米国における保全高度化の状況
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カテゴリ: 第12回
1.序
米国では保守規則の制定に伴い、1990 年代よりプラントの安全を確保したうえで効果的に保全を行う努力が進められた。さらに1990 年代後半からの電力自由化が進んだこともあり、経済面も考慮して総合的な保全の最適化を進めている。これらの流れを概観するとともに、プラントでの保全高度化の具体対応例について示す。 2.保守規則及び対応する事業者のガイダンス 米国では1980 年代に事業者が原子力発電所の運転中保全(OLM)を進める中で、NRC がその実施状況を調査した結果、プラントの安全が必ずしも十分考慮されていないという問題点が確認された。この結果を受けてNRC は1991 年にパフォーマンスベースの規則として保守規則(10CFR50.65「原子力発電所の保守の有効性監視の要件」) を制定した。保守規則はその後一部項目の追加、修正
がなされ、現在では以下の骨子からなっている。[1][2] (a)(1) 所定の構築物、系統、機器(SSC)に対し目標を設定し、そのパフォーマンス(状態)を監視する。目標を満足できない場合是正措置を講ずる。 (a)(2) SSC のパフォーマンス(状態)が効果的に監視されていれば(a)(1)の監視は要求されない。 (a)(3) パフォーマンス(状態)監視活動及び目標並びに予防保全活動を24 か月を超えないサイクルごとに評価する。:修正 (a)(4) 保守作業実施前に、増加するリスクを評価し、管理する。:追加 (b) (a)(1)の監視プログラムの対象となるSCC の範囲を規定する。 保守規則の制定を踏まえ、産業界では効果的に保守を行うためにNUMARC(原子力管理人材協議会:現NEI (原子力エネルギー協会))がNUMARC93-01「原子力発電所の保守の有効性監視に関する産業界のガイドライン」(1995 年3 月)を作成した。[3] NUMARC93-01 では保守規則の要件に対し、以下のような具体的対応が示されている。
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(1)保守規則の対象となるSSC の決定
すべての安全関連SSC 及びプラントトリップの原因となりうる非安全関連SSC、緊急時操作手順書(EOP)に用いられる非安全関連SSCなどを対象とする。 (2)「リスク上重要な」SSC の決定 確率論的リスク評価(PRA)によるリスク評価や、プラント職員からなる専門家パネルの判断による。 (3)パフォーマンス基準の設定 リスク上重要なSSCについてはSSCレベルでパフォーマンス基準を設定し、その他はプラント全体のパフォーマンス基準を設定。パフォーマンス基準としては、プラント個別のPRAとリンクした信頼性及びアベイラビリティ基準、故障頻度等が一般的に用いられる。 (4)パフォーマンスの監視及び目標の設定 事業者が独自に目標を設定し、設定した目標値に対してプラントのパフォーマンスを監視する。目標を満足しない場合には対策を実施。 (5)保守作業前のリスクの評価と管理 プラント全体のリスクに対する保守作業の影響を評価する。 (6)定期的な保守の有効性評価 目標、SSC パフォーマンス、改善措置の効果、SSC のアベイラビリティと信頼性のレビュー等を実施する。 多くの事業者がこのガイドラインに基づきOLM 等の保全を行っており、その有効性が確認されている。 保守に係わる規制要件には保守規則のほかにTechnical Specification(Tech. Spec.)がある。これは発電所運用における安全に関するプラントごとの制限を定めたもので、運転制限条件(CT:完了時間(AOT:許容待機除外時間ともいう。)を含む)等が含まれている。 OLMではTech. Spec.に示されたCT 内に対象機器の保全を確実に完了することが必要であり、リスクを管理しながらCT 時間内での保守作業完了のための工夫が進められた。 3.機器信頼性プログラムの枠組み[4] 1990 年代後半から進められた電力自由化の中で、産業界では原子力発電所の運転・保守の幅広い分野においてプラント安全を確保したうえで、経済性も考慮した形での効果的な対応を行うことが重要との観点から、原子力エネルギー協会(NEI)が標準化を目指して、2003 年に「標準原子力パフォーマンス・モデル(Standard Nuclear Performance Model:SNPM)」を作成し、米国の全ての原子力発電所の規範モデルとなった。 SNPM は、図-1 に示すようにコアプロセス群、マネージメントプロセス群、支援プロセス群に分かれ、コアプロセス群として電気を直接生産する「プラント運転」とそれを支える「作業管理」を中心に「設備信頼性」「構成管理」「資材サービス」を合わせたプロセスを設定し、各プロセスが相互に適切に機能できる仕組みの構築を示している。 Fig.1 Structure of SNPM Process さらに、SNPMのガイダンスとして原子力発電運転協会(INPO)がINPO AP-913(設備信頼性プロセス)、INPO AP-928(作業管理プロセス)等の産業界ガイダンスを作成し、多くの事業者はこのガイダンスを参考に手順書等を作成している。 (1)AP-913 AP-913 は発電所の設備信頼性を改善するために必要な様々な活動を一つに統合・調整したプロセスとなっており、以下の6 つの要素から構成される。(図2) ・ 重要機器の範囲決定及び把握 ・ パフォーマンス監視 ・ 継続的設備信頼性改善 ・ 是正措置 ・ 予防保全の実施 ・ ライフサイクル管理 これらの内、重要機器の範囲決定及び把握及びパフ ォーマンス監視等は保守規則の要件を踏まえたものであるが、対象機器として発電に影響する設備等を含んだ- 332 -3ものとなっている。また、継続的設備信頼性改善では長期の機器健全化計画の開発・実行、予防保全作業とその頻度を継続的に調整する等設備信頼性を改善させるための項目が盛り込まれている。Fig.2 Structure of AP-913 Process (2)AP-928 AP-928 はプラント運用を安全性及び信頼性を確保して確実に行うための方策として、作業を明確化し、選別し、計画化し、スケジュール化し、遂行するという作業管理のために使われるプロセスについて説明しており、OLM にも適用されるものである。AP-928 の作業管理プロセスは次の4つのプロセスからなっている。a.スクリーニングプロセス─計画外で発生した作業を特定するプロセスb. スコーピングプロセス─作業範囲を決定するプロセスc. プランニングプロセス─個々の作業の作業計画を作成するプロセスd. スケジューリング・実行プロセス─作業を工程化し、作業計画通りに実行し、作業実績データを収集してフィードバックするプロセス。 4.具体的な対応事例[2] 上記の規則や標準を踏まえ、米国の個別プラントで実施されている具体的な保全高度化の対応についてOLM 及び予防保全を対象に事例を示す。(1)オンラインメインテナンス(OLM) 我が国でもOLM の実施に向けた検討が進められてきたが、福島第一事故等もあり、現状では実施に向けた動きが進んでいないのが現状である。ただし OLM はプラント運転中に保守を行うため安全確保に十分な注意を要するが、計画的予防保全として有効な手段であり、OLM の導入により、作業の平準化が図られ、人的資源の確保や作業環境の改善等が図れることから米国の対応状況についても継続して確認しておく必要があとと考える。(1)安全性確保のための具体的対応 保守規則の規定に基づきOLM によるリスクの上昇が基準に比べ低いことを確認して作業を実施している。South Texas Project(STP)ではリスクの程度によってレベル分けし、それに応じて作業者の訓練、モックアップの利用をおこなう等の安全対応を定めている。 また、安全確保の対応として例えばOLM実施中に同じ機能を有する他トレインにトラブルが発生しないように他トレインの機器の状態に問題のないことを事前に確認するとともに、作業時にはヒューマンエラー等で他トレインの機器の機能を阻害することが無いよう立ち入り制限を行っている。更に万一トラブルが発生した際にはその対応体制及び具体的対応の明確化及び必要な予備品の確保を行っている。リスクについて発電所長から作業員までがOLM の重要性及び安全性リスクについて認識し総合的な安全性を向上させることが重要であると考えている。(2)リスクの評価の方法リスクの評価は簡便、かつ迅速に行われることが必要で、いわゆるリスクモニターとしてRiver Bend(RB)等の多くのプラントではEPRI の開発したプログラムを、またSTP では自社で独自に開発したプログラムを活用し、関係する職員がそのツールを用いて評価できるようにしている。(3)CT 内での作業完了への対応 OLMはTech. Spec.で定められたCT 内に完了させることが必須である。従って一般的に各プラントではOLMがCT の概ね半分の時間で完了するよう計画を立てている。 一方、安全関連機器の機能喪失時リスクを評価し、安全を確保したうえでCT を延長できる場合には評価結果に基づき、NRC に延長を申請している。STP 等では非常用ディーゼル発電機のCTについて従来7日であったものを14 日に延長している。また、特殊な例であるがSTP では通常のCT をフロントストップとして、万一、作業を進める中で、それを超える可能性のある場合は、その状態でのリスクに基づいて計算されるリスク情報を活用した完了時間(RICT)をバックストップ(最大30 日)として設定し、バックストップまでの作業を可能としている。- 333 -4(4)保全作業を計画通りに実施するための措置 一般にOLMは1週間区切りで異なる機器グループの保全が続けて行われる場合が多く、また所定のCT 内で終了することも必要であることからAP-928 の手順に従い綿密な計画、準備がなされ、準備から作業に至るプロセスはポイントポイントで、その進捗が確認される仕組みとなっている。準備は早い時期(基本的に12 週間前、プラントにより幅がありRiver Bend, Exelonプラント等では28週間前、Susquehanna では15 週間前等)から進められる。 更にOLM準備段階で予定外にOLMの対象となる系統に保守を行う必要が出た場合には、保守計画を柔軟に適正化する仕組みができている。 (2)予防保全 原子力発電所では重要なSSC の故障が発生する前に予防保全を行うことは当然であるが、その保全間隔や保全方法の最適化を図ることが重要である。 機器の保全間隔は米国でも当初はベンダーの推奨に基づき定める場合が多かった(時間基準保全)が、過度に保守的なものも多数あったため、事業者は運転、保守実績(保守時に確認した機器の劣化状態の情報等)を基に保全間隔の適正化を進めてきている。 現在はEPRIが作成したテンプレートが基本となっているが、これは機種ごとに多くのプラントの運転実績を集め、機種ごとの適切な保守頻度に関するデータベースを作成したものである。 同じ機器でも使用条件、重要度等により区分されており、ある系統のこの機器という形で適切な保守頻度が確認できるものである。各プラントではこのテンプレートに独自の発電所の状況を加味して保守間隔を調整している場合もある。 予防保全において有効な保全として米国でも状態基準保全が積極的に進められている。 状態基準保全では運転したままでSSC の状態を監視し、 その評価結果に基づいて保全時期等を決定する方法(予知保全)が有効であり、この保全では機器の状態モニタリングが重要となるが、米国原子力発電所では状態モニタリングが1980 年代半ばから導入され、回転機器や炉内構造物の振動監視、潤滑油分析、サーモグラフィ、電動弁や逆止弁の診断、モーター電流信号分析、ルースパーツ監視、ディーゼル発電機エンジン診断、音響診断などが各プラントで行われている。 Diablo Canyon では非常用ディーゼル発電機診断を行っているが、これは保全前後のパフォーマンスの比較を行い、保全前データからは追加で行うべき項目がないかを洗い出したり、パフォーマンス分析時にはシリンダー圧力等を測定し分析を行うものである。 また、Diablo Canyon では状態基準保全と時間計画保全の区分について必ずしも機器ごとの区分とはせず、対象部分によって区分している。例えば軸受けは振動を監視して劣化を予測するのが適切であるが、モーターの断熱材の劣化を適切に予測するパラメータはないので定期的な取り替えを行うというものである。 状態モニタリングについて診断技術の適用性に関する議論のほか、監視技術を使用する職員等の信頼性の問題、及びデータの信頼性の問題等が重要な事項として認識されている。 5.結言 米国では保守規則の制定、電力自由化への対応としてのSNPM の策定を契機に安全性、効率性の両面で保全の最適化が進められてきている。 我が国の状況は必ずしも米国と同じものではないが、原子力発電所の再起動への視界が開けつつあり、電力自由化が迫ってきている中で米国の保全高度化の状況をレビューし参考になる部分は積極的に取り入れていくことが重要と考える。 参考文献 [1]10CFR50.65 Requirements for monitoring the effectiveness of maintenance at nuclear power plants [2]「欧米での原子力安全規制及び原子力プラントの運用、保全を中心とした活動」原子力の安全規制の最適化に関する研究会 日本機械学会 動力エネルギーシステム部門 ホームページ [3]米国における原子力規制と保全(1)原子力規制体系と保守関連の規制 フォーラム保全学 Volume 1 Number 4 平成15 年7 月 日本AEM学会 [4]原子力プラントの安全対策 アセットマネージメントと保全業務革新 LOGI-BIZ JULY 2012 - 334 -
“ “米国における保全高度化の状況 “ “藤井 有蔵,Yuzo FUJII
米国では保守規則の制定に伴い、1990 年代よりプラントの安全を確保したうえで効果的に保全を行う努力が進められた。さらに1990 年代後半からの電力自由化が進んだこともあり、経済面も考慮して総合的な保全の最適化を進めている。これらの流れを概観するとともに、プラントでの保全高度化の具体対応例について示す。 2.保守規則及び対応する事業者のガイダンス 米国では1980 年代に事業者が原子力発電所の運転中保全(OLM)を進める中で、NRC がその実施状況を調査した結果、プラントの安全が必ずしも十分考慮されていないという問題点が確認された。この結果を受けてNRC は1991 年にパフォーマンスベースの規則として保守規則(10CFR50.65「原子力発電所の保守の有効性監視の要件」) を制定した。保守規則はその後一部項目の追加、修正
がなされ、現在では以下の骨子からなっている。[1][2] (a)(1) 所定の構築物、系統、機器(SSC)に対し目標を設定し、そのパフォーマンス(状態)を監視する。目標を満足できない場合是正措置を講ずる。 (a)(2) SSC のパフォーマンス(状態)が効果的に監視されていれば(a)(1)の監視は要求されない。 (a)(3) パフォーマンス(状態)監視活動及び目標並びに予防保全活動を24 か月を超えないサイクルごとに評価する。:修正 (a)(4) 保守作業実施前に、増加するリスクを評価し、管理する。:追加 (b) (a)(1)の監視プログラムの対象となるSCC の範囲を規定する。 保守規則の制定を踏まえ、産業界では効果的に保守を行うためにNUMARC(原子力管理人材協議会:現NEI (原子力エネルギー協会))がNUMARC93-01「原子力発電所の保守の有効性監視に関する産業界のガイドライン」(1995 年3 月)を作成した。[3] NUMARC93-01 では保守規則の要件に対し、以下のような具体的対応が示されている。
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(1)保守規則の対象となるSSC の決定
すべての安全関連SSC 及びプラントトリップの原因となりうる非安全関連SSC、緊急時操作手順書(EOP)に用いられる非安全関連SSCなどを対象とする。 (2)「リスク上重要な」SSC の決定 確率論的リスク評価(PRA)によるリスク評価や、プラント職員からなる専門家パネルの判断による。 (3)パフォーマンス基準の設定 リスク上重要なSSCについてはSSCレベルでパフォーマンス基準を設定し、その他はプラント全体のパフォーマンス基準を設定。パフォーマンス基準としては、プラント個別のPRAとリンクした信頼性及びアベイラビリティ基準、故障頻度等が一般的に用いられる。 (4)パフォーマンスの監視及び目標の設定 事業者が独自に目標を設定し、設定した目標値に対してプラントのパフォーマンスを監視する。目標を満足しない場合には対策を実施。 (5)保守作業前のリスクの評価と管理 プラント全体のリスクに対する保守作業の影響を評価する。 (6)定期的な保守の有効性評価 目標、SSC パフォーマンス、改善措置の効果、SSC のアベイラビリティと信頼性のレビュー等を実施する。 多くの事業者がこのガイドラインに基づきOLM 等の保全を行っており、その有効性が確認されている。 保守に係わる規制要件には保守規則のほかにTechnical Specification(Tech. Spec.)がある。これは発電所運用における安全に関するプラントごとの制限を定めたもので、運転制限条件(CT:完了時間(AOT:許容待機除外時間ともいう。)を含む)等が含まれている。 OLMではTech. Spec.に示されたCT 内に対象機器の保全を確実に完了することが必要であり、リスクを管理しながらCT 時間内での保守作業完了のための工夫が進められた。 3.機器信頼性プログラムの枠組み[4] 1990 年代後半から進められた電力自由化の中で、産業界では原子力発電所の運転・保守の幅広い分野においてプラント安全を確保したうえで、経済性も考慮した形での効果的な対応を行うことが重要との観点から、原子力エネルギー協会(NEI)が標準化を目指して、2003 年に「標準原子力パフォーマンス・モデル(Standard Nuclear Performance Model:SNPM)」を作成し、米国の全ての原子力発電所の規範モデルとなった。 SNPM は、図-1 に示すようにコアプロセス群、マネージメントプロセス群、支援プロセス群に分かれ、コアプロセス群として電気を直接生産する「プラント運転」とそれを支える「作業管理」を中心に「設備信頼性」「構成管理」「資材サービス」を合わせたプロセスを設定し、各プロセスが相互に適切に機能できる仕組みの構築を示している。 Fig.1 Structure of SNPM Process さらに、SNPMのガイダンスとして原子力発電運転協会(INPO)がINPO AP-913(設備信頼性プロセス)、INPO AP-928(作業管理プロセス)等の産業界ガイダンスを作成し、多くの事業者はこのガイダンスを参考に手順書等を作成している。 (1)AP-913 AP-913 は発電所の設備信頼性を改善するために必要な様々な活動を一つに統合・調整したプロセスとなっており、以下の6 つの要素から構成される。(図2) ・ 重要機器の範囲決定及び把握 ・ パフォーマンス監視 ・ 継続的設備信頼性改善 ・ 是正措置 ・ 予防保全の実施 ・ ライフサイクル管理 これらの内、重要機器の範囲決定及び把握及びパフ ォーマンス監視等は保守規則の要件を踏まえたものであるが、対象機器として発電に影響する設備等を含んだ- 332 -3ものとなっている。また、継続的設備信頼性改善では長期の機器健全化計画の開発・実行、予防保全作業とその頻度を継続的に調整する等設備信頼性を改善させるための項目が盛り込まれている。Fig.2 Structure of AP-913 Process (2)AP-928 AP-928 はプラント運用を安全性及び信頼性を確保して確実に行うための方策として、作業を明確化し、選別し、計画化し、スケジュール化し、遂行するという作業管理のために使われるプロセスについて説明しており、OLM にも適用されるものである。AP-928 の作業管理プロセスは次の4つのプロセスからなっている。a.スクリーニングプロセス─計画外で発生した作業を特定するプロセスb. スコーピングプロセス─作業範囲を決定するプロセスc. プランニングプロセス─個々の作業の作業計画を作成するプロセスd. スケジューリング・実行プロセス─作業を工程化し、作業計画通りに実行し、作業実績データを収集してフィードバックするプロセス。 4.具体的な対応事例[2] 上記の規則や標準を踏まえ、米国の個別プラントで実施されている具体的な保全高度化の対応についてOLM 及び予防保全を対象に事例を示す。(1)オンラインメインテナンス(OLM) 我が国でもOLM の実施に向けた検討が進められてきたが、福島第一事故等もあり、現状では実施に向けた動きが進んでいないのが現状である。ただし OLM はプラント運転中に保守を行うため安全確保に十分な注意を要するが、計画的予防保全として有効な手段であり、OLM の導入により、作業の平準化が図られ、人的資源の確保や作業環境の改善等が図れることから米国の対応状況についても継続して確認しておく必要があとと考える。(1)安全性確保のための具体的対応 保守規則の規定に基づきOLM によるリスクの上昇が基準に比べ低いことを確認して作業を実施している。South Texas Project(STP)ではリスクの程度によってレベル分けし、それに応じて作業者の訓練、モックアップの利用をおこなう等の安全対応を定めている。 また、安全確保の対応として例えばOLM実施中に同じ機能を有する他トレインにトラブルが発生しないように他トレインの機器の状態に問題のないことを事前に確認するとともに、作業時にはヒューマンエラー等で他トレインの機器の機能を阻害することが無いよう立ち入り制限を行っている。更に万一トラブルが発生した際にはその対応体制及び具体的対応の明確化及び必要な予備品の確保を行っている。リスクについて発電所長から作業員までがOLM の重要性及び安全性リスクについて認識し総合的な安全性を向上させることが重要であると考えている。(2)リスクの評価の方法リスクの評価は簡便、かつ迅速に行われることが必要で、いわゆるリスクモニターとしてRiver Bend(RB)等の多くのプラントではEPRI の開発したプログラムを、またSTP では自社で独自に開発したプログラムを活用し、関係する職員がそのツールを用いて評価できるようにしている。(3)CT 内での作業完了への対応 OLMはTech. Spec.で定められたCT 内に完了させることが必須である。従って一般的に各プラントではOLMがCT の概ね半分の時間で完了するよう計画を立てている。 一方、安全関連機器の機能喪失時リスクを評価し、安全を確保したうえでCT を延長できる場合には評価結果に基づき、NRC に延長を申請している。STP 等では非常用ディーゼル発電機のCTについて従来7日であったものを14 日に延長している。また、特殊な例であるがSTP では通常のCT をフロントストップとして、万一、作業を進める中で、それを超える可能性のある場合は、その状態でのリスクに基づいて計算されるリスク情報を活用した完了時間(RICT)をバックストップ(最大30 日)として設定し、バックストップまでの作業を可能としている。- 333 -4(4)保全作業を計画通りに実施するための措置 一般にOLMは1週間区切りで異なる機器グループの保全が続けて行われる場合が多く、また所定のCT 内で終了することも必要であることからAP-928 の手順に従い綿密な計画、準備がなされ、準備から作業に至るプロセスはポイントポイントで、その進捗が確認される仕組みとなっている。準備は早い時期(基本的に12 週間前、プラントにより幅がありRiver Bend, Exelonプラント等では28週間前、Susquehanna では15 週間前等)から進められる。 更にOLM準備段階で予定外にOLMの対象となる系統に保守を行う必要が出た場合には、保守計画を柔軟に適正化する仕組みができている。 (2)予防保全 原子力発電所では重要なSSC の故障が発生する前に予防保全を行うことは当然であるが、その保全間隔や保全方法の最適化を図ることが重要である。 機器の保全間隔は米国でも当初はベンダーの推奨に基づき定める場合が多かった(時間基準保全)が、過度に保守的なものも多数あったため、事業者は運転、保守実績(保守時に確認した機器の劣化状態の情報等)を基に保全間隔の適正化を進めてきている。 現在はEPRIが作成したテンプレートが基本となっているが、これは機種ごとに多くのプラントの運転実績を集め、機種ごとの適切な保守頻度に関するデータベースを作成したものである。 同じ機器でも使用条件、重要度等により区分されており、ある系統のこの機器という形で適切な保守頻度が確認できるものである。各プラントではこのテンプレートに独自の発電所の状況を加味して保守間隔を調整している場合もある。 予防保全において有効な保全として米国でも状態基準保全が積極的に進められている。 状態基準保全では運転したままでSSC の状態を監視し、 その評価結果に基づいて保全時期等を決定する方法(予知保全)が有効であり、この保全では機器の状態モニタリングが重要となるが、米国原子力発電所では状態モニタリングが1980 年代半ばから導入され、回転機器や炉内構造物の振動監視、潤滑油分析、サーモグラフィ、電動弁や逆止弁の診断、モーター電流信号分析、ルースパーツ監視、ディーゼル発電機エンジン診断、音響診断などが各プラントで行われている。 Diablo Canyon では非常用ディーゼル発電機診断を行っているが、これは保全前後のパフォーマンスの比較を行い、保全前データからは追加で行うべき項目がないかを洗い出したり、パフォーマンス分析時にはシリンダー圧力等を測定し分析を行うものである。 また、Diablo Canyon では状態基準保全と時間計画保全の区分について必ずしも機器ごとの区分とはせず、対象部分によって区分している。例えば軸受けは振動を監視して劣化を予測するのが適切であるが、モーターの断熱材の劣化を適切に予測するパラメータはないので定期的な取り替えを行うというものである。 状態モニタリングについて診断技術の適用性に関する議論のほか、監視技術を使用する職員等の信頼性の問題、及びデータの信頼性の問題等が重要な事項として認識されている。 5.結言 米国では保守規則の制定、電力自由化への対応としてのSNPM の策定を契機に安全性、効率性の両面で保全の最適化が進められてきている。 我が国の状況は必ずしも米国と同じものではないが、原子力発電所の再起動への視界が開けつつあり、電力自由化が迫ってきている中で米国の保全高度化の状況をレビューし参考になる部分は積極的に取り入れていくことが重要と考える。 参考文献 [1]10CFR50.65 Requirements for monitoring the effectiveness of maintenance at nuclear power plants [2]「欧米での原子力安全規制及び原子力プラントの運用、保全を中心とした活動」原子力の安全規制の最適化に関する研究会 日本機械学会 動力エネルギーシステム部門 ホームページ [3]米国における原子力規制と保全(1)原子力規制体系と保守関連の規制 フォーラム保全学 Volume 1 Number 4 平成15 年7 月 日本AEM学会 [4]原子力プラントの安全対策 アセットマネージメントと保全業務革新 LOGI-BIZ JULY 2012 - 334 -
“ “米国における保全高度化の状況 “ “藤井 有蔵,Yuzo FUJII