補修の規格-技術評価上の課題-

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カテゴリ: 第12回
1.維持規格補修章の制定経緯[1]
1.1 原子力発電設備の健全性評価制度 何故、原子力規制庁(以下、「NRA」という。)において、現在も維持規格補修章に対する技術評価がなされていないかを論じる前に、温故知新、我が国の維持規格制定に至った歴史、経緯を紐解いてみたい。原子力発電設備の健全性評価のための基準(所謂、以下、「維持基準」という。)については、20 年以上前の平成5 年から、旧通商産業省において、電気事業者等の協力を得て検討か進められ、その技術的内容は、日本機械学会(以下、「JSME」という。)が策定する「維持規格」に集約され、今日に至っている。 旧原子力安全・保安院(以下、「NISA」という。)は、平成14 年7 月、総合資源エネルギー調査会原子力安全・保安部会原子炉安全小委員会において、技術基準の整備に関する提言が取り纏められたことを受け、早期に維持規格の適用を可能とする制度面での対応を行っていくことを表明した。その後、総合エネルギー調査会原子力安全・保安部会原子力安全規制法制検討小委員会の中間報告(平成14 年10 月)を踏まえ、平成14 年12 月、健全 性評価の義務化等を盛り込む電気事業法等改正法が国会で可決された。 【旧通商産業省、経済産業省等における検討経緯】 ・平成5 年6 月 原子力発電技術顧問会(総合予防保全) 高経年化対策検討会において、米国機械学会(以下、「ASME」という。)による原子力発電設備の供用期間中検査基準(ASME Section .)を評価し、我が国の健全性評価基準を整備していくこととなった。 ・平成5 年11 月 発電設備技術検査協会への委託調査の一環として、同協会に「原子力発電設備維持に係る維持基準等検討委員会」が設置され検討が開始された。 ・平成8 年3 月 発電設備技術検査協会において、健全性評価基準の原案として「原子力発電設備維持に関する維持基準について」(検査、評価及び補修に関する維持基準原案)が作成された。 ・平成8 年4 月 「高経年化に関する基本的な考え方」において、経年化による強度等の変化に対応した構造基準を整備すること等の重要性が表明された。即ち、原子力発電所の各機器・構造物は経年化に伴い進展する現象が存在することから、高経年化したプラントに対して、それらの経年劣化を考慮した維持、管理の方法を具体化し、基準化する等の仕組みが必要であるとされた。経年による強度等の変化に対応した構造基準の整備については、高経年化原子力発電所ばかりでな
く、広く運転中の原子力発電所にも適用されるものであり、基準化に当たっては、最新の破壊力学の進歩やこれまでに蓄積された補修工法を反映すると共に、今後の技術の進歩に的確に対応できるものでなければならない、とされた。 ・平成11 年3 月 JSME に「維持規格分科会」が設置され維持基準原案を基に維持規格の検討が開始された。 ・平成12 月5 月 JSME は、ASME Section .の基本的な考え方を取り入れた維持規格(「発電用原子力設備規格JSME S NA1-2000」)を完成させた。 ・平成14 年7 月 原子力安全・保安部会原子炉安全小委員会報告「原子力発電施設の技術基準の性能規定化と民間規格の活用に向けて」の「供用開始後の維持運用時に適用する技術基準」において、『米国では、ASME Section .が規制に取り込まれており、設計・建設時の要求と供用開始後の要求を区別していたが、(当時の) 省令62 号及び告示501 号は、設計・建設時における設備の構造等を規定しているだけでなく、供用開始後も同じ構造等を維持するように要求していた。このため、告示501 号の対象設備については、常に設置時の状態を保持しなければならないという過度な要求が課せられている。』との問題点が指摘された。このような状況下、本規格を供用期間開始後の基準として運用できる制度上の整備が必要であるとされた。 ・平成14 年10 月 原子力安全・保安部会原子力安全規制法制検討小委員会中間報告に、『事業者が行う「自主検査」において、原子力発電施設の各設備、機器等にひび割れ等が発生した場合には、当該設備等に求める安全水準を維持することを前提に、一義的に安全性に対する責任を有する事業者自らが当該ひび割れ等の進展が安全性に与える影響を評価し、その評価結果に基づき、当該設備等が有すべき安全性を維持するために必要な対策を講じる必要がある。』と記載された。 ・平成14 年12 月 健全性評価の義務づけ等が盛り込まれた電気事業法等改正法が可決された。 1.2 維持規格補修章の制定と技術評価 (1) 原子力発電設備維持に係る技術基準等検討委員会において、検査章、評価章、及び補修章の各素案が策定され、平成8 年3 月、(財)発電設備技術検査協会「原子力発電設備維持に係る技術基準について」に取り纏められた。 (2) 補修章を制定する際の基本的な考え方としては、平成7 年当時のASME の補修章(NCA-4000)を参考にすると共に、(財)発電設備技術検査協会の確性試験で技術的妥当性が確認されたテンパービード溶接方法、水入れ溶接方法、内面スリーブ溶接方法、レーザクラッディング方法等の我が国の優れた各種補修工法、予防保全工法も含められることとなった。但し、知的財産権遵守の観点からASME Section .と同様に一般条文化して補修章に組み入れられることとなった。 (3) 補修章には、検査、評価及び補修・取替の相互関係を明確にするために、ASME Section .と同様に、一般的要求事項の項が設けられた。 (4) 2004年版のJSME維持規格に初めて補修章が組み入れられた。 (5)しかしながら、2004 年版補修章の技術評価実施に関する当時のNISAによる可否判断は、「今後、補修章が体系化され、技術基準との対応が可能となった場合に、技術評価を行なう。」であった。 (6) 2006 年4 月、JSME は、本コメントを受けて、維持規格分科会内に「補修体系化検討タスク」を設置し、技術基準適合性の観点から補修章の規定のあり方等の検討を開始した。先ず、ショットピーニング、スリーブ溶融ティグクラッド、及び伝熱管機械的施栓の代表3 工法に絞って技術基準への適合性を確認し、規格の一部改訂を行った。 (7) このタスクは、当時のNISA基盤課、審査課及び検査課も出席した上で、平成18 年4 月から平成19 年10 月迄都合13 回開催された。本タスクの審議結果を踏まえ、技術評価の進め方について、NISA検査課と事業者間で3 回の会合が持たれた。 (8) 一方で、当時のNISA検査課はJSME に対して、個別技術毎の技術基準(評価及び検査)との関連性を取り纏めるように指導した。 (9) 維持規格2008 年版には、これらの指導・要望に対する対応案が示されなかったため、NISA検査課の判断で補修章の技術評価は再度延期された。 (10) その後、JSME は、維持規格2008 年版2010 追補で要望事項に対して部分的に修正を加えた。 (11) 原子力安全基盤機構(以降、「JNES」という。)は、2011 年5 月、維持規格2008 年版及び2010 年追補の補修章に対する技術評価(案)をNISAへ提案した。 (12) 平成23 年(2011 年)6 月、NISAは、JNES 技術評価(案)に記載されている要望事項を2012 年版に反映するようにJSME に要請した。しかし、JSME は、福島第一原子力発電所の事故を踏まえ、時間的に即応は困- 217 - 3難であるとして、2010 年追補迄の補修章での技術評価を要請した。 (13) しかしながら、当時のNISAの意見は、「付記すべき要件、要望事項が多く、技術評価することはできない。福島第一事故対応上の民間規格の技術評価が先決である。補修章は2012 年版で技術評価する。」であった。以降、現在に至るも、補修章は技術評価の対象となっていない。 【考察】 このような状況下、改めて、維持規格における補修章とは何かを考えてみたい。原子力発電所の機器・構造物に用いられている材料は、建設段階と異なり、供用期間中においては、時間経過に伴い熱的及び原子力特有の中性子照射による特性変化が起きている。したがって、溶接、熱処理等による補修・取替(予防保全を含む)を行なう場合、建設時とは異なる施工管理が必要となる場合がある。 このようなASME の基本的な考え方(建設段階規格のSection Ⅲと供用期間中の維持規格Section XI の棲み分け)を踏襲し、我が国の維持規格(補修章)が制定されたのである。したがって、検査、評価及び補修・取替の三位一体による維持規格体系の構築が必須条件といえる。 機器・構造物の全取替を行なう場合であって、旧材との遷移部(溶接熱影響部等)がない場合には、建設規格の適用で問題はない。但し、熱的影響を受けている、或いは、中性子照射による機械的特性や金属組織の変化が想定される場合には、十分な考慮が払われるべきである。 補修章の技術評価に対する他の論点として、情報公開が挙げられる。技術的知見の公開を前提としなければ技術評価できないとする規制側の意見と、知的財産権として法的に守られているノウハウを含む技術的知見を公開することは現実的でないとするJSME 側の意見とが相反する場合がある。 しかし、現在は、技術的知見を一般公開しなくてもNRA が非公開情報を閲覧・確認して、その技術の妥当性を評価することができるという考え方に変ってきている。 補修章に規定されている補修技術を実機に適用する場合であって、特許に抵触すると判断されるときには、そのノウハウ/技術等の特許権を有する者と調整(技術購入等を含む)することで対処可能であると判断される。 2.維持規格補修章(2012 年版/2013 年追補) 現時点での最新版である補修章2012 年版/2013 年追補を2013 年版ASME Sec.XI IWA-4000(補修/取替)との比較しながらその特徴を以下に述べる。 (1) 欠陥部の除去(RB-2100 )、水中での溶接方法(RB-2200)、溶接後熱処理が不要な溶接方法(テンパービード溶接方法)、伝熱管のスリーブによる方法( RB-2630 ~ RB-2660 )、及び施栓による方法(RB-2700)は、ASME にも規定されている。 (2) 一方、高周波誘導加熱方法(RB-2440)、水冷溶接方法(RB-2420)、ピーニング方法(RB-2450)等の溶接部の残留応力を緩和する方法(RB-2400)、表面改質による方法(RB-2500)、キャップによる補修方法(RB-2720)、肉盛り溶接による方法、及び暫定補修方法は、確性試験で確認された日本独自の補修溶接技術、予防保全技術であり、ASME には規定されていない。 (3) テンパービード溶接方法、ウェルドオーバレイ工法(WOL)、及びキャップ工法の3 種類については、以下に述べる特徴と課題がある。 (i) テンパービード溶接方法 平成25 年6 月19 日に発行された「発電用原子炉施設の溶接事業者検査に係る実用発電用原子炉の設置、運転等に関する規則のガイド」の中でテンパービード溶接方法の適用については別紙1 に示す検査が要求されている。 (別紙1) テンパービード溶接方法を含む溶接施工法の溶接部に対する溶接事業者検査について テンパービード溶接方法を含む溶接施工法の溶接部に対する溶接事業者検査については、次により行うこと。ただし、平成19 年12 月5 日以前に電気事業法に基づき実施された検査又は9.(2)の規定に基づく溶接施工法確認試験において、溶接後熱処理が不要として適合性が確認された溶接施工法の場合に限る。 ①次のイからハ及びホからトに掲げる事項について、テンパービード溶接部分を含む溶接部は、別表2に示す「溶接事業者検査の工程」ごとの「溶接規格等の該当規定」の欄に示す検査内容を、「溶接事業者検査の方法」の欄に示す方法(以下「検査の方法」という。) により行うこと。 イ 溶接部の材料 ロ 溶接部の開先 ハ 溶接の作業及び溶接設備 ホ 非破壊試験(非破壊試験を実施する場合) ヘ 機械試験(機械試験を実施する場合) - 218 - 4ト 耐圧試験 ② 次のチからルに掲げる事項について、テンパービード溶接方法による溶接部分においては、別表3 に示す「溶接事業者検査の工程」ごとに、「テンパービード溶接方法の区分」に応じ適用する「溶接事業者検査の内容」の欄に示す内容を、対応する別表2の検査の方法により行うこと。 チ 溶接部の材料(テンパービード溶接方法) リ 溶接部の開先(テンパービード溶接方法) ヌ 溶接の作業及び溶接設備 (テンパービード溶接方法) ル 非破壊試験(テンパービード溶接方法) -------------------------------------------------------------------------- 【課題】本規則のガイドは、基本的に溶接検査計画書及び溶接規格等に規定された内容に一致することを求めている。また、維持規格に記載されている技術的内容の一部を転記したものであるが、維持規格補修章に記載されているテンパービード溶接方法を認めている訳ではない。平成18 年1 月に技術基準の性能規定化※が施行され、仕様規格は民間規格を技術評価の上、これをエンドースするという制度に移行しているにも拘らず、規制庁が仕様規定を定めていく動きは、この基本的な考え方と一致しない。 ※ 設備に要求される機能や性能を達成する手段は多種多様であり、規制当局が定める技術基準においてその手段を限定することはできる限り避け、選択の自由度を確保することが望ましいと考え、平成18 年1 月1 日に技術基準の性能規定化がスタートした。即ち、技術基準では、要求される機能や性能水準を中心に規定し、同時に技術基準への適合性を判断する合理的かつ具体的な根拠を示す。学協会規格を規制体系に組み込むことにより、性能規定化された技術基準に対して明確な判断基準を与える制度である。なお、米国では、国家技術移転・促進法により、公正、公平、公開の手続きを踏んだ民間規格を規制に使用することを基本とするように規定されており、原子力規制委員会(NRC)は、積極的に民間規格を規制に活用している。 (ii) ウェルドオーバレイ工法(WOL) 平成25 年6 月に発行された「実用発電用原子炉及び附属施設の技術基準に関する規則の解釈」の別記-3 に「ウェルドオーバレイ工法の適用に当たって」と題して、維持規格の補修章に相当する技術的内容が詳細に記載されている。したがって、本工法を適用する場合、規則の解釈を参照して補修溶接が可能であり、特段の問題はないが、(i)項と同様に性能規定化の課題が残る。 (iii) キャップ工法 第35 回NISA原子炉安全小委員会検査技術評価WG (平成22 年1 月開催)において、委員より、『キャップ工法はルート部があってすみ肉溶接を行う構造であるが、溶接の溶け込みが十分であるか、及びルート部が「切り欠き効果」を持つものでないかについては、初層PT を行うとしていること、また、高ニッケル合金の破壊モードからルート部の長さが切り欠きとして効かないことなど、十分に検討されており健全性確保の観点から十分な工法と考えられる。また、技術基準解釈前文に掲げる「省令に定める技術的要件を満足する技術的内容は、本解釈に限定されるものではく、省令に照らして十分な保安水準の確保が達成できる技術的根拠があれば、省令に適合するものと判断する。」としている。キャップ工法は抜本的な取替え工法ができるまでの期間と制限しているが、検討結果から永久工法としても差し支えないのではないか』との意見があった。これに対して、当時のNISAの判断は、『恒久的なものとする場合には、規格化する位置づけの議論が必要である。また、本工法は、事業者が内面のき裂進展の有無を監視し続けていかなければならない。しかし、内面のECT、UT の規定が明確でないことからキャップ工法を恒久的な対策とする場合には、そのような体制整備も必要である。』と回答している。このような審議・議論を経て、キャップ工法が認められた。但し、構造、検査等による性能規定上の適合性を確認するため、ノーアクションレター制度に則った取扱いが図られることとなった。 【維持規格2012 年版/2013追補】 *印は、ASMEにも規定されている補修方法 RA 補修・取替の一般要求事項 RA-1000 適用* RA-2000 補修・取替の定義* RA-3000 補修・取替の選択* RA-4000 補修・取替の基本要求事項* RA-5000 補修・取替に伴う検査* RB 補修技術と方法 RB-1000 補修技術の一般要求事項* RB-2000 補修方法* RB-2100 欠陥部の除去* RB-2200 水中での溶接方法* - 219 - 5RB-2210 湿式溶接方法* RB-2220 乾式溶接方法* RB-2300 溶接後熱処理が不要な溶接方法* RB-2310 予熱がある場合のテンパービード 溶接方法* RB-2310.6 同種材の溶接* RB-2310.7 クラッド材の溶接* RB-2310.8 異種材の溶接* RB-2310.9 バタリング材の溶接* RB-2320 予熱がない場合のテンパービード 溶接方法* RB-2400 溶接部の残留応力を緩和する方法 RB-2410 水冷グルーブ溶接方法 RB-2420 水冷溶接方法 RB-2430 外面バタリング溶接方法 RB-2440 高周波誘導加熱方法 RB-2450 ピーニング方法 RB-2460 レーザ外表面照射応力改善方法 RB-2500 表面改質による方法 RB-2510 金属粉末溶融レーザクラッド方法 RB-2520 スリーブ溶融ティグクラッド方法 RB-2530 金属粉末溶射クラッド方法 RB-2600 スリーブによる方法 RB-2610 外面スリーブ方法 RB-2620 内面スリーブ方法 RB-2630 伝熱管スリーブティグ溶接方法* RB-2640 伝熱管スリーブレーザ溶接方法* RB-2650 伝熱管スリーブろう付方法* RB-2660 伝熱管スリーブ拡管方法* RB-2700 施栓による方法* RB-2710 伝熱管溶接施栓方法* RB-2720 伝熱管機械的施栓方法* RB-2800 キャップによる補修方法 RB-2810 容器貫通接合部キャップ補修方法 RB-2900 肉盛り溶接による方法 RB-2910 ウェルドオーバレイ工法 RB-3000 暫定補修方法 RB-3010 当て板による補修方法 RB-3020 接着材による補修方法 RB-3030 充てん材による補修方法 3.補修章の技術評価に関する提案 3.1 福島第一事故を踏まえた国際基準との整合性 3.11 福島第一事故発生の後、日本政府は2011 年6 月と9 月、IAEAに対して28 項目に亘る教訓に学び、対応策を講じる旨を表明した。その内の一つに、「(24)法体系や基準・指針類の整備・強化」があり、次のように報告されている。[2] 「今回の事故を踏まえて、原子力安全や原子力防災の法体系及び関係する基準・指針類の整備について様々な課題が出てきている。また、今回の事故の経験を踏まえ、IAEA の基準・指針に反映すべきことも多く出てくると見込まれる。このため、事故から得られた知見を基に、新たな安全規制の仕組みの導入(バックフィット等)、安全基準の強化、複雑な原子力安全規制法体系の整理を含め、原子力安全や原子力防災の法体系・基準等の見直しを進める計画である。また、今回の事故の解析に基づき、原子炉の基本設計等に関する詳細な評価や、炉型と事故要因との関係の検証を行うとともに、原子炉設計の技術進歩を踏まえ、最新の技術と比較しつつ、既設炉の安全性・信頼性に関する評価を進めていく計画である。また、今回の事故から得られた我が国の経験・知見を、IAEA の基準・指針の検討に積極的に提供していく。」 IAEA Specific Safety Guide No. SSG-25「軽水炉の定期安全レビュー」[3]の5 項において、以下に示す14 種類の重要な安全要素(14 SF)への対応に加えて、全14 SF を含めたシステム安全上の包括的な評価(総合評価) を求めている。 (1) プラント設計* (2) 安全上重要な機器の実態 (3) EQ (4) 経年劣化 (5) 決定論的安全評価 (6) 確率論的安全評価* (7) ハザードに対する安全評価* (8) 安全パフォーマンス (9) 他プラントの運転経験及び研究成果の反映 (10) 組織、管理及び安全文化* (11) 要領書 (12) ヒューマン・ファクター* (13) 緊急時対策* (14) 放射線の環境影響評価* 維持規格の補修章がPSR と直接的に関係するのは、(4)経年劣化と(9)他プラントの運転経験及び研究成果の反映である。即ち、日常保全として、最新知見の反- 220 - 6映を継続的に行なうことを求めているのみである。 福島第一事故が起きた原因に対する対応策、即ち、システム安全上、特に重要なSF は上記*印である。これら国際基準との整合性、国際基準への貢献等の観点から、性能規定化された我が国の規制基準体系の中、更なる合理的、効果的な民間規格の活用が求められている。しかし、現段階において、NRAの性能規定化の動きがNISA時代よりも進んでいるようには見えない。 産官学・学協会が平成5 年以来、様々な視点から検討を重ねて作成した補修・取替技術が、20 年以上経過した現時点においても、2004 年の補修章が制定されて以来、未だ、一度も技術評価がなされていないのは異常である。この様な状態に至った大きな理由の一つとして、2004 年版補修章の技術評価の可否判断における「今後、補修章が体系化され、技術基準との対応が可能となった場合は技術評価を行なう。」という唯一無二の抽象的な見解のみであり、補修章を制定したJSME と技術評価を行なうNRAとの間の十分な意思疎通(コミュニケーション)が図られていないことが挙げられる。既述のように、NRAは、テンパービード溶接方法、キャップ工法、ウェルドオーバレイ工法等の補修技術を基準の別記等に定め、適用可能としている。その努力は認めるものの、これら別記等は仕様規定であり、性能規定化された現在の規格体系においては、本来、仕様規定は民間規格に委ねるべきである。 NRAは、民間規格の技術基準化を促すのではなく、自主制定した民間規格を尊重し、NRAが行う技術基準への適合性の確認(技術評価)において、適用除外とするか、条件を課すような取組が必要なのである。 このままでは、今後も補修章は技術評価対象とならない可能性が高い。NRAが今後もこれら補修・取替・予防保全技術を継続的にNRA自らがSpecific に別記等に定めていくことが適切か、真剣に考えるべきクリフエッジの時期にきている。 米国NRCのいうブレのない規制に倣い、原子力規制上の人材育成、技術伝承の観点も含め、NRAには、様々な意見を取り入れた民間規格(補修章)の迅速な技術評価の実施と技術基準へのエンドースが求められる。 3.2 ASME IWA-4000 補修/取替と検査等との関係 ASME IWA-4000 補修/取替行為の検査等との体系化について参考となる点は次のとおりである。 (1) ASME は、建設時(Section III)と運転時(Section XI) とを明確に分けて独立に基準化している。 (2) 耐圧機器及びそのサポート機器に適用している。(IWA-4110) (3) NPS1 以下は対象外としている。(IWA-4131.1) (4) 耐圧バウンダリーを形成する機械的クランプは対象外である。 (5) 補修/取替行為を行う組織のQA プログラムがあることを前提条件としている。(IWA-4142) (6) Code Case の適用を認めている。 (7) 設計、材料等は基本的に建設コード(Section III)に所有者の要求事項を加えて補修/取替行為を行うこととしている。但し、IWA-4000 に記載されている追加要求を満足することを必須条件としている。 (8) IWA-4400 に記載されている溶接、ろう付、金属除去、製造及び据付を準拠する必要がある。 (9) 金属除去について、比較的詳細に要求事項が記載されている。 (10) 試験検査は建設コード(Section III)、又はIWA-4600、IWA-4700 の試験検査を満足する必要がある。 (11) 水中溶接とテンパービード溶接(PWHT を行わない) を通常溶接の代替工法として認めている。 (12) 熱交換器伝熱管の補修/取替を認めている。(IWA-4700) 3.3 補修章の技術評価に関する提案 NRAは、現時点においても、NISAの「技術基準の性能規定化」の方針を受け継いでいる。2004 年版維持規格の技術評価において、補修章は、前述の理由により、約10 年間技術評価が実施されていない。その間、JSME は、2010 年追補において、その当時のNRAからのコメントに対して、個別技術毎に検査を含む技術基準との関連性の明確化を図っている。このため、NRAは既述したように、これまで経過を踏まえ何らかの技術評価を行わなければならない状況下にある。仮に、今回、補修章を行わないとする場合には、以前のような数行の抽象的なコメントではなく、数例の補修方法の技術評価を行った上で、具体的な問題点、課題を指摘しなければならない段階にきている。 (1) 技術評価が必要と考えられる補修章の対象案件 先ずは、維持規格補修章及びASME Section XI の両方に記載されている項目(P4,P5 の*印)について技術評価を実施する。 (2) 供用期間中検査において、欠陥が発見された場合は、電気事業法第55 条対応となる。事業者がその対応として、先ず、事業者がトピカルレポートを作成(必要に- 221 - 7応じて、事業者は確性試験を行う)し、NRAにノンアクションレターで申請する。NRAは、その技術的内容を審査し、その妥当性を判断の上、事業者に回答する。 (3) 下記3 工法の取扱いについては次のとおりとする。 a テンパービード工法 ASME にも記載されている設備維持に最も必要と考えられる欠陥を残さない補修技術であり、技術基準の性能規定化の観点から補修章のテンパービード溶接方法を技術評価する。この場合、平成25 年6 月19 日に発行された「発電用原子炉施設の溶接事業者検査に係る実用発電用原子炉の設置、運転等に関する規則のガイド」の中でテンパービード溶接方法の適用についての別紙1 での検査要求と対比した技術評価を行う。 b WOL 工法 前述のとおり、規則の解釈の別記-3 に「ウェルドオーバレイ工法の適用に当たって」と題して、維持規格の補修章に相当する詳細な技術的内容が記載されている。したがって、同じく、技術基準の性能規定の観点から、技術評価を行なう。 c キャップ工法 本工法はき裂を残した補修方法であり、既述のように、永久工法ではなく、暫定補修工法であり、機器の健全性が十分な保守性をもって確認できている5 年間(5 サイクル)を適用の年限としていることから、本工法については、技術評価を行わず、ノンアクションレター制度により申請のあったプラント毎にその適合性を判断していくものとする。 3.4 補修技術の技術基準への適合性検討の場[4] NISAは、原子力発電所のより一層の安全性確保のために、平成21 年1 月、法令を改正し、「保全プログラム」を基礎とする検査制度に移行した。新たに導入が見込まれる補修・取替・予防保全技術に対して、積極的に情報収集を行い、その適用性や許認可手続き上の位置付け等について、余裕をもって事前検討を行なうと共に、より円滑な導入環境を整備し、原子力発電所の予防保全の迅速かつ着実な実効を可能とする必要があると判断した。このため、平成20 年6 月、NISAは、JNES 内に事業者、原子炉製造メーカ、NISA及びJNES 等のメンバーで構成される「新保全技術適合性検討作業会(以下、「RNP 」という。)」を設置した。このRNP での事前検討結果を、原子炉安全小委員会「検査技術評価ワーキンググループ」に諮り導入促進を図る体制を構築した。結果的にこの検討の場が活用され、テンパービード溶接工法、キャップ工法及びウェルドオーバレイ工法の審議が行なわれ適用可能となった。 このような新技術の導入プロセスに対して、性能規定化された技術基準に照らし、適用範囲の明確化等の具体的な課題等を事業者、NISA及びJNES 間で共通認識を持つことが重要であり、新技術導入のプロセスは、次の3 種類に分類整理された。 ・プロセス1(特認等を受けた保全技術の適合性確認) 法体系が性能規定化される以前に認可等(特認)を受ける等により、技術基準等の法令への適合性が確認された案件については、現時点でも適合していることを明確化する。このためには、例えば、施工法の確認だけでなく予熱、後熱処理や非破壊検査等の検査基準についてもその取り扱いをNISA指示文書等の発出により明確化する。 ・プロセス2(確性試験等を受けた新技術適合性確認) (財)発電設備技術検査協会の確性試験等により、技術的妥当性の確認を受けている新保全技術に対して、NISA及びJNESは、その適用範囲、適用条件を限定し、その枠内(範囲)で安全性、耐久性、検査性等の技術評価が行われていることを再確認して、このデータを根拠に、技術基準への適合性をRNP で確認する。 ・プロセス3(補修技術等の規格化及び技術評価) JSME が、これまでの導入実績(テンパービード溶接方法等)を踏まえて、維持規格の補修章への規格化、見直しを行い、NISAは、この民間規格を技術評価(エンドース)することで、補修・取替・予防保全技術の導入を図る。 しかしながら、福島第一事故以降、NRAの発足及び新たな規制基準発令と相まって、この検討体制は事実上解散したのである。NRAの誕生以来、規制の独立という点のみが強調され、最も技術情報を保有している事業者との対話の場(意思疎通・コミュニケーション) が失われている。 福島第一事故の発生原因は、システム安全上の問題であり、設備の維持規格(補修)の許認可上の問題ではないことは明らかである。従前のRNP と同様に、規制当局と事業者、原子炉製造メーカ他が十分に議論できる新たな検討の場が必要である。本件は、性能規定化を宣言し、技術評価を行なう側であるNRAからの積極的なアプローチを期待したい。 4.まとめ (1) IAEAのSpecific Safety Guide No. SSG-25「軽水炉の定期- 222 - 8安全レビュー」[3]において、規制及び事業者の両方に対して、過去の運転経験、安全研究成果の反映が重要であり、確率論的安全性評価、ハザードに対する安全評価等を含めた包括的な総合評価が重要であると定めている。即ち、安全上重要な要因(SF)を抽出した重点志向の安全性確保を求めているのである。福島第一原子力発電所の事故は、システム安全上の問題であり、原子力設備の維持(検査、評価及び補修)に関する問題ではないことは明らかである。このような状況に鑑みて、継続性のある規制が必要であり、これまでRNP 等で議論を重ねてきた時間軸の延長上での議論を進めていくことを期待したい。 (2) 当時のNISA による2004 年版維持規格補修章の技術評価に対する可否判断のコメントは、前述のように、不適格かつ不十分な表現であった。我が国の法体系が性能規定化され、JSME の維持規格2004 年版に補修章も含入されて以来10 年以上が経過している。機械学会は、2012 年版(2013 年追補版を含む)の補修章については、規制機関のこれまでの要望に対して真摯に改良・改善を進めてきている。本年6 月18 日、NRA 主催の第1 回維持規格の技術評価に関する検討会が開催され、検査章、評価章は、2008 年版から2012 年版(2013 年追補含む)への変更点の評価を行うこととなった。 しかし、補修章については、技術基準規則第十七条第十五号の溶接に係る性能要求との対比等について規制庁内での検討結果を踏まえ、技術評価の対象範囲を決定すると表明された。しかし、補修章がどの範囲迄を技術評価対象とするかは依然として不透明である。 先ずは、維持規格補修章及びASME Section XI の両方に記載されている共通の補修技術(P4,P5 の*印)から技術評価を進められることを期待したい。 (3) 原子力発電所の建設(創成期)に携わった設計、建設、製造、検査、評価、補修等の技術者の高齢化が進む状況下、国内原子力発電所の建設も皆無に近い。しかしながら、我が国には、廃炉となったプラントも含めて60 基近い原子力発電所が存在しており、そのプラントの安全性維持の観点からの人材育成、技術伝承は極めて重要な課題である。このような状況に鑑み、事業者、原子炉製造メーカ、研究機関、大学等ばかりでなく、NRAの人材育成、技術伝承の観点からも、若い技術者とシニア等が一緒になって議論できる維持規格等の技術評価は、適切な人材育成・技術伝承の場となる。 (4) 最後に、IAEAの原子力発電所の経年劣化管理(Ageing Management ; AEA Safety Guide NS-G-2.12)[5]を紹介して締め括りたい。第1章の「Introductionにおいて、構築物、系統及び機器(SSC)の性能特性の劣化を引き起こす物理的な経年劣化管理(Ageing Management)、並びに機器・構造物(SSC)のObsolescence(旧式化)、即ち、最新の知識、基準、規制及び技術に照らして時代遅れにならないように留意すべきと規定している。また、SSC の物理的な経年劣化によって共通原因故障の確率、即ち、物理的障壁と多重機器の同時劣化事象の確率が増大することがあり、深層防護の1つ又は複数の防護水準を損なう可能性があると警告している。 現在の原子力規制庁は、新規制基準対応審査で多忙を極めているが、プラントの運転が再開された後は、確実に、原子力設備の維持に関する規制対応が急務となる。このような状況下、一度もこれまで技術評価がなされていない補修章に対する前向きな技術評価を期待したい。 参考文献 [1] 総合資源エネルギー調査会原子力安全・保安部会原子炉安全小委員会(第6 回) http://www.meti.go.jp/committee/materials/downloadfiles/ g60105f02j.pdf [2] 国際原子力機関に対する日本国政府の追加報告書- 東京電力福島原子力発電所の事故について . (第1 報)、(第 2 報), 原子力災害対策本部 [3] IAEA Specific Safety Guide No.SSG-25, “Periodic Safety Review for Nuclear Power Plants”, p15-54 [4] 日本保全学会, 第6回学術講演会, “新保全技術の技術基準への適合性確認について” [5] IAEA Specific Safety Guide IAEA Safety Guide NS-G-2.12, 2009, “Ageing Management for Nuclear Power Plants”, p1, 3, 7 - 223 -
“ “補修の規格-技術評価上の課題- “ “菅野 眞紀,Masanori KANNO
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