原子炉圧力容器の健全性評価手法の高度化について
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カテゴリ: 第12回
1.はじめに
原子炉圧力容器(RPV)は炉心を取り囲む原子炉冷却材圧力バウンダリの重要な構成機器の1 つであり、通常運転時及び設計基準事象における健全性確保は最も重要である。発生する過酷事故において、RPV の健全性、すなわち耐圧機能の維持がその後の事故進展に及ぼす影響は非常に大きい。現行の規制基準におけるRPVに対する健全性評価方法は、日本電気協会規程[1]に準拠した決定論的評価方法である(図1)。当該評価方法には、加圧熱衝撃(PTS)の評価等、約20 年前に策定された内容も含まれており、技術的進歩や現実の運転年数の増加を踏まえて、その技術的背景を明確にし、十分に適切な内容であることを確認することが重要である。さらに、合理的な評価指標値(炉心損傷頻度等)を適切に設定し長期供用に対する安全水準の維持と保全最適化の両立を図っていくため、近年欧米において導入が進みつつある確率論的評価体系を導入することも重要な課題である。 このような背景から本研究では、高経年化技術評価の高度化に資するため、RPV 全体の経年劣化を考慮した健全性評価方法について国内外の最新知見等の調査を行い、確率論的評価手法の導入に向けた検討を進めてきた。本報告では、この研究の26 年度成果の概要を述べる。
Fig. 1 Flowchart of RPV integrity assessment for PTS events [1]
2.健全性評価法の高度化に関する調査
2.1 想定すべき荷重条件
加圧水型原子炉(PWR)において冷却材喪失のような事故が発生した際には、非常用炉心冷却系(ECCS)が作動し、低温の冷却水が高温高圧の一次系内に注入される。この際、高圧条件下で壁面を低温水が流れることによるPTS が、RPVの構造健全性の観点から懸念されている。 近年、実験や数値流体力学(CFD)コードによる熱流動解析により、低温水の広がりが3 次元的であることが示されており、構造側への影響についても流動状況を考慮した詳細な検討が望まれている。そこで、RPV の健全性評価で想定すべき荷重条件の検討として、従来一次元モデルにより評価されていた荷重条件との相違を明らか連絡先: 宇野隼平、〒319-1195 茨城県那珂郡東海村大字白方2-4、 国立研究開発法人 日本原子力研究開発機構 安全研究センター、E-mail: uno.shumpei@jaea.go.jp - 133 -にすることを目的に、代表的事象に対する熱水力挙動を含む荷重条件について詳細解析を実施した。典型的な国内3 ループPWR を対象とし、解析領域は、ECCS 注入口や上流部からRPV 入口までの低温側配管、及びRPV内面とコアバレル外面で囲まれたダウンカマ部分とした。RPV の周方向は対称性を考慮して120°、すなわち低温側配管1 本を含む1 ループ分とした。代表的な小破断冷却材喪失事故(SBLOCA)事象を想定したCFD 解析で得られたECCS 水注入開始後300 秒時点の温度分布を図2 に示す。ダウンカマ内の熱遮蔽体により、注入された冷却水の流れが分断されている様子が見てとれる。このCFD解析の結果、及びクラッド溶接中の相変態を考慮して求めた残留応力解析結果を用いて伝熱構造解析を行い、PTS事象時に仮想欠陥に加わる荷重条件を評価し、現実的な解析条件による応力分布を得た。図3は亀裂想定位置であるRPV内表面付近の応力分布を示している。この図から、PTS事象時に発生する応力は、冷却水の流れの影響を敏感に受けるとともに、残留応力を考慮した場合には、しない場合に比べて明らかに高いことが分かる。PTS事象時のRPVの健全性評価を行うに当たっては、残留応力の考慮が重要であることが改めて示された。Fig. 2 Coolant temperature distribution (at 300s) (a) w/o residual stress (b) with residual stress Fig. 3 Circumferential stress distribution (at 300s) 2.2 耐圧機能喪失評価法国内のRPV健全性評価においては、非延性破壊の発生を対象としてきたが、耐圧機能の喪失に直接結び付く亀裂の板厚貫通までにはある程度の裕度があると考えられる。健全性評価における裕度の定量化を図るためには、亀裂が板厚を貫通する状態に至るまでの亀裂進展挙動を破壊力学的に評価する必要がある。過年度に収集した国内外のRPV鋼の亀裂伝播停止靱性(KIa)データを基に、遷移温度領域におけるKIa評価法やKIa へのマスターカーブ法の適用性調査も踏まえ、国内RPV 鋼に対するKIa カーブの検討を行った。しかしながら、国内RPV 鋼で取得されているKIaデータは未照射材のみだったため、照射材を含むドイツ(CARISMA & CARINA)及び米国(HSSI,EPRI)のデータについても調査を行った。また、得られたKIaデータについて対数正規分布に従うと仮定し、KIaカーブを設定した。米国のデータをT-RTNDTで整理した結果及びKIaカーブを図4 に示す。0501001501900/07/181900/09/061900/10/26-150 -100 -50 0 50 100 150 き裂伝播停止靭性KIa/Ka [MPa √m] T-RTNDT [oC] Weld 72W(未照射) Weld 72W(1.88~1.93×10^19n/cm^2) Weld 73W(未照射) Weld 73W(1.88~1.93×10^19n/cm^2) SA508Cl3(未照射) SA508Cl3(1.8~2.7×10^19n/cm^2) Base1 SA533 Cl1(未照射) Base1 SA533Cl1(1.46×10^19n/cm^2) Base2 SA533 Cl1(未照射) Base2 SA533Cl1(1.46×10^19n/cm^2) Weld1 (未照射) Weld1(1.46×10^19n/cm^2) Weld2 (未照射) Weld2 (1.46×10^19n/cm^2) *:invalid +2σ上限線KIa線平均線-2σ下限線Fig. 4 KIadata in the U.S. (unirradiated and irradiated conditions)) 2.3 ニッケル合金溶接部等の応力腐食割れに関する評価法RPV 全体としての健全性を評価するため、出口管台溶接部や上蓋・下部ヘッド貫通部等において顕在化している一次冷却水中応力腐食割れ(PWSCC)に焦点を当て、亀裂発生・進展に関する評価手法やデータ等を調査した。また、国内プラントにおけるPWSCC 発生事例について調査し、ニッケル合金溶接部等の応力腐食割れを評価対象としたPFM 解析コードPASCAL-NP を用いて、PWSCCによる亀裂発生及び進展評価、並びに漏えい確率に関する試解析を実施し、PASCAL-NP の有用性を確認した。- 134 -3.確率論的評価手法の適用性・標準化に関する調査3.1 確率論的評価手法の適用性に関する調査 近年欧米において、RPV の健全性評価における確率論的手法の規制への導入が進みつつある。国内の健全性評価に対して、確率論的評価手法を適用することを念頭におき、PFM解析コードに関する最新知見の調査及びPFM 解析コードPASCAL3 を用いた亀裂貫通頻度(TWCF)算出結果の具体的な活用方策についての検討を行った。(a) 最新知見の調査3.2 において整備する、PFMに基づく標準的解析要領に最新の知見を反映させることを目的として、ASME PVP2014 を中心に、RPV に対するPFM 解析コードを用いた評価事例等に着目した調査を行った。台湾においては事業者による研究の一環として、米国のPFM解析コードFAVOR を適用した台湾のPWR 型軽水炉のRPV に対するTWCF 評価が報告され、米国のTWCF の基準である1×10-6 回/炉年を下回る結果が得られている[2]。また、米国においては、最新のデータを含めた破壊靭性及び亀裂伝播停止靱性の確率分布モデルの整備が行われている[3]。これらの調査によって得られた研究成果は、3.2 で述べるRPV に対する標準的解析要領をまとめる際に参考とした。(b) 活用方策の検討 確率論的な健全性評価では、評価対象とするRPV の1 年間あたりに亀裂が貫通に至る頻度を示すTWCF を評価指標としている。このTWCF を用いた評価の活用方策を検討した。非破壊検査による欠陥検出モデル(検査モデル)を適用することにより欠陥密度が低下すると見なされることから、検査モデルがTWCF へ及ぼす影響を定量的に評価することができると考えられる。活用方策を検討するにあたって、まずTWCF の定量値に関する試解析を実施した。次にその結果を踏まえて、異なる精度の検査モデルを適用した感度解析を実施し、TWCF に与える影響について考察した。この解析では、RPV 胴部幾何形状による中性子照射量分布を考慮することとし、調査で得られた台湾のRPVデータを用いた(図5)。本試解析では、図6 に示すように、中性子照射量が高い部位でTWCF が高い値を示している。この結果を踏まえ、検査モデルを適用する部位について、全部位を検査対象とするケースと高照射量の部位に検査対象を絞ったケースとでRPV 全体のTWCF を比較した。その結果を表1 に示す。欠陥の検出精度が中程度の検査を全部位で行うよりも、検出精度が高い検査を高照射量の部位でのみ行った方が、TWCF は低いことが分かる。このように、TWCF を用いた評価が、非破壊検査の有効性確認に活用できることを示した。Fig. 5 Distribution of neutron irradiation dose of RPV inner surface [2] Fig. 6 The TWCF map for each of the sub-region of the RPV (Excerpt: 0~90°) Table 1 Effects on TWCF of inspection accuracy and target region 種類と位置 検査精度と対象領域TWCF 軸方向及び周方 向の内部亀裂(母材部) 検査:なし2.2×10-7 精度:中(全部位) 5.9×10-8 精度:高(全部位) 5.9×10-9 精度:高(高照射部位) 2.5×10-8 3.2 確率論的評価手法の標準化に関する調査 確率論的評価手法を規格基準へ導入するためには、PFM 解析の標準手法を検討し、解析要領として整備するとともに、PFM解析に用いるデータ・解析手法の整備や、- 135 -PFM 解析コードの信頼性確認が必要である。そこで本調査では、国内RPV を対象としたTWCF 評価の実施に向けて、ガイドラインとして参照されることを目指して、PFM 解析の標準的解析要領の策定、PFM 解析コードPASCAL3 を用いたTWCF 計算のための標準的入力データ及び標準的解析手法の整備を行っている。また、PFM 解析コードの信頼性を確保するために、PASCAL3 の信頼性確認を行った。 (a) 標準的解析要領 本研究で整備するTWCF 計算に関する標準的解析要領は、PWR のRPV の炉心領域部を対象に、PTS 事象等による過渡事象中の非延性破壊について、PFM解析手法を用いてTWCF の計算を行う標準的な要領について定めたものである。標準的解析要領は、要求事項である本文とその詳細を説明する解説等で構成される。また附属書には、各要求事項に対する解説のほか、解析コードの信頼性確認方法の事例として、(c)で述べるPASCAL3 の信頼性確認事例等が記載される。 (b) 標準的入力データ及び標準的解析手法 将来、PFMを用いて国内実機プラントを想定した亀裂貫通頻度の評価を行うことを念頭に、PFM 解析コードPASCAL3 を用いて解析を行う場合に必要となる標準的入力データの整備及び標準的解析手法の選定を行った。標準的入力データの整備では、国内の標準的なプラントを想定して、RPVのTWCF計算が可能となるようにした。国内データが不足している項目については、海外のデータを参考にした。 (c) PASCAL3 の信頼性確認 RPV を対象としたPFM解析を実施するに当たって、使用する解析コードの信頼性を確保することは重要である。本調査では、PFM 解析コードPASCAL3 に対して、標準的な解析を行う際に用いられる確率変数や評価フロー・評価式等の各項目について信頼性確認を行った。確率変数としては、銅やニッケルの含有率、中性子照射量などがあり、評価フローとしては、亀裂の進展や伝播停止のフロー等がある。PASCAL3 の信頼性確認の一例として、確率変数については、PASCAL3 によるサンプリングで得られた分布を理論値と比較し、よく一致することを確認した。 4.まとめ 健全性評価法の高度化に関する調査として、冷却水の3 次元温度分布及び溶接中の相変態を考慮した荷重条件の詳細解析を行うとともに、国内材を中心に収集・整理したKIaデータを用いて、国内材に対するKIa曲線の検討を行った。さらに、RPV 全体としての健全性を評価するため、PWSCC に関する調査、及びPASCAL-NP を用いた試解析を行った。 さらに、確率論的評価手法の適用性・標準化に関する調査として、国内外の最新知見を収集し、活用方策を検討するとともに、RPV の破損頻度計算に関する標準的解析要領の策定、PFM 解析コードPASCAL3 を用いた亀裂貫通頻度計算のための標準的入力データ及び標準的解析手法の整備、及びPASCAL3 の信頼性確認を行った。 謝辞 本報告は、原子力規制庁からの受託事業「平成26年度高経年化技術評価高度化事業(原子炉一次系機器の健全性評価手法の高度化)」で得られた成果である。関係各位の協力に謝意を表する。 参考文献 [1] 電気技術規程原子力編, 原子炉発電所用機器に対する破壊靭性の確認試験方法, JEAC-4206-2007, 日本電気協会, 2007. [2] H. Chou, C. Huang, “STRUCTURAL RELIABILITY EVALUATION ON THE PRESSURIZED WATER REACTOR PRESSURE VESSEL UNDER PRESSURIZED THERMAL SHOCK EVENTS,” Proceedings of the ASME 2014 Pressure Vessels & Piping Conference, PVP2014-28350, 2014 [3] M. Kirk, M. Erickson, W. Server, G. Stevens and R. Cipolla, “ASSESSMENT OF FRACTURE TOUGHNESS MODELS FOR FERRITIC STEELS USED IN SECTION XI OF THE ASME CODE RELATIVE TO CURRENT DATA-BASED MODELS,” Proceedings of the ASME 2014 Pressure Vessels & Piping Conference, PVP2014-28540, 2014 - 136 -“ “原子炉圧力容器の健全性評価手法の高度化について “ “宇野 隼平,Shumpei UNO,勝山 仁哉,Jinya KATSUYAMA,勝又 源七郎,Genshichiro KATSUMATA,眞崎 浩一,Koichi MASAKI,小坂部 和也,Kazuya OSAKABE,李 銀生,Yinsheng LI
原子炉圧力容器(RPV)は炉心を取り囲む原子炉冷却材圧力バウンダリの重要な構成機器の1 つであり、通常運転時及び設計基準事象における健全性確保は最も重要である。発生する過酷事故において、RPV の健全性、すなわち耐圧機能の維持がその後の事故進展に及ぼす影響は非常に大きい。現行の規制基準におけるRPVに対する健全性評価方法は、日本電気協会規程[1]に準拠した決定論的評価方法である(図1)。当該評価方法には、加圧熱衝撃(PTS)の評価等、約20 年前に策定された内容も含まれており、技術的進歩や現実の運転年数の増加を踏まえて、その技術的背景を明確にし、十分に適切な内容であることを確認することが重要である。さらに、合理的な評価指標値(炉心損傷頻度等)を適切に設定し長期供用に対する安全水準の維持と保全最適化の両立を図っていくため、近年欧米において導入が進みつつある確率論的評価体系を導入することも重要な課題である。 このような背景から本研究では、高経年化技術評価の高度化に資するため、RPV 全体の経年劣化を考慮した健全性評価方法について国内外の最新知見等の調査を行い、確率論的評価手法の導入に向けた検討を進めてきた。本報告では、この研究の26 年度成果の概要を述べる。
Fig. 1 Flowchart of RPV integrity assessment for PTS events [1]
2.健全性評価法の高度化に関する調査
2.1 想定すべき荷重条件
加圧水型原子炉(PWR)において冷却材喪失のような事故が発生した際には、非常用炉心冷却系(ECCS)が作動し、低温の冷却水が高温高圧の一次系内に注入される。この際、高圧条件下で壁面を低温水が流れることによるPTS が、RPVの構造健全性の観点から懸念されている。 近年、実験や数値流体力学(CFD)コードによる熱流動解析により、低温水の広がりが3 次元的であることが示されており、構造側への影響についても流動状況を考慮した詳細な検討が望まれている。そこで、RPV の健全性評価で想定すべき荷重条件の検討として、従来一次元モデルにより評価されていた荷重条件との相違を明らか連絡先: 宇野隼平、〒319-1195 茨城県那珂郡東海村大字白方2-4、 国立研究開発法人 日本原子力研究開発機構 安全研究センター、E-mail: uno.shumpei@jaea.go.jp - 133 -にすることを目的に、代表的事象に対する熱水力挙動を含む荷重条件について詳細解析を実施した。典型的な国内3 ループPWR を対象とし、解析領域は、ECCS 注入口や上流部からRPV 入口までの低温側配管、及びRPV内面とコアバレル外面で囲まれたダウンカマ部分とした。RPV の周方向は対称性を考慮して120°、すなわち低温側配管1 本を含む1 ループ分とした。代表的な小破断冷却材喪失事故(SBLOCA)事象を想定したCFD 解析で得られたECCS 水注入開始後300 秒時点の温度分布を図2 に示す。ダウンカマ内の熱遮蔽体により、注入された冷却水の流れが分断されている様子が見てとれる。このCFD解析の結果、及びクラッド溶接中の相変態を考慮して求めた残留応力解析結果を用いて伝熱構造解析を行い、PTS事象時に仮想欠陥に加わる荷重条件を評価し、現実的な解析条件による応力分布を得た。図3は亀裂想定位置であるRPV内表面付近の応力分布を示している。この図から、PTS事象時に発生する応力は、冷却水の流れの影響を敏感に受けるとともに、残留応力を考慮した場合には、しない場合に比べて明らかに高いことが分かる。PTS事象時のRPVの健全性評価を行うに当たっては、残留応力の考慮が重要であることが改めて示された。Fig. 2 Coolant temperature distribution (at 300s) (a) w/o residual stress (b) with residual stress Fig. 3 Circumferential stress distribution (at 300s) 2.2 耐圧機能喪失評価法国内のRPV健全性評価においては、非延性破壊の発生を対象としてきたが、耐圧機能の喪失に直接結び付く亀裂の板厚貫通までにはある程度の裕度があると考えられる。健全性評価における裕度の定量化を図るためには、亀裂が板厚を貫通する状態に至るまでの亀裂進展挙動を破壊力学的に評価する必要がある。過年度に収集した国内外のRPV鋼の亀裂伝播停止靱性(KIa)データを基に、遷移温度領域におけるKIa評価法やKIa へのマスターカーブ法の適用性調査も踏まえ、国内RPV 鋼に対するKIa カーブの検討を行った。しかしながら、国内RPV 鋼で取得されているKIaデータは未照射材のみだったため、照射材を含むドイツ(CARISMA & CARINA)及び米国(HSSI,EPRI)のデータについても調査を行った。また、得られたKIaデータについて対数正規分布に従うと仮定し、KIaカーブを設定した。米国のデータをT-RTNDTで整理した結果及びKIaカーブを図4 に示す。0501001501900/07/181900/09/061900/10/26-150 -100 -50 0 50 100 150 き裂伝播停止靭性KIa/Ka [MPa √m] T-RTNDT [oC] Weld 72W(未照射) Weld 72W(1.88~1.93×10^19n/cm^2) Weld 73W(未照射) Weld 73W(1.88~1.93×10^19n/cm^2) SA508Cl3(未照射) SA508Cl3(1.8~2.7×10^19n/cm^2) Base1 SA533 Cl1(未照射) Base1 SA533Cl1(1.46×10^19n/cm^2) Base2 SA533 Cl1(未照射) Base2 SA533Cl1(1.46×10^19n/cm^2) Weld1 (未照射) Weld1(1.46×10^19n/cm^2) Weld2 (未照射) Weld2 (1.46×10^19n/cm^2) *:invalid +2σ上限線KIa線平均線-2σ下限線Fig. 4 KIadata in the U.S. (unirradiated and irradiated conditions)) 2.3 ニッケル合金溶接部等の応力腐食割れに関する評価法RPV 全体としての健全性を評価するため、出口管台溶接部や上蓋・下部ヘッド貫通部等において顕在化している一次冷却水中応力腐食割れ(PWSCC)に焦点を当て、亀裂発生・進展に関する評価手法やデータ等を調査した。また、国内プラントにおけるPWSCC 発生事例について調査し、ニッケル合金溶接部等の応力腐食割れを評価対象としたPFM 解析コードPASCAL-NP を用いて、PWSCCによる亀裂発生及び進展評価、並びに漏えい確率に関する試解析を実施し、PASCAL-NP の有用性を確認した。- 134 -3.確率論的評価手法の適用性・標準化に関する調査3.1 確率論的評価手法の適用性に関する調査 近年欧米において、RPV の健全性評価における確率論的手法の規制への導入が進みつつある。国内の健全性評価に対して、確率論的評価手法を適用することを念頭におき、PFM解析コードに関する最新知見の調査及びPFM 解析コードPASCAL3 を用いた亀裂貫通頻度(TWCF)算出結果の具体的な活用方策についての検討を行った。(a) 最新知見の調査3.2 において整備する、PFMに基づく標準的解析要領に最新の知見を反映させることを目的として、ASME PVP2014 を中心に、RPV に対するPFM 解析コードを用いた評価事例等に着目した調査を行った。台湾においては事業者による研究の一環として、米国のPFM解析コードFAVOR を適用した台湾のPWR 型軽水炉のRPV に対するTWCF 評価が報告され、米国のTWCF の基準である1×10-6 回/炉年を下回る結果が得られている[2]。また、米国においては、最新のデータを含めた破壊靭性及び亀裂伝播停止靱性の確率分布モデルの整備が行われている[3]。これらの調査によって得られた研究成果は、3.2 で述べるRPV に対する標準的解析要領をまとめる際に参考とした。(b) 活用方策の検討 確率論的な健全性評価では、評価対象とするRPV の1 年間あたりに亀裂が貫通に至る頻度を示すTWCF を評価指標としている。このTWCF を用いた評価の活用方策を検討した。非破壊検査による欠陥検出モデル(検査モデル)を適用することにより欠陥密度が低下すると見なされることから、検査モデルがTWCF へ及ぼす影響を定量的に評価することができると考えられる。活用方策を検討するにあたって、まずTWCF の定量値に関する試解析を実施した。次にその結果を踏まえて、異なる精度の検査モデルを適用した感度解析を実施し、TWCF に与える影響について考察した。この解析では、RPV 胴部幾何形状による中性子照射量分布を考慮することとし、調査で得られた台湾のRPVデータを用いた(図5)。本試解析では、図6 に示すように、中性子照射量が高い部位でTWCF が高い値を示している。この結果を踏まえ、検査モデルを適用する部位について、全部位を検査対象とするケースと高照射量の部位に検査対象を絞ったケースとでRPV 全体のTWCF を比較した。その結果を表1 に示す。欠陥の検出精度が中程度の検査を全部位で行うよりも、検出精度が高い検査を高照射量の部位でのみ行った方が、TWCF は低いことが分かる。このように、TWCF を用いた評価が、非破壊検査の有効性確認に活用できることを示した。Fig. 5 Distribution of neutron irradiation dose of RPV inner surface [2] Fig. 6 The TWCF map for each of the sub-region of the RPV (Excerpt: 0~90°) Table 1 Effects on TWCF of inspection accuracy and target region 種類と位置 検査精度と対象領域TWCF 軸方向及び周方 向の内部亀裂(母材部) 検査:なし2.2×10-7 精度:中(全部位) 5.9×10-8 精度:高(全部位) 5.9×10-9 精度:高(高照射部位) 2.5×10-8 3.2 確率論的評価手法の標準化に関する調査 確率論的評価手法を規格基準へ導入するためには、PFM 解析の標準手法を検討し、解析要領として整備するとともに、PFM解析に用いるデータ・解析手法の整備や、- 135 -PFM 解析コードの信頼性確認が必要である。そこで本調査では、国内RPV を対象としたTWCF 評価の実施に向けて、ガイドラインとして参照されることを目指して、PFM 解析の標準的解析要領の策定、PFM 解析コードPASCAL3 を用いたTWCF 計算のための標準的入力データ及び標準的解析手法の整備を行っている。また、PFM 解析コードの信頼性を確保するために、PASCAL3 の信頼性確認を行った。 (a) 標準的解析要領 本研究で整備するTWCF 計算に関する標準的解析要領は、PWR のRPV の炉心領域部を対象に、PTS 事象等による過渡事象中の非延性破壊について、PFM解析手法を用いてTWCF の計算を行う標準的な要領について定めたものである。標準的解析要領は、要求事項である本文とその詳細を説明する解説等で構成される。また附属書には、各要求事項に対する解説のほか、解析コードの信頼性確認方法の事例として、(c)で述べるPASCAL3 の信頼性確認事例等が記載される。 (b) 標準的入力データ及び標準的解析手法 将来、PFMを用いて国内実機プラントを想定した亀裂貫通頻度の評価を行うことを念頭に、PFM 解析コードPASCAL3 を用いて解析を行う場合に必要となる標準的入力データの整備及び標準的解析手法の選定を行った。標準的入力データの整備では、国内の標準的なプラントを想定して、RPVのTWCF計算が可能となるようにした。国内データが不足している項目については、海外のデータを参考にした。 (c) PASCAL3 の信頼性確認 RPV を対象としたPFM解析を実施するに当たって、使用する解析コードの信頼性を確保することは重要である。本調査では、PFM 解析コードPASCAL3 に対して、標準的な解析を行う際に用いられる確率変数や評価フロー・評価式等の各項目について信頼性確認を行った。確率変数としては、銅やニッケルの含有率、中性子照射量などがあり、評価フローとしては、亀裂の進展や伝播停止のフロー等がある。PASCAL3 の信頼性確認の一例として、確率変数については、PASCAL3 によるサンプリングで得られた分布を理論値と比較し、よく一致することを確認した。 4.まとめ 健全性評価法の高度化に関する調査として、冷却水の3 次元温度分布及び溶接中の相変態を考慮した荷重条件の詳細解析を行うとともに、国内材を中心に収集・整理したKIaデータを用いて、国内材に対するKIa曲線の検討を行った。さらに、RPV 全体としての健全性を評価するため、PWSCC に関する調査、及びPASCAL-NP を用いた試解析を行った。 さらに、確率論的評価手法の適用性・標準化に関する調査として、国内外の最新知見を収集し、活用方策を検討するとともに、RPV の破損頻度計算に関する標準的解析要領の策定、PFM 解析コードPASCAL3 を用いた亀裂貫通頻度計算のための標準的入力データ及び標準的解析手法の整備、及びPASCAL3 の信頼性確認を行った。 謝辞 本報告は、原子力規制庁からの受託事業「平成26年度高経年化技術評価高度化事業(原子炉一次系機器の健全性評価手法の高度化)」で得られた成果である。関係各位の協力に謝意を表する。 参考文献 [1] 電気技術規程原子力編, 原子炉発電所用機器に対する破壊靭性の確認試験方法, JEAC-4206-2007, 日本電気協会, 2007. [2] H. Chou, C. Huang, “STRUCTURAL RELIABILITY EVALUATION ON THE PRESSURIZED WATER REACTOR PRESSURE VESSEL UNDER PRESSURIZED THERMAL SHOCK EVENTS,” Proceedings of the ASME 2014 Pressure Vessels & Piping Conference, PVP2014-28350, 2014 [3] M. Kirk, M. Erickson, W. Server, G. Stevens and R. Cipolla, “ASSESSMENT OF FRACTURE TOUGHNESS MODELS FOR FERRITIC STEELS USED IN SECTION XI OF THE ASME CODE RELATIVE TO CURRENT DATA-BASED MODELS,” Proceedings of the ASME 2014 Pressure Vessels & Piping Conference, PVP2014-28540, 2014 - 136 -“ “原子炉圧力容器の健全性評価手法の高度化について “ “宇野 隼平,Shumpei UNO,勝山 仁哉,Jinya KATSUYAMA,勝又 源七郎,Genshichiro KATSUMATA,眞崎 浩一,Koichi MASAKI,小坂部 和也,Kazuya OSAKABE,李 銀生,Yinsheng LI