原子力発電所へのピグライニング工法の適用検討
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カテゴリ: 第12回
1.緒言
ピグライニング工法とは配管内面ライニング工法の一つで、配管内へピグと呼ばれるボールを設置し、圧縮空気でピグを移動させながらエポキシ樹脂などのライニング材を配管内面に塗布する工法であり、マンションの水道管やガス管等への適用実績がある。原子力プラントでは自社が唯一、配管の海水腐食対策として適用した。 ピグライニング工法は従来の原子力プラントで適用しているライニング工法と比較して、①短時間、現地での施工が可能、②既設配管、埋設配管に直接ライニングが可能、③新設の場合、スプール数を削減できる、④コスト削減効果が高いなどの利点を有することから、原子力プラントへの適用が期待される。しかし、運転中の原子力のプラントへの適用実績が無いこと、及びピグライニング材のメーカ推奨使用温度が常温~40℃の範囲であることから、最高使用温度が常温である系統に使用が限定されると予想される。さらに、放射線環境での耐久性については詳細な知見がない。 本報では、ピグライニング工法の原子力プラントへの適用拡充の可否とその適用範囲を判断するための知見を得るため、ピグライニング材の熱及び放射線に対する耐性や、海水に対する耐久性、金属配管との線膨張率の差に対する健全性を明らかにすることを目的とする。 2.ピグライニング材の試験方法 2.1 ピグライニング工法とピグライニング材仕様 ピグライニング工法は、ライニング作業直前にピグライニング材を調製し配管内に投入する。次にピグを配管内に投入した後、圧縮空気を流し込み、ピグを配管終端部まで移動させて配管内面に塗膜を形成する。その後、室温で10 時間放置して自然硬化させる。塗膜厚みは1mm 程度である。Fig.1 にピグライニングの概要図を示す。 本報ではピグライニング材は、配管更正用エポキシ樹脂ライニング材を使用した。本材は主剤と硬化剤からなり、それぞれ2:1 の体積比率で混合して用いる。 Fig.1 Schematic diagram of pig-lining 2.2 ピグライニング材の塩素分析 ピグライニング材主剤のビスフェノールA エポキシ樹脂は、塩素を含有する1-クロロ-2、3-エポキシプロパンを合成原料として使用する。これが未反応のまま主剤中に残っていると、配管内の冷却水に塩素が溶出する可能性がある。そのため、溶出する塩素イオンの量をイオンクCompressed air Pig Lining materials
2ロマトグラフィー(装置名:Thermo Fisher SCIENTIFIC 製 ICS-5000+型イオンクロマトグラフ)により定量分析を行う。試料は、主剤と硬化剤を2:1 の体積比率で混合して型に流し込み、脱泡処理した後に、表面を整えて常温で2 日間自然乾燥し、50℃、3h の熱処理を施して硬化させたものを使用する。試験片の厚みは配管への塗布厚みと同じ1mm とした。これを重量で約50g(比表面積で約290 cm2)採取し、250cm3の超純水中に25℃で1 週間浸漬させ、溶出した塩素イオンの濃度を測定する。 2.3 ピグライニング材の密着度試験 ピグライニング材の配管内面への密着度を評価するため、密着度試験を行う。密着度試験はJIS K5600「塗料一般試験方法」のクロスカット法に準拠する。配管内面を模擬した鋼板表面にピグライニング材を塗膜厚み200μm で塗布する。これを脱泡処理した後、表面を整えて常温で2 日間自然乾燥させる。これに50℃、3h の熱処理を施して、さらに硬化を促進させる。塗膜面にカッターナイフを用いて、素地に達する6 本の切り傷をつけ25 個の基盤目を作る。基盤目部分に透明テープを強く圧着させ、付着して5 分以内に60°に近い角度で、0.5~1.0 秒で確実に引き剥がし、基盤目の状態を標準図と比較して評価する。 2.4 ピグライニング材の線膨張率試験 ピグライニング材であるエポキシ樹脂の線膨張率は材料の組成によって異なるが、一般に4~8×10―5 /℃で、炭素鋼( 1×10―5 /℃ )よりも大きい。但し、高分子材料では、放射線や熱などによる劣化で、線膨張率が変化する可能性があることから、ピグライニング材の劣化前後の線膨張率を評価する。 試験はJIS K7197「プラスチックの熱機械分析による線膨張率試験方法」に準拠する。測定装置はアルバック理工製 縦型熱膨張計 DL-9500である。試料はピグライニング材の硬化物を使用し、20mm×4mm×4mmの角棒状に加工する。測定雰囲気はAr中で、測定温度範囲は-30℃ ~150℃とし、昇温速度は5℃/minにて実施する。 2.5 ピグライニング材の耐海水性試験 ピグライニング材であるエポキシ樹脂の耐薬品性は材料の組成や充填剤の種類によって異なるが、アルカリ中で加水分解し易い傾向にある。また、高分子材料は、一般に、劣化により吸水率が増加する場合が多い。そこで、ピグライニング材の海水(弱アルカリ性)に対する耐性を熱と放射線の同時印加による劣化試験の前後で比較評価する。 試験はJIS K 7114「プラスチック-液体薬品への浸漬効果を求める試験方法」に準拠する。試料の液浸漬前の質量を測定し、人工海水(八洲薬品製、pH 8.4)中に試験温度25℃で1週間浸漬させる。浸漬後、試料表面の液体をウエスで拭きとり、質量を測定して質量変化率を算出する。試料はピグライニング材の硬化物を使用し、厚みは、配管への塗膜厚みと同じ1mmとする。外観観察により試験片表面にき裂や欠陥等の発生の有無を目視で確認する。 2.6 ピグライニング材の劣化試験による寿命評価 劣化試験は熱劣化試験、放射線劣化試験、熱・放射線同時劣化試験の3 試験を実施する。劣化試験後は引張試験を実施し、破断時伸び率が許容下限値の1%に到達する各劣化試験に対する暴露時間を耐久時間として求める。熱劣化試験ではアレニウスプロットより酸化劣化反応の見掛け上の活性化エネルギーを求める[1]。熱・放射線同時劣化試験ではACA プロジェクト(「原子力プラントのケーブル経年変化評価技術調査研究」)で提案されている等価損傷線量データ重ね合わせ手法を用いて線量率と照射時間を評価する[2~7]。 熱劣化試験と熱・放射線同時劣化試験の試験温度は80℃~150℃の4 条件とする。照射線源は、Co-60 のγ線で、線量率は100Gy/h とする。 2.7 ピグライニング材の引張試験 ピグライニング材の線膨張率が配管金属の線膨張率と異なるため、配管の伸縮にピグライニング材が追従できず、ピグライニング材の破断やき裂が発生する可能性がある。そこで、引張試験でピグライニング材の伸び率を測定し、金属配管の伸びに対する追従性を評価する。引張試験はJIS K7161「プラスチック-引張特性の試験方法」に準拠する。Fig.2 に試験片写真を示す。 Fig.2 The appearance of test specimens 試験片形状は1B 型ダンベル形状とし、ピグライニング材の硬化物を使用する。厚みは、配管への塗膜厚みと同じ1mm とする。なお、引張速度はJIS K7161 に記載の500mm/min では結果のばらつきが大きいことが分かったため、すべて20mm/min の条件に統一する。引張時の温度は25±2℃ とする。 - 208 -32.8 破断時伸び率の許容下限値 引張試験より求めたピグライニング材の破断時伸び率(εf )から配管の伸びに対するピグライニング材の破断時伸び率(εf )の許容下限値を求める。許容下限値の根拠を以下に記す。 まず、使用温度範囲から温度差(ΔT )を求める。最低温度を内部流体が凍結しない温度である-4℃、最高温度を実機温度である66℃とすると、温度差(ΔT )は70℃ になる。これを、線膨張率(α )と材料の初期長さ(L ) と寸法変化量(ΔL )で表すと式(1)が成立する。(ΔL/L ) は伸び率、Δα は式(2)に示すように金属の線膨張率(α1 ) とピグライニング材の線膨張率(α2 )の差で表される。金属の線膨張率(α1 )は炭素鋼の場合、1×10―5 /℃、本ピグライニング材の線膨張率(α2 )はエポキシ樹脂の場合、最大で8×10―5 /℃であることから、Δα は7×10―5 /℃となる。 ΔT =(ΔL/L )×1/Δα (1) Δα= α2-α1 (2) 式(1)と 式(2)より、伸び率ε=(ΔL/L )は以下の式(3)で表される。 ε=ΔT ×(α2-α1 ) (3) 上記の場合、伸び率εは、4.9×10―3(約0.5%)となる。 以上より、本報では、試験のばらつき等を考慮し、安全率を2として、破断時伸び率(εf )の許容下限値を1% に規定する。これより、破断時伸び率が1%よりも低下した時点で寿命と判断し、1%到達時の時間を耐久時間として求める。 3.ピグライニング材の評価結果 3.1 ピグライニング材の塩素分析結果 ピグライニング材の硬化物から水中へ溶出される塩素イオンの量をイオンクロマトグラフィーにより定量分析した。25℃で1週間浸漬した場合、ピグライニング材の硬化物の塩素溶出量は、ピグライニング材の比表面積当りでは3.5×10-5mg/cm2、重量当りでは0.2mg/kgであった。仮に、1週間、口径の小さい25A配管内で水を滞留させた場合の塩素イオン濃度を試算すると、0.06ppmと極少量である。配管腐食は塩素イオン濃度が100ppmを超える場合に影響が現れると考えられていることから、本ピグライニング材の含有塩素の溶出による配管腐食の影響はほとんどないと考えられる。 3.2 密着度試験結果 ピグライニング材の配管鋼材への密着度を評価するため、密着度試験をn=3 で実施した。Fig. 3 はクロスカット法による密着度試験後の外観観察写真である。カットの縁は完全に滑らかで、どの格子の目にもはがれがないことを確認した。本ピグライニング材は配管鋼材への密着性に問題がないと考えられる。 Fig.3 Appearance of the coating layer on the steel plate with the pig-lining resin after the cross cut test 3.3 線膨張率試験結果 ピグライニング材の線膨張率試験を-30℃から150℃ の温度範囲で実施した。Fig. 4 は、-30℃の試料の初期長さ(L )を基準とする熱変化率(ΔL/L )を温度に対してプロットしたグラフである。試料は室温で14 日間放置させたものであり、同じ試料について2 回の繰返し測定を実施した。1 回目の測定では50℃付近で熱変化率の低下が認められた。しかし、2 回目の測定では50℃付近の熱変化率の低下は認められない。1 回目の熱変化率の低下は収縮を意味している。このような熱変化率の挙動の違いは、材料の硬化度合いの差が影響していると考えられる。本来、ピグライニング材の硬化時間はメーカのカタログを参考にすると23℃で10h である。しかし、14 日間の室温放置でも硬化は不十分であったと考えられ、150℃ 近くの熱処理を加えることによって硬化が進み、50℃付近の熱変化率の低下が抑制されたと考えられる。 Fig.4 Changes of the coefficients of thermal expansion(ΔL/L) of cured pig-lining resin with the different heat cycles. 00.29:36:000.60.81899/12/311.21.41.61.8-30-15 0 15 30 45 60 75 90 105120135150 ΔL/L (%) Temperature (℃) 2nd heat cycle 1st heat cycle - 209 -4Fig. 5 は、室温で14 日間放置した試料と4 ヶ月間放置した試料について、熱変化率(ΔL/L )の温度依存性を示したグラフである。いずれも熱変化率の低下が認められるが、4 ヶ月間放置品は14 日間放置品と比較すると10℃程度高温化しており、その温度範囲、及び低下率も縮小している。放置期間の増加によって硬化が促進されたためと考えられる。 Fig.5 Changes of the coefficients of thermal expansion(ΔL/L) for cured pig-lining resin. Fig. 6 は、熱・放射線同時劣化前後の試料について、熱変化率(ΔL/L )の温度依存性を示したグラフである。照射前と比較して、熱・放射線同時劣化品(100℃、48kGy) では熱変化率の低下が抑制されている。これは、熱と放射線の影響で材料の架橋が進み、硬化が促進されたためと考えられる。 Fig.6 Changes of the coefficients of thermal expansion(ΔL/L) for cured pig-lining resin after aging (simultaneous thermal and radiation aging, 100℃,48kGy) . Table 1 にFig.6 で示した熱変化率(ΔL/L )より求めた20℃ピッチの線膨張率を示す。炭素鋼( 1×10―5 /℃ ) と比較して、本ピグライニング材は、-30℃から50℃までの温度範囲では、炭素鋼よりも線膨張率は大きく、配管の伸びに対する追従性を持っていると考えられる。しかし、50℃から90℃の温度範囲では、線膨張率がマイナスになる領域が存在することが分かった。 Table 1 Linear expansion coefficients derived from ΔL/L measurement (10-5/℃) 本ピグライニング材は硬化速度が遅いために、硬化不足が原因で線膨張率がマイナスになる温度領域が生ずる。その領域はおよそ50℃付近である。50℃を超えて使用すると配管金属の伸びに対してピグライニング材は収縮方向に力が働くため、割れや剥がれが発生すると予想される。線膨張率の変曲点、即ちガラス転移温度が、50℃から90℃の間にあることも剥がれの大きな原因の一つであり[8]、材料の本質的な課題である。 一方、熱や放射線は本ピグライニング材の硬化を促進して収縮を抑制させる方向に働く。但し、本ピグライニング材の収縮を抑制するには、高温や高線量の暴露は現実的な方法ではなく、材料の変更、あるいは硬化促進剤や重合触媒などの添加剤仕様の変更等が必要となってくる。現状では、使用温度管理や屋外の環境温度に対する対策が重要と考えられる。 3.4 耐海水性試験結果 ピグライニング材の海水に対する耐性を評価するため、耐海水性試験をn=3 で実施した。Table 2 は、放射線照射前と熱・放射線同時劣化品(100℃、48kGy)のピグライニング材を25℃で1 週間浸漬した際の質量変化率(n=3 平均値)を示す。 Table 2 Mass change ratios of pig-lining resin after immersion in artificial sea water 00.20.40.60.811.21.41.61.8-30 -15 0 15 30 45 60 75 90 105120135150 ΔL/L (%) Temperature (℃) After four months After two weeks 00.20.40.60.811.21.41.61.8-30 -15 0 15 30 45 60 75 90 105120135150 ΔL/L (%) Temperature (℃) After aging Before aging Temperature (℃) before aging after aging (100℃,48kGy) -30~-10 5.64 5.23 -10~10 6.37 5.64 10~ 30 7.89 6.23 30~50 5.57 7.87 50~70 -8.82 7.47 70~90 1.70 -0.9 90~110 16.8 15.7 110~130 17.8 17.9 130~150 15.6 18.0 before aging after aging (100℃, 48kGy) 1.77% 1.12% - 210 -5質量変化率は3%以下であることが望ましいが、2%以下と問題ないレベルであり、表面のひび割れ、き裂の発生、膨れなどの変化も認められない。また、放射線による劣化後は、劣化前よりもむしろ質量変化率が低下しており、放射線が耐海水性に与える影響はほとんどない。このことから、本ピグライニング材は放射線環境においても耐海水性を維持できるものと考えられる。 3.5 各種劣化試験結果 3.5.1 熱劣化試験結果 熱劣化させた試験片の引張試験を実施して、破断時伸び率が1%に到達する熱劣化時間(耐久時間)を求めた。Fig. 7 は熱劣化時間に対する各温度での破断時伸び率の変化を示す。総じて、熱劣化時間が経過するに従い、破断時伸び率は低下し、脆性破壊の挙動を示した。また、破断時伸び率が1%に到達する時間(耐久時間)を求めたところ、熱劣化温度が80℃では3300h、100℃では679h、125℃では153h、150℃では27h であった。 Fig.7 Thermal aging characteristics of cured pig-lining resin 上記の結果を用いてアレニウスプロットを作成した。Fig. 8 は熱劣化試験の絶対温度の逆数を横軸、耐久時間を縦軸にプロットしたアレニウスプロットである。80℃から150℃までの温度範囲(実測値を青丸でプロット)で近似線を引いて活性化エネルギーを求めたところ、83.7kJ/mol であった。この近似線を外挿して66℃以下における寿命を見積もると、66℃では1.2 年、40℃では15 年となる。 Fig.8 Arrhenius plot of cured pig-lining resin. 3.5.2 放射線劣化試験結果 室温で放射線劣化させた試験片の引張試験を実施した。吸収線量に対する引張強さと破断時伸び率を評価した結果、いずれも、吸収線量の増加に伴って低下した。また、吸収線量に対する引張強さと破断時伸び率の変化は、ほぼ類似の挙動を示し、吸収線量の増加に伴って脆性的に破壊することが分かった。 3.5.3 熱・放射線劣化試験結果 80℃、100℃、125℃、150℃のそれぞれの温度で加熱しながら、放射線を照射した試験片の引張試験を実施した。熱・放射線同時劣化時間に対する引張強さを評価した結果、初期では増加する傾向が認められた。これは、熱や放射線の影響で材料の架橋が進み、硬化が促進されるためと考えられる。しかし、時間の経過とともに引張強さは低下し、脆性破壊の挙動を示した。同様に、熱・放射線同時劣化時間に対する破断時伸び率を評価した。その結果、初期には、引張強さの場合と同じように、一部で破断時伸び率が増加する傾向が認められたが、時間の経過とともに低下することが分かった。 3.5.4 アレニウスプロットによる評価 以上の結果を用いてアレニウスプロットを作成した。Fig. 9 は熱劣化試験、放射線劣化試験、熱・放射線同時劣化試験の3 つの試験で求めた耐久時間を絶対温度の逆数に対してプロットしたアレニウスプロットである。●のプロットは熱・放射線同時劣化試験で求めた実測値で、▲のプロットは熱劣化試験で求めた実測値、○のプロットは放射線劣化試験(室温)で求めた実測値を示す。100℃ 0:00:0012:00:0011899/12/31 12:00:001900/01/011900/01/01 12:00:001900/01/020 1000 2000 3000 4000 150℃ 125℃ 100℃ 80℃熱Aging time(h) Ultimate elongation (%) 1101001902/09/26100002173/10/1410000002 2.5 3 3.5 耐久時間(h) 1/(273+T)×1000 66℃50℃40℃ Temperature, T (℃) Time to threshold value (h) Measured values 11//((227733++TT))××11000000 ((1100--33//KK)) - 211 -6から150℃の温度領域では、熱・放射線同時劣化試験で求めた同時劣化反応のみかけ上の活性化エネルギーは、熱劣化試験で求めた熱劣化反応のみかけ上の活性化エネルギーと大差はなく、82.9kJ/mol であった。これより、熱・放射線同時劣化は、熱の影響が支配的であり、放射線の影響は小さいと考えられる。 Fig.9 Arrhenius plot of cured pig-lining resin また、熱・放射線同時劣化と放射線劣化(室温)の結果から、耐久時間は100℃を最大として、それ以下の温度ではほぼ飽和している。これは、一定の吸収線量で寿命となっていることを示している。 3.6 寿命評価 原子力ケーブルにおける経年劣化の評価手法の一つとしてJNES で検討されている等価損傷線量データ重ね合わせ手法がある[4]。ここでは、この手法をピグライニング材の寿命評価に取り入れることにより、比較的簡便に実機環境に合わせた供用期間を算出することを試みた。 以下に寿命の算出方法について説明する。実施した加速試験の加速倍率a は式(4)で与えられることが報告されている[4]。ここで、R は気体定数、E は活性化エネルギー、Trealは実機温度、Taccは試験温度、Drealは実機線量率、Daccは試験線量率である。さらに、実機条件(温度、線量率)での供用期間trealに対する試験条件(温度、線量率) での耐久時間taccの比、treal/tacc は、式(5)より加速倍率a に等しい。供用期間treal はa を求めることによって得られる。 -4a = treal/tacc (5) E は熱劣化試験で求めた値を用いた。tanθ は、得られたデータを基に計算した結果、0.97 であった。式(4)から分かるように、tanθ は寿命へ及ぼす温度の影響の割合を示す値であり、tanθ が1 に近い場合は温度による劣化が支配的で、tanθ が0 に近い場合は線量率の影響が支配的である。本ピグライニング材は、tanθ が1 に近いことから、熱の影響が支配的であることが分かる。式(4)、(5)にE、tanθ、Tacc、Dacc、taccの値をそれぞれ入力する。これにより、空間線量率と温度の異なる様々な環境下での本ピグライニング材の供用期間を求めることができる。 この式を基に25℃、0.05mSv/ hの放射線環境を想定すると40年以上の寿命が得られる。これによりピグライニング工法は、限定的ではあるが原子力施設への適用が可能になる見通しが得られた。前述の式を用いれば、適用箇所の放射線量を基に推定寿命を評価できる。今後は、この評価手法により実機に適用する場合の吸収線量の上限値を再評価していく。 4.結言 1) 本ピグライニング材の密着性、塩素の溶出濃度、耐海水性は照射後にも問題がないことを確認した。 2) 25℃、0.05mSv/ h の放射線環境では、40 年以上の寿命となることが予想され、原子力施設への適用が可能になる見通しを得た。なお、実機に適用する場合には、適用箇所の放射線量を基に吸収線量の上限を再評価する必要がある。 参考文献 [1] “Rubber, vulcanized or thermoplastic-Estimation of life-time and maximum temperature of use”, INTERNATIONAL STANDARD ISO 11346, JIS 6257 (2005) [2] ”平成19年度高経年化対策関連技術調査(原子力プラン トのケーブル経年変化評価技術調査研究)に関する報 告書”, 独立行政法人原子力安全基盤機構 (2008) [3] ”平成20年度高経年化対策関連技術調査(原子力プラン トのケーブル経年変化評価技術調査研究)に関する報 告書”, 独立行政法人原子力安全基盤機構 (2009) 1101001000100002 2.5 3 3.5 耐久時間(h) 100℃80℃ 25℃ 1/(273+T)×1000 (10-3/K) Temperature, T (℃) Time to threshold value (h) Simultaneous aging Radiation aging Thermal aging × tanθ (1-tanθ) =[e x p{ ( )}] ( ) ER Dacc 273+Treal Dreal 1273+Tacc 1a - 212 -7[4]”原子力プラントのケーブル経年変化評価技術調査研 究に関する最終報告書”, JNES-SS-0903, 独立行政法 人原子力安全基盤機構 (2009) [5] ”平成23 年度電気・計装設備の健全性評価技術調査研 究に関する方告書”, 独立行政法人原子力安全基盤機 構 (2012) [6] ”安全研究年報(平成24 年度)”, 独立行政法人原子力 安全基盤機構 (2013) [7] “原子力発電所のケーブル経年劣化評価ガイド”, 独立 行政法人原子力安全基盤機構 (2014) [8] 十時稔: “高分子のDSCとTMA”, 熱測定, Vol. 31, No. 5, pp.241-248 (2004) - 213 -
“ “原子力発電所へのピグライニング工法の適用検討 “ “寺尾 圭論,Yoshinori TERAO,永田 純也,Junya NAGATA,本棒 享子,Kyoko HONBO
ピグライニング工法とは配管内面ライニング工法の一つで、配管内へピグと呼ばれるボールを設置し、圧縮空気でピグを移動させながらエポキシ樹脂などのライニング材を配管内面に塗布する工法であり、マンションの水道管やガス管等への適用実績がある。原子力プラントでは自社が唯一、配管の海水腐食対策として適用した。 ピグライニング工法は従来の原子力プラントで適用しているライニング工法と比較して、①短時間、現地での施工が可能、②既設配管、埋設配管に直接ライニングが可能、③新設の場合、スプール数を削減できる、④コスト削減効果が高いなどの利点を有することから、原子力プラントへの適用が期待される。しかし、運転中の原子力のプラントへの適用実績が無いこと、及びピグライニング材のメーカ推奨使用温度が常温~40℃の範囲であることから、最高使用温度が常温である系統に使用が限定されると予想される。さらに、放射線環境での耐久性については詳細な知見がない。 本報では、ピグライニング工法の原子力プラントへの適用拡充の可否とその適用範囲を判断するための知見を得るため、ピグライニング材の熱及び放射線に対する耐性や、海水に対する耐久性、金属配管との線膨張率の差に対する健全性を明らかにすることを目的とする。 2.ピグライニング材の試験方法 2.1 ピグライニング工法とピグライニング材仕様 ピグライニング工法は、ライニング作業直前にピグライニング材を調製し配管内に投入する。次にピグを配管内に投入した後、圧縮空気を流し込み、ピグを配管終端部まで移動させて配管内面に塗膜を形成する。その後、室温で10 時間放置して自然硬化させる。塗膜厚みは1mm 程度である。Fig.1 にピグライニングの概要図を示す。 本報ではピグライニング材は、配管更正用エポキシ樹脂ライニング材を使用した。本材は主剤と硬化剤からなり、それぞれ2:1 の体積比率で混合して用いる。 Fig.1 Schematic diagram of pig-lining 2.2 ピグライニング材の塩素分析 ピグライニング材主剤のビスフェノールA エポキシ樹脂は、塩素を含有する1-クロロ-2、3-エポキシプロパンを合成原料として使用する。これが未反応のまま主剤中に残っていると、配管内の冷却水に塩素が溶出する可能性がある。そのため、溶出する塩素イオンの量をイオンクCompressed air Pig Lining materials
2ロマトグラフィー(装置名:Thermo Fisher SCIENTIFIC 製 ICS-5000+型イオンクロマトグラフ)により定量分析を行う。試料は、主剤と硬化剤を2:1 の体積比率で混合して型に流し込み、脱泡処理した後に、表面を整えて常温で2 日間自然乾燥し、50℃、3h の熱処理を施して硬化させたものを使用する。試験片の厚みは配管への塗布厚みと同じ1mm とした。これを重量で約50g(比表面積で約290 cm2)採取し、250cm3の超純水中に25℃で1 週間浸漬させ、溶出した塩素イオンの濃度を測定する。 2.3 ピグライニング材の密着度試験 ピグライニング材の配管内面への密着度を評価するため、密着度試験を行う。密着度試験はJIS K5600「塗料一般試験方法」のクロスカット法に準拠する。配管内面を模擬した鋼板表面にピグライニング材を塗膜厚み200μm で塗布する。これを脱泡処理した後、表面を整えて常温で2 日間自然乾燥させる。これに50℃、3h の熱処理を施して、さらに硬化を促進させる。塗膜面にカッターナイフを用いて、素地に達する6 本の切り傷をつけ25 個の基盤目を作る。基盤目部分に透明テープを強く圧着させ、付着して5 分以内に60°に近い角度で、0.5~1.0 秒で確実に引き剥がし、基盤目の状態を標準図と比較して評価する。 2.4 ピグライニング材の線膨張率試験 ピグライニング材であるエポキシ樹脂の線膨張率は材料の組成によって異なるが、一般に4~8×10―5 /℃で、炭素鋼( 1×10―5 /℃ )よりも大きい。但し、高分子材料では、放射線や熱などによる劣化で、線膨張率が変化する可能性があることから、ピグライニング材の劣化前後の線膨張率を評価する。 試験はJIS K7197「プラスチックの熱機械分析による線膨張率試験方法」に準拠する。測定装置はアルバック理工製 縦型熱膨張計 DL-9500である。試料はピグライニング材の硬化物を使用し、20mm×4mm×4mmの角棒状に加工する。測定雰囲気はAr中で、測定温度範囲は-30℃ ~150℃とし、昇温速度は5℃/minにて実施する。 2.5 ピグライニング材の耐海水性試験 ピグライニング材であるエポキシ樹脂の耐薬品性は材料の組成や充填剤の種類によって異なるが、アルカリ中で加水分解し易い傾向にある。また、高分子材料は、一般に、劣化により吸水率が増加する場合が多い。そこで、ピグライニング材の海水(弱アルカリ性)に対する耐性を熱と放射線の同時印加による劣化試験の前後で比較評価する。 試験はJIS K 7114「プラスチック-液体薬品への浸漬効果を求める試験方法」に準拠する。試料の液浸漬前の質量を測定し、人工海水(八洲薬品製、pH 8.4)中に試験温度25℃で1週間浸漬させる。浸漬後、試料表面の液体をウエスで拭きとり、質量を測定して質量変化率を算出する。試料はピグライニング材の硬化物を使用し、厚みは、配管への塗膜厚みと同じ1mmとする。外観観察により試験片表面にき裂や欠陥等の発生の有無を目視で確認する。 2.6 ピグライニング材の劣化試験による寿命評価 劣化試験は熱劣化試験、放射線劣化試験、熱・放射線同時劣化試験の3 試験を実施する。劣化試験後は引張試験を実施し、破断時伸び率が許容下限値の1%に到達する各劣化試験に対する暴露時間を耐久時間として求める。熱劣化試験ではアレニウスプロットより酸化劣化反応の見掛け上の活性化エネルギーを求める[1]。熱・放射線同時劣化試験ではACA プロジェクト(「原子力プラントのケーブル経年変化評価技術調査研究」)で提案されている等価損傷線量データ重ね合わせ手法を用いて線量率と照射時間を評価する[2~7]。 熱劣化試験と熱・放射線同時劣化試験の試験温度は80℃~150℃の4 条件とする。照射線源は、Co-60 のγ線で、線量率は100Gy/h とする。 2.7 ピグライニング材の引張試験 ピグライニング材の線膨張率が配管金属の線膨張率と異なるため、配管の伸縮にピグライニング材が追従できず、ピグライニング材の破断やき裂が発生する可能性がある。そこで、引張試験でピグライニング材の伸び率を測定し、金属配管の伸びに対する追従性を評価する。引張試験はJIS K7161「プラスチック-引張特性の試験方法」に準拠する。Fig.2 に試験片写真を示す。 Fig.2 The appearance of test specimens 試験片形状は1B 型ダンベル形状とし、ピグライニング材の硬化物を使用する。厚みは、配管への塗膜厚みと同じ1mm とする。なお、引張速度はJIS K7161 に記載の500mm/min では結果のばらつきが大きいことが分かったため、すべて20mm/min の条件に統一する。引張時の温度は25±2℃ とする。 - 208 -32.8 破断時伸び率の許容下限値 引張試験より求めたピグライニング材の破断時伸び率(εf )から配管の伸びに対するピグライニング材の破断時伸び率(εf )の許容下限値を求める。許容下限値の根拠を以下に記す。 まず、使用温度範囲から温度差(ΔT )を求める。最低温度を内部流体が凍結しない温度である-4℃、最高温度を実機温度である66℃とすると、温度差(ΔT )は70℃ になる。これを、線膨張率(α )と材料の初期長さ(L ) と寸法変化量(ΔL )で表すと式(1)が成立する。(ΔL/L ) は伸び率、Δα は式(2)に示すように金属の線膨張率(α1 ) とピグライニング材の線膨張率(α2 )の差で表される。金属の線膨張率(α1 )は炭素鋼の場合、1×10―5 /℃、本ピグライニング材の線膨張率(α2 )はエポキシ樹脂の場合、最大で8×10―5 /℃であることから、Δα は7×10―5 /℃となる。 ΔT =(ΔL/L )×1/Δα (1) Δα= α2-α1 (2) 式(1)と 式(2)より、伸び率ε=(ΔL/L )は以下の式(3)で表される。 ε=ΔT ×(α2-α1 ) (3) 上記の場合、伸び率εは、4.9×10―3(約0.5%)となる。 以上より、本報では、試験のばらつき等を考慮し、安全率を2として、破断時伸び率(εf )の許容下限値を1% に規定する。これより、破断時伸び率が1%よりも低下した時点で寿命と判断し、1%到達時の時間を耐久時間として求める。 3.ピグライニング材の評価結果 3.1 ピグライニング材の塩素分析結果 ピグライニング材の硬化物から水中へ溶出される塩素イオンの量をイオンクロマトグラフィーにより定量分析した。25℃で1週間浸漬した場合、ピグライニング材の硬化物の塩素溶出量は、ピグライニング材の比表面積当りでは3.5×10-5mg/cm2、重量当りでは0.2mg/kgであった。仮に、1週間、口径の小さい25A配管内で水を滞留させた場合の塩素イオン濃度を試算すると、0.06ppmと極少量である。配管腐食は塩素イオン濃度が100ppmを超える場合に影響が現れると考えられていることから、本ピグライニング材の含有塩素の溶出による配管腐食の影響はほとんどないと考えられる。 3.2 密着度試験結果 ピグライニング材の配管鋼材への密着度を評価するため、密着度試験をn=3 で実施した。Fig. 3 はクロスカット法による密着度試験後の外観観察写真である。カットの縁は完全に滑らかで、どの格子の目にもはがれがないことを確認した。本ピグライニング材は配管鋼材への密着性に問題がないと考えられる。 Fig.3 Appearance of the coating layer on the steel plate with the pig-lining resin after the cross cut test 3.3 線膨張率試験結果 ピグライニング材の線膨張率試験を-30℃から150℃ の温度範囲で実施した。Fig. 4 は、-30℃の試料の初期長さ(L )を基準とする熱変化率(ΔL/L )を温度に対してプロットしたグラフである。試料は室温で14 日間放置させたものであり、同じ試料について2 回の繰返し測定を実施した。1 回目の測定では50℃付近で熱変化率の低下が認められた。しかし、2 回目の測定では50℃付近の熱変化率の低下は認められない。1 回目の熱変化率の低下は収縮を意味している。このような熱変化率の挙動の違いは、材料の硬化度合いの差が影響していると考えられる。本来、ピグライニング材の硬化時間はメーカのカタログを参考にすると23℃で10h である。しかし、14 日間の室温放置でも硬化は不十分であったと考えられ、150℃ 近くの熱処理を加えることによって硬化が進み、50℃付近の熱変化率の低下が抑制されたと考えられる。 Fig.4 Changes of the coefficients of thermal expansion(ΔL/L) of cured pig-lining resin with the different heat cycles. 00.29:36:000.60.81899/12/311.21.41.61.8-30-15 0 15 30 45 60 75 90 105120135150 ΔL/L (%) Temperature (℃) 2nd heat cycle 1st heat cycle - 209 -4Fig. 5 は、室温で14 日間放置した試料と4 ヶ月間放置した試料について、熱変化率(ΔL/L )の温度依存性を示したグラフである。いずれも熱変化率の低下が認められるが、4 ヶ月間放置品は14 日間放置品と比較すると10℃程度高温化しており、その温度範囲、及び低下率も縮小している。放置期間の増加によって硬化が促進されたためと考えられる。 Fig.5 Changes of the coefficients of thermal expansion(ΔL/L) for cured pig-lining resin. Fig. 6 は、熱・放射線同時劣化前後の試料について、熱変化率(ΔL/L )の温度依存性を示したグラフである。照射前と比較して、熱・放射線同時劣化品(100℃、48kGy) では熱変化率の低下が抑制されている。これは、熱と放射線の影響で材料の架橋が進み、硬化が促進されたためと考えられる。 Fig.6 Changes of the coefficients of thermal expansion(ΔL/L) for cured pig-lining resin after aging (simultaneous thermal and radiation aging, 100℃,48kGy) . Table 1 にFig.6 で示した熱変化率(ΔL/L )より求めた20℃ピッチの線膨張率を示す。炭素鋼( 1×10―5 /℃ ) と比較して、本ピグライニング材は、-30℃から50℃までの温度範囲では、炭素鋼よりも線膨張率は大きく、配管の伸びに対する追従性を持っていると考えられる。しかし、50℃から90℃の温度範囲では、線膨張率がマイナスになる領域が存在することが分かった。 Table 1 Linear expansion coefficients derived from ΔL/L measurement (10-5/℃) 本ピグライニング材は硬化速度が遅いために、硬化不足が原因で線膨張率がマイナスになる温度領域が生ずる。その領域はおよそ50℃付近である。50℃を超えて使用すると配管金属の伸びに対してピグライニング材は収縮方向に力が働くため、割れや剥がれが発生すると予想される。線膨張率の変曲点、即ちガラス転移温度が、50℃から90℃の間にあることも剥がれの大きな原因の一つであり[8]、材料の本質的な課題である。 一方、熱や放射線は本ピグライニング材の硬化を促進して収縮を抑制させる方向に働く。但し、本ピグライニング材の収縮を抑制するには、高温や高線量の暴露は現実的な方法ではなく、材料の変更、あるいは硬化促進剤や重合触媒などの添加剤仕様の変更等が必要となってくる。現状では、使用温度管理や屋外の環境温度に対する対策が重要と考えられる。 3.4 耐海水性試験結果 ピグライニング材の海水に対する耐性を評価するため、耐海水性試験をn=3 で実施した。Table 2 は、放射線照射前と熱・放射線同時劣化品(100℃、48kGy)のピグライニング材を25℃で1 週間浸漬した際の質量変化率(n=3 平均値)を示す。 Table 2 Mass change ratios of pig-lining resin after immersion in artificial sea water 00.20.40.60.811.21.41.61.8-30 -15 0 15 30 45 60 75 90 105120135150 ΔL/L (%) Temperature (℃) After four months After two weeks 00.20.40.60.811.21.41.61.8-30 -15 0 15 30 45 60 75 90 105120135150 ΔL/L (%) Temperature (℃) After aging Before aging Temperature (℃) before aging after aging (100℃,48kGy) -30~-10 5.64 5.23 -10~10 6.37 5.64 10~ 30 7.89 6.23 30~50 5.57 7.87 50~70 -8.82 7.47 70~90 1.70 -0.9 90~110 16.8 15.7 110~130 17.8 17.9 130~150 15.6 18.0 before aging after aging (100℃, 48kGy) 1.77% 1.12% - 210 -5質量変化率は3%以下であることが望ましいが、2%以下と問題ないレベルであり、表面のひび割れ、き裂の発生、膨れなどの変化も認められない。また、放射線による劣化後は、劣化前よりもむしろ質量変化率が低下しており、放射線が耐海水性に与える影響はほとんどない。このことから、本ピグライニング材は放射線環境においても耐海水性を維持できるものと考えられる。 3.5 各種劣化試験結果 3.5.1 熱劣化試験結果 熱劣化させた試験片の引張試験を実施して、破断時伸び率が1%に到達する熱劣化時間(耐久時間)を求めた。Fig. 7 は熱劣化時間に対する各温度での破断時伸び率の変化を示す。総じて、熱劣化時間が経過するに従い、破断時伸び率は低下し、脆性破壊の挙動を示した。また、破断時伸び率が1%に到達する時間(耐久時間)を求めたところ、熱劣化温度が80℃では3300h、100℃では679h、125℃では153h、150℃では27h であった。 Fig.7 Thermal aging characteristics of cured pig-lining resin 上記の結果を用いてアレニウスプロットを作成した。Fig. 8 は熱劣化試験の絶対温度の逆数を横軸、耐久時間を縦軸にプロットしたアレニウスプロットである。80℃から150℃までの温度範囲(実測値を青丸でプロット)で近似線を引いて活性化エネルギーを求めたところ、83.7kJ/mol であった。この近似線を外挿して66℃以下における寿命を見積もると、66℃では1.2 年、40℃では15 年となる。 Fig.8 Arrhenius plot of cured pig-lining resin. 3.5.2 放射線劣化試験結果 室温で放射線劣化させた試験片の引張試験を実施した。吸収線量に対する引張強さと破断時伸び率を評価した結果、いずれも、吸収線量の増加に伴って低下した。また、吸収線量に対する引張強さと破断時伸び率の変化は、ほぼ類似の挙動を示し、吸収線量の増加に伴って脆性的に破壊することが分かった。 3.5.3 熱・放射線劣化試験結果 80℃、100℃、125℃、150℃のそれぞれの温度で加熱しながら、放射線を照射した試験片の引張試験を実施した。熱・放射線同時劣化時間に対する引張強さを評価した結果、初期では増加する傾向が認められた。これは、熱や放射線の影響で材料の架橋が進み、硬化が促進されるためと考えられる。しかし、時間の経過とともに引張強さは低下し、脆性破壊の挙動を示した。同様に、熱・放射線同時劣化時間に対する破断時伸び率を評価した。その結果、初期には、引張強さの場合と同じように、一部で破断時伸び率が増加する傾向が認められたが、時間の経過とともに低下することが分かった。 3.5.4 アレニウスプロットによる評価 以上の結果を用いてアレニウスプロットを作成した。Fig. 9 は熱劣化試験、放射線劣化試験、熱・放射線同時劣化試験の3 つの試験で求めた耐久時間を絶対温度の逆数に対してプロットしたアレニウスプロットである。●のプロットは熱・放射線同時劣化試験で求めた実測値で、▲のプロットは熱劣化試験で求めた実測値、○のプロットは放射線劣化試験(室温)で求めた実測値を示す。100℃ 0:00:0012:00:0011899/12/31 12:00:001900/01/011900/01/01 12:00:001900/01/020 1000 2000 3000 4000 150℃ 125℃ 100℃ 80℃熱Aging time(h) Ultimate elongation (%) 1101001902/09/26100002173/10/1410000002 2.5 3 3.5 耐久時間(h) 1/(273+T)×1000 66℃50℃40℃ Temperature, T (℃) Time to threshold value (h) Measured values 11//((227733++TT))××11000000 ((1100--33//KK)) - 211 -6から150℃の温度領域では、熱・放射線同時劣化試験で求めた同時劣化反応のみかけ上の活性化エネルギーは、熱劣化試験で求めた熱劣化反応のみかけ上の活性化エネルギーと大差はなく、82.9kJ/mol であった。これより、熱・放射線同時劣化は、熱の影響が支配的であり、放射線の影響は小さいと考えられる。 Fig.9 Arrhenius plot of cured pig-lining resin また、熱・放射線同時劣化と放射線劣化(室温)の結果から、耐久時間は100℃を最大として、それ以下の温度ではほぼ飽和している。これは、一定の吸収線量で寿命となっていることを示している。 3.6 寿命評価 原子力ケーブルにおける経年劣化の評価手法の一つとしてJNES で検討されている等価損傷線量データ重ね合わせ手法がある[4]。ここでは、この手法をピグライニング材の寿命評価に取り入れることにより、比較的簡便に実機環境に合わせた供用期間を算出することを試みた。 以下に寿命の算出方法について説明する。実施した加速試験の加速倍率a は式(4)で与えられることが報告されている[4]。ここで、R は気体定数、E は活性化エネルギー、Trealは実機温度、Taccは試験温度、Drealは実機線量率、Daccは試験線量率である。さらに、実機条件(温度、線量率)での供用期間trealに対する試験条件(温度、線量率) での耐久時間taccの比、treal/tacc は、式(5)より加速倍率a に等しい。供用期間treal はa を求めることによって得られる。 -4a = treal/tacc (5) E は熱劣化試験で求めた値を用いた。tanθ は、得られたデータを基に計算した結果、0.97 であった。式(4)から分かるように、tanθ は寿命へ及ぼす温度の影響の割合を示す値であり、tanθ が1 に近い場合は温度による劣化が支配的で、tanθ が0 に近い場合は線量率の影響が支配的である。本ピグライニング材は、tanθ が1 に近いことから、熱の影響が支配的であることが分かる。式(4)、(5)にE、tanθ、Tacc、Dacc、taccの値をそれぞれ入力する。これにより、空間線量率と温度の異なる様々な環境下での本ピグライニング材の供用期間を求めることができる。 この式を基に25℃、0.05mSv/ hの放射線環境を想定すると40年以上の寿命が得られる。これによりピグライニング工法は、限定的ではあるが原子力施設への適用が可能になる見通しが得られた。前述の式を用いれば、適用箇所の放射線量を基に推定寿命を評価できる。今後は、この評価手法により実機に適用する場合の吸収線量の上限値を再評価していく。 4.結言 1) 本ピグライニング材の密着性、塩素の溶出濃度、耐海水性は照射後にも問題がないことを確認した。 2) 25℃、0.05mSv/ h の放射線環境では、40 年以上の寿命となることが予想され、原子力施設への適用が可能になる見通しを得た。なお、実機に適用する場合には、適用箇所の放射線量を基に吸収線量の上限を再評価する必要がある。 参考文献 [1] “Rubber, vulcanized or thermoplastic-Estimation of life-time and maximum temperature of use”, INTERNATIONAL STANDARD ISO 11346, JIS 6257 (2005) [2] ”平成19年度高経年化対策関連技術調査(原子力プラン トのケーブル経年変化評価技術調査研究)に関する報 告書”, 独立行政法人原子力安全基盤機構 (2008) [3] ”平成20年度高経年化対策関連技術調査(原子力プラン トのケーブル経年変化評価技術調査研究)に関する報 告書”, 独立行政法人原子力安全基盤機構 (2009) 1101001000100002 2.5 3 3.5 耐久時間(h) 100℃80℃ 25℃ 1/(273+T)×1000 (10-3/K) Temperature, T (℃) Time to threshold value (h) Simultaneous aging Radiation aging Thermal aging × tanθ (1-tanθ) =[e x p{ ( )}] ( ) ER Dacc 273+Treal Dreal 1273+Tacc 1a - 212 -7[4]”原子力プラントのケーブル経年変化評価技術調査研 究に関する最終報告書”, JNES-SS-0903, 独立行政法 人原子力安全基盤機構 (2009) [5] ”平成23 年度電気・計装設備の健全性評価技術調査研 究に関する方告書”, 独立行政法人原子力安全基盤機 構 (2012) [6] ”安全研究年報(平成24 年度)”, 独立行政法人原子力 安全基盤機構 (2013) [7] “原子力発電所のケーブル経年劣化評価ガイド”, 独立 行政法人原子力安全基盤機構 (2014) [8] 十時稔: “高分子のDSCとTMA”, 熱測定, Vol. 31, No. 5, pp.241-248 (2004) - 213 -
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