Left) and inner ring defect (Right) Fig.8 Comparison of normal Melscale-APSD with misalignment abnormal (Left) and inner ring defect (Right) Table 1 List of evaluation results of classification performance Table 1 の結果から、内輪傷・ミスアライメント共に正 常と異常をほぼ正しく分類できていることがわかる。 DNN、AANN では、1-2 ケースの誤検出があるものの、 これらの脳科学を参考にした非線形識別手法も有効であ ることがわかる。今回の音響データは、正常と異常が識 別しやすいデータであったために、経験的特徴抽出法や 新しい識別法の間での性能に明確な差は出てこなかった。 しかしながら、加速度データなど他の観測手法の場合に 差が出ることもある[1]。従って、ここで述べた多様な組 み合わせによる識別法を準備しておくことは大事である と考えられる。 3.2.2 固有パターンの分析 2 章で述べた DNN や AANN では Auto-encoder と呼ば れる少数次元の固有パターン(主成分特徴量に相当)を 抽出する層がある。ここでは、この Auto-encoder の層が 価を行った。ROC基準に基づいて、正常検出・誤検出割 二つの場合の固有パターンの計算結果をFig.9, 10に示す。 尚、この固有パターンは、訓練データで用いた正常・異 合を求め、各種の手法の比較評価を行った。対象データ 常の各 125 ケースのデータの平均値と比較して示してい が限られていたため、いずれの手法も良い識別結果であ る。これより、2つの固有パターンは、正常・異常の各状 り、手法の優劣を判断するまでには至らなかった。しか 態に対応していることがわかる。Auto-encoder(自動符号 しながら、深層ニューラルネットなどの非線形符号化手 化)自体は、多次元の観測データを少数次元に祝役する 法では、正常と異常状態に固有のパターンが得られ、今 数学的手段であるが、これが、正常・異常という二つの 後の異常診断に役立つことが期待できる結果も得られた。 物理的な固有状態に対応して符号化されていることは興 今後、さらに多様なセンサや異常データを用いて手法の 味深いことであり、安定してこれらの固有パターンを求 有効性を検証してゆきたい。 めることができれば、異常識別手法として有用である。 ?????? ???? ???? 謝辞 -4-4-5-5) zH/1(DSPA-gol-6-7-8-90 -4 -5-62 4 6 8 10 12 14 16 ) zH/1(DSPA-gol-6-7-8-90 2 4 6 8 10 12 14 16 -5 -6本研究で用いた音響データは、東北大学遊佐研究室の試 験設備を用いて測定したものです。データを提供いただ いた遊佐准教授に感謝申し上げます。 -7-7-8-8-90 Melscale 2 4 Frequency(0-22kHz) 6 8 10 12 14 16 -90 2 4 6 8 10 12 14 16 Melscale Frequency(0-22kHz) 参考文献 Fig.7 Eigen pattern of DNN with misalignment [1] S. Kanemoto, N. Yokotsuka, N. Yusa and M. Kawabata, abnormal(Left) and inner ring defect(Right) “Diversity and Integration of Rotating Machine Health ?????? ???? Monitoring Methods”, Prognostics and System Health -4-5???? Management Conference, PHM-2013 Milano 8-11 -5-6) zH/1(DSPA-gol-6-7-8-90 -4 -5-62 4 6 8 10 12 14 16 lSeptember, 2013. [2] 兼本茂、”非線形識別手法による回転機音響監視の高 度化”、日本保全学会第6回学術講演会、2009、 -7-8-90 Melscale 2 4 Frequency(0-22kHz) 6 8 10 12 14 16 pp423-428. [3] G.E. Hinton, S. Osindero and Y.W.Teh, “A fast learning Fig.8 Eigen pattern of AANN with misalignment algorithm for deep belief nets”, Neural Computation, abnormal(Left) and inner ring defect(Right) 18(7), 2006, pp.1527-1554. [4] C.M.Bishop, “Pattern Recognition and Machine 4.まとめ Learning”, Springer-Verlag, 2006. 本稿では、高感度でロバストな回転機の異常識別手法 の構築をめざして、音響解析で用いられている既存の特 徴抽出法に加えて、深層ニューラルネットも含んだ最新 の機械学習法を取り入れて、いくつかの状態識別法の評 - 457 - ) zH/1(DSPA-go-10-7-8-9-4 -5-60 2 4 6 8 10 12 14 16 -7-8-9-100 2 4 6 8 10 12 14 16 Melscale Frequency(0-22kHz)“ “最新の機械学習法を用いた回転機の異常監視手法の提案 “ “渡邉 将也,Masaya WATANABE,吉村 哲平,Teppei YOSHIMURA,兼本 茂,Shigeru KANEMOTO
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