超高純度ステンレス鋼SUS310EHP の部材製作技術開発
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カテゴリ: 第11回
1.はじめに
酸化性の酸である硝酸溶液を使用する再処理施設においては、不働態皮膜を形成することにより優れた耐食性を有するオーステナイト系ステンレス鋼を主として採用している。腐食がより厳しい部位では、Cr 欠乏層による粒界腐食の発生を抑制するため、炭素含有量を低減させたR-SUS304ULC 等を採用している。一方で過不働態領域においてはR-SUS304ULC においても粒界腐食が発生すること[1]が知られていることから、より耐粒界腐食性を向上させ高寿命化できるステンレス鋼を開発している。耐粒界腐食性を向上させたステンレス鋼の開発にあたっては、六ヶ所再処理施設で使用されているステンレス鋼の規格に準拠し、およびクロム含有率が高く設定できることからSUS310 をベースとした。R-SUS310ULC の化学組成範囲内で超高純度化することにより、不純物の粒界偏析による耐粒界腐食性低下[2] を抑制したSUS310EHP(EHP:Extra High Purity)を開発してきた。ここでは、再処理機器へのSUS310EHP の適用を念頭に実施している各種部材の製造技術の開発の状況について報告する。
2.SUS310EHP の部材製造技術開発
2.1 商業用炉での溶製
商業用炉を用いて超高純度化したSUS310EHP を溶製するために真空二段溶解を採用した。一次溶解としてVIM(Vacuum Induction Melting)を行って均質な鋳塊を溶製した。二次溶解として一次鋳塊材で製造した素材電極を用いてVAR(Vacuum Arc Remelting)を行った。二次溶解の目的は、精錬することによる清浄度を高めることである。2t の商業用炉を用いて不純物を制御したSUS310EHP 鋳塊を3 ヒート溶製した。溶製した3 つの鋳塊の化学組成分析結果をTable 1 にしめす。
Tabel 1 Chemical components Ingot No. Chemical component (%) C Si Mn P S Ni Cr others Standard Value R-SUS310ULC ≦0.020 ≦1.50 ≦2.00 ≦0.045 ≦0.030 19.0-22.0 24.0-26.0 Target Value SUS310EHP <0.005 <0.03 <0.03 <0.003 <0.002 19.0-22.0 24.0-26.0 Boron ≦5ppm KOBE 005 0.003 <0.01 <0.01 <0.001 <0.001 20.80 24.94 <1ppm KOBE 006 0.003 <0.01 <0.01 <0.001 <0.001 20.92 25.02 <1ppm KOBE 007 0.001 <0.01 <0.01 <0.001 <0.001 20.95 25.04 <1ppm
3 つすべての鋳塊において全ての元素が目標値内で溶製できたことを確認した。2.2 SUS310EHP を用いた部材製造 再処理機器において腐食環境が厳しいのは蒸発缶などの加熱機器となるため、溶製したSUS310EHP の鋳塊を用いて蒸発缶で想定される部位を対象とした製造技術開発を実施した。対象としてケトル型蒸発缶およびサーモサイフォン型蒸発缶を想定し、伝熱管、板材および溶接棒を製造した。上述の部材を用いて機械的性質および耐食性の評価を実施した。機械的性質をTable 2 に示す。超高純度化をしたことにより、引張強さおよび0.2 % 耐力がR-SUS310ULC の規格値より低い部材も見られるが、実用上問題ないと考えられる。このことは、高純度化によるC に代表される不純物の低下によるものと考えられる。Table 2 Mechanical properties of SUS310EHP Tensile Strength (MPa) Proof Stress (MPa) Elastic Limit (%) R-SUS310ULC※ ≦480 ≦175 ≦40 R-SUSF310ULC※ ≦450 ≦175 ≦29 Rolled Sheets (25t) 464 162 56.9 Forged Plates (30t) 464 170 49.7 25A-Sch80 tubes 503 233 52.2 100A-Sch160 tubes 497 206 54.6 ※Standard Value SUS310EHP については、化学成分はR-SUS310ULC の規格値内であるが、耐食性を高める目的で高純度化し、機械的性質が異なるので、R-SUS310ULC EHP として民間規格化[3]した。2.3 SUS310EHP の溶接施工蒸発缶の実機製造工程において溶接施工は必須であり、製造方法を想定した板材同士および管同士の突合溶接と管と管板の隅肉溶接についてSUS310EHP 共材を用いた溶接施工性を確認した。SUS310EHP の溶接施工性について実機適用に向けた大きな問題が無いことを確認した。しかし、溶接部の機械的性質については、共材を使用しているため母材とほぼ同等の強度なった。日本機械学会の再処理設備規格 溶接規格では溶接部は母材の強度と同等以上の強度を要求されており、同等とみなせるかどうかが今後の課題と考えられる。Fig.1 Weldability test 製造した SUS310EHP の溶接部耐食性については、65% 硝酸腐食試験(JIS G 0573)にて評価を実施した。溶金部の腐食速度は0.05 (g/m2・h) と十分に小さく、粒界腐食も確認されなかった。Fig.2 SEM images of deposit metal (65% nitric acid test) 3.まとめ 耐食性を向上させたSUS310EHP について、2t の商業用炉を用いた鋳塊溶製、蒸発缶を想定した部材製造、および実機製造工程を考慮した溶接施工性の確認を行い、実機適用に向けて大きな課題がないことを確認した。今後は、詳細な実機製造工程を考慮した詳細な調査や母材強度に対する溶接部の強度について調査や改良を実施していく。参考文献[1] 木内清、“再処理プラント材料の硝酸溶液中の腐食問題と防止対策”、日本原子力学会誌、Vol.31,№2、1989、pp.229-238. [2] 金子道郎、阿部征三郎、“316 系ステンレス鋼の粒界腐食性に及ぼす鋼中C, Si およびP の影響”、Zairyo-to-Kankyo, 44、1995、pp.391-398. [3] (一社)日本高圧力技術協会、“核燃料再処理設備規格 材料規格(追補1)”、HPIS C 108:2011 AMD1:2014 - 64 -“ “超高純度ステンレス鋼SUS310EHP の部材製作技術開発 “ “岡田 聖貴,Kiyotaka OKADA,杉山 裕志,Hiroshi SUGIYAMA,蝦名 哲成,Tetsunari EBINA,加納 洋一,Yoichi KANO,中山 準平,Junpei NAKAYAMA,曽我 幸弘,Yukihiro SOGA
酸化性の酸である硝酸溶液を使用する再処理施設においては、不働態皮膜を形成することにより優れた耐食性を有するオーステナイト系ステンレス鋼を主として採用している。腐食がより厳しい部位では、Cr 欠乏層による粒界腐食の発生を抑制するため、炭素含有量を低減させたR-SUS304ULC 等を採用している。一方で過不働態領域においてはR-SUS304ULC においても粒界腐食が発生すること[1]が知られていることから、より耐粒界腐食性を向上させ高寿命化できるステンレス鋼を開発している。耐粒界腐食性を向上させたステンレス鋼の開発にあたっては、六ヶ所再処理施設で使用されているステンレス鋼の規格に準拠し、およびクロム含有率が高く設定できることからSUS310 をベースとした。R-SUS310ULC の化学組成範囲内で超高純度化することにより、不純物の粒界偏析による耐粒界腐食性低下[2] を抑制したSUS310EHP(EHP:Extra High Purity)を開発してきた。ここでは、再処理機器へのSUS310EHP の適用を念頭に実施している各種部材の製造技術の開発の状況について報告する。
2.SUS310EHP の部材製造技術開発
2.1 商業用炉での溶製
商業用炉を用いて超高純度化したSUS310EHP を溶製するために真空二段溶解を採用した。一次溶解としてVIM(Vacuum Induction Melting)を行って均質な鋳塊を溶製した。二次溶解として一次鋳塊材で製造した素材電極を用いてVAR(Vacuum Arc Remelting)を行った。二次溶解の目的は、精錬することによる清浄度を高めることである。2t の商業用炉を用いて不純物を制御したSUS310EHP 鋳塊を3 ヒート溶製した。溶製した3 つの鋳塊の化学組成分析結果をTable 1 にしめす。
Tabel 1 Chemical components Ingot No. Chemical component (%) C Si Mn P S Ni Cr others Standard Value R-SUS310ULC ≦0.020 ≦1.50 ≦2.00 ≦0.045 ≦0.030 19.0-22.0 24.0-26.0 Target Value SUS310EHP <0.005 <0.03 <0.03 <0.003 <0.002 19.0-22.0 24.0-26.0 Boron ≦5ppm KOBE 005 0.003 <0.01 <0.01 <0.001 <0.001 20.80 24.94 <1ppm KOBE 006 0.003 <0.01 <0.01 <0.001 <0.001 20.92 25.02 <1ppm KOBE 007 0.001 <0.01 <0.01 <0.001 <0.001 20.95 25.04 <1ppm
3 つすべての鋳塊において全ての元素が目標値内で溶製できたことを確認した。2.2 SUS310EHP を用いた部材製造 再処理機器において腐食環境が厳しいのは蒸発缶などの加熱機器となるため、溶製したSUS310EHP の鋳塊を用いて蒸発缶で想定される部位を対象とした製造技術開発を実施した。対象としてケトル型蒸発缶およびサーモサイフォン型蒸発缶を想定し、伝熱管、板材および溶接棒を製造した。上述の部材を用いて機械的性質および耐食性の評価を実施した。機械的性質をTable 2 に示す。超高純度化をしたことにより、引張強さおよび0.2 % 耐力がR-SUS310ULC の規格値より低い部材も見られるが、実用上問題ないと考えられる。このことは、高純度化によるC に代表される不純物の低下によるものと考えられる。Table 2 Mechanical properties of SUS310EHP Tensile Strength (MPa) Proof Stress (MPa) Elastic Limit (%) R-SUS310ULC※ ≦480 ≦175 ≦40 R-SUSF310ULC※ ≦450 ≦175 ≦29 Rolled Sheets (25t) 464 162 56.9 Forged Plates (30t) 464 170 49.7 25A-Sch80 tubes 503 233 52.2 100A-Sch160 tubes 497 206 54.6 ※Standard Value SUS310EHP については、化学成分はR-SUS310ULC の規格値内であるが、耐食性を高める目的で高純度化し、機械的性質が異なるので、R-SUS310ULC EHP として民間規格化[3]した。2.3 SUS310EHP の溶接施工蒸発缶の実機製造工程において溶接施工は必須であり、製造方法を想定した板材同士および管同士の突合溶接と管と管板の隅肉溶接についてSUS310EHP 共材を用いた溶接施工性を確認した。SUS310EHP の溶接施工性について実機適用に向けた大きな問題が無いことを確認した。しかし、溶接部の機械的性質については、共材を使用しているため母材とほぼ同等の強度なった。日本機械学会の再処理設備規格 溶接規格では溶接部は母材の強度と同等以上の強度を要求されており、同等とみなせるかどうかが今後の課題と考えられる。Fig.1 Weldability test 製造した SUS310EHP の溶接部耐食性については、65% 硝酸腐食試験(JIS G 0573)にて評価を実施した。溶金部の腐食速度は0.05 (g/m2・h) と十分に小さく、粒界腐食も確認されなかった。Fig.2 SEM images of deposit metal (65% nitric acid test) 3.まとめ 耐食性を向上させたSUS310EHP について、2t の商業用炉を用いた鋳塊溶製、蒸発缶を想定した部材製造、および実機製造工程を考慮した溶接施工性の確認を行い、実機適用に向けて大きな課題がないことを確認した。今後は、詳細な実機製造工程を考慮した詳細な調査や母材強度に対する溶接部の強度について調査や改良を実施していく。参考文献[1] 木内清、“再処理プラント材料の硝酸溶液中の腐食問題と防止対策”、日本原子力学会誌、Vol.31,№2、1989、pp.229-238. [2] 金子道郎、阿部征三郎、“316 系ステンレス鋼の粒界腐食性に及ぼす鋼中C, Si およびP の影響”、Zairyo-to-Kankyo, 44、1995、pp.391-398. [3] (一社)日本高圧力技術協会、“核燃料再処理設備規格 材料規格(追補1)”、HPIS C 108:2011 AMD1:2014 - 64 -“ “超高純度ステンレス鋼SUS310EHP の部材製作技術開発 “ “岡田 聖貴,Kiyotaka OKADA,杉山 裕志,Hiroshi SUGIYAMA,蝦名 哲成,Tetsunari EBINA,加納 洋一,Yoichi KANO,中山 準平,Junpei NAKAYAMA,曽我 幸弘,Yukihiro SOGA