磁性材料に関する電磁超音波探触子を用いた.. 超音波送信機構の解析..
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カテゴリ: 第12回
1.緒言..
発電プラント内部の配管に対する検査は安全性、経済性、作業性の観点から極めて重要であり、現場利用に適した配管の状態監視技術が求められている。電磁超音波探触子(Electromagnetic Acoustic Transducer : EMAT)は永久磁石とコイルで構成され、永久磁石の磁場とコイルの電流により誘導される導電対表面の渦電流との相互作用により発生する超音波の反射波の共鳴を利用することで肉厚を測定できる(Fig.1)。その簡便な構造と接触媒質を必要としない特性から状態監視技術として注目されている。 一方で、検査対象となる配管の形状や減肉の種類により得られる信号が微弱になる場合があり、低炭素鋼配管においては減肉進展が最も速く、測定が困難である。 したがって、検査精度の向上のためにも、EMAT の超音波発生過程および伝播の様子を明らかにすることは、重要な課題となっている。これまでEMAT の励起メカニズムの解析については超音波と電磁物理学の分野で、長年にわたり議論となっている[1]。 本論文は、低炭素鋼等の磁性材料を対象として、EMAT による超音波発生過程を解明することを目的とする。そこで、有限要素法とFDTD 法による数値計算手法を提案し、試験体に励起されるローレンツ力、磁化力、磁歪による力の合力を導出し、その振動の様子からEMAT の構造と励起される力の関係について述べる。 Fig.1 The Coupling mechanism between electromagnetic field and ultrasonic wave
2.EMAT の超音波発生機構の解析モデル.. 2.1..磁場解析.. 渦電流を含む磁場の支配方程式は、磁気ベクトルポテンシャルA (B = !““ A )を用いて、以下の式で表される。 !““(!!““ A)# Jm # J0 # Je = 0. .. .. (1).... .. ここで、B は磁束密度、! は磁気抵抗率、Jm は等価磁化電流密度、J0 は駆動電流密度、Je は渦電流密度である。EMAT において、駆動電流は交流電流で与えられるが、駆動電流、および渦電流により発生する磁場は、永久磁石により発生する磁場に比べて非常に小さいため、永久磁石は駆動電流によって磁化されないものとする。そのため、永久磁石では静的磁場、駆動電流では動的磁場が発生するものとし、解析は別々に行うことができる。 .. 解析手法としては、(1)式を有限要素ガラーキン法により離散化することで行う。.. .. また、検査対象として磁性体を仮定した場合、非線形特性を有するため、磁気抵抗率! は磁気ベクトルポテンシャルA の関数であり、支配方程式は非線形になる。そ
- 278 -のため、! ! B2 曲線を満たすまで、(1)式を満たす解を反復的に求める。永久磁石による静磁場を非線形で解析し、それにより決定された磁気抵抗率を用いて、渦電流による動磁場を周波数領域において線形で解析する。これにより、任意の時間における磁場が計算可能になり、有限要素毎に決定される大規模な連立方程式の計算が一度でよいため、計算時間の大幅な短縮が可能である。.. 2.2..励起力解析.. .. 検査対象が磁性材料の場合、以下のような力が生じる。.. F = f (L) + f (M) + f (MS), .. .. .. (2).. f (L) = Je ! Bm, .. .. .. .. (3).. f (M) = !He ( )““Mm, .... .. .. (4).. f (MS) = !u!!MS. .. .. .. .. (5).. .. ここで、f (L) はローレンツ力、f (M) は磁化力、f (MS) は磁歪による力、He は渦電流により動的に生じる誘導磁場、Bm およびMm はそれぞれ永久磁石により生じる磁束密度およびバイアス磁気モーメント、! は検査体の.. 質量密度、u!!MS は磁歪による変位の2 次微分を示す。.. .. ローレンツ力、磁化力とは異なり、磁歪による力は非線形である。しかし、EMAT の解析においては、永久磁石により生じる静磁場が、コイルの渦電流により生じる動磁場に比べて非常に大きいため、合成磁場の振動は極めて小さく、それらは近似的に線形の関係として扱うことができる。以下に磁歪を考慮した、歪みと磁場の基礎方程式を示す。.. ! = SH““ + dHe Be = dT““ +μ““ He. !““ # $ # .. .. .. (6).. .. ここで、! は歪みベクトル、SH は磁場一定での弾性コンプライアンス、! は応力、Be は動磁束密度、μ! は応力一定での透磁率、d は磁歪定数の行列である。.. .. 本論文では、磁歪を考慮した歪みと磁場の基礎方程式と運動方程式を基にFDTD 法を用いて粒子速度および応力を計算する。(5)式と(6)式から磁歪モデルを考慮したFDTDの支配方程式を以下のように立てることができる。.. !u!!= P““ + fMS, .. .. .. .. (7).. !!== SH ! d μ! ( )!1 dT ( )!1Q! u .. ....! SH ! d μ! ( )!1 dT ( )!1 d μ! ( )!1 !Be. .. .. (8).. P = ! !x 0! !y 0! !y ! !x ““#$$$$$ %&'''' ,Q = ! !x 00! !y ! !y ! !x ““#$$$$$$$$ %&''''''' . .. .. 磁歪による力の解析をFDTD 法で解くことは有限要素法に比べて大幅な計算時間の削減およびメモリの節約が可能となるためである。その一方で、有限要素法で得られた磁場を各格子点に割り当てる必要があるため、FDTD 法の刻み幅は磁場解析の最も細かい刻み幅と一致させる。.. 3.数値実験と結果.. .. 数値実験における環境設定をFig.2 に示す。入力電流として振幅1[A]、周波数200[kHz]の正弦波交流を1 周期分与える。検査対象には低炭素鋼を仮定し、導電率は0.648!107[S/m]とする。励起力の解析領域には表皮効果を考慮した部分とし、左右をコイルの中心からコイル半径の約2 倍の幅、炭素鋼表面0.12[mm]の深さを与える。.. .. 永久磁石およびコイルの渦電流による磁場解析結果より算出した、ローレンツ力、磁化力、磁歪による力の合力の時間経過2.5[μs]におけるベクトル図をFig.3 に示す。 45104:48:0010Ferromagnetic material : SS400 Air Unit : [mm] 0.12S S N N Magnet Analysis domain .. Fig.2 Numerical experiment setup 4:48:003:50:242:52:481:55:120:57:360:00:00-20 -10 0 10 20 y coordinate [mm] x coordinate [mm] F total Fig.3 Total force excited by EMAT. 4.結言.. .. 本稿では、磁性材料におけるEMAT の超音波発生過程の解明のため、有限要素法とFDTD 法による数値計算手法の提案およびEMAT の構造と励起される力の関係について述べた。今後の課題としては、受信機構の解析を行うことで、更なる検査精度の向上を図ることである。 ..参考文献 [1] Remo Ribichini, Frederic Cegla, Peter B.Nagy and Peter Cawley, “Study and comparison of different EMAT configurations for SH wave inspection”, IEEE Ultrasonics, Ferroelectrics and Frequency Control Society, Vol.58, No.12, 2011. -9“ “磁性材料に関する電磁超音波探触子を用いた.. 超音波送信機構の解析.. “ “中島 大岳,Hirotaka NAKAJIMA,古澤 彰憲,Akinori FURUSAWA,小島 史男,Fumio KOJIMA
発電プラント内部の配管に対する検査は安全性、経済性、作業性の観点から極めて重要であり、現場利用に適した配管の状態監視技術が求められている。電磁超音波探触子(Electromagnetic Acoustic Transducer : EMAT)は永久磁石とコイルで構成され、永久磁石の磁場とコイルの電流により誘導される導電対表面の渦電流との相互作用により発生する超音波の反射波の共鳴を利用することで肉厚を測定できる(Fig.1)。その簡便な構造と接触媒質を必要としない特性から状態監視技術として注目されている。 一方で、検査対象となる配管の形状や減肉の種類により得られる信号が微弱になる場合があり、低炭素鋼配管においては減肉進展が最も速く、測定が困難である。 したがって、検査精度の向上のためにも、EMAT の超音波発生過程および伝播の様子を明らかにすることは、重要な課題となっている。これまでEMAT の励起メカニズムの解析については超音波と電磁物理学の分野で、長年にわたり議論となっている[1]。 本論文は、低炭素鋼等の磁性材料を対象として、EMAT による超音波発生過程を解明することを目的とする。そこで、有限要素法とFDTD 法による数値計算手法を提案し、試験体に励起されるローレンツ力、磁化力、磁歪による力の合力を導出し、その振動の様子からEMAT の構造と励起される力の関係について述べる。 Fig.1 The Coupling mechanism between electromagnetic field and ultrasonic wave
2.EMAT の超音波発生機構の解析モデル.. 2.1..磁場解析.. 渦電流を含む磁場の支配方程式は、磁気ベクトルポテンシャルA (B = !““ A )を用いて、以下の式で表される。 !““(!!““ A)# Jm # J0 # Je = 0. .. .. (1).... .. ここで、B は磁束密度、! は磁気抵抗率、Jm は等価磁化電流密度、J0 は駆動電流密度、Je は渦電流密度である。EMAT において、駆動電流は交流電流で与えられるが、駆動電流、および渦電流により発生する磁場は、永久磁石により発生する磁場に比べて非常に小さいため、永久磁石は駆動電流によって磁化されないものとする。そのため、永久磁石では静的磁場、駆動電流では動的磁場が発生するものとし、解析は別々に行うことができる。 .. 解析手法としては、(1)式を有限要素ガラーキン法により離散化することで行う。.. .. また、検査対象として磁性体を仮定した場合、非線形特性を有するため、磁気抵抗率! は磁気ベクトルポテンシャルA の関数であり、支配方程式は非線形になる。そ
- 278 -のため、! ! B2 曲線を満たすまで、(1)式を満たす解を反復的に求める。永久磁石による静磁場を非線形で解析し、それにより決定された磁気抵抗率を用いて、渦電流による動磁場を周波数領域において線形で解析する。これにより、任意の時間における磁場が計算可能になり、有限要素毎に決定される大規模な連立方程式の計算が一度でよいため、計算時間の大幅な短縮が可能である。.. 2.2..励起力解析.. .. 検査対象が磁性材料の場合、以下のような力が生じる。.. F = f (L) + f (M) + f (MS), .. .. .. (2).. f (L) = Je ! Bm, .. .. .. .. (3).. f (M) = !He ( )““Mm, .... .. .. (4).. f (MS) = !u!!MS. .. .. .. .. (5).. .. ここで、f (L) はローレンツ力、f (M) は磁化力、f (MS) は磁歪による力、He は渦電流により動的に生じる誘導磁場、Bm およびMm はそれぞれ永久磁石により生じる磁束密度およびバイアス磁気モーメント、! は検査体の.. 質量密度、u!!MS は磁歪による変位の2 次微分を示す。.. .. ローレンツ力、磁化力とは異なり、磁歪による力は非線形である。しかし、EMAT の解析においては、永久磁石により生じる静磁場が、コイルの渦電流により生じる動磁場に比べて非常に大きいため、合成磁場の振動は極めて小さく、それらは近似的に線形の関係として扱うことができる。以下に磁歪を考慮した、歪みと磁場の基礎方程式を示す。.. ! = SH““ + dHe Be = dT““ +μ““ He. !““ # $ # .. .. .. (6).. .. ここで、! は歪みベクトル、SH は磁場一定での弾性コンプライアンス、! は応力、Be は動磁束密度、μ! は応力一定での透磁率、d は磁歪定数の行列である。.. .. 本論文では、磁歪を考慮した歪みと磁場の基礎方程式と運動方程式を基にFDTD 法を用いて粒子速度および応力を計算する。(5)式と(6)式から磁歪モデルを考慮したFDTDの支配方程式を以下のように立てることができる。.. !u!!= P““ + fMS, .. .. .. .. (7).. !!== SH ! d μ! ( )!1 dT ( )!1Q! u .. ....! SH ! d μ! ( )!1 dT ( )!1 d μ! ( )!1 !Be. .. .. (8).. P = ! !x 0! !y 0! !y ! !x ““#$$$$$ %&'''' ,Q = ! !x 00! !y ! !y ! !x ““#$$$$$$$$ %&''''''' . .. .. 磁歪による力の解析をFDTD 法で解くことは有限要素法に比べて大幅な計算時間の削減およびメモリの節約が可能となるためである。その一方で、有限要素法で得られた磁場を各格子点に割り当てる必要があるため、FDTD 法の刻み幅は磁場解析の最も細かい刻み幅と一致させる。.. 3.数値実験と結果.. .. 数値実験における環境設定をFig.2 に示す。入力電流として振幅1[A]、周波数200[kHz]の正弦波交流を1 周期分与える。検査対象には低炭素鋼を仮定し、導電率は0.648!107[S/m]とする。励起力の解析領域には表皮効果を考慮した部分とし、左右をコイルの中心からコイル半径の約2 倍の幅、炭素鋼表面0.12[mm]の深さを与える。.. .. 永久磁石およびコイルの渦電流による磁場解析結果より算出した、ローレンツ力、磁化力、磁歪による力の合力の時間経過2.5[μs]におけるベクトル図をFig.3 に示す。 45104:48:0010Ferromagnetic material : SS400 Air Unit : [mm] 0.12S S N N Magnet Analysis domain .. Fig.2 Numerical experiment setup 4:48:003:50:242:52:481:55:120:57:360:00:00-20 -10 0 10 20 y coordinate [mm] x coordinate [mm] F total Fig.3 Total force excited by EMAT. 4.結言.. .. 本稿では、磁性材料におけるEMAT の超音波発生過程の解明のため、有限要素法とFDTD 法による数値計算手法の提案およびEMAT の構造と励起される力の関係について述べた。今後の課題としては、受信機構の解析を行うことで、更なる検査精度の向上を図ることである。 ..参考文献 [1] Remo Ribichini, Frederic Cegla, Peter B.Nagy and Peter Cawley, “Study and comparison of different EMAT configurations for SH wave inspection”, IEEE Ultrasonics, Ferroelectrics and Frequency Control Society, Vol.58, No.12, 2011. -9“ “磁性材料に関する電磁超音波探触子を用いた.. 超音波送信機構の解析.. “ “中島 大岳,Hirotaka NAKAJIMA,古澤 彰憲,Akinori FURUSAWA,小島 史男,Fumio KOJIMA