補修の規格 -ニーズと活用-
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カテゴリ: 第12回
1.緒言
原子力発電所の設備機器の保守においては、機器を点検した結果、多くは異状がなく継続して使用され、一部は劣化の兆候や欠陥が検出され評価された上で継続使用されるものもあるが、欠陥が著しい場合には損傷、破損が発見され、補修または取り替えられる場合も数多くある。また、異状が現れる前から予防保全として有効な緩和措置を講じる場合もある。このように保全活動の中で、補修・取替・予防保全は頻繁に用いられる機器の機能維持の手段であり、極めて重要な活動である。 補修の規格(取替、予防保全を含む。以下同じ)は、このような重要な活動を支える基盤として産業界に必要不可欠なものであるため、我が国でも長く規格化の努力が行われてきた。現在のところ、規制当局により技術評価され、国の技術基準における性能規定に対応した仕様規定として使われるいわゆるエンドースされた状態になるまでには今少しのプロセスが必要な状況であるが、本稿では、なるべく実例を挙げながら、日米の規格の比較も織り交ぜて補修の規格に対する産業界のニーズと活用について述べて
みたい。 2.産業界における基本的ニーズと規格化 事業者が行う点検、評価(欠陥評価)、補修、予防保全等の保全活動においては、適用される技術的方法が規格基準類に裏付けられたものであることが望ましい。また、それらの規格基準類は、規制当局が要求する技術基準等を満足することがあらかじめ確認されていると、適用方法の妥当性の説明が確実かつ容易であり、保安上も経営上も最も好ましい状態であるといえる。 このような観点から、我が国でも産業界において長い間、「補修の規格」を策定する努力がなされてきた。(一財)発電設備技検検査協会(JAPEIC)では、維持規格がまだなかった時代に、原子力発電設備維持に係る維持基準原案:Plant Operation and Maintenance Standard (通称POMS 原案)の名で検査、欠陥評価及び補修からなる維持基準のひな形を策定し[1]、それは検査については(一社)日本電気協会(JEA)の電気技術規程JEAC4205「軽水型原子力発電所用機器の供用期間中検査」(2008 年廃止)を経て、現在の(一社) 日本機械学会(JSME)発電用原子力設備規格維持規格の元となった。 (一社)火力原子力発電技術協会(火原協)は、上記の維持基準原案には含まれないが、応力腐食割れ等の経年劣化事象への考慮の観点から重要な炉内構造物等について、点検・評価・補修の方法、手順等の指針を与えることを目的として、「炉内構造物等点検評価ガイドライン」(以下、JANSI 炉内GL)のシリーズを刊行し、現在は(一社)原子力安全推進協会に引き継がれ、改訂、新規発行が継続的に行われている[2]。これらのガイドラインシリーズの多くは、現在の(一社)日本機械学会(JSME)発電用原子力設備規格維持- 228 -規格の個別検査、個別欠陥評価の元となった他、補修にもいくつかの規定が取り込まれている。 JSME 維持規格[3]は、検査、欠陥評価についてはAmerican Society of Mechanical Engineers (ASME) Boiler & Pressure Vessel Code Section XI (Sec. XI) を参考に、概ね上述したとおり、個別検査、個別欠陥評価としてJANSI 炉内GL を取り入れ、補修についてはPOMS 原案とJANSI 炉内GL を取り入れて出来上がってきたもので、こうした成り立ちを図解したものが図1である。 Fig.1 Overall Scheme of FFS Code JSME 維持規格として、検査、欠陥評価及び補修とひととおりの構成が出来上がったのが2004 年版であり、当時の原子力安全・保安院(NISA)は維持規格の技術評価を行う中で、補修については規格として体系化の途上にあるとして、JSME 側の体系化を待って技術評価を行うとした[4]。JSME ではその後、発電用設備規格委員会の中に専門的に補修の規格について検討するタスクを設けて、維持規格補修規定の国の技術基準への適合性や、検査、欠陥評価と補修との体系化について検討を行い[5]、改訂に反映してきているが、これまでのところ、規制当局により技術評価がなされ、エンドースされた状態になるまでには今少しのプロセスが必要な状況である。 3. 産業界の個別ニーズと規格化の例 3.1 ウェルドオーバーレイ(WOL) WOL 工法は、図2に示すとおり、き裂が発生した配管の周溶接継手に対して、耐IGSCC 性に優れた溶接金属を当該配管の外面全周にわたり複数層肉盛する補修工法である。米国でBWR ステンレス配管溶接部近傍に生じたIGSCC を対象に1000 ヵ所以上の適用実績を有し、ASME Code Sec. XI では既に1997 年にCode Case N-504 が策定されている。 ASME においては、近年ではPWR 容器管台溶接部に生じたPWSCC を対象にN-504 を元に新たなCode Case を策定してきている。また、欠陥が検出される前から予防保全工法としてWOL を適用することも可能としている。 日本においては、2000 年代の前半には国の原子炉安全小委員会機器設計WGにおいてWOL 工法(設計、施工管理、検査)に関する技術基準への適合性が審査され、妥当性が確認されている。その後、火原協(現在はJANSI)の炉内GL 検討会でWOL 工法はガイドライン化され[6]、JSME 維持規格に取り込まれた。しかしながら、実機適用に当たっては、JSME 維持規格における欠陥角度の制限との関係を整理することや、検査性を巡ってPD制度への適用が課題とされ、これらの検討にさらに時間を要した。それらもやがてクリアされ、最終的には2009 年にNISA による省令62 号第9 条の解釈を与える文書(き裂解釈文書)に別記-13 としてWOL 工法の適用に当たっての要件が追記されることで、WOL 工法が完全に適用可能となった[7]。しかしながら、JSME 規格の形でエンドースされたわけではなく、この意味でまだ完成形には至っていない。 Fig. 2 Concept of Weld Overlay なお、ASME は最近では、WOL の発展形とも考えられる配管内面を切削して耐食性に優れた溶接金属により埋め戻すExcavate Weld Repair (EWR)のCode Case 策定に取り組んでおり、これについても予防保全工法としての適用も可能としている[8]。 - 229 -3.2 封止溶接 封止溶接工法は、図3に示すとおり、SCC き裂を残したまま直接肉盛溶接を行い、SCC き裂を炉水環境から遮断する工法である。 この工法は国内でもBWR のICM ハウジングやPWR の上蓋管台への適用実績があることで知られている。火原協(現在はJANSI)の炉内GL でガイドラインが策定され、その後JSME 維持規格に取り込まれている。 ASME においては、Weld Inlay(SCC き裂部を切削して肉盛溶接の高さを周囲の表面に合わせるように埋め戻す)またはWeld Onlay(通常の意味の肉盛溶接) と称しCode Case が策定されている。やはりこれらの工法も予防保全工法としても適用可能としている。 Fig.3 Concept of Seal Welding 3.3 暫定補修工法 JSME 維持規格には暫定補修工法である当て板、接着材、充填材の3工法の規定があり、実機運転管理上のニーズに基づく貴重な役割を持っている。図4 に充填材の例を示した。 しかし、接着材及び充填材の規定には、規定そのままでは施工が困難になる、適用範囲が狭すぎる、部品の手配に時間がかかり過ぎる、並びに規定通りに施工すると過剰な構造になってしまう等の課題がある。 これらの課題解決のためには、新規の接着材工法の開発、適用範囲拡大及び規格化、充填材部品の標準化、並びにシール部に対する充填材工法適用の考え方を見直すことが有効と考えられる[10]。 ASME においては、当て板には類似の工法があるものの、接着材や充填材はなく、日本の維持規格に独自なものである。使い勝手をよくする規格改訂を期待する。 Fig. 4 Concept of Infill 3.4 予防保全工法 予防保全は事後保全と対をなす概念であり、この意味で補修・取替とともに適用すれば保全の有効性を高めるのに有効である。 このため、予防保全工法の効果を技術的根拠に基づき確認した上で規格化し、それを適用して効果を実機の保全計画に反映するようにすれば、弾力的、戦略的な設備管理に寄与することができる。例えば、SCC き裂の予防のためピーニングを施工する等においては、JSME 規格の規定が既に策定されており、施工後の検査時期を見込む上で施工時を供用開始時点とみなすことができるようになっている。 ASME においては、日本でのピーニング技術の開発も参考に、これまでなかった予防保全工法の規格化を進めており、日本の規格の高度化にも参考になると考えられるため、注視すべきである。 4.補修規格の積極的な活用に向けて 4.1 「補修」の可能性を拓く 補修は確かに事後保全の一種であるが、設計・建設規格や溶接規格を適用して製造された機器、設備、系統ひいてはプラントが、供用期間に入り、補修を経験し、その後の検査等を行っていく過程は維持規格の適用範囲であり、特に補修の規定によって定められるべきプロセスである。それには結果として設計・建設規格や溶接規格と同じ健全性の水準を持つルールが適用されるであろうが、決して同一のルールでなければならないということではないであろう。 例えば、補修の適用によって、一般に、その後の検査要求は変わり得ると考えられる。そのように考えると、補修を事後保全だからといって消極的に捉えるのではなく、むしろ新しい過程に入っていくこ- 230 -とを積極的に捉えて、対象機器の保全計画を戦略的に変えていく可能性を拓くものとみなすことができるだろう。そのためには補修の規格を、このような認識の下に「体系化」していく必要がある。 4.2 規格にどこまで詳細を規定すべきか 規格は、一般に、何をどのように制限するかを明らかにしたものと考えられる。例えば、設計・建設規格においては、一次一般膜応力を温度と材料によって定まる許容値以下に制限する、などである。応力の求め方は、いかにして、という部分であり、解析手法が高度に発達し共有化された現代においては、その部分はいちいち規格に書く必要はない。 しかしながら、補修の規格においては、基本的な支配因子をどのように制限するかを書いただけでは補修工法に関する具体性に欠け、抽象的に過ぎる印象が強い。このため、いかにして、の部分を相当に個別具体的に記述すべしとの論がある。 これについては、JSME の場や技術評価の場でも相当に議論が行われてきているものの、立場等により考え方になお差異が残っているのが実情である。学会の場での公開論文等、依拠できるものが明確な場合には極力それに依ることはおそらく共有できると考えるが、メーカノウハウの保護と規格への記載事項との整理等、なお議論が必要な点について、規格に何をどこまで規定すべきかという観点で、しっかりと議論していくことが重要である。 5.結言 補修技術のユーザの立場から、補修の規格について、ニーズと活用の観点から、これまでの日本での規格化の経緯を整理し、個別ニーズと規格化の例を挙げて紹介した。また、補修規格の積極的な活用に向けて、補修の可能性という視点を提供し、規格への規定の詳細度について考察した。 今後の補修の規格の発展とよりよい活用に向けた一助になれば幸いである。 謝辞 補修の規格という題材でシリーズ発表するアイデアをお伝えしたところ、菅野眞紀氏、小山幸司氏、青木孝行氏に快く応じて頂いた。また、この一連の発表を含むセッションの座長にとの依頼に対し、藤森治男氏にご快諾頂いた。このシリーズの実現はもっぱらこれら先輩諸氏のご賛同の賜物であり、心より感謝申し上げる。 参考文献 [1] 「原子力発電設備維持に係る維持基準について」、発電設備技術検査協会、平成8 年3 月 [2] 例えば、「炉内構造物等点検評価ガイドラインについて(第4 版)」JANSI-VIP-03、(一社)原子力安全推進協会、2013 年 [3] 最新年版は、発電用原子力設備規格維持規格2012 年版(JSME S-NA1-2012),(一社)日本機械学会,2013 年3 月(ただし、2014 年追補まで発行済) [4] 日本機械学会「発電用原子力設備規格 維持規格(JSME S NA1-2004)」(2004 年版)の技術評価書、平成19 年8 月原子力安全・保安院、独立行政法人 原子力安全基盤機構、p114 [5] 例えば、Nishikawa, A., et al., Study on Requirements to be Fulfilled with Rules for Repair Replacement Activities in JSME Code on Fitness-for-Service, PVP2009-77112, Prague, Czech Republic, July 26-30, 2009[6] Fujimori, H. et al., Guideline of Weld Overlay Repair Method for Primary Piping of Japanese BWRS, PVP2006-ICPVT11-9369, Vancouver, BC, Canada, July 23-27, 2006 [7] ウェルドオーバーレイ工法の適用に係る発電用原子力設備に関する技術基準を定める省令の解釈についての改正等について、平成21年8月1 1日、原子力安全技術基盤課 [8] McCracken, S., Mitigation - Excavate and Weld Repair, Industry/U.S. NRC Materials Program Meeting, Rockville, MD, Thursday June 6, 2013 [9] 田中賢彰ら、CRD スタブチューブ溶接部の封止溶接技術の開発、第7 回保全学会学術講演会 [10] Dozaki, K., et al., Rules for Temporary Repair Techniques in JSME Fitness-for-Service Code and Their Challenges, PVP2015-45903, Boston, Massachusetts, USA, July 19-23, 2015 (to be published) - 231 -
“ “補修の規格 -ニーズと活用- “ “堂﨑 浩二,Koji DOZAKI
原子力発電所の設備機器の保守においては、機器を点検した結果、多くは異状がなく継続して使用され、一部は劣化の兆候や欠陥が検出され評価された上で継続使用されるものもあるが、欠陥が著しい場合には損傷、破損が発見され、補修または取り替えられる場合も数多くある。また、異状が現れる前から予防保全として有効な緩和措置を講じる場合もある。このように保全活動の中で、補修・取替・予防保全は頻繁に用いられる機器の機能維持の手段であり、極めて重要な活動である。 補修の規格(取替、予防保全を含む。以下同じ)は、このような重要な活動を支える基盤として産業界に必要不可欠なものであるため、我が国でも長く規格化の努力が行われてきた。現在のところ、規制当局により技術評価され、国の技術基準における性能規定に対応した仕様規定として使われるいわゆるエンドースされた状態になるまでには今少しのプロセスが必要な状況であるが、本稿では、なるべく実例を挙げながら、日米の規格の比較も織り交ぜて補修の規格に対する産業界のニーズと活用について述べて
みたい。 2.産業界における基本的ニーズと規格化 事業者が行う点検、評価(欠陥評価)、補修、予防保全等の保全活動においては、適用される技術的方法が規格基準類に裏付けられたものであることが望ましい。また、それらの規格基準類は、規制当局が要求する技術基準等を満足することがあらかじめ確認されていると、適用方法の妥当性の説明が確実かつ容易であり、保安上も経営上も最も好ましい状態であるといえる。 このような観点から、我が国でも産業界において長い間、「補修の規格」を策定する努力がなされてきた。(一財)発電設備技検検査協会(JAPEIC)では、維持規格がまだなかった時代に、原子力発電設備維持に係る維持基準原案:Plant Operation and Maintenance Standard (通称POMS 原案)の名で検査、欠陥評価及び補修からなる維持基準のひな形を策定し[1]、それは検査については(一社)日本電気協会(JEA)の電気技術規程JEAC4205「軽水型原子力発電所用機器の供用期間中検査」(2008 年廃止)を経て、現在の(一社) 日本機械学会(JSME)発電用原子力設備規格維持規格の元となった。 (一社)火力原子力発電技術協会(火原協)は、上記の維持基準原案には含まれないが、応力腐食割れ等の経年劣化事象への考慮の観点から重要な炉内構造物等について、点検・評価・補修の方法、手順等の指針を与えることを目的として、「炉内構造物等点検評価ガイドライン」(以下、JANSI 炉内GL)のシリーズを刊行し、現在は(一社)原子力安全推進協会に引き継がれ、改訂、新規発行が継続的に行われている[2]。これらのガイドラインシリーズの多くは、現在の(一社)日本機械学会(JSME)発電用原子力設備規格維持- 228 -規格の個別検査、個別欠陥評価の元となった他、補修にもいくつかの規定が取り込まれている。 JSME 維持規格[3]は、検査、欠陥評価についてはAmerican Society of Mechanical Engineers (ASME) Boiler & Pressure Vessel Code Section XI (Sec. XI) を参考に、概ね上述したとおり、個別検査、個別欠陥評価としてJANSI 炉内GL を取り入れ、補修についてはPOMS 原案とJANSI 炉内GL を取り入れて出来上がってきたもので、こうした成り立ちを図解したものが図1である。 Fig.1 Overall Scheme of FFS Code JSME 維持規格として、検査、欠陥評価及び補修とひととおりの構成が出来上がったのが2004 年版であり、当時の原子力安全・保安院(NISA)は維持規格の技術評価を行う中で、補修については規格として体系化の途上にあるとして、JSME 側の体系化を待って技術評価を行うとした[4]。JSME ではその後、発電用設備規格委員会の中に専門的に補修の規格について検討するタスクを設けて、維持規格補修規定の国の技術基準への適合性や、検査、欠陥評価と補修との体系化について検討を行い[5]、改訂に反映してきているが、これまでのところ、規制当局により技術評価がなされ、エンドースされた状態になるまでには今少しのプロセスが必要な状況である。 3. 産業界の個別ニーズと規格化の例 3.1 ウェルドオーバーレイ(WOL) WOL 工法は、図2に示すとおり、き裂が発生した配管の周溶接継手に対して、耐IGSCC 性に優れた溶接金属を当該配管の外面全周にわたり複数層肉盛する補修工法である。米国でBWR ステンレス配管溶接部近傍に生じたIGSCC を対象に1000 ヵ所以上の適用実績を有し、ASME Code Sec. XI では既に1997 年にCode Case N-504 が策定されている。 ASME においては、近年ではPWR 容器管台溶接部に生じたPWSCC を対象にN-504 を元に新たなCode Case を策定してきている。また、欠陥が検出される前から予防保全工法としてWOL を適用することも可能としている。 日本においては、2000 年代の前半には国の原子炉安全小委員会機器設計WGにおいてWOL 工法(設計、施工管理、検査)に関する技術基準への適合性が審査され、妥当性が確認されている。その後、火原協(現在はJANSI)の炉内GL 検討会でWOL 工法はガイドライン化され[6]、JSME 維持規格に取り込まれた。しかしながら、実機適用に当たっては、JSME 維持規格における欠陥角度の制限との関係を整理することや、検査性を巡ってPD制度への適用が課題とされ、これらの検討にさらに時間を要した。それらもやがてクリアされ、最終的には2009 年にNISA による省令62 号第9 条の解釈を与える文書(き裂解釈文書)に別記-13 としてWOL 工法の適用に当たっての要件が追記されることで、WOL 工法が完全に適用可能となった[7]。しかしながら、JSME 規格の形でエンドースされたわけではなく、この意味でまだ完成形には至っていない。 Fig. 2 Concept of Weld Overlay なお、ASME は最近では、WOL の発展形とも考えられる配管内面を切削して耐食性に優れた溶接金属により埋め戻すExcavate Weld Repair (EWR)のCode Case 策定に取り組んでおり、これについても予防保全工法としての適用も可能としている[8]。 - 229 -3.2 封止溶接 封止溶接工法は、図3に示すとおり、SCC き裂を残したまま直接肉盛溶接を行い、SCC き裂を炉水環境から遮断する工法である。 この工法は国内でもBWR のICM ハウジングやPWR の上蓋管台への適用実績があることで知られている。火原協(現在はJANSI)の炉内GL でガイドラインが策定され、その後JSME 維持規格に取り込まれている。 ASME においては、Weld Inlay(SCC き裂部を切削して肉盛溶接の高さを周囲の表面に合わせるように埋め戻す)またはWeld Onlay(通常の意味の肉盛溶接) と称しCode Case が策定されている。やはりこれらの工法も予防保全工法としても適用可能としている。 Fig.3 Concept of Seal Welding 3.3 暫定補修工法 JSME 維持規格には暫定補修工法である当て板、接着材、充填材の3工法の規定があり、実機運転管理上のニーズに基づく貴重な役割を持っている。図4 に充填材の例を示した。 しかし、接着材及び充填材の規定には、規定そのままでは施工が困難になる、適用範囲が狭すぎる、部品の手配に時間がかかり過ぎる、並びに規定通りに施工すると過剰な構造になってしまう等の課題がある。 これらの課題解決のためには、新規の接着材工法の開発、適用範囲拡大及び規格化、充填材部品の標準化、並びにシール部に対する充填材工法適用の考え方を見直すことが有効と考えられる[10]。 ASME においては、当て板には類似の工法があるものの、接着材や充填材はなく、日本の維持規格に独自なものである。使い勝手をよくする規格改訂を期待する。 Fig. 4 Concept of Infill 3.4 予防保全工法 予防保全は事後保全と対をなす概念であり、この意味で補修・取替とともに適用すれば保全の有効性を高めるのに有効である。 このため、予防保全工法の効果を技術的根拠に基づき確認した上で規格化し、それを適用して効果を実機の保全計画に反映するようにすれば、弾力的、戦略的な設備管理に寄与することができる。例えば、SCC き裂の予防のためピーニングを施工する等においては、JSME 規格の規定が既に策定されており、施工後の検査時期を見込む上で施工時を供用開始時点とみなすことができるようになっている。 ASME においては、日本でのピーニング技術の開発も参考に、これまでなかった予防保全工法の規格化を進めており、日本の規格の高度化にも参考になると考えられるため、注視すべきである。 4.補修規格の積極的な活用に向けて 4.1 「補修」の可能性を拓く 補修は確かに事後保全の一種であるが、設計・建設規格や溶接規格を適用して製造された機器、設備、系統ひいてはプラントが、供用期間に入り、補修を経験し、その後の検査等を行っていく過程は維持規格の適用範囲であり、特に補修の規定によって定められるべきプロセスである。それには結果として設計・建設規格や溶接規格と同じ健全性の水準を持つルールが適用されるであろうが、決して同一のルールでなければならないということではないであろう。 例えば、補修の適用によって、一般に、その後の検査要求は変わり得ると考えられる。そのように考えると、補修を事後保全だからといって消極的に捉えるのではなく、むしろ新しい過程に入っていくこ- 230 -とを積極的に捉えて、対象機器の保全計画を戦略的に変えていく可能性を拓くものとみなすことができるだろう。そのためには補修の規格を、このような認識の下に「体系化」していく必要がある。 4.2 規格にどこまで詳細を規定すべきか 規格は、一般に、何をどのように制限するかを明らかにしたものと考えられる。例えば、設計・建設規格においては、一次一般膜応力を温度と材料によって定まる許容値以下に制限する、などである。応力の求め方は、いかにして、という部分であり、解析手法が高度に発達し共有化された現代においては、その部分はいちいち規格に書く必要はない。 しかしながら、補修の規格においては、基本的な支配因子をどのように制限するかを書いただけでは補修工法に関する具体性に欠け、抽象的に過ぎる印象が強い。このため、いかにして、の部分を相当に個別具体的に記述すべしとの論がある。 これについては、JSME の場や技術評価の場でも相当に議論が行われてきているものの、立場等により考え方になお差異が残っているのが実情である。学会の場での公開論文等、依拠できるものが明確な場合には極力それに依ることはおそらく共有できると考えるが、メーカノウハウの保護と規格への記載事項との整理等、なお議論が必要な点について、規格に何をどこまで規定すべきかという観点で、しっかりと議論していくことが重要である。 5.結言 補修技術のユーザの立場から、補修の規格について、ニーズと活用の観点から、これまでの日本での規格化の経緯を整理し、個別ニーズと規格化の例を挙げて紹介した。また、補修規格の積極的な活用に向けて、補修の可能性という視点を提供し、規格への規定の詳細度について考察した。 今後の補修の規格の発展とよりよい活用に向けた一助になれば幸いである。 謝辞 補修の規格という題材でシリーズ発表するアイデアをお伝えしたところ、菅野眞紀氏、小山幸司氏、青木孝行氏に快く応じて頂いた。また、この一連の発表を含むセッションの座長にとの依頼に対し、藤森治男氏にご快諾頂いた。このシリーズの実現はもっぱらこれら先輩諸氏のご賛同の賜物であり、心より感謝申し上げる。 参考文献 [1] 「原子力発電設備維持に係る維持基準について」、発電設備技術検査協会、平成8 年3 月 [2] 例えば、「炉内構造物等点検評価ガイドラインについて(第4 版)」JANSI-VIP-03、(一社)原子力安全推進協会、2013 年 [3] 最新年版は、発電用原子力設備規格維持規格2012 年版(JSME S-NA1-2012),(一社)日本機械学会,2013 年3 月(ただし、2014 年追補まで発行済) [4] 日本機械学会「発電用原子力設備規格 維持規格(JSME S NA1-2004)」(2004 年版)の技術評価書、平成19 年8 月原子力安全・保安院、独立行政法人 原子力安全基盤機構、p114 [5] 例えば、Nishikawa, A., et al., Study on Requirements to be Fulfilled with Rules for Repair Replacement Activities in JSME Code on Fitness-for-Service, PVP2009-77112, Prague, Czech Republic, July 26-30, 2009[6] Fujimori, H. et al., Guideline of Weld Overlay Repair Method for Primary Piping of Japanese BWRS, PVP2006-ICPVT11-9369, Vancouver, BC, Canada, July 23-27, 2006 [7] ウェルドオーバーレイ工法の適用に係る発電用原子力設備に関する技術基準を定める省令の解釈についての改正等について、平成21年8月1 1日、原子力安全技術基盤課 [8] McCracken, S., Mitigation - Excavate and Weld Repair, Industry/U.S. NRC Materials Program Meeting, Rockville, MD, Thursday June 6, 2013 [9] 田中賢彰ら、CRD スタブチューブ溶接部の封止溶接技術の開発、第7 回保全学会学術講演会 [10] Dozaki, K., et al., Rules for Temporary Repair Techniques in JSME Fitness-for-Service Code and Their Challenges, PVP2015-45903, Boston, Massachusetts, USA, July 19-23, 2015 (to be published) - 231 -
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