疲労損傷予測のための荷重と強度の一貫評価

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カテゴリ: 第12回
1.はじめに
疲労は古くから研究されているにも関わらず、それによる事故が減らない理由の一つとして、荷重と強度の両者に不確定因子が多く予測が難しいことが挙げられる[1]。例えば、原子力プラントにおける代表的疲労破損要因として、熱疲労と振動疲労がある[2]。 高低温水が混合するT字管の熱疲労の例をFig.1に示す。荷重の要因は熱流動現象によって生じる温度変動である。これに対して接液する構造は伝熱特性と拘束条件に基づき動的に応答する。その結果、構造表面にひずみの繰り返しが生じ、疲労損傷を起こす[3]。こうした現象の評価には、熱流動現象とそれに対する構造の応答による荷重と、疲労強度の両者をバランス良く評価する必要がある。ここで、荷重評価には流体の混合特性や構造への伝熱特性、強度評価にはランダムな波形や多軸度などの不確定要因がある。配管の地震力による想定破損モードは従来崩壊であったが、多くの試験が疲労であることを示している[4]。Fig.2 に示すように地震力は建屋からの変位の時間変化(加速度)として配管に作用し、配管は動的に応答する。その結果、構造不連続部に大きな塑性サイクルが生じて疲労き裂が発生する。その評価には地震力の大きさ、構造の動的な応答、疲労強度の全体のバランス良い評価が求められる。ここで、荷重評価には地震波形や、摩擦や塑性変形などの応答の減衰因子や、極低サイクルのランダム荷重下の疲労などの多くの不確定因子がある。 Fig.1 Thermal load and fatigue failure mechanism Fig.2 Seismic load and fatigue failure mechanism
Hot Fluid TH Cold Fluid TC (A) (B) (C) (D) Hot Fluid Cold Fluid (A) Temp.Fluctuation in Main Flow (B) Temp.Fluctuation in Boundary Layer (D) Stress Fluctuation inside Structure (C) Temp.Fluctuation on Structural Surface Process Time Fluid Temperature Tf Time Surface Temperature Ts Time Thermal Stress σ Thermal Fatigue (E) Fatigue crack initiation and propagation Influence Factors (1) Turbulent Diffusion in Fluid (2) Heat Transfer from Fluid to Structure (3) Heat conduction and constraint in Structure (4) Multi-axial random loads and material characteristics Time ( Sec) Acceleration (Gal) Cyclic strain Fatigue crack penetration Dynamic Response - 101 - 2.荷重に対する構造の応答 2.1 熱荷重に対する配管の応答 機械学会(JSME)指針[3]では、流体温度差ΔT から応力変動範囲Δσ を計算する際にFig.1 における(2)(3) の減衰効果を考慮するため、次式のように一定の設計係数F を使用する。T E F . . . . . . . 1-1これに対して、実際の現象では、流体温度変動に対する応力の応答は、Fig.3 に示すようにハイカットフィルタとして働く熱伝達特性と、ローカットフィルタとして作用する構造内の熱伝導の効果で、周波数に強く依存する。これを定量評価するものとして、平板に対しては理論的に流体温度差ΔT に対する応力変動範囲Δσ の発生割合の周波数特性が求められている[5]。Fig.3 Frequency response characteristics of structures to fluid temperature fluctuation このため、熱荷重を正しく予測するには、流体温度変動と、構造の持つ熱応力の応答特性を動的に連携させて評価する必要がある。ただし、流体と構造を結び付ける熱伝達係数は経験的な係数であり、不確定性の大きい因子であることに注意が必要である。その他にも、乱流による温度変動の解析法や、3 次元的な温度分布による熱応力の評価などに不確定要因がある。 2.2 地震荷重に対する配管の応答 振動荷重による配管の破損モードのうち、主に疲労破損データの取得を目的として振動台による加振試験を実施した[6]。試験体はFig.4 に示すような重錘付きエルボ試験体であり、材料は高圧配管用炭素鋼STS410 とステンレス鋼管SUS304 を使用した。配管の口径および肉厚は50Asch80(外径:60.5mm、肉厚:3.9mm) とした。試験体先端部の重錘は100kg を基本とし、付加重錘用プレートを取り付けることで120kg まで質量を増加できるように設計した。破損モードはすべてエルボ脇腹からの疲労き裂の進展と貫通であった。Fig.5 に全ての試験体について入力加速度と応答倍率の関係を示す。加振レベルの増加に伴い、応答倍率が低下する傾向を示している。弾性域の応答倍率が50 倍を超えているのに対し、1.5m/s2の加振では約11 倍~12 倍、3.0 m/s2の加振では約5 倍、5.0 m/s2の加振では約4 倍まで低下していることがわかる。卓越振動数に関しては、弾性域での2.66Hzに対し、5.0m/s2では約2.3Hzとなり、弾性時と比較しておおむね13%程度の卓越振動数の低下が確認された。このため、地震荷重に対する構造の応答を正しく予測するには、構造の持つ弾塑性域の動的応答特性を把握する必要がある。ここで、弾塑性解析に必要な構成式は試験データに基づく経験的なモデルであり、不確定性の大きい因子である。この他にも、摩擦や支持構造の減衰などの不確定因子がある。Fig.4 Piping elbow specimens under seismic loadings [6] 熱伝達 L Low Frequency High Frequency Heat Transfer ΔTf ΔTeffect for Thermal Stress Fluid Temperature Range Frequency of Fluid Temperature Induced Thermal Stress Low High Small Small Large 00.10.20.30.40.514:24:0016:48:0019:12:0021:36:0010.1 1 10 100 Non-dimensional angular velocity ω* Gain of frequency transfer function |G(x*,Bi,jω,Rm,Rb)| Bi=40 Bi=20 Bi=6.0 Bi=10 Bi=4.0 Bi=1.0 Bi=2.0 x*=0 Rm=0,Rb=1 hL Bi . . * 2L . . . . Bi=15 - 102 - Fig.5 Frequency response characteristics of piping structures to ground motion [6] 3.疲労強度に対する荷重評価法の影響 熱荷重のケースを例に、疲労強度に対する荷重評価法の影響を示す。熱応力の評価に関して、周波数に応じた減衰を考慮しない式(1)による方法(JSME)と、周波数に依存した減衰を考慮した方法(PSD)、および参考のために周波数を考慮した上で疲労評価を等価振幅に基づき簡易に行った方法(Proposed)による疲労損傷予測結果の比較を行った。比較には、評価結果の疲労損傷係数D をリファレンスのD_(Ref.)で割った値(裕度)を用いた。合流前温度差150℃の高低温水がSUS304 製のT 字管で、衝突噴流の形態で合流した場合に、最も疲労損傷が大きくなる位置での疲労損傷の比をFig.6 に示す。周波数の効果が疲労損傷に大きな影響を及ぼすことが分かる。周波数に依存しない一定の定数を使用したJSME の方法は、条件により安全裕度が1000 倍も変化し、平均値やばらつきの評価には不向きなのは明らかである。Fig. 6 Safety margins of different methods with and without consideration of frequency effects[7] 4.疲労強度に対する不確定因子の影響 熱荷重のケースを例に、疲労強度に対する不確定因子の影響の評価法を示す。荷重の代表的な不確定因子として熱伝達係数が、また強度の不確定因子として疲労強度が挙げられる。荷重の不確実性について、高低温流体合流部近傍での非定常熱伝達係数huの値は定常熱伝達係数hsより増加するが、そのメカニズムは十分には解明されていない。JSME 指針では非定常熱伝達係数huは次式で与えられる。u p s h . F .h (2) ここで、hsはDittus-Boelter の式より算出した定常熱伝達係数、Fp は実験データに基づき高低温流体の流速比および口径比に応じて整備された熱伝達率増倍係数である。ここで、JSME 指針の想定を参考に、熱伝達率増倍係数FpをFig.7 のように正規分布を仮定して与えた。また疲労曲線の不確実性について、設計係数の考え方に基づき応力係数および寿命係数をFig.7 のようにそ れぞれ対数正規分布を仮定して与えた。Fig. 7 Uncertainty on loading (Left: Heat transfer coefficient) and strength (Right: fatigue curve) [8] 不確実性を考慮した構造物の信頼性評価手法として部分安全係数法[9]がある。部分安全係数法では、式(3) に示すように強度評価式において各々の荷重因子Liおよび強度因子R ごとの安全係数(部分安全係数)PSF を考える。i i L i R PSF L PSF R . . , . (3) 各荷重・強度因子の平均値およびばらつきに基づく信頼性解析により、疲労破損確率に対応する各荷重・強度因子の部分安全係数を導出することができる(Fig.8)。このとき部分安全係数は、荷重と強度のそれぞれの因 024681012140 2 4 6 8 10 12 14 SLE01 SLE02 SLE03S SLE04 SLE05 Response acc. / Input acc. Input acc. [m/s2] - 103 - 子のばらつきによる破損確率への影響と対応している。部分安全係数をテーブルとして整備しておくことで、特別な確率論の知識を有しない場合においても荷重と強度の不確実性の破損への影響を傾向として把握することが出来るようになり、実用性が高い。 Fig. 8 Reliability evaluation by partial safety factor method [8] 5.まとめ 熱疲労や振動疲労による破損事故が減らない理由として、温度や圧力の変動に対して構造が動的に応答する複雑な現象であることと、荷重と強度の両者に不確定因子が多く予測が難しいことが挙げられる。これに対して、トラブル解析やリスク評価には、平均値とばらつきの予測が必要になる。 こうした要求に応えるため、リアリスティックな解析モデルと荷重と強度の両者のばらつき係数を利用する荷重と強度の一貫評価を提案する。 リアリスティックな解析には、荷重と構造の応答を動的に結合することが重要である。ここで設計用の保守的過程である、上限を示す静的評価や弾性の仮定は、実現象と異なる傾向を示すことがあり、平均挙動の予測には、応答機構の支配要因を適切にモデル化する必要がある。 また、ばらつきの評価は、従来膨大な計算を必要とするモンテカルロシミュレーションや確率計算が必要で実用化が進んでなかった。これに対し、経験を部分安全係数として整理し共有することで、荷重と強度の破損への影響を傾向として把握することが出来るようになり、破損シナリオの検討に役立たせることが出来ると考えられる。 参考文献 [1] 小林英男、日本材料学会、“産業界の疲労研究に対するニーズと大学研究者への提言”、日本材料学会疲労部門委員会、疲労・破壊力学合同部門委員会「産業界との連携」、2010. [2] 中村隆夫、藤川亮祐、松下幹也、釜谷昌幸、“疲労健全性評価グランドデザインの構築(その2).国内実機疲労損傷事例分析の活用.”、日本保全学会 第11 回学術講演会、2014、pp.197-202. [3] 日本機械学会、“配管の高サイクル熱疲労評価指針”、2003、JSME S017. [4] 日本電気協会、“原子力発電所耐震設計技術指針”、2008、JEAG4601-2008. [5] N. Kasahara, H. Takasho and A.Yacumpai, “Structural response function approach for evaluation of thermal striping phenomena”, Nuclear Engineering and Design, 212, 2002, pp.281-292. [6] 中村いずみ、笠原直人、“重錘付きエルボ配管の弾塑性振動応答挙動”、日本地震工学会第14 回日本地震工学シンポジウム、2014, pp.3788-3796. [7] T. Suzuki and N. Kasahara, “Thermal fatigue evaluation method of pipes by equivalent stress amplitude”, ASME PVP, 2012, PVP2012-78347. [8] M. Suzuki and N. Kasahara, “Reliability-based thermal fatigue evaluation method against random fluid temperature fluctuation”, E-Journal of Advanced Maintenance, Vol.7, No.1, 2015, pp.108-116. [9] B. Ellingwood, J.G. MacGregor, T.V. Galambos and C.A. Cornell, “Probability based load criteria: load factors and load combinations”, Journal of the Structural Division, ASCE, Vol.108, No.5, 1982, pp.978-997. - 104 - “ “疲労損傷予測のための荷重と強度の一貫評価 “ “笠原 直人,Naoto KASAHARA,鈴木 正昭,Masaaki SUZUKI
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