六ヶ所再処理工場の横型遠心ファンにおける 軸受外輪クリープの振動診断について

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カテゴリ: 第12回
1.緒言
六ヶ所再処理工場では、建屋内の換気や常時負圧による建屋毎の閉じ込め機能の維持のために、換気空調設備として横型遠心ファンが多用され、連続運転に供されている。当該設備の保全としては、時間計画保全(Time Based Maintenance)と、1 基につき月1 回以上の周期で「振動診断」による状態監視を組み合わせて行っている。しかし、横型遠心ファンの異常原因のうち、「軸受外輪クリープ」については、その兆候が振動値の変化に現れ難いため、振動トレンドの監視のみで発生を早期に検知することは困難であった。 このため、これまでの振動診断活動の成果を整理、分析し、「①聴音検査や振動加速度パラメータの周波数解析によって兆候を把握できる」、「②損傷が進行した際には振動速度パラメータにおいて特徴的な変化が現れる」、「③さらに深刻な状態に進行した場合、変位量の著しい増加と打撃音が現れる」等の3 段階に兆候が変化することを確認した。 本稿はこれらの成果に基づいて、横型遠心ファンに おける軸受外輪クリープ発生時の振動パラメータの変 化の特徴と新たに立案した早期検知方法等について報 告するものである。 2.軸受外輪クリープについて
2.1 事象概要
「軸受外輪クリープ」とは、軸受嵌め合い面に対して経時的に応力や温度の負荷が加わることで歪みに伴う間隙が生じ、外輪の締め代が低下して嵌め合い面間(軸受箱内周と軸受外輪外周)で相対的な磨れ合いが発生する現象である。(図1) 軸受外輪クリープが発生すると、軸受外輪外周や軸受箱内周の嵌め合い部に摩耗や鏡面化、フレッティングが生じる。嵌め合い部が摩耗することで軸の振れ回りが増大して機器全体の過振動に至る。また、内部のグリースに摩耗粉が混入し、潤滑不良、潤滑不良に伴う摺動箇所の摩耗といった損傷に波及する。 連絡先:佐々木 一人 〒039-3212 青森県上北郡六ヶ所村尾駮字沖付4-91 株式会社ジェイテック 設備保修部 第三機械グループ 設備診断チーム(J-MUEDS) e-mail: ichito-sasaki@j-tech66.co.jp 正常な状態 軸受外輪クリープ 外輪 主軸 転動体 内輪 主軸の回転方向 内輪の回転方向 転動体の回転方向 外輪の回転方向 軸受箱 図1 軸受外輪クリープ発生の仕組み (適正かつ均等) 外輪の締め代 歪みに伴って間隙が生じ 締め代が低下 - 309 - 2.2 再処理工場における発生状況 六ヶ所再処理工場内には同型の横型遠心ファンが約110 台設置されており、軸受外輪クリープとその兆候は、図2 に示す横型遠心ファンの本体部軸受箱において顕著に現れている。各機器の回転数および軸径の相関分布を図3 に示す。 このうち、軸受外輪クリープとその兆候が確認された機器は約10 台であり、回転数約1400~1500rpm、軸径80~120mm の仕様範囲に集中している。なお、この原因については、軸受箱の材質や運転条件(運転時間、切替頻度等)が影響するものと考えられ、並行して調査と分析、評価中である。 2.3 事象発生時の各パラメータの特徴 これまでの振動診断活動の成果において、軸受外 輪クリープ発生時、以下に示す振動パラメータ等の 特徴が確認できた。 (1)振動加速度パラメータ 図4 に示す通り、振動加速度時間波形において 回転成分fr の周期性を伴う衝撃波が現れる。振動 加速度時間波形をスペクトル化すると、回転成分 fr とその倍数成分nfr が現れる。 この特徴は軸受外輪クリープが発生すると定常 的に現れる。また振動トレンドが低い値で推移 している状態でも確認することができる。 (2)振動速度パラメータ 図5 に示す通り、事象初期には振動速度スペク トルにおいて回転成分fr および2fr の周波数成分 が現れる。 事象が進行すると、2fr が減衰してfr のみの周波 数成分となる。また、fr の周波数成分が成長して 振動速度トレンドが上昇傾向となる。 (3)変位量 変位量は振動速度の上昇に伴って増加する。 重度の軸受外輪クリープに進行すると、機器全 体を搖動させる程の振動が発生する。 (4)異音 事象発生時から周期性を伴う異音が確認される。 事象が進行すると、大きな打撃音に変化する。 fr 2fr 2fr fr 軸受外輪クリープ初期 軸受外輪クリープ進行 (Hz) (mm/s) (mm/s) 図5 軸受外輪クリープ発生時の振動速度スペクトル (Hz) fr nfr (Hz) (m/s2) fr 周期 (m/s2) 振動加速度時間波形 振動加速度スペクトル 図4 軸受外輪クリープ発生時の振動加速度パラメータ 軸径(mm) 回転数(rpm) 軸径(mm) 回転数(rpm) 【本体部継手側】 【本体部インペラ側】 図3 回転数と軸径の相関分布図 図2 横型遠心ファン模式図とクリープ発生箇所 モータ 継手側軸受箱 インペラ側軸受箱 本体部 ベースフレーム クリープ発生箇所 軸受外輪クリープ事象多発ゾーン 軸受外輪クリープ事象多発ゾーン 軸受 軸受 インペラ - 310 - 3.損傷レベル別の診断事例 軸受外輪クリープに係る振動診断事例について、 軸受および軸受箱の損傷程度から「許容(軽度)」、「警 告(中度)」、「危険(重度)」に分類する。 (事例1)許容レベルの軸受外輪クリープ 【事象発生箇所】 本体部インペラ側 【機器仕様】 軸 受:6316(軸径80mm) 回 転 数:1475rpm 【損傷状態】 ・軸受外輪外周の鏡面化(図6) ・軸受外輪外周の摩耗なし 【振動トレンド】 本事例の振動トレンドを図7 に示す。 振動加速度が上昇傾向となっているが、これ は軸受摩耗に伴うものである。 振動速度は低い値を横這いで推移しており、 異常の発生を示すような変化は現れていない。 【振動加速度パラメータ】 軸受外輪クリープ成分出現時の振動加速度の データを図8 に示す。当該データは分解点検実 施の約6 カ月前に出現している。 軸受外輪クリープ成分出現時の振動加速度値 は、注意判定値よりも低い値である。 【振動速度パラメータ】 振動速度スペクトルの変化を図9 に示す。 分解点検実施前には、回転成分2fr が僅かに 減少した。回転成分fr に大きな変動はない。 なお、振動速度値については注意判定値より 低い値となっている。 【変位量】 表1 の通り、著しい増加傾向は現れていない。 測 定 時 期 垂直方向 水平方向 軸受外輪クリープ成分出現前 3μmp-p 8μmp-p 軸受外輪クリープ成分出現時 3μmp-p 8μmp-p 分解点検実施前 3μmp-p 9μmp-p 【異音】 定常的に周期性を伴う異音が発生していたが、 音量や音質の変化は現れていない。 (事例2)警告レベルの軸受外輪クリープ 【事象発生箇所】 本体部インペラ側 【機器仕様】 軸 受:6324C3(軸径120mm) 回 転 数:1470rpm 【損傷状態】 軸受箱内周:軸受幅の段付き摩耗(図10) 軸受外輪:軸受外輪の摩耗なし、鏡面化、フレッ ティング、テンパーカラーあり(図11) 図6 軸受外輪外周の鏡面化 軸受外輪クリープに伴う鏡面化 (参考)新品軸受の外輪外周 図7 事例1 の振動トレンド(本体部インペラ側) 分解点検実施前 軸受外輪クリープ成分出現時 振動加速度 限界判定(21.8m/s2) 振動加速度 注意判定(14.5m/s2) 振動速度 注意判定(2.5mm/s) (mm/s) 振動速度 振動加速度(実効値) 振動加速度(ピーク値) (m/s2) 図8 軸受外輪クリープ成分出現時の振動加速度データ 回転成分fr 周期 回転成分nfr 振動加速度時間波形 (m/s2) 振動加速度スペクトル (Hz) 軸受外輪クリープ成分出現時 2fr fr 図9 振動速度スペクトルの変化 (mm/s) (Hz) fr 分解点検実施前 (mm/s) (Hz) 2fr 表1 本体部インペラ側変位量 0102030-10-20-30(m/s2) 51015205 25 4321- 311 - 【振動トレンド】 本事例の振動トレンドを図12 に示す。 振動加速度は横這い傾向、振動速度は緩やか な上昇傾向となっている。 【振動加速度パラメータ】 軸受外輪クリープ成分出現時の振動加速度の データを図13 に示す。当該データは分解点検実 施の約1 年前に出現している。 軸受外輪クリープ成分を確認した際の振動加 速度値は、注意判定よりも低い値である。 【振動速度パラメータ】 振動速度スペクトルの変化を図14 に示す。 分解点検実施前には、回転成分fr の増加と 2fr の著しい減少を確認した。 事例1 と異なる点として、上記の成分の発生 に伴って振動速度値が上昇して注意判定値を僅 かに超過している。 【変位量】 表2 の通り、著しい増加傾向は現れていない。 測 定 時 期 垂直方向 水平方向 軸受外輪クリープ成分出現前 25μmp-p 32μmp-p 軸受外輪クリープ成分出現時 22μmp-p 31μmp-p 分解点検実施前 23μmp-p 30μmp-p 【異音】 定常的に周期性を伴う異音が発生していたが、 音量や音質の変化は現れていない。 (事例3)危険レベルの軸受外輪クリープ 【事象発生箇所】 本体部インペラ側 【機器仕様】 軸 受:6324C3(軸径120mm) 回 転 数:1470rpm 【損傷状態】 軸受箱内周:軸受幅の段付き摩耗(図15) 軸受外輪:軸受外輪外周の摩耗あり 鏡面化、フレッティング、テンパー カラー(図16) 図10 軸受箱内周の損傷状態 図11 軸受外輪外周の損傷状態 図12 事例2 の振動トレンド(本体部インペラ側) 軸受外輪クリープ成分出現時 振動速度 限界判定(6.3mm/s) 振動加速度 注意判定(7.9m/s2) 振動速度 注意判定(2.5mm/s) 振動速度 振動加速度(実効値) 振動加速度(ピーク値) 振動加速度 限界判定(23.6m/s2) 分解点検実施前 (mm/s) (m/s2) fr fr およびfr の倍数 図13 軸受外輪クリープ出現時の振動加速度データ (Hz) 振動加速度時間波形 振動加速度スペクトル (m/s2) 軸受外輪クリープ成分出現時 分解点検実施前 fr 2fr fr 図14 振動速度スペクトルの変化 (mm/s) (mm/s) (Hz) (Hz) 図15 軸受箱内周の損傷状態 表2 本体部インペラ側変位量 (m/s2) 0101900/01/19-10-2068101900/01/032 5 10152025- 312 - 【振動トレンド】 本事例の振動トレンドを図17 に示す。 振動加速度は横這い傾向、振動速度は緩やか な上昇傾向で推移していた。 振動速度に明確な上昇傾向に併せて、振動 加速度が著しく増加した。 【振動加速度パラメータ】 軸受外輪クリープ成分出現時の振動加速度の データを図18 に示す。当該データは分解点検実 施の約3 年前に出現している。 軸受外輪クリープ成分出現時の振動加速度値 は、注意判定値よりも低い値である。 分解点検前の軸受外輪クリープ成分を図19 に示す。軸受外輪クリープの進行に伴って、振 動加速度の実効値が増加していることが分かる。 【振動速度パラメータ】 振動速度スペクトルの変化を図20 に示す。 分解点検実施前には、回転成分fr の増加と 2fr の著しい減少を確認した。 回転成分fr および2fr の振動成分の出現は、 振動加速度パラメータにおける軸受外輪キズ成 分出現時と同時期である。 【変位量】 表3 の通り、水平方向の変位量が増加し、分 解点検実施前には機器全体を遥動させていた。 測 定 時 期 垂直方向 水平方向 軸受外輪クリープ成分出現前 24μmp-p 32μmp-p 軸受外輪クリープ成分出現時 24μmp-p 35μmp-p 分解点検実施前 33μmp-p 60μmp-p 【異音】 軸受外輪クリープ成分出現時期以前から周期 性を伴う異音が発生していた。振動加速度およ び振動速度の上昇に伴って異音が大きくなって いき、分解点検実施前には「ガンガン」という 打撃音に変化した。 4.振動診断手法の実機への適用 振動データの解析に基づく軸受外輪クリープの確 認要素と損傷レベルの評価手法について、フローチ ャートとして図21 に集約するとともに、振動診断上 図18 軸受外輪クリープ成分出現時の振動加速度データ 図16 軸受外輪外周の損傷状態 軸受外輪クリープ成分出現時 振動加速度 限界判定(23.6m/s2) 振動速度 振動加速度(実効値) 振動加速度(ピーク値) 振動速度 限界判定(6.3mm/s) 上:振動加速度 注意判定(7.9m/s2) 分解点検実施前 図17 事例3 の振動トレンド(本体部インペラ側) 下:振動速度 注意判定(2.5mm/s) (mm/s) (m/s2) 回転成分fr 周期 回転成分nfr (m/s) (Hz) 軸受外輪クリープ成分出現時 分解点検実施前 fr 2fr fr 図20 振動速度スペクトルの変化 (mm/s) (Hz) (mm/s) (Hz) 回転成分fr 周期 回転成分nfr 図19 分解点検前の振動加速度データ (Hz) 表3 本体部インペラ側変位量 (m/s2) 振動加速度時間波形 振動加速度スペクトル 振動加速度スペクトル 振動加速度時間波形 6120-6-1290-90180-1800612182410 30 8642(m/s2) (m/s2) (m/s2) - 313 - 重要な4 項目を以下に示す。常に本項目を念頭に振 動診断を実施することで、軸受外輪クリープを早期 に検知することができる。また、この結果に基づき 速やかに必要な対策を実施することで、設備の安定 運転に有効となる。 ①軸受箱の聴音検査 兆候を捉える最初のステップとして、軸受箱 からの異音の有無を確認する。周期的な異音(コ トコト、カタカタ)が確認された場合には、異音 の原因を確認するため振動データを採取する。 ②周波数解析による異音の原因究明 振動値が低い状態であっても、周波数解析の 実施により、振動加速度パラメータから軸受外 輪クリープ成分を確認できる。 周期的な異音を確認した場合には、振動値の 高低を問わず周波数解析を行うことで、軸受外 輪クリープの早期検知が可能となる。 ③振動速度パラメータの変化 振動速度スペクトルにおいて回転成分fr およ び2fr の振動から回転成分fr のみの振動に変化 した場合には、軸受外輪クリープの進行が考え られる。振動速度値の上昇が伴う場合には、速 やかに補修を計画・実施する必要がある。 ④変位量の増加と打撃音の発生 変位量の著しい増加と打撃音(ガンガン、ゴン ゴン)の発生が確認された場合には、軸受外輪ク リープが深刻な状態に陥っている可能性が高い ので、早急に運転を停止させて補修を実施する 必要がある。 5.まとめ 2014 年度より、実機において前記フローチャート を適用した軸受外輪クリープの振動診断に適用して おり、これまでに2 件の事象兆候を検知した。 軸受外輪クリープは、本稿に記載した横型遠心フ ァンの他、特に稼働率の高いポンプやそのモータ等 の軸受組込箇所においても発生が想定される事象で ある。 本知見をこれら他機種の診断にも適用して異常の 早期検知に努め、設備の安定運転に貢献していく所 存である。 参考文献 [1] ISO 基準に基づく機械設備の状態監視と診断(振 動) 振動技術研究会 [2] ISO18436-4 準拠トライボロジーに基づくメンテナンス 日本トライボロジー学会編“ “六ヶ所再処理工場の横型遠心ファンにおける 軸受外輪クリープの振動診断について “ “佐々木 一人,Ichito SASAKI,瀬川 佑太,Yuta SEGAWA,吉村 定志,Sadayuki YOSHIMURA,沢田 悠,Haruka SAWADA
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