東海再処理施設の換気系統の保全
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カテゴリ: 第12回
1.緒 言
機器類は、消耗品等の交換を行うなどの必要な保全を行いながら使用する。しかし、使用が長期化した機器は、経年的な部品の摩耗や歪みが生じることで動作精度が低下し、思わぬ故障に見舞われることがあり、機器類の信頼性を低下させる要因となる。 核燃料を取り扱う再処理施設では、核燃料物質の臨界を防止する機能や放射性物質を閉じ込める機能を維持し、施設の安全性を確保する必要があり、建設から約40 年が経過した東海再処理施設では、高経年化に着目した対応が求められている。 本報告では、東海再処理施設において放射性物質の閉じ込め機能を担う換気系統を対象に、構成機器毎に想定される高経年化と現状の保全を照合し、それを基に実施した点検の結果を踏まえ、今後の換気系統の保全について見直した状況を紹介する。
2.東海再処理施設における閉じ込め機能
東海再処理施設は、原子炉で使用された使用済核燃料をせん断、溶解及び精製する分離精製工場や、高放射性廃液を貯蔵するための施設等からなる核燃料再処理施設である。 東海再処理施設では、放射性物質を閉じ込めるため、さまざまな対策を講じており、放射性物質を貯槽類に保管・貯留することによる閉じ込め、貯槽類を閉鎖された区域に設置することによる閉じ込め、建家の外壁 による建家内への閉じ込めがある。さらに、放射性物質の漏えいや拡散を防止するため、建家内を換気し、常に大気圧より低い圧力(負圧)に維持している。 負圧は、区域の線量率や汚染の可能性に応じて、以下の3 つ区域に区分し、グリーン区域からレッド区域に向けて順に深くなるように調整、管理している。
(Fig.1 参照)
① 放射性物質を扱う処理工程を内蔵するレッド区域 ② 処理工程及び関連機器を保守するために放射性物質による汚染の可能性があるアンバー区域 ③ 処理工程で使用する試薬や動力を供給するための汚染の可能性が低いグリーン区域 Fig.1 The function to confine radioactive material 貯槽類レッド区域アンバー区域グリーン区域大気圧> 負圧>負圧 >負圧 建家外壁閉鎖区域連絡先:川澄裕之、〒319-1194 茨城県那珂郡東海村大字村松4-33、核燃料サイクル工学研究所 再処理技術開発センター 施設管理部 施設保全課、 電話029-282-1111、 E-mail:kawasumi.hiroyuki@jaea.go.jp - 303 -3.換気系統による負圧の維持管理 換気系統は、建家内に空気を供給する給気系統と各部屋の空気を排気する排気系統に大別される。主な機器として、給気系統は空気中の塵や埃をろ過する給気フィルタ、空気を吸い込み建家内へ供給する送風機、建家内の各部屋へ空気を導く給気ダクト、供給空気の圧力を調整する差圧調節計、また、万一の逆流を防止するための逆止弁からなり、更に空気の温湿度を調整する空調設備を備えている。 排気系統は、建家内の空気を排気する際に放射性物質をろ過する排気フィルタ、空気を吐き出し排気筒へ送る排風機、各部屋からの空気を導く排気ダクト、排風機による排気圧力を調整する差圧調節計、また、万一の逆流を防止するための逆止弁から構成されている。(Fig.2 参照) Fig.2 Ventilation system furrow diagram これらの機器により維持している負圧は、給気系統及び排気系統で生じる静圧差を利用して発生させており、各部屋に供給する給気流の正側の静圧に比べ、各部屋の空気を排気する排気流の負側の静圧が大きくなるように設計、調整している。(Fig.3 参照) Fig.3 Occurrence of negative pressure 4.換気系統に係る現状の保全 負圧は、換気系統を構成する送排風機、フィルタ、差圧調節計等を適切に保全することで維持しているが、設置から約40 年が経過し、換気系統の信頼性を維持及び向上させるためには、現状の保全を継続するだけではなく、高経年化を踏まえた現状の保全を見直すことが必要と考え、最初に現状の保全について、状況を整理した。その結果をFig.4 に示す。 Fig.4 Inspection type of ventilation equipment 5.高経年化に対する現状の保全の課題 高経年化を踏まえた現状の保全の見直しを行うにあたり、換気系統を構成する全ての機器について高経年化とその影響を調査、検討した。 高経年化は、換気系統を構成する機器の部品単位で抽出するとともに、抽出した高経年化に対し、その影響と現状の保全の妥当性を評価した。 検討結果の例として、送排風機等における高経年化と現状の保全との関連についてFig.5 に示す。 (1)送排風機 送排風機は、羽根、軸、軸受等で構成され、高経年化は、腐食、摩耗、疲労によるものが主となり、その影響は、負圧の低下につながる。しかし、これらの構成部品の高経年化は、異音や振動の増加、回転数の低下などの運転状態の変化や、錆の発生などの状態変化を現状の保全で検知できることから、現状の保全を見直す必要はなく、妥当であると評価した。 P 給気系統建家排気系統セル排気系統排気筒へセル入気系統アンバー区域グリーン区域レッド区域フィルタ逆止ダンパ差圧調節計送排風機P 手動ダンパ大気QPS1 PS2 Q:流量PS:静圧給気系排気系差圧= PS1-PS2 大気圧-差圧<0:負圧Q 設備名構成設備頻 度現状の保全給気フィルタ月例点検フィルタ圧損、外観目視点検日常点検外観目視・聴音・異臭・触診点検、電流四半期点検四半期振動測定、温度、回転数、電流年次点検精密点検、ISI 逆止弁送排風機切替時開閉状態確認、外観目視、聴音点検日常点検外観目視、聴音点検負圧調整時負圧調整時の操作確認日常点検外観目視、聴音点検年次点検調節計の点検整備、計器校正月例点検フィルタ圧損測定、外観目視点検年次点検外観目視点検日常点検外観目視点検(点検経路) 年次点検目視点検、肉厚測定(代表箇所) 月例点検フィルタ圧損、線量測定、外観目視点検年次点検ケーシング外観、肉厚測定(抜取) 日常点検外観目視点検年次点検近接して外観目視点検、肉厚測定日常点検排気量確認年次点検流量計の点検整備、計器校正、外観目視点検日常点検外観目視点検、年次点検圧力計の点検整備、計器校正シーケンス動作確認(換気インターロック作動試験) 動力電源年次点検絶縁抵抗測定主排気筒圧 力 計制御盤年次点検換気系統送排風機手動ダンパ差圧調節計、調整ダンパ、他セル入気設備ダクト排気フィルタ主排気ダクト- 304 -Fig.5 Influence to equipment by aging trouble, and the current state in maintenance (2)差圧調節計類 差圧調節計類は、差圧調節計、アクチュエータ、導圧管、差圧伝送器等で構成され、主な高経年化は、摩耗、固着及びリークである。その影響は、構成する機器の動作不良や制御不良が生じ、送排風機と同様に負圧の低下につながる。このため、現状の保全では、制御部の定期的な校正を行うなどの計器類の健全性や状態の確認を行っている。また、動的な部分は、日常点検等で動作状態や調節状況を確認することで異常の兆候をとらえて事前に処置ができる。このことから、現状の保全を見直す必要はなく、妥当であると評価した。 (3)ダクト類 ダクト類は、ダクト本体、ガスケット、サポート等で構成され、主な高経年化は、腐食、疲労及び接合部のリークである。その影響は、内部空気の漏えいが考えられる。 現状の保全では、設置年数が長く、重要度の高いダクトを代表として超音波肉厚測定を行っている。なお、代表箇所で有意な減肉が確認された場合は、点検を他のダクトに展開することとしている。 ダクト接合部のガスケットは、外観点検を行っているが、微小なリークは検知が困難であることから、ダクトは、現状の保全を見直す必要があると評価した。 (4)ダンパ類 送排風機の吐出側に設置している逆止弁は、ダンパ本体、軸受、軸及び逆止弁の閉動作時の衝撃エネルギーを吸収するショックダンパ等で構成され、主な高経年化は、腐食、疲労、弁座のリーク及びショックダンパの動作不良である。その影響は、風量や負圧の低下につながる。 現状の保全では、逆止弁は送排風機の切替え時に開閉状態を確認するとともに外観点検及び聴音点検等により健全性を確認している。ショックダンパは、動的機器であるが、外観点検のみであり、逆止弁の動作に影響を与える兆候を確認している。 このため、ショックダンパは、現状の保全を見直す必要があると評価した。 以上のことから、今回の調査、検討を行ったことで、現状の保全で異常を検知し、速やかな対応を図ることにより、換気系統を構成する多くの機器類は、高経年化に対応できていると考えられるが、ダクト及びショックダンパについては、現状の保全に課題があると評価した。 6.高経年化に対応した保全への見直し (1)現状の保全の見直し ダクトに対する現状の保全の見直しは、高経年化として抽出した腐食、疲労及び接合部のリークに対応した保全が必要であるため、それぞれの事象について必要な点検項目を検討した。 また、ショックダンパは、現状の保全ではその機能を維持することができず、動作不良が生じていることから、今後の保全内容を検討するにあたって、状態の評価を実施することとした。 ① ダクトの腐食について ダクトの腐食は、ダクトの内外面に生じる結露(水分)が大きな要因に挙げられ、主にダクト外面では内部流体と設置区域との温度差や湿度により、ダクト内面では圧力変動により生じる。また、ダクト外面は、結露の発生が確認されているが、外面は塗装しており、現状の保守で適時塗装保全を行うことで腐食を防止できる。しかし、ダクト内面は、放射性物質による汚染の可能性や常に使用状態にあることから、容易に内部点検はできず、腐食や結露の状況を確認できない。故障時の影響点検保守の現状羽車全面腐食○送風量の低下○異音、振動の増加換気風量の低下、排風機の場合は負圧低下・聴音・触診(巡視)⇒動作音の増減・振動測定(四半期)⇒羽車の異常によるアンバランス・負圧確認(月例、年次)⇒送風能力の低下による施設全体の負圧変化軸軸受ケーシング全面腐食○送風量の低下○異音、振動の増加○サビの発生○換気風量の低下、排風機の場合は負圧低下○排風機の場合、施設内での排気の漏えい・外観・聴音・触診(巡視)⇒有害な錆、潤滑剤漏れ、振動、異音の確認・振動測定(四半期)⇒ケーシングの異常に起因した振動の増加プーリー磨耗○回転数の低下○Vベルトの劣化顕著○換気風量の低下、排風機の場合は負圧低下○排風機の場合、施設内での排気の漏えい・外観⇒磨耗によるVベルトの落ち込み・聴音⇒磨耗、張力低下によるスリップ音・点検整備⇒プーリーの状態、取付状態の確認Vベルト磨耗、伸び、切断○回転数の低下○磨耗粉等の飛散○換気風量の低下、排風機の場合は負圧低下○排風機の場合、施設内での排気の漏えい・外観・聴音(巡視)⇒磨耗粉、緩みによるVベルトの劣化、磨耗、張力低下によるスリップ音・点検整備(年次)⇒Vベルトの状態確認アンカーボルト腐食、疲労○緩みの発生○振動の増加○サビの発生ボルトのせん断により、耐震性が低下する可能性あり。・外観(巡視)⇒アイマークを目視で点検し緩みの確認・点検整備(年次)⇒アンカーボルトの緩みを工具により確認架台腐食○サビの発生○振動の増加- 外観点検(巡視)⇒有害な腐食のないことを確認している。○送風機の場合、換気風量の低下。制限運転への移行○排風機の場合、換気風量の低下及び負圧の低下。予備機によるバックアップ・外観・聴音・触診(巡視)⇒有害な錆、潤滑剤漏れ、振動、異音の確認・振動測定(四半期)⇒振動増加による軸の偏心、磨耗並びに軸受の損傷、疲れ、潤滑状態の確認・点検整備(年次)⇒軸、軸受の目視点検、潤滑材の交換及び振動測定等の実施機器類(構成部品) 高経年化事象送排風機腐食、磨耗等振動の増加- 305 -このため、従来から代表箇所のダクトについて、定点での超音波肉厚測定を実施し、腐食傾向を管理している。しかしながら、経路長さのあるダクトの腐食状況を代表部だけで判断しており、その妥当性について他のダクトを測定して確認する必要があると考え、再処理施設内でダクトの腐食条件が最も厳しい排気系統を選定して超音波肉厚測定を行うこととした。 また、ピンホール等による微小なリークは、スモークテスタ又はスミヤ法により漏えいの有無を点検することとした。 ② ダクトの疲労について ダクトの疲労は、運転中の振動による長期的な繰り返し応力や短期的な地震による応力によって生じ、ダクトに割れや変形が発生することが考えられる。しかし、再処理施設のダクトは、その構造が剛となるように設計、施工されているため、地震等により過度な応力が発生することはなく、空気の流れに伴う脈動による長期的な繰り返し応力に対しても、ダクト壁面の補強により過度な振幅を伴う振動はない。このため、ダクトに生じる応力は、炭素鋼の許容応力245MPa の1/2 値に比べて十分に小さいと推定でき、疲労による割れや変形が生じない設計、設置環境にある。[1] したがって、疲労に着目した点検は必要ないものの、現状のダクトの健全性確認を目的として、応力集中部となるエルボ部、分岐部の状態について、外観目視により確認することとした。 ③ ダクト接合部のリークについて ダクト接合部は、ダクトの接続に使用しているガスケットがダクトの偏心や軸方向の変位による潰れや割れ、紫外線及び水分による硬化、膨潤することを考慮する必要がある。[2] 現状の保全では、微小なリークの検知は困難であり、常時使用中のダクトのガスケットを交換するサンプル試験も容易に行うことができない。このため、ダクト接合部のリークに対しては、スモークテスタ又はスミヤ法による漏えいの有無を確認することとした。 (2)見直した点検の実施結果 換気系統の高経年化に対応した保全の見直しに係る点検を実施した。その結果を以下に示す。 ① ダクトに係る点検の結果 ダクトの超音波肉厚測定は、次の条件を基に、分離精製工場のセル排気ダクトを選定して行った。 ・経過年数の長い施設の換気系統 ・腐食条件が最も厳しい換気系統(ダクト内の空気に腐食性ガス、ミストが内包する可能性のある系統) 当該セル排気ダクトの設計板厚は、主な矩形ダクト及び円ダクトで約2.3mm、主排気ダクトでは約4.5mm である。超音波厚み計による測定は、同一ダクトにおいて周方向8 箇所を実施した。 厚み測定の結果、矩形ダクトでは2.1~2.6mm、主排気ダクトでは4.2~4.5mm、円ダクトでは2.2~ 2.5mm であった。また、各ダクトの腐食速度は矩形ダクトで0.01mm/year 、主排気ダクトでは約0.019mm/year、円ダクトで約0.008mm/year となる。(Fig.6 参照) これは、炭素鋼の一般的な大気中腐食速度が0.01~0.04mm/year 程度であることから、有意な腐食環境にないことがわかった。[3]、[4]、[5] Fig.6 Measurement result of the wall thickness of ducts なお、従来から測定していた代表箇所(主排気ダクト)は、今回測定した結果の中で最も腐食速度が大きく、現状の保全での代表箇所として妥当であった。 また、ダクトのピンホールやダクト接合部のガスケットからのリークを想定したスモークテスタ、スミヤ法による点検や応力集中部となるエルボ部、分岐部の状態の点検結果についても異常は確認されなかった。 矩形ダクト主排気ダクト円ダクトA443 A564 A043 670×350 4000×1860 200φ Min 2.1 4.05 2.1 Ave 2.3 4.5 2.3 Max 2.5 4.95 2.5 誤差±0.20 ±0.45 ±0.20 Min 2.1 4.2 2.2 Ave 2.4 4.4 2.3 Max 2.6 4.5 2.5 -0.4 -0.75 -0.3 設計板厚は、ダクトの種類ごとに最大値、最小値及び平均値を示し、約40年間での減肉量は、設計板厚の製作最大プラス公差と測定結果の最小値から算出した。①設計板厚[mm] ②測定結果[mm] 腐食速度[mm/40years] [(②Min)-(①Max)] 種 類設置場所寸 法- 306 -以上のことから、この約40 年間のダクトの使用で有意な減肉は認められず、ピンホールの有無や接合部に異常もないことから、今後の換気系統の運転に影響は無いと考える。しかしながら、今後も腐食による減肉は経年的に進行していくため、今回実施した点検を5 年程度の周期で実施し、継続して監視していくこととした。 ② ショックダンパの点検結果 ショックダンパは、逆止弁の閉動作時の衝撃を吸収し、スムーズな閉動作となるように設置した機器であり、20~2000kg の間で荷重の設定が可能である。(Fig.7,8,9,10 参照) Fig.7 Outline of exhaust blower Fig.8 Structure of backflow preventing damper Fig.9 Outline of shock-absorber Fig.10 Structure of shock-absorber [6] 逆止弁の動作に影響を与える兆候が現れた原因を特定するため、荷重試験、空気量及びオイル量の確認を実施した。また、この確認の結果を新品のショックダンパの状態と比較して評価した。 ① 荷重試験の結果 荷重試験は、取り外した既設のショックダンパに一定の試験荷重を掛け、ピストンロッドの伸縮時間を測定することで、減衰力を確認した。 試験の結果、既設のショックダンパは以下のような状態にあることが分かった。(Fig.11 参照) ○ 設定荷重を変更しない状態(初期値250kg)で、新品の200kg 設定に満たない荷重吸収時間であった。 ○ 荷重設定を変更した場合でも同様な結果であり、外観上の設定値に対して適切な減衰力が得られていない状態にあった。 ○ オイル交換後は、60~600kg 設定において新品と同等の性能を示した。 Fig.11 Result of load test ② 空気量の確認 荷重試験により減衰力の低下が確認されたショックダンパは、内部部品の故障又は内部オイル量の不足が考えられる。ショックダンパ内部は、通常はオイルで満たされており、内部の空気量を確認することで開放することなく、内部オイル量が推定できる。このため空気量の確認を行うこととした。 排気の流れ[側面] 運転機の背圧シートパッキン閉位置付近でふらつく事象[正面] 逆止弁が閉じている状態逆止弁が開いている状態逆止弁が閉じている状態逆止弁が開いている状態新 品右側整備前右側整備後左側整備前左側整備後初期値250kg ― 1.89 秒― 1.49 秒― 60 kg 0.56 秒0.40 秒0.67 秒0.36 秒0.60 秒200 kg 2.50 秒1.38 秒2.54 秒0.95 秒2.52 秒600 kg 4.05 秒2.26 秒3.85 秒1.34 秒4.06 秒18.1kg 設定値試験対象試験荷重11.5kg - 307 -確認方法は、荷重設定を最大目盛に合わせ、ピストンロッドの遊びのストローク量を測定することにより行うことができる。 その結果、ピストンロッドの遊びのストローク量は、14.5~15.5mm であり、適正量(1~2mm)に比べて大きく、内部の空気の混入量が多い状態(オイル量の不足)にあった。(Fig.12 参照) Fig.12 Result of Air volume confirmation in shockabsorber ③ オイル量の確認 次に内部のオイルを抜き出し、実測によりオイル量を確認した結果、残留オイル量は約30cc で、既定量(約40cc)に対してオイルが不足している状態が確認された。(Fig.13 参照) Fig.13 Result of the confirmation of an oil remaining amount in shock-absorber また、オイルの抜き出し後、既定量までオイルを充填し、再度荷重試験を行った結果、新品と同等の性能を示したことから、減衰力の低下は内部部品の故障によるものではないと判断した。(Fig.11 参照) ショックダンパは、一般の使用方法に比べて動作回数が極端に少ない使用方法であり、保全の必要性は低いとのメーカ見解が示されていたが、約15 年間の運転により、内部のオイル量が不足する状態になることがわかった。 高経年化に対応する現状の保全の見直しとして、逆止弁の動作を維持するためにはショックダンパの健全性を確認する必要があり、荷重試験による減衰力の確認及びオイル交換を毎年実施することで、機能維持を図ることとした。 7.まとめ 再処理施設の閉じ込め機能を担う換気系統の現状の保全は、高経年化に対して多くの構成機器に有効的であると考える。 しかし、現状の保全について、高経年化の観点から構成する機器の部品ごとに見直すことにより、ダクト及びショックダンパの現状の保全が不十分であることがわかった。 今回、換気系統を対象に見直した保全は、今後継続的に実施することで、高経年化状態にある機器類について適切に状態を把握することができるものとなったと考える。また、今回見直した保全を運用していくとともに引き続き保全方法の検討や見直しを図ることで、再処理施設の閉じ込め機能を維持し、以って施設の安全性向上に努めて行く。 8.参考文献 [1] 小原嗣朗(1992)『金属材料概論』株式会社朝倉書店 [2] 岩浪繁蔵・近森徳重(1978)『パッキン技術便覧(第2 版)』産業図書株式会社 [3] 防錆・防食技術総覧編集委員会編(2000)『防錆・防食技術総覧』株式会社産業技術サービスセンター [4] 社団法人腐食防食協会編(2000)『腐食・防食ハンドブック』丸善株式会社 [5] 防錆防食技術マニュアル編集委員会編著(1984) 『JIS 防錆防食技術マニュアル』一般財団法人日本規格協会 [6] 株式会社ツバキE&M(2013)「製品カタログ、他」 初期状態オイル交換後K21右側15 1 K21左側15.5 1.5 K22右側14.5 2 K22左側14.5 1.5 収縮距離(mm) 適正な状態1~2mm 抜取量充填量残留量(推定) 元々の充填量(推定) K21右側約22 約32 約8 約30 K21左側約20 約35 約5 約25 K22右側約26 約31 約9 約35 K22左側約24 約33 約7 約31 オイル量(cc) 既定量40cc“ “東海再処理施設の換気系統の保全 “ “川澄 裕之,Hiroyuki KAWASUMI,竹内 謙二,Kenji TAKEUCHI,堂村 和幸,Kazuyuki DOMURA,算用子 裕孝,Hirotaka SANYOSHI,伊波 慎一,Shinichi INAMI
機器類は、消耗品等の交換を行うなどの必要な保全を行いながら使用する。しかし、使用が長期化した機器は、経年的な部品の摩耗や歪みが生じることで動作精度が低下し、思わぬ故障に見舞われることがあり、機器類の信頼性を低下させる要因となる。 核燃料を取り扱う再処理施設では、核燃料物質の臨界を防止する機能や放射性物質を閉じ込める機能を維持し、施設の安全性を確保する必要があり、建設から約40 年が経過した東海再処理施設では、高経年化に着目した対応が求められている。 本報告では、東海再処理施設において放射性物質の閉じ込め機能を担う換気系統を対象に、構成機器毎に想定される高経年化と現状の保全を照合し、それを基に実施した点検の結果を踏まえ、今後の換気系統の保全について見直した状況を紹介する。
2.東海再処理施設における閉じ込め機能
東海再処理施設は、原子炉で使用された使用済核燃料をせん断、溶解及び精製する分離精製工場や、高放射性廃液を貯蔵するための施設等からなる核燃料再処理施設である。 東海再処理施設では、放射性物質を閉じ込めるため、さまざまな対策を講じており、放射性物質を貯槽類に保管・貯留することによる閉じ込め、貯槽類を閉鎖された区域に設置することによる閉じ込め、建家の外壁 による建家内への閉じ込めがある。さらに、放射性物質の漏えいや拡散を防止するため、建家内を換気し、常に大気圧より低い圧力(負圧)に維持している。 負圧は、区域の線量率や汚染の可能性に応じて、以下の3 つ区域に区分し、グリーン区域からレッド区域に向けて順に深くなるように調整、管理している。
(Fig.1 参照)
① 放射性物質を扱う処理工程を内蔵するレッド区域 ② 処理工程及び関連機器を保守するために放射性物質による汚染の可能性があるアンバー区域 ③ 処理工程で使用する試薬や動力を供給するための汚染の可能性が低いグリーン区域 Fig.1 The function to confine radioactive material 貯槽類レッド区域アンバー区域グリーン区域大気圧> 負圧>負圧 >負圧 建家外壁閉鎖区域連絡先:川澄裕之、〒319-1194 茨城県那珂郡東海村大字村松4-33、核燃料サイクル工学研究所 再処理技術開発センター 施設管理部 施設保全課、 電話029-282-1111、 E-mail:kawasumi.hiroyuki@jaea.go.jp - 303 -3.換気系統による負圧の維持管理 換気系統は、建家内に空気を供給する給気系統と各部屋の空気を排気する排気系統に大別される。主な機器として、給気系統は空気中の塵や埃をろ過する給気フィルタ、空気を吸い込み建家内へ供給する送風機、建家内の各部屋へ空気を導く給気ダクト、供給空気の圧力を調整する差圧調節計、また、万一の逆流を防止するための逆止弁からなり、更に空気の温湿度を調整する空調設備を備えている。 排気系統は、建家内の空気を排気する際に放射性物質をろ過する排気フィルタ、空気を吐き出し排気筒へ送る排風機、各部屋からの空気を導く排気ダクト、排風機による排気圧力を調整する差圧調節計、また、万一の逆流を防止するための逆止弁から構成されている。(Fig.2 参照) Fig.2 Ventilation system furrow diagram これらの機器により維持している負圧は、給気系統及び排気系統で生じる静圧差を利用して発生させており、各部屋に供給する給気流の正側の静圧に比べ、各部屋の空気を排気する排気流の負側の静圧が大きくなるように設計、調整している。(Fig.3 参照) Fig.3 Occurrence of negative pressure 4.換気系統に係る現状の保全 負圧は、換気系統を構成する送排風機、フィルタ、差圧調節計等を適切に保全することで維持しているが、設置から約40 年が経過し、換気系統の信頼性を維持及び向上させるためには、現状の保全を継続するだけではなく、高経年化を踏まえた現状の保全を見直すことが必要と考え、最初に現状の保全について、状況を整理した。その結果をFig.4 に示す。 Fig.4 Inspection type of ventilation equipment 5.高経年化に対する現状の保全の課題 高経年化を踏まえた現状の保全の見直しを行うにあたり、換気系統を構成する全ての機器について高経年化とその影響を調査、検討した。 高経年化は、換気系統を構成する機器の部品単位で抽出するとともに、抽出した高経年化に対し、その影響と現状の保全の妥当性を評価した。 検討結果の例として、送排風機等における高経年化と現状の保全との関連についてFig.5 に示す。 (1)送排風機 送排風機は、羽根、軸、軸受等で構成され、高経年化は、腐食、摩耗、疲労によるものが主となり、その影響は、負圧の低下につながる。しかし、これらの構成部品の高経年化は、異音や振動の増加、回転数の低下などの運転状態の変化や、錆の発生などの状態変化を現状の保全で検知できることから、現状の保全を見直す必要はなく、妥当であると評価した。 P 給気系統建家排気系統セル排気系統排気筒へセル入気系統アンバー区域グリーン区域レッド区域フィルタ逆止ダンパ差圧調節計送排風機P 手動ダンパ大気QPS1 PS2 Q:流量PS:静圧給気系排気系差圧= PS1-PS2 大気圧-差圧<0:負圧Q 設備名構成設備頻 度現状の保全給気フィルタ月例点検フィルタ圧損、外観目視点検日常点検外観目視・聴音・異臭・触診点検、電流四半期点検四半期振動測定、温度、回転数、電流年次点検精密点検、ISI 逆止弁送排風機切替時開閉状態確認、外観目視、聴音点検日常点検外観目視、聴音点検負圧調整時負圧調整時の操作確認日常点検外観目視、聴音点検年次点検調節計の点検整備、計器校正月例点検フィルタ圧損測定、外観目視点検年次点検外観目視点検日常点検外観目視点検(点検経路) 年次点検目視点検、肉厚測定(代表箇所) 月例点検フィルタ圧損、線量測定、外観目視点検年次点検ケーシング外観、肉厚測定(抜取) 日常点検外観目視点検年次点検近接して外観目視点検、肉厚測定日常点検排気量確認年次点検流量計の点検整備、計器校正、外観目視点検日常点検外観目視点検、年次点検圧力計の点検整備、計器校正シーケンス動作確認(換気インターロック作動試験) 動力電源年次点検絶縁抵抗測定主排気筒圧 力 計制御盤年次点検換気系統送排風機手動ダンパ差圧調節計、調整ダンパ、他セル入気設備ダクト排気フィルタ主排気ダクト- 304 -Fig.5 Influence to equipment by aging trouble, and the current state in maintenance (2)差圧調節計類 差圧調節計類は、差圧調節計、アクチュエータ、導圧管、差圧伝送器等で構成され、主な高経年化は、摩耗、固着及びリークである。その影響は、構成する機器の動作不良や制御不良が生じ、送排風機と同様に負圧の低下につながる。このため、現状の保全では、制御部の定期的な校正を行うなどの計器類の健全性や状態の確認を行っている。また、動的な部分は、日常点検等で動作状態や調節状況を確認することで異常の兆候をとらえて事前に処置ができる。このことから、現状の保全を見直す必要はなく、妥当であると評価した。 (3)ダクト類 ダクト類は、ダクト本体、ガスケット、サポート等で構成され、主な高経年化は、腐食、疲労及び接合部のリークである。その影響は、内部空気の漏えいが考えられる。 現状の保全では、設置年数が長く、重要度の高いダクトを代表として超音波肉厚測定を行っている。なお、代表箇所で有意な減肉が確認された場合は、点検を他のダクトに展開することとしている。 ダクト接合部のガスケットは、外観点検を行っているが、微小なリークは検知が困難であることから、ダクトは、現状の保全を見直す必要があると評価した。 (4)ダンパ類 送排風機の吐出側に設置している逆止弁は、ダンパ本体、軸受、軸及び逆止弁の閉動作時の衝撃エネルギーを吸収するショックダンパ等で構成され、主な高経年化は、腐食、疲労、弁座のリーク及びショックダンパの動作不良である。その影響は、風量や負圧の低下につながる。 現状の保全では、逆止弁は送排風機の切替え時に開閉状態を確認するとともに外観点検及び聴音点検等により健全性を確認している。ショックダンパは、動的機器であるが、外観点検のみであり、逆止弁の動作に影響を与える兆候を確認している。 このため、ショックダンパは、現状の保全を見直す必要があると評価した。 以上のことから、今回の調査、検討を行ったことで、現状の保全で異常を検知し、速やかな対応を図ることにより、換気系統を構成する多くの機器類は、高経年化に対応できていると考えられるが、ダクト及びショックダンパについては、現状の保全に課題があると評価した。 6.高経年化に対応した保全への見直し (1)現状の保全の見直し ダクトに対する現状の保全の見直しは、高経年化として抽出した腐食、疲労及び接合部のリークに対応した保全が必要であるため、それぞれの事象について必要な点検項目を検討した。 また、ショックダンパは、現状の保全ではその機能を維持することができず、動作不良が生じていることから、今後の保全内容を検討するにあたって、状態の評価を実施することとした。 ① ダクトの腐食について ダクトの腐食は、ダクトの内外面に生じる結露(水分)が大きな要因に挙げられ、主にダクト外面では内部流体と設置区域との温度差や湿度により、ダクト内面では圧力変動により生じる。また、ダクト外面は、結露の発生が確認されているが、外面は塗装しており、現状の保守で適時塗装保全を行うことで腐食を防止できる。しかし、ダクト内面は、放射性物質による汚染の可能性や常に使用状態にあることから、容易に内部点検はできず、腐食や結露の状況を確認できない。故障時の影響点検保守の現状羽車全面腐食○送風量の低下○異音、振動の増加換気風量の低下、排風機の場合は負圧低下・聴音・触診(巡視)⇒動作音の増減・振動測定(四半期)⇒羽車の異常によるアンバランス・負圧確認(月例、年次)⇒送風能力の低下による施設全体の負圧変化軸軸受ケーシング全面腐食○送風量の低下○異音、振動の増加○サビの発生○換気風量の低下、排風機の場合は負圧低下○排風機の場合、施設内での排気の漏えい・外観・聴音・触診(巡視)⇒有害な錆、潤滑剤漏れ、振動、異音の確認・振動測定(四半期)⇒ケーシングの異常に起因した振動の増加プーリー磨耗○回転数の低下○Vベルトの劣化顕著○換気風量の低下、排風機の場合は負圧低下○排風機の場合、施設内での排気の漏えい・外観⇒磨耗によるVベルトの落ち込み・聴音⇒磨耗、張力低下によるスリップ音・点検整備⇒プーリーの状態、取付状態の確認Vベルト磨耗、伸び、切断○回転数の低下○磨耗粉等の飛散○換気風量の低下、排風機の場合は負圧低下○排風機の場合、施設内での排気の漏えい・外観・聴音(巡視)⇒磨耗粉、緩みによるVベルトの劣化、磨耗、張力低下によるスリップ音・点検整備(年次)⇒Vベルトの状態確認アンカーボルト腐食、疲労○緩みの発生○振動の増加○サビの発生ボルトのせん断により、耐震性が低下する可能性あり。・外観(巡視)⇒アイマークを目視で点検し緩みの確認・点検整備(年次)⇒アンカーボルトの緩みを工具により確認架台腐食○サビの発生○振動の増加- 外観点検(巡視)⇒有害な腐食のないことを確認している。○送風機の場合、換気風量の低下。制限運転への移行○排風機の場合、換気風量の低下及び負圧の低下。予備機によるバックアップ・外観・聴音・触診(巡視)⇒有害な錆、潤滑剤漏れ、振動、異音の確認・振動測定(四半期)⇒振動増加による軸の偏心、磨耗並びに軸受の損傷、疲れ、潤滑状態の確認・点検整備(年次)⇒軸、軸受の目視点検、潤滑材の交換及び振動測定等の実施機器類(構成部品) 高経年化事象送排風機腐食、磨耗等振動の増加- 305 -このため、従来から代表箇所のダクトについて、定点での超音波肉厚測定を実施し、腐食傾向を管理している。しかしながら、経路長さのあるダクトの腐食状況を代表部だけで判断しており、その妥当性について他のダクトを測定して確認する必要があると考え、再処理施設内でダクトの腐食条件が最も厳しい排気系統を選定して超音波肉厚測定を行うこととした。 また、ピンホール等による微小なリークは、スモークテスタ又はスミヤ法により漏えいの有無を点検することとした。 ② ダクトの疲労について ダクトの疲労は、運転中の振動による長期的な繰り返し応力や短期的な地震による応力によって生じ、ダクトに割れや変形が発生することが考えられる。しかし、再処理施設のダクトは、その構造が剛となるように設計、施工されているため、地震等により過度な応力が発生することはなく、空気の流れに伴う脈動による長期的な繰り返し応力に対しても、ダクト壁面の補強により過度な振幅を伴う振動はない。このため、ダクトに生じる応力は、炭素鋼の許容応力245MPa の1/2 値に比べて十分に小さいと推定でき、疲労による割れや変形が生じない設計、設置環境にある。[1] したがって、疲労に着目した点検は必要ないものの、現状のダクトの健全性確認を目的として、応力集中部となるエルボ部、分岐部の状態について、外観目視により確認することとした。 ③ ダクト接合部のリークについて ダクト接合部は、ダクトの接続に使用しているガスケットがダクトの偏心や軸方向の変位による潰れや割れ、紫外線及び水分による硬化、膨潤することを考慮する必要がある。[2] 現状の保全では、微小なリークの検知は困難であり、常時使用中のダクトのガスケットを交換するサンプル試験も容易に行うことができない。このため、ダクト接合部のリークに対しては、スモークテスタ又はスミヤ法による漏えいの有無を確認することとした。 (2)見直した点検の実施結果 換気系統の高経年化に対応した保全の見直しに係る点検を実施した。その結果を以下に示す。 ① ダクトに係る点検の結果 ダクトの超音波肉厚測定は、次の条件を基に、分離精製工場のセル排気ダクトを選定して行った。 ・経過年数の長い施設の換気系統 ・腐食条件が最も厳しい換気系統(ダクト内の空気に腐食性ガス、ミストが内包する可能性のある系統) 当該セル排気ダクトの設計板厚は、主な矩形ダクト及び円ダクトで約2.3mm、主排気ダクトでは約4.5mm である。超音波厚み計による測定は、同一ダクトにおいて周方向8 箇所を実施した。 厚み測定の結果、矩形ダクトでは2.1~2.6mm、主排気ダクトでは4.2~4.5mm、円ダクトでは2.2~ 2.5mm であった。また、各ダクトの腐食速度は矩形ダクトで0.01mm/year 、主排気ダクトでは約0.019mm/year、円ダクトで約0.008mm/year となる。(Fig.6 参照) これは、炭素鋼の一般的な大気中腐食速度が0.01~0.04mm/year 程度であることから、有意な腐食環境にないことがわかった。[3]、[4]、[5] Fig.6 Measurement result of the wall thickness of ducts なお、従来から測定していた代表箇所(主排気ダクト)は、今回測定した結果の中で最も腐食速度が大きく、現状の保全での代表箇所として妥当であった。 また、ダクトのピンホールやダクト接合部のガスケットからのリークを想定したスモークテスタ、スミヤ法による点検や応力集中部となるエルボ部、分岐部の状態の点検結果についても異常は確認されなかった。 矩形ダクト主排気ダクト円ダクトA443 A564 A043 670×350 4000×1860 200φ Min 2.1 4.05 2.1 Ave 2.3 4.5 2.3 Max 2.5 4.95 2.5 誤差±0.20 ±0.45 ±0.20 Min 2.1 4.2 2.2 Ave 2.4 4.4 2.3 Max 2.6 4.5 2.5 -0.4 -0.75 -0.3 設計板厚は、ダクトの種類ごとに最大値、最小値及び平均値を示し、約40年間での減肉量は、設計板厚の製作最大プラス公差と測定結果の最小値から算出した。①設計板厚[mm] ②測定結果[mm] 腐食速度[mm/40years] [(②Min)-(①Max)] 種 類設置場所寸 法- 306 -以上のことから、この約40 年間のダクトの使用で有意な減肉は認められず、ピンホールの有無や接合部に異常もないことから、今後の換気系統の運転に影響は無いと考える。しかしながら、今後も腐食による減肉は経年的に進行していくため、今回実施した点検を5 年程度の周期で実施し、継続して監視していくこととした。 ② ショックダンパの点検結果 ショックダンパは、逆止弁の閉動作時の衝撃を吸収し、スムーズな閉動作となるように設置した機器であり、20~2000kg の間で荷重の設定が可能である。(Fig.7,8,9,10 参照) Fig.7 Outline of exhaust blower Fig.8 Structure of backflow preventing damper Fig.9 Outline of shock-absorber Fig.10 Structure of shock-absorber [6] 逆止弁の動作に影響を与える兆候が現れた原因を特定するため、荷重試験、空気量及びオイル量の確認を実施した。また、この確認の結果を新品のショックダンパの状態と比較して評価した。 ① 荷重試験の結果 荷重試験は、取り外した既設のショックダンパに一定の試験荷重を掛け、ピストンロッドの伸縮時間を測定することで、減衰力を確認した。 試験の結果、既設のショックダンパは以下のような状態にあることが分かった。(Fig.11 参照) ○ 設定荷重を変更しない状態(初期値250kg)で、新品の200kg 設定に満たない荷重吸収時間であった。 ○ 荷重設定を変更した場合でも同様な結果であり、外観上の設定値に対して適切な減衰力が得られていない状態にあった。 ○ オイル交換後は、60~600kg 設定において新品と同等の性能を示した。 Fig.11 Result of load test ② 空気量の確認 荷重試験により減衰力の低下が確認されたショックダンパは、内部部品の故障又は内部オイル量の不足が考えられる。ショックダンパ内部は、通常はオイルで満たされており、内部の空気量を確認することで開放することなく、内部オイル量が推定できる。このため空気量の確認を行うこととした。 排気の流れ[側面] 運転機の背圧シートパッキン閉位置付近でふらつく事象[正面] 逆止弁が閉じている状態逆止弁が開いている状態逆止弁が閉じている状態逆止弁が開いている状態新 品右側整備前右側整備後左側整備前左側整備後初期値250kg ― 1.89 秒― 1.49 秒― 60 kg 0.56 秒0.40 秒0.67 秒0.36 秒0.60 秒200 kg 2.50 秒1.38 秒2.54 秒0.95 秒2.52 秒600 kg 4.05 秒2.26 秒3.85 秒1.34 秒4.06 秒18.1kg 設定値試験対象試験荷重11.5kg - 307 -確認方法は、荷重設定を最大目盛に合わせ、ピストンロッドの遊びのストローク量を測定することにより行うことができる。 その結果、ピストンロッドの遊びのストローク量は、14.5~15.5mm であり、適正量(1~2mm)に比べて大きく、内部の空気の混入量が多い状態(オイル量の不足)にあった。(Fig.12 参照) Fig.12 Result of Air volume confirmation in shockabsorber ③ オイル量の確認 次に内部のオイルを抜き出し、実測によりオイル量を確認した結果、残留オイル量は約30cc で、既定量(約40cc)に対してオイルが不足している状態が確認された。(Fig.13 参照) Fig.13 Result of the confirmation of an oil remaining amount in shock-absorber また、オイルの抜き出し後、既定量までオイルを充填し、再度荷重試験を行った結果、新品と同等の性能を示したことから、減衰力の低下は内部部品の故障によるものではないと判断した。(Fig.11 参照) ショックダンパは、一般の使用方法に比べて動作回数が極端に少ない使用方法であり、保全の必要性は低いとのメーカ見解が示されていたが、約15 年間の運転により、内部のオイル量が不足する状態になることがわかった。 高経年化に対応する現状の保全の見直しとして、逆止弁の動作を維持するためにはショックダンパの健全性を確認する必要があり、荷重試験による減衰力の確認及びオイル交換を毎年実施することで、機能維持を図ることとした。 7.まとめ 再処理施設の閉じ込め機能を担う換気系統の現状の保全は、高経年化に対して多くの構成機器に有効的であると考える。 しかし、現状の保全について、高経年化の観点から構成する機器の部品ごとに見直すことにより、ダクト及びショックダンパの現状の保全が不十分であることがわかった。 今回、換気系統を対象に見直した保全は、今後継続的に実施することで、高経年化状態にある機器類について適切に状態を把握することができるものとなったと考える。また、今回見直した保全を運用していくとともに引き続き保全方法の検討や見直しを図ることで、再処理施設の閉じ込め機能を維持し、以って施設の安全性向上に努めて行く。 8.参考文献 [1] 小原嗣朗(1992)『金属材料概論』株式会社朝倉書店 [2] 岩浪繁蔵・近森徳重(1978)『パッキン技術便覧(第2 版)』産業図書株式会社 [3] 防錆・防食技術総覧編集委員会編(2000)『防錆・防食技術総覧』株式会社産業技術サービスセンター [4] 社団法人腐食防食協会編(2000)『腐食・防食ハンドブック』丸善株式会社 [5] 防錆防食技術マニュアル編集委員会編著(1984) 『JIS 防錆防食技術マニュアル』一般財団法人日本規格協会 [6] 株式会社ツバキE&M(2013)「製品カタログ、他」 初期状態オイル交換後K21右側15 1 K21左側15.5 1.5 K22右側14.5 2 K22左側14.5 1.5 収縮距離(mm) 適正な状態1~2mm 抜取量充填量残留量(推定) 元々の充填量(推定) K21右側約22 約32 約8 約30 K21左側約20 約35 約5 約25 K22右側約26 約31 約9 約35 K22左側約24 約33 約7 約31 オイル量(cc) 既定量40cc“ “東海再処理施設の換気系統の保全 “ “川澄 裕之,Hiroyuki KAWASUMI,竹内 謙二,Kenji TAKEUCHI,堂村 和幸,Kazuyuki DOMURA,算用子 裕孝,Hirotaka SANYOSHI,伊波 慎一,Shinichi INAMI