電磁誘導法による肉厚測定技術の開発(その1) -保温材付き配管への適応-
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カテゴリ: 第11回
1.概要
電磁誘導による試験法は産業界で広く使用されている。しかしながら、磁性と導電性をともに有する炭素鋼のような被検体の場合には磁束が内部に浸透することに限界があるため、特にリフト・オフ(被検体とセンサー間の距離)が大きい場合は、検出信号が著しく小さくなるため、被検体として正常の場合と、異常がある場合との相対比較に限定されていた。 新たに開発したシステムは、低い周波数領域, 且つ複数の周波数を用いることによる高速フーリエ変換(FFT) とデジタル処理を導入することにより、被検体の肉厚や内面欠陥の肉厚相当値を計測することを可能にした。 これにより、一般的に保温材で覆われた、即ちリフトオフが大きい場合での、炭素鋼管等の被検体の検査・測定においても、その保温材上から被検体の減肉、内面欠陥のスクリーニング検査を行い、疑わしい場合は、保温材を除去し、より小さなリフトオフで精密検査を行うことにより、的確な減肉、内面欠陥の検出が可能になった。 更に、それを三次元(3D)画像として表示させることにより、減肉、内面欠陥の形状、性状を推定することが可能となり、より的確な保安、メンテナンス情報を得ることが可能となった。 更に、肉厚の厚い被検体の場合で、大きなリフトオフを取った場合の測定結果についても考察した。 以上の結果について報告する。
2. 測定原理
電磁誘導法にあっては、一般的に励磁コイルを被検体に対向させ、被検体に誘起される渦電流による磁束変化を、同じく被検体に対向させた検出コイルにより検出している。 かかる場合、渦電流による磁束のみが検出されるわけではなく、励磁磁束の一部や、被検体が与える- 51 -励磁磁束の変化分も含め、総合した磁束変化を検出していることになり、複雑になる。 また、被検体も磁性の有無により、様相が大きく異なる。 即ち、磁性がある場合は入射した磁束は、被検体の形状に応じて伝播する要素が大きく、また周波数が高くなると減衰が大きくなるので、周波数の選定が重要となる。 一般的に配管等の管体、または貯蔵タンク等の缶体は厚い保温材で覆われている場合が多く、更にその外側をトタン、ステンレス、アルミ等の外被材で覆われている場合が多いが、それらの外側から、即ち大きなリフトオフをとった状態で、管体や缶体の肉厚や内面傷を測定・検出したいというニーズが大きい。 一方、電磁誘導法は、いわば近傍解であるので、遠方解である、電磁波、光、超音波等のごとくほぼ直進して次第に減衰するものとは異なり、磁力線は一方の極から出て湾曲して他方の極に至るため、リフトオフを大きくとるためには両極の間隔即ちスパンを大きくとらざるを得ず、大型のセンサーとせざるを得ない。 一方大きなセンサーとすると当然ながら空間分解能は低下し、小さな傷の検出等は困難となる。従って目的にあわせた適切な大きさのセンサーを開発することが重要となる。 2.1 測定回路従来、電磁誘導法による検出回路としては位相検波器による特定位相での検波出力を用いる場合が多かった。 この場合、特定位相での振幅値のみで、いわば一次元の測定値しか得られない。 一方、正弦波は、周波数、振幅、位相で一意的に定義でき、また一般の信号波形は、複数の正弦波の合成波形として表現することが可能である。 フーリエ変換、特に高速フーリエ変換(FFT)を用いれば、通常の PC で振幅と位相の二次元の測定値が同時に得られるので、被検体の厚さ、傷等の値を推定する場合の自由度が増加する。 Fig. 1 は、測定回路、センサー、被検体の総合構成を示す。 即ち、PC で生起された正弦波デジタル信号はデジタル-アナログ変換器(DAC)によりアナログ信号に変換され、電力増幅されてセンサーの励磁コイルを励振する。一方、その励振出力はマルチプレクサーとアナログ-デジタル変換器(ADC)を介して基準信号としてPC に取り込まれる。 また、検出コイルの出力もマルチプレクサー、ADC を介して同様にPC に取り込まれ、PC 内で高速フーリエ変換され、振幅値と位相値が検出され、振幅は前記基準信号のそれとの比、即ち振幅比として求められ、位相は同様に前記基準信号のそれとの差、即ち位相差として求められる。ここで、振幅比、位相差として求めることにより、電源変動、温度変化等測定系の変動要素による測定値変動を抑制することが可能となる。 また、PC 内で複数の周波数の正弦波信号をデジタル的に発生させ、デジタル的に合成して DAC に供給することにより、複数周波数の合成信号で励磁し、検出コイル出力も FFT によりその周波数ごとの振幅比、位相差を求め、それらの単純平均、加重平均、またはそのまま多元測定値として用いる等、さまざまな変化が可能である。 この場合、互いに素数の倍数関係にある周波数を組み合わせて使用すると、それぞれの周波数の高調波は他の周波数と干渉しないため、エリアスを防ぐ意味で効果が大きい。 2.2 厚さ推定式二次元の測定値、振幅比 x と 位相差 y とから被検体厚さ T は、線形方程式(1) として推定する。 各係数 a, b 定数c は 3 点較正を行い、次の三元連立一次方程式を解くことにより求められる。 過去の経験より、測定の際のリフトオフの変動が測定値に与える影響が大きいことが明らかとなっている。 従って、リフトオフ変動を無視できる較正法が有用である。 そのために、3点の較正点のうち2点は、被検体の厚さを測定するのであるので、厚さの異なる、T2, T3 の点で較正するとし、他の1点として T2 の点でわずかにリフトオフの異なる時の測定値を用い、T1 = T2 として較正する方法をとる。 3. 炭素鋼管の測定例 3.1 リフトオフの違いによる測定結果 炭素鋼管 SS400 外直径76.3mm の65A を被検体とした。この被検体は厚さ20mm の保温材で覆われ、その上部が厚さ 0.1mm の、赤外線の反射効果をねらったと思われる、アルミフォイルの外被材で密着して覆われている。従ってクリアランスを含め、23mm 程度のリフトオフで測定出来ることがのぞましい。 Fig. 1 のセンサーは、励磁コイル間隔50mm で設計されている。 被検体としては、Fig. 2 に示す如く、中央部の肉厚は4.2mm で、その中央- 52 -Fig. 1 Measuring System with Sensor-1 and Test Piece Fig. 2 Details of the Test Piece Fig. 3 Picture of X-Y Scanner and Measurement System Fig. 4 Details of Sensor-2 for Large Lift Off 229 242 229 Spherical Dent 20Φ, Depth:2 Carbon Steel Pipe SS400 65A Thermal Insulator 3.4 4.2 202.4Lift Off = 23 Unit: mm X Scan Aluminum Foil t = 0.1 Sensor 76.3 . 4.220LO=23mm Thermal Insulator Alminum Foil t = 0.1mm Carbon Steel Pipe SS400-65A 2.4Power Amplifier DAC Multiplexer ADC Computer Display & Data Logging Sensor - 53 -Fig. 5a Lift Off = 2mm, f = 10Hz Fig. 5b Lift Off = 2mm, f = 10, 15, 25, 35Hz Fig. 6a Lift Off = 10mm, f = 10Hz Fig. 6b Lift Off = 10mm, f = 10, 15, 25, 35Hz Fig. 7a Lift Off = 20mm, f = 10Hz Fig. 7b Lift Off = 20mm, f = 10, 15, 25, 35Hz Fig. 8a Lift Off = 30mm, f = 10Hz Fig. 8b Lift Off = 30mm, f = 10, 15, 25, 35Hz Fig. 9a Lift Off = 60mm, f = 10Hz Fig. 9b Lift Off = 60mm, f = 10, 15, 25, 35Hz 1.522.533.544.50 20 40 60 80 100 120 140 160 180 壁厚(mm) Step 炭素鋼SS400‐65A Lift Off: 2mm, f: 10, 15, 25, 35Hz 22.533.544.50 20 40 60 80 100 120 140 160 180 壁厚(mm) Step 炭素鋼SS400‐65A Lift Off:10mm, f:10Hz 1.522.533.544.50 20 40 60 80 100 120 140 160 180 壁厚Step 炭素鋼SS400‐65A Lift Off: 2mm, f:10Hz 22.533.544.50 20 40 60 80 100 120 140 160 180 壁厚(mm) Step 炭素鋼SS400‐65A Lift Off:10mm, f: 10, 15, 25, 35Hz 22.51900/01/023.51900/01/034.50 20 40 60 80 100 120 140 160 180 壁厚(mm) Step 炭素鋼SS400‐65A Lift Off: 20mm, f: 10Hz 21900/01/01 12:00:0033.541900/01/03 12:00:000 20 40 60 80 100 120 140 160 180 壁厚(mm) Step 炭素鋼SS400‐65A Lift Off: 20mm, f: 10, 15, 25, 35Hz 22.531900/01/02 12:00:0041900/01/03 12:00:000 20 40 60 80 100 120 140 160 180 壁厚(mm) Step 炭素鋼SS400‐65A Lift Off: 30mm, f: 10Hz 21900/01/01 12:00:001900/01/021900/01/02 12:00:0044.50 20 40 60 80 100 120 140 160 180 壁厚(mm) Step 炭素鋼SS400‐65A Lift Off: 30mm, f: 10, 15, 25, 35Hz 22.533.544.550 20 40 60 80 100 120 140 160 180 壁厚(mm) Step 炭素鋼SS400‐65A Lift Off: 60mm, f: 10Hz 22.533.544.550 20 40 60 80 100 120 140 160 180 壁厚(mm) Step 炭素鋼SS400‐65A Lift Off: 60mm, f: 10, 15, 25, 35Hz - 54 -Fig. 10 Copy of Display, Lift Off = 23mm,(Over Thermal Insulator & Aluminum Cover) X(axial) . Y(Circular) Scanning, f = 10, 15, 25, 35Hz Fig. 11 a 3D Image of Fig. 10 Fig. 11b 3D Image, Enlarged Center Portion of Fig. 11a Fig, 12 Copy of Display, Lift Off = 3mm( After removal of Thermal Insulator & Aluminum Cover) X(axial) . Y(Circular) Scanning, f = 10, 15, 25, 35Hz Fig. 13a 3D Image of Fig. 12 Fig. 13b 3D Image, Enlarged Center Portion of Fig. 13a - 55 -Fig. 14a Vector Scope of Amplitude Ratio vs Phase Difference of Sensor-2 Fig. 14b Enlarged Portion of Fig. 14a Parameter: Lift Off & Wall Thickness T = 35 & 30mm, SUS304, f = 35Hz Large Lift Off Area Fig. 15 Copy of Display, Sensor-2, Lift Off = 74mm, Wall Thickness T = 35 & 30mm, SUS304, f = 35Hz Table 1 Logged Values of Fig. 15 Fig. 16 Enlarged Graph of First 5 Steps Measurement 0.020.030.040.050.060.070.080.090.10.112 0.1125 0.113 0.1135 0.114 0.1145 位相差(rad) 振幅比振幅比vs 位相差(rad)(部分拡大) T=30mm LO: 60mm LO: 74mm LO: 84mmLO: 94mmLO:104mm T=35mm 00.10.20.30.40.50.60.70.11 0.111 0.112 0.113 0.114 0.115 0.116 0.117 位相差(rad) 振幅比振幅比vs 位相差(rad)LO: 0 LO: 5mm LO: 10mm LO: 15mm LO:20mm LO: 30mm LO: 40mm LO: 50mm T=35mm T=30mm 29303132333435360 5 10 15 20 25 厚さT(mm) Step 測定値-Lift Off:74mm(拡大図) 測定(回目) 35mm 30mm 1 34.993 30.150 2 34.820 30.304 3 35.107 30.088 4 34.795 29.959 5 34.952 30.185 6 34.893 30.154 7 34.962 30.061 8 35.018 29.999 9 34.714 29.989 10 34.767 30.114 平均値34.902 30.101 標準偏差0.125 0.099 Li ft Of f: 7 4 m m - 56 -部に直径 20mm, 深さ 2mm の球面状人口傷が加工されている。また、片側の肉厚が 2.4mm、他方が 3.4mm に加工されている。 測定は、Fig. 3 に示すスキャナーで測定した。 このスキャナーは、測定系と同じ PC からの制御信号により管軸方向はステッピングモーターにより、測定系と同期して3mm/ステップでスキャンされ、管の円周方向は手動により回転させるようになっている。リフトオフを変化させて測定した結果を Fig. 5a ~Fig. 9b に示す。 この左側、Fig. 5a 等a のサフィックスのつく図は、 10Hz 単一周波数で測定したもの、右側の b のサフィックスの付いた図は 10, 15, 25, 35Hz の4周波数で測定したものである。個々の周波数で測定された振幅比、位相差を単純平均した値を振幅比、位相差として用いて較正および測定を行っている。 この4 個の周波数は、5Hz の素数倍即ち、2, 3, 5, 7 倍の周波数で、これらの周波数の高調波が干渉しないよう配慮した。 図から明らかなごとく、中央部の人口傷を含めた検出の実用限界はリフトオフ 30mm 程度であるが、両端、中央部の肉厚の相違はリフトオフ 60mm でも検出可能である。 10Hz 単一周波数と 10, 15, 25, 35Hz 4周波数使用との違いは、後者の方がよりノイズの少ない的確な測定が可能であることを示しており、被検体の透磁率、導電率等物性値の不明な場合で、最適周波数が不明の場合であっても的確な測定が可能なことを示している。 3.2 測定結果の 3D 表示 CPU パワーの関係からオンライン、リアルタイムでの3D 表示は必ずしも得策ではないが、管軸方向 X, 円周方向 Y をスキャンしたデータの集録結果より、オフラインで 3D 画像に構成することは、肉厚、内面傷の検出、測定には非常に有益である。 Fig. 10~Fig. 11b は、厚さ0.1mm のアルミフォイル付き保温材上 3mm, 総合リフトオフ 23mm で、10, 15, 25, 35Hz 4周波数で測定した結果を示す。 即ち、肉厚の相違は明確に検出できており、中央の人口傷はそれらしい陰として検出されている。 更に、保温材を取り外し、リフトオフ 3mm で測定した結果を Fig. 12~ Fig. 13b に示す。 即ち、中央傷のイメ- ジを的確に描出している。 従って、保温材上で、スクリーニングを行い、疑わしい部分は保温材を除去したうえ、リフトオフを小さくして精密検査をするという使用法が理想的であると言える。 注目すべきは、 Fig. 10 とFig. 12 は、リアルタイムの 2D ディスプレイ画面であるが、熟練するとこれから容易に 3D 画面を推定できる。 4. 大きいリフトオフ、厚肉体の測定例 肉厚の厚い被検体で、大きいリフトオフに対応するためには、より遠くに磁力線を飛ばす必要があり、そのためには励磁コイルの両極の間隔即ちスパンを大きくする必要があり、Fig. 4 に示すごとき両極のスパン 180mm の大型センサ-を開発した。 被検体としては厚さ 35mm と30mm で、大きさ 800mm X 800mm のステンレス鋼 SUS304 の平板を各1枚ずつ用意し、交互に交換して測定した。 磁力線は意外に広範囲に広がり、かつ被検体に流れる渦電流の流路も広範囲にわたるので、端部効果を防ぎ、デ-タの普遍性を担保するにはこの程度の大きさが必要である。 センサ-の励磁コイルとしては磁路を集中させるためにフェライトコア入りとしたが、検出コイルは空芯コイルとした。 理由は、ここにコアを入れると、リフトオフが大きい場合は励磁磁束のうちこれに直接誘引される割合が多くなり、被検体を貫通する励磁磁束が低下し、感度が低下するためで、励磁磁束の乱れを最小限にするよう意図した。 4.1 リフトオフと振幅比、位相差 リフトオフを変化させて振幅比と位相差がどのように変化するかを測定した。 結果を Fig. 14a に示す。これは、ある特定のリフトオフで,まず35mm を測定し、次に30mm を測定し、35mm に戻って再度測定し、次のリフトオフの測定に移るという順序で測定している。 Fig. 14b はリフトオフの大きい領域の拡大図である。 振幅比は、正弦波をベクトルとして表示した場合のベクトルの絶対値、位相差はその位相角であるので、ベクトル表示としては本来円グラフで表示する必要があるが、便宜上X-Y 座標で表示している。 Fig. 14a で、渦電流が大きくなると振幅比は小さくなる。これは、励磁磁束の一部が検出コイルに直接鎖交しており、渦電流による磁界は入射磁束と逆方向であるので、直接鎖交している励磁磁束を打ち消す方向の電圧が検出コイルに生起されるためである。 また、Fig. 14a において位相差は、渦電流による遅延が大きくなるほど大きくなるように観測されていて、現象に合わせてある。これは検出コイルの接続極性の問題で、逆接続すれば逆になることは明らかである。 Fig. 14a から明らかなごとく, リフトオフが40mm 程度までは、左下で大きく湾曲している。これは、検出コイルが励磁コイル両極の中央付近に配置されていることに関係する。 即ち、磁力線は下方に円弧状に湾曲しているので、リフトオフが小さい間は、励磁コイルの直下に- 57 -ほぼ垂直に入射し、生起される渦電流も強いが、中央の検出コイルからは遠いため、渦電流分として観測される磁束は小さい。 また、渦電流が流れる区間も大きいため、遅延時間も長く、位相差も大きい。 リフトオフを大きくして行くと、下に湾曲した磁力線が被検体に到達する部位が次第に中央の検出コイルの直下に近くなるので渦電流による磁束をより多く検出するようになり、振幅比は低下し、ほぼ 40mm 付近で最小となる。 また、それを過ぎてリフトオフが大きくなると、磁力線が湾曲しているために、被検体に垂直に入射する成分が減少して行くので、検出コイルで検出される渦電流による磁束成分は減少し、振幅比としては増加に転ずる。 位相差は、検出コイルほぼ直下の渦電流による寄与分を検出するようになるので、低下して行く。一方、被検体厚35mm と 30mm との変化分はリフトオフ 40mm を超えると急激に低下する。 これは励磁磁束が励磁コイルの両極を出点または入点として円弧状になるため、リフトオフが大きくなると、被検体を貫通する磁束が急激に減少するためである。 またリフトオフが 0 ないし5mm の場合も低下している。 これは、空芯の検出コイルに被検体が非常に近く配置されたこととなり、ショ-トリング効果で空芯コイルのインダクタンスが低下するためである。 従って、検出コイルが空芯の場合は、リフトオフをある程度取った方が良いことが明らかとなった。 4.2 リフトオフ 74mmでの肉厚測定 リフトオフ 74mm で測定すべく、センサーの下部に 74mm のスペ-サ-を入れ、35Hz 単一周波数で、35mm と30mm のステンレス板被検体の上に交互に手動で置いて測定したもので、リアルタイムで表示された画面を Fig. 15 に示す。 Fig. 16 は集録されたデ-タより、その最初の部分を拡大表示したもので、手動のため、置いた位置の精度、置き方の違いにより、値に多少の相違はあるが、一度置かれたそのままの状態での測定結果は高精度で安定していることを示している。 Table 1 は集録デ-タより、各回 5 点のデ-タを平均し、各厚さ10 回の測定値を示したもので、厚さの値として+/- 0.1mm, 標準偏差として 0.13mm で測定されている。これは較正点で測定したので、当然といえば当然であるが繰り返し精度は確保されていることを示している。 5. 結言 肉厚が厚く、大きなリフトオフをとらざるを得ない被検体においては、高速フ-リエ変換(FFT)を使用して振幅比と位相差の2元値を同時に取得し、これを用いて連立方程式を解くことにより各係数を求め、それにより肉厚値を推定する方式が有効であることを実証できた。 また、その際に複数の周波数の正弦波を合成した信号を用いる方法の有効性も確認できた。 参考文献 [1] K. NAKAMURA , A new approach to the Electromagnetic Induction Nondestructive Inspection .Preceding of Symposium in the Japan Society of Mechanical Engineers. [2] Electro-Magnetic Induction Testing for Inspection of Wall Thickness and Inner-surface Defects- “i Eddy” System Vol.5, No.3, NT58, EJAM - 58 -
“ “電磁誘導法による肉厚測定技術の開発(その1) -保温材付き配管への適応- “ “高倉 一真,Kazuma TAKAKURA,小林 雅弘,Masahiro KOBAYASHI,出井 義純,Gijun IDEI,貝塚 眞生,Masao KAIZUKA
電磁誘導による試験法は産業界で広く使用されている。しかしながら、磁性と導電性をともに有する炭素鋼のような被検体の場合には磁束が内部に浸透することに限界があるため、特にリフト・オフ(被検体とセンサー間の距離)が大きい場合は、検出信号が著しく小さくなるため、被検体として正常の場合と、異常がある場合との相対比較に限定されていた。 新たに開発したシステムは、低い周波数領域, 且つ複数の周波数を用いることによる高速フーリエ変換(FFT) とデジタル処理を導入することにより、被検体の肉厚や内面欠陥の肉厚相当値を計測することを可能にした。 これにより、一般的に保温材で覆われた、即ちリフトオフが大きい場合での、炭素鋼管等の被検体の検査・測定においても、その保温材上から被検体の減肉、内面欠陥のスクリーニング検査を行い、疑わしい場合は、保温材を除去し、より小さなリフトオフで精密検査を行うことにより、的確な減肉、内面欠陥の検出が可能になった。 更に、それを三次元(3D)画像として表示させることにより、減肉、内面欠陥の形状、性状を推定することが可能となり、より的確な保安、メンテナンス情報を得ることが可能となった。 更に、肉厚の厚い被検体の場合で、大きなリフトオフを取った場合の測定結果についても考察した。 以上の結果について報告する。
2. 測定原理
電磁誘導法にあっては、一般的に励磁コイルを被検体に対向させ、被検体に誘起される渦電流による磁束変化を、同じく被検体に対向させた検出コイルにより検出している。 かかる場合、渦電流による磁束のみが検出されるわけではなく、励磁磁束の一部や、被検体が与える- 51 -励磁磁束の変化分も含め、総合した磁束変化を検出していることになり、複雑になる。 また、被検体も磁性の有無により、様相が大きく異なる。 即ち、磁性がある場合は入射した磁束は、被検体の形状に応じて伝播する要素が大きく、また周波数が高くなると減衰が大きくなるので、周波数の選定が重要となる。 一般的に配管等の管体、または貯蔵タンク等の缶体は厚い保温材で覆われている場合が多く、更にその外側をトタン、ステンレス、アルミ等の外被材で覆われている場合が多いが、それらの外側から、即ち大きなリフトオフをとった状態で、管体や缶体の肉厚や内面傷を測定・検出したいというニーズが大きい。 一方、電磁誘導法は、いわば近傍解であるので、遠方解である、電磁波、光、超音波等のごとくほぼ直進して次第に減衰するものとは異なり、磁力線は一方の極から出て湾曲して他方の極に至るため、リフトオフを大きくとるためには両極の間隔即ちスパンを大きくとらざるを得ず、大型のセンサーとせざるを得ない。 一方大きなセンサーとすると当然ながら空間分解能は低下し、小さな傷の検出等は困難となる。従って目的にあわせた適切な大きさのセンサーを開発することが重要となる。 2.1 測定回路従来、電磁誘導法による検出回路としては位相検波器による特定位相での検波出力を用いる場合が多かった。 この場合、特定位相での振幅値のみで、いわば一次元の測定値しか得られない。 一方、正弦波は、周波数、振幅、位相で一意的に定義でき、また一般の信号波形は、複数の正弦波の合成波形として表現することが可能である。 フーリエ変換、特に高速フーリエ変換(FFT)を用いれば、通常の PC で振幅と位相の二次元の測定値が同時に得られるので、被検体の厚さ、傷等の値を推定する場合の自由度が増加する。 Fig. 1 は、測定回路、センサー、被検体の総合構成を示す。 即ち、PC で生起された正弦波デジタル信号はデジタル-アナログ変換器(DAC)によりアナログ信号に変換され、電力増幅されてセンサーの励磁コイルを励振する。一方、その励振出力はマルチプレクサーとアナログ-デジタル変換器(ADC)を介して基準信号としてPC に取り込まれる。 また、検出コイルの出力もマルチプレクサー、ADC を介して同様にPC に取り込まれ、PC 内で高速フーリエ変換され、振幅値と位相値が検出され、振幅は前記基準信号のそれとの比、即ち振幅比として求められ、位相は同様に前記基準信号のそれとの差、即ち位相差として求められる。ここで、振幅比、位相差として求めることにより、電源変動、温度変化等測定系の変動要素による測定値変動を抑制することが可能となる。 また、PC 内で複数の周波数の正弦波信号をデジタル的に発生させ、デジタル的に合成して DAC に供給することにより、複数周波数の合成信号で励磁し、検出コイル出力も FFT によりその周波数ごとの振幅比、位相差を求め、それらの単純平均、加重平均、またはそのまま多元測定値として用いる等、さまざまな変化が可能である。 この場合、互いに素数の倍数関係にある周波数を組み合わせて使用すると、それぞれの周波数の高調波は他の周波数と干渉しないため、エリアスを防ぐ意味で効果が大きい。 2.2 厚さ推定式二次元の測定値、振幅比 x と 位相差 y とから被検体厚さ T は、線形方程式(1) として推定する。 各係数 a, b 定数c は 3 点較正を行い、次の三元連立一次方程式を解くことにより求められる。 過去の経験より、測定の際のリフトオフの変動が測定値に与える影響が大きいことが明らかとなっている。 従って、リフトオフ変動を無視できる較正法が有用である。 そのために、3点の較正点のうち2点は、被検体の厚さを測定するのであるので、厚さの異なる、T2, T3 の点で較正するとし、他の1点として T2 の点でわずかにリフトオフの異なる時の測定値を用い、T1 = T2 として較正する方法をとる。 3. 炭素鋼管の測定例 3.1 リフトオフの違いによる測定結果 炭素鋼管 SS400 外直径76.3mm の65A を被検体とした。この被検体は厚さ20mm の保温材で覆われ、その上部が厚さ 0.1mm の、赤外線の反射効果をねらったと思われる、アルミフォイルの外被材で密着して覆われている。従ってクリアランスを含め、23mm 程度のリフトオフで測定出来ることがのぞましい。 Fig. 1 のセンサーは、励磁コイル間隔50mm で設計されている。 被検体としては、Fig. 2 に示す如く、中央部の肉厚は4.2mm で、その中央- 52 -Fig. 1 Measuring System with Sensor-1 and Test Piece Fig. 2 Details of the Test Piece Fig. 3 Picture of X-Y Scanner and Measurement System Fig. 4 Details of Sensor-2 for Large Lift Off 229 242 229 Spherical Dent 20Φ, Depth:2 Carbon Steel Pipe SS400 65A Thermal Insulator 3.4 4.2 202.4Lift Off = 23 Unit: mm X Scan Aluminum Foil t = 0.1 Sensor 76.3 . 4.220LO=23mm Thermal Insulator Alminum Foil t = 0.1mm Carbon Steel Pipe SS400-65A 2.4Power Amplifier DAC Multiplexer ADC Computer Display & Data Logging Sensor - 53 -Fig. 5a Lift Off = 2mm, f = 10Hz Fig. 5b Lift Off = 2mm, f = 10, 15, 25, 35Hz Fig. 6a Lift Off = 10mm, f = 10Hz Fig. 6b Lift Off = 10mm, f = 10, 15, 25, 35Hz Fig. 7a Lift Off = 20mm, f = 10Hz Fig. 7b Lift Off = 20mm, f = 10, 15, 25, 35Hz Fig. 8a Lift Off = 30mm, f = 10Hz Fig. 8b Lift Off = 30mm, f = 10, 15, 25, 35Hz Fig. 9a Lift Off = 60mm, f = 10Hz Fig. 9b Lift Off = 60mm, f = 10, 15, 25, 35Hz 1.522.533.544.50 20 40 60 80 100 120 140 160 180 壁厚(mm) Step 炭素鋼SS400‐65A Lift Off: 2mm, f: 10, 15, 25, 35Hz 22.533.544.50 20 40 60 80 100 120 140 160 180 壁厚(mm) Step 炭素鋼SS400‐65A Lift Off:10mm, f:10Hz 1.522.533.544.50 20 40 60 80 100 120 140 160 180 壁厚Step 炭素鋼SS400‐65A Lift Off: 2mm, f:10Hz 22.533.544.50 20 40 60 80 100 120 140 160 180 壁厚(mm) Step 炭素鋼SS400‐65A Lift Off:10mm, f: 10, 15, 25, 35Hz 22.51900/01/023.51900/01/034.50 20 40 60 80 100 120 140 160 180 壁厚(mm) Step 炭素鋼SS400‐65A Lift Off: 20mm, f: 10Hz 21900/01/01 12:00:0033.541900/01/03 12:00:000 20 40 60 80 100 120 140 160 180 壁厚(mm) Step 炭素鋼SS400‐65A Lift Off: 20mm, f: 10, 15, 25, 35Hz 22.531900/01/02 12:00:0041900/01/03 12:00:000 20 40 60 80 100 120 140 160 180 壁厚(mm) Step 炭素鋼SS400‐65A Lift Off: 30mm, f: 10Hz 21900/01/01 12:00:001900/01/021900/01/02 12:00:0044.50 20 40 60 80 100 120 140 160 180 壁厚(mm) Step 炭素鋼SS400‐65A Lift Off: 30mm, f: 10, 15, 25, 35Hz 22.533.544.550 20 40 60 80 100 120 140 160 180 壁厚(mm) Step 炭素鋼SS400‐65A Lift Off: 60mm, f: 10Hz 22.533.544.550 20 40 60 80 100 120 140 160 180 壁厚(mm) Step 炭素鋼SS400‐65A Lift Off: 60mm, f: 10, 15, 25, 35Hz - 54 -Fig. 10 Copy of Display, Lift Off = 23mm,(Over Thermal Insulator & Aluminum Cover) X(axial) . Y(Circular) Scanning, f = 10, 15, 25, 35Hz Fig. 11 a 3D Image of Fig. 10 Fig. 11b 3D Image, Enlarged Center Portion of Fig. 11a Fig, 12 Copy of Display, Lift Off = 3mm( After removal of Thermal Insulator & Aluminum Cover) X(axial) . Y(Circular) Scanning, f = 10, 15, 25, 35Hz Fig. 13a 3D Image of Fig. 12 Fig. 13b 3D Image, Enlarged Center Portion of Fig. 13a - 55 -Fig. 14a Vector Scope of Amplitude Ratio vs Phase Difference of Sensor-2 Fig. 14b Enlarged Portion of Fig. 14a Parameter: Lift Off & Wall Thickness T = 35 & 30mm, SUS304, f = 35Hz Large Lift Off Area Fig. 15 Copy of Display, Sensor-2, Lift Off = 74mm, Wall Thickness T = 35 & 30mm, SUS304, f = 35Hz Table 1 Logged Values of Fig. 15 Fig. 16 Enlarged Graph of First 5 Steps Measurement 0.020.030.040.050.060.070.080.090.10.112 0.1125 0.113 0.1135 0.114 0.1145 位相差(rad) 振幅比振幅比vs 位相差(rad)(部分拡大) T=30mm LO: 60mm LO: 74mm LO: 84mmLO: 94mmLO:104mm T=35mm 00.10.20.30.40.50.60.70.11 0.111 0.112 0.113 0.114 0.115 0.116 0.117 位相差(rad) 振幅比振幅比vs 位相差(rad)LO: 0 LO: 5mm LO: 10mm LO: 15mm LO:20mm LO: 30mm LO: 40mm LO: 50mm T=35mm T=30mm 29303132333435360 5 10 15 20 25 厚さT(mm) Step 測定値-Lift Off:74mm(拡大図) 測定(回目) 35mm 30mm 1 34.993 30.150 2 34.820 30.304 3 35.107 30.088 4 34.795 29.959 5 34.952 30.185 6 34.893 30.154 7 34.962 30.061 8 35.018 29.999 9 34.714 29.989 10 34.767 30.114 平均値34.902 30.101 標準偏差0.125 0.099 Li ft Of f: 7 4 m m - 56 -部に直径 20mm, 深さ 2mm の球面状人口傷が加工されている。また、片側の肉厚が 2.4mm、他方が 3.4mm に加工されている。 測定は、Fig. 3 に示すスキャナーで測定した。 このスキャナーは、測定系と同じ PC からの制御信号により管軸方向はステッピングモーターにより、測定系と同期して3mm/ステップでスキャンされ、管の円周方向は手動により回転させるようになっている。リフトオフを変化させて測定した結果を Fig. 5a ~Fig. 9b に示す。 この左側、Fig. 5a 等a のサフィックスのつく図は、 10Hz 単一周波数で測定したもの、右側の b のサフィックスの付いた図は 10, 15, 25, 35Hz の4周波数で測定したものである。個々の周波数で測定された振幅比、位相差を単純平均した値を振幅比、位相差として用いて較正および測定を行っている。 この4 個の周波数は、5Hz の素数倍即ち、2, 3, 5, 7 倍の周波数で、これらの周波数の高調波が干渉しないよう配慮した。 図から明らかなごとく、中央部の人口傷を含めた検出の実用限界はリフトオフ 30mm 程度であるが、両端、中央部の肉厚の相違はリフトオフ 60mm でも検出可能である。 10Hz 単一周波数と 10, 15, 25, 35Hz 4周波数使用との違いは、後者の方がよりノイズの少ない的確な測定が可能であることを示しており、被検体の透磁率、導電率等物性値の不明な場合で、最適周波数が不明の場合であっても的確な測定が可能なことを示している。 3.2 測定結果の 3D 表示 CPU パワーの関係からオンライン、リアルタイムでの3D 表示は必ずしも得策ではないが、管軸方向 X, 円周方向 Y をスキャンしたデータの集録結果より、オフラインで 3D 画像に構成することは、肉厚、内面傷の検出、測定には非常に有益である。 Fig. 10~Fig. 11b は、厚さ0.1mm のアルミフォイル付き保温材上 3mm, 総合リフトオフ 23mm で、10, 15, 25, 35Hz 4周波数で測定した結果を示す。 即ち、肉厚の相違は明確に検出できており、中央の人口傷はそれらしい陰として検出されている。 更に、保温材を取り外し、リフトオフ 3mm で測定した結果を Fig. 12~ Fig. 13b に示す。 即ち、中央傷のイメ- ジを的確に描出している。 従って、保温材上で、スクリーニングを行い、疑わしい部分は保温材を除去したうえ、リフトオフを小さくして精密検査をするという使用法が理想的であると言える。 注目すべきは、 Fig. 10 とFig. 12 は、リアルタイムの 2D ディスプレイ画面であるが、熟練するとこれから容易に 3D 画面を推定できる。 4. 大きいリフトオフ、厚肉体の測定例 肉厚の厚い被検体で、大きいリフトオフに対応するためには、より遠くに磁力線を飛ばす必要があり、そのためには励磁コイルの両極の間隔即ちスパンを大きくする必要があり、Fig. 4 に示すごとき両極のスパン 180mm の大型センサ-を開発した。 被検体としては厚さ 35mm と30mm で、大きさ 800mm X 800mm のステンレス鋼 SUS304 の平板を各1枚ずつ用意し、交互に交換して測定した。 磁力線は意外に広範囲に広がり、かつ被検体に流れる渦電流の流路も広範囲にわたるので、端部効果を防ぎ、デ-タの普遍性を担保するにはこの程度の大きさが必要である。 センサ-の励磁コイルとしては磁路を集中させるためにフェライトコア入りとしたが、検出コイルは空芯コイルとした。 理由は、ここにコアを入れると、リフトオフが大きい場合は励磁磁束のうちこれに直接誘引される割合が多くなり、被検体を貫通する励磁磁束が低下し、感度が低下するためで、励磁磁束の乱れを最小限にするよう意図した。 4.1 リフトオフと振幅比、位相差 リフトオフを変化させて振幅比と位相差がどのように変化するかを測定した。 結果を Fig. 14a に示す。これは、ある特定のリフトオフで,まず35mm を測定し、次に30mm を測定し、35mm に戻って再度測定し、次のリフトオフの測定に移るという順序で測定している。 Fig. 14b はリフトオフの大きい領域の拡大図である。 振幅比は、正弦波をベクトルとして表示した場合のベクトルの絶対値、位相差はその位相角であるので、ベクトル表示としては本来円グラフで表示する必要があるが、便宜上X-Y 座標で表示している。 Fig. 14a で、渦電流が大きくなると振幅比は小さくなる。これは、励磁磁束の一部が検出コイルに直接鎖交しており、渦電流による磁界は入射磁束と逆方向であるので、直接鎖交している励磁磁束を打ち消す方向の電圧が検出コイルに生起されるためである。 また、Fig. 14a において位相差は、渦電流による遅延が大きくなるほど大きくなるように観測されていて、現象に合わせてある。これは検出コイルの接続極性の問題で、逆接続すれば逆になることは明らかである。 Fig. 14a から明らかなごとく, リフトオフが40mm 程度までは、左下で大きく湾曲している。これは、検出コイルが励磁コイル両極の中央付近に配置されていることに関係する。 即ち、磁力線は下方に円弧状に湾曲しているので、リフトオフが小さい間は、励磁コイルの直下に- 57 -ほぼ垂直に入射し、生起される渦電流も強いが、中央の検出コイルからは遠いため、渦電流分として観測される磁束は小さい。 また、渦電流が流れる区間も大きいため、遅延時間も長く、位相差も大きい。 リフトオフを大きくして行くと、下に湾曲した磁力線が被検体に到達する部位が次第に中央の検出コイルの直下に近くなるので渦電流による磁束をより多く検出するようになり、振幅比は低下し、ほぼ 40mm 付近で最小となる。 また、それを過ぎてリフトオフが大きくなると、磁力線が湾曲しているために、被検体に垂直に入射する成分が減少して行くので、検出コイルで検出される渦電流による磁束成分は減少し、振幅比としては増加に転ずる。 位相差は、検出コイルほぼ直下の渦電流による寄与分を検出するようになるので、低下して行く。一方、被検体厚35mm と 30mm との変化分はリフトオフ 40mm を超えると急激に低下する。 これは励磁磁束が励磁コイルの両極を出点または入点として円弧状になるため、リフトオフが大きくなると、被検体を貫通する磁束が急激に減少するためである。 またリフトオフが 0 ないし5mm の場合も低下している。 これは、空芯の検出コイルに被検体が非常に近く配置されたこととなり、ショ-トリング効果で空芯コイルのインダクタンスが低下するためである。 従って、検出コイルが空芯の場合は、リフトオフをある程度取った方が良いことが明らかとなった。 4.2 リフトオフ 74mmでの肉厚測定 リフトオフ 74mm で測定すべく、センサーの下部に 74mm のスペ-サ-を入れ、35Hz 単一周波数で、35mm と30mm のステンレス板被検体の上に交互に手動で置いて測定したもので、リアルタイムで表示された画面を Fig. 15 に示す。 Fig. 16 は集録されたデ-タより、その最初の部分を拡大表示したもので、手動のため、置いた位置の精度、置き方の違いにより、値に多少の相違はあるが、一度置かれたそのままの状態での測定結果は高精度で安定していることを示している。 Table 1 は集録デ-タより、各回 5 点のデ-タを平均し、各厚さ10 回の測定値を示したもので、厚さの値として+/- 0.1mm, 標準偏差として 0.13mm で測定されている。これは較正点で測定したので、当然といえば当然であるが繰り返し精度は確保されていることを示している。 5. 結言 肉厚が厚く、大きなリフトオフをとらざるを得ない被検体においては、高速フ-リエ変換(FFT)を使用して振幅比と位相差の2元値を同時に取得し、これを用いて連立方程式を解くことにより各係数を求め、それにより肉厚値を推定する方式が有効であることを実証できた。 また、その際に複数の周波数の正弦波を合成した信号を用いる方法の有効性も確認できた。 参考文献 [1] K. NAKAMURA , A new approach to the Electromagnetic Induction Nondestructive Inspection .Preceding of Symposium in the Japan Society of Mechanical Engineers. [2] Electro-Magnetic Induction Testing for Inspection of Wall Thickness and Inner-surface Defects- “i Eddy” System Vol.5, No.3, NT58, EJAM - 58 -
“ “電磁誘導法による肉厚測定技術の開発(その1) -保温材付き配管への適応- “ “高倉 一真,Kazuma TAKAKURA,小林 雅弘,Masahiro KOBAYASHI,出井 義純,Gijun IDEI,貝塚 眞生,Masao KAIZUKA