EBR-II 反射体を用いたオーステナイト鋼照射下ミクロ組織検出のための非破壊検査技術構築
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カテゴリ: 第11回
1.緒言
オーステナイト系ステンレス鋼のFBR環境下に於ける 代表的な中性子照射劣化として、原子空孔の三次元的な 集合体(ボイド)が形成し、これに伴い体積増加(スエ リング)が発生することが挙げられる。我々のグループ では、これまでオーステナイト系ステンレス鋼のスエリ ングを検出する 2 つの非破壊検査手法を構築してきた [1-8]。すなわち、超音波の音速変化を測定する手法、並び に超音波の減衰,散乱の変化を解析する手法である。こ れらの手法は、それぞれボイド形成によりヤング率,試 料の密度が減少すること、ボイドが超音波を反射,散乱 するミクロ因子であることに基づいてスエリングを検出 する手法である [9-12]。一方、スエリングは、しばしば照射 下第二相(析出物)形成と同時に発生するため [13-15]、ス エリングをより高精度で検出するには、析出物形成が超 音波変化に及ぼす影響も併せて解明することが求められ る。オーステナイト系ステンレス鋼では、特に炭化物形 成により、ヤング率,密度が増加し、音速に影響を及ぼ すことが明らかとなっている [16-19]。既往研究では、炭化 物形成を分離して、スエリングを評価する方法について も提案してきた [1,3]。 本報では、既往研究で提案した音速測定によるスエリ ング評価の精度を明らかにすることを目的とする。高速 炉環境で中性子照射を受けたオーステナイト系ステンレ ス鋼に対して、試験体全体の超音波試験を行った後、試 験片を切り出し、密度測定、及びミクロ組織観察を行っ た。これら 3 種類の試験から算出されたスエリング評価 値を比較することによって、音速測定によるスエリング 評価の妥当性について検討した。
2.試験方法
2.1 試験に用いた EBR-II 反射体の概要 本研究で用いた試験体は、米国高速実験炉 EBR-II
(Experimental Breeder Reactor-II)にて反射体として使用 されてきた冷間加工度約5%の304オーステナイト系ステ ンレス鋼である。誘導結合プラズマ質量分析法を用いて 測定した未照射材の化学組成をTable 1に示す。この試験 体は、EBR-II 炉心第 8 列で約 4.5 年間、第 16 列で約 8.5 年の照射を受けた試験体である。試験体は、軸方向長さ 243.28mm, 対面厚み 52.37mm の六角柱である(Fig.1)。 試験体の表面温度は、冷却材の温度とほぼ等しく 370 ~ 410 ?C である。一方、内部の温度は、ガンマ発熱のため上 昇しており、特に中央部付近では表面温度と比較して 60 ?C 程度高いと推測される。照射量は、炉心に近い六角 柱側面で26-33 dpa,その反対側面で20-23dpa であった。 Table1 chemical composition of the archive materials (wt.%) Alloy C Si Mn P S Cr Ni Fe 304 SS 0.056 0.43 1.57 0.027 0.03 19.26 8.81 balance Fig.1 Appearance of the irradiated block material 2.2 照射後試験 本研究では、Fig.2 に示すように、4 段階の試験を行っ た。第一段階の試験として、試験体側面から軸方向への 超音波測定を行った(Fig.2 (a))。超音波試験は、米国 Westinghouse Electric Companyのホットセルにて、中心周 波数 10MHz の超音波プローブを用いて水浸法で行った。 測定では、超音波の入射角度を遠隔で操作可能なゴニオ メータを用いて、入射角を±0.004 ?で制御した。また、材 料の測定位置を遠隔で制御可能なXYステージを用いて、 0.1mm 以下の精度で測定した。本研究で用いた超音波測 定装置をFig.3 に示す。第二段階の試験として、試験体最 下部より 75-100mm(3D)の箇所を切り出し、機械研磨 により平滑な断面を得た。その断面に対して、第一段階 の試験と同様の方法で69点の超音波測定を行い、音速分 布を求めた(Fig2.(b))。第三段階の試験として、更に 13 片に切断し、各々の試験片に対して密度測定を行った (Fig2.(c))。密度測定装置の概観を Fig.4 に示す。密度測 定では、まず試験片の重量を電子天秤で測定した後、試 験片を水中に沈めた際の液面の上昇により体積を測定し た。尚、測定は各試験片に対して10回繰り返し、その平 均値を密度測定結果とした。この際の平均誤差は、 0.02g/cm3 以下であった。第四段階の試験として、六角柱 中央部(#7)から直径3mm,厚さ0.25mm の ディスクを 打ち抜き、薄膜化後、透過型電子顕微鏡 (TEM : Transmission Electron Microscope) 観察を行った(Fig.2 (d))。 TEM観察では、Philips CM30を用い、加速電圧250kVで、 ボイド,炭化物,転位ループを定量化した。 Fig.2 Cutting sequences for this study Fig.3 The equipment for ultrasonic velocity measurements Fig.4 The equipment for immersion density measurements (a) Ultrasonic measurements from surface Ultrasonic probe Water bath Irradiated sample (b) Ultrasonic measurements from the cut-face surface 10 cm - 90 - (d) TEM observation (c) Density measurements for 13 pieces #1 #2 #3 #4 #5 #6 #7 #8 #9 #10 #10 #11 #12 #11 #12 #13 #13 3.結果 我々のグループは、超音波測定、及び対応するTEM 観 察結果から、以下の関係式を提案している [1,3]。 ρ = ρ0(1?S+0.33C) (3-1) V = 1?2.5S+3.5C ρ ρ0 (3-2) ρ0 , ρ : 照射前,照射後の密度 V0, V : 照射前,照射後の音速 S : スエリング C : 炭化物体積 後述するTEM 観察結果より、炭化物体積C は0.47%で あることが明らかとなっている。本報に於いては、2つの 方法で、スエリングを評価した。すなわち、式(3-1),(3-2) に於いてC = 0.0を代入する炭化物形成を取り入れない評 価(以下 w/oと示す。)、及びC = 0.0047を代入する炭化 物形成を取り入れた評価(以下 w と示す。)である。 Fig.5 には、第一段階の試験である試験体側面からの超 音波測定結果を示す。照射により、最大1.0%程度の音速 低下が観察されている。特に、第二段階以降の試験を行 う部分(赤枠で囲んだ3D領域)では、0.83%程度の低下 が観察され、スエリングは1.10% (w/o),2.08% (w)と評価 される。 Fig.5 Ultrasonic velocity used to determine the inferred average swelling measured along the length Fig.6 には、第二,第三段階の試験である断面の音速分 布と13片の密度測定結果を示す。中央部で最大スエリン グが観察されること、炉心近傍に位置した部分(Fig.6 の 57805760flat #1 - #4 flat #2 - #5 5740 flat #3 - #6 unirradiated 572057005680unirradiated 50 100 150 200 Positions (mm) ?V0 = 1?2.5S+3.5C 1?S+0.33C ?V0 3D 左部)が反対部(Fig.6 の右部)と比較してスエリングが 高いこと等、スエリング分布は 2 つの測定方法で同様の 傾向を示すことがわかる。また、Fig.6(b) 断面中央部の赤 枠に囲まれた部分 (Iso-dose strip) の密度測定結果に関し て、体積で平均化したスエリングを算出すると、2.05% (w/o),2.20%(w)となる。これはFig.5に示す試験体側面か らの音速測定結果1.10%(w/o),2.08%(w)に対応する。 Table 2には、特に六角柱重心付近3 片(#6 - #8)に関 して、各15 ~ 17回の断面超音波測定から算出したスエリ ング評価値を密度測定からの算出結果との比較に於いて 示す。2 つの手法で評価したスエリング値は、特に炭化物 形成効果を取り入れることで極めて良い一致を示す。炭 化物形成効果をとりいれることで、両者の相違は ~ 0.7% から ~ 0.3%まで減少することが明らかとなった。 (a) (b) Iso-dose strip Fig.6 Comparison of (a) ultrasonic velocity and (b) immersion density measurements. Blue indicates lower swelling and red indicates higher swelling in (a). - 91 - 1.38(w/o) 1.54(w) 1.72 (w/o) 1.88(w) 2.27(w/o) 2.43(w) 1.95(w/o) 2.10(w) 2.48(w/o) 2.63(w) 2.01(w/o) 2.16(w) 1.64(w/o) 1.80(w) Iso-dose strip 2.40(w/o) 2.56(w) 2.11(w/o) 2.27(w) ) ) 1.95(w/o) 2.10(w) 2.10(w) 2 2.48(w/o) 2.63(w) 2.63(w) 2 2.01(w/o) 2.16(w) 2.16(w) 1.64(w/o) 1.80(w) 1.38(w/o) 1.54(w) ( ) ( ) 1.36(w/o) 1.51(w) 1 1.83(w/o) 1.99(w) 1 1.38(w/o) 1.53(w) 1.26(w/o) 1.41(w) Table 2 Comparison of swelling determined in the pieces # 6 through # 8 with and without the carbide contribution density measurement ultrasonic velocity # 6 1.95 % (w/o) 2.10 % (w) 1.30 % (w/o) 2.29% (w) # 7 2.48 % (w/o) 2.63 % (w) 1.90% (w/o) 2.87% (w) # 8 2.01 % (w/o) 2.16 % (w) 1.49% (w/o) 2.47% (w) 六角柱中央部(#7)における TEM 観察結果の一例を Fig.7に示す [20]。照射によって形成した主たるミクロ組織 は、ボイド,転位ループ,M23C6タイプの炭化物であった。 これらを定量化した結果をTable 3 に示す。尚、Table 中 の炭化物体積C = 0.0047は、既に式(3-1), (3-2)に於いて炭 化物の影響を取り入れたスエリング評価 (w) で用いて いる。TEM 観察によってボイド体積から求めたスエリン グは、2.94%となる。この値は、密度測定による評価 2.63%(w)、超音波による評価2.87%(w)と良い一致を示す。 このように炭化物の影響を取り入れることによって、ス エリング評価値の相違は、TEM 観察における平均的な測 定誤差以下の ~ 0.3 %まで減少する。 上記の結果から、超音波音速測定はスエリングを非破 壊的に測定する上で有効な手段であることがわかる。一 方、実機材を対象として、2%以下の低いスエリングをよ り高い精度で検出するためには、炭化物の影響を取り入 れることが必要となる。FBR 環境下で観察される炭化物 (M23C6)は、熱時効でも形成する析出物である [21-23]。 このため、FBR 実機材料と同等組成の未照射材を別途焼 鈍処理することによって、予め飽和炭化物体積を求めて おき、これを用いてスエリングを評価することが考えら れる。炭化物形成の音速変化に及ぼす影響はスエリング の影響と相反するため、熱時効による飽和炭化物体積を 用いることにより、より精緻で且つ保守的なスエリング 評価を行うことが可能となる。 - 92 - (a) (b) (c) Fig.7 Typical microstructure observed by TEM in the piece #7. (a) dislocation loop, (b) carbide M23C6 and (c) void Table 3 Microstructural data by TEM for the piece #7 Density (m-3) Average diameter (nm) Void 1.7 x 1021 28.0 Swelling: 2.94% Dislocation loop 4.2 x 1021 37.0 Line length : 1.55 x1014 m-2 Carbide 8.0 x 1020 13.0 Volume : 0.47% 4.結言 米国高速実験炉EBR-IIに於いて反射体として使用され てきた 304 オーステナイト系ステンレス鋼に対して、超 音波音速測定を用いてスエリングを評価した。また、切 断した試験片に対して、密度測定とTEM 観察を行い、ス エリングを評価した。3 つの手法によって得られたスエリ ング評価値は、各々良い一致を示し、特に炭化物形成効 果を取り入れた場合、評価値の相違は0.3%程度まで減少 することが明らかとなった。これらより、超音波音速測 定は、特に厚みのある照射材のスエリング非破壊検査と して有効な手法であることが明らかとなった。 謝辞 本研究は、特別会計に関する法律(エネルギー対策特 別会計)に基づく文部科学省からの受託事業において得 られた成果の一部であり、ここに謝意を表します。 参考文献 [1] 匂坂充行、江藤淳二、松永嵩、枝川文哉、礒部仁博、 沖田泰良、”米国高速炉廃材を用いた照射下ミクロ組 織の非破壊検査技術開発 (1)実験的検討”、日本保全 学会第9回学術講演会 要旨集 (2012) 71. [2] 江藤淳二、匂坂充行、松永嵩、枝川文哉、礒部仁博、 沖田泰良、”米国高速炉廃材を用いた照射下ミクロ組 織の非破壊検査技術開発 (2)理論的検討”、日本保全 学会第9 回学術講演会 要旨集 (2012) 77. [3] J. Etoh, M. Sagisaka, T. Matsunaga, Y. Isobe, F.A. Garner, P.D. Freyer, H. Yuang, J.M.K. Wiezorek, T. Okita, “Development of a nondestructive inspection method for irradiation-induced microstructural evolution of thick 304 stainless steel blocks”, Journal of Nuclear Materials, 440 (2013) 500. [4] J. Etoh, M. Sagisaka, T. Matsunaga, Y. Isobe, T. Okita, ”A simulation model of ultrasonic wave changes due to irradiation-induced microstructural evolution of thick 304 stainless steel blocks”, Journal of Nuclear Materials, 441 (2013) 503. [5] F.A. Garner, P.D. Freyer, D.L. Porter. J. Wiest, C. Knight, T. Okita, M. Sagisaka, Y. Isobe, J. Etoh, Y. Huang, J Wiezorek, “Void swelling and resultant strain in thick 304 stainless steel components in response to spatial gradients in neutron flux-spectra and irradiation temperature”, Proceedings of 16th International Conference on Environmental Degradation of Materials in Nuclear Power Systems ? Water Reactors, 2013 on CD with no pages [6] T. Okita, J. Etoh, M. Sagisaka, T. Matsunaga, Y. Isobe, P.D. Freyer, Y. Huang, J.M.K. 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Water Reactors, Newport [19] K. Kawashima, T. Isomura, S. Ohta, “Characterization of Beach, CA, USA, 1999, 1045. thermal degradation of stainless steel with ultrasonic - 94 -“ “EBR-II 反射体を用いたオーステナイト鋼照射下ミクロ組織検出のための非破壊検査技術構築 “ “沖田 泰良,Taira OKITA,江藤 淳二,Junji ETOH,松永 嵩,Takashi MATSUNAGA,匂坂 充行,Mitsuyuki SAGISAKA,礒部 仁博,Yoshihiro ISOBE
オーステナイト系ステンレス鋼のFBR環境下に於ける 代表的な中性子照射劣化として、原子空孔の三次元的な 集合体(ボイド)が形成し、これに伴い体積増加(スエ リング)が発生することが挙げられる。我々のグループ では、これまでオーステナイト系ステンレス鋼のスエリ ングを検出する 2 つの非破壊検査手法を構築してきた [1-8]。すなわち、超音波の音速変化を測定する手法、並び に超音波の減衰,散乱の変化を解析する手法である。こ れらの手法は、それぞれボイド形成によりヤング率,試 料の密度が減少すること、ボイドが超音波を反射,散乱 するミクロ因子であることに基づいてスエリングを検出 する手法である [9-12]。一方、スエリングは、しばしば照射 下第二相(析出物)形成と同時に発生するため [13-15]、ス エリングをより高精度で検出するには、析出物形成が超 音波変化に及ぼす影響も併せて解明することが求められ る。オーステナイト系ステンレス鋼では、特に炭化物形 成により、ヤング率,密度が増加し、音速に影響を及ぼ すことが明らかとなっている [16-19]。既往研究では、炭化 物形成を分離して、スエリングを評価する方法について も提案してきた [1,3]。 本報では、既往研究で提案した音速測定によるスエリ ング評価の精度を明らかにすることを目的とする。高速 炉環境で中性子照射を受けたオーステナイト系ステンレ ス鋼に対して、試験体全体の超音波試験を行った後、試 験片を切り出し、密度測定、及びミクロ組織観察を行っ た。これら 3 種類の試験から算出されたスエリング評価 値を比較することによって、音速測定によるスエリング 評価の妥当性について検討した。
2.試験方法
2.1 試験に用いた EBR-II 反射体の概要 本研究で用いた試験体は、米国高速実験炉 EBR-II
(Experimental Breeder Reactor-II)にて反射体として使用 されてきた冷間加工度約5%の304オーステナイト系ステ ンレス鋼である。誘導結合プラズマ質量分析法を用いて 測定した未照射材の化学組成をTable 1に示す。この試験 体は、EBR-II 炉心第 8 列で約 4.5 年間、第 16 列で約 8.5 年の照射を受けた試験体である。試験体は、軸方向長さ 243.28mm, 対面厚み 52.37mm の六角柱である(Fig.1)。 試験体の表面温度は、冷却材の温度とほぼ等しく 370 ~ 410 ?C である。一方、内部の温度は、ガンマ発熱のため上 昇しており、特に中央部付近では表面温度と比較して 60 ?C 程度高いと推測される。照射量は、炉心に近い六角 柱側面で26-33 dpa,その反対側面で20-23dpa であった。 Table1 chemical composition of the archive materials (wt.%) Alloy C Si Mn P S Cr Ni Fe 304 SS 0.056 0.43 1.57 0.027 0.03 19.26 8.81 balance Fig.1 Appearance of the irradiated block material 2.2 照射後試験 本研究では、Fig.2 に示すように、4 段階の試験を行っ た。第一段階の試験として、試験体側面から軸方向への 超音波測定を行った(Fig.2 (a))。超音波試験は、米国 Westinghouse Electric Companyのホットセルにて、中心周 波数 10MHz の超音波プローブを用いて水浸法で行った。 測定では、超音波の入射角度を遠隔で操作可能なゴニオ メータを用いて、入射角を±0.004 ?で制御した。また、材 料の測定位置を遠隔で制御可能なXYステージを用いて、 0.1mm 以下の精度で測定した。本研究で用いた超音波測 定装置をFig.3 に示す。第二段階の試験として、試験体最 下部より 75-100mm(3D)の箇所を切り出し、機械研磨 により平滑な断面を得た。その断面に対して、第一段階 の試験と同様の方法で69点の超音波測定を行い、音速分 布を求めた(Fig2.(b))。第三段階の試験として、更に 13 片に切断し、各々の試験片に対して密度測定を行った (Fig2.(c))。密度測定装置の概観を Fig.4 に示す。密度測 定では、まず試験片の重量を電子天秤で測定した後、試 験片を水中に沈めた際の液面の上昇により体積を測定し た。尚、測定は各試験片に対して10回繰り返し、その平 均値を密度測定結果とした。この際の平均誤差は、 0.02g/cm3 以下であった。第四段階の試験として、六角柱 中央部(#7)から直径3mm,厚さ0.25mm の ディスクを 打ち抜き、薄膜化後、透過型電子顕微鏡 (TEM : Transmission Electron Microscope) 観察を行った(Fig.2 (d))。 TEM観察では、Philips CM30を用い、加速電圧250kVで、 ボイド,炭化物,転位ループを定量化した。 Fig.2 Cutting sequences for this study Fig.3 The equipment for ultrasonic velocity measurements Fig.4 The equipment for immersion density measurements (a) Ultrasonic measurements from surface Ultrasonic probe Water bath Irradiated sample (b) Ultrasonic measurements from the cut-face surface 10 cm - 90 - (d) TEM observation (c) Density measurements for 13 pieces #1 #2 #3 #4 #5 #6 #7 #8 #9 #10 #10 #11 #12 #11 #12 #13 #13 3.結果 我々のグループは、超音波測定、及び対応するTEM 観 察結果から、以下の関係式を提案している [1,3]。 ρ = ρ0(1?S+0.33C) (3-1) V = 1?2.5S+3.5C ρ ρ0 (3-2) ρ0 , ρ : 照射前,照射後の密度 V0, V : 照射前,照射後の音速 S : スエリング C : 炭化物体積 後述するTEM 観察結果より、炭化物体積C は0.47%で あることが明らかとなっている。本報に於いては、2つの 方法で、スエリングを評価した。すなわち、式(3-1),(3-2) に於いてC = 0.0を代入する炭化物形成を取り入れない評 価(以下 w/oと示す。)、及びC = 0.0047を代入する炭化 物形成を取り入れた評価(以下 w と示す。)である。 Fig.5 には、第一段階の試験である試験体側面からの超 音波測定結果を示す。照射により、最大1.0%程度の音速 低下が観察されている。特に、第二段階以降の試験を行 う部分(赤枠で囲んだ3D領域)では、0.83%程度の低下 が観察され、スエリングは1.10% (w/o),2.08% (w)と評価 される。 Fig.5 Ultrasonic velocity used to determine the inferred average swelling measured along the length Fig.6 には、第二,第三段階の試験である断面の音速分 布と13片の密度測定結果を示す。中央部で最大スエリン グが観察されること、炉心近傍に位置した部分(Fig.6 の 57805760flat #1 - #4 flat #2 - #5 5740 flat #3 - #6 unirradiated 572057005680unirradiated 50 100 150 200 Positions (mm) ?V0 = 1?2.5S+3.5C 1?S+0.33C ?V0 3D 左部)が反対部(Fig.6 の右部)と比較してスエリングが 高いこと等、スエリング分布は 2 つの測定方法で同様の 傾向を示すことがわかる。また、Fig.6(b) 断面中央部の赤 枠に囲まれた部分 (Iso-dose strip) の密度測定結果に関し て、体積で平均化したスエリングを算出すると、2.05% (w/o),2.20%(w)となる。これはFig.5に示す試験体側面か らの音速測定結果1.10%(w/o),2.08%(w)に対応する。 Table 2には、特に六角柱重心付近3 片(#6 - #8)に関 して、各15 ~ 17回の断面超音波測定から算出したスエリ ング評価値を密度測定からの算出結果との比較に於いて 示す。2 つの手法で評価したスエリング値は、特に炭化物 形成効果を取り入れることで極めて良い一致を示す。炭 化物形成効果をとりいれることで、両者の相違は ~ 0.7% から ~ 0.3%まで減少することが明らかとなった。 (a) (b) Iso-dose strip Fig.6 Comparison of (a) ultrasonic velocity and (b) immersion density measurements. Blue indicates lower swelling and red indicates higher swelling in (a). - 91 - 1.38(w/o) 1.54(w) 1.72 (w/o) 1.88(w) 2.27(w/o) 2.43(w) 1.95(w/o) 2.10(w) 2.48(w/o) 2.63(w) 2.01(w/o) 2.16(w) 1.64(w/o) 1.80(w) Iso-dose strip 2.40(w/o) 2.56(w) 2.11(w/o) 2.27(w) ) ) 1.95(w/o) 2.10(w) 2.10(w) 2 2.48(w/o) 2.63(w) 2.63(w) 2 2.01(w/o) 2.16(w) 2.16(w) 1.64(w/o) 1.80(w) 1.38(w/o) 1.54(w) ( ) ( ) 1.36(w/o) 1.51(w) 1 1.83(w/o) 1.99(w) 1 1.38(w/o) 1.53(w) 1.26(w/o) 1.41(w) Table 2 Comparison of swelling determined in the pieces # 6 through # 8 with and without the carbide contribution density measurement ultrasonic velocity # 6 1.95 % (w/o) 2.10 % (w) 1.30 % (w/o) 2.29% (w) # 7 2.48 % (w/o) 2.63 % (w) 1.90% (w/o) 2.87% (w) # 8 2.01 % (w/o) 2.16 % (w) 1.49% (w/o) 2.47% (w) 六角柱中央部(#7)における TEM 観察結果の一例を Fig.7に示す [20]。照射によって形成した主たるミクロ組織 は、ボイド,転位ループ,M23C6タイプの炭化物であった。 これらを定量化した結果をTable 3 に示す。尚、Table 中 の炭化物体積C = 0.0047は、既に式(3-1), (3-2)に於いて炭 化物の影響を取り入れたスエリング評価 (w) で用いて いる。TEM 観察によってボイド体積から求めたスエリン グは、2.94%となる。この値は、密度測定による評価 2.63%(w)、超音波による評価2.87%(w)と良い一致を示す。 このように炭化物の影響を取り入れることによって、ス エリング評価値の相違は、TEM 観察における平均的な測 定誤差以下の ~ 0.3 %まで減少する。 上記の結果から、超音波音速測定はスエリングを非破 壊的に測定する上で有効な手段であることがわかる。一 方、実機材を対象として、2%以下の低いスエリングをよ り高い精度で検出するためには、炭化物の影響を取り入 れることが必要となる。FBR 環境下で観察される炭化物 (M23C6)は、熱時効でも形成する析出物である [21-23]。 このため、FBR 実機材料と同等組成の未照射材を別途焼 鈍処理することによって、予め飽和炭化物体積を求めて おき、これを用いてスエリングを評価することが考えら れる。炭化物形成の音速変化に及ぼす影響はスエリング の影響と相反するため、熱時効による飽和炭化物体積を 用いることにより、より精緻で且つ保守的なスエリング 評価を行うことが可能となる。 - 92 - (a) (b) (c) Fig.7 Typical microstructure observed by TEM in the piece #7. (a) dislocation loop, (b) carbide M23C6 and (c) void Table 3 Microstructural data by TEM for the piece #7 Density (m-3) Average diameter (nm) Void 1.7 x 1021 28.0 Swelling: 2.94% Dislocation loop 4.2 x 1021 37.0 Line length : 1.55 x1014 m-2 Carbide 8.0 x 1020 13.0 Volume : 0.47% 4.結言 米国高速実験炉EBR-IIに於いて反射体として使用され てきた 304 オーステナイト系ステンレス鋼に対して、超 音波音速測定を用いてスエリングを評価した。また、切 断した試験片に対して、密度測定とTEM 観察を行い、ス エリングを評価した。3 つの手法によって得られたスエリ ング評価値は、各々良い一致を示し、特に炭化物形成効 果を取り入れた場合、評価値の相違は0.3%程度まで減少 することが明らかとなった。これらより、超音波音速測 定は、特に厚みのある照射材のスエリング非破壊検査と して有効な手法であることが明らかとなった。 謝辞 本研究は、特別会計に関する法律(エネルギー対策特 別会計)に基づく文部科学省からの受託事業において得 られた成果の一部であり、ここに謝意を表します。 参考文献 [1] 匂坂充行、江藤淳二、松永嵩、枝川文哉、礒部仁博、 沖田泰良、”米国高速炉廃材を用いた照射下ミクロ組 織の非破壊検査技術開発 (1)実験的検討”、日本保全 学会第9回学術講演会 要旨集 (2012) 71. [2] 江藤淳二、匂坂充行、松永嵩、枝川文哉、礒部仁博、 沖田泰良、”米国高速炉廃材を用いた照射下ミクロ組 織の非破壊検査技術開発 (2)理論的検討”、日本保全 学会第9 回学術講演会 要旨集 (2012) 77. [3] J. Etoh, M. Sagisaka, T. Matsunaga, Y. Isobe, F.A. Garner, P.D. Freyer, H. Yuang, J.M.K. Wiezorek, T. 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