福島復興に向けた遠隔技術への取り組み
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カテゴリ: 第12回
1.はじめに
福島第一原子力発電所の復興作業は,現場情報の収集結果をその後の作業計画等へ反映しながらの対応が進められる。また,災害現場においては,高い放射線環境となる等,情報収集や建屋内での作業に対して遠隔操作型ロボットの適用を求められる状況にある。 このような災害現場でのニーズに対し,日立グループでは,小型双腕重機型ロボット「ASTACO-SoRa」等を開発し,現場調査からガレキ撤去,環境改善へと災害現場復興に向けた取り組みを進めている。[1] 本稿では,ASTACO-SoRa を中心に日立グループの取り組みについて紹介する。 2.小型双腕重機型ロボットの開発 災害現場でのコンクリート片等のガレキ撤去に対する遠隔操作ロボットの適用ニーズに対し,日立グループでは,原子力災害対応用小型双腕重機型ロボット「ASTACO-SoRa」を開発 [2] し適用を進めている。 (1)ASTACO-SoRa の概要 開発したASTACO-SoRa は,原子炉建屋内でのコンクリート片等のガレキ撤去,機器撤去の作業への対応を想定して設計されていることから,本体の小型化,2本のアームによる広汎な作業対応,遠隔無線操作による被ばく低減をコンセプトとして開発した。本体は,幅980mm のコンパクトなボディーに2本のアームを搭載することにより,建屋内での自由度の高い作業を可能とした。また, 2本のアームは高さ約2.5m まで到達でき,アーム1本当たり150kg,両アームで合計300kg の重量を持ち上げることが出来る。 更に,アーム先端のツールを遠隔操作で交換可能とすることで,高い放射線環境下でも,より広汎な作業に対応可能とした。また,遠隔操作においては,運転操作員をサポートする機能を充実させ,高い操作性を実現した。 (2)ASTACO-SoRa の特徴 ①先端ツールが交換可能 ASTACO-SoRa の2本のアーム先端には,広汎な作業に対応するため,油圧駆動によるつかみ具,切断具,回転具の装着を可能としている。 各ツールは,遠隔操作による交換が可能であり,現場作業時の被ばく低減と状況に応じたフレキシブルな対応が可能となっている。
2本のアームを搭載すること,かつ,それぞれのアーム先端に異なるツールを装着することを可能としたことで,現場でのガレキ撤去等の作業において,1本のアームでつかみ,他方のアームで切断作業を行う等,建屋内でのガレキ撤去,解体作業にも丁寧な対応を可能とした。 Fig.1 にASTACO-SoRa の2本のアームを活用し、一方の腕でケーブルを掴んで持ち上げ、他方の腕で切断している作業状況を示す。 Fig1. Small Double-arm, Heavy-duty Robot Situation of work by Double-arm ②現場環境測定に対応 本体には複数のカメラの他に放射線線量計,温度/湿度計,酸素/水素濃度計,及び,赤外線カメラを搭載している。これらのセンサ情報は,遠隔操作盤へ常時表示され,本体周辺の建屋内環境をモニタリング可能とした。 ③遠隔操作のサポート機能 ASTACO-SoRa の運転操作は,遠隔操作盤から無線にて行う。遠隔操作盤は,ロボットに搭載した6台のカメラ映像を切り替えながら,同時に5つのモニタに表示可能である。また,6台のカメラには,それぞれLED照明を搭載しており,暗闇の原子炉建屋内でのガレキ撤去作業等へ対応可能とした。 (3)ASTACO-SoRa の現地適用 ASTACO-SoRa の開発により福島第一原子力発電所の原子炉建屋内における放射線環境でもコンクリート片等のガレキ除去を遠隔操作にて行うことが可能となった。 実際の原子炉建屋内でのガレキ除去作業状況をFig2. に示す。原子炉建屋内の高放射線環境でのガレキ除去を遠隔操作で行うことが可能となり,作業員の安全確保, 被ばく低減に貢献した。 (写真は東京電力ホームページから引用) Fig2. Situation of rubble removal task by ASTACO-SoRa 3.その他の遠隔技術への取り組み 日立グループでは,本稿に紹介したASTACO-SoRa,調査用ロボットシステム,通信インフラ技術,ガンマカメラ, 重機型ロボット,遠隔除染装置の開発を行い,建屋内調査からガレキ撤去,除染作業といった環境改善作業への対応を進めてきた。また,格納容器漏えい箇所調査,格納容器内部調査への対応も進め,燃料デブリ取出しに向けた対応を継続している。 今後も,福島第一原子力発電所への遠隔技術の適用による建屋内の環境改善を進めるとともに,その後の,燃料デブリ取出しに向けた対応を継続し,作業に適用可能な遠隔装置類の充実を図りたいと考える。 4.謝辞 双腕重機型ロボット「ASTACO-SoRa」本体の開発にあたっては,2006 年~2010 年度に実施されたNEDO 委託事業「戦略的先端ロボット要素技術開発プロジェクト」により培われた技術的なノウハウも活用されている。 参考文献 [1] 木下博文,田山隆一,米谷 豊,浅野 隆,可児祐子, “福島復興に向けた新技術の開発”,日立評論,Vol.95, 2013,12,pp.41-46. [2] 株式会社日立エンジニアリング・アンド・サービス, ニュースリリース,“原子力災害対応用小型双腕重機型ロボット「ASTACO-SoRa」を開発”,2012,12 http://www.hitachi-power-solutions.com/news/data/news2 0121207_ASTACO-Sora.pdf - 190 -
“ “福島復興に向けた遠隔技術への取り組み “ “米谷 豊,Yutaka KOMETANI,大谷 健一,Kenichi OTANI,木下 博文,Hirofumi KINOSHITA
福島第一原子力発電所の復興作業は,現場情報の収集結果をその後の作業計画等へ反映しながらの対応が進められる。また,災害現場においては,高い放射線環境となる等,情報収集や建屋内での作業に対して遠隔操作型ロボットの適用を求められる状況にある。 このような災害現場でのニーズに対し,日立グループでは,小型双腕重機型ロボット「ASTACO-SoRa」等を開発し,現場調査からガレキ撤去,環境改善へと災害現場復興に向けた取り組みを進めている。[1] 本稿では,ASTACO-SoRa を中心に日立グループの取り組みについて紹介する。 2.小型双腕重機型ロボットの開発 災害現場でのコンクリート片等のガレキ撤去に対する遠隔操作ロボットの適用ニーズに対し,日立グループでは,原子力災害対応用小型双腕重機型ロボット「ASTACO-SoRa」を開発 [2] し適用を進めている。 (1)ASTACO-SoRa の概要 開発したASTACO-SoRa は,原子炉建屋内でのコンクリート片等のガレキ撤去,機器撤去の作業への対応を想定して設計されていることから,本体の小型化,2本のアームによる広汎な作業対応,遠隔無線操作による被ばく低減をコンセプトとして開発した。本体は,幅980mm のコンパクトなボディーに2本のアームを搭載することにより,建屋内での自由度の高い作業を可能とした。また, 2本のアームは高さ約2.5m まで到達でき,アーム1本当たり150kg,両アームで合計300kg の重量を持ち上げることが出来る。 更に,アーム先端のツールを遠隔操作で交換可能とすることで,高い放射線環境下でも,より広汎な作業に対応可能とした。また,遠隔操作においては,運転操作員をサポートする機能を充実させ,高い操作性を実現した。 (2)ASTACO-SoRa の特徴 ①先端ツールが交換可能 ASTACO-SoRa の2本のアーム先端には,広汎な作業に対応するため,油圧駆動によるつかみ具,切断具,回転具の装着を可能としている。 各ツールは,遠隔操作による交換が可能であり,現場作業時の被ばく低減と状況に応じたフレキシブルな対応が可能となっている。
2本のアームを搭載すること,かつ,それぞれのアーム先端に異なるツールを装着することを可能としたことで,現場でのガレキ撤去等の作業において,1本のアームでつかみ,他方のアームで切断作業を行う等,建屋内でのガレキ撤去,解体作業にも丁寧な対応を可能とした。 Fig.1 にASTACO-SoRa の2本のアームを活用し、一方の腕でケーブルを掴んで持ち上げ、他方の腕で切断している作業状況を示す。 Fig1. Small Double-arm, Heavy-duty Robot Situation of work by Double-arm ②現場環境測定に対応 本体には複数のカメラの他に放射線線量計,温度/湿度計,酸素/水素濃度計,及び,赤外線カメラを搭載している。これらのセンサ情報は,遠隔操作盤へ常時表示され,本体周辺の建屋内環境をモニタリング可能とした。 ③遠隔操作のサポート機能 ASTACO-SoRa の運転操作は,遠隔操作盤から無線にて行う。遠隔操作盤は,ロボットに搭載した6台のカメラ映像を切り替えながら,同時に5つのモニタに表示可能である。また,6台のカメラには,それぞれLED照明を搭載しており,暗闇の原子炉建屋内でのガレキ撤去作業等へ対応可能とした。 (3)ASTACO-SoRa の現地適用 ASTACO-SoRa の開発により福島第一原子力発電所の原子炉建屋内における放射線環境でもコンクリート片等のガレキ除去を遠隔操作にて行うことが可能となった。 実際の原子炉建屋内でのガレキ除去作業状況をFig2. に示す。原子炉建屋内の高放射線環境でのガレキ除去を遠隔操作で行うことが可能となり,作業員の安全確保, 被ばく低減に貢献した。 (写真は東京電力ホームページから引用) Fig2. Situation of rubble removal task by ASTACO-SoRa 3.その他の遠隔技術への取り組み 日立グループでは,本稿に紹介したASTACO-SoRa,調査用ロボットシステム,通信インフラ技術,ガンマカメラ, 重機型ロボット,遠隔除染装置の開発を行い,建屋内調査からガレキ撤去,除染作業といった環境改善作業への対応を進めてきた。また,格納容器漏えい箇所調査,格納容器内部調査への対応も進め,燃料デブリ取出しに向けた対応を継続している。 今後も,福島第一原子力発電所への遠隔技術の適用による建屋内の環境改善を進めるとともに,その後の,燃料デブリ取出しに向けた対応を継続し,作業に適用可能な遠隔装置類の充実を図りたいと考える。 4.謝辞 双腕重機型ロボット「ASTACO-SoRa」本体の開発にあたっては,2006 年~2010 年度に実施されたNEDO 委託事業「戦略的先端ロボット要素技術開発プロジェクト」により培われた技術的なノウハウも活用されている。 参考文献 [1] 木下博文,田山隆一,米谷 豊,浅野 隆,可児祐子, “福島復興に向けた新技術の開発”,日立評論,Vol.95, 2013,12,pp.41-46. [2] 株式会社日立エンジニアリング・アンド・サービス, ニュースリリース,“原子力災害対応用小型双腕重機型ロボット「ASTACO-SoRa」を開発”,2012,12 http://www.hitachi-power-solutions.com/news/data/news2 0121207_ASTACO-Sora.pdf - 190 -
“ “福島復興に向けた遠隔技術への取り組み “ “米谷 豊,Yutaka KOMETANI,大谷 健一,Kenichi OTANI,木下 博文,Hirofumi KINOSHITA