東海再処理施設の緊急時における安全対策(その1)
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カテゴリ: 第12回
1.緒言
東海再処理施設では、使用済燃料から分離・回収した高放射性廃液(以下、「HAW」という。)及び硝酸プルトニウム溶液(以下、「Pu 溶液」という。)を貯蔵している。当施設では、東日本大震災による福島第一原子力発電所事故の教訓を踏まえ、緊急時の安全対策として、全交流電源喪失時における安全対策を講じた。 本稿では全交流電源喪失時に備えた電源の確保及びHAW の安全対策について報告する。
2.全交流電源喪失に備えた電源の確保
東日本大震災において、東海再処理施設の安全は、商用電源が停電したものの、非常用発電機からの給電により電源は確保された。しかしながら、福島第一原子力発電所事故の教訓を踏まえ、非常用発電機の停止を想定し緊急時に必要な電源を確保できるような対策を講じた。 緊急時に給電する施設は、HAW 及びPu 溶液を貯蔵する4 施設(高放射性廃液貯蔵場(以下、「HAW 施設」という。)、ガラス固化技術開発施設、分離精製工場及びプルトニウム転換技術開発施設)とした。 これらの施設の冷却機能及び水素掃気機能(以下、「安全機能」という。)を回復するため、移動式発電機(550kVA ×2 台)を高台(標高18m)に設置した。移動式発電機からの給電ルートは、屋上に常設化した電源ケーブルから各施設内の上層階に設置した緊急電源接続盤を経由し、電源切替盤において通常の電源系統との切替えを行うシステムとし、ポンプ等の緊急時に必要な負荷設備に給電できるようにした(図1)。 これにより、全交流電源が喪失した場合においても、移動式発電機からの給電により、各施設におけるHAW 及びPu 溶液の安全機能の回復を可能とした。
3.高放射性廃液(HAW)の安全対策
3.1 通常時のHAW の安全機能
HAW は、ステンレス鋼製の5 基の貯槽(以下、「HAW 貯槽」という。)に合計約400m3貯蔵されており、その貯槽はコンクリート壁に囲まれたセル内に設置している。 HAW 貯槽の冷却機能は、貯槽内部の冷却コイル及び冷却ジャケットに冷却水を循環することにより行っている。また、水素掃気機能は、空気圧縮機から貯槽内部に圧縮空気を送ることによって水素の滞留を防止している(図2)。 連絡先:岸 義之、〒311-1194 茨城県那珂郡東海村 村松4-33、(国)日本原子力研究開発機構 E-mail:kishi.yoshiyuki@jaea.go.jp - 293 -23.2 緊急時の事象進展評価及び安全対策 全交流電源喪失による安全機能喪失を想定し、HAW の沸点への到達時間及び貯槽空間での水素濃度4%への到達時間について評価した。評価についてはそれぞれ十分保守側の条件[1][2]で行い、これらの時間内に冷却機能と水素掃気機能の回復が対応可能な安全対策を講じた。 (1) 冷却機能の確保 HAW の冷却機能は、移動式発電機から緊急電源接続盤を経由して冷却水ポンプに電源を供給し、冷却コイル及び冷却ジャケットの冷却水を循環させることで回復させる。さらに、対策の多様性を確保するため、ポンプ車を利用して1 次系あるいは2 次系に冷却水を供給し、貯槽を冷却できるように資機材を配備した(図3)。 (2) 水素掃気機能の確保 HAW 貯槽の水素掃気機能は、移動式発電機から空気圧縮機及び排風機に電源を供給し、貯槽内部へ圧縮空気を供給させることで回復させる。さらに、対策の多様性を確保するため、可搬式発電機及び可搬式圧縮機を配備した(図4)。 4.結言 全交流電源喪失時において、冷却機能及び水素掃気機能を確保するための安全対策を講じ、HAW 貯槽の貯蔵における安全性の向上を図った。 これらの対策については、様々な状況を想定した訓練を実施しており、その有効性を確認している。 また、HAW の水素濃度は、評価結果よりも実際にHAW から発生している水素の濃度を測定した結果の方が十分低いことを確認している。 参考文献 [1]東海再処理施設の事故の拡大防止策及び影響緩和の 検討(JNC TN8410 2000-003) [2]東海再処理施設の安全性確認に係る基本データの確認 -放射線分解により発生する水素の検討-(JNC TN8410 99-005) 屋上に電源ケーブル敷設ポンプ等の負荷設備緊急電源接続盤分電盤電源切替盤緊急電源接続盤を上層階に設置HAW施設ガラス固化技術開発施設:緊急時の電源供給移動式発電機標高18m プルト二ウム転換技術開発施設分離精製工場商用電源又は非常用発電機:通常時の電源供給接続盤変電設備図1 既設及び緊急時の給電ルート HAW貯槽:水素掃気機能:冷却機能気相中の水素滞留防止循環冷却水による発熱の除去圧縮空気により水素濃度低下容量:120m3×6基(内1基予備) セル内コンクリート冷却ジャケット冷却コイル排風機空気圧縮機冷却水ポンプ図2 通常時の冷却及び水素掃気機能 :緊急時の電源供給[手段①] :緊急時の電源供給及び冷却[手段②] 非常用発電機ポンプ車冷却設備熱交換器電源切替盤冷却水ポンプ移動式発電機接続盤緊急電源接続盤分電盤変電設備1次系2次系商用電源図3 冷却機能の確保 :緊急時の電源供給[手段①] :緊急時の電源供給及び水素掃気[手段②] 水素の掃気気相中の水素滞留防止非常用発電機商用電源電源切替盤排風機空気圧縮機可搬式圧縮機移動式発電機接続盤緊急電源接続盤“ “東海再処理施設の緊急時における安全対策(その1) “ “岸 義之,Yoshiyuki KISHI,安田 猛,Takeshi YASUDA,所 颯,Hayate TOKORO,山中 淳至,Atsushi YAMANAKA,蔦木 浩一,Koichi TSUTAGI,白土 陽治,Yoji SHIRATO,田中 等,Hitoshi TANAKA
東海再処理施設では、使用済燃料から分離・回収した高放射性廃液(以下、「HAW」という。)及び硝酸プルトニウム溶液(以下、「Pu 溶液」という。)を貯蔵している。当施設では、東日本大震災による福島第一原子力発電所事故の教訓を踏まえ、緊急時の安全対策として、全交流電源喪失時における安全対策を講じた。 本稿では全交流電源喪失時に備えた電源の確保及びHAW の安全対策について報告する。
2.全交流電源喪失に備えた電源の確保
東日本大震災において、東海再処理施設の安全は、商用電源が停電したものの、非常用発電機からの給電により電源は確保された。しかしながら、福島第一原子力発電所事故の教訓を踏まえ、非常用発電機の停止を想定し緊急時に必要な電源を確保できるような対策を講じた。 緊急時に給電する施設は、HAW 及びPu 溶液を貯蔵する4 施設(高放射性廃液貯蔵場(以下、「HAW 施設」という。)、ガラス固化技術開発施設、分離精製工場及びプルトニウム転換技術開発施設)とした。 これらの施設の冷却機能及び水素掃気機能(以下、「安全機能」という。)を回復するため、移動式発電機(550kVA ×2 台)を高台(標高18m)に設置した。移動式発電機からの給電ルートは、屋上に常設化した電源ケーブルから各施設内の上層階に設置した緊急電源接続盤を経由し、電源切替盤において通常の電源系統との切替えを行うシステムとし、ポンプ等の緊急時に必要な負荷設備に給電できるようにした(図1)。 これにより、全交流電源が喪失した場合においても、移動式発電機からの給電により、各施設におけるHAW 及びPu 溶液の安全機能の回復を可能とした。
3.高放射性廃液(HAW)の安全対策
3.1 通常時のHAW の安全機能
HAW は、ステンレス鋼製の5 基の貯槽(以下、「HAW 貯槽」という。)に合計約400m3貯蔵されており、その貯槽はコンクリート壁に囲まれたセル内に設置している。 HAW 貯槽の冷却機能は、貯槽内部の冷却コイル及び冷却ジャケットに冷却水を循環することにより行っている。また、水素掃気機能は、空気圧縮機から貯槽内部に圧縮空気を送ることによって水素の滞留を防止している(図2)。 連絡先:岸 義之、〒311-1194 茨城県那珂郡東海村 村松4-33、(国)日本原子力研究開発機構 E-mail:kishi.yoshiyuki@jaea.go.jp - 293 -23.2 緊急時の事象進展評価及び安全対策 全交流電源喪失による安全機能喪失を想定し、HAW の沸点への到達時間及び貯槽空間での水素濃度4%への到達時間について評価した。評価についてはそれぞれ十分保守側の条件[1][2]で行い、これらの時間内に冷却機能と水素掃気機能の回復が対応可能な安全対策を講じた。 (1) 冷却機能の確保 HAW の冷却機能は、移動式発電機から緊急電源接続盤を経由して冷却水ポンプに電源を供給し、冷却コイル及び冷却ジャケットの冷却水を循環させることで回復させる。さらに、対策の多様性を確保するため、ポンプ車を利用して1 次系あるいは2 次系に冷却水を供給し、貯槽を冷却できるように資機材を配備した(図3)。 (2) 水素掃気機能の確保 HAW 貯槽の水素掃気機能は、移動式発電機から空気圧縮機及び排風機に電源を供給し、貯槽内部へ圧縮空気を供給させることで回復させる。さらに、対策の多様性を確保するため、可搬式発電機及び可搬式圧縮機を配備した(図4)。 4.結言 全交流電源喪失時において、冷却機能及び水素掃気機能を確保するための安全対策を講じ、HAW 貯槽の貯蔵における安全性の向上を図った。 これらの対策については、様々な状況を想定した訓練を実施しており、その有効性を確認している。 また、HAW の水素濃度は、評価結果よりも実際にHAW から発生している水素の濃度を測定した結果の方が十分低いことを確認している。 参考文献 [1]東海再処理施設の事故の拡大防止策及び影響緩和の 検討(JNC TN8410 2000-003) [2]東海再処理施設の安全性確認に係る基本データの確認 -放射線分解により発生する水素の検討-(JNC TN8410 99-005) 屋上に電源ケーブル敷設ポンプ等の負荷設備緊急電源接続盤分電盤電源切替盤緊急電源接続盤を上層階に設置HAW施設ガラス固化技術開発施設:緊急時の電源供給移動式発電機標高18m プルト二ウム転換技術開発施設分離精製工場商用電源又は非常用発電機:通常時の電源供給接続盤変電設備図1 既設及び緊急時の給電ルート HAW貯槽:水素掃気機能:冷却機能気相中の水素滞留防止循環冷却水による発熱の除去圧縮空気により水素濃度低下容量:120m3×6基(内1基予備) セル内コンクリート冷却ジャケット冷却コイル排風機空気圧縮機冷却水ポンプ図2 通常時の冷却及び水素掃気機能 :緊急時の電源供給[手段①] :緊急時の電源供給及び冷却[手段②] 非常用発電機ポンプ車冷却設備熱交換器電源切替盤冷却水ポンプ移動式発電機接続盤緊急電源接続盤分電盤変電設備1次系2次系商用電源図3 冷却機能の確保 :緊急時の電源供給[手段①] :緊急時の電源供給及び水素掃気[手段②] 水素の掃気気相中の水素滞留防止非常用発電機商用電源電源切替盤排風機空気圧縮機可搬式圧縮機移動式発電機接続盤緊急電源接続盤“ “東海再処理施設の緊急時における安全対策(その1) “ “岸 義之,Yoshiyuki KISHI,安田 猛,Takeshi YASUDA,所 颯,Hayate TOKORO,山中 淳至,Atsushi YAMANAKA,蔦木 浩一,Koichi TSUTAGI,白土 陽治,Yoji SHIRATO,田中 等,Hitoshi TANAKA