東海再処理施設の緊急時における安全対策(その2)
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カテゴリ: 第12回
1.緒言
東海再処理施設では、使用済燃料から分離・回収した高放射性廃液(以下、「HAW」という。)及び硝酸プルトニウム溶液(以下、「Pu 溶液」という。)を貯蔵している。当施設では、東日本大震災による福島第一原子力発電所事故の教訓を踏まえ、緊急時の安全対策として、全交流電源喪失時における安全対策を講じた。 本稿では、Pu 溶液に対する安全対策及び重要施設への浸水防止対策について報告する。
2. Pu 溶液の安全機能
2.1 通常時のPu 溶液の安全機能
Pu 溶液は、ステンレス鋼製の7 基の貯槽(以下、「Pu 貯槽」いう。)に合計約3m3 貯蔵されている。Pu 貯槽は、コンクリート壁に囲まれたセル内に設置しており、その形状は、臨界防止のために中央部に空間を有する中空円筒状槽(厚み:4.9cm 又は5.9cm)である。 Pu 貯槽の冷却機能は、換気系の排風機でセル内を換気する空冷により行っている。また、水素掃気機能は、空気圧縮機から貯槽内部に圧縮空気を送ることによって水素の滞留を防止している(図1)。
2.2 緊急時の事象進展評価及び安全対策
全交流電源喪失による安全機能喪失を想定し、Pu 溶液の沸点への到達時間及び貯槽空間での水素濃度4%への到達時間について評価した。評価については、それぞれ十分保守側の条件[1][2]で行い、これらの時間内に冷却機能と水素掃気機能の回復が対応可能な安全対策を講じた。
(1) 冷却機能の確保 Pu 溶液の冷却機能は、移動式発電機(前報参照)から緊急電源接続盤を経由して換気系の排風機に電源を供給し、セル内を換気させ空冷することで回復させる。さらに、対策の多様性を確保するため、可搬式排風機及び可搬式発電機を配備した(図2)。
(2) 水素掃気機能の確保 Pu 貯槽の水素掃気機能は、貯槽の容量が小さく、水素掃気量が少ないことから、必要な容量の窒素ボンベを配備し、窒素ボンベからガスを速やかに供給することで回復させる。また、移動式発電機からの電源供給により排風機を起動させる。さらに、対策の多様性を確保するため、可搬式空気圧縮機及び可搬式発電機を配備した(図3)。
3. 浸水防止対策
東海再処理施設の標高は約6m であり、東日本大震災において東海再処理施設内への浸水は無かったものの、重要施設に対し、浸水防止対策を行った。 浸水防止対策は、標高約14m を基準とし、HAW とPu を取扱う4 つの施設(高放射性廃液貯蔵施設、ガラス固化技術開発施設、分離精製工場及びプルトニウム転換技術開発施設)を対象として、扉等の開口部には浸水防止扉を、窓には閉止板を設置した(図4)。この浸水防止扉は、開閉頻度、開口部の大きさ等に応じて、スライド式やスイング式の扉を採用した。これらの浸水防止対策により、浸水に対する安全性が向上した。 4.結言 東海再処理施設では、福島第一原子力発電所事故の教訓を踏まえ、移動式発電機を配備し、緊急時に重要施設に必要な電源を供給するシステムを構築することにより、HAW 及びPu 溶液の冷却機能及び水素掃気機能の回復を可能とした。これらの安全機能についても、対策の多様性を確保し、安全性の向上を図った。これらの対策については、迅速、且つ、確実に行うため訓練を定期的に行い、対応能力の維持向上を図っている。また、重要施設に対し、浸水防止扉及び閉止板を設置し、浸水に対する安全性の向上を図った。 今後は、新たに制定された新規制基準への適合を踏まえ、更なる安全性向上に係る対応を行っていく。 参考文献 [1]東海再処理施設の事故の拡大防止策及び影響緩和の検討(JNC TN8410 2000-003). [2]東海再処理施設の安全性確認に係る基本データの確認-放射線分解により発生する水素の検討-(JNC TN8410 99-005). Pu貯槽:水素掃気機能:冷却機能気相中の水素滞留防止入気換気により貯槽を冷却圧縮空気により水素濃度低下容量:0.5m3×4基容量:0.7m3×3基セル内コンクリート空気圧縮機排風機排風機図1 通常時の冷却及び水素掃気機能 移動式発電機接続盤緊急電源接続盤分電盤 電源切替盤 変電設備<Pu貯槽の冷却機能の緊急安全対策> 入気換気により貯槽を冷却可搬式発電機可搬式圧縮機排風機:緊急時の電源供給[手段①] :緊急時の電源供給及び冷却[手段②] 商用電源非常用発電機図2 冷却機能の確保 :緊急時の電源供給[手段①] :緊急時の電源供給及び水素掃気[手段②] 水素の掃気気相中の水素滞留防止移動式発電機接続盤緊急電源接続盤分電盤 電源切替盤 変電設備可搬式発電機可搬式圧縮機窒素ボンベ空気圧縮機排風機商用電源非常用発電機図3 水素掃気機能の確保“ “東海再処理施設の緊急時における安全対策(その2) “ “大内 雅之,Masayuki OHUCHI,星 貴弘,Takahiro HOSHI,佐々木 俊一,Shunichi SASAKI,磯部 洋康,Hiroyasu ISOBE,長岡 真一,Shinichi NAGAOKA,倉林 和啓,Kazuaki KURABAYASHI,大部 智行,Tomoyuki OHBU
東海再処理施設では、使用済燃料から分離・回収した高放射性廃液(以下、「HAW」という。)及び硝酸プルトニウム溶液(以下、「Pu 溶液」という。)を貯蔵している。当施設では、東日本大震災による福島第一原子力発電所事故の教訓を踏まえ、緊急時の安全対策として、全交流電源喪失時における安全対策を講じた。 本稿では、Pu 溶液に対する安全対策及び重要施設への浸水防止対策について報告する。
2. Pu 溶液の安全機能
2.1 通常時のPu 溶液の安全機能
Pu 溶液は、ステンレス鋼製の7 基の貯槽(以下、「Pu 貯槽」いう。)に合計約3m3 貯蔵されている。Pu 貯槽は、コンクリート壁に囲まれたセル内に設置しており、その形状は、臨界防止のために中央部に空間を有する中空円筒状槽(厚み:4.9cm 又は5.9cm)である。 Pu 貯槽の冷却機能は、換気系の排風機でセル内を換気する空冷により行っている。また、水素掃気機能は、空気圧縮機から貯槽内部に圧縮空気を送ることによって水素の滞留を防止している(図1)。
2.2 緊急時の事象進展評価及び安全対策
全交流電源喪失による安全機能喪失を想定し、Pu 溶液の沸点への到達時間及び貯槽空間での水素濃度4%への到達時間について評価した。評価については、それぞれ十分保守側の条件[1][2]で行い、これらの時間内に冷却機能と水素掃気機能の回復が対応可能な安全対策を講じた。
(1) 冷却機能の確保 Pu 溶液の冷却機能は、移動式発電機(前報参照)から緊急電源接続盤を経由して換気系の排風機に電源を供給し、セル内を換気させ空冷することで回復させる。さらに、対策の多様性を確保するため、可搬式排風機及び可搬式発電機を配備した(図2)。
(2) 水素掃気機能の確保 Pu 貯槽の水素掃気機能は、貯槽の容量が小さく、水素掃気量が少ないことから、必要な容量の窒素ボンベを配備し、窒素ボンベからガスを速やかに供給することで回復させる。また、移動式発電機からの電源供給により排風機を起動させる。さらに、対策の多様性を確保するため、可搬式空気圧縮機及び可搬式発電機を配備した(図3)。
3. 浸水防止対策
東海再処理施設の標高は約6m であり、東日本大震災において東海再処理施設内への浸水は無かったものの、重要施設に対し、浸水防止対策を行った。 浸水防止対策は、標高約14m を基準とし、HAW とPu を取扱う4 つの施設(高放射性廃液貯蔵施設、ガラス固化技術開発施設、分離精製工場及びプルトニウム転換技術開発施設)を対象として、扉等の開口部には浸水防止扉を、窓には閉止板を設置した(図4)。この浸水防止扉は、開閉頻度、開口部の大きさ等に応じて、スライド式やスイング式の扉を採用した。これらの浸水防止対策により、浸水に対する安全性が向上した。 4.結言 東海再処理施設では、福島第一原子力発電所事故の教訓を踏まえ、移動式発電機を配備し、緊急時に重要施設に必要な電源を供給するシステムを構築することにより、HAW 及びPu 溶液の冷却機能及び水素掃気機能の回復を可能とした。これらの安全機能についても、対策の多様性を確保し、安全性の向上を図った。これらの対策については、迅速、且つ、確実に行うため訓練を定期的に行い、対応能力の維持向上を図っている。また、重要施設に対し、浸水防止扉及び閉止板を設置し、浸水に対する安全性の向上を図った。 今後は、新たに制定された新規制基準への適合を踏まえ、更なる安全性向上に係る対応を行っていく。 参考文献 [1]東海再処理施設の事故の拡大防止策及び影響緩和の検討(JNC TN8410 2000-003). [2]東海再処理施設の安全性確認に係る基本データの確認-放射線分解により発生する水素の検討-(JNC TN8410 99-005). Pu貯槽:水素掃気機能:冷却機能気相中の水素滞留防止入気換気により貯槽を冷却圧縮空気により水素濃度低下容量:0.5m3×4基容量:0.7m3×3基セル内コンクリート空気圧縮機排風機排風機図1 通常時の冷却及び水素掃気機能 移動式発電機接続盤緊急電源接続盤分電盤 電源切替盤 変電設備<Pu貯槽の冷却機能の緊急安全対策> 入気換気により貯槽を冷却可搬式発電機可搬式圧縮機排風機:緊急時の電源供給[手段①] :緊急時の電源供給及び冷却[手段②] 商用電源非常用発電機図2 冷却機能の確保 :緊急時の電源供給[手段①] :緊急時の電源供給及び水素掃気[手段②] 水素の掃気気相中の水素滞留防止移動式発電機接続盤緊急電源接続盤分電盤 電源切替盤 変電設備可搬式発電機可搬式圧縮機窒素ボンベ空気圧縮機排風機商用電源非常用発電機図3 水素掃気機能の確保“ “東海再処理施設の緊急時における安全対策(その2) “ “大内 雅之,Masayuki OHUCHI,星 貴弘,Takahiro HOSHI,佐々木 俊一,Shunichi SASAKI,磯部 洋康,Hiroyasu ISOBE,長岡 真一,Shinichi NAGAOKA,倉林 和啓,Kazuaki KURABAYASHI,大部 智行,Tomoyuki OHBU