検査技術の高度化・効率化による検査期間の短縮化
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カテゴリ: 第12回
1.緒言
原子力発電所では、原子炉及びその附属設備等、発電に供する設備・機器の健全性を確認し、事故・故障の未然防止と拡大防止を図り、発電所が安全に安定した電気の供給を行うことを目的に原子炉等規正法に基づき、前の定期検査が終了した日以降13ヶ月を超えない時期に定期検査を実施している。東日本大震災以降、原子力発電所の安全性向上を目的に設備の追加、改造が進められている。これらの発電所では、再稼動後の定期検査において対象機器が増えることになり、このままでは定期検査期間が長くなることが予想される。国内の原子力発電所の稼働率は、東日本大震災以前は60~80%であり、諸外国と比較しても低い稼働率であった。一方、米国でもスリーマイルアイランド発電所での事故以前は低い稼働率であったが、それ以降はPRA (Probability Risk Analysis)評価に基づく機器の点検計画、OLM(On Line Maintenance)により定期検査時の検査物量を積極的に少なくすることにより、約90%の高い稼働率を達成している[1]。国内においてもPRAに基づく予防保全計画の議論がされている途中であり、近い将来にはOLM を実施できる環境になることが期待されるが、現在は適用が困難な状況である。従って、定期検査を如何に計画的かつ効率的に実施するかが、稼働率向上のための主因子の一つになる。検査計画の立案は、「対象機器(部位)」、「検査方法」、および「検査時期」の3 要素を元に、(1)検査を実施する目的を明確にする(2)目的を達成できる具体的な検査方法や実施期間を選定する(3)機器の劣化特性を十分理解したうえで合理的な方針(戦略)を決定するプロセスからなる[2]。また、保全の体系を考慮すると時間依存で劣化が発生・進展する機械系、および、それらを修復する人間系の両面から考える必要がある[3]。人間系については検査を実施する人間の保全遂行能力等考慮することであり、この改善による検査期間の短縮も期待できるが、本報告では機械系のみに注目し、従来の定期検査に新しい技術を適用することにより、どれだけ効率化することができるかを議論する。
2.定期検査の実情と期間短縮への対応策
2.1 定期検査の実情(BWR の場合)
BWRプラントの定期検査(改造工事なし)のうち、クリティカル作業となる炉内点検について分析した。全検査工程を100%とした時、主なクリティカル作業の内容および期間は以下の通りである。① 原子炉開放・復旧に伴う作業:30% ② 燃料交換・装荷に伴う作業:25%
③ 炉内機器の取替・検査に伴う作業:30% ④ 起動前検査・系統構成に伴う作業:15% 図 1 に、現状および新技術等を活用した改善した後の検査工程を示す。 原子炉開放時には炉水をある温度速度範囲で冷却する必要があるため、水温低下工程が全検査工程の大きな時間を占めている。その後の上蓋の開閉作業は、開放・締結するボルトの員数が多いため、その作業にも多くの時間を要している。この課題に対し、海外プラントでは、油圧を利用したナットを活用し、この作業効率を改善している。燃料交換・装荷については、燃料が他の構造物と接触するのを避けるために、取出し・移動時の揺れを極力抑えるように取扱いの速度を抑制しているが、燃料交換台車に制振技術を応用することにより取扱い速度を改善することが期待される。機器取替え、検査については、検査前後における準備、復旧のロボット化による省力化、検査技術の高度化による評価時間の短縮などが可能である[4]。一部、開発中の技術もあるが、単純にこれらの技術を活用することにより全体で約25%の定検期間を短縮できる可能性がある。図1 定期検査の短縮化検討例 2.3 定期検査最適工程へ向けた取組み 図2 に、定検の最適工程を考える上での枠組み(概念) を示す。本報告では定期検査適性化の「定期検査クリティカル作業改善」の一部に焦点を当てたが、最適工程を議論する上で、人間系の定期検査時のヒューマンエラーの抑制、予備品管理による機器調達期間の短縮等、さらに深堀りした検討が必要である。また、新規制対応で追加、改造される多くの機器により、物量増加や作業スペースの制限による作業効率低下、作業干渉等を引起こすことが考えられるため、既存の定期検査計画含め対象機器全体を俯瞰した定期検査計画の見直しが必要と考える。一方で RCM(Reliability Centered Maintenance)や長期サイクル運転の考え方が導入されることは、対象機器が合理化されることから、これらの考え方を早く確立、適用することが定期検査最適工程に有効であると考える。図2 定期検査最適工程化への枠組み(概念) 3.結論と今後の課題 1)現状の定期検査に新しい技術を活用することによる炉内点検全体工程の約25%の定検期間を短縮できる可能性があるとの結論に至った。一方でクリティカル工程が短縮されることで今までサブクリティカルであった工程がクリティカルになる可能性もあることから、今後、検査全体を俯瞰した評価が必要ある。2)定期検査最適工程に向け、既存の定期検査計画を見直すとともに、新規制対応で追加、改造された機器、今後活用されるPRA 評価、長期サイクル運転も考慮した計画立案を進めていく必要がある。参考文献[1] IAEA PRIS,https://www.iaea.org/PRIS/home.aspx [2] 青木孝行,高木敏行,“原子力発電所における検査計画の基本的立案方法に関する考察”,保全学,Vol.11, No.3,2012,pp.69-76. [3] 青木孝行,“原子力発電所における保全計画の最適化検討”,保全学,Vol.10,No.3,2011,pp.66-73. [4] 北澤聡,小田倉満,大谷健一,安達裕二,“エネギーインフラを支える高度検査技術”,日立評論, Vol.92,No.4,2010,pp.66-69. 起動前 検査作業改善後起動前検査原子炉開放・復旧燃料交換・装荷機器取替・検査現状 原子炉開放・復旧 燃料交換・装荷 機器取替・検査 油圧ナット等制振FHM等UT技術高度化等25%短縮- 348 -
“ “検査技術の高度化・効率化による検査期間の短縮化 “ “大城戸 忍,Shinobu OKIDO,今野 隆博,Takahiro KONNO,多田 伸雄,Nobuo TADA,桐山 和久,Kazuhisa KIRIYAMA
原子力発電所では、原子炉及びその附属設備等、発電に供する設備・機器の健全性を確認し、事故・故障の未然防止と拡大防止を図り、発電所が安全に安定した電気の供給を行うことを目的に原子炉等規正法に基づき、前の定期検査が終了した日以降13ヶ月を超えない時期に定期検査を実施している。東日本大震災以降、原子力発電所の安全性向上を目的に設備の追加、改造が進められている。これらの発電所では、再稼動後の定期検査において対象機器が増えることになり、このままでは定期検査期間が長くなることが予想される。国内の原子力発電所の稼働率は、東日本大震災以前は60~80%であり、諸外国と比較しても低い稼働率であった。一方、米国でもスリーマイルアイランド発電所での事故以前は低い稼働率であったが、それ以降はPRA (Probability Risk Analysis)評価に基づく機器の点検計画、OLM(On Line Maintenance)により定期検査時の検査物量を積極的に少なくすることにより、約90%の高い稼働率を達成している[1]。国内においてもPRAに基づく予防保全計画の議論がされている途中であり、近い将来にはOLM を実施できる環境になることが期待されるが、現在は適用が困難な状況である。従って、定期検査を如何に計画的かつ効率的に実施するかが、稼働率向上のための主因子の一つになる。検査計画の立案は、「対象機器(部位)」、「検査方法」、および「検査時期」の3 要素を元に、(1)検査を実施する目的を明確にする(2)目的を達成できる具体的な検査方法や実施期間を選定する(3)機器の劣化特性を十分理解したうえで合理的な方針(戦略)を決定するプロセスからなる[2]。また、保全の体系を考慮すると時間依存で劣化が発生・進展する機械系、および、それらを修復する人間系の両面から考える必要がある[3]。人間系については検査を実施する人間の保全遂行能力等考慮することであり、この改善による検査期間の短縮も期待できるが、本報告では機械系のみに注目し、従来の定期検査に新しい技術を適用することにより、どれだけ効率化することができるかを議論する。
2.定期検査の実情と期間短縮への対応策
2.1 定期検査の実情(BWR の場合)
BWRプラントの定期検査(改造工事なし)のうち、クリティカル作業となる炉内点検について分析した。全検査工程を100%とした時、主なクリティカル作業の内容および期間は以下の通りである。① 原子炉開放・復旧に伴う作業:30% ② 燃料交換・装荷に伴う作業:25%
③ 炉内機器の取替・検査に伴う作業:30% ④ 起動前検査・系統構成に伴う作業:15% 図 1 に、現状および新技術等を活用した改善した後の検査工程を示す。 原子炉開放時には炉水をある温度速度範囲で冷却する必要があるため、水温低下工程が全検査工程の大きな時間を占めている。その後の上蓋の開閉作業は、開放・締結するボルトの員数が多いため、その作業にも多くの時間を要している。この課題に対し、海外プラントでは、油圧を利用したナットを活用し、この作業効率を改善している。燃料交換・装荷については、燃料が他の構造物と接触するのを避けるために、取出し・移動時の揺れを極力抑えるように取扱いの速度を抑制しているが、燃料交換台車に制振技術を応用することにより取扱い速度を改善することが期待される。機器取替え、検査については、検査前後における準備、復旧のロボット化による省力化、検査技術の高度化による評価時間の短縮などが可能である[4]。一部、開発中の技術もあるが、単純にこれらの技術を活用することにより全体で約25%の定検期間を短縮できる可能性がある。図1 定期検査の短縮化検討例 2.3 定期検査最適工程へ向けた取組み 図2 に、定検の最適工程を考える上での枠組み(概念) を示す。本報告では定期検査適性化の「定期検査クリティカル作業改善」の一部に焦点を当てたが、最適工程を議論する上で、人間系の定期検査時のヒューマンエラーの抑制、予備品管理による機器調達期間の短縮等、さらに深堀りした検討が必要である。また、新規制対応で追加、改造される多くの機器により、物量増加や作業スペースの制限による作業効率低下、作業干渉等を引起こすことが考えられるため、既存の定期検査計画含め対象機器全体を俯瞰した定期検査計画の見直しが必要と考える。一方で RCM(Reliability Centered Maintenance)や長期サイクル運転の考え方が導入されることは、対象機器が合理化されることから、これらの考え方を早く確立、適用することが定期検査最適工程に有効であると考える。図2 定期検査最適工程化への枠組み(概念) 3.結論と今後の課題 1)現状の定期検査に新しい技術を活用することによる炉内点検全体工程の約25%の定検期間を短縮できる可能性があるとの結論に至った。一方でクリティカル工程が短縮されることで今までサブクリティカルであった工程がクリティカルになる可能性もあることから、今後、検査全体を俯瞰した評価が必要ある。2)定期検査最適工程に向け、既存の定期検査計画を見直すとともに、新規制対応で追加、改造された機器、今後活用されるPRA 評価、長期サイクル運転も考慮した計画立案を進めていく必要がある。参考文献[1] IAEA PRIS,https://www.iaea.org/PRIS/home.aspx [2] 青木孝行,高木敏行,“原子力発電所における検査計画の基本的立案方法に関する考察”,保全学,Vol.11, No.3,2012,pp.69-76. [3] 青木孝行,“原子力発電所における保全計画の最適化検討”,保全学,Vol.10,No.3,2011,pp.66-73. [4] 北澤聡,小田倉満,大谷健一,安達裕二,“エネギーインフラを支える高度検査技術”,日立評論, Vol.92,No.4,2010,pp.66-69. 起動前 検査作業改善後起動前検査原子炉開放・復旧燃料交換・装荷機器取替・検査現状 原子炉開放・復旧 燃料交換・装荷 機器取替・検査 油圧ナット等制振FHM等UT技術高度化等25%短縮- 348 -
“ “検査技術の高度化・効率化による検査期間の短縮化 “ “大城戸 忍,Shinobu OKIDO,今野 隆博,Takahiro KONNO,多田 伸雄,Nobuo TADA,桐山 和久,Kazuhisa KIRIYAMA