基礎ボルトの減肉検査技術開発(その2)

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カテゴリ: 第12回
1.緒言
原子力発電所では機器・構造物をコンクリート基礎に固定するために基礎ボルトを用いている。この基礎ボルトは地震時の負荷荷重に耐えることができるよう,建設時点で耐震計算を行った上で仕様が決定されている。運転開始後に健全性確認の必要が生じた場合には,打音検査等を実施し,運転を継続してきている現状にある。 近年,地震後の基礎ボルトの健全性確認を目的に検査手法の技術開発が行われてきており,疲労き裂のようなき裂状欠陥に対する超音波検査方法(UT) の開発が試みられてきた[1]。一方, 30 年を超えて運転されている経年化プラントに関しては,発生の可能性が低いものの基礎ボルト埋設部分の腐食減肉が想定される。その場合に備え,減肉の有無を非破壊で確認できる方法を開発するべく,当社は平成20 年頃から減肉を検知する技術の開発に取り組んできた。その結果,減肉を有するボルトはフェーズドアレイUT(PA-UT)で検査した場合に遅れエコーが発生することを見出し,遅れエコーを指標にすれば減肉の有無が判定できるという知見を得た[2]。しかし,遅れエコーを指標にする方法がどの程度の深さの減肉にまで適用できるか等の適用限界については明確にしてこなかった。そこで,本研究では適用限界の明確化に取り組んだので報告する。 2.先行研究の結果 先行研究では,文献[3]を参考に超音波探傷試験の中でPA-UT を選定した。この手法は超音波探触子をボルト頭部に置いて取得した画像から減肉状況を把握する。探触子は主に周波数5MHz,エレメント数32 を使用したが,探触子エレメントパターンは1D リニアだったため,ボルト周方向の情報は探触子をボルト上で回転させる必要がある。図1(左) に回転治具外観写真を示す。 先行研究では減肉付き試験体を製作した。試験体は,M24~36 の炭素鋼製棒鋼を用意し,実機同様に頭部から110~130mm 長さのネジ部を付与した。さらに減肉模擬のため,表面積約20×20mm,深さ約4~10mm をグラインダで研削した。図1(右) に試験体の外観写真を示す。 図1 回転治具(左)と試験体(右)
次に,作製した測定装置ならびに減肉模擬試験体を用い,フェーズドアレイ超音波法の適用性を評価した。減肉を付与したM30 ボルト試験体にフェーズドアレイ法を適用した結果の一例を図2に示す。図2左はセクタースキャン,右はBスキャンである。左右の画像を見ると,ボルト頭部から内部へ発信された超音波は,ネジ部の凸凹形状をよく捉えていることが分かる。模擬減肉部はネジ部の凹凸が無いことから,凹凸からのエコーが消失しており,その消失状況から周方向の減肉形状をよく捉えることができている。 図中には減肉部の存在を示す,「遅れエコー」が現れている。これは,減肉部から反射された超音波が直接探触子に戻る経路とは異なる経路をたどって探触子に戻ったエコーである。この遅れエコーは減肉部から反射されているため,探触子の回転により出現・消失し,減肉の有無や周方向分布を判断することができる。 図2 測定画像(例) 3.試験と結果 3.1 試験条件の設定 本研究では,これまで開発してきた測定手法について,ボルト頭からの距離と検出性の関係,減肉深さと検出性の関係を確認することとした。そのためにまず,実機で多く用いられる基礎ボルトの寸法を調査した。その結果,原子炉圧力容器のスカートとペデスタルの固定用に用いられているような大きなボルトを除けばJ型ボルトが多く,その直線部は1200mm 程度であることが分かったため,試験体は長さ1350mm のM30 のSS400 製棒鋼とした。以下の検出性試験では,周波数は2 あるいは5MHz で32 素子の探触子を用いた。 3.2 試験 (1)スリットによる検知試験 まず,減肉の検出性試験を行う前に,予備試験として深さ5mm スリット状欠陥をボルト頭部から150~1350mm の距離(深さ)に100mm 間隔に施工した棒鋼試験片を用いた事前評価を行った。その結果,周波数2MHz の場合,反射信号と遅れエコーを明瞭に判別できるのは150~1050mm の距離に施工したスリットであり,周波数5MHz の場合には150 ~1350mm のスリットであることが分かった(図3)。 図3 スリットからの反射エコーの相対エコー高さ (上:5MHz,下:2MHz) (2)減肉模擬欠陥による検知試験 次に,棒鋼試験片に深さ5mm の減肉模擬欠陥を施工して欠陥検出性を試験した。図4には試験片に施工した減肉模擬欠陥を示す。検出性試験の結果, 周波数5MHz の探触子の場合には,ボルト頭部から450mm を超える位置の模擬減肉は識別することが困難であることが分かった。表1は,遅れエコーおよびノイズ強度とボルト頭部からの位置との関係を示したものである。深さ450mm において両強度が近接し,識別が難しくなった。そこで,模擬減肉を深さ10mm まで再加工し,ボルト頭部からどの位置まで識別可能であるかを再び試験した。その結果, 1350mm の位置まで識別可能であることが分かった。 図4-3 測定画像の例(M30 基礎ボルト試験体)とボルト概形図 ボルト頭部 ネジの終端位置 フォーカス位置 減肉長さ 遅れエコー ナット 局部減肉 減肉幅 S スキャン B スキャン:横軸は回転角度を示す - 287 - 図5には模擬減肉を検出した際のSおよびBスコープを示す。 図4 試験体(減肉深さ5mm) 表1 深さ5mmの模擬減肉の検出性 図5 測定結果(減肉深さ10mm) 4.まとめ 先行研究では,フェーズドアレイ超音波探傷手法の基礎ボルト減肉事象への適用性について,現場調査,模擬減肉ボルト試験体製作および測定試験により評価し,一定の検出性ならびに測定精度を有する測定手法を開発した。また,発電所での測定により実機基礎ボルトの健全性も確認できた。 本研究では,先行研究の成果を定量的に評価することを試み,以下の成果を得た。 ①深さが約5mm の減肉に対しては,周波数2MHz, 32 素子の探触子を用いた場合,ボルト頭部からの距離が150~1350mm のまでの位置にあるすべての減肉について識別することが困難であった。 ②深さが約5mm の減肉に対しては,周波数5MHz, 32 素子の探触子を用いることにより,ボルト頭部からの距離が150~450mm のまでの位置にある減肉を識別できることが分かった。 ③深さが約10mm の減肉に対しては,周波数5MHz, 32 素子の探触子を用いることにより,ボルト頭部からの距離が1350mm の位置までに付与したすべての減肉に対して遅れエコーを判別できることが分かった。 参考文献 [1] 小平小治郎他,“柏崎刈羽原子力発電所における中越沖地震後の原子力機器の健全性評価-基礎ボルトの超音波探傷技術の適用と開発-”, 日本非破壊検査協会平成20 年度秋季大会講演概要集,pp.33-36,(2008) [2] 熊野秀樹他,“基礎ボルトの減肉検査技術開発”,第7 回保全学会講演概要集,pp.163-164, 1894/06/29[3] 城下 悟,永井辰之,“超音波探傷試験による基礎ボルトの腐食検査に関する検討”,日本非破壊検査協会平成20 年度春季大会講演概要集, pp.163-164,(2008) ボルト頭部 からの距離 探触子周波数 2MHz 探触子周波数 5MHz 150 × ○ 250 × ○ 350 × ○ 450 × ○ 550 × × 650 × × 750 × × 850 × × 550m m 850m 750m m 650m m - 288 -
“ “基礎ボルトの減肉検査技術開発(その2) “ “熊野 秀樹,Hideki YUYA,山﨑 直,Tadashi YAMASAKI,加古 晃弘,Akihiro KAKO,城下 悟,Satoru SHIROSHITA
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