発電所内ネットワークおよび電子携帯端末を活用した 保全技術の高度化
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カテゴリ: 第12回
1.緒言
原子力発電所の建設・定期検査において、当社では工程短縮、工数削減、業務の効率化を目的に、電気計装設備を対象とする保全技術の高度化に取り組んできた(図1)。2000年代に、原子力発電所内に専用のLANケーブルを敷設してネットワークを構築し、無線通信と電子携帯端末を使用したI&C(Instrumentation and Control) 試験システムを研究、開発して導入した。試験員の削減に加え、試験の信頼性向上、試験期間の短縮も実現した。2010年代には、伝送容量の増大、伝送速度の向上等の高度化したIT技術を適用した電子要領書システムを開発した。原子力発電所内の屋外や簡易建屋に専用L ANを敷設し、この専用LANを介して電子携帯端末を本社に設置した管理サーバと接続し、現場のペーパーレス化や作業効率の向上、進捗管理の見える化を実施してきた。また、電気計装設備の工場試験ツールおよび現地試験ツールの自動化の技術開発も進めている[1][2]。さらに、至近では、Webを利用した会議システムを利用して、放射線管理区域に設置された設備の状態を写真や動画データで本社事務所にリアルタイムで伝送し、専門技術者による現場作業の遠隔支援が可能なシステムを開発し、実機に適用した。本稿はこれらの技術について紹介する。図1 保全技術の高度化
2.無線通信技術を適用したI&C試験システ
ム 2.1 システムの概念 原子力発電所の建設における膨大な計装ループ試験の効率化を目的として、原子炉建屋内全域に保全ネットワークを導入し、複数の試験員が実施していた計装ループ試験を1人で実施するシステムの技術開発を1998年に開始した。この概念を以下に示す。原子力発電所では、模擬信号を入力する計器および機器は現場、出力値を確認する制御装置、計算機、指示計等は現場から離れた中央操作室(以下、中操という)に設置されている。従来の計装ループ試験の手法では、現場と中操のそれぞれに試験員を配置して試験を実施する必要があった(図2左)。当社は、指示計および制御装置の出力値を電子携帯端末に無線伝送し、現場の試験員が模擬信号入力と同時に確認できる試験手法を考案した。この試験手法により、現場と中操のそれぞれに配置していた試験員を削減し、現場で信号を模擬する試験員が1人で計装ループ試験を実施できる(図2右)。 図2 システムの概念 2.2 第1期システムの開発 この概念に基づき、第1期として、中操内の信号伝送を無線化するシステムを開発した(図3)。第2期の準備として、現場の信号伝送の一部も無線化した。建設プラントの工事において、中操の制御装置および計算機にゲートウェイを設置し、中操と現場に敷設した仮設の保全ネットワークにこのゲートウェイと無線アンテナを接続することで、制御装置および計算機内の対象計器の信号データの値を無線伝送して電子携帯端末に表示させるシステムとした。図3 第1期のシステム構成図 2.3 プロトタイプによる第1期システムの検証 本システムを実機に適用するにあたり、2000年に実プラントでプロトタイプを構築し、検証を行った(図4)。 図4 第1期システムのプロトタイプ 本プロトタイプでは、システムにおける性能面と運用面の2つの側面から検証を行った。性能面として、①無線LANの性能として無線電波の各パラメータを測定、②本設機器への無線電波によるノイズの影響調査、を実施し、検証した。この結果を表1に示す。- 342 -また、運用面から、①機器据付上の課題、②システム運用上の技術的課題、③試験人員の削減効果、を検証し、実機への適用に向けた課題を抽出した。この結果を表2 に示す。性能面では無線LANの性能、電波ノイズの影響とも問題ないことを確認し、運用面で複数の電子携帯端末からの同時アクセスを第2期開発での課題として抽出した。表1 プロトタイプでの検証結果(性能面) 表2 プロトタイプでの検証結果(運用面) 2.4 第2期システム開発 第1期のプロトタイプ運用の結果から、第2期として、①原子炉建屋全域への無線LANの拡大、②電子携帯端末の小型軽量化、③運用上の課題解決(複数の電子携帯端末から1台の制御装置への同時アクセス)する更なる開発を行い、2002年に実機プラントでの運用を開始した。2.4.1 原子炉建屋全域への無線LANの拡大 無線LANの拡大検討では、電力支給のPHSインフラを有効に流用することにより、ケーブル据付上の課題を解決した。また、PHSアンテナ配置の最適化(最小限の台数でカバー率を上げるための配置検討)により、原子炉建屋の93%をカバーし、広範囲化とコスト低減を両立するシステムを構築した(図5)。 図5 第2期のシステム構成図 2.4.2 電子携帯端末の小型軽量化 本システムのヒューマンマシンインタフェースである電子携帯端末の操作性、携帯性は試験効率を左右する重要な要素である。第1期のプロトタイプでは薄型パソコンを使用していたが、操作性および携帯性を向上させるため、当時販売されていた携帯情報端末(PDA)を採用した(図6)。図6 電子携帯端末の小型軽量化 - 343 -2.4.3 運用上の課題解決 電気計装試験は同時に複数のチームで実施するが、運用上の課題として、複数の電子携帯端末から1台の制御装置へ同時アクセスできない点とデータ更新速度が遅い点の課題があった。システムのソフトウェアを改造し、複数の電子携帯端末から同時アクセス可能とし、また、無線通信やPDAの高速化など、データ更新処理速度を約8秒から3秒に改善した。これらの実運用面での課題を解決した結果、開発したI&C試験システムを適用したプラントは、計装ループ試験に対する試験人員を1名に削減することができた。3.電子要領書の適用 現場の管理区域のうち、汚染エリアに紙の要領書と記録用紙を持参すると、紙が汚れ、管理区域から持ち出せない場合がある。このため、データの写し換えを行うなど、記録管理の効率を低下させるとともに、管理区域の廃棄物を増やす結果となっていた。運転プラントにおいて試験要領書を電子化して現場で閲覧するシステムの検討を開始した。ソフトウェアとしてペーパーレスソリューション“XC-Gate”を選定し、原子力発電所の電子要領書システムを開発した。原子力発電所の要領書は、主に、作業手順と、試験データを記録する帳票、使用計器や工具リスト等の帳票により構成されている。MicrosoftR“Word”ワープロかMicrosoftR ExcelR表計算ソフトウェアで作成された要領書を“XC-Gate”により入力編集可能なWeb帳票に変換し、タブレット端末に作業手順、帳票を表示させ、帳票に試験結果を記録できるシステムを構築した(図7)。試験時間短縮のため、ページ間のジャンプ機能やサムネイル機能などの便利機能も設けた。なお、開発に際しては、現場ニーズを取り入れ、実運用に則したシステムを目指した。図7 電子要領書の帳票変換機能 また、全体作業の進捗管理として、要領書をプラント、定期検査、作業Gr.の単位で進捗状況(%)を表示する機能を設けた。これにより、全体作業の進捗状況が一目でわかり、工程遅れを早期に検知して影響が小さい段階で必要な対策を講じることができるようになった(図8)。図8 電子要領書の進捗表示画面 工場出荷時の用品管理リストに用品の写真を紐づける機能も構築し、工場出荷時、現地受入れ時、現場据付時に撮影した写真を紐づけることで、工場から現場据付後までの製品の状況と進捗を確認できるようにした(図9)。- 344 -図9 現場エビデンス採取アプリ 4.放射線管理区域の電気計装設備の遠隔保守技術 震災で停止中の原子力発電所の安全維持設備の系統運転試験において、当社専用の遠隔支援ネットワークを構築し、設計技術者が在籍する各事務所から系統試験をリアルタイムで支援する施策を実施した(図10)。現場の機器の状態や運転情報を画像で共有しながら想定外事象への対策会議を実施することにより、これまでにない非常に厳しい目標工程内で試験を完了させることができた。原子力発電所の機器は専門技術が多く、専門技術を要する設備の定期検査は、納入メーカである当社の専門技術者を派遣して実施しており、技術者の派遣日程に合わせて工程を変更しなければならない場合がある。安全維持対策設備の系統運転試験支援の実績を運転プラントの定期検査に適用し、当社の専門技術者が現場に出向くことなく勤務する事務所のネットワーク端末で検査作業を遠隔で支援できるシステムを今後構築していく。 図10 放射線管理区域に設置した設備の遠隔保守システム 5.今後のセキュリティ対策強化検討 タブレット端末には、盗難、置き忘れ等による情報漏えいリスクがある。セキュリティ強化策として、当社では、保守ネットワークへのシンクライアントソリューションの適用を検討している。このシンクライアント端末は、通常のタブレット端末と異なり、HDDやSSDといったストレージを一切内蔵しておらず、電源投入時に、必要なデータを認証サーバから受け取り、本体のRAM (メモリ)に書き込む運用となる。一方、RAMに書き込まれたデータは電源を切った段階で消去される。仮に端末が不正に持ち出された場合、強制的にシンクライアント端末はシャットダウン可能で、情報を外部に持ち出されるリスクをなくすことができる。6.結言 本書では原子力発電所の建設・定期検査における工程短縮、工数削減、業務の効率化を実現する保全高度化技術として、無線通信技術を適用したI&C試験システム、電子要領書システムを紹介した。現在は、建設プラントと一部の運転プラントの屋外施設に採用されており、運転プラントの原子炉建屋やタービン建屋等の主要建屋内で使用するためにはセキュリティ対策をさらに強化する必要がある。また、今後の再稼働に向け、原子力発電所の稼働率を上げるために定期検査期間を欧米プラントと同等に短縮する必要がある。当社は、短期定期検査の実現に向け、原子力発電所内の機器や計器の状態を遠隔で監視でき、かつ、工程の進捗も監視できる原子力発電所保全システムを構築し、セキュリティと情報の共有を両立する総合的なプラント保全システムの確立を電気事業者と一体となって進めていく。 - 345 -参考文献[1] 吉田元子、杉尾崇行、小西唯夫、“原子力発電プラント用監視計装制御システムの自動試験技術”、東芝レビュー、Vol.69、No.6、2014、pp.44-47. [2] A. Fukumoto, N. Odagawa, K. Komine, T. Takeda, T. Hasegawa, P.G. Porco, R.A. Costantino, “Improvements in the Testing of Instrumentation and Control Systems”, ICAPP2014, Charlotte, USA, Apri6-9, 2014, Paper14170. Microsoft、Excel は、米国Microsoft Corporation の米国及び“ “発電所内ネットワークおよび電子携帯端末を活用した 保全技術の高度化 “ “大谷 洋平,Yohei OTANI,長谷川 健,Takeshi HASEGAWA,星野 真輝,Masateru HOSHINO,加藤 貴久,Takahisa KATO,横井 美香,Mika YOKOI
原子力発電所の建設・定期検査において、当社では工程短縮、工数削減、業務の効率化を目的に、電気計装設備を対象とする保全技術の高度化に取り組んできた(図1)。2000年代に、原子力発電所内に専用のLANケーブルを敷設してネットワークを構築し、無線通信と電子携帯端末を使用したI&C(Instrumentation and Control) 試験システムを研究、開発して導入した。試験員の削減に加え、試験の信頼性向上、試験期間の短縮も実現した。2010年代には、伝送容量の増大、伝送速度の向上等の高度化したIT技術を適用した電子要領書システムを開発した。原子力発電所内の屋外や簡易建屋に専用L ANを敷設し、この専用LANを介して電子携帯端末を本社に設置した管理サーバと接続し、現場のペーパーレス化や作業効率の向上、進捗管理の見える化を実施してきた。また、電気計装設備の工場試験ツールおよび現地試験ツールの自動化の技術開発も進めている[1][2]。さらに、至近では、Webを利用した会議システムを利用して、放射線管理区域に設置された設備の状態を写真や動画データで本社事務所にリアルタイムで伝送し、専門技術者による現場作業の遠隔支援が可能なシステムを開発し、実機に適用した。本稿はこれらの技術について紹介する。図1 保全技術の高度化
2.無線通信技術を適用したI&C試験システ
ム 2.1 システムの概念 原子力発電所の建設における膨大な計装ループ試験の効率化を目的として、原子炉建屋内全域に保全ネットワークを導入し、複数の試験員が実施していた計装ループ試験を1人で実施するシステムの技術開発を1998年に開始した。この概念を以下に示す。原子力発電所では、模擬信号を入力する計器および機器は現場、出力値を確認する制御装置、計算機、指示計等は現場から離れた中央操作室(以下、中操という)に設置されている。従来の計装ループ試験の手法では、現場と中操のそれぞれに試験員を配置して試験を実施する必要があった(図2左)。当社は、指示計および制御装置の出力値を電子携帯端末に無線伝送し、現場の試験員が模擬信号入力と同時に確認できる試験手法を考案した。この試験手法により、現場と中操のそれぞれに配置していた試験員を削減し、現場で信号を模擬する試験員が1人で計装ループ試験を実施できる(図2右)。 図2 システムの概念 2.2 第1期システムの開発 この概念に基づき、第1期として、中操内の信号伝送を無線化するシステムを開発した(図3)。第2期の準備として、現場の信号伝送の一部も無線化した。建設プラントの工事において、中操の制御装置および計算機にゲートウェイを設置し、中操と現場に敷設した仮設の保全ネットワークにこのゲートウェイと無線アンテナを接続することで、制御装置および計算機内の対象計器の信号データの値を無線伝送して電子携帯端末に表示させるシステムとした。図3 第1期のシステム構成図 2.3 プロトタイプによる第1期システムの検証 本システムを実機に適用するにあたり、2000年に実プラントでプロトタイプを構築し、検証を行った(図4)。 図4 第1期システムのプロトタイプ 本プロトタイプでは、システムにおける性能面と運用面の2つの側面から検証を行った。性能面として、①無線LANの性能として無線電波の各パラメータを測定、②本設機器への無線電波によるノイズの影響調査、を実施し、検証した。この結果を表1に示す。- 342 -また、運用面から、①機器据付上の課題、②システム運用上の技術的課題、③試験人員の削減効果、を検証し、実機への適用に向けた課題を抽出した。この結果を表2 に示す。性能面では無線LANの性能、電波ノイズの影響とも問題ないことを確認し、運用面で複数の電子携帯端末からの同時アクセスを第2期開発での課題として抽出した。表1 プロトタイプでの検証結果(性能面) 表2 プロトタイプでの検証結果(運用面) 2.4 第2期システム開発 第1期のプロトタイプ運用の結果から、第2期として、①原子炉建屋全域への無線LANの拡大、②電子携帯端末の小型軽量化、③運用上の課題解決(複数の電子携帯端末から1台の制御装置への同時アクセス)する更なる開発を行い、2002年に実機プラントでの運用を開始した。2.4.1 原子炉建屋全域への無線LANの拡大 無線LANの拡大検討では、電力支給のPHSインフラを有効に流用することにより、ケーブル据付上の課題を解決した。また、PHSアンテナ配置の最適化(最小限の台数でカバー率を上げるための配置検討)により、原子炉建屋の93%をカバーし、広範囲化とコスト低減を両立するシステムを構築した(図5)。 図5 第2期のシステム構成図 2.4.2 電子携帯端末の小型軽量化 本システムのヒューマンマシンインタフェースである電子携帯端末の操作性、携帯性は試験効率を左右する重要な要素である。第1期のプロトタイプでは薄型パソコンを使用していたが、操作性および携帯性を向上させるため、当時販売されていた携帯情報端末(PDA)を採用した(図6)。図6 電子携帯端末の小型軽量化 - 343 -2.4.3 運用上の課題解決 電気計装試験は同時に複数のチームで実施するが、運用上の課題として、複数の電子携帯端末から1台の制御装置へ同時アクセスできない点とデータ更新速度が遅い点の課題があった。システムのソフトウェアを改造し、複数の電子携帯端末から同時アクセス可能とし、また、無線通信やPDAの高速化など、データ更新処理速度を約8秒から3秒に改善した。これらの実運用面での課題を解決した結果、開発したI&C試験システムを適用したプラントは、計装ループ試験に対する試験人員を1名に削減することができた。3.電子要領書の適用 現場の管理区域のうち、汚染エリアに紙の要領書と記録用紙を持参すると、紙が汚れ、管理区域から持ち出せない場合がある。このため、データの写し換えを行うなど、記録管理の効率を低下させるとともに、管理区域の廃棄物を増やす結果となっていた。運転プラントにおいて試験要領書を電子化して現場で閲覧するシステムの検討を開始した。ソフトウェアとしてペーパーレスソリューション“XC-Gate”を選定し、原子力発電所の電子要領書システムを開発した。原子力発電所の要領書は、主に、作業手順と、試験データを記録する帳票、使用計器や工具リスト等の帳票により構成されている。MicrosoftR“Word”ワープロかMicrosoftR ExcelR表計算ソフトウェアで作成された要領書を“XC-Gate”により入力編集可能なWeb帳票に変換し、タブレット端末に作業手順、帳票を表示させ、帳票に試験結果を記録できるシステムを構築した(図7)。試験時間短縮のため、ページ間のジャンプ機能やサムネイル機能などの便利機能も設けた。なお、開発に際しては、現場ニーズを取り入れ、実運用に則したシステムを目指した。図7 電子要領書の帳票変換機能 また、全体作業の進捗管理として、要領書をプラント、定期検査、作業Gr.の単位で進捗状況(%)を表示する機能を設けた。これにより、全体作業の進捗状況が一目でわかり、工程遅れを早期に検知して影響が小さい段階で必要な対策を講じることができるようになった(図8)。図8 電子要領書の進捗表示画面 工場出荷時の用品管理リストに用品の写真を紐づける機能も構築し、工場出荷時、現地受入れ時、現場据付時に撮影した写真を紐づけることで、工場から現場据付後までの製品の状況と進捗を確認できるようにした(図9)。- 344 -図9 現場エビデンス採取アプリ 4.放射線管理区域の電気計装設備の遠隔保守技術 震災で停止中の原子力発電所の安全維持設備の系統運転試験において、当社専用の遠隔支援ネットワークを構築し、設計技術者が在籍する各事務所から系統試験をリアルタイムで支援する施策を実施した(図10)。現場の機器の状態や運転情報を画像で共有しながら想定外事象への対策会議を実施することにより、これまでにない非常に厳しい目標工程内で試験を完了させることができた。原子力発電所の機器は専門技術が多く、専門技術を要する設備の定期検査は、納入メーカである当社の専門技術者を派遣して実施しており、技術者の派遣日程に合わせて工程を変更しなければならない場合がある。安全維持対策設備の系統運転試験支援の実績を運転プラントの定期検査に適用し、当社の専門技術者が現場に出向くことなく勤務する事務所のネットワーク端末で検査作業を遠隔で支援できるシステムを今後構築していく。 図10 放射線管理区域に設置した設備の遠隔保守システム 5.今後のセキュリティ対策強化検討 タブレット端末には、盗難、置き忘れ等による情報漏えいリスクがある。セキュリティ強化策として、当社では、保守ネットワークへのシンクライアントソリューションの適用を検討している。このシンクライアント端末は、通常のタブレット端末と異なり、HDDやSSDといったストレージを一切内蔵しておらず、電源投入時に、必要なデータを認証サーバから受け取り、本体のRAM (メモリ)に書き込む運用となる。一方、RAMに書き込まれたデータは電源を切った段階で消去される。仮に端末が不正に持ち出された場合、強制的にシンクライアント端末はシャットダウン可能で、情報を外部に持ち出されるリスクをなくすことができる。6.結言 本書では原子力発電所の建設・定期検査における工程短縮、工数削減、業務の効率化を実現する保全高度化技術として、無線通信技術を適用したI&C試験システム、電子要領書システムを紹介した。現在は、建設プラントと一部の運転プラントの屋外施設に採用されており、運転プラントの原子炉建屋やタービン建屋等の主要建屋内で使用するためにはセキュリティ対策をさらに強化する必要がある。また、今後の再稼働に向け、原子力発電所の稼働率を上げるために定期検査期間を欧米プラントと同等に短縮する必要がある。当社は、短期定期検査の実現に向け、原子力発電所内の機器や計器の状態を遠隔で監視でき、かつ、工程の進捗も監視できる原子力発電所保全システムを構築し、セキュリティと情報の共有を両立する総合的なプラント保全システムの確立を電気事業者と一体となって進めていく。 - 345 -参考文献[1] 吉田元子、杉尾崇行、小西唯夫、“原子力発電プラント用監視計装制御システムの自動試験技術”、東芝レビュー、Vol.69、No.6、2014、pp.44-47. [2] A. Fukumoto, N. Odagawa, K. Komine, T. Takeda, T. Hasegawa, P.G. Porco, R.A. Costantino, “Improvements in the Testing of Instrumentation and Control Systems”, ICAPP2014, Charlotte, USA, Apri6-9, 2014, Paper14170. Microsoft、Excel は、米国Microsoft Corporation の米国及び“ “発電所内ネットワークおよび電子携帯端末を活用した 保全技術の高度化 “ “大谷 洋平,Yohei OTANI,長谷川 健,Takeshi HASEGAWA,星野 真輝,Masateru HOSHINO,加藤 貴久,Takahisa KATO,横井 美香,Mika YOKOI