4 足歩行ロボットによる荷物運搬技術の開発

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カテゴリ: 第12回
1.緒言
2011 年に東日本大震災により被災した福島第一原子力発電所では、放射線被ばくリスクの高い環境下において作業員の被ばくを低減するため,ロボットによる遠隔作業が必須となった。そこで、階段や不整地を歩行して、調査ツールなどの荷物を運搬できる4 足歩行ロボットを開発した。このロボットを用い、2013 年3 月に福島第一原子力発電所2 号機の原子炉建屋地下階のトーラス室内でベント管からの冷却水漏えい調査を実施した[1]。この調査では、ロボットの上部に載せたアームを用いて調査ツールを吊り下ろしたが、この方法では、アームの重量により運搬できる荷物の最大重量が制限される。そこで、新たにアームの代わりにロボットの脚を用いて荷物を下ろす手法を開発し、ロボットの可搬重量までの重さの荷物運搬を可能とした。さらに、ロボットの適用作業を拡大するために、1 台では運搬や荷下ろしできない重量物や長尺物を2 台の連携動作によって行う協調制御手法を開発した。これらの手法の有効性を、ロボット1 台による24kg の荷物の荷下ろし試験と、2 台による2m、48kg の配管の協調運搬・協調荷下ろし試験により確認した。2.4足歩行ロボットの概要 開発した4 足歩行ロボットのうち、ベント管からの冷却水漏えい調査に用いたロボット(type I)をFig.1 に、今回開発したロボット(type II)をFig.2 に、仕様をTable1 に示す。type II では、足元にある障害物に対する衝突回避能力向上のために、各脚の関節数を、3 つから4 つに増やした。ロボットは加速度センサおよびジャイロセンサ、更に歩行時の床反力を計測する力センサを搭載しており、これらのセンサ情報をもとに脚軌道を補正するため、オペレータはロボットの進行方向の指示と周囲との接触の監視に専念でき、オペレータの負荷を軽減できる。
Fig. 2 Toshiba quadruped robot type II Table 1 Specifications of the robots 3.ロボット単体による運搬技術 3.1 歩行原子炉建屋内で運用する遠隔操作型ロボットには、作業を完遂して必ず帰還する信頼性が求められる。歩行ロボットは、階段や不整地のような平坦ではない地形で歩行する際に最も転倒しやすい。複数の4 足歩行ロボットの歩行パターン[2]が研究されているが、階段などの段差がある場所でも安定性が高いクロール歩行を採用した。Fig.3 に示すように、クロール歩行は常に3 脚以上が接地した状態で歩行する。接地している3 脚(以降,支持脚)の位置を結んでつくられる三角形(以降,支持三角形)の中に、重心を床面に投影した点(以降、重心投影点)が収まるように胴体を移動し、その後に残り1 脚(以降, 遊脚)を踏み出す。重心投影点を支持三角形内に収めながら歩行することで、階段や不整地などの転倒リスクが高い場所でも、安定した状態を保つことができる。Fig. 3 Crawl gait 3.2 荷下ろしベント管調査では調査ツール(カメラ付き走行車)と、ツールを下ろすための専用アームをロボットの上部に載せて利用した。今後は4 足歩行ロボットで様々な荷物を目的地まで運搬し、荷下ろしすることを検討している。しかし、荷下ろし用のアームを搭載すると、積載できる荷物の重量がアーム分だけ制限される。そこでFig.4 に示すように、胴体下部を接地して着座させた状態で、前脚2 脚を用いて荷下ろしする機能を開発した。この方法では、荷物の位置変化により、荷物を下ろす方向に転倒する恐れがあるため、転倒方向に後脚を出してロボットを支える姿勢を取らせる。また、4 足歩行ロボットの脚先は、不整地の歩行を考慮した半球形状としており、荷物を把持できないため、荷物側にFig.5 に示す吊り耳を付けて対応することとした。実機(type II) を用いた試験により、24kg の荷物を積載して歩行した後に、着座して荷下ろしできることを確認した。Fig. 4 Unloading motion - 186 - Fig.5 Lifting lug on the load 4.ロボット2台による協調運搬技術 4.1 協調歩行廃炉に向けた作業の一つに、配管などの長尺重量物の運搬・設置作業が想定される。原子炉建屋内は狭隘な箇所も多く、そのような重量物や長尺物を大型重機で運搬・設置するのは困難であり、作業員が行なうには重労働である。そこで、重量物や長尺物をFig.6 に示すように2 台のロボットの上面に載せて運搬する協調歩行技術を開発した。荷物を落下させずに運搬し続けるためには、2 台間の距離を一定に保ちながら歩行する必要がある。しかし、段差を乗り越える際などには、2 台のロボットの動きが異なり2 台間距離が変化する。そこで、ロボット間で通信を行ない、互いの姿勢や動作状況を把握することで2 台間距離を保つ協調システムを構築した。2 台間距離の変動要因は、胴体移動のタイミングや、各ロボットの機構構成や重心位置の違いから発生する制御誤差、胴体の姿勢(水平度)の違いが挙げられる。そこで、2 台間距離を保つための制御として、クロール歩行における脚や胴体を動かすタイミングの同期、胴体移動量の同一、胴体姿勢を水平に保つための胴体姿勢角補正を追加した。水平方向の移動は、2 台の支持三角形と重心位置から、同じ移動量で、双方が安定する位置を目標位置とした。垂直方向の移動は、2 台のロボット高さの平均値をもとにして移動量を同一にした。このシステムにより、ロボットが自動で2 台間距離を保つため、オペレータは2 台のうちどちらか1 台を操作すればよい。確認試験はtype I とtype II を1 台ずつ用いて行なった。重さ48kg、2m の100A 配管を積載し、原子炉建屋内の運搬経路上に想定される100mm の段差移動の確認試験を実施した。その結果、2 台間距離の変動を24mm 以下に抑え、荷物を落下させることなく歩行できることを確認した(Fig.7)。Fig.6 Concept of cooperative carrying Fig.7 Cooperative carrying - 187 - 4.2 協調荷下ろし 協調歩行で目的地まで運搬した後は、ロボット1 台による荷下ろし同様に脚を用いて2 台で協調荷下ろしを行なう(Fig.8)。Fig.9 はFig.8 を上面から見た概略図であり、(a)のように把持する脚先を一直線上に配置すると、荷物が回転モーメントの影響を受けやすくなり落下する可能性がある。そこで、(b)のように脚の配置を四角形にすることで、回転モーメントの発生を抑えた。また、荷下ろしの動作タイミングを同期することで、2 台の脚先の相対位置の変動を防いだ。上記の対策を荷下ろし動作に反映し、type I とtype II を用いて動作試験を行なったところ、Fig.10 に示すように荷物を落とすことなく目標位置まで下ろせることを確認した。5.結言 作業員の被ばく低減を目的として、運搬作業の代替のため、荷物を積載した際の歩行と荷物の荷下ろし動作を実現した。ロボット1 台では、24kg の荷物を積載して歩行し、着座して荷下ろしできることを確認した。また、ロボット2 台(type I とtype II)による協調歩行においては、重さ48kg の配管を積載した状態で、100mm の段差を歩行できること、配管を協調荷下ろしできることを確認した。今後は、福島第一原子力発電所の廃炉作業に適用することで貢献していく。参考文献 [1] 露木陽、“4 足歩行ロボットの開発と現場適用”、日本機械学会誌、Vol.117、No.1151、2014、pp.656-657. [2] 古荘純次、“歩行ロボットの研究展開”、日本ロボット学会誌、Vol.11、No.3、1993、pp.306-313. Fig.8 Concept of Cooperative unloading (a) Case I (b) Case II Fig.9 Positions of leg tips (Top view of Fig.8) Fig.10 Cooperative unloading - 188 -
“ “4 足歩行ロボットによる荷物運搬技術の開発 “ “福島 武人,Takehito FUKUSHIMA,松崎 謙司,Kenji MATSUZAKI,谷 祐輔,Yusuke MITSUYA,中村 紀仁,Norihito NAKAMURA
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