検査技術者の訓練を目的とした バーチャルUT試験システムの試作

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カテゴリ: 第12回
1.はじめに
プラントの保守点検として行われているISI(Inservice Inspection)では、超音波探傷試験(UT)が多く用いられている。一方でUT は検査を行う技術者(試験技術者)の技量に大きく依存することからJIS Z2305 等の公的な資格認定制度がある[1]。しかし、JIS Z2305 による認定は基本的な技量を確認するものであり、実際の対象物や使用する機材、手順書等を含めた、実際の検査能力について確認されたものではない。 これに対して、記録性の向上を目指した検査の自動化やPD 認証制度(Performance Demonstration)が行われており[2]、さらに熟練した試験技術者が従事し、各社で訓練や技量認定を行うなど高い技量の維持がなされている。しかし、近年のプラント稼働状況から、実際のISI を多く経験した試験技術者が他分野に拡散しており、プラント再稼働後に経験豊富な試験技術者が十分な人数で従事できるかは不透明な状況である。 そこで試験技術者の訓練が必要になるが、実技訓練では実際に欠陥を付与した実機模擬試験体が多数必要になる。これらの試験体は非常に高価であり、かつ製作に時間がかかるなどの課題も多い。 それに対して、一部の訓練や試験を仮想的な探傷で代替するアイデアがある。仮想的な探傷の利点は、試験体製作コストの低減だけではなく、非常に稀なケースを体験できることや、実機探傷データを用いた実際の損傷事例の経験、試験データを加工することによる探傷データの多様化などの利点がある。仮想空間を使用した訓練は多方面で既に活用されつつある[3]。 本研究では、従来から提案されているパソコンベースの簡易なシミュレータ[4-5]を発展させ、実際の探傷作業を模擬できるバーチャルUT 試験システムを開発するものである。
2.基礎検討 2.1 対象部と必要機能 基礎検討において以下の観点で対象部位および必要な機能を抽出した。 ・手動探傷のように試験技術者の技量に大きく依存する部位を優先する。 ・実作業で行うことが比較的容易な感度校正等の作業は模擬しない。 ・仮想空間上での作業模擬などは必要最小とし、可能なものは実際の「物」を使用する。 ・訓練等において、探傷作業の良否を指導するフィードバックに必要な情報が得られること。
・実際の作業を模擬する上で重要な点は以下とする。 - 対象部は実際の形状を模擬していること - 探触子を接触させた場所(絶対位置)に応じて探傷波形が表示されること - 探触子の接触状態の影響を反映できること - 探触子の向き(首振り角)の影響も考慮できること - 波形表示はリアルタイム応答であること 特にリアルタイムな応答に関しては、初期のデジタル探傷器が表示の遅れから敬遠されたように、重要な要素であると考えられる。この点においては、一般的なPC の画面表示レート(50~60Hz=16~20ms)や、ヒトが時間遅れを知覚できる最短時間(40~50ms)[6]を参考に50ms 以下に抑えることを目標とした。 さらに探触子の位置、首振り角、接触状態を検知する機構が重要である。タッチパネル方式やCCD カメラによる画像認識等も検討したが、最終的に電磁気を用いた3 次元位置センサーを用いることとした。 2.2 波形データ 上記2.1項の検討で、リアルタイム応答として40~50ms の応答が必要であるとした。超音波探傷の波形を計算によって求める方法は多数あるが、高性能のPC を用いても短時間で計算を行うことは一般的に困難である[7]。このため、本システムでは予め記録された波形、予め計算された探傷波形、実機損傷で採取された実波形などを記録しておき、それを表示することとした。 サンプルとして使用したデータは2 枚の瓦状試験体から採取した。SCC を含む試験体とSCC を含まない試験体に対し、詳細な探傷ピッチと首振り角を設定し、データを採取した。これらのデータを複数回コピーし、合成することで、配管全周分のデータを生成した。この手法を用いることで、限られた試験体の探傷結果をコピーや合成、位置の入れ替えなどで、多くのバリエーションのある探傷データを生成することができる。 2.3 基本仕様 上記の検討から、バーチャルUT 試験システムの基本仕様を設定した。 ・対象部位:配管溶接部 ・主要機能:模擬探触子の状態に応じた波形表示 ・位置精度:検出位置=±1mm以下、角度±2 ゚以下 ・小型接触センサにより接触状態を検知し、非接触時には波形を表示させない ・表示波形にはランダムにノイズを加算する(リアル感) ・探傷者が波形表示感度を調整可能 ・DAC 線等も表示可能 ・波高分解能8bit,12bit,16bit に対応可 ・走査軌跡と首振り角を記録可能とする これらの基本仕様を基に、システム設計を行った。システム構成図をFig.1 に示す。図で示すように、模擬配管の内部に位置センサの親機を配置し、模擬探触子に位置センサの子機をセットする。模擬探触子には接触センサも装備する。試験技術者が模擬配管上で模擬探触子を走査すると、その位置情報、首振り角、接触センサ情報が各々の機器で検知され、USB ポートを通じて制御用PC に伝達される。 制御用PC には、予め記録あるいは計算された波形データが格納されており、探触子の状態に応じて、波形が表示される。PC はマルチモニタ構成とし、探傷者の近くにはサブモニターが配される。サブモニターはタッチパネル方式を用いて、表示感度の調整などの簡単な操作は探傷者が行えるものとした。 Fig.1 System Design of Virtual UT System Master Dummy Pipe Sensor Sub Monitor with touch panel Dummy Probe (Slave sensor) (Pressure sensor) Wave form data Control PC Pressure Sensor I/O 3D Position Detector - 160 - 3.試作 3.1 試作機 上記2 章で設定した仕様に従って、試作機(プロトタイプ)を製作した。試作機は350A 配管に相当する口径に限定した。試作機の外観をFig.2 に示す。 試作機ということで、特に模擬配管などの外観の完成度は省略してあるが、必要な機能については実使用にも耐えられるものとしている。システムを起動し、まずは波形データを取り込む。波形データは汎用性を重視してテキストファイルを元データとし、それを首振り角毎に指定し、独自のバイナリデータに変換する。変換後のファイルは読み込み速度やファイルサイズが軽減される。 以降は、システム起動、3次元位置センサの起動、波形データのロード、必要に応じてDAC データの表示、探傷原点の設定を行い、波形表示が可能となる。 なお、探傷軌跡の記録は制御PC で記録開始、終了を指定する。軌跡はテキストファイル形式で0.1 秒毎に模擬配管上の位置(X,Y)、首振り角、接触有無を記録していく。 3.2 作動試験および評価 試作機について、設定した仕様を満足することが確認された。位置精度に関しては、模擬探触子の計測位置精度が±1.0mm以下、首振り角は±1.5 ゚以下であった。 また走査軌跡を記録する機能も設定どおりに記録できることを確認した(Fig.3)。この機能を用いることで、試験技術者が規定の範囲や走査間隔で正しく走査しているかどうかの確認や指導を行うことができる。 試作機について、UT レベル2 以上の資格を有した技術者数名による評価を実施した。また同時に米国EPRI のPD 認証関係者による評価も行った。その結果は以下の通りである。 ・波形表示の時間的な遅れは知覚できなかった。 ・実際の配管の検査作業が模擬できている。特に配管の下側の探傷など、作業姿勢による部分の実習としては適切である。 Fig.2 Overview of Virtual UT System Proto type Sub Monitor for Trainee (Dummy UT Instrument) Control PC for Trainer/Administrator Main Window Dummy Pipe (Master sensor include) 3D Position system PC Dummy Probe (Slave sensor/ Pressure sensor) Pressure sensor - 161 - ・探傷の難易度は、実際の配管を用いた探傷と同程度と感じる。 このように、試作したバーチャルUT 試験システムは実際の探傷作業を模擬するものとして、十分な機能を有していると考えられる。 -100-80-60-40-2002040650 700 750 800 850 900 950 1000 1050 1100 Fig.3 Sample of Scanning log 4.まとめおよび今後 訓練や実技試験にも使用可能なバーチャルUT 試験システムについて、必要な機能や仕様について検討し、試作機を製作した。試作機は、実際の超音波探傷作業を模擬した作業が可能であり、試験体を用いた探傷訓練等の一部を代替できる可能性があることが示された。 本研究は、今後以下のように進めていく計画である。 ・試作機の成果を基にした、初号機を製作する。初号機は小口径管、大口径管などにも対応可能なものとし、ソフトウエアや外観の完成度も上げたものとする。 ・バーチャルシステムを用いた探傷訓練と実際の配管を用いた探傷訓練で、その訓練成果にどの程度の差があるかを比較検討する。 ・将来的には、探傷訓練の一部をバーチャルシステムで代替させることで、非常に稀なケースの経験や、実機損傷事例の再現、多様なデータでの実習など効率的な訓練を可能とする。また必要に応じて、技量認定試験などのテストにも一部適用する。 これらによって、効率的な試験技術者の技量向上、技量認証等を行い、検査結果の信頼性向上を目指すものである。 参考文献 [1] 日本工業規格、““非破壊試験技術者の資格及び認証““、 JIS Z2305:2013 [2] 日本非破壊検査協会規格、““超音波探傷試験システムの性能実証における技術者の資格及び認証““、NDIS0603:2015 [3] 渡部直人、““バーチャルリアリティ技術による可視化訓練システムの現場適用に関する検討““、2006、電力中央研究所 研究報告書、N05056 [4] 南康雄、““超音波探傷入門(パソコンによる実技演習 DL 版「デジタル超音波探傷器」編、日本非破壊検査協会、2013 [5] 谷村康行、““超音波探傷入門者訓練用シミュレーションソフトの開発““、超音波による非破壊評価シンポジウム講演論文集、1998、Vol.5、pp.1-8 [6] 岡本正吾、昆陽雅司、嵯峨智、田所諭、““皮膚感覚呈示における時間遅れの影響調査と検知限の同定““、2008、第13 回ロボティクスシンポジア 講演論文集、pp.153-158 [7] 林山、山田尚雄、福冨広幸、緒方隆志、““超音波探傷試験の高精度化・高効率化に活用するシミュレーションツールの開発 ―第1 報 有限要素法と解析的手法を組み合わせたハイブリッド法による詳細シミュレーション手法の開発““、2008、電力中央研究所 研究報告書、Q07004. - 162 -
“ “検査技術者の訓練を目的とした バーチャルUT試験システムの試作 “ “東海林 一,Hajime SHOHJI,秀 耕一郎,Koichiro HIDE
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