福島第一原子力発電所の汚染水対策の概要
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カテゴリ: 第12回
1.はじめに
福島第一原子力発電所(以下「福島第一」)においては, 現在も1 日約300 m3の汚染水が発生している.この汚染水は,2011 年3 月11 日の事故により溶け出した燃料を冷却した水と地下水が建屋の地下で混ざることで発生している. 汚染水対策は,三つの基本方針「汚染源を取り除く」, 「汚染源に水を近づけない」,「汚染水を漏らさない」に基づき,予防的,重層的に実施しており,2015年5月の段階で約630,000 m3の汚染水(処理後のものを含む)をタンクに貯蔵している. 2.汚染水対策の現状 2.1 汚染源を取り除く対策 汚染源を取り除く主な対策は,汚染水が万一漏えいした場合のリスクを低減することを目的に実施する. RO 濃縮塩水を浄化する設備は,汚染水に含まれる62 核種(トリチウムを除く)を浄化する機能を有する3 種類の多核種除去設備,およびCs 除去後の汚染水に多く含まれ,内部被ばくにより人体への影響も懸念されるSr を低減する4 種類の除去設備で構成される. 2015 年5 月までに,多核種除去設備が約253,000 m3, 増設多核種除去設備が約136,000 m3,高性能多核種除去設備が約58,000 m3の汚染水を処理している. また,Sr を低減する4 種類の除去設備が約176,000m3 の汚染水を処理したことにより,漏えい時にリスクの高い汚染水処理を完了させることができた.4 設備による処理水については,さらなるリスク低減の観点から多核種除去設備により再度浄化する計画である.これまでの汚染水の処理状況をFig.1 に示す. Fig.1 汚染水浄化設備による汚染水処理量の推移 2.2 汚染源に水を近づけない対策 汚染源に水を近づけない対策は,建屋への地下水流入を抑制することを目的に実施するものである. 地下水バイパスは,建屋よりも上流に設置した12 箇所の揚水井から地下水を汲み上げ,海洋に排水する.2015 年6 月11 日までに約107,818 m3の地下水を汲み上げ,水質が運用目標を満足していることを東京電力及び第三者機関で確認した上で排水している.地下水バイパスの効果としては,建屋周辺の地下水の水位から,汲み上げ開
4,817 5,195 3,737 876112,40811,168 9,367 9,250 10,233194791214014727318281999/08/281983/12/084731832993354602041/11/12330264252135132005/05/0446567563851969/07/200:00:001954/10/0340000600008000010000012000002173/10/142000003000002995/02/27500000600000700000汚染水浄化設備処理量(月間)[.] 貯蔵量[.] Sr処理量汚染水浄化設備処理量累積処理水貯蔵量汚染水貯蔵量- 201 -始前と比較して約10 cm~20 cm低下していることを確認しており,建屋への地下水流入量が,高温焼却炉建屋の止水対策等とあわせて,約90 m3/d 減少していると評価している. サブドレンは,建屋に近い場所で地下水を汲み上げることから,地下水バイパスに比べてより高い建屋内への流入抑制効果が期待される.汲み上げた地下水は,専用の設備により放射性物質濃度を1/1,000~1/10,000程度まで低下させる. 陸側遮水壁は,汚染水を貯留している建屋周りに凍土による遮水壁を設置することによって,建屋内への地下水流入による汚染水の増加を抑制するものである.凍土の遮水壁は,土中に埋め込まれた凍結管により周囲の温度を下げ,土を凍結させることで造成する.2015年5月26 日時点で,全削孔本数1,551本中,1,305本の凍結管削孔, 1,100本の凍結管設置が完了している.なお,設置工事は, 地下水の上流である山側が先行しており,約99%の進捗率である. また,冷却材(塩化カルシウム水溶液)循環設備の全体システムの稼働状況や地下水流況の影響等を確認する目的で,2015 年4 月30 日より試験凍結を18 箇所(凍結管58 本)で実施している.5 月時点で冷却材送り温度は-30℃付近で安定しており,地中温度は低下傾向が確認されている.一例として,Fig.2 に凍結管から約1 m の位置にある測温管の試験凍結開始後からの温度推移ならびに凍結管に着氷している状況を示す. Fig.2 凍土式遮水壁試験凍結の状況 2.3 汚染水を漏らさない対策 汚染水を漏らさない対策は,増加する汚染水の敷地外への流出を防止し,安全に保管することを目的に実施するものである. 護岸エリアは,地下水に汚染が確認されている.そのため,汚染が確認されたエリアの周囲に水ガラス系の薬液を地盤の隙間に注入することによる地盤改良を実施し, 透水性を1/100 程度にしている. また,護岸に沿って遮水壁を設置している.現時点で4 号機取水口の部分を除き設置工事が完了している. Fig.3 は,2015 年5 月21 日時点のタンク設置状況を示す.タンクは,汚染水の受入容量が不足しないよう,計画的に建設している.事故直後は,福島第一の環境が悪かったこともあり,製作が比較的容易で短期で設置可能な鋼製円筒型タンク(フランジ結合)が主流であったが, 2013 年8 月以降は,信頼性向上を図り,増設(発注)分は全て鋼製円筒型タンク(溶接結合)としている.これまで建設されたタンクは約950,000 m3 で,そのうち約7 割が溶接型タンクである.また,信頼性向上の観点から, 溶接型タンクへのリプレイスを進めると共に,降雨時のタンク堰からの溢水対策として雨水抑制対策(雨樋,堰カバー等)を進めている. Fig.3 タンク設置状況 3.汚染水対策の今後 多核種除去設備等で処理した水については,トリチウム分離技術の検証など,2016 年度上半期までに,その長期的取扱いの決定に向けた準備を開始する. 陸側遮水壁や敷地舗装等の効果による地下水の水位低下に合わせ2015 年度内に建屋内の水位引下げを開始し, 建屋内滞留水と地下水の水位差を維持する等,建屋内滞留水を外部に漏えいさせないための対策を講じながら, 地下水流入抑制を図っていく. 循環注水を行っている1~3 号機については,タービン建屋等を切り離した循環注水システムを構築した上で, 原子炉建屋の水位低下等の対策により,原子炉建屋から他の建屋へ滞留水が流出しない状況を構築する.原子炉建屋以外の建屋内滞留水については可能な限り浄化する. このような取り組みを通じ,2018 年度内に建屋内滞留水中の放射性物質の量を半減させ,2020 年内に建屋内の滞留水処理の完了を目指す. 上部透水層 下部透水層 - 202 -
“ “福島第一原子力発電所の汚染水対策の概要 “ “山下 理道,Norimichi YAMASHITA
福島第一原子力発電所(以下「福島第一」)においては, 現在も1 日約300 m3の汚染水が発生している.この汚染水は,2011 年3 月11 日の事故により溶け出した燃料を冷却した水と地下水が建屋の地下で混ざることで発生している. 汚染水対策は,三つの基本方針「汚染源を取り除く」, 「汚染源に水を近づけない」,「汚染水を漏らさない」に基づき,予防的,重層的に実施しており,2015年5月の段階で約630,000 m3の汚染水(処理後のものを含む)をタンクに貯蔵している. 2.汚染水対策の現状 2.1 汚染源を取り除く対策 汚染源を取り除く主な対策は,汚染水が万一漏えいした場合のリスクを低減することを目的に実施する. RO 濃縮塩水を浄化する設備は,汚染水に含まれる62 核種(トリチウムを除く)を浄化する機能を有する3 種類の多核種除去設備,およびCs 除去後の汚染水に多く含まれ,内部被ばくにより人体への影響も懸念されるSr を低減する4 種類の除去設備で構成される. 2015 年5 月までに,多核種除去設備が約253,000 m3, 増設多核種除去設備が約136,000 m3,高性能多核種除去設備が約58,000 m3の汚染水を処理している. また,Sr を低減する4 種類の除去設備が約176,000m3 の汚染水を処理したことにより,漏えい時にリスクの高い汚染水処理を完了させることができた.4 設備による処理水については,さらなるリスク低減の観点から多核種除去設備により再度浄化する計画である.これまでの汚染水の処理状況をFig.1 に示す. Fig.1 汚染水浄化設備による汚染水処理量の推移 2.2 汚染源に水を近づけない対策 汚染源に水を近づけない対策は,建屋への地下水流入を抑制することを目的に実施するものである. 地下水バイパスは,建屋よりも上流に設置した12 箇所の揚水井から地下水を汲み上げ,海洋に排水する.2015 年6 月11 日までに約107,818 m3の地下水を汲み上げ,水質が運用目標を満足していることを東京電力及び第三者機関で確認した上で排水している.地下水バイパスの効果としては,建屋周辺の地下水の水位から,汲み上げ開
4,817 5,195 3,737 876112,40811,168 9,367 9,250 10,233194791214014727318281999/08/281983/12/084731832993354602041/11/12330264252135132005/05/0446567563851969/07/200:00:001954/10/0340000600008000010000012000002173/10/142000003000002995/02/27500000600000700000汚染水浄化設備処理量(月間)[.] 貯蔵量[.] Sr処理量汚染水浄化設備処理量累積処理水貯蔵量汚染水貯蔵量- 201 -始前と比較して約10 cm~20 cm低下していることを確認しており,建屋への地下水流入量が,高温焼却炉建屋の止水対策等とあわせて,約90 m3/d 減少していると評価している. サブドレンは,建屋に近い場所で地下水を汲み上げることから,地下水バイパスに比べてより高い建屋内への流入抑制効果が期待される.汲み上げた地下水は,専用の設備により放射性物質濃度を1/1,000~1/10,000程度まで低下させる. 陸側遮水壁は,汚染水を貯留している建屋周りに凍土による遮水壁を設置することによって,建屋内への地下水流入による汚染水の増加を抑制するものである.凍土の遮水壁は,土中に埋め込まれた凍結管により周囲の温度を下げ,土を凍結させることで造成する.2015年5月26 日時点で,全削孔本数1,551本中,1,305本の凍結管削孔, 1,100本の凍結管設置が完了している.なお,設置工事は, 地下水の上流である山側が先行しており,約99%の進捗率である. また,冷却材(塩化カルシウム水溶液)循環設備の全体システムの稼働状況や地下水流況の影響等を確認する目的で,2015 年4 月30 日より試験凍結を18 箇所(凍結管58 本)で実施している.5 月時点で冷却材送り温度は-30℃付近で安定しており,地中温度は低下傾向が確認されている.一例として,Fig.2 に凍結管から約1 m の位置にある測温管の試験凍結開始後からの温度推移ならびに凍結管に着氷している状況を示す. Fig.2 凍土式遮水壁試験凍結の状況 2.3 汚染水を漏らさない対策 汚染水を漏らさない対策は,増加する汚染水の敷地外への流出を防止し,安全に保管することを目的に実施するものである. 護岸エリアは,地下水に汚染が確認されている.そのため,汚染が確認されたエリアの周囲に水ガラス系の薬液を地盤の隙間に注入することによる地盤改良を実施し, 透水性を1/100 程度にしている. また,護岸に沿って遮水壁を設置している.現時点で4 号機取水口の部分を除き設置工事が完了している. Fig.3 は,2015 年5 月21 日時点のタンク設置状況を示す.タンクは,汚染水の受入容量が不足しないよう,計画的に建設している.事故直後は,福島第一の環境が悪かったこともあり,製作が比較的容易で短期で設置可能な鋼製円筒型タンク(フランジ結合)が主流であったが, 2013 年8 月以降は,信頼性向上を図り,増設(発注)分は全て鋼製円筒型タンク(溶接結合)としている.これまで建設されたタンクは約950,000 m3 で,そのうち約7 割が溶接型タンクである.また,信頼性向上の観点から, 溶接型タンクへのリプレイスを進めると共に,降雨時のタンク堰からの溢水対策として雨水抑制対策(雨樋,堰カバー等)を進めている. Fig.3 タンク設置状況 3.汚染水対策の今後 多核種除去設備等で処理した水については,トリチウム分離技術の検証など,2016 年度上半期までに,その長期的取扱いの決定に向けた準備を開始する. 陸側遮水壁や敷地舗装等の効果による地下水の水位低下に合わせ2015 年度内に建屋内の水位引下げを開始し, 建屋内滞留水と地下水の水位差を維持する等,建屋内滞留水を外部に漏えいさせないための対策を講じながら, 地下水流入抑制を図っていく. 循環注水を行っている1~3 号機については,タービン建屋等を切り離した循環注水システムを構築した上で, 原子炉建屋の水位低下等の対策により,原子炉建屋から他の建屋へ滞留水が流出しない状況を構築する.原子炉建屋以外の建屋内滞留水については可能な限り浄化する. このような取り組みを通じ,2018 年度内に建屋内滞留水中の放射性物質の量を半減させ,2020 年内に建屋内の滞留水処理の完了を目指す. 上部透水層 下部透水層 - 202 -
“ “福島第一原子力発電所の汚染水対策の概要 “ “山下 理道,Norimichi YAMASHITA