海外での廃止措置経験の軽水炉(PWR)への展開
公開日:
カテゴリ: 第12回
1.はじめに
わが国の商業用原子力プラントの廃止措置については、昭和57年の原子力委員会 原子力開発長期計画において、「運転を終了した原子力発電所は解体撤去し跡地を原子力発電所用地として、社会の理解を得つつ引き続き有効利用する」ことを基本方針とされて以降、廃止措置の制度整備が進められ、併せて、今日に至るまで、国内関係機関、事業者及びメーカーにおいて、廃止措置技術の研究開発・実用化が行われるとともに、昭和61 年から日本原子力研究所(現日本原子力研究開発機構)動力試験炉(JPDR:沸騰水型原子炉(BWR))の解体実地試験が行われた。これらの成果も踏まえ日本原子力発電(株)東海発電所(ガス冷却炉(GCR))では平成13 年から、日本原子力研究開発機構 原子炉廃止措置研究開発センター(旧ふげん発電所:新型転換炉)では平成20 年から、また中部電力(株)浜岡原子力発電所1 号炉、2 号炉(いずれも沸騰水型原子炉(BWR))では、平成21 年から、廃止措置工事が行われている。また、国外においては、米国、ドイツなどの主要国の商業用発電所では30 基を超える軽水炉プラント(BWR、PWR、GCR など)で廃止措置が安全に実施されている。 こうした中で、我が国では、美浜発電所1 号炉、同2 号炉および玄海発電所1号炉の加圧水型原子炉プラント(PWR)が本年4 月27 日で営業運転を停止し、現在、廃止措置の着手に向けて、準備が進められている。 PWR プラントの廃止措置は、これまで国内では実績がないものの、海外では、米国、ドイツ、スペインおよびフランス等にて、廃止措置を完了、もしくは実施中のPWRプラントも存在し、PWRプラントとしての廃止措置経験が蓄積されてきている。 このため、ここでは、PWR プラントを対象に合理的な廃止措置方法の構築の一助とすべく、これまでの国外先行PWR プラントの廃止措置経験から得られた教訓について我が国のPWR プラントへの適応性を検討した。 2.原子力発電所の廃止措置工程 原子力発電所の廃止措置の在り方については、我が国のみならず、国際的にもさまざまな機関で検討されてきている。プラント恒久停止から機器の解体撤去、建屋の解体、およびサイト解放にいたる廃止措置プロセスとして、国際原子力機関(IAEA)等での主流の考えとされているのは、Fig.1 に示すように、原子力施設のもつ放射線
Fig.1 Transitional decommissioning operations and typical durations for the ‘safe enclosure’ option 昭和 60 年に通産省(現、経済産業省)総合エネルギー調査会 原子力部会において策定された商業用原子力発電所の廃止措置の標準工程(Fig.2)は、この考えと整合している。Fig.2 Process of Decontamination & Decommissioning of a nuclear power plant Fig.1 に示す原子力施設の残存リスク低減に沿った具体的な廃止措置全体工程策定の考え方の例を次に示す。. 線量の比較的高い機器解体時の作業エリア確保 ①維持不要な低線量機器を先行して解体 ⇒ 先行解体の実施. 線量の比較的高い機器解体時の被ばく低減 ②機器内面の放射能を除去 ⇒ 系統除染の実施 ③放射能が十分減衰するまで機器の解体開始 を延期 ⇒ 安全貯蔵の実施 ④比較的放射能の高い機器から解体 ⇒ 原子炉等解体後、生体遮へいを解体. 建屋は放射能がない一般の建屋として解体 ⑤機器解体後、残存放射能がないことを確認 ⇒ 管理区域解除の実施(残存放射能の確認測定) PWR プラントの廃止措置全体工程の模式図をFig.3 に示す。Fig.3 Process of Dismantling & Demolition of a PWR plant 3.海外PWR プラント廃止措置の取り組み 3.1 海外PWR プラント廃止措置の概要 海外では、米国、ドイツ、スペインおよびフランス等にて、廃止措置を完了、もしくは実施中のPWR プラントも存在し、PWR プラントとしての廃止措置経験が蓄積されてきている。これらの国において廃止措置を完了した、もしくは実施中のPWRプラントについて、工程及び現状をFig.4 に 示す。このなかで、米国サンオノフレ発電所1 号炉、ザイオン発電所1,2 号炉、フランス ショーA発電所等のプラントでは、当初、長期安全貯蔵後解体撤去の方針であったため、長期貯蔵状態に入っていたが、即時解体へ方針変更がなされたことにより、途中から解体撤去へ切り替えている。廃止措置で発生する廃材は、一般物としての再使用・再利用されるものと、放射性廃棄物して処理処分されるものに分類される。このうち、放射性廃棄物として処分方針・処分基準は国によって異なり、米国のように、大型機器の一体処分が受け入れられる国や、スペインのように、処分基準としてコンクリート容器などに収納したのちモルタル等の充填材で固化するなどの条件が課せられている国に分けられる。廃止措置では、廃材の最終形態の在り方により、系統・機器の除染有無、解体物の大きさなどが大きく影響する。- 16 -Fig.4 Decommissioning of PWR commercial plants in the USA and Western Europe たとえば、米国トロージャン発電所などは、原子炉容器と炉内構造物を一体として、蒸気発生器は開口部を閉鎖してそのままの状態で処分しており、そのため、これらの対象機器の系統除染や解体は行われず、原位置での配管等からの切断、密封養生で撤去可能である。一方、前述の通り、スペインのホセ・カブレラ発電所で発生する放射性廃棄物は、容器封入後の充填固化が処分条件に課せられているため、機器の切断・解体が必要となる。このため、作業者の放射線防護上および廃棄物の合理的処分の観点から除染作業が必要になったり、あるいは作業安全、解体の合理化等から切断・解体場所の確保およびそこへの廃材の搬入、搬出作業が必要となる。これらの作業の有無、方法の選択などは、廃止措置作業における作業者の放射線防護や、作業工程または廃止措置費用に大きな影響を及ぼす。 3.2 最近のPWR プラント廃止措置実績から ~ホセ・カブレラ発電所プロジェクト~ 放射性廃棄物の処分基準は、各国ともに自国の処分場への適合性の観点から定められている。そうしたなかで、スペインの放射性廃棄物処分に関する考え方や廃棄体政策方法は、日本の考え方・方法に類似しており、それゆえ、スペインのPWR プラント(ホセ・カブレラ発電所) で実施されている廃止措置作業には、我が国ではまだ経験の無いPWR プラントの廃止措置の計画策定および実践について学ぶべき点が多くあると考えられる。例えば、廃止措置時の廃棄体の製作の前工程として実施される放射性機器の除染、切断・解体方法も参考にできると考えられる。このため、国内PWRプラントの廃止措置計画策定に資するため、これまで国内等で蓄積してきたPWR プラント廃止措置に関する技術知見や管理方法の知見を基にホセカブレラ発電所プロジェクトから学べる教訓を整理した。ホセ・カブレラ発電所の廃止措置は、スペイン国内の放射性廃棄物の管理や原子力発電所の廃止措置を行う国営企業であるENRESA が担っており、LILW(低中レベル廃棄物)の処分場(エルカブリル)も所有・運営している。ENRESA は、バンデロス発電所1 号炉(GCR)、PIMIC 研究炉の廃止措置の実績を有しており、これらの実績を通して得られた教訓等をホセ・カブレラ発電所の廃止措置へ反映している。ホセ・カブレラ発電所は、スペインの軽水炉では初めての廃止措置プラントであり、電気出力14.2 万kW のWestinghouse 型の1 ループのPWR プラントである。この発電所は、1969 年に営業運転を開始した。廃止措置については、2002 年から約3 年かけて基礎研究・廃止措置計画を策定し、2005 年に予備廃止措置計画書が国に提出された。2006 年に国から恒久運転停止許可書が発給され、プラントを運転停止し、4 年間の解体準備期間へ移行した。この間に、発電事業者は炉心からの燃料取り出し、系統除染および使用済み燃料の使用済み燃料貯蔵プールからの搬出を実施した。一方、ENRESAは、2010 年から開始予定の具体的解体計画、環境影響評価等を実施し、最終廃止措置計画書、解体許可書等を国に提出(2008 年) し、2010 年2 月に国から解体許可書が発給されると同時に所有権は発電事業者からENRESAへ移管された。設備・建屋の解体およびその後の敷地解放測定を実施し、廃止措置が終了したのち(2017 年)は、所有権は元の所有者である発電事業者へ返還される計画である。 Fig.5 Jose Cabrera Decommissioning Project Compared to the Japanese Standard decommissioning process ホセ・カブレラ発電所の廃止措置プロジェクトの取り- 17 -組みをFig.5 に示す。 また、Fig.5 に、我が国の廃止措置手順との対比を示した。我が国では、国の認可を受けた廃止措置計画書に基づき、廃止措置作業を実践するが、計画が長期に亘る場合などは、適宜、最新技術知見を採り込んで計画を見直しながら実践することが合理的との考えも受け入れられている。このような視点に立って、ホセ・カブレラ発電所プロジェクト工程を比較すると、標準工程の「安全貯蔵期間」に相当するものがプロジェクトの「恒久停止後の移行期間」であり、「解体撤去期間」に相当するものが「D&D実施プロジェクト」であり、廃止措置計画策定および実践での教訓が我が国のPWR プラントの廃止措置検討において有用と考えられる。 ホセ・カブレラ発電所の廃止措置プロジェクトとして、プラントの恒久停止からサイト解放まで、次に示す段階に分けて、廃止措置活動が行われている。 PHASE 0 . 燃料取り出し& 予備作業 (2006~2009 年) .プラント停止後作業 .系統除染 .放射能特性評価の最新化 .物量の最新化 .プラント停止後のドレン & 不必要な系統・機器の隔 離 .独立一時貯蔵施設(ITS)の建設 .乾式貯蔵キャスクへの充填 (燃料プールを空にする) PHASE 1 . 準備作業(2010~2011 年) .サイト事務所の移転と設置 .有害物質の除去 .非管理区域の系統機器・エリアの解体 .系統機器の改造&再配置 .タービンホール: 改造 + 設備設置 .新たに設置した系統&施設の試験及び運転手順書 PHASE 2 . 一次系主要設備の解体(2012~2016 年) .一次系系統機器の 除染および 解体 .炉内構造物の切断 .大型機器の解体および 一次系機器の撤去 .系統機器の廃材のクリアランス測定 .放射性廃棄物処理、貯蔵&処分 .産業廃棄物の管理 PHASE 3 . 補助施設の撤去、管理区域解除、建屋解体(2014~2017 年) .系統設備の撤去 .汚染構造物の除染 .放射能特性測定後の作業 .クリアランス測定 (構造物 & 建屋) .構造物 & 建屋の解体撤去 PHASE 4 . サイト解放(2016~2017 年) .最終洗浄 .敷地解放のための最終放射能測定 .キャビティ等の埋め戻し .サイト修復 .植林 .報告書まとめ .ライセンス返上申請の規制手続き .サイトの正式ライセンスの終了 .所有者への土地返還 PWR プラントの原子炉容器、炉内構造物、蒸気発生器、加圧器および原子炉冷却材ポンプ等の主要機器は、PHASE 2 にて解体が実施され、本年6 月時点で解体撤去終了済みである。 ホセ・カブレラ発電所廃止措置プロジェクトでは、これらの大型機器や一次系主要機器の解体撤去を合理的に実施するために、PHASE 0 段階で系統・設備およびサイトの特性(物量、放射能、運転履歴、機器設備の設計・運用変更履歴等)を入念に調査し、その結果をもとにPHASE 2 で実施する解体工事を円滑に実施するための準備作業としてPHASE 1 にて、既設施設・設備の改造、解体工事のための専ら設備の設置等が行われている。 たとえば、比較的放射能レベルの高い廃棄物の処理・貯蔵施設は、タービン建屋のタービン・復水器等を撤去し廃棄体製作設備および一時貯蔵設備を設置するとともに、タービン建屋と補助建屋間で開口部を設けて廃棄物を遠隔移送するためのレールを布設など実施している。 このプロジェクトでは、炉内構造物および原子炉容器は、使用済み燃料プールに移送して水中での切断・解体が行われた。ここで発生した比較的放射能レベルの高い廃材は、タービン建屋を改造して設置した専用廃棄物処理設備に遠隔自動移送して廃棄体化処理された。また、蒸気発生器、加圧器および原子炉冷却材ポンプは原位置- 18 -にて解体撤去が行われた。 4.ホセ・カブレラ発電所廃止措置プロジェクトの教訓 ホセ・カブレラ発電所廃止措置プロジェクトは、それまでにENRESAが実施したバンデロス発電所1 号炉およびPIMIC 研究炉の廃止措置から得られた教訓等を反映して計画を策定し、実施しており、米国電力研究所(EPRI) などの他機関からも成功裡に廃止措置が進んでいると評価されている。 このような評価を得ている理由として、ENRESA は次の点を挙げている。 ・ 発電事業者からの引継期間(PHASE 0)では、発電事業者とともに入念なサイト特性調査を行うとともに、詳細なデータベースを整理して廃止措置計画を策定したこと。 ・ プラント運転モードから廃止措置モードに移行するにあたって、所員に対する廃止措置に係る教育訓練に取り組んだこと。 ・ 関係者が共通認識・共通理解のもとで解体計画を策定・実行するために、3D モデルなどのIT 技術を活用したこと。 ・ 一般公衆に対しても積極的な情報公開等に取り組んだことにより、良好な廃止措置環境が形成されたこと 一方、ENRESA によれば、本プロジェクトの全ての廃止措置活動が計画どおり、あるいは予定どおり遂行できたわけではなく、計画進捗に影響を与える潜在的な問題の早期摘出、その影響の緩和措置、適切な対策策定とその実行が重要と述べている。 ここでは、ホセ・カブレラ発電所廃止措置プロジェクトを遂行する上で、ENRESA が教訓として挙げた事項を次の5 項目にまとめた。 (1) プロジェクト設計 (2) 規制当局との関係 (3) 契約 (4) 廃棄物管理 (5) プロジェクトのリスク管理 (6) ステークホルダとの関係 これらの項目について、ENRESA は次期廃止措置プロジェクトへ反映していくこととしている。 (1)プロジェクト設計 廃止措置計画を策定し実行する上で、プロジェクト設計段階は、全解体工事の基本となるものである。したがって、プラントの実態(機器の配置、物量、放射能汚染レベル等)およびその運転履歴(運転実績、機器設備の設計・運用変更履歴、トラブル事例等)を詳細に調査して計画に反映するほど、実施段階において作業計画に伴うリスクと不確実性が低減され、それらの発生回避につながる。 一例を挙げると、解体工事着手前の準備作業段階までは、ENRESA としてはプラントに関する発電事業者と入念なサイト特性調査を行っていたため引継情報が提供されていたと考えていたが、次のようなプラントデータが欠如していることが、実際に解体工事に着手してから発覚した。 - 運転段階からプラントに残留していた放射性廃棄物インベントリー - 解体工事に必要ないくつかの系統の保存状態 - 規格外施設・装置 - 書類上は存在しなかった有毒物質/危険物質(アスベスト) これらの事象により、当初の工事計画では吸収しきれない追加作業と工程遅延が発生した。 (2) 規制当局との関係 ホセ・カブレラ発電所の廃止措置では、プロジェクトを通じて、次に示すような部分的認可を要する事項が多く存在していたため、規制当局と綿密な連絡や折衝が必要であった。 - 解体に必要な専ら設備の設置 - これまで使用していた設備の設計変更 - 放射性廃棄物の規制解除方法、建屋・敷地解放 工事計画を設定スケジュール通りに遂行するためには、認可された廃止措置全体計画の工程に示された時期と条件と一致するかどうかに依っている。 解体工事での経験例を次に示す: - プロジェクトの初期段階では、規制当局の認可に要する期間見積もりが、現実に必要とした期間よりはるかに短かった。この対策として、実際に必要な時間に収めるためにスケジュールを調整することに- 19 -加え、規制当局との事前折衝を強化した。すなわち、事前に行う概要打合せにより規制当局に内容の理解促進を容易にするためである。この打合せは非常に効果的で、許認可プロセスを円滑に進めることができた。 - 換気空調設備について、プロジェクト計画認可時点での規制要求事項が、その後数カ月で規制強化されたことにより、すでに契約発注していた装置と規制強化対応の試験装置で性能に差が生じたことにより、作業工程の延長と作業遅延が生じた。規制の振れや、何度も変更される規制は、長期間解体工事に密接に関連した作業遅延リスクにつながる。 (3) 契約 委託工事、物品、役務など契約管理業務は、プロジェクト管理を遂行するうえで重要なキーを握っている。 ホセ・カブレラ発電所プロジェクト解体工事は、工事を多くの契約に分割発注することを方針としていたが、この場合、発注者側としては、利用可能な最新情報、明確な工事範囲および工事期限を一つ一つ組み入れる必要がある。 しかしながら、工事中に次のような問題が発生した: - いくつかの請負会社では、必要な詳細エンジニアリングが実施できなかった。 - 異なった請負会社により実施される工事の境界は、あいまいである。(例:機器設置場所での除染とワークショップでの除染、系統の解体と機器表面の除染など、請負会社毎に考え方が異なる) - 契約に、当座の期限超過についてのペナルティ/終了条項がないことにより、請負会社への再指示の困難なこと - 役務サービス契約のなかで、契約期間がプロジェクト工程より短かいものがあった。その結果、工事の職務に十分適応したスタッフの替わりに、職務に慣れていない作業員に交代させなければならなかったことにより、通常の作業体制に影響を与えた。 - 契約のスコープに追加作業(コンティンジェンシ) を組み入れた条項が欠如していたケースがあった。 なお、対象範囲をもっと大きく設定し一つもしくは数件の大型「ターンキー」契約も検討したが、非常にリスクが大きいと判断した。この理由は、工事範囲の詳細定義することが難しいこと、この種の契約形態に付随するコンティンジェンシを組みいれることは困難との判断に依るものであった。 (4) 廃棄物管理 廃棄物ができる限り早くサイトから搬出できるよう、廃棄物処理フローに習熟するとともに、それらがきちんと標準類として整備され、かつその認可が保証されることが大切である。 ホセ・カブレラ発電所解体当初、プロジェクト管理計画では廃棄物の処理フローが、明確でなかった。(運転段階からの廃棄物が在庫管理されていなかった。)これにより、追加作業と追加費用が発生した。 一方、良好事例としては、廃止措置工事を進めていく過程で、当初計画では考慮されていなかった処理経路が利用できるようになったことにより、効率的に廃棄物処理作業を行えることが可能となった例がある。このため、キャビティでの切断作業時に使用するキャビティ水浄化装置フィルターを、最終的に切断した炉心構造物と同じタイプのコンクリートコンテナに収納できた。このコンテナは、ドラムの代わりに炉心構造物用に使用されたもので、これによって多くの人手作業を省略でき、コスト、時間、作業員の被ばくを削減することができた。なお、この点については、ENRESA が原子力施設の解体、放射性廃棄物の貯蔵、廃棄物受入れ基準決定の責任を担っている国営企業でもあることが、迅速で適切な判断を下せるベースとなったことに留意しておく必要がある。 (5) プロジェクトのリスク管理 プロジェクトのリスク管理には、工事計画の厳密な分析が不可欠である。各作業のタイムリーな情報の提供、各作業実施上の潜在的問題の分析、問題発生を補償する対策の実施は、想定外事象の影響緩和に不可欠である。 ホセ・カブレラ発電所廃止措置プロジェクトで経験した具体例として、炉心構造物切断作業中の使用済燃料ピットライナーの破損可能性に対して事前に策定していた緊急時計画書が挙げられる。この計画書で想定されていた「大型金属片がライナーに落下貫通してキャビティ水が漏えいする事象」シナリオにつながる恐れのあるトラブル事象が発生したが、漏えいの影響緩和を行うための水循環浄化システムの早期起動が行われ、特に問題に至ることはなかった。 プロジェクトのリスク管理としての教訓は次の点が挙- 20 -げられる。 - 廃止措置は、誰でもが簡単に行えるものではなく、プラントの運転履歴に精通した知識・経験をもとに、練り上げた計画を策定して実行することが重要。 - 廃止措置を合理的に行うには、先行プラントの実績に基づいた教訓を踏まえることが重要。 - 廃止措置を実施する上では、地元の理解が大切。 (6) ステークホルダとの関係 廃止措置計画を策定・遂行するうえでの大きなリスクになりうることとして考えておかなければならないことは、利害関係者(地元住民、地方組織、一般公衆)から廃止措置計画の策定・遂行が受け入れられないことである。このため、計画内容の丁寧な説明、情報の公開を進めるなど啓蒙活動を積極的に行うとともに、特にコミュニケーション活動を支援することが必要である。 この点について、ホセ・カブレラ発電所廃止措置においては、メディアや関係機関と定期的に意見交換を行う場を設けたり、情報センターを設立して毎年、学生、教育関係者や工事関係者等多くの人を受け入れたり各種活動を行っている。同様に、ENRESA のウェブサイトで、図表や公開資料(ビデオ、写真)で、どのような作業が行われているか、またこれまで行われてきたかが一般の人でも閲覧できるように廃止措置情報を公開している。 以上、ここでは、主に廃止措置の管理面からの教訓をとり上げたが、ここでは言及しないものの、個々の設備の除染、解体撤去に関する技術面からの教訓は種々挙げられていることも補足しておく。 4.我が国のPWR プラント廃止措置計画への教訓の反映 ホセ・カブレラ発電所廃止措置プロジェクトは、成功裡に廃止措置が終了しつつある。 廃棄物処理処分方針は、上述したとおり、我が国と類似しており、このため、施設の除染・解体の考え方・実施方法や適用技術は、我が国のPWR プラントの廃止措置計画策定において参考になるものと考えられる。 たとえば、炉内構造物や原子炉容器の解体場所は、それらのもつ放射能レベルや解体作業効率等から、使用済み燃料プール、原子炉キャビティあるいは原位置が候補として挙げられるが、これらの候補からホセ・カブレラ廃止措置プロジェクトは使用済み燃料プールを選定した。選定した大きな理由の一つは、原子炉格納容器内に使用済み燃料プールがあることが挙げられる。一方、国内のPWR プラントでは、使用済み燃料ピットは原子炉補助建屋内にあることから、移送方法の難しさを考慮して適切に選定する必要があるものの、ホセ・カブレラ発電所廃止措置プロジェクトでの選定のプロセス等は参考となる。 また、前章で述べた管理面からの教訓は、廃止措置計画を適切かつ合理的に履行する上では、重要な教訓が挙げられており、我が国においても留意しておかなければならない教訓である。 5.まとめ - 放射性廃棄物の処分基準は、各国ともに自国の処分場への適合性の観点から定められている。そうしたなかで、スペインの放射性廃棄物処分に関する考え方や廃棄体政策方法は、日本の考え方・方法に類似しており、それゆえ、スペインのPWR プラント(ホセ・カブレラ発電所)で実施されている廃止措置作業には、我が国ではまだ経験の無いPWR プラントの廃止措置の計画策定および実践について学ぶべき点が多くある。 - ホセ・カブレラ発電所廃止措置プロジェクトが、米国電力研究所(EPRI)などの他機関からも成功裡に廃止措置が進んでいると評価されている原点として、次の点が挙げられる。 ・ 発電事業者からの引継期間では、発電事業者とともに入念なサイト特性調査を行うとともに、詳細なデータベースを整理して廃止措置計画を策定したこと。 ・ プラント運転モードから廃止措置モードに移行するにあたって、所員に対する廃止措置に係る教育訓練に取り組んだこと。 ・ 関係者が共通認識・共通理解のもとで解体計画を策定・実行するために、3D モデルなどのIT 技術を活用したこと。 ・ 一般公衆に対しても積極的な情報公開等に取り組んだことにより、良好な廃止措置環境が形成されたこと - ホセ・カブレラ発電所廃止措置プロジェクトからの- 21 -教訓として、ENRESAでは次の5 項目を挙げており、次期プロジェクトへ反映することとしてる。 (1) プロジェクト設計 (2) 規制当局との関係 (3) 契約 (4) 廃棄物管理 (5) プロジェクトのリスク管理 (6) ステークホルダとの関係 - ホセ・カブレラ発電所廃止措置プロジェクトからの教訓は、廃止措置計画を適切かつ合理的に履行する上では、重要な教訓が挙げられており、我が国においても留意しておかなければならない教訓である。 参考文献 [1] 堀川義彦、“軽水炉プラントにおける廃止措置の最近の取り組みについて”、Journal of the RANDEC、Vol.No.38、2008、pp.25-34. [2] 石榑顕吉、堀川義彦、石倉武、 “軽水炉廃止措置実施に向けたロードマップ その1概要”、日本原子力学会「2008 年 秋の大会」予稿集. [3] 石倉武、堀川義彦、“軽水炉廃止措置実施に向けたロードマップ”、原子力eye、Vol.54、No.6、2008、pp.34-39. [4] T. Ishikura, S. Hirusawa, Y. Horikawa, “Variation of Light Water Reactor Decommissioning Strategies in Japan”, ICEM’09, Liverpool, UK,(11-15 October ,2009). [5] INTERNATIONAL ATOMIC ENERGY AGENCY, “Nuclear Power Reactors in the World”, IAEA Reference Data Series, No. 2, 2015 Edition, IAEA, Vienna (2015). [6] INTERNATIONAL ATOMIC ENERGY AGENCY, “Transition from operation to decommissioning of nuclear installations”, IAEA Safety Report Series No. 36, IAEA, Vienna (2004). [7] Per Segerud, Joseph Boucau,“Feedback from Jose Cabrera Plant Decommissioning Project”, WM2014 Conference, Phoenix, Arizona, USA, (March 2 - 6, 2014). [8] Per Segerud, Per Lunden “Experiences from Jose Cabrera Plant Decommissioning Project”,KONTEC2015, Dresden, Germany, (March 25-27, 2015). [9] Manuel Rodriguez Silva, “Identifying And Managing Risks During Decommissioning Of Jose Cabrera NPP”, WM2014 Conference, Phoenix, Arizona, USA, (March 2 - 6, 2014). [10] Electric Power Research Institute, “Enresa Applies EPRI Decommissioning Findings to Achieve On-Budget, On-Schedule Reactor Internals Segmentation” , EPRI Report 3002004955, (January, 2015). - 22 -
“ “海外での廃止措置経験の軽水炉(PWR)への展開 “ “堀川 義彦,Yoshihiko HORIKAWA,片岡 秀郎,Hideo KATAOKA,松枝 啓之,Keiji MATSUEDA
わが国の商業用原子力プラントの廃止措置については、昭和57年の原子力委員会 原子力開発長期計画において、「運転を終了した原子力発電所は解体撤去し跡地を原子力発電所用地として、社会の理解を得つつ引き続き有効利用する」ことを基本方針とされて以降、廃止措置の制度整備が進められ、併せて、今日に至るまで、国内関係機関、事業者及びメーカーにおいて、廃止措置技術の研究開発・実用化が行われるとともに、昭和61 年から日本原子力研究所(現日本原子力研究開発機構)動力試験炉(JPDR:沸騰水型原子炉(BWR))の解体実地試験が行われた。これらの成果も踏まえ日本原子力発電(株)東海発電所(ガス冷却炉(GCR))では平成13 年から、日本原子力研究開発機構 原子炉廃止措置研究開発センター(旧ふげん発電所:新型転換炉)では平成20 年から、また中部電力(株)浜岡原子力発電所1 号炉、2 号炉(いずれも沸騰水型原子炉(BWR))では、平成21 年から、廃止措置工事が行われている。また、国外においては、米国、ドイツなどの主要国の商業用発電所では30 基を超える軽水炉プラント(BWR、PWR、GCR など)で廃止措置が安全に実施されている。 こうした中で、我が国では、美浜発電所1 号炉、同2 号炉および玄海発電所1号炉の加圧水型原子炉プラント(PWR)が本年4 月27 日で営業運転を停止し、現在、廃止措置の着手に向けて、準備が進められている。 PWR プラントの廃止措置は、これまで国内では実績がないものの、海外では、米国、ドイツ、スペインおよびフランス等にて、廃止措置を完了、もしくは実施中のPWRプラントも存在し、PWRプラントとしての廃止措置経験が蓄積されてきている。 このため、ここでは、PWR プラントを対象に合理的な廃止措置方法の構築の一助とすべく、これまでの国外先行PWR プラントの廃止措置経験から得られた教訓について我が国のPWR プラントへの適応性を検討した。 2.原子力発電所の廃止措置工程 原子力発電所の廃止措置の在り方については、我が国のみならず、国際的にもさまざまな機関で検討されてきている。プラント恒久停止から機器の解体撤去、建屋の解体、およびサイト解放にいたる廃止措置プロセスとして、国際原子力機関(IAEA)等での主流の考えとされているのは、Fig.1 に示すように、原子力施設のもつ放射線
Fig.1 Transitional decommissioning operations and typical durations for the ‘safe enclosure’ option 昭和 60 年に通産省(現、経済産業省)総合エネルギー調査会 原子力部会において策定された商業用原子力発電所の廃止措置の標準工程(Fig.2)は、この考えと整合している。Fig.2 Process of Decontamination & Decommissioning of a nuclear power plant Fig.1 に示す原子力施設の残存リスク低減に沿った具体的な廃止措置全体工程策定の考え方の例を次に示す。. 線量の比較的高い機器解体時の作業エリア確保 ①維持不要な低線量機器を先行して解体 ⇒ 先行解体の実施. 線量の比較的高い機器解体時の被ばく低減 ②機器内面の放射能を除去 ⇒ 系統除染の実施 ③放射能が十分減衰するまで機器の解体開始 を延期 ⇒ 安全貯蔵の実施 ④比較的放射能の高い機器から解体 ⇒ 原子炉等解体後、生体遮へいを解体. 建屋は放射能がない一般の建屋として解体 ⑤機器解体後、残存放射能がないことを確認 ⇒ 管理区域解除の実施(残存放射能の確認測定) PWR プラントの廃止措置全体工程の模式図をFig.3 に示す。Fig.3 Process of Dismantling & Demolition of a PWR plant 3.海外PWR プラント廃止措置の取り組み 3.1 海外PWR プラント廃止措置の概要 海外では、米国、ドイツ、スペインおよびフランス等にて、廃止措置を完了、もしくは実施中のPWR プラントも存在し、PWR プラントとしての廃止措置経験が蓄積されてきている。これらの国において廃止措置を完了した、もしくは実施中のPWRプラントについて、工程及び現状をFig.4 に 示す。このなかで、米国サンオノフレ発電所1 号炉、ザイオン発電所1,2 号炉、フランス ショーA発電所等のプラントでは、当初、長期安全貯蔵後解体撤去の方針であったため、長期貯蔵状態に入っていたが、即時解体へ方針変更がなされたことにより、途中から解体撤去へ切り替えている。廃止措置で発生する廃材は、一般物としての再使用・再利用されるものと、放射性廃棄物して処理処分されるものに分類される。このうち、放射性廃棄物として処分方針・処分基準は国によって異なり、米国のように、大型機器の一体処分が受け入れられる国や、スペインのように、処分基準としてコンクリート容器などに収納したのちモルタル等の充填材で固化するなどの条件が課せられている国に分けられる。廃止措置では、廃材の最終形態の在り方により、系統・機器の除染有無、解体物の大きさなどが大きく影響する。- 16 -Fig.4 Decommissioning of PWR commercial plants in the USA and Western Europe たとえば、米国トロージャン発電所などは、原子炉容器と炉内構造物を一体として、蒸気発生器は開口部を閉鎖してそのままの状態で処分しており、そのため、これらの対象機器の系統除染や解体は行われず、原位置での配管等からの切断、密封養生で撤去可能である。一方、前述の通り、スペインのホセ・カブレラ発電所で発生する放射性廃棄物は、容器封入後の充填固化が処分条件に課せられているため、機器の切断・解体が必要となる。このため、作業者の放射線防護上および廃棄物の合理的処分の観点から除染作業が必要になったり、あるいは作業安全、解体の合理化等から切断・解体場所の確保およびそこへの廃材の搬入、搬出作業が必要となる。これらの作業の有無、方法の選択などは、廃止措置作業における作業者の放射線防護や、作業工程または廃止措置費用に大きな影響を及ぼす。 3.2 最近のPWR プラント廃止措置実績から ~ホセ・カブレラ発電所プロジェクト~ 放射性廃棄物の処分基準は、各国ともに自国の処分場への適合性の観点から定められている。そうしたなかで、スペインの放射性廃棄物処分に関する考え方や廃棄体政策方法は、日本の考え方・方法に類似しており、それゆえ、スペインのPWR プラント(ホセ・カブレラ発電所) で実施されている廃止措置作業には、我が国ではまだ経験の無いPWR プラントの廃止措置の計画策定および実践について学ぶべき点が多くあると考えられる。例えば、廃止措置時の廃棄体の製作の前工程として実施される放射性機器の除染、切断・解体方法も参考にできると考えられる。このため、国内PWRプラントの廃止措置計画策定に資するため、これまで国内等で蓄積してきたPWR プラント廃止措置に関する技術知見や管理方法の知見を基にホセカブレラ発電所プロジェクトから学べる教訓を整理した。ホセ・カブレラ発電所の廃止措置は、スペイン国内の放射性廃棄物の管理や原子力発電所の廃止措置を行う国営企業であるENRESA が担っており、LILW(低中レベル廃棄物)の処分場(エルカブリル)も所有・運営している。ENRESA は、バンデロス発電所1 号炉(GCR)、PIMIC 研究炉の廃止措置の実績を有しており、これらの実績を通して得られた教訓等をホセ・カブレラ発電所の廃止措置へ反映している。ホセ・カブレラ発電所は、スペインの軽水炉では初めての廃止措置プラントであり、電気出力14.2 万kW のWestinghouse 型の1 ループのPWR プラントである。この発電所は、1969 年に営業運転を開始した。廃止措置については、2002 年から約3 年かけて基礎研究・廃止措置計画を策定し、2005 年に予備廃止措置計画書が国に提出された。2006 年に国から恒久運転停止許可書が発給され、プラントを運転停止し、4 年間の解体準備期間へ移行した。この間に、発電事業者は炉心からの燃料取り出し、系統除染および使用済み燃料の使用済み燃料貯蔵プールからの搬出を実施した。一方、ENRESAは、2010 年から開始予定の具体的解体計画、環境影響評価等を実施し、最終廃止措置計画書、解体許可書等を国に提出(2008 年) し、2010 年2 月に国から解体許可書が発給されると同時に所有権は発電事業者からENRESAへ移管された。設備・建屋の解体およびその後の敷地解放測定を実施し、廃止措置が終了したのち(2017 年)は、所有権は元の所有者である発電事業者へ返還される計画である。 Fig.5 Jose Cabrera Decommissioning Project Compared to the Japanese Standard decommissioning process ホセ・カブレラ発電所の廃止措置プロジェクトの取り- 17 -組みをFig.5 に示す。 また、Fig.5 に、我が国の廃止措置手順との対比を示した。我が国では、国の認可を受けた廃止措置計画書に基づき、廃止措置作業を実践するが、計画が長期に亘る場合などは、適宜、最新技術知見を採り込んで計画を見直しながら実践することが合理的との考えも受け入れられている。このような視点に立って、ホセ・カブレラ発電所プロジェクト工程を比較すると、標準工程の「安全貯蔵期間」に相当するものがプロジェクトの「恒久停止後の移行期間」であり、「解体撤去期間」に相当するものが「D&D実施プロジェクト」であり、廃止措置計画策定および実践での教訓が我が国のPWR プラントの廃止措置検討において有用と考えられる。 ホセ・カブレラ発電所の廃止措置プロジェクトとして、プラントの恒久停止からサイト解放まで、次に示す段階に分けて、廃止措置活動が行われている。 PHASE 0 . 燃料取り出し& 予備作業 (2006~2009 年) .プラント停止後作業 .系統除染 .放射能特性評価の最新化 .物量の最新化 .プラント停止後のドレン & 不必要な系統・機器の隔 離 .独立一時貯蔵施設(ITS)の建設 .乾式貯蔵キャスクへの充填 (燃料プールを空にする) PHASE 1 . 準備作業(2010~2011 年) .サイト事務所の移転と設置 .有害物質の除去 .非管理区域の系統機器・エリアの解体 .系統機器の改造&再配置 .タービンホール: 改造 + 設備設置 .新たに設置した系統&施設の試験及び運転手順書 PHASE 2 . 一次系主要設備の解体(2012~2016 年) .一次系系統機器の 除染および 解体 .炉内構造物の切断 .大型機器の解体および 一次系機器の撤去 .系統機器の廃材のクリアランス測定 .放射性廃棄物処理、貯蔵&処分 .産業廃棄物の管理 PHASE 3 . 補助施設の撤去、管理区域解除、建屋解体(2014~2017 年) .系統設備の撤去 .汚染構造物の除染 .放射能特性測定後の作業 .クリアランス測定 (構造物 & 建屋) .構造物 & 建屋の解体撤去 PHASE 4 . サイト解放(2016~2017 年) .最終洗浄 .敷地解放のための最終放射能測定 .キャビティ等の埋め戻し .サイト修復 .植林 .報告書まとめ .ライセンス返上申請の規制手続き .サイトの正式ライセンスの終了 .所有者への土地返還 PWR プラントの原子炉容器、炉内構造物、蒸気発生器、加圧器および原子炉冷却材ポンプ等の主要機器は、PHASE 2 にて解体が実施され、本年6 月時点で解体撤去終了済みである。 ホセ・カブレラ発電所廃止措置プロジェクトでは、これらの大型機器や一次系主要機器の解体撤去を合理的に実施するために、PHASE 0 段階で系統・設備およびサイトの特性(物量、放射能、運転履歴、機器設備の設計・運用変更履歴等)を入念に調査し、その結果をもとにPHASE 2 で実施する解体工事を円滑に実施するための準備作業としてPHASE 1 にて、既設施設・設備の改造、解体工事のための専ら設備の設置等が行われている。 たとえば、比較的放射能レベルの高い廃棄物の処理・貯蔵施設は、タービン建屋のタービン・復水器等を撤去し廃棄体製作設備および一時貯蔵設備を設置するとともに、タービン建屋と補助建屋間で開口部を設けて廃棄物を遠隔移送するためのレールを布設など実施している。 このプロジェクトでは、炉内構造物および原子炉容器は、使用済み燃料プールに移送して水中での切断・解体が行われた。ここで発生した比較的放射能レベルの高い廃材は、タービン建屋を改造して設置した専用廃棄物処理設備に遠隔自動移送して廃棄体化処理された。また、蒸気発生器、加圧器および原子炉冷却材ポンプは原位置- 18 -にて解体撤去が行われた。 4.ホセ・カブレラ発電所廃止措置プロジェクトの教訓 ホセ・カブレラ発電所廃止措置プロジェクトは、それまでにENRESAが実施したバンデロス発電所1 号炉およびPIMIC 研究炉の廃止措置から得られた教訓等を反映して計画を策定し、実施しており、米国電力研究所(EPRI) などの他機関からも成功裡に廃止措置が進んでいると評価されている。 このような評価を得ている理由として、ENRESA は次の点を挙げている。 ・ 発電事業者からの引継期間(PHASE 0)では、発電事業者とともに入念なサイト特性調査を行うとともに、詳細なデータベースを整理して廃止措置計画を策定したこと。 ・ プラント運転モードから廃止措置モードに移行するにあたって、所員に対する廃止措置に係る教育訓練に取り組んだこと。 ・ 関係者が共通認識・共通理解のもとで解体計画を策定・実行するために、3D モデルなどのIT 技術を活用したこと。 ・ 一般公衆に対しても積極的な情報公開等に取り組んだことにより、良好な廃止措置環境が形成されたこと 一方、ENRESA によれば、本プロジェクトの全ての廃止措置活動が計画どおり、あるいは予定どおり遂行できたわけではなく、計画進捗に影響を与える潜在的な問題の早期摘出、その影響の緩和措置、適切な対策策定とその実行が重要と述べている。 ここでは、ホセ・カブレラ発電所廃止措置プロジェクトを遂行する上で、ENRESA が教訓として挙げた事項を次の5 項目にまとめた。 (1) プロジェクト設計 (2) 規制当局との関係 (3) 契約 (4) 廃棄物管理 (5) プロジェクトのリスク管理 (6) ステークホルダとの関係 これらの項目について、ENRESA は次期廃止措置プロジェクトへ反映していくこととしている。 (1)プロジェクト設計 廃止措置計画を策定し実行する上で、プロジェクト設計段階は、全解体工事の基本となるものである。したがって、プラントの実態(機器の配置、物量、放射能汚染レベル等)およびその運転履歴(運転実績、機器設備の設計・運用変更履歴、トラブル事例等)を詳細に調査して計画に反映するほど、実施段階において作業計画に伴うリスクと不確実性が低減され、それらの発生回避につながる。 一例を挙げると、解体工事着手前の準備作業段階までは、ENRESA としてはプラントに関する発電事業者と入念なサイト特性調査を行っていたため引継情報が提供されていたと考えていたが、次のようなプラントデータが欠如していることが、実際に解体工事に着手してから発覚した。 - 運転段階からプラントに残留していた放射性廃棄物インベントリー - 解体工事に必要ないくつかの系統の保存状態 - 規格外施設・装置 - 書類上は存在しなかった有毒物質/危険物質(アスベスト) これらの事象により、当初の工事計画では吸収しきれない追加作業と工程遅延が発生した。 (2) 規制当局との関係 ホセ・カブレラ発電所の廃止措置では、プロジェクトを通じて、次に示すような部分的認可を要する事項が多く存在していたため、規制当局と綿密な連絡や折衝が必要であった。 - 解体に必要な専ら設備の設置 - これまで使用していた設備の設計変更 - 放射性廃棄物の規制解除方法、建屋・敷地解放 工事計画を設定スケジュール通りに遂行するためには、認可された廃止措置全体計画の工程に示された時期と条件と一致するかどうかに依っている。 解体工事での経験例を次に示す: - プロジェクトの初期段階では、規制当局の認可に要する期間見積もりが、現実に必要とした期間よりはるかに短かった。この対策として、実際に必要な時間に収めるためにスケジュールを調整することに- 19 -加え、規制当局との事前折衝を強化した。すなわち、事前に行う概要打合せにより規制当局に内容の理解促進を容易にするためである。この打合せは非常に効果的で、許認可プロセスを円滑に進めることができた。 - 換気空調設備について、プロジェクト計画認可時点での規制要求事項が、その後数カ月で規制強化されたことにより、すでに契約発注していた装置と規制強化対応の試験装置で性能に差が生じたことにより、作業工程の延長と作業遅延が生じた。規制の振れや、何度も変更される規制は、長期間解体工事に密接に関連した作業遅延リスクにつながる。 (3) 契約 委託工事、物品、役務など契約管理業務は、プロジェクト管理を遂行するうえで重要なキーを握っている。 ホセ・カブレラ発電所プロジェクト解体工事は、工事を多くの契約に分割発注することを方針としていたが、この場合、発注者側としては、利用可能な最新情報、明確な工事範囲および工事期限を一つ一つ組み入れる必要がある。 しかしながら、工事中に次のような問題が発生した: - いくつかの請負会社では、必要な詳細エンジニアリングが実施できなかった。 - 異なった請負会社により実施される工事の境界は、あいまいである。(例:機器設置場所での除染とワークショップでの除染、系統の解体と機器表面の除染など、請負会社毎に考え方が異なる) - 契約に、当座の期限超過についてのペナルティ/終了条項がないことにより、請負会社への再指示の困難なこと - 役務サービス契約のなかで、契約期間がプロジェクト工程より短かいものがあった。その結果、工事の職務に十分適応したスタッフの替わりに、職務に慣れていない作業員に交代させなければならなかったことにより、通常の作業体制に影響を与えた。 - 契約のスコープに追加作業(コンティンジェンシ) を組み入れた条項が欠如していたケースがあった。 なお、対象範囲をもっと大きく設定し一つもしくは数件の大型「ターンキー」契約も検討したが、非常にリスクが大きいと判断した。この理由は、工事範囲の詳細定義することが難しいこと、この種の契約形態に付随するコンティンジェンシを組みいれることは困難との判断に依るものであった。 (4) 廃棄物管理 廃棄物ができる限り早くサイトから搬出できるよう、廃棄物処理フローに習熟するとともに、それらがきちんと標準類として整備され、かつその認可が保証されることが大切である。 ホセ・カブレラ発電所解体当初、プロジェクト管理計画では廃棄物の処理フローが、明確でなかった。(運転段階からの廃棄物が在庫管理されていなかった。)これにより、追加作業と追加費用が発生した。 一方、良好事例としては、廃止措置工事を進めていく過程で、当初計画では考慮されていなかった処理経路が利用できるようになったことにより、効率的に廃棄物処理作業を行えることが可能となった例がある。このため、キャビティでの切断作業時に使用するキャビティ水浄化装置フィルターを、最終的に切断した炉心構造物と同じタイプのコンクリートコンテナに収納できた。このコンテナは、ドラムの代わりに炉心構造物用に使用されたもので、これによって多くの人手作業を省略でき、コスト、時間、作業員の被ばくを削減することができた。なお、この点については、ENRESA が原子力施設の解体、放射性廃棄物の貯蔵、廃棄物受入れ基準決定の責任を担っている国営企業でもあることが、迅速で適切な判断を下せるベースとなったことに留意しておく必要がある。 (5) プロジェクトのリスク管理 プロジェクトのリスク管理には、工事計画の厳密な分析が不可欠である。各作業のタイムリーな情報の提供、各作業実施上の潜在的問題の分析、問題発生を補償する対策の実施は、想定外事象の影響緩和に不可欠である。 ホセ・カブレラ発電所廃止措置プロジェクトで経験した具体例として、炉心構造物切断作業中の使用済燃料ピットライナーの破損可能性に対して事前に策定していた緊急時計画書が挙げられる。この計画書で想定されていた「大型金属片がライナーに落下貫通してキャビティ水が漏えいする事象」シナリオにつながる恐れのあるトラブル事象が発生したが、漏えいの影響緩和を行うための水循環浄化システムの早期起動が行われ、特に問題に至ることはなかった。 プロジェクトのリスク管理としての教訓は次の点が挙- 20 -げられる。 - 廃止措置は、誰でもが簡単に行えるものではなく、プラントの運転履歴に精通した知識・経験をもとに、練り上げた計画を策定して実行することが重要。 - 廃止措置を合理的に行うには、先行プラントの実績に基づいた教訓を踏まえることが重要。 - 廃止措置を実施する上では、地元の理解が大切。 (6) ステークホルダとの関係 廃止措置計画を策定・遂行するうえでの大きなリスクになりうることとして考えておかなければならないことは、利害関係者(地元住民、地方組織、一般公衆)から廃止措置計画の策定・遂行が受け入れられないことである。このため、計画内容の丁寧な説明、情報の公開を進めるなど啓蒙活動を積極的に行うとともに、特にコミュニケーション活動を支援することが必要である。 この点について、ホセ・カブレラ発電所廃止措置においては、メディアや関係機関と定期的に意見交換を行う場を設けたり、情報センターを設立して毎年、学生、教育関係者や工事関係者等多くの人を受け入れたり各種活動を行っている。同様に、ENRESA のウェブサイトで、図表や公開資料(ビデオ、写真)で、どのような作業が行われているか、またこれまで行われてきたかが一般の人でも閲覧できるように廃止措置情報を公開している。 以上、ここでは、主に廃止措置の管理面からの教訓をとり上げたが、ここでは言及しないものの、個々の設備の除染、解体撤去に関する技術面からの教訓は種々挙げられていることも補足しておく。 4.我が国のPWR プラント廃止措置計画への教訓の反映 ホセ・カブレラ発電所廃止措置プロジェクトは、成功裡に廃止措置が終了しつつある。 廃棄物処理処分方針は、上述したとおり、我が国と類似しており、このため、施設の除染・解体の考え方・実施方法や適用技術は、我が国のPWR プラントの廃止措置計画策定において参考になるものと考えられる。 たとえば、炉内構造物や原子炉容器の解体場所は、それらのもつ放射能レベルや解体作業効率等から、使用済み燃料プール、原子炉キャビティあるいは原位置が候補として挙げられるが、これらの候補からホセ・カブレラ廃止措置プロジェクトは使用済み燃料プールを選定した。選定した大きな理由の一つは、原子炉格納容器内に使用済み燃料プールがあることが挙げられる。一方、国内のPWR プラントでは、使用済み燃料ピットは原子炉補助建屋内にあることから、移送方法の難しさを考慮して適切に選定する必要があるものの、ホセ・カブレラ発電所廃止措置プロジェクトでの選定のプロセス等は参考となる。 また、前章で述べた管理面からの教訓は、廃止措置計画を適切かつ合理的に履行する上では、重要な教訓が挙げられており、我が国においても留意しておかなければならない教訓である。 5.まとめ - 放射性廃棄物の処分基準は、各国ともに自国の処分場への適合性の観点から定められている。そうしたなかで、スペインの放射性廃棄物処分に関する考え方や廃棄体政策方法は、日本の考え方・方法に類似しており、それゆえ、スペインのPWR プラント(ホセ・カブレラ発電所)で実施されている廃止措置作業には、我が国ではまだ経験の無いPWR プラントの廃止措置の計画策定および実践について学ぶべき点が多くある。 - ホセ・カブレラ発電所廃止措置プロジェクトが、米国電力研究所(EPRI)などの他機関からも成功裡に廃止措置が進んでいると評価されている原点として、次の点が挙げられる。 ・ 発電事業者からの引継期間では、発電事業者とともに入念なサイト特性調査を行うとともに、詳細なデータベースを整理して廃止措置計画を策定したこと。 ・ プラント運転モードから廃止措置モードに移行するにあたって、所員に対する廃止措置に係る教育訓練に取り組んだこと。 ・ 関係者が共通認識・共通理解のもとで解体計画を策定・実行するために、3D モデルなどのIT 技術を活用したこと。 ・ 一般公衆に対しても積極的な情報公開等に取り組んだことにより、良好な廃止措置環境が形成されたこと - ホセ・カブレラ発電所廃止措置プロジェクトからの- 21 -教訓として、ENRESAでは次の5 項目を挙げており、次期プロジェクトへ反映することとしてる。 (1) プロジェクト設計 (2) 規制当局との関係 (3) 契約 (4) 廃棄物管理 (5) プロジェクトのリスク管理 (6) ステークホルダとの関係 - ホセ・カブレラ発電所廃止措置プロジェクトからの教訓は、廃止措置計画を適切かつ合理的に履行する上では、重要な教訓が挙げられており、我が国においても留意しておかなければならない教訓である。 参考文献 [1] 堀川義彦、“軽水炉プラントにおける廃止措置の最近の取り組みについて”、Journal of the RANDEC、Vol.No.38、2008、pp.25-34. [2] 石榑顕吉、堀川義彦、石倉武、 “軽水炉廃止措置実施に向けたロードマップ その1概要”、日本原子力学会「2008 年 秋の大会」予稿集. [3] 石倉武、堀川義彦、“軽水炉廃止措置実施に向けたロードマップ”、原子力eye、Vol.54、No.6、2008、pp.34-39. [4] T. Ishikura, S. Hirusawa, Y. Horikawa, “Variation of Light Water Reactor Decommissioning Strategies in Japan”, ICEM’09, Liverpool, UK,(11-15 October ,2009). [5] INTERNATIONAL ATOMIC ENERGY AGENCY, “Nuclear Power Reactors in the World”, IAEA Reference Data Series, No. 2, 2015 Edition, IAEA, Vienna (2015). [6] INTERNATIONAL ATOMIC ENERGY AGENCY, “Transition from operation to decommissioning of nuclear installations”, IAEA Safety Report Series No. 36, IAEA, Vienna (2004). [7] Per Segerud, Joseph Boucau,“Feedback from Jose Cabrera Plant Decommissioning Project”, WM2014 Conference, Phoenix, Arizona, USA, (March 2 - 6, 2014). [8] Per Segerud, Per Lunden “Experiences from Jose Cabrera Plant Decommissioning Project”,KONTEC2015, Dresden, Germany, (March 25-27, 2015). [9] Manuel Rodriguez Silva, “Identifying And Managing Risks During Decommissioning Of Jose Cabrera NPP”, WM2014 Conference, Phoenix, Arizona, USA, (March 2 - 6, 2014). [10] Electric Power Research Institute, “Enresa Applies EPRI Decommissioning Findings to Achieve On-Budget, On-Schedule Reactor Internals Segmentation” , EPRI Report 3002004955, (January, 2015). - 22 -
“ “海外での廃止措置経験の軽水炉(PWR)への展開 “ “堀川 義彦,Yoshihiko HORIKAWA,片岡 秀郎,Hideo KATAOKA,松枝 啓之,Keiji MATSUEDA