日本機械学会維持規格評価章改訂状況の紹介

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カテゴリ: 第12回
1.はじめに
日本機械学会(JSME)発電用設備規格策定活動は,作業会-分科会-専門委員会-規格委員会の4 層構造の組織により行われ,作業会で提案された規格原案は上位の分科会, 委員会において様々な視点から議論される。JSME 規格策定活動は,ASME のそれを手本として,公開,公平,公正をモットーとし,委員は倫理規定に従い,特定の権威・組織・利益によらない中立的・客観的な立場から討議し, 責任をもって結論を導き,実行することが要求される。また,公開の原則に従いオブザーバの参加が認められている。 JSME 発電用原子力設備規格維持規格は,3 つの作業会(検査,評価,補修),維持規格分科会,原子力専門委員会および規格委員会を通して,提案,審議,策定される。当規格は,ASME Section XI を参考として2000 年に評価章が策定されて以来,2002 年に検査章,20004 年に補修章を追加し,さらに2008 年および2012 年に版を改訂し, その間の年には追補を発行している。また,規制当局により,構造物に亀裂がある場合の構造健全性を評価する具体的な学協会規格として2000 年,2002 年,2004 年お よび2008 年版が技術評価され,2012 年版が現在技術評価中である。本論文では,評価章について,2008 年版からの主な改訂点を取り上げ,その策定状況を紹介する。
2.2008 年版からの主な改訂箇所
2.1 クラス2,3配管亀裂許容基準改訂 2000 年版以降,評価章の破壊力学等に基づく亀裂許容基準は主としてクラス1機器に対して規定されており, クラス2,3機器については,ごく簡単な許容基準しか規定されていなかった。これに対し,ASME Section XI では,クラス2,3機器に対しても,クラス1機器と同等の亀裂許容基準が策定されている。この状況を受け,電力中央研究所がクラス2,3配管に対する亀裂許容基準を改訂する研究を実施した[1],[2]。その成果をもとに,JSME 維持規格を改訂し2013 年追補として発行した。 主な改訂点をTable 1 に示す。#1 の評価不要亀裂寸法については,オーステナイトステンレス鋼は靱性が高いため,クラス1機器と同じとしているが,フェライト鋼は, クラス1機器に比較して靱性が低い可能性があるため, γ=(クラス1配管の破壊靱性JIc1)/(クラス2,3配管の破壊靭性JIc2,3)とし,この係数分だけ,クラス2,3評価不要亀裂深さを小さくする。JIc1 は119kJ/m2 とし,JIc2,3 はBS 規格7910 のシャルピエネルギCVNとKIcの換算式を用いて変換する。 北条公伸,〒652-8585 兵庫県神戸市和田崎町1丁目1-1,三菱重工業㈱ 原子力事業部 機器設計部, kiminobu_hojo@mhi.co.jp E-mail: …………@.....co.jp - 324 - #2 の流動応力については,クラス1機器では,規格値を用いる場合,2.7Smと規定されているが,クラス2,3 配管の規格値はSであるため,この規定は使用できない。実際の材料データと規格値Sy,Su の平均値を比較して保守性を確認し,このように規定した。 #3 のZ 係数については,オーステナイト系ステンレス鋼に対してクラス1と同等の靱性レベルが期待できるため,クラス1と同じ式を使用するが,クラス2,3では, さまざまな配管半径/厚さ(R/t)の配管があるため,Z 係数導出に使用した配管形状を適用制限とした。フェライト鋼配管については,クラス2,3配管の代表材料であるSTS490,SGV420,STS410,STS480,STPT410,STPT480 のJ-R 曲線,引張特性データを採取して新たにZ 係数式を求め,算出に使用した配管形状を適用制限とした。 Table 1 Main revision points of flaw acceptance rule for Class 2, 3 pipe # Items Contents 1Allowable flaw size 2 1 1cl cl a a . . acl2 : Allowable flaw depth of Class 2, 3 pipe acl1: Allowable flaw depth of Class1 pipe γ: Ratio of fracture toughness of Class 1 pipe to that of Class 2,3 pipe 2 Flow stress 2y u f . . . . . (Experiment-basis) 2y u f S . S . . (Code-basis) 3 Z-factor Austenitic pipe: The same equations as Class 1pipe (Application limit: 5.56 . R/t . 15.5) Ferritic pipe: . . . .. . 0.13 Z . 0.32log OD/ 25 . 0.88 R / t (Application limit: 5 . R/t . 30) 2.2 K 算出式の改訂 維持規格には,添付E-5「応力拡大係数の算出」があり, 機器の疲労およびSCC亀裂進展解析,破壊解析に使用される。2008 年版までの応力拡大係数Kの算出式は,表面亀裂に対して,応力分布形態と構造物の形態とが混在して分類されており,引用されたK算出式の中には30 年以上前に導出されたものもあった。そこで,評価作業会では,最近提案されたK算出式[3],[4],[5]を引用し,これを系統的に分類しなおして,規格構成に統一性を持たせるようにした。また,引用式の精度は,維持規格分科会委員が検証し,公開文献とした[6],[7],[8]。これらは解説として引用した。さらに,評価作業会において, 規格案策定時にK 算出文献に記載されているデジタルデータを再度確認し, 元文献のエラーとみられる数値を修正した。これらの改訂は,2012 年版として発行された。 Table 2 に整備された亀裂形状,対象構造体およびK算出式を示す。 Table 2 K-solution equations K-solution equation Model/Flaw/Stress distribution Ref. Plate/ Elliptical embedded /Non-linear Shiratori [3] Plate/Semi-elliptical surface/ Non-linear Cipolla [4] Chapriot [5] Cylinder/Circumferentially semi-elliptical surface (inside or outside)/ Non-linear Chapriot [5] Cylinder/Axially semi-elliptical surface (inside or outside)/ Non-linear Cylinder/Full-circumferentially surface (inside or outside)/ Non-linear Cylinder/Full-axially surface (inside or outside)/ Non-linear 2.3 キャップ工法適用時BMI 管台J 溶接亀裂評価法事例規格 2.3.1 背景 炉内計装筒(Bottom mounted instrument: BMI)管台はニッケル合金で製作され,管台内面及びJ 溶接部はPWR環境水にさらされるため,600 合金およびその溶接金属はPWSCCが発生する可能性がある。当該管台部に亀裂が検出されたときの,暫定工法としてキャップ工法があり, 維持規格補修章にも規定されている。キャップ工法では, 検出された亀裂が残存した状態で運転されるため,その亀裂が圧力容器に進展して不安定化しないことを確認する必要がある。一方,現行の維持規格では,亀裂評価法は容器や配管のような単純な構造体を対象としており,J 溶接部のような複雑形状部に対する亀裂評価法は規定されていない。そこで,評価作業会では,キャップ工法適用時のJ 溶接部亀裂に対する評価手法を規定する新たな- 325 - 事例規格案(ASME 規格のCode Case に相当)を策定し,規格委員会までの審議を経て2015 年の発行が承認された。 2.3.2 本文規定 (1) 評価フロー Fig.1 にBMI 管台J 溶接部亀裂の評価フローを示す。フローそのものは,他の機器と同様,疲労・SCC 亀裂進展計算を実施し,キャップ工法暫定適用期間中での進展量を予測し,進展後の亀裂形状に対する破壊評価を実施する。 Fig.1 Flow of flaw acceptance rule of J-weld of BMI nozzle (2) 亀裂形状のモデル化 亀裂が検出されたBMI 管台を対象として,BMI 軸方向亀裂としてモデル化する。亀裂は,J 溶接とバタリング全体とする。また,BMI 管台位置および評価断面の代表性(例:最外周部などで応力が厳しいところ)が説明できる場合は,その条件でモデル化をしてもよい。 (3) 亀裂進展計算 疲労・SCC 亀裂進展計算に使用する亀裂進展速度には, JSME 事例規格[9],[10]を使用してもよい。 (4) 応力拡大係数の算出 K の算出は,本事例規格の添付に従う。 (5) 破壊評価・許容基準 維持規格本文EB-3400 に従って,下部鏡母材部に対する破壊評価を実施する。許容基準はEB-3500(KIc基準)とする。 2.3.3 FE 解析を用いたK算出手法 J 溶接部亀裂は複雑形状であるため,円筒など単純形状に対して規定されている維持規格添付E-5 のK 算出式を適用すると,誤差が大きくなることが予測される。このため,K算出法として,FE解析を直接適用することとし, その時の留意事項を,本事例規格の添付「原子炉容器炉内計装筒貫通部の欠陥評価のための有限要素解析を用いた応力拡大係数算出手法」としてガイドライン化した(K 算出ガイドライン)。K算出フローをFig. 2 に示す。 Fig. 2 Flow of K calculation K 算出ガイドラインでは,留意事項として,次のようなことが記載されている。 ・使用FE コードは,信頼できるJ 計算機能を有するものを選択する。 ・使用要素タイプとして,Abaqus コードを使用する場合は,立方体要素を推奨する。 ・J 計算用積分経路は5 以上取ること。 ・亀裂前縁のメッシュ分割幅は,2 mmを推奨する。 ・Kは,J 積分から算出し,少なくとも3つの値の平均を取ること。 ・J の経路間のばらつきが10%以内にならないときは, Flaw modeling Crack propagation calculation Fracture evaluation Satisfy acceptance criteria? Perform cap repair Yes No Repair/Replace (Removal of defect or the state of structural integrity) K calculation Execution of FE analysis Obtaining K End Setting analysis conditions Selection of element type Modeling area and boundary condition Selection of the number of J integral path Loading condition Mesh division Selection of FE code Material properties - 326 - さらに細かくメッシュ分割すること。 2.3.4 K 算出ガイドラインに基づくベンチマーク解析 本事例規格添付「原子炉容器炉内計装筒貫通部の欠陥評価のための有限要素解析を用いた応力拡大係数算出手法」に基づき,BMI 管台J 溶接部亀裂に対するK 計算のベンチマーク解析を実施した。ベンチマーク解析には,3 機関が参加し,モデル形状,亀裂形状は指定された条件で,それぞれ別のFE メッシュモデルを作成した。1 機関は,同じFE モデルを使用して,MARC とAbaqus を用いて計算した。荷重条件は,2 種類用意した。一つは一定圧力を与え,もう一つは,温度変動のみを与えた。解析条件の詳細と結果の詳細は文献[11]に示した。 いずれのケースも,解析者間のK の差は8%以内に収まり,K 算出ガイドラインによるK のばらつきは,妥当な範囲に留まることが検証された。 3.結論 規格は,機器の健全性を適切に評価するために策定することは当然のことながら,規格ユーザに過度な負担を強いないよう,工学的バランスを考慮して策定することが肝要である。また,2.3.4 項で実施したように,それぞれ立場の異なる機関が参加して検証問題に取り組むような姿勢も,規格策定における議論の中立性や規格の品質を保つ上でも重要である。 維持規格分科会では,上記を念頭に入れながら,機器健全性向上を目指した合理的な規格策定のため,改訂活動を日々進めている。本論文では,その活動成果の一例として,評価章における2008 年版からの主な改訂点を紹介した。 謝辞 本論文は,JSME 規格委員会,原子力専門委員会,維持規格分科会,評価作業会委員の規格策定活動成果をまとめたものである。関係各位に深く感謝する。 参考文献 [1] 三浦他,軽水炉クラス2,3機器に対する欠陥評価のあり方,電力中央研究所研究報告:Q05013,平成18 年6 月. [2] 三浦他,軽水炉クラス2,3配管の欠陥評価法の開発-中靭性配管に対する欠陥評価手法の構築-,電力中央研究所総合報告:T75,平成15 年6 月. [3] Shiratori, M., Yoshikawa, N., Iwamatsu, F., Matsushita, H., Omata, S., Matsuda, H., and Miyoshi, T., 2004, “Prediction of Fatigue Crack Propagation of Sub-Surface Cracks by SCAN,” ASME PVP, Vol. 472, pp. 237-243. [4] Cipolla, R. C., 1995, “Technical Basis for the Revised Stress Intensity Factor Equation for Surface Flaws in ASME section XI Appendix A,” ASME PVP, Vol. 313-1, 105-121. [5] Chapuliot, S., 2000, “Formulaire de KI pour les tubes comportant un defaut de surface semi-elliptique longitudinal ou circonferentiel, interne ou externe, “ Rapport CEA-R-5900. [6] Miyazaki, K., Iwamatsu, F., Nakanishi, S., and Shiratori, M., 2006, “Stress Intensity Factor Solution for Subsurface Flaw Estimated by Influence Function Method,” PVP2006-ICPVT11-93138, pp. 1-17. [7] 三浦, 町田, 2007, “平板中の表面き裂に対する応力拡大係数解の適用性,“ 日本機械学会M&M 材料力学カンファレンス論文集, No.07-03, pp. 220-221. [8] Miura, N., Takahashi, Y., Shibamoto, H., and Inoue, K., 2008, “Comparison of stress intensity factor solutions for cylinders with axial and circumferential cracks,“ Nuclear Engineering and Design, Vol. 238, Issue 2, pp. 423-434. [9] JSME 維持規格事例規格「ニッケル合金のPWR 一次系水質環境中の疲労亀裂進展速度」(JSME S NA-CC-004) [10] JSME 維持規格事例規格「ニッケル合金のPWR 一次系水質環境中のSCC 亀裂進展速度」(JSME S NA-CC-006) [11] Hojo, K., Nagoshi, Y., Ochi, M., et al., FLAW ACCEPTANCE RULE OF J-GROOVE WELD OF BOTTOM MOUNTED INSTRUMENTATION NOZZLE, PVP2014-28004, Proceedings of the ASME 2014 Pressure Vessels & Piping Division Conference PVP2014 July 20-24 2014, Anaheim, California. - 327 -“ “日本機械学会維持規格評価章改訂状況の紹介 “ “北条 公伸,Kiminobu HOJO
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