低所用高圧水ジェット洗浄装置の開発
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カテゴリ: 第12回
1.背景・目的
福島第一原子力発電所(1F)の廃炉に向け、1~3 号機の原子炉建屋(R/B)内では様々な作業が計画、実施されている。一方、現在1F-1~3 号機のR/B 内は、高線量率環境となっており、作業員が立ち入ることのできない箇所が存在し、また立ち入り可能な箇所においても長時間の作業が難しい状況である。そのため、R/B 内の線量率低減が必要である。線量率低減作業としては、除染・遮へい・線源となっている機器の撤去が挙げられ、現在、遠隔操作での除染技術の開発を行っている。除染技術開発に際しては、R/B 1 階の床面および床上2mまでの壁面を対象とした「低所」、床上2m 以上の壁面および構造物を対象とした「高所」、R/B 2、3 階の床面および床上2m までの壁面を対象とした「上部階」の3 区分で開発を行っている。様々な除染技術のうち、日立GE は高圧水を用いた除染技術の開発を担当している。以上のような背景から、本研究においては、1F-1~3 号機R/B 1 階の低所での除染を対象とした高圧水による遠隔除染装置の設計・製作および現地(1F-1 R/B 1 階) での実証試験を行った。2.低所
用高圧水ジェット洗浄装置の開発2.1 除染対象 福島第一原子力発電所1~3 号機の現地調査の結果[1]から、原子炉建屋内の壁・天井面(コンクリート面)の汚染状態として次の3 つの形態を想定した。水素爆発により建屋が破壊されることで発生したコンクリート粉がコンクリート面に降り積もった状態を「遊離性汚染」、コンクリート面が汚染蒸気や凝縮水に接触しその後乾燥した状態を「固着性汚染」、コンクリート面に滞留水が接触・浸漬しその後乾燥した(内部への浸透)状態を「浸透汚染」とした。高圧水を用いた除染では、高圧水の圧力(25 ~200MPa)を調整することで、3 つの汚染形態に対応する。2.2 低所用高圧水ジェット洗浄装置の設計・製作 平成24 年度に低所用高圧水ジェット洗浄装置の設計・製作を行った。図1 に装置の外観を示す(ただし、後述する改造を行った後の写真である)。装置本体は、油圧で動作するクローラおよびアームを有し、アームの先端には除染のために25~200MPa の高圧水を噴射する高圧水ノズルと、噴射した水を汚染物と共に回収する回収口を有する除染ヘッドが取付けられている。高圧水ノズルおよび回収口は、除染ヘッドのレールに沿って、左右方向に往復運動する。また、装置本体後部には、水の供給・連絡先:大野諭、〒319-122 茨城県日立市大みか町五丁目2 番2 号、日立GE ニュークリア・エナジー株式会社 日立事業所、E-mail:satoshi.ono.ut@hitachi.com - 195 -回収のためのホース類と、給電・通信のためのケーブル類を束ねたケーブル・ホースが接続されている。ケーブル・ホースの他端にはR/B 外に配置される高圧水ポンプ、制御盤、汚染水の回収タンク等が接続されている。そして、除染作業時には、ケーブル・ホースを牽引しながら装置本体が移動する。そこで、ケーブル・ホースと建屋内の角部との接触抵抗低減のための装置であるコーナーローラを除染作業の前に別の遠隔操作ロボットを用いて設置することで除染作業を行う。設計・製作した低所用高圧水ジェット洗浄装置の遠隔操作性の確認のため、平成25 年1~2 月に福島第二原子力発電所4 号機R/B 1 階にて確認試験を実施した。試験の結果、良好な遠隔操作性を得たものの、現場での作業員の被ばく低減のためにケーブル・ホースの展開・回収を遠隔化する課題が残った。そこで、平成25 年度に、ケーブル・ホース巻取りリール(図2)を開発することでケーブル・ホースの展開・回収を遠隔で行えるようにした。同時に、装置の作業性の向上(カメラ配置の見直し等) の改造を行った。3.現地実証試験 3.1 試験概要 改造後の低所用高圧水ジェット洗浄装置を用いて、1F -1 R/B 1 階において除染実証試験を行った。除染対象はエポキシ塗装された床の2 箇所とし、これらのうち1 箇所は過去に吸引除染試験を実施した場所(B エリア)とし、もう1 箇所は除染されていない場所(E エリア)とした。試験では、まず低圧で床表面のジェット洗浄を行い、次に高圧で床の表面のはつりを行った。床面のベータ線量の計測によって、除染前、ジェット洗浄後、はつり後の3 回測定し、その結果をもとに床面の表面汚染密度を評価した。3.2 試験結果 試験結果を表1 に示す。B エリアでは除染前の表面汚染密度が検出限界以下であったため、除染効果が確認できなかった。E エリアでは、ジェット洗浄により、検出限界以下まで表面汚染密度を低下させ、除染前との比較では8%以下となった。なお、両エリアとも、はつりによる除染効果は観測できなかったが、いずれも5mm厚程度のエポキシ塗装を剥離させ、コンクリート面が露出した。4.結言 1F-1~3R/B 1 階低所の遠隔除染を目的とし、低所用高圧水ジェット洗浄装置を開発した。開発した装置において実証試験を実施し、その結果、未除染の床において、ジェット洗浄により表面汚染密度を8%以下に低下させる除染効果を得た。なお、本研究開発は以下の経済産業省の補助事業の成果を含むものである。・平成23 年度発電用原子炉等事故対応関連技術開発費補助金・平成25 年度発電用原子炉等廃炉・安全技術開発費補助金(原子炉建屋内の遠隔除染技術の開発(原子炉建屋1階床面・壁面低所)) ・平成25 年度補正予算「廃炉・汚染水対策事業費補助金(原子炉建屋内の遠隔除染技術の開発)」図1 低所用高圧水ジェット洗浄装置(改造後) 図2 ケーブル・ホース巻取りリール表1 除染試験結果 参考文献[1] 荒井他、“「建屋内の遠隔除染技術の開発」基礎データ取得結果(2)線量率及び線源調査結果”、日本原子力学会2013 年春の年会予稿集、D33 高圧水ノズル・回収口除染ヘッドクローラ照明ケーブル・ホースカメラ アーム 除染前高圧水ジェット洗浄後高圧水はつり後B ND (4.05×103) ND (3.55×103) ND (3.54×103) E 4.10×104 ND (3.27×103) ND (2.94×103)“ “低所用高圧水ジェット洗浄装置の開発 “ “上野 陽平,Yohei UENO,吉久保 富士夫,Fujio YOSHIKUBO
福島第一原子力発電所(1F)の廃炉に向け、1~3 号機の原子炉建屋(R/B)内では様々な作業が計画、実施されている。一方、現在1F-1~3 号機のR/B 内は、高線量率環境となっており、作業員が立ち入ることのできない箇所が存在し、また立ち入り可能な箇所においても長時間の作業が難しい状況である。そのため、R/B 内の線量率低減が必要である。線量率低減作業としては、除染・遮へい・線源となっている機器の撤去が挙げられ、現在、遠隔操作での除染技術の開発を行っている。除染技術開発に際しては、R/B 1 階の床面および床上2mまでの壁面を対象とした「低所」、床上2m 以上の壁面および構造物を対象とした「高所」、R/B 2、3 階の床面および床上2m までの壁面を対象とした「上部階」の3 区分で開発を行っている。様々な除染技術のうち、日立GE は高圧水を用いた除染技術の開発を担当している。以上のような背景から、本研究においては、1F-1~3 号機R/B 1 階の低所での除染を対象とした高圧水による遠隔除染装置の設計・製作および現地(1F-1 R/B 1 階) での実証試験を行った。2.低所
用高圧水ジェット洗浄装置の開発2.1 除染対象 福島第一原子力発電所1~3 号機の現地調査の結果[1]から、原子炉建屋内の壁・天井面(コンクリート面)の汚染状態として次の3 つの形態を想定した。水素爆発により建屋が破壊されることで発生したコンクリート粉がコンクリート面に降り積もった状態を「遊離性汚染」、コンクリート面が汚染蒸気や凝縮水に接触しその後乾燥した状態を「固着性汚染」、コンクリート面に滞留水が接触・浸漬しその後乾燥した(内部への浸透)状態を「浸透汚染」とした。高圧水を用いた除染では、高圧水の圧力(25 ~200MPa)を調整することで、3 つの汚染形態に対応する。2.2 低所用高圧水ジェット洗浄装置の設計・製作 平成24 年度に低所用高圧水ジェット洗浄装置の設計・製作を行った。図1 に装置の外観を示す(ただし、後述する改造を行った後の写真である)。装置本体は、油圧で動作するクローラおよびアームを有し、アームの先端には除染のために25~200MPa の高圧水を噴射する高圧水ノズルと、噴射した水を汚染物と共に回収する回収口を有する除染ヘッドが取付けられている。高圧水ノズルおよび回収口は、除染ヘッドのレールに沿って、左右方向に往復運動する。また、装置本体後部には、水の供給・連絡先:大野諭、〒319-122 茨城県日立市大みか町五丁目2 番2 号、日立GE ニュークリア・エナジー株式会社 日立事業所、E-mail:satoshi.ono.ut@hitachi.com - 195 -回収のためのホース類と、給電・通信のためのケーブル類を束ねたケーブル・ホースが接続されている。ケーブル・ホースの他端にはR/B 外に配置される高圧水ポンプ、制御盤、汚染水の回収タンク等が接続されている。そして、除染作業時には、ケーブル・ホースを牽引しながら装置本体が移動する。そこで、ケーブル・ホースと建屋内の角部との接触抵抗低減のための装置であるコーナーローラを除染作業の前に別の遠隔操作ロボットを用いて設置することで除染作業を行う。設計・製作した低所用高圧水ジェット洗浄装置の遠隔操作性の確認のため、平成25 年1~2 月に福島第二原子力発電所4 号機R/B 1 階にて確認試験を実施した。試験の結果、良好な遠隔操作性を得たものの、現場での作業員の被ばく低減のためにケーブル・ホースの展開・回収を遠隔化する課題が残った。そこで、平成25 年度に、ケーブル・ホース巻取りリール(図2)を開発することでケーブル・ホースの展開・回収を遠隔で行えるようにした。同時に、装置の作業性の向上(カメラ配置の見直し等) の改造を行った。3.現地実証試験 3.1 試験概要 改造後の低所用高圧水ジェット洗浄装置を用いて、1F -1 R/B 1 階において除染実証試験を行った。除染対象はエポキシ塗装された床の2 箇所とし、これらのうち1 箇所は過去に吸引除染試験を実施した場所(B エリア)とし、もう1 箇所は除染されていない場所(E エリア)とした。試験では、まず低圧で床表面のジェット洗浄を行い、次に高圧で床の表面のはつりを行った。床面のベータ線量の計測によって、除染前、ジェット洗浄後、はつり後の3 回測定し、その結果をもとに床面の表面汚染密度を評価した。3.2 試験結果 試験結果を表1 に示す。B エリアでは除染前の表面汚染密度が検出限界以下であったため、除染効果が確認できなかった。E エリアでは、ジェット洗浄により、検出限界以下まで表面汚染密度を低下させ、除染前との比較では8%以下となった。なお、両エリアとも、はつりによる除染効果は観測できなかったが、いずれも5mm厚程度のエポキシ塗装を剥離させ、コンクリート面が露出した。4.結言 1F-1~3R/B 1 階低所の遠隔除染を目的とし、低所用高圧水ジェット洗浄装置を開発した。開発した装置において実証試験を実施し、その結果、未除染の床において、ジェット洗浄により表面汚染密度を8%以下に低下させる除染効果を得た。なお、本研究開発は以下の経済産業省の補助事業の成果を含むものである。・平成23 年度発電用原子炉等事故対応関連技術開発費補助金・平成25 年度発電用原子炉等廃炉・安全技術開発費補助金(原子炉建屋内の遠隔除染技術の開発(原子炉建屋1階床面・壁面低所)) ・平成25 年度補正予算「廃炉・汚染水対策事業費補助金(原子炉建屋内の遠隔除染技術の開発)」図1 低所用高圧水ジェット洗浄装置(改造後) 図2 ケーブル・ホース巻取りリール表1 除染試験結果 参考文献[1] 荒井他、“「建屋内の遠隔除染技術の開発」基礎データ取得結果(2)線量率及び線源調査結果”、日本原子力学会2013 年春の年会予稿集、D33 高圧水ノズル・回収口除染ヘッドクローラ照明ケーブル・ホースカメラ アーム 除染前高圧水ジェット洗浄後高圧水はつり後B ND (4.05×103) ND (3.55×103) ND (3.54×103) E 4.10×104 ND (3.27×103) ND (2.94×103)“ “低所用高圧水ジェット洗浄装置の開発 “ “上野 陽平,Yohei UENO,吉久保 富士夫,Fujio YOSHIKUBO