膜圧式疲労試験による等二軸応力下での微小疲労き裂進展評価
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カテゴリ: 第11回
1.はじめに
現在、原子力発電所においては経年劣化による設備の 機能喪失を防ぐため保全活動が行われている。プラント 機器の保全において疲労の累積を予測し損傷の防止を図 ることは事故防止につながる重要な活動である。疲労累 積評価は単軸試験で得たデータを基にして作成された設 計疲労曲線を用いて行われている。設計疲労曲線による 評価はもともと機器の設計に用いる目的で作られている ため、運転中の機器の実際の疲労累積状態や余寿命の評 価が難しいという課題がある。 そこで、実機の疲労累積状態を仮想的なき裂の長さに 置き換えることで評価する「き裂進展予測モデル」の導 入が現在検討されている[1][2]。この評価で必要となるのは、 疲労による微小き裂の進展状況を把握することであるが、 き裂進展の予測を行うためには、実機が置かれている条 件を考慮する必要がある。実機における代表的な疲労の 一つに配管部における熱疲労があるが、配管内を流れる 流水の温度変化により配管表面では等二軸応力が発生す る。 配管の合流部や分岐部では、流体振動による水の流れ の揺らぎにより、配管壁が局所的に高(低)温となり応力 が加わる。この揺らぎは時間とともに繰り返されるため、 繰返し応力が発生する。等二軸応力が疲労寿命に与える 影響については過去に注目されてきたが、き裂の進展に 与える影響については報告されていない。そこで本研究 では等二軸応力下でのき裂の進展挙動に注目し単軸応力 下でのき裂進展挙動と比較・検討することによりその違 いを明らかとすることを目的とした。
2.記号説明
a:き裂深さ(mm) E:ヤング率(MPa) c:表面き裂長さ(mm) W:試験片直径(mm) t:試験片厚み(mm) φ:き裂進展方向(°) da/dN:進展速度(m/cycle) ν:ポアソン比 ⊿ε:ひずみ範囲(%)
3.試験方法
3.1 膜圧式疲労試験機 本研究では膜圧式疲労試験機[3]を用いて等二軸応力下 での疲労試験を実施した。膜圧式疲労試験機の模式図を Fig.1 に示す。この試験機の上下の空気室に交互に空気を 注入・排気することでFig.2に示す円盤状試験片の中心部 に等二軸繰り返し応力を発生させることができる。また 試験片として原子力発電所の配管部を想定し、ステンレ ス鋼(SUS316)を用いた。試験片の化学組成と機械的性質 をTable.1,2[4]に示す。 Fig.2 Geometries of test specimen in membranous pressure fatigue test. Fig.1 Schema of fatigue test machine. Table.1 Chemical content of test material (mass %). Fe C Si Mn P S Ni Cr Mo Bal. 0.05 0.41 0.84 0.026 0.001 10.20 16.10 2.11 Table.2 Mechanical properties of the test material. Longitudinal direction 3.2 試験条件 本研究ではき裂の成長に着目しているため、疲労試験 の途中5000サイクルごとに試験機を止めレプリカ法を用 いてき裂長さを測定した。また、ひずみゲージを用いて 試験片中心部におけるひずみ範囲の値を測定し、圧力計 を用いて試験片に加わる駆動空気圧を測定した。試験片 への加圧周期は0.5Hzとした。 き裂発生に対する試験片表面粗さの影響を排除するた め、き裂が発生する中心部付近を1200番のエメリー紙で 研磨の後、バフ仕上げを行った。 4.試験結果 4.1 疲労試験結果 疲労試験中、ひずみ範囲の実測値は 0.4~0.5%で、約 77500サイクルで破断した。試験片の両面から進展したき 裂が、試験片を貫通した時点を破断と定義した。き裂が 試験片を貫通し空気が漏れると、試験片に加わる応力の 低下により、ひずみ範囲の測定値が低下する。この変化 を検出することで、破断繰り返し数を同定した。き裂は 試験片の両面からほぼ同じ深さ(両面からの速さは測定 できていない)進展しており、破断時のき裂の進展深さ はおおよそ1 mmであった。 Transverse direction 0.2% proof strength(MPa) 264 270 Tensile strength(MPa) 595 595 Elongation (%) 58.5 58,8 Reduction in area (%) 85.4 80.7 Young's modulus(GPa) 205 213 - 488 - 試験中の駆動空気圧とひずみ範囲の変化を Fig.3,4 に示 す。駆動空気圧は多少の変動はあるが平均して1 MPaで あった。ひずみ範囲は繰返し数とともに増加した。破断 サイクル付近での値の急上昇は、き裂の発生によりき裂 開口変位がひずみとして検出されたためと推定される。 Fig.4 Strain range. 4.2 微小き裂の発生と進展 レプリカ法によって試験片中心部付近の表面をフィル ムに転写し、光学顕微鏡により観察した。表面では微小 なき裂が発生し、進展する様子が確認された。また、75000 サイクルにおいては、き裂の分岐が観察された。試験初 期(~45000サイクル)におけるき裂長さをFig.5に示す。 Fig.6,7にき裂の発生と進展を示す画像を、Fig.8にき裂の 分岐画像を示す。き裂の分岐は等二軸疲労に特徴的であ り、き裂進展に少なからず影響を与えると考えられる。 Fig.3 Driving air pressure. Fig.8 Branching of crack. - 489 - Fig.7 Propagation of crack. Fig.5 Crack propagation in experiment. Fig.6 Initiation of crack. 4.3 き裂のアスペクト比 表面観察からはき裂の深さ方向の進展は測定できない ので、破断した試験片の断面を観察した。試験後にき裂 が貫通した部分を切り出し、貫通部分が観察できるよう に、疲労負荷にて破断させた。破面のSEM画像をFig.9 に示す。破面にはレプリカ採取のため途中止めを行った 影響により発生したと思われるビーチマークが観察され た。左側がオリジナルの画像であり、右側はビーチマー クをわかりやすいように縁取りしたものである。破面図 のビーチマークから同定されたアスペクト比は約0.5で あった。本研究では、き裂発生から破断まで、アスペク ト比が0.5であったと仮定して、表面長さから深さを推定 した。そして、以下で説明する等価応力拡大係数や、深 さ方向のき裂進展速度を算出した。 ? K eq = f ? ε E π a (1) Fig.9 Crossection of fracture surface. 5.き裂進展評価 5.1 等価応力拡大係数の算出 測定したひずみ範囲・表面き裂長さ・アスペクト比を 基に等価応力拡大係数を算出した。等価応力拡大係数は、 高サイクル疲労ばかりでなく、低サイクル疲労に対して も、き裂進展速度と良い相関を有することが報告されて いる。式(1)においてfは、応力拡大係数で定義される形 状係数に相当する。本研究では、き裂が無限平板中の半 楕円の表面き裂であると見なし、Raju-Newmanの式(補 足参照)を用いて算出した。なお、幅Wはき裂長さに比 べて十分長いものとした。等価応力拡大係数とき裂進展 Fig.11 Comparison between equi-biaxial fatigue and uniaxial fatigue. 速度da/dNの関係を両対数でFig.10に示す。等価応力拡 大係数とき裂進展速度の関係は両対数グラフ上で直線で 近似できた。 速度da/dNの関係を両対数でFig.10に示す。等価応力拡 大係数とき裂進展速度の関係は両対数グラフ上で直線で 近似できた。 - 490 - Fig.10 Relationship between crack growth rate and equivalent stress intensity factor. 5.2 単軸疲労試験との比較 過去に得られた単軸疲労試験[1]との比較を行った。等 価応力拡大係数と進展速度の関係について、過去に採取 された丸棒試験片、平板試験片、CT試験片の試験データ を用いた結果の近似線と比較したものを Fig.11 に示す。 本試験結果は単軸のき裂進展結果とよく対応しているが、 等二軸疲労下での進展速度は、単軸疲労の速度と比べて 相対的に速い傾向にある。 6.考察 6.1 疲労寿命との対応 過去の膜厚式疲労試験機を用いた研究では、等 2 軸疲 労下での疲労寿命は、主ひずみを用いて評価を行った際、 単軸疲労より短くなるという結果が報告されている。 Fig.5 に示したように、試験直後から微小なき裂が発生し ており、疲労寿命は微小なき裂が試験片を貫通するまで の繰返し数と見なすことができる。そして、本研究で得 られた等二軸応力下での進展速度が単軸応力よりも速い という結果は、疲労寿命が短いという過去の研究結果と 一致している。つまり、等 2 軸応力下では、き裂成長が 加速されるために疲労寿命が低下したと考えられる。 6.2 相当ひずみによる評価 等価応力拡大係数の算出には主ひずみを用いたが、こ れを相当ひずみに置き換えることを検討した。ポアソン 比 ν を用いて主ひずみを(1-ν)で除することにより、主ひ ずみから相当ひずみに変換できる。Fig.11の結果を相当ひ ずみに変換して再プロットしたものを Fig.12 に示す。こ こでポアソン比は0.3とした。相当ひずみに変換すること により単軸試験での近似線に近づく結果が得られた。 6.3 試験における問題点 本研究ではひずみゲージを中心に固定し測定を行った が、中心に応力が集中するよう試験片を設計したためき 裂の成長によりき裂が中心部から外れていくにつれて、 ひずみの値が変動した可能性がある。き裂先端でのひず みを測定するために画像相関法を用いることで、試験片 全体のひずみの把握を行うことができると考えられる。 また、本研究では考慮しなかったき裂の分岐についても 同様に評価できる可能性がある。 6.4 アスペクト比の変化の影響 試験片のき裂貫通(き裂深さ1mm)に至った際、表面き 裂長さは10mmであったことから、き裂の成長とともに アスペクト比は変化することが考えられる。アスペクト 比の変化を考慮することにより、より正確に疲労損傷状 態の評価が行えると考えられる。 Fig.12 Comparison between equi-biaxial fatigue (Mises) and uniaxial fatigue. 7.結論 本研究では膜圧式疲労試験機を用いて等二軸応力下に おける微小き裂の長さ測定、及び等価応力拡大係数を用 いた進展評価を行った。その結果、単軸応力下と比べて き裂の進展速度が速いという結果が得られた。この結果 は過去に得られた疲労寿命の結果と傾向が一致している。 今後も継続して等二軸疲労試験を行い試験データを収 集し、等二軸疲労によるき裂の進展挙動において単軸疲 労との違いを考慮することにより、疲労寿命の評価を行 うことができると考えられる。 謝辞 本研究は、原子力規制委員会、原子力規制庁からの受 託研究である、「高経年化技術評価高度化事業」の一部と して実施した成果である。ここに記して謝意を表する。 参考文献 [1] 釜谷昌幸、川久保政洋、 “き裂成長予測による低サ イクル疲労の損傷評価(成長予測評価モデルの構築 とその適用例)”、日本機械学会論文集(A 編)78 巻 795号、2012 [2] 釜谷昌幸、中村隆夫、”き裂成長予測に基づく疲労 評価法の検討”、日本保全学会第 10 回学術講演会、 大阪、2013?pp239-244 [3] 辻峰史、“等二軸疲労試験のための膜圧式疲労試験装 置の開発”、 学術講演会講演論文集 60, 2011; pp131-132 - 491 - [4] Masayuki Kamaya, Takashi Tsuji ,“Evaluation of equi-biaxial fatigue of stainless steel by the pressurized disc fatigue test”, International Journal of Fatigue Volume 61, 2014, Pages 107?115 補足 論文中に示したRaju-Newmanの式による定数fは以下 のように算出した。 f = Q 1 F),,,( a ta c cWφ (2) Q = 464.11 + ? │?(平成 26年6月26日) a c? │?65.1 1899/12/27MMF = ? ││?1 + 2 ? │?a t? │?2 + M 3 ? │?a t? │?4 ? ││?gff φ W (4) M 1 = 09.013.1 - ? │?a c? │?(5) M 2 = - 54.0 + 2.0 89.0 + a c(6) M 3 = 5.0 - 65.0 0.1 + a c+ 0.114? │?- a c? │?24 -7f φ = ? ││?? │?a 2 1900/01/012 1 4c? │?cos φ + sin φ ? ││?(8) fW = ? ││?sec ? ││?2 Wc a tπ ? ││?? ││?1 2(9) g = 35.01.01 + ? ││?+ ? │?a t? │?2 ? ││?( sin1 - φ )2 (10) - 492 -“ “膜圧式疲労試験による等二軸応力下での微小疲労き裂進展評価 “ “飯田 智,Satoshi IIDA,阿部 茂樹,Shigeki ABE,中村 隆夫,Takao NAKAMURA,釜谷 昌幸,Masayuki KAMAYA
現在、原子力発電所においては経年劣化による設備の 機能喪失を防ぐため保全活動が行われている。プラント 機器の保全において疲労の累積を予測し損傷の防止を図 ることは事故防止につながる重要な活動である。疲労累 積評価は単軸試験で得たデータを基にして作成された設 計疲労曲線を用いて行われている。設計疲労曲線による 評価はもともと機器の設計に用いる目的で作られている ため、運転中の機器の実際の疲労累積状態や余寿命の評 価が難しいという課題がある。 そこで、実機の疲労累積状態を仮想的なき裂の長さに 置き換えることで評価する「き裂進展予測モデル」の導 入が現在検討されている[1][2]。この評価で必要となるのは、 疲労による微小き裂の進展状況を把握することであるが、 き裂進展の予測を行うためには、実機が置かれている条 件を考慮する必要がある。実機における代表的な疲労の 一つに配管部における熱疲労があるが、配管内を流れる 流水の温度変化により配管表面では等二軸応力が発生す る。 配管の合流部や分岐部では、流体振動による水の流れ の揺らぎにより、配管壁が局所的に高(低)温となり応力 が加わる。この揺らぎは時間とともに繰り返されるため、 繰返し応力が発生する。等二軸応力が疲労寿命に与える 影響については過去に注目されてきたが、き裂の進展に 与える影響については報告されていない。そこで本研究 では等二軸応力下でのき裂の進展挙動に注目し単軸応力 下でのき裂進展挙動と比較・検討することによりその違 いを明らかとすることを目的とした。
2.記号説明
a:き裂深さ(mm) E:ヤング率(MPa) c:表面き裂長さ(mm) W:試験片直径(mm) t:試験片厚み(mm) φ:き裂進展方向(°) da/dN:進展速度(m/cycle) ν:ポアソン比 ⊿ε:ひずみ範囲(%)
3.試験方法
3.1 膜圧式疲労試験機 本研究では膜圧式疲労試験機[3]を用いて等二軸応力下 での疲労試験を実施した。膜圧式疲労試験機の模式図を Fig.1 に示す。この試験機の上下の空気室に交互に空気を 注入・排気することでFig.2に示す円盤状試験片の中心部 に等二軸繰り返し応力を発生させることができる。また 試験片として原子力発電所の配管部を想定し、ステンレ ス鋼(SUS316)を用いた。試験片の化学組成と機械的性質 をTable.1,2[4]に示す。 Fig.2 Geometries of test specimen in membranous pressure fatigue test. Fig.1 Schema of fatigue test machine. Table.1 Chemical content of test material (mass %). Fe C Si Mn P S Ni Cr Mo Bal. 0.05 0.41 0.84 0.026 0.001 10.20 16.10 2.11 Table.2 Mechanical properties of the test material. Longitudinal direction 3.2 試験条件 本研究ではき裂の成長に着目しているため、疲労試験 の途中5000サイクルごとに試験機を止めレプリカ法を用 いてき裂長さを測定した。また、ひずみゲージを用いて 試験片中心部におけるひずみ範囲の値を測定し、圧力計 を用いて試験片に加わる駆動空気圧を測定した。試験片 への加圧周期は0.5Hzとした。 き裂発生に対する試験片表面粗さの影響を排除するた め、き裂が発生する中心部付近を1200番のエメリー紙で 研磨の後、バフ仕上げを行った。 4.試験結果 4.1 疲労試験結果 疲労試験中、ひずみ範囲の実測値は 0.4~0.5%で、約 77500サイクルで破断した。試験片の両面から進展したき 裂が、試験片を貫通した時点を破断と定義した。き裂が 試験片を貫通し空気が漏れると、試験片に加わる応力の 低下により、ひずみ範囲の測定値が低下する。この変化 を検出することで、破断繰り返し数を同定した。き裂は 試験片の両面からほぼ同じ深さ(両面からの速さは測定 できていない)進展しており、破断時のき裂の進展深さ はおおよそ1 mmであった。 Transverse direction 0.2% proof strength(MPa) 264 270 Tensile strength(MPa) 595 595 Elongation (%) 58.5 58,8 Reduction in area (%) 85.4 80.7 Young's modulus(GPa) 205 213 - 488 - 試験中の駆動空気圧とひずみ範囲の変化を Fig.3,4 に示 す。駆動空気圧は多少の変動はあるが平均して1 MPaで あった。ひずみ範囲は繰返し数とともに増加した。破断 サイクル付近での値の急上昇は、き裂の発生によりき裂 開口変位がひずみとして検出されたためと推定される。 Fig.4 Strain range. 4.2 微小き裂の発生と進展 レプリカ法によって試験片中心部付近の表面をフィル ムに転写し、光学顕微鏡により観察した。表面では微小 なき裂が発生し、進展する様子が確認された。また、75000 サイクルにおいては、き裂の分岐が観察された。試験初 期(~45000サイクル)におけるき裂長さをFig.5に示す。 Fig.6,7にき裂の発生と進展を示す画像を、Fig.8にき裂の 分岐画像を示す。き裂の分岐は等二軸疲労に特徴的であ り、き裂進展に少なからず影響を与えると考えられる。 Fig.3 Driving air pressure. Fig.8 Branching of crack. - 489 - Fig.7 Propagation of crack. Fig.5 Crack propagation in experiment. Fig.6 Initiation of crack. 4.3 き裂のアスペクト比 表面観察からはき裂の深さ方向の進展は測定できない ので、破断した試験片の断面を観察した。試験後にき裂 が貫通した部分を切り出し、貫通部分が観察できるよう に、疲労負荷にて破断させた。破面のSEM画像をFig.9 に示す。破面にはレプリカ採取のため途中止めを行った 影響により発生したと思われるビーチマークが観察され た。左側がオリジナルの画像であり、右側はビーチマー クをわかりやすいように縁取りしたものである。破面図 のビーチマークから同定されたアスペクト比は約0.5で あった。本研究では、き裂発生から破断まで、アスペク ト比が0.5であったと仮定して、表面長さから深さを推定 した。そして、以下で説明する等価応力拡大係数や、深 さ方向のき裂進展速度を算出した。 ? K eq = f ? ε E π a (1) Fig.9 Crossection of fracture surface. 5.き裂進展評価 5.1 等価応力拡大係数の算出 測定したひずみ範囲・表面き裂長さ・アスペクト比を 基に等価応力拡大係数を算出した。等価応力拡大係数は、 高サイクル疲労ばかりでなく、低サイクル疲労に対して も、き裂進展速度と良い相関を有することが報告されて いる。式(1)においてfは、応力拡大係数で定義される形 状係数に相当する。本研究では、き裂が無限平板中の半 楕円の表面き裂であると見なし、Raju-Newmanの式(補 足参照)を用いて算出した。なお、幅Wはき裂長さに比 べて十分長いものとした。等価応力拡大係数とき裂進展 Fig.11 Comparison between equi-biaxial fatigue and uniaxial fatigue. 速度da/dNの関係を両対数でFig.10に示す。等価応力拡 大係数とき裂進展速度の関係は両対数グラフ上で直線で 近似できた。 速度da/dNの関係を両対数でFig.10に示す。等価応力拡 大係数とき裂進展速度の関係は両対数グラフ上で直線で 近似できた。 - 490 - Fig.10 Relationship between crack growth rate and equivalent stress intensity factor. 5.2 単軸疲労試験との比較 過去に得られた単軸疲労試験[1]との比較を行った。等 価応力拡大係数と進展速度の関係について、過去に採取 された丸棒試験片、平板試験片、CT試験片の試験データ を用いた結果の近似線と比較したものを Fig.11 に示す。 本試験結果は単軸のき裂進展結果とよく対応しているが、 等二軸疲労下での進展速度は、単軸疲労の速度と比べて 相対的に速い傾向にある。 6.考察 6.1 疲労寿命との対応 過去の膜厚式疲労試験機を用いた研究では、等 2 軸疲 労下での疲労寿命は、主ひずみを用いて評価を行った際、 単軸疲労より短くなるという結果が報告されている。 Fig.5 に示したように、試験直後から微小なき裂が発生し ており、疲労寿命は微小なき裂が試験片を貫通するまで の繰返し数と見なすことができる。そして、本研究で得 られた等二軸応力下での進展速度が単軸応力よりも速い という結果は、疲労寿命が短いという過去の研究結果と 一致している。つまり、等 2 軸応力下では、き裂成長が 加速されるために疲労寿命が低下したと考えられる。 6.2 相当ひずみによる評価 等価応力拡大係数の算出には主ひずみを用いたが、こ れを相当ひずみに置き換えることを検討した。ポアソン 比 ν を用いて主ひずみを(1-ν)で除することにより、主ひ ずみから相当ひずみに変換できる。Fig.11の結果を相当ひ ずみに変換して再プロットしたものを Fig.12 に示す。こ こでポアソン比は0.3とした。相当ひずみに変換すること により単軸試験での近似線に近づく結果が得られた。 6.3 試験における問題点 本研究ではひずみゲージを中心に固定し測定を行った が、中心に応力が集中するよう試験片を設計したためき 裂の成長によりき裂が中心部から外れていくにつれて、 ひずみの値が変動した可能性がある。き裂先端でのひず みを測定するために画像相関法を用いることで、試験片 全体のひずみの把握を行うことができると考えられる。 また、本研究では考慮しなかったき裂の分岐についても 同様に評価できる可能性がある。 6.4 アスペクト比の変化の影響 試験片のき裂貫通(き裂深さ1mm)に至った際、表面き 裂長さは10mmであったことから、き裂の成長とともに アスペクト比は変化することが考えられる。アスペクト 比の変化を考慮することにより、より正確に疲労損傷状 態の評価が行えると考えられる。 Fig.12 Comparison between equi-biaxial fatigue (Mises) and uniaxial fatigue. 7.結論 本研究では膜圧式疲労試験機を用いて等二軸応力下に おける微小き裂の長さ測定、及び等価応力拡大係数を用 いた進展評価を行った。その結果、単軸応力下と比べて き裂の進展速度が速いという結果が得られた。この結果 は過去に得られた疲労寿命の結果と傾向が一致している。 今後も継続して等二軸疲労試験を行い試験データを収 集し、等二軸疲労によるき裂の進展挙動において単軸疲 労との違いを考慮することにより、疲労寿命の評価を行 うことができると考えられる。 謝辞 本研究は、原子力規制委員会、原子力規制庁からの受 託研究である、「高経年化技術評価高度化事業」の一部と して実施した成果である。ここに記して謝意を表する。 参考文献 [1] 釜谷昌幸、川久保政洋、 “き裂成長予測による低サ イクル疲労の損傷評価(成長予測評価モデルの構築 とその適用例)”、日本機械学会論文集(A 編)78 巻 795号、2012 [2] 釜谷昌幸、中村隆夫、”き裂成長予測に基づく疲労 評価法の検討”、日本保全学会第 10 回学術講演会、 大阪、2013?pp239-244 [3] 辻峰史、“等二軸疲労試験のための膜圧式疲労試験装 置の開発”、 学術講演会講演論文集 60, 2011; pp131-132 - 491 - [4] Masayuki Kamaya, Takashi Tsuji ,“Evaluation of equi-biaxial fatigue of stainless steel by the pressurized disc fatigue test”, International Journal of Fatigue Volume 61, 2014, Pages 107?115 補足 論文中に示したRaju-Newmanの式による定数fは以下 のように算出した。 f = Q 1 F),,,( a ta c cWφ (2) Q = 464.11 + ? │?(平成 26年6月26日) a c? │?65.1 1899/12/27MMF = ? ││?1 + 2 ? │?a t? │?2 + M 3 ? │?a t? │?4 ? ││?gff φ W (4) M 1 = 09.013.1 - ? │?a c? │?(5) M 2 = - 54.0 + 2.0 89.0 + a c(6) M 3 = 5.0 - 65.0 0.1 + a c+ 0.114? │?- a c? │?24 -7f φ = ? ││?? │?a 2 1900/01/012 1 4c? │?cos φ + sin φ ? ││?(8) fW = ? ││?sec ? ││?2 Wc a tπ ? ││?? ││?1 2(9) g = 35.01.01 + ? ││?+ ? │?a t? │?2 ? ││?( sin1 - φ )2 (10) - 492 -“ “膜圧式疲労試験による等二軸応力下での微小疲労き裂進展評価 “ “飯田 智,Satoshi IIDA,阿部 茂樹,Shigeki ABE,中村 隆夫,Takao NAKAMURA,釜谷 昌幸,Masayuki KAMAYA