オーステナイト系ステンレス鋼316FR 鋼の供用中クリープ寿命予測法

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カテゴリ: 第12回
1.緒 言
近年、発電プラントなどの高温機器はエネルギー高効率化やCO2 排出削減の観点から高温・高圧化が進められているが、それに伴ってクリープの進行の加速やクリープ強度の低下が問題となっており、プラントの安全運転には使用材料のクリープ寿命を把握することが重要となる。そのため、クリープ寿命を予測する様々な方法が提案されているが、従来の方法では破断後のデータを用いて外挿により長時間側寿命を求めている例が多く見られる。しかし、温度や応力などの条件によりクリープ変形挙動が変わると、外挿精度が低下し、実破断寿命と推定は断寿命の間に大きな差が生じる欠点がある。 そこで本論文では、次世代高速炉の構造材料として使用が検討されているオーステナイト系ステンレス鋼316FR 鋼の供用中に連続測定で得られる変形データからクリープ寿命を予測する新しい方法を提案し、実際のクリープ試験データに適用することによって、その予測精度を調べることにした。
2.供試材料およびクリープ試験
2.1 供試材料
供試材料としては、次世代高速増殖炉用構造材料として開発された316FR 鋼母材を用いた。316FR 鋼の化学成分および室温・大気中の主な機械的性質をそれぞれTables 1 および2 に示す。また、クリープ試験片はつば付の平滑丸棒状試験片であり、その形状をFig. 1 に示す。 2.2 クリープ試験 東京衡機社製並列マルチ式クリープ劣化損傷試験装置を用い、大気中において、試験温度T.823 および923 K で一定応力を負荷して行った。すなわち、T.823 K では、負荷応力....250~280 MPa、T.823 K では、....110~140 MPa で行った。 2.3 クリープ曲線 試験温度T.823 および923 K、大気中において得られたクリープ曲線(..t 曲線)をFig. 2 に示す。クリープ曲線は、いずれの温度、いずれの負荷応力でも、明瞭な3 領域特性、すなわち、遷移クリープ域、定常クリープ域および加速クリープ域を示した。また、クリープ寿命tr は、T.823 K でtr≒100~1,000 h、T.923 K でtr≒130~480 h であった。 3.In situ クリープ寿命予測法 3.1 修正.法[1] 修正.法では、クリープひずみ.と時間t の関係を次式(1) で表す。 . . . 0 . A.1. exp...t... B.exp..t. .1. (1) ここで、.は時間t(h)におけるひずみ、..は瞬間ひずみ(t=0 におけるひずみ)、A、B は定数、.は速度定数(1/h)であり、式(1)の第1 項は瞬間ひずみ、第2 項は加工硬化による遷移クリープ、第3 項は劣化による加速クリープをあらわしている。式(1)を微分すると、クリープ速度.. は次式のように2 項のみとなる。ただし、ひずみの実測データの時刻t における微分値は、7 点増分多項式法(移動最小二乗法)[3]によって求めた。 .. .. .Aexp...t. . Bexp..t.. (2) 試験片や部材が遷移クリープ域にあるとき、この時点までに測定されたひずみデータを用いて式(2)の第1 項の最適曲線を求めて定数Aと.を決定し、それらの値を式(3) に代入して、最小クリープ速度..m (1/h)を求める。また、 定数.とB(≒A)の値および破断ひずみ.rからクリープ寿命trを推定する。 ..m . 2. AB (3) ... ... . B t r r ln 1 . . -4定常クリープ域の場合も遷移クリープの場合と同様にして、クリープ寿命tr を推定する。ただし、定常クリープ中期からは推定精度が低下するため、定数を一定としてクリープ寿命trの値を推定した。 試験片や部材が加速クリープ域にあるときも、上記の場合と同様に、この時点までのひずみデータを用いて、式(2)の最適曲線を求め、式(4)によってクリープ寿命tr を推定する。ただし、遷移クリープ域と加速クリープ域では、ひずみの減速と加速の度合いに違いがあるので、各領域で異なる.の値を用いた。すなわち、遷移クリープ域と加速クリープ域での速度定数.を.1と.2と書くと、加速クリープ度では式(4)の.に.2の値を代入してtr の値を推定した。ただし、多くの場合.1>.2であり、安全側過ぎるtr の値を推定することが多かったため、両者の相加平均(.1+.2)/2 の値を式(4)の.に代入して、tr の値を推定することも試みることにした。 3.2 .法[2] 加速クリープにおいてクリープ速度の対数とひずみの関係は直線関係で近似することができる。 ln.. . Ω. . ln..0 (5) Fig. 3 Creep lives predicted in-situ by the present three methods during the creep test of 316FR steel at 823 K in air. Table 3 List of life prediction methods proposed. Name Transient creep Steady creep Accelerated creep Mod. . method 1 Mod. . method using .1 Mod. . method using .1 kept constant after the middle of the steady creep phase Mod. . method using .1 Mod. . method 2 Mod. . method using (.1+.2)/2 .. method .. method 00 100 200 300 1900/04/09200300400Elapsed time, t, h Prediction Life, tr, h 316FR steel 270 MPa, 823 K in air Mod. . method 1 Mod. .. method 2 .. method - 142 - 従って、.はこの直線の傾き、は切片を示す。このとき、クリープ寿命trと.の間には以下の関係がある。 tr . t .1 .Ω... (6) 式(6)より、時刻t におけるクリープ速度.. .と係数.を求めれば、寿命を推定できることが分かる。 上述した本研究で提案する寿命推定法をまとめるとTable 3 に示すように3 種類の方法にまとめることができる。 4.寿命予測結果 4.1 In situ 実時間予測 .=270 MPa、T=823 K、tr=355.8 h の場合に試験中にin situ で実時間推定を行った結果の一例をFigure 3 に示す。横軸に試験開始直後t=0 h から計測した経過時間t、縦軸には任意のt でTable 3 の3 種類の方法で推定したクリープ寿命trの値をプロットした結果の一例を示す。t=0 h 直後は、0.2より大きな値の.1を使ったため、推定値tr’は、実寿命trの値の17%しかない短い値にとどまり、安全側過ぎる推定となっているが、時間経過とともに推定精度が上がり、定常クリープ域では定数.1を一定値にして推定したために、tr’の値も一定となっている。しかし、クリープひずみ.の値が徐々に増加し始め、加速クリープ域に移行すると、0.1の値が一定値から急激に変化するために、3 種類の推定法ともに予測寿命の値が急激に変化する。.の増加が緩やかなために実際の値よりも小さな値を取る傾向のある0.2を推定に用いた修正.法1 では、時間とともに適切な.2 の値に近い値となるため、tr’の値が危険側の推定値から徐々に減少して実寿命tr の値に漸近して行く傾向が見られる。他方、.1と.2の相加平均を用いる修正.法2 では、小さな値をとる傾向のある.2の影響によって、寿命の最終的な段階でもtr’は過度に安全側の小さな値にとどまる傾向を見せている。これに対して、.法では、加速期に移行した時点から予想寿命の値は徐々に増加して実寿命tr の値に漸近して行く傾向が見られる。実寿命tr の80%以上で修正.法1 および.法ともに、誤差±10%以内の値に収まる寿命推定ができている。予測寿命の精度は、次の4.2 項と同様、修正.法2、.法、修正.法1 の順に高くなることが分かる。 4.2 In situ 実時間予測法の性能の比較 Figures 4(a)~(c)に、T=823 K の大気中で3 種類の推定法で得られた規格化経過時間t/tr に対する予測精度(予測寿命/破断時間) tr’/trを示す。図中の破壊確率10%、50%および90%の線図は、異なる負荷応力に対して得られたtr’/tr./tr 線図間のばらつきから得られた確率付きtr’/tr./tr 線図を示す。T=923 K の大気中でもFigs. 4(a)~(c)と同様な傾向が得られた。 上記3 種類の方法を比較すると、予測寿命の精度は、修正.法2、.法、修正.法1 の順に高くなった。特に、修正.法1 による寿命推定誤差は、寿命60%以降で、今回調べたすべての条件下で安全側に30%、危険側に10%以内に収まることが示された。 ただし、遷移および定常クリープ間では、今回提案した3 種類の寿命推定法すべてで予測寿命tr’は時間経過とともに実破断時間tr に漸近する傾向を示した。特に、tr’ の平均値は、実寿命の60%以上の経過時間t において、3 種類の寿命推定法すべてで、良好な推定となっていることが明らかとなった。 5.結 言 本研究では、次世代高速炉の構造材料として使用が検討されている316FR 鋼の供用中に連続測定で得られる変形データからクリープ寿命を予測する新しい方法を提案 (a) Modified . method 1 (b) Modified . method 2 (c) . method Fig. 4 Comparison of creep lives of the present 316FR steel predicted by the proposed three methods. 00 0.2 0.4 0.6 0.8 1 12Elapsed time / Observed life, t/tr Predicted life / Observed life, t'r/tr transist steady tertiary creep:Mod. .-method( .2) creep:Mod. .-method 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 Elapsed time / Observed life, t/tr transist steady tertiary creep:Mod. .-method(Average .1, .2) creep:Mod. .-method 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 Elapsed time / Observed life, t/tr transist steady tertiary creep: .-method creep:Mod. .-method Fracture probability 10% 316FR steels Fracture probability 50% Fracture probability 90% 250MPa 823K 260MPa 823K 270MPa 823K 280MPa 823K 110MPa 923K 120MPa 923K 130MPa 923K 140MPa 923K - 143 - し、実際のクリープ試験データに適用することによって、その予測精度を調べた結果、以下の知見が得られた。 (1) 遷移および定常クリープ域において遷移クリープ域の速度定数.1を用い、加速クリープ域でそこでの速度係数.2を適用した「修正.法1」、遷移および定常クリープ域で.1、加速クリープ域で.1と.2の相加平均を適用した「修正.法2」、遷移および定常クリープ域で.1、加速クリープ域で.法を適用した「.法」の3 種類の寿命推定法を提案した。 (2) 上記3 種類の方法を比較すると、予測精度は、修正. 法2、.法、修正.法1 の順に高くなった。特に、修正.法1 による寿命推定誤差は、寿命60%以降で、今回調べたすべての条件下で安全側に30%、危険側に10% 以内に収まることが示された。 参考文献[1] 例えば、丸山公一、中島英治、“高温強度の材料科学”、内田老鶴圃、1997、pp. 117~126. [2] 例えば、野中勇ほか、“.法によるMod. 9Cr-1Mo 鋼のクリープ余寿命予測”、材料、第46 巻、1997、pp. 438~442. [3] ASTM E647-06, “Standard test method for measurement of fatigue crack growth rates,” 2006, pp. 28~32. - 144 - “ “オーステナイト系ステンレス鋼316FR 鋼の供用中クリープ寿命予測法 “ “中曽根 祐司,Yuji NAKASONE,鈴木 駿,Hayao SUZUKI
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