高温用薄膜UTセンサを用いた配管減肉のモニタリング

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カテゴリ: 第12回
1.諸言
原子力発電プラントにおいては、JSME S NG1「発電用原子力設備規格加圧水型原子力発電所配管減肉管理に関する技術規格」に基づいて、手動UT による定期的な配管肉厚の定点測定と、そのデータに基づく減肉管理を実施している。一般に、1プラントについて数百箇所という多数の測定を定期検査期間中に実施する必要があり、下記の課題が指摘されている。i. 繰返し測定において、測定位置のずれや接触状態の違いに起因するばらつき発生の懸念。ii. 測定の度に発生する保温材の取外し・復旧や足場の設置・解体等の付帯作業。iii. 小口径管のT継手部のような曲率の大きい複雑形状部での安定した測定の困難さ。iv. 系統運転中も含めた連続モニタリングのためのUT センサの高温耐久性の確保これらの課題を解決すべく、高温耐久性のある薄膜UT センサを開発した。本論文ではその概要を示すとともに、各種検証試験の結果、実機での試行状況、適用範囲拡大のための新たな試みについて報告する。2.高温用薄膜UTセンサ及び測定システム 薄膜UT センサをFig.1 に示す。薄膜UT センサは上部電極、圧電素子膜、下部電極から構成されている。厚さは1.0mm以下と薄く、保温材の下への設置も容易である。膜状でフレキシブルであり対象の表面に倣い易いため、小口径管のT 継手部のような複雑形状部においても安定した測定が可能である。さらに高温耐久性を持ち運転中最大200℃となる配管に常設設置することが可能である。Fig.1 Thin-film UT sensor
薄膜UT センサを用いた測定システムの概念図をFig.2 に示す。薄膜UT センサは保温材の下に常設設置され、各センサから延びるケーブルは保温材の外側に設置される中継箱に集約される。中継箱は可能であれば足場無しでアクセス可能な場所に設置する。定期測定においては、可搬型の測定器を中継箱に接続して測定することで、保温材の取外・復旧の手間をかけることなく非常に容易にデータ採取を行うことが可能となる。また中継箱に連続測定装置を接続し、適切な間隔で連続的に測定してデータ記録を行うことで、運転中の減肉進展の様子を詳細にモニタリングするといった運用も可能となる。Fig.2 Measurement system 3.検証試験 3.1 厚さ測定精度 肉厚測定精度を確認するため、まずは厚さ約10mm の平板をスライス盤で切削加工して板厚を連続的に変化させながら、薄膜UT センサで厚さ測定を行った(Fig.3)。センサは平板表面に固定し、センサの反対側を約10μm刻みで切削し、測定値と切削加工値の比較を実施している。測定結果をFig.4 に示す。両者の平均二乗誤差は約2.3μ m であり、十分な肉厚測定精度を有していると考えられる。Pulser/ ReceiverAcquisition Thin film UT sensor computer Fig.3 Measurement configuration on plate Fig.4 Measurement accuracy on plate 次に複雑形状部(Fig.5)における厚さ測定精度を確認するため、薄膜UT センサと市販のペンシル型の小型UT センサ(OLYMPUS㈱ HC-398-RDL-L,振動子寸法Φ3mm: Fig.6)を用いてT 継手クロッチ部とエルボ腹部試験片(Table 1)に対する手動による肉厚測定を実施し両者の結果を比較した。Fig.7 に測定結果を示す。両センサによる測定値の差は0.1mm以下であり、薄膜UT センサは市販UT センサと同等の厚さ測定精度を有すると考えられる。一方で、小型UT センサは点接触となり安定した測定が困難であったが、薄膜UT センサは試験片の曲率に倣うことから面接触となり安定した測定が容易であることも確認できた。Fig.5 Mockup of complex shape Fig.6 Small size UT sensor Thickness from UT sensor (mm) Thickness from milling machine (mm) - 281 - Table1 Specification of complex shape mockup No. Type Nominal Diameter Pipe Schedule A Elbow 3/4 inch Sch80 B T-joint 3/4 inch Sch40 C T-joint 1 inch Sch40 D T-joint 3/4 inch Sch80 E T-joint 1 inch Sch80 F T-joint 2 inch Sch160 Fig.7 Measurement result on complex shaped mockup 3.2 高温耐久性 薄膜UT センサの高温耐久性を確認するため、まずは熱サイクル試験を実施した。Table2 に試験条件を示す。Fig.8 に示すように、10 サイクル後も熱膨張差に起因するセンサ剥離などの兆候は見られず、試験終了後も1サイクル目と同等の肉厚測定が可能であった。Table2 Test condition of thermal cycle test Items Condition Number of cycles 10 times Heat Temperature Approx. 200 degrees C Fig.8 UT waveform of thermal cycle test 次に恒温槽を用い200℃での連続加熱試験を実施した。本試験は現在も継続中である。Fig.9 に約800 日間の測定波形の推移を示す。約2 年の加熱の後でも、顕著な波形歪み、ノイズ、著しい減衰等の傾向は確認されていない。これらの結果から、薄膜UT センサは優れた高温耐久性を有するものと考えられる。Fig.9 UT waveform of continuous thermal test 3.3 耐放性 最後に、薄膜UT センサの耐放性に関し試験を実施した。試験条件をTable3 に示す。Fig.10 及びFig.11 に示すように、放射線照射による波形歪みや、ノイズ、顕著な減衰は確認されなかった。照射量3300Gy は原子力発電所の主冷却材管の配管表面での30~40年間の照射量に相当する。この結果から薄膜UT センサは優れた耐放性を有するものと考えられる。Temperature #1 #10 CRT80%Gain 37.7dB t=4.99mm CRT80%Gain 39.7dB t=4.96mm- 282 - Table3 Test condition of irradiation test Irradiation source Cobalt 60 Irradiation time 11 hours Dose rate No.1: 300Gy/H No.2: 200Gy/H Total Irradiation No.1: 3300Gy No.2: 2200Gy Fig.10 Sensor signal at location No.1 Fig.11 Sensor signal at location No.2 4.実地試験 薄膜UT センサの実機環境での適用性や施工性を確認するために、原子力発電プラントにて実地試験を実施した。肉厚約6mm、運転時温度約150℃の配管に4つの薄膜UT センサを同一円周上に設置し、約3 年間の定期的な測定を行う計画である。取付したセンサをFig.12 に示す。保温材外面に設置されたコネクタが中継箱に相当しており、4センサを集約している。検査員はコネクタに測定装置を接続するのみで、測定を実施することが可能である。Fig.13 に約4 カ月間の波形変化例を示す。この図が示すように、顕著な信号歪みやノイズ等は確認されていない。ただし4 センサのうち2 センサについてはわずかに減衰傾向が観察されており、その理由はセンサが配管表面から剥離傾向にあるためと考えている。今回が実機での初めての取付施工であったが、その施工方法に改良の余地があるものと思われる。Fig.12 Thin-film UT sensor for field trial Fig.13 Waveform of field trial - 283 - 5.薄膜フェーズドアレイUTセンサの試作 将来における適用範囲の拡大を念頭に、薄膜UT センサ技術を用いたフェーズドアレイUT センサの試作を行った。Fig.14 に試作センサを示す。8 エレメントからなるリニア構造のフェーズドアレイセンサである。各エレメントの発振タイミングを制御することで、Fig.15 に示すように斜角探傷が可能になる。各種深さの疲労欠陥を付与した厚さ22mm の平板での斜角探傷試験結果をFig.16 に示す。深さ3.7mm以上の欠陥で端部エコーが検出できており、また深さによる端部エコーの検出位置の違いも明瞭に確認できる。薄膜フェーズドアレイUT センサは運転中の高温環境においても機能することから、この結果は運転中のき裂進展モニタリングの可能性を示唆していると考えられる。Fig.14 Thin-film phased array UT sensor Fig.15 Concept of thin-film phased array UT sensor Fig.16 B-scope of thin-film phased array UT sensor 6.結論 高温耐久性を有しフレキシブルな薄膜UT センサを開発し、精度、高温耐久性、耐放性試験を実施した。薄膜UT センサは下記の特長を有しており、原子力発電プラントの配管減肉管理に有用であると考えられる。i. センサの常設設置により、再現性の高い測定が可能になる。ii. センサの常設設置により、保温材取外しや足場設置が不要になる。iii. 薄くフレキシブルであるため、曲率の大きい複雑形状部においても安定した測定が可能になる。iv. 系統運転中(高温時)も含めた連続的な減肉モニタリングが可能になる。さらに薄膜UT センサを用いたフェーズドアレイセンサを試作することにより、運転中のき裂進展のモニタリングの可能性を確認した。今後は国内規格への適合性の検討等を進め、将来的には手動UT による全ての配管肉厚測定を薄膜UT センサによる連続モニタリングへと置き換え、原子力発電プラントの安全性向上への寄与を目指す。- 284 - 参考文献 1] N. Fujita, I. Seki, T. Matsuura, Y. Yamamoto, M. Kurokawa, “Development of thickness measurement and thickness trend monitoring technology using high-temperature thin-film UT sensor”, Japan Society of Maintenology, Vol.10, July 2013. [2] M. Kobayashi, Cheng-Kuei Jen, Daniel Levesque, “Flexible Ultrasonic Transducers”, IEEE Transactions on ultrasonic, and frequency control, Vol.52, No.8, August 2006[3] K. T. Wu, C. K. Jen, M. Kobayashi, A. Blouin, “Integrated Piezoelectric Ultrasonic Receivers for Laser Ultrasound in Non-destructive Testing of Metals”, Journal of Nondestructive Evaluation (2011) 30:1-8 - 285 -“ “高温用薄膜UTセンサを用いた配管減肉のモニタリング “ “鶴田 孝義,Takayoshi TSURUTA,小平 武志,Takeshi KODAIRA,山本 裕子,Yuko YAMAMOTO,関 伊佐夫,Isao SEKI,松浦 貴之,Takayuki MATSUURA
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