六ヶ所再処理工場における各種設備アズビルト情報の 3次元レーザー計測と設備保全への適用
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カテゴリ: 第12回
1.諸言
六ヶ所再処理工場では今後の長期安定運転に向けた保全活動の一環として、2009 年度から各種設備の最新の設置状態であるアズビルト情報を3 次元レーザー計測システムにより収集し、一元管理化を進めている。この計測システムを紹介するとともに、このデータを活用したアクセス性や最新の設備設置状態の作業前確認および改造や更新工事設計等の設備保全への適用実績を紹介する。
2.六ヶ所再処理工場の設備構成[1]
六ヶ所再処理工場は原子力プラントと化学プラントの両機能を備えた巨大なシステムであり、工場としての生産設備、安全設備、換気空調設備、防災設備、補助設備等から構成され、機械・配管設備や電気・計装・制御機器および放射線防護設備等が多数の部屋やセル内等に設置されている。表1に六ヶ所再処理工場の設備構成の概略を示す。 表1 六ヶ所再処理工場の設備構成の概要
主要建屋数 約30 建屋 総部屋数 約4000 部屋 系統数 約60 系統 設備分類 機器・配管設備、機械設備、電気・計装・制御設備、放射線防護設備、建築設備等 機器数 約15 万台 六ヶ所再処理工場は2006年以降、使用済燃料を使用した試運転(アクティブ試験)と施設の部分的な運用、および法定点検を含む設備の保全が行われている。 引き続き安全で品質の高い最適な設備の運用と保全を行うとともに、これまでの経験や知見等から部分的な改良や改造を行って機能強化を図っていくためには、建設据付工事に使用された設計図面類の情報だけでなく、これら設備の最新の設置状態、いわゆるアズビルト情報を効率よく把握することが必要かつ重要である。 このようなニーズに対応して当社は日本原燃(株)と協力し、3 次元(3D)レーザー計測システムによって効率よくアズビルト情報を収集し、またこれを加工して活用した設備保全への適用中であるのでこの実績を紹介する。 3.六ヶ所再処理工場に適した計測器の選定 多数の部屋に分けて設置された膨大な対象機器類の物量と放射線管理区域内での作業時間の制限等を考慮し、短時間で効率よくかつできる限り精密なアズビルト情報を収集可能であるとともに、その情報の加工展開が可能な方法の評価と選択を行った。表2に六ヶ所再処理工場の特長に基づくアズビルト情報収集手法の比較評価を示す。これらの評価より3D レーザー計測法を採用した。
表2 情報収集手法の比較評価 項目 手計測 写真計測 3D レーザー計測 適用性(現実性) × △ ○ データ収集速度 × ○ ◎ 正確さ(精度) ○ ◎ ◎ 各種ツールへの展開 ○ ◎ ◎ 凡例 ◎:優、○:良、△:可、×:劣 (1) 3Dレーザー計測器の選定 六ヶ所再処理工場向けの3D レーザー計測機種選定のため、要求事項を整理し検討を行った。表3に機種選定の要求事項、表4に3D レーザー計測原理毎の特徴について記す。 複雑・多段に配置された設備に対しては複数箇所からの計測が必要であること、長距離測定性能は不要であること、さらに高所や狭隘部での計測には小型で、かつ耐久性が高い機器が必要であること等から、これらの評価に基づき選定した計測器の仕様を表5に記す。 表3 機種選定の要求事項 項目 要求事項 対象物 複雑・多段に配置された以下対象物 機器・配管設備、機械設備、電気・計装・制御設備、放射線防護設備、建築設備等 (5~十数mの高所に設置された設備含む) 作業時間 短時間で作業が可能であること 精度 多数の小口径配管系(15~25Aが主)に対して高精度で計測が可能であること 操作性 作業性 ・放射線防護服を着用状態であっても現場での 作業が容易であること ・高所・狭隘部でも作業性が高いこと ・持運びが容易であること等、汎用性が高いこと 安全性 ・他の現場作業員に健康上の影響を与えないこと ・設備や計器の誤作動因子とならないこと 安定性 作動不良を起こしづらいこと その他 ・内部へ汚染物質を取り込む構造でないこと ・巡視・点検等の他の作業に影響を与えないこと 表4 3D レーザー計測原理毎の特徴[2] 方式 Phased Based 位相差方式 Time of Flight 飛行時間差方式 原理 測定時間 早い(~30min) 遅い(~数h) 測定距離 短距離 中長距離 測定方向 全周囲 全周囲 測定精度 ±3mm/50m ±4mm/50m 特徴 プラント等屋内向け 地形等の広範囲向け 表5 選定した計測器の基本仕様[3] 機種分類 地上型レーザースキャナ 計測原理 位相差方式 (Phased Based) 測定距離 0.4m ~ 79m 測定時間 15sec ~ 30min 測定精度 ±3mm / 50m 測定範囲 水平 / 垂直 360° / 25° ~ 335° レーザークラス 3R(直視しなければ人体への影響はない) 取得データ形式 点群 出力データカラー モノクロ / カラー 4.3Dレーザー計測システムの概要 図1に3D レーザー計測システムのワークフローを示すとともにその概要を説明する。 図1 システムワークフロー - 316 -(1) 現場計測 3D レーザー計測器により、計測対象物の周囲複数点から計測を行い、点群データとしてアズビルト情報を採取する。図2に計測作業の概念を、表6に実運用状況を記す。 図2 計測作業の概念 表6 実運用状況 主要装置構成3D レーザー計測器、水平器、三脚(最大高さ5m) 実運用測定距離~20m程度作業時間/ 1 計測5~10min 程度データ採取空間ボリューム/ 日・機平均 1500m3程度 (2) ビューア化 点群データをアズビルトデータとして活用するために、プラント座標の設定やインデックス付け等を含むデータ変換処理を行う。ビューア化することで視認性に優れるイメージ情報となり、360° 視野のパノラマビューイング表示が可能となる。(3) 3D-CADモデル化採取した点群データの外的形状から適切な規格ライブラリを読込み配置し、機器番号や内部流体等の設計情報を属性として付加(インテリジェント化)し3D-CAD モデル化を行う。図3にデータ変換処理をしたアズビルトデータおよび3D-CADモデルのデータ表示例を記す。図3 データ表示例 (4) 構造図面化 活用目的に応じ、3D-CAD モデルを機器配置平面図や配管施工図等へ展開する。(5) 設備保全への適用 現場の設備設置状態の確認や工事用機材等の搬出入ルート検討、設備更新や改造時の配管等のルート設計や配置設計等の設計ツールに適用する。5.設備保全上のニーズと有効性 設備保全上のニーズ例と利用データ形式による有効性の評価を表7に記す。またニーズと利用データ形式を体系的にまとめた概念を図4に示す。図の原点に近いほどアズビルトデータの加工が少なく基本的な利用方法となる。表7 設備保全上のニーズ例と有効性の評価 分類ニーズ例 有効性評価 アズ ビルト データ 3D-CAD モデル 設計検討機器類の構成確認◎ ◎ 寸法や位置計測◎ ◎ 搬出入ルート検討◎ ○ 設備配置設計(改造・追設等) ◎ ◎ 力学的解析× ◎ 保全管理機器類の構成および周辺状況の確認◎ △ 形状変化比較(経年や過負荷変化等) ◎ ○ 設備情報の表示◎ ◎ 設計図書、点検周期・記録等のリンク◎ ○ 現場状況確認を基にした手順書レビュー◎ ○ アクセスルート・点検手順等の導入教育◎ ○ 凡例 ◎:優、○:良、△:可、×:不可 - 317 -図4 ニーズと利用データ形式を体系的にまとめた概念 様々な設備保全上のニーズや利用目的、時間的制限や経済性等の見地から適切なインプット形式を選定することが重要である。機器類の構成および周辺状況の確認を目的とした場合、アズビルトデータを利用すると仮設物(収納棚、仮置資器材等)や安全表示等も同時に素早く確認が可能かつ実物をイメージしやすく有効性が高いなど、利用目的や用途によって必要な情報を考慮して選定する必要がある。6.六ヶ所再処理工場の設備保全への適用実績 (1) アズビルトデータの整備・利用状況 六ヶ所再処理工場では主要約30建屋の中から放射線管理区域を有する施設や再処理工程にて重要な設備を含む建屋を優先してアズビルトデータの整備を行っている。現在、初期計画対象の13 建屋、空間ボリューム約150 万m3に対し、約70%のアズビルト情報の収集が完了している。(2) 設備点検や保守作業計画への適用 アズビルトデータ上で多視点からの現場状況の確認、寸法・配置状況の確認を行うことができることから、3H 作業(初めて、変更、久しぶり)や現場状況および保全作業計画の妥当性確認等に利用して、作業員の事前現場理解と安全性の向上に活用している。図5に多視点からの現場状況確認例を示す。図5 多視点からの現場状況確認例 (3) 設計ツールとしての適用例 高経年化機器の更新や設備の機能向上等に係わる機器搬出入ルート検討や設備配置設計での適用例を示す。① 機器搬出入ルートの検討への適用 大型冷凍機の改造・更新計画において、事前検討の一環として搬入ルートの妥当性評価と必要な対策を検討した。アズビルトデータを基に、搬入ルートの策定、搬入に係わる懸案の抽出や干渉箇所の抽出および干渉箇所の回避策の検証を行った。以下に具体的な適用内容を記す。a. 干渉箇所の抽出アズビルトデータと搬入機器CADモデルを用いて、機器と搬入経路の干渉確認を行った。ソフトウェア上で干渉確認機能を用い、機器搬入経路上の既設設備との干渉箇所を他色表示させ抽出した。図6に具体例を示す。 図6 搬入経路の干渉確認 b. 干渉箇所の回避策の検証干渉箇所を回避するため、干渉量の計測および回避することで干渉が懸念される周囲の既設設備の有無を確認する。図7に干渉量の計測例、図8に干渉箇所の周囲確認例を示す。 図7 干渉量の計測 - 318 -図8 干渉箇所の周囲確認例 本事例では、既設設備の一時撤去および搬入経路の抜本的変更が困難であったため、搬送方法の見直しを含む干渉回避策を立案・検証し、既設設備との干渉を回避した。図9に搬入計画の見直し例、図10 に干渉回避結果を示す。 図9 搬入計画の見直し 図10 干渉回避結果 ② 設備配置設計への適用 長期運転に伴う熱交換設備や配管の更新工事を検討し、予備室への熱交換機器の追設に係る基本設計を行った。 既設設備の改造を含む配管の取合いと配置について、設計図書およびアズビルトデータを基に、改造・追設範囲の最小化とその設計図面化から新たな配管系に対する圧力損失計算を行った。以下にその概要を示す。a. 配管の取合いと配置アズビルトデータを基に、複数の部屋にまたがる配管の取合いや改造範囲の最少化および貫通孔・支持構造物の追設等の条件を加味した。図11 に配管配置状況の全景を示す。 図 11 配管配置状況の全景 また図12 に示すように、既設配管類が多数配置されている中で、アズビルトデータを基に複数の設計図面を整合させることなく既設配管との位置関係を正確に把握することができ、検討時間の短縮と取合い上の整合ミス等による設計見直し期間の削減等を図った。図 12 室内の配管配置 また既設や予備配管を利用する部分もあったが、付帯する支持構造物や周囲状況を同時に確認することにより、適切なルート設計を行った。図13 に既設や予備配管を利用した配置設計例を示す。 図13 既設や予備配管を利用した配置設計例 - 319 -b. 圧力損失計算のための物量集計本事例では、アズビルトデータに基づく配管の3D-CAD モデルを作成し、配管長やエルボ・テイ等を算出し集計した。正確な相当配管長の把握により、圧力損失計算の精度向上を図った。図14 に配管長の算出例を示す。 図14 配管長の算出例 7.結言 六ヶ所再処理工場では各設備の最新設置状態であるアズビルト情報を3D レーザー計測システムによって収集し、この蓄積したデータを保全への活用として、現場の作業前確認や機器・資機材の搬出入ルート検討、および改造含む配管ルート設計等の設計ツール等に適用中である。引き続き本データの整備を進めてアズビルト情報の一元管理を行い、設備機能の健全性に関する現場調査や高経年化対策としての改造工事等にも適用し、長期安定運転に活用していく所存である。また、アズビルトデータの更新とこのデータを活用するためのデータベースシステムの構築と運用、さらにデータベースシステムと設計図書管理システム等を連携させ、より利用価値の高い保全管理ツールを構築していく計画である。 参考文献“ “六ヶ所再処理工場における各種設備アズビルト情報の 3次元レーザー計測と設備保全への適用 “ “源波 佑,Tasuku GENBA,久保田 紫乃,Shino KUBOTA,小栗 弘光,Hiromitsu OGURI,蝦名 哲成,Tetsunari EBINA,山本 光,Hikaru YAMAMOTO
六ヶ所再処理工場では今後の長期安定運転に向けた保全活動の一環として、2009 年度から各種設備の最新の設置状態であるアズビルト情報を3 次元レーザー計測システムにより収集し、一元管理化を進めている。この計測システムを紹介するとともに、このデータを活用したアクセス性や最新の設備設置状態の作業前確認および改造や更新工事設計等の設備保全への適用実績を紹介する。
2.六ヶ所再処理工場の設備構成[1]
六ヶ所再処理工場は原子力プラントと化学プラントの両機能を備えた巨大なシステムであり、工場としての生産設備、安全設備、換気空調設備、防災設備、補助設備等から構成され、機械・配管設備や電気・計装・制御機器および放射線防護設備等が多数の部屋やセル内等に設置されている。表1に六ヶ所再処理工場の設備構成の概略を示す。 表1 六ヶ所再処理工場の設備構成の概要
主要建屋数 約30 建屋 総部屋数 約4000 部屋 系統数 約60 系統 設備分類 機器・配管設備、機械設備、電気・計装・制御設備、放射線防護設備、建築設備等 機器数 約15 万台 六ヶ所再処理工場は2006年以降、使用済燃料を使用した試運転(アクティブ試験)と施設の部分的な運用、および法定点検を含む設備の保全が行われている。 引き続き安全で品質の高い最適な設備の運用と保全を行うとともに、これまでの経験や知見等から部分的な改良や改造を行って機能強化を図っていくためには、建設据付工事に使用された設計図面類の情報だけでなく、これら設備の最新の設置状態、いわゆるアズビルト情報を効率よく把握することが必要かつ重要である。 このようなニーズに対応して当社は日本原燃(株)と協力し、3 次元(3D)レーザー計測システムによって効率よくアズビルト情報を収集し、またこれを加工して活用した設備保全への適用中であるのでこの実績を紹介する。 3.六ヶ所再処理工場に適した計測器の選定 多数の部屋に分けて設置された膨大な対象機器類の物量と放射線管理区域内での作業時間の制限等を考慮し、短時間で効率よくかつできる限り精密なアズビルト情報を収集可能であるとともに、その情報の加工展開が可能な方法の評価と選択を行った。表2に六ヶ所再処理工場の特長に基づくアズビルト情報収集手法の比較評価を示す。これらの評価より3D レーザー計測法を採用した。
表2 情報収集手法の比較評価 項目 手計測 写真計測 3D レーザー計測 適用性(現実性) × △ ○ データ収集速度 × ○ ◎ 正確さ(精度) ○ ◎ ◎ 各種ツールへの展開 ○ ◎ ◎ 凡例 ◎:優、○:良、△:可、×:劣 (1) 3Dレーザー計測器の選定 六ヶ所再処理工場向けの3D レーザー計測機種選定のため、要求事項を整理し検討を行った。表3に機種選定の要求事項、表4に3D レーザー計測原理毎の特徴について記す。 複雑・多段に配置された設備に対しては複数箇所からの計測が必要であること、長距離測定性能は不要であること、さらに高所や狭隘部での計測には小型で、かつ耐久性が高い機器が必要であること等から、これらの評価に基づき選定した計測器の仕様を表5に記す。 表3 機種選定の要求事項 項目 要求事項 対象物 複雑・多段に配置された以下対象物 機器・配管設備、機械設備、電気・計装・制御設備、放射線防護設備、建築設備等 (5~十数mの高所に設置された設備含む) 作業時間 短時間で作業が可能であること 精度 多数の小口径配管系(15~25Aが主)に対して高精度で計測が可能であること 操作性 作業性 ・放射線防護服を着用状態であっても現場での 作業が容易であること ・高所・狭隘部でも作業性が高いこと ・持運びが容易であること等、汎用性が高いこと 安全性 ・他の現場作業員に健康上の影響を与えないこと ・設備や計器の誤作動因子とならないこと 安定性 作動不良を起こしづらいこと その他 ・内部へ汚染物質を取り込む構造でないこと ・巡視・点検等の他の作業に影響を与えないこと 表4 3D レーザー計測原理毎の特徴[2] 方式 Phased Based 位相差方式 Time of Flight 飛行時間差方式 原理 測定時間 早い(~30min) 遅い(~数h) 測定距離 短距離 中長距離 測定方向 全周囲 全周囲 測定精度 ±3mm/50m ±4mm/50m 特徴 プラント等屋内向け 地形等の広範囲向け 表5 選定した計測器の基本仕様[3] 機種分類 地上型レーザースキャナ 計測原理 位相差方式 (Phased Based) 測定距離 0.4m ~ 79m 測定時間 15sec ~ 30min 測定精度 ±3mm / 50m 測定範囲 水平 / 垂直 360° / 25° ~ 335° レーザークラス 3R(直視しなければ人体への影響はない) 取得データ形式 点群 出力データカラー モノクロ / カラー 4.3Dレーザー計測システムの概要 図1に3D レーザー計測システムのワークフローを示すとともにその概要を説明する。 図1 システムワークフロー - 316 -(1) 現場計測 3D レーザー計測器により、計測対象物の周囲複数点から計測を行い、点群データとしてアズビルト情報を採取する。図2に計測作業の概念を、表6に実運用状況を記す。 図2 計測作業の概念 表6 実運用状況 主要装置構成3D レーザー計測器、水平器、三脚(最大高さ5m) 実運用測定距離~20m程度作業時間/ 1 計測5~10min 程度データ採取空間ボリューム/ 日・機平均 1500m3程度 (2) ビューア化 点群データをアズビルトデータとして活用するために、プラント座標の設定やインデックス付け等を含むデータ変換処理を行う。ビューア化することで視認性に優れるイメージ情報となり、360° 視野のパノラマビューイング表示が可能となる。(3) 3D-CADモデル化採取した点群データの外的形状から適切な規格ライブラリを読込み配置し、機器番号や内部流体等の設計情報を属性として付加(インテリジェント化)し3D-CAD モデル化を行う。図3にデータ変換処理をしたアズビルトデータおよび3D-CADモデルのデータ表示例を記す。図3 データ表示例 (4) 構造図面化 活用目的に応じ、3D-CAD モデルを機器配置平面図や配管施工図等へ展開する。(5) 設備保全への適用 現場の設備設置状態の確認や工事用機材等の搬出入ルート検討、設備更新や改造時の配管等のルート設計や配置設計等の設計ツールに適用する。5.設備保全上のニーズと有効性 設備保全上のニーズ例と利用データ形式による有効性の評価を表7に記す。またニーズと利用データ形式を体系的にまとめた概念を図4に示す。図の原点に近いほどアズビルトデータの加工が少なく基本的な利用方法となる。表7 設備保全上のニーズ例と有効性の評価 分類ニーズ例 有効性評価 アズ ビルト データ 3D-CAD モデル 設計検討機器類の構成確認◎ ◎ 寸法や位置計測◎ ◎ 搬出入ルート検討◎ ○ 設備配置設計(改造・追設等) ◎ ◎ 力学的解析× ◎ 保全管理機器類の構成および周辺状況の確認◎ △ 形状変化比較(経年や過負荷変化等) ◎ ○ 設備情報の表示◎ ◎ 設計図書、点検周期・記録等のリンク◎ ○ 現場状況確認を基にした手順書レビュー◎ ○ アクセスルート・点検手順等の導入教育◎ ○ 凡例 ◎:優、○:良、△:可、×:不可 - 317 -図4 ニーズと利用データ形式を体系的にまとめた概念 様々な設備保全上のニーズや利用目的、時間的制限や経済性等の見地から適切なインプット形式を選定することが重要である。機器類の構成および周辺状況の確認を目的とした場合、アズビルトデータを利用すると仮設物(収納棚、仮置資器材等)や安全表示等も同時に素早く確認が可能かつ実物をイメージしやすく有効性が高いなど、利用目的や用途によって必要な情報を考慮して選定する必要がある。6.六ヶ所再処理工場の設備保全への適用実績 (1) アズビルトデータの整備・利用状況 六ヶ所再処理工場では主要約30建屋の中から放射線管理区域を有する施設や再処理工程にて重要な設備を含む建屋を優先してアズビルトデータの整備を行っている。現在、初期計画対象の13 建屋、空間ボリューム約150 万m3に対し、約70%のアズビルト情報の収集が完了している。(2) 設備点検や保守作業計画への適用 アズビルトデータ上で多視点からの現場状況の確認、寸法・配置状況の確認を行うことができることから、3H 作業(初めて、変更、久しぶり)や現場状況および保全作業計画の妥当性確認等に利用して、作業員の事前現場理解と安全性の向上に活用している。図5に多視点からの現場状況確認例を示す。図5 多視点からの現場状況確認例 (3) 設計ツールとしての適用例 高経年化機器の更新や設備の機能向上等に係わる機器搬出入ルート検討や設備配置設計での適用例を示す。① 機器搬出入ルートの検討への適用 大型冷凍機の改造・更新計画において、事前検討の一環として搬入ルートの妥当性評価と必要な対策を検討した。アズビルトデータを基に、搬入ルートの策定、搬入に係わる懸案の抽出や干渉箇所の抽出および干渉箇所の回避策の検証を行った。以下に具体的な適用内容を記す。a. 干渉箇所の抽出アズビルトデータと搬入機器CADモデルを用いて、機器と搬入経路の干渉確認を行った。ソフトウェア上で干渉確認機能を用い、機器搬入経路上の既設設備との干渉箇所を他色表示させ抽出した。図6に具体例を示す。 図6 搬入経路の干渉確認 b. 干渉箇所の回避策の検証干渉箇所を回避するため、干渉量の計測および回避することで干渉が懸念される周囲の既設設備の有無を確認する。図7に干渉量の計測例、図8に干渉箇所の周囲確認例を示す。 図7 干渉量の計測 - 318 -図8 干渉箇所の周囲確認例 本事例では、既設設備の一時撤去および搬入経路の抜本的変更が困難であったため、搬送方法の見直しを含む干渉回避策を立案・検証し、既設設備との干渉を回避した。図9に搬入計画の見直し例、図10 に干渉回避結果を示す。 図9 搬入計画の見直し 図10 干渉回避結果 ② 設備配置設計への適用 長期運転に伴う熱交換設備や配管の更新工事を検討し、予備室への熱交換機器の追設に係る基本設計を行った。 既設設備の改造を含む配管の取合いと配置について、設計図書およびアズビルトデータを基に、改造・追設範囲の最小化とその設計図面化から新たな配管系に対する圧力損失計算を行った。以下にその概要を示す。a. 配管の取合いと配置アズビルトデータを基に、複数の部屋にまたがる配管の取合いや改造範囲の最少化および貫通孔・支持構造物の追設等の条件を加味した。図11 に配管配置状況の全景を示す。 図 11 配管配置状況の全景 また図12 に示すように、既設配管類が多数配置されている中で、アズビルトデータを基に複数の設計図面を整合させることなく既設配管との位置関係を正確に把握することができ、検討時間の短縮と取合い上の整合ミス等による設計見直し期間の削減等を図った。図 12 室内の配管配置 また既設や予備配管を利用する部分もあったが、付帯する支持構造物や周囲状況を同時に確認することにより、適切なルート設計を行った。図13 に既設や予備配管を利用した配置設計例を示す。 図13 既設や予備配管を利用した配置設計例 - 319 -b. 圧力損失計算のための物量集計本事例では、アズビルトデータに基づく配管の3D-CAD モデルを作成し、配管長やエルボ・テイ等を算出し集計した。正確な相当配管長の把握により、圧力損失計算の精度向上を図った。図14 に配管長の算出例を示す。 図14 配管長の算出例 7.結言 六ヶ所再処理工場では各設備の最新設置状態であるアズビルト情報を3D レーザー計測システムによって収集し、この蓄積したデータを保全への活用として、現場の作業前確認や機器・資機材の搬出入ルート検討、および改造含む配管ルート設計等の設計ツール等に適用中である。引き続き本データの整備を進めてアズビルト情報の一元管理を行い、設備機能の健全性に関する現場調査や高経年化対策としての改造工事等にも適用し、長期安定運転に活用していく所存である。また、アズビルトデータの更新とこのデータを活用するためのデータベースシステムの構築と運用、さらにデータベースシステムと設計図書管理システム等を連携させ、より利用価値の高い保全管理ツールを構築していく計画である。 参考文献“ “六ヶ所再処理工場における各種設備アズビルト情報の 3次元レーザー計測と設備保全への適用 “ “源波 佑,Tasuku GENBA,久保田 紫乃,Shino KUBOTA,小栗 弘光,Hiromitsu OGURI,蝦名 哲成,Tetsunari EBINA,山本 光,Hikaru YAMAMOTO