凝固シミュレーション技術を活用した異材継手部の 超音波探傷シミュレーション

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カテゴリ: 第12回
1.緒言
オーステナイト系ステンレス鋼溶接部やニッケル基合金溶接部の超音波探傷試験(UT)によるき裂の検出、サイジングにおいて、その溶接金属部は柱状晶組織(集合組織)であるため、音響異方性等による超音波ビームの屈曲、減衰、ノイズ(散乱)等によりUT 結果の評価が困難な場合がある。超音波伝搬シミュレーションにより超音波の伝搬方向やノイズ、減衰等を把握できれば、UT 条件の最適化やUT 結果の評価方法を検討するのに有効であると考えられる。 柱状晶組織や圧延鋼板等の集合組織が音響異方性を有することは、音速測定の結果により知られている[1,2]。柱状晶組織における音速分布は横等方性を示すことから、UT シミュレーションでは六方晶モデルとして扱われ、超音波の伝搬経路が再現されてきた[3,4]。また、柱状晶組織を後方散乱電子回折像(EBSP)測定し、結晶方位から柱状晶を結晶として扱いモデル化する方法も提案されて いる[5,6]。ステンレス鋳鋼のシミュレーションモデルでは、柱状晶組織を結晶として扱い、実際の結晶構造に基づいた立方晶モデルを用いることにより超音波の散乱も再現できることが示唆されている[7]。溶接金属の柱状晶組織のUT シミュレーションにおいては、柱状晶組織を結晶として扱うために、柱状晶組織の形状や結晶方位が必要となるが、溶接条件によって柱状晶組織は異なる。従って、溶接金属の柱状晶組織を予測する手法があれば、UT シミュレーションと組み合わせることによって、溶接部の超音波伝搬特性を簡便に把握することが出来ると考えられる。 本研究では、断面の実測を伴わずに、簡便にある程度の溶接条件を反映する柱状晶組織のモデル化方法として、凝固シミュレーションに基づく溶接金属の柱状晶組織予測手法を検討しており、本稿では、低合金鋼製の容器とステンレス配管の溶接部を想定した異材継手部のモデル化方法を検討し、作成した異材継手モデルをUT シミュレーション解析へ適用した。
2.溶接金属の柱状晶組織予測手法 柱状晶の組織予測は、鋳造組織に対する凝固シミュレーションに用いられている手法[8,9]を溶接部へ応用し、熱伝導と溶接拡散の計算は差分法で、核生成と核成長には結晶粒径を程度の大きさのセルを用いてモンテカルロ法で計算する手法である[10]。UT シミュレーションにおいて柱状晶組織をモデル化するために必要な、柱状晶の寸法(幅や長さ)、結晶粒界の形状、結晶方位の情報は凝固シミュレーションから予測でき、柱状晶の成長方向の結晶方位は、溶融境界の母材から結晶成長したセルの熱流方向の計算結果をもとに設定した。熱流方向毎に固有のセル番号を設定し、熱流方向が同じセル番号の場合は一つの柱状晶とみなすようにしている[10]。 図1 にモデル化の対象とした異材継手の開先を示す。対象とする異材継手は低合金鋼製の容器のノズルとステンレス配管(セーフエンド)の溶接部であり、低合金鋼の裏面にクラッド溶接と、突合せ溶接部の低合金鋼側にバタリングが施されている継手とした。溶接の順序は、クラッド溶接、バタリングの溶接そして突合せ溶接となるが、今回のモデルでは、図2 に示すように個々に柱状晶組織を予測し、各々の予測結果を合成して作成した。したがって、突合せ溶接金属とバタリングの境界やクラッドとバタリングの境界については、結晶方位は連続していない。また、実際の継手は多層盛溶接となるが、現時点では近似的に溶接パスを一つにグルーピングしたモデルとして溶接部に一括で入熱を与える手法を用いた。凝固シミュレーションの条件は、差分格子間隔250μm、六角形のモンテカルロセルのサイズは母材の結晶粒と同等の50μmとし、Fe-18%Cr-8%Ni のオーステナイト系ステンレス鋼とNi-8%Fe-14%Crニッケル基合金の物性値を用いてパラメータを設定した。図3 に凝固シミュレーション結果を示す。突合せ溶接部とバタリング部の境界約1mm未満の領域で結晶粒が細かくなっており、今後の検 Fig.1 Dissimilar metal weld joint. (a) Butt weld (b) buttering weld (c) Clad weld Fig.2 Weld parts constituting dissimilar metal weld joint. Fig.3 Result of solidification simulation. - 270 - 討課題の一つであるが、おおむね異材継手の柱状晶組織が再現されているといえる。 3.超音波探傷シミュレーション 凝固シミュレーションにより計算した柱状晶モデルを用いてUT シミュレーションを行った。UT シミュレーションのソルバーは市販のFEMコード(伊藤忠テクノソリューションズ社製 ComWAVE)を用いた。凝固シミュレーションの結果として、各セルの座標とセル番号を出力し、UT シミュレーションのFEMメッシュに変換して適用した。図4 にUT シミュレーションの設定条件を示す。異材継手部の探傷に一般に用いられている縦波2MHz 45 度斜角探触子をモデル化して探傷面におき、2mm刻みで探触子を走査する条件で、溶接部の両側から各々の探触子位置での探傷波形を求めた。今回の解析で波振動子の高さを12.5mm とした。各材料に設定した物性値を表1 に示す。 図5 はシミュレーション解析結果で得られた波形をB スコープ表示したものである。図(a)と(b)は各々セーフエンド側から超音波を入射した条件及びノズル側から超音波を入射した条件である。ともに、解析モデル(溶接部の形状等)を重ねて表示しており、溶接金属と母材の溶融境界部から発生する指示や溶接金属内部(柱状晶の境界部等)から発生する指示が再現されている今後、複数の条件の欠陥を設定したモデルでも解析するとともに、実験データと比較した検証も行う予定である。 (a)UT from stainless steel side (b)UT from low alloy steel side Fig.4 Setting conditions of UT simulation. Table 1 Physical properties for materials. Material Wave velocity (km/s) Density (kg/m3) Longitudinal wave Transverse wave Low alloy steel 5.9 3.23 7.9x103 Stainless steel (Base metal) 5.7 3.1 7.9x103 Wedge 2.33 1.43 1.18x103 Elastic stiffness (GPa) Stainless steel (Weld metal) C11=216, C12=145, C44=129 7.9x103 Ni-based alloy (Weld metal) C11=233, C12=130, C44=98 8.0x103 (a)UT from stainless steel side (b)UT from low alloy steel side Fig.5 Result of UT simulation(non flaw model) Echo from boundary between columnar crystals Echo from fusion boundary Echo from fusion boundary Echo from boundary between columnar crystals - 271 - 4.まとめ 簡便なモデルにより凝固シミュレーションを行い異材継手部の溶接金属の柱状晶組織を予測し、UT シミュレーションモデルに適用し、シミュレーションを行った。その結果、溶融境界や柱状晶境界部で発生する支持が再現されていることを確認した。今後、柱状晶組織の予測精度向上を図り実際の溶接組織や探傷結果と比較して精度検証を行う予定である。 参考文献 [1] 松本ら、”ステンレス鋼オーバーレイの減衰、音速の方位依存性”、非破壊検査、第32 巻、第2 号(1983) p.134 [2] 廣瀬ら、”音響異方性を有する材料中における超音波伝搬特性”、非破壊検査、第39 巻、第2 号(1991)P.74 [3] J.A.Ogilvy, ““A model for elastic wave propagation in anisotropic media with applications to ultrasonic inspection through austenitic steel““, British Journal of NDT, January 1985, P.13 [4] J.A.Ogilvy, ““An iterative ray tracing model for ultrasonic nondestructive testing““, NDT & E International Volume 25 Number 1 1992, P.3 [5] C Nageswaran et al., ““Microstructural quantification, modeling and array ultrasonics to improve the inspection of austenitic welds““, Insight, Vol. 51., No. 12 December 2009, P.1 [6] 中畑ら、”異材溶接部のイメージベース波動伝搬シミュレーションとその実験的検証”、保全学、Vol.10、No.2 (2011)P.49 [7] 坂本ら、”ステンレス鋳鋼配管における超音波伝搬シミュレーション”、保全学、Vol.11、No.2(2012)P.77 [8] P.Zhu et al., Acta metall. mater., 40(12), 1992, p.3369 [9]野上他、まてりあ、42(10)、2003、p.731 [10]水野他、第21 回超音波による非破壊評価シンポジウム講演論文集、2014、p.185 - 272 -
“ “凝固シミュレーション技術を活用した異材継手部の 超音波探傷シミュレーション “ “古川 敬,Takashi FURUKAWA,上山 芳教,Yoshinori KAMIYAMA,水野 亮二,Ryoji MIZUNO
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