原子力発電所の各種漏洩事象評価手法の高度化に関する研究

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カテゴリ: 第11回
1.諸言
原子力発電所には健全性を脅かす様々な要因があり、そ の結果として漏洩が生じる。漏洩事象評価法の基準化は、 プラントの健全性を保つ上で重要であり、重大な不適合事 象が発生する前に漏洩を検知して適切な対策を取ることの できるシステムの開発が求められている。現行の原子炉に は自己制御性に加え、安全確保のための様々な機能が備わ っているが、非常事態の際の対応はやはり運転員の判断に よるところが大きく、正しい判断には知識、経験が必要と される。福島第一原発の過酷事故時の事故緩和対応(AM) は、非常事態における運転員への心理的圧迫が非常に大き いと考えられる。以上のような点から、原子炉に異常が生じた場合には、 そのことが大きな過渡事象として顕在化する前の予兆の段 階で検知し, Fig.1 のように、運転員に正確な情報と適切な 対策を提供することが必要である。本研究では、漏洩事象 評価法の体系化の基礎研究として取り組んだ、配管に生じ た亀裂からの微小漏洩やピンホールからの微小漏洩を 対象とした漏洩評価法の開発について述べる。Fig.1 Intelligent Man-Machine interface for online Monitor and control system
2.福島第一原子力発電所の事故の経過
地震発生直後に外部電源が喪失したが、非常用ディーゼ ル発電機(EDG)が速やかに起動し、非常用炉心冷却系 (ECCS)が起動して、各原子炉は順調に冷却されていた。 格納容器内の配管や重要機器の損傷も無かったことが、原 子炉圧力や格納容器圧力・温度の記録紙の詳細な分析と解 析評価で確認されている(1)。1号機は Fig.2 の非常用復水 器(IC)が起動し、約 15 分で原子炉圧力を 7MPa から 4MPa に低下させていた。その後、津波が襲来して、タービン建 屋の非常用発電機や配電盤などを機能喪失させて、全交流 電源喪失が発生した。特に直流電源の喪失により、更に致 命的な事象が発生した。特に制御盤の論理回路の電源断に 伴うおびただしい異常信号が発生し、IC の格納容器壁内の 隔離弁の閉止信号が発生した。 制御盤が活きていれば、非常用復水器が作動停止してい ることは制御盤のランプを見れば分かったハズであるが、 制御盤の表示ランプが点灯していなかった。SBO 時には IC による冷却を最優先で達成しなければ成らないのであ るから、IC 伝熱管の損傷の有無を放射線線量計で確認し、 ただちに運転員に IC の蒸気の隔離弁が閉止していること を運転員に知らせる、IC を復旧するシステムが必要である。 Fig.2 IC system flow sheet of Fukushima-Daiichi NPP. 対話型運転監視 知能システム
Isolation Condenser Steam Blowout RPV S/P MOMO1A 2A MO1B MO2BMO4A Water Tank MO3A MO4B Fire Pool MO3B IC Control Valve 3.浜岡5号機の復水器細管損傷の早期検知 浜岡 5 号機は、菅直人元首相の半ば強制的な停止要請を 受けて、プラント停止操作に入ったが、その際に復水器内 の配管のエンドキャップの隅肉溶接部がポンプの羽根切り 脈動によって疲労損傷し、エンドキャップが外れて復水器 の細管束に向かって強い噴流を放出した。このため、細管 内を流れていた海水が復水器下部のホットウエルに流下し、 復水ポンプ、給水ポンプを介して炉心に流入してしまった。 わずか数十秒の異常事象であるが、原子炉内や制御棒駆動 系は、塩素が流入してしまったのである。このような場合、 給復水系の塩素イオン濃度を監視していて、塩素濃度が急 上昇したら、直ちに給水トリップして、原子炉内への海水 流入を防止しなければならない。 このような瞬間的な事象には、運転員の判断を待つこと なく、給水トリップすると共に、運転員に、流入した海水 のドレンと純水による洗浄作業の必要性を直ちにアナウン スする必要がある。PWR の蒸気発生器の細管破断は想定 されていたが、復水器の細管破断は想定されておらず、浜 岡5号機は長期に亘る塩素イオンの除去作業が必要となっ た。このようなトラブルを撲滅するには、エンドキャップ をむやみに薄くしないなどの設計上の対策と共に、対話型 運転監視システムの導入が、財産保護上、有利になる。 Fig.3 Intelligent adviser to notice operator that the main condenser tubes rapture was detected and feed water pump was tripped by using BWR plant simulator 4.漏洩流量監視システムの適用性評価 原子力発電所の漏洩事象を NUCIA から抽出し、主要機 器の不適合事象の発生件数を調べた。この結果を Fig.4 に 示す。発生件数では、PLR ポンプのメカシールからの漏洩 が多い。次いで、主蒸気逃がし安全弁(SRV)の弁シート である。弁体の着座が悪いと漏洩が派生し、蒸気がサプレ ッションプールに流出し、サプレッションプールの温度が 上昇する。配管は、熱疲労亀裂や液滴衝撃エロ-ジョン (LDIE)が多い。そこで、配管に生じた疲労亀裂からの微 小漏洩やピンホールからの微小漏洩を対象とした漏洩評価 手法の開発を行った。解析には過渡時熱水力解析コード TRAC を用いた。配管に生じた疲労亀裂からの漏洩を模擬 した LBB 試験結果を検証用のデータとして、解析結果と実 験結果とを比較した。作成した解析モデルを Fig.5 に示す。 中央の流路が細くなっている部分を微小破断の内部とした。 モデルの左側の BREAK コンポーネントでは実験条件に合 わせて圧力境界条件を与え、右側の BREAK コンポーネン トは大気圧開放とした。圧力の急激な変化が予想される亀 裂出口付近では圧力勾配が大きいため、セル長さを短くし た。試験結果と解析結果は Fig.6 に示すとおり、±20%の 精度で一致した。これにより、配管からの微小漏洩におい Fig.6 Leak rate comparison between LBB test and analysis 5.結論 解析結果と実験結果は±20%の精度で一致していること が分かり、配管からの微小漏洩において、本モデルの妥当 性を確認することができた。今後はピンホールからの漏洩 のより精度の高い評価手法の検討、ポンプ、バルブからの 漏洩について TRAC コードを使用した評価手法の検討を 行い、漏洩が発生した場合のプラントの状態量変化につい ても解析を行うことを予定している。 参考文献 (1)奈良林直,杉山憲一.」原子力学会誌「アトモス」,vol.53, No.6 , (2011), PP.387-400. (2) T. Narabayashi, et al., “Experimental study on leak flow model through fatigue crack in pipe”, Nuclear Engineering and Design 128, (1991), pp17-27. て、本モデルの妥当性を確認することができた。 Fig.4 Various Leak Phenomena in NPPs - 504 - Fig.5 Leak rate comparison between LBB test and analysis through fatigue cracks.“ “原子力発電所の各種漏洩事象評価手法の高度化に関する研究 “ “尾形 悠斗,Yuto OGATA,奈良林 直,Tadashi NARABAYASHI,辻 雅司,Masashi TSUJI,千葉 豪,Go CHIBA,松本 昌昭,Masaaki MATSUMOTO
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