3 次元複雑曲面形状向け 超音波伝播シミュレーション技術の開発
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カテゴリ: 第12回
1.緒言
原子力プラントにおける圧力容器(RPV)と配管に対しては、規格により超音波検査(UT)での定期検査が義務付けられており、各種配管とRPVを接続するノズル部も定期検査の対象箇所である[1]。検査箇所であるノズルの内面R 部(ノズルコーナ部)における検査範囲と探触子走査方法をFig.1 に示す。ノズルの周方向及び半径方向に探触子を走査し、検査範囲であるノズルコーナ部に超音波ビームを入射させて探傷を実施する。この際、ノズルコーナ部全域をカバーするため、探触子走査範囲等の探傷条件を事前に求める必要がある(以後、探傷計画と呼称する)。しかしながら、ノズルコーナは探触子走査面と検査範囲が共に鞍型構造の3 次元曲面となるため超音波伝播経路の解析が難しく、より効率的な解析技術が望まれている。 そこで、3 次元複雑曲面形状の関数化と仮想スキャナの定義により、探触子走査と超音波伝播経路を高速・高精度に解析するシミュレーション技術を開発した。探触子走査範囲等の探傷条件解析を自動化して結果を3 次元で可視化することで、探傷計画の高度化を図った。 Inspection volume
(Nozzle-corner) Probe Ultrasonic beam NozzleRadial scanning Circumferential scanning Fig.1 The inspection volume and the probe scanning pattern for the nozzle-corner. 2.超音波伝播シミュレーション 2.1 システム構成 開発したシミュレータのシステム構成をFig.2 に示す。超音波の伝播を幾何光学的に取り扱い、音線と呼ばれる直線で表現した超音波ビームの伝播経路をレイトレース解析により計算する[2] 。(1)モデル定義部では、被検体の3 次元複雑曲面形状モデルと、プローブ走査を模擬す連絡先: 大島佑己、〒319-1221 茨城県日立市大みか町7-2-1、(株)日立製作所 研究開発グループ、 E-mail: yuki.ohshima.ep@hitachi.com - 273 -る仮想スキャナを定義・生成する。(2)3D レイトレース部では、(1)で生成したモデルデータに基づく3D レイトレース解析により探触子位置軌跡や超音波ビームの伝播経路を計算する。(3)結果評価部では、(2)での計算結果に基づき探触子走査範囲等の様々な検査条件を解析・評価する。 Analysis unit (2) 3D raytrace part (1) Model definition part (3) Result evaluation part . 3D complex curved surface . Virtual scanner Input unit Display unit Fig.2 Configuration of the ultrasonic propagation simulation system for 3D complex curved surface shape. 2.2 3 次元複雑曲面形状モデル 被検体表面にて反射・透過する際の超音波ビームの伝播方向は被検体表面の法線方向に依存する。曲面における法線方向は連続的に変化するため、伝播経路を正確に解析するためには、被検体形状モデルにおける曲面を滑らかに表現することが重要である。一般に3 次元形状を表現する手法として、曲面を微小な多角形であるポリゴンの集合体として表現する方法があるが、法線方向の変化は離散的で滑らかな曲面を再現するためには多くのポリゴンが必要であり、演算処理に要する時間が長くなる。 そこで本シミュレータでは、被検体の曲面形状を関数として定義することで、滑らかな曲面を表現しつつ高速な演算を可能とした。関数化によりパラメータ変更のみで被検体形状を変更できるので、寸法違いの被検体を容易にカバーできる。 曲面形状の関数化に関して、ノズル部のように2 つの円筒が接合された形状を例に簡単に説明する。Fig.3 に関数表現の概念図を示す。3 次元空間上の任意座標X=(x,y,z) に対し、ノズル外表面S1を表す関数をg(X)、RPV 外表面S2 を表す関数をh(X)とすると、それぞれ円筒面を表す式 (1) 及び (2) で表現できる。 2to 2 2 g(X) . x . y . R (1) 2vo 2 2 h(X) . y . z . R (2) ここで、Rtoはノズルの半径、RvoはRPV の半径である。また、2 つの曲面S1、S2の接続部に形成されるR部S3を表す関数f(g(X), h(X)) は、関連する曲面の関数をパラメトリックに混合するポテンシャル法と呼ばれる補間曲面表現法に基づき定義した[3]。関数f(g(X), h(X)) は、Fig.3(b) に示すg(X)-h(X) 関数空間上において、稜線を表す関数LA(X) 及びLB(X) により定義される境界条件を満たす楕円で表現されており、1 階微分値も連続的に変化する滑らかな3 次元曲面を表現している。 S1: g(X) = 0 S2: h(X) = 0 zy S3: f(g(X), h(X)) = 0 xLB(X) LA(X) h(X) g(X) (0,0) LA(X)=0 f(g(X), h(X)) LB(X)=0 (0,bp) (ap,0) (a) (b) Fig.3 Definition of curved surface functions for nozzles. (a) Schematic of curved surface functions. (b) Schematic of corner R function on g(x)-h(x) function plane. 2.3 仮想スキャナ 探傷時の超音波探触子の走査を模擬するためには、周方向及び半径方向の走査量を規定する仮想スキャナのメカ座標から、3 次元空間における探触子の位置や姿勢を算出する座標変換が必要である。 ノズルコーナを探傷するための仮想スキャナの軸構成例をFig.4 に示す。このスキャナは最低3 軸構成で、探触子を周方向及び半径方向に走査するための制御軸X 及びα を有する。それぞれメカ座標 (X, α) に従い回転制御され、倣い制御軸Z により探触子を被検体表面に押付ける。 α-axis X-axis ‐+ + ‐Probe h1 z xy r Control axis: No.1: X-axis No.2: α-axis Copy control axis: No.3: Z-axis Z-axis Lz3 Lx3 Ly3 Lz2 Lx2 Lx1 Lz1 Ly1 h2(X,α) Fig.4 Example of the axis constitution of the virtual scanner for nozzle-corner UT. - 274 -本シミュレータにおける仮想スキャナは、各軸パーツの動きを親パーツとの位置関係を、回転移動と平行移動を一つの4×4 行列で表す同時変換行列iMi+1 として定義し、それらを連結することで構築した。i 番目の軸のローカル座標系における座標 iP を、i-1 番目の座標系における座標 i-1P に変換するための同時変換行列i-1Mi を式 (3) に示す。 . ...... . ...... . . 0 0 0 1 R R R TR R R TR R R Txz yz zz zxy yy zy yxx yx zx x i i 1M (3) ここで、Rxx~Rzzが回転移動、Tx~Tzは平行移動を表すスカラー量である。各スカラー量は仮想スキャナの構造に依存した固定値、またはメカ座標(X, α) に基づき変化する変数となる。例として、第1 の制御軸であるX 軸の同時変換行列0M1を式 (4) に示す。 . ...... . ...... . . 0 0 0 1 0 0 1 sin cos 0 sin cos sin 0 cos 101 h X X - r X X X r X M (4) ここで、X はメカ座標の周方向位置制御角X、r 及びh1 はFig.4 中に示すように第1 軸の相対位置を表す固定値である。周方向位置制御角X に従う回転動作が記述されている。また、倣い制御軸であるZ 軸の同時変換行列2M3 を式 (5) に示す。 . ...... . ...... . 0 0 0 1 0 0 1 ( ) 0 1 0 01 0 0 0 31900/01/01h X, α 2 M (5) この行列は単純な平行移動を表すが、h2(X,α) はα 軸のローカル座標系原点からノズル外面R 部までの距離を表す値であり、周方向位置制御角X 及び半径方向位置制御角α に基づき変化する変数である。このような倣い制御値に対しては、メカ座標(X, α) の変化に伴い被検体形状モデルに基づくレイトレース解析を逐次実施することで算出可能とした。 あるメカ座標(X, α) が与えられた際の3 次元空間における探触子位置を求めるためには、メカ座標(X, α) に対する各軸の同時変換行列i-1Miを計算したのち、式(6) に示す数式にて座標変換を実施すれば良い。式(6) 中のjP は仮想スキャナ終端軸(第3 軸)のローカル座標系における探触子位置座標であり、各軸パーツの同時変換行列を順に乗算することでワールド座標系における探触子位置座標wP へ変換している。 P M P j ji 1 i w i 1 .. . . (6) 2.4 3 次元レイトレース解析結果 2.2 節及び2.3 節で示したモデルに基づく3D レイトレース解析にてノズルコーナUT を想定し、仮想スキャナのメカ座標と連動した3 次元超音波伝播シミュレーションを実施した結果の一例をFig.5 に示す。周方向位置制御角X が45°、半径方向位置制御角α が0°~90°の範囲において15°ピッチで変化した場合の探触子位置及び超音波ビームの伝播経路を示しており、Fig.5 (a)~(d)は、それぞれ側面図(X=0°方向)、斜視図、平面図、及び側面図(X=90°方向)である。ノズルコーナUT において、超音波ビームは斜角探触子により周方向に屈折角θ だけ傾斜したビームを送信する(Fig.5 (c) 参照)。従って、被検体内面における超音波ビームの到達点は探触子位置からみてノズルの周方向にシフトする。このシフト量は、探触子が走査されるノズル外面R 部の鞍型構造の影響を受けるため一定の値とはならず、超音波ビームの伝播経路はFig.5 に示すように複雑に変化する。 y x X α (a) (b) (c) (d) α z y z x zy x Probes Nozzle θ Ultrasonic beams Fig. 5 Example of the ultrasonic propagation simulation result (Machine coordinate value: X=45 degree, α=0‐90 degree at intervals of 15 degree). - 275 -Fig.6 に探触子位置軌跡、Fig.7 に超音波ビーム到達点軌跡の解析例を示す。Fig.6、Fig.7 共に仮想スキャナのメカ座標(X, α) について、α を0°~90°の範囲で5°ピッチ送り、X を0°~90°の範囲で1°ピッチ送りで走査した場合の軌跡を示している。外面R 部に沿って規則的な軌跡を描く探触子位置軌跡に対して、ビームの到達点は大きな範囲に広がり、複雑な軌跡を描くことがわかる。このように解析結果を3 次元で可視化することで、超音波ビームの伝播経路の変化を直感的に把握できる。 (a) (b) (c) (d) y xz y z x zy x Track of probe positions Fig. 6 The track of probe positions by the ultrasonic propagation simulation (Machine coordinate value: X=0‐90 degree at intervals of 1 degree, α=0‐90 degree at intervals of 5 degree). (a) (b) (c) (d) y xz y z x zy x Track of beam intersection points Fig. 7 The track of beam intersection points by the ultrasonic propagation simulation (Machine coordinate value: X=0‐90 degree at intervals of 1 degree, α=0‐90 degree at intervals of 5 degree). 2.5 探触子走査範囲の解析 本シミュレータを応用した探傷条件検討の一例として、ノズルコーナUT における探触子走査範囲の解析について述べる。規格によって定められたノズルコーナ部の検査範囲と、検査範囲全域をカバーするために必要な半径方向の探触子走査範囲の関係図をFig.8 に示す。断面図上の検査範囲は斜線ハッチング部(H-I-J-K)で、この領域をノズルの周方向に一周した体積範囲がノズルコーナUT における検査範囲である。 検査の際は、スキャナのメカ座標(X, α) を制御し探触子位置を走査することで、超音波ビームを検査範囲内に到達させる。この際、周方向位置制御角X の走査範囲は全周であり特別な検討は必要無いが、半径方向位置制御値α に関しては、検査範囲を不足なくカバーするために、Fig.8 に示す最小走査角αmin 及び最大走査角αmax を含む走査範囲となるように検討が必要である。この検査範囲全域をカバーするために必要な半径方向の探触子走査範囲(以後、必要走査範囲と呼称)は、前節にてFig.7 に示した超音波ビーム到達点軌跡に対し、その到達点がFig.8 に示した検査範囲内か否かを判定することで評価することができる。 αmax αmin K H J Ultrasonic beam path Probe Nozzle Inspection volume α I Necessary radial scanning range Fig. 8 The inspection volume and necessary radial scanning range for nozzle-corner UT. 必要走査範囲の解析手順をFig.9 に示す。まず、被検体や仮想スキャナの寸法値や超音波ビーム屈折角等のパラメータを入力する。このパラメータに基づき被検体の複雑曲面形状モデルと仮想スキャナが定義され、3D レイトレース解析によってメカ座標と対応した超音波ビーム到達点軌跡が自動的に解析される。この超音波ビーム到達点軌跡の内、ビーム到達点が検査範囲内に存在するか否かを判定し、検査範囲内と判定されたビーム到達点に対応するメカ座標を抽出することで、必要走査範囲を評価することができる。 - 276 -3D ray-trace Model definition Result evaluation Start End Track of beam intersection points Parameters of TP & Scanner Necessary probe scanning range Is there the beam intersection point in the inspection volume? Fig. 9 Flaw chart about analysis of necessary probe scanning range. ノズルコーナUT における必要走査範囲を解析した結果の一例をFig.10 に示す。Fig.10(a)は最大走査角αmaxの解析結果、Fig.10(b)は最小走査角αminの解析結果で、各周方向位置制御角X における解析結果を示している。実線が図面寸法による解析結果で、ノズルR 部の鞍型曲面形状の影響を受け、最大走査角αmax 及び最小走査角αmin 共に周方向位置制御角X に従い値が変化する。 4042444648500 30 60 90 120 150 180 Radial Error: ±0% Radial Error: +5% Radial Error: -5% Circumferential scanning angle; X [deg.] Necessary maximum radial scanning angle; αmax [deg.] Outside corner R radius error: ±0% 0.05-0.05+5% error ±0% error -5% error Max. threshold 1012141618200 30 60 90 120 150 180 Radial Error: ±0% Radial Error: +5% Radial Error: -5% -5% error ±0% error +5% error Circumferential scanning angle; X [deg.] Necessary minimum radial scanning angle; αmin [deg.] Outside corner R radius error: ±0% 0.05-0.05Min. threshold (a) (b) Fig. 10 Analysis result of necessary probe scanning range (0.5 degrees pace analysis). (a) Maximum radial scanning angle. (b) Minimum radial scanning angle. また、被検体形状の公差も考慮し、ノズル外面R 部の曲率半径が±5%変化した場合の解析結果もFig.10 中に破線で示している。外面R 部の曲率半径公差の影響は最小走査角αmin の方が顕著であることが分かる。全解析結果の最大値及び最小値より、この解析事例においては半径方向走査角α の範囲を12°~49°に設定して探傷を実施すれば、外面R部の曲率半径が±5%の誤差が有った場合でも検査範囲全域を不足無くカバーできることが分かる。本シミュレータは被検体の曲面形状を関数化しているため、このような被検体形状の変形を含む解析を容易に実施できる。 3.結言 原子力プラントの超音波検査における探傷計画を効率化するために、3 次元複雑曲面形状の関数化と仮想スキャナの定義により探触子走査と超音波伝播経路を高速・高精度に解析するシミュレータを開発した。仮想スキャナのメカ座標に連動した3 次元超音波伝播シミュレーションと解析結果の3 次元可視化が可能であり、必要な探触子走査範囲の評価等が容易に実行できる。本シミュレータを用いることで、超音波検査における探傷計画を高度化できる見通しを得た。 参考文献 [1] 原子力規格委員会、 “軽水型原子力発電所用機器の供用期間中検査における超音波探傷試験規程(JEAC 4207-2008)”、(社)日本電気学会、2008、pp.20-47. [2] W.Maurice Ewing. et al., “Elastic Waves in Layered Media”, MCGRAW-HILL BOOK, 1957, pp.75-86. [3] 城間祥之、三原和博、嘉数 侑昇、““ポテンシャル法による補間曲面ソリッドのCSG表現化に関する研究““、北海道大学工学部研究報告 第147 号、1989、pp.19-33. - 277 -“ “3 次元複雑曲面形状向け 超音波伝播シミュレーション技術の開発 “ “大島 佑己,Yuki OHSHIMA,三木 将裕,Masahiro MIKI,小室 秀孝,Hidetaka KOMURO,江原 和也,Kazuya EHARA
原子力プラントにおける圧力容器(RPV)と配管に対しては、規格により超音波検査(UT)での定期検査が義務付けられており、各種配管とRPVを接続するノズル部も定期検査の対象箇所である[1]。検査箇所であるノズルの内面R 部(ノズルコーナ部)における検査範囲と探触子走査方法をFig.1 に示す。ノズルの周方向及び半径方向に探触子を走査し、検査範囲であるノズルコーナ部に超音波ビームを入射させて探傷を実施する。この際、ノズルコーナ部全域をカバーするため、探触子走査範囲等の探傷条件を事前に求める必要がある(以後、探傷計画と呼称する)。しかしながら、ノズルコーナは探触子走査面と検査範囲が共に鞍型構造の3 次元曲面となるため超音波伝播経路の解析が難しく、より効率的な解析技術が望まれている。 そこで、3 次元複雑曲面形状の関数化と仮想スキャナの定義により、探触子走査と超音波伝播経路を高速・高精度に解析するシミュレーション技術を開発した。探触子走査範囲等の探傷条件解析を自動化して結果を3 次元で可視化することで、探傷計画の高度化を図った。 Inspection volume
(Nozzle-corner) Probe Ultrasonic beam NozzleRadial scanning Circumferential scanning Fig.1 The inspection volume and the probe scanning pattern for the nozzle-corner. 2.超音波伝播シミュレーション 2.1 システム構成 開発したシミュレータのシステム構成をFig.2 に示す。超音波の伝播を幾何光学的に取り扱い、音線と呼ばれる直線で表現した超音波ビームの伝播経路をレイトレース解析により計算する[2] 。(1)モデル定義部では、被検体の3 次元複雑曲面形状モデルと、プローブ走査を模擬す連絡先: 大島佑己、〒319-1221 茨城県日立市大みか町7-2-1、(株)日立製作所 研究開発グループ、 E-mail: yuki.ohshima.ep@hitachi.com - 273 -る仮想スキャナを定義・生成する。(2)3D レイトレース部では、(1)で生成したモデルデータに基づく3D レイトレース解析により探触子位置軌跡や超音波ビームの伝播経路を計算する。(3)結果評価部では、(2)での計算結果に基づき探触子走査範囲等の様々な検査条件を解析・評価する。 Analysis unit (2) 3D raytrace part (1) Model definition part (3) Result evaluation part . 3D complex curved surface . Virtual scanner Input unit Display unit Fig.2 Configuration of the ultrasonic propagation simulation system for 3D complex curved surface shape. 2.2 3 次元複雑曲面形状モデル 被検体表面にて反射・透過する際の超音波ビームの伝播方向は被検体表面の法線方向に依存する。曲面における法線方向は連続的に変化するため、伝播経路を正確に解析するためには、被検体形状モデルにおける曲面を滑らかに表現することが重要である。一般に3 次元形状を表現する手法として、曲面を微小な多角形であるポリゴンの集合体として表現する方法があるが、法線方向の変化は離散的で滑らかな曲面を再現するためには多くのポリゴンが必要であり、演算処理に要する時間が長くなる。 そこで本シミュレータでは、被検体の曲面形状を関数として定義することで、滑らかな曲面を表現しつつ高速な演算を可能とした。関数化によりパラメータ変更のみで被検体形状を変更できるので、寸法違いの被検体を容易にカバーできる。 曲面形状の関数化に関して、ノズル部のように2 つの円筒が接合された形状を例に簡単に説明する。Fig.3 に関数表現の概念図を示す。3 次元空間上の任意座標X=(x,y,z) に対し、ノズル外表面S1を表す関数をg(X)、RPV 外表面S2 を表す関数をh(X)とすると、それぞれ円筒面を表す式 (1) 及び (2) で表現できる。 2to 2 2 g(X) . x . y . R (1) 2vo 2 2 h(X) . y . z . R (2) ここで、Rtoはノズルの半径、RvoはRPV の半径である。また、2 つの曲面S1、S2の接続部に形成されるR部S3を表す関数f(g(X), h(X)) は、関連する曲面の関数をパラメトリックに混合するポテンシャル法と呼ばれる補間曲面表現法に基づき定義した[3]。関数f(g(X), h(X)) は、Fig.3(b) に示すg(X)-h(X) 関数空間上において、稜線を表す関数LA(X) 及びLB(X) により定義される境界条件を満たす楕円で表現されており、1 階微分値も連続的に変化する滑らかな3 次元曲面を表現している。 S1: g(X) = 0 S2: h(X) = 0 zy S3: f(g(X), h(X)) = 0 xLB(X) LA(X) h(X) g(X) (0,0) LA(X)=0 f(g(X), h(X)) LB(X)=0 (0,bp) (ap,0) (a) (b) Fig.3 Definition of curved surface functions for nozzles. (a) Schematic of curved surface functions. (b) Schematic of corner R function on g(x)-h(x) function plane. 2.3 仮想スキャナ 探傷時の超音波探触子の走査を模擬するためには、周方向及び半径方向の走査量を規定する仮想スキャナのメカ座標から、3 次元空間における探触子の位置や姿勢を算出する座標変換が必要である。 ノズルコーナを探傷するための仮想スキャナの軸構成例をFig.4 に示す。このスキャナは最低3 軸構成で、探触子を周方向及び半径方向に走査するための制御軸X 及びα を有する。それぞれメカ座標 (X, α) に従い回転制御され、倣い制御軸Z により探触子を被検体表面に押付ける。 α-axis X-axis ‐+ + ‐Probe h1 z xy r Control axis: No.1: X-axis No.2: α-axis Copy control axis: No.3: Z-axis Z-axis Lz3 Lx3 Ly3 Lz2 Lx2 Lx1 Lz1 Ly1 h2(X,α) Fig.4 Example of the axis constitution of the virtual scanner for nozzle-corner UT. - 274 -本シミュレータにおける仮想スキャナは、各軸パーツの動きを親パーツとの位置関係を、回転移動と平行移動を一つの4×4 行列で表す同時変換行列iMi+1 として定義し、それらを連結することで構築した。i 番目の軸のローカル座標系における座標 iP を、i-1 番目の座標系における座標 i-1P に変換するための同時変換行列i-1Mi を式 (3) に示す。 . ...... . ...... . . 0 0 0 1 R R R TR R R TR R R Txz yz zz zxy yy zy yxx yx zx x i i 1M (3) ここで、Rxx~Rzzが回転移動、Tx~Tzは平行移動を表すスカラー量である。各スカラー量は仮想スキャナの構造に依存した固定値、またはメカ座標(X, α) に基づき変化する変数となる。例として、第1 の制御軸であるX 軸の同時変換行列0M1を式 (4) に示す。 . ...... . ...... . . 0 0 0 1 0 0 1 sin cos 0 sin cos sin 0 cos 101 h X X - r X X X r X M (4) ここで、X はメカ座標の周方向位置制御角X、r 及びh1 はFig.4 中に示すように第1 軸の相対位置を表す固定値である。周方向位置制御角X に従う回転動作が記述されている。また、倣い制御軸であるZ 軸の同時変換行列2M3 を式 (5) に示す。 . ...... . ...... . 0 0 0 1 0 0 1 ( ) 0 1 0 01 0 0 0 31900/01/01h X, α 2 M (5) この行列は単純な平行移動を表すが、h2(X,α) はα 軸のローカル座標系原点からノズル外面R 部までの距離を表す値であり、周方向位置制御角X 及び半径方向位置制御角α に基づき変化する変数である。このような倣い制御値に対しては、メカ座標(X, α) の変化に伴い被検体形状モデルに基づくレイトレース解析を逐次実施することで算出可能とした。 あるメカ座標(X, α) が与えられた際の3 次元空間における探触子位置を求めるためには、メカ座標(X, α) に対する各軸の同時変換行列i-1Miを計算したのち、式(6) に示す数式にて座標変換を実施すれば良い。式(6) 中のjP は仮想スキャナ終端軸(第3 軸)のローカル座標系における探触子位置座標であり、各軸パーツの同時変換行列を順に乗算することでワールド座標系における探触子位置座標wP へ変換している。 P M P j ji 1 i w i 1 .. . . (6) 2.4 3 次元レイトレース解析結果 2.2 節及び2.3 節で示したモデルに基づく3D レイトレース解析にてノズルコーナUT を想定し、仮想スキャナのメカ座標と連動した3 次元超音波伝播シミュレーションを実施した結果の一例をFig.5 に示す。周方向位置制御角X が45°、半径方向位置制御角α が0°~90°の範囲において15°ピッチで変化した場合の探触子位置及び超音波ビームの伝播経路を示しており、Fig.5 (a)~(d)は、それぞれ側面図(X=0°方向)、斜視図、平面図、及び側面図(X=90°方向)である。ノズルコーナUT において、超音波ビームは斜角探触子により周方向に屈折角θ だけ傾斜したビームを送信する(Fig.5 (c) 参照)。従って、被検体内面における超音波ビームの到達点は探触子位置からみてノズルの周方向にシフトする。このシフト量は、探触子が走査されるノズル外面R 部の鞍型構造の影響を受けるため一定の値とはならず、超音波ビームの伝播経路はFig.5 に示すように複雑に変化する。 y x X α (a) (b) (c) (d) α z y z x zy x Probes Nozzle θ Ultrasonic beams Fig. 5 Example of the ultrasonic propagation simulation result (Machine coordinate value: X=45 degree, α=0‐90 degree at intervals of 15 degree). - 275 -Fig.6 に探触子位置軌跡、Fig.7 に超音波ビーム到達点軌跡の解析例を示す。Fig.6、Fig.7 共に仮想スキャナのメカ座標(X, α) について、α を0°~90°の範囲で5°ピッチ送り、X を0°~90°の範囲で1°ピッチ送りで走査した場合の軌跡を示している。外面R 部に沿って規則的な軌跡を描く探触子位置軌跡に対して、ビームの到達点は大きな範囲に広がり、複雑な軌跡を描くことがわかる。このように解析結果を3 次元で可視化することで、超音波ビームの伝播経路の変化を直感的に把握できる。 (a) (b) (c) (d) y xz y z x zy x Track of probe positions Fig. 6 The track of probe positions by the ultrasonic propagation simulation (Machine coordinate value: X=0‐90 degree at intervals of 1 degree, α=0‐90 degree at intervals of 5 degree). (a) (b) (c) (d) y xz y z x zy x Track of beam intersection points Fig. 7 The track of beam intersection points by the ultrasonic propagation simulation (Machine coordinate value: X=0‐90 degree at intervals of 1 degree, α=0‐90 degree at intervals of 5 degree). 2.5 探触子走査範囲の解析 本シミュレータを応用した探傷条件検討の一例として、ノズルコーナUT における探触子走査範囲の解析について述べる。規格によって定められたノズルコーナ部の検査範囲と、検査範囲全域をカバーするために必要な半径方向の探触子走査範囲の関係図をFig.8 に示す。断面図上の検査範囲は斜線ハッチング部(H-I-J-K)で、この領域をノズルの周方向に一周した体積範囲がノズルコーナUT における検査範囲である。 検査の際は、スキャナのメカ座標(X, α) を制御し探触子位置を走査することで、超音波ビームを検査範囲内に到達させる。この際、周方向位置制御角X の走査範囲は全周であり特別な検討は必要無いが、半径方向位置制御値α に関しては、検査範囲を不足なくカバーするために、Fig.8 に示す最小走査角αmin 及び最大走査角αmax を含む走査範囲となるように検討が必要である。この検査範囲全域をカバーするために必要な半径方向の探触子走査範囲(以後、必要走査範囲と呼称)は、前節にてFig.7 に示した超音波ビーム到達点軌跡に対し、その到達点がFig.8 に示した検査範囲内か否かを判定することで評価することができる。 αmax αmin K H J Ultrasonic beam path Probe Nozzle Inspection volume α I Necessary radial scanning range Fig. 8 The inspection volume and necessary radial scanning range for nozzle-corner UT. 必要走査範囲の解析手順をFig.9 に示す。まず、被検体や仮想スキャナの寸法値や超音波ビーム屈折角等のパラメータを入力する。このパラメータに基づき被検体の複雑曲面形状モデルと仮想スキャナが定義され、3D レイトレース解析によってメカ座標と対応した超音波ビーム到達点軌跡が自動的に解析される。この超音波ビーム到達点軌跡の内、ビーム到達点が検査範囲内に存在するか否かを判定し、検査範囲内と判定されたビーム到達点に対応するメカ座標を抽出することで、必要走査範囲を評価することができる。 - 276 -3D ray-trace Model definition Result evaluation Start End Track of beam intersection points Parameters of TP & Scanner Necessary probe scanning range Is there the beam intersection point in the inspection volume? Fig. 9 Flaw chart about analysis of necessary probe scanning range. ノズルコーナUT における必要走査範囲を解析した結果の一例をFig.10 に示す。Fig.10(a)は最大走査角αmaxの解析結果、Fig.10(b)は最小走査角αminの解析結果で、各周方向位置制御角X における解析結果を示している。実線が図面寸法による解析結果で、ノズルR 部の鞍型曲面形状の影響を受け、最大走査角αmax 及び最小走査角αmin 共に周方向位置制御角X に従い値が変化する。 4042444648500 30 60 90 120 150 180 Radial Error: ±0% Radial Error: +5% Radial Error: -5% Circumferential scanning angle; X [deg.] Necessary maximum radial scanning angle; αmax [deg.] Outside corner R radius error: ±0% 0.05-0.05+5% error ±0% error -5% error Max. threshold 1012141618200 30 60 90 120 150 180 Radial Error: ±0% Radial Error: +5% Radial Error: -5% -5% error ±0% error +5% error Circumferential scanning angle; X [deg.] Necessary minimum radial scanning angle; αmin [deg.] Outside corner R radius error: ±0% 0.05-0.05Min. threshold (a) (b) Fig. 10 Analysis result of necessary probe scanning range (0.5 degrees pace analysis). (a) Maximum radial scanning angle. (b) Minimum radial scanning angle. また、被検体形状の公差も考慮し、ノズル外面R 部の曲率半径が±5%変化した場合の解析結果もFig.10 中に破線で示している。外面R 部の曲率半径公差の影響は最小走査角αmin の方が顕著であることが分かる。全解析結果の最大値及び最小値より、この解析事例においては半径方向走査角α の範囲を12°~49°に設定して探傷を実施すれば、外面R部の曲率半径が±5%の誤差が有った場合でも検査範囲全域を不足無くカバーできることが分かる。本シミュレータは被検体の曲面形状を関数化しているため、このような被検体形状の変形を含む解析を容易に実施できる。 3.結言 原子力プラントの超音波検査における探傷計画を効率化するために、3 次元複雑曲面形状の関数化と仮想スキャナの定義により探触子走査と超音波伝播経路を高速・高精度に解析するシミュレータを開発した。仮想スキャナのメカ座標に連動した3 次元超音波伝播シミュレーションと解析結果の3 次元可視化が可能であり、必要な探触子走査範囲の評価等が容易に実行できる。本シミュレータを用いることで、超音波検査における探傷計画を高度化できる見通しを得た。 参考文献 [1] 原子力規格委員会、 “軽水型原子力発電所用機器の供用期間中検査における超音波探傷試験規程(JEAC 4207-2008)”、(社)日本電気学会、2008、pp.20-47. [2] W.Maurice Ewing. et al., “Elastic Waves in Layered Media”, MCGRAW-HILL BOOK, 1957, pp.75-86. [3] 城間祥之、三原和博、嘉数 侑昇、““ポテンシャル法による補間曲面ソリッドのCSG表現化に関する研究““、北海道大学工学部研究報告 第147 号、1989、pp.19-33. - 277 -“ “3 次元複雑曲面形状向け 超音波伝播シミュレーション技術の開発 “ “大島 佑己,Yuki OHSHIMA,三木 将裕,Masahiro MIKI,小室 秀孝,Hidetaka KOMURO,江原 和也,Kazuya EHARA